Jap. J. Crim. Psychol.,Vol. 58, No. 2 (2021)
拒絶体験後のストーキング関連行動と
コミュニケーションスキルの関連性
—
うらみを介した仮説モデルの検証
—
鈴 木 拓 朗
Association between Stalking-Related Behavior
after Facing Rejection and Communication Skills:
Testing Hypothesized Model Using Urami
as Mediator
Takuro Suzuki
キーワード:ス ト ー キ ン グ, ス ト ー カ ー,unwanted pursuit behavior,UPB,obsessive relational intrusion,ORI,コミュニケーションスキル,うらみ
本邦のストーカー行為等の規制等に関する法 律(以下,ストーカー規制法)において,ストー カー行為とは,「同一の者に対し,恋愛感情その 他の好意の感情又はそれが満たされなかったこと に対する怨恨の感情を充足する目的で,恋愛感情 等の対象者又はその配偶者等に対して,つきまと い等の行為を反復してすること」とされている。 平成26年以降,ストーカー事案の検挙件数は増 加傾向にあり(警察庁,2019),ストーカー事案 は深刻な社会問題となっているといえる。そのよ うななか,警視庁や法務省などの関係機関によっ てストーカー総合対策関係省庁会議が行われ,早 急に行なうべき施策としてストーカー総合対策が 取りまとめられた。特に,ストーカー事案の加害 者に関する対策については,心理学的アプローチ の適用が求められている。本対策では,心理学等 の専門的知見を活用して加害者の問題性を把握し たうえで,ストーカー行為につながる問題性を考 慮したプログラムの実施及びその充実に努めるこ とが重要であるとされている(内閣府男女共同参 画局,2017)。 とはいえ,本邦におけるストーカー事案の加 害者に関する実証的な心理学的研究は乏しく,十 分に知見が蓄積されているとは言い難い。した がって,加害者への心理学的アプローチを考案し ていくためには,彼らの心理学的特徴がどのよう にストーカー行為に関連しているのかを明らかに していくことが必要である。本研究ではこのよう な問題意識のもと,ストーカー事案の加害者が有 する心理学的特徴とストーカー行為との関連性を 実証的に検討することを目的とした。 doi: 10.20754/jjcp.58.2_19 資 料
ス ト ー キ ン グ 関 連 行 動(
Stalking-Related
Behavior; SRB
) ストーカー事案の加害者に関する心理学的研 究は,本邦においては少ないものの,諸外国に おいては近年盛んに行われてきている。諸外国 では,ストーカー行為に相当するストーキング (stalking)以外にも,望まれない追求行為( Un-wanted Pursuit Behavior,以下UPB)や強迫性 関 係 侵 害 行 為(Obsessive Relational Intrusion,以下ORI)などの,ストーキングに関連する概
念を扱う研究が見られる。UPBとは,お互いが
合意した恋愛関係がない個人間において,一方が 望まないような恋愛関係を継続的に求める行為 のことである(Langhinrichsen-Rohling, Palarea, Cohen, & Rohling, 2000)。 深 刻 度 が 高 いUPB としてストーキングが挙げられていることから (Langhinrichsen-Rohling et al., 2000),UPBは より軽度な行為から深刻なストーキングまでを含
む概念であると考えられる。また,ORIは親密
な関係を求める,あるいはそれを前提とする非面 識者または面識者によってなされる,望まれない 反復的な関係性希求行為やプライバシーの侵害 行為のことである(Cupach & Spitzberg, 1998)。 Cupach & Spitzberg(1998)はORIという概念 を,親密性の希求行為とストーキングの連続体と して用いている。 このように,UPBやORIなど,ストーキング と関連したさまざまな概念が研究において扱われ てきている。これらはストーキングと連続線上に 位置している,あるいは重複した概念であると 考えられる。これらを受け,鈴木(2020)では, ストーキング,UPB, ORIといった,ストーキン グに関連した概念を包括したストーキング関連行 動(Stalking-Related Behavior,以下SRB)とい う概念を提唱している。SRBは,法的に規制を 受けるか否かに関わらず,ストーキングに関連し た上記の概念に含まれる行動の総体を指すもので ある(鈴木,2020)。また,鈴木(2020)では, 2000年以降の先行研究で用いられている8つの 尺度から,SRBに含まれる行動指標を抽出して いる。SRBには,UPBなどの軽度の行動から, 深刻な侵害行為まで,幅広い行動様式が含まれて おり,ストーキングという行動概念を包括的に捉 えることができると考えられる。さらに,相手に 望まれないメッセージやプレゼントを送るなどの 求愛行為は,相手を脅迫したり身体的に傷つけた りする攻撃行動と有意な関連があることが示され ており(Tassy & Winstead, 2014),比較的軽度の つきまとい行為がより深刻な加害行為につなが る可能性があると推察される。このことからも, SRBに含まれる多様な行動様式には一定の連続 性があると考えられるため,これらを包括的に捉 えたSRBを用いる意義は大きいだろう。そこで, 本研究ではSRBに注目し,加害者の心理学的特 徴との関連性を検討することを目的とした。 また,ストーキングやUPBの行動傾向を測定 する尺度において,「相手が望んでいないにもか かわらず,これらの行動を行なったかどうか」を 尋ねるものがいくつか見られている(例えば, Langhinrichsen-Rohling & Palarea, 2006; Smith, Reidy & Kernsmith, 2016)。さらに,「彼/彼女 が欲しくない,または要求していないにもかかわ らず,あなたは彼/彼女に贈り物を送った」とい うように,「相手が求めていない行動をした」と いう内容を質問項目に含む形式の尺度も見られて いる(Shorey, Cornelius, & Strauss, 2015)。これ らのことから,「相手が求めていない,望まれな い行動である」ということがSRBを規定する重 要な要素であると考えられる(鈴木,2020)。さ らに,本邦のストーカー規制法では,好意を寄せ る被害者に対するストーキングが扱われているこ とも踏まえ,本研究においてはSRBを「好意を 抱く相手に接触を拒まれたにもかかわらず,その 相手に向けて行なわれた物理的・非物理的な接近
行為」と定義した。この接近行為は,尾行や待ち 伏せなどの物理的な行為と,SNSでの監視や情 報収集などの非物理的な行為,および,暴力など の侵害行為を含むものとする。なお,以降では便 宜的に,SRBを実行した者を加害者,SRBの対 象を被害者と呼ぶ。
SRB
とコミュニケーションスキル SRBに影響を与える加害者の心理学的特徴と して,コミュニケーションスキルの乏しさが考え られる。Mullen, Pathé, & Purcell(2000)は,関 心をいだいた相手と関係を築きたいと思うが,社 交スキルや求愛のスキルにおける重大な欠点を有 しているために,不適切なストーキングに至る ようなタイプがいることを指摘している。また, 福井(2014a)においてもストーカーのコミュニ ケーションスキルの低さについて述べられてお り,相手にうまく自分の気持を伝えられないこ とがストーキングにつながると指摘されている。 Stokes & Newton(2004)においては,自閉スペ クトラム症者によるストーキングについて考察し ており,社交性が乏しいために,親密な関係性を 求めて不適切で侵襲的な接近行動などのストーキ ングを行なう可能性があることを指摘している。 これらのことから,対人場面において見られるコ ミュニケーションスキルの乏しさが,SRBにつ ながる要因となる可能性が推察される。 コミュニケーションスキルについては,さまざ まな側面があることが報告されている。藤本・大 坊(2007)はコミュニケーションスキルに関す る既存の尺度を構成する諸因子を6種類のカテ ゴリーに分類し,コミュニケーションスキルのモ デル化を行なっている。その6種類のスキルと は,自分の感情や行動をうまくコントロールする 「自己統制」,自分の考えや気持ちをうまく表現す る「表現力」,相手の伝えたい考えや気持ちを正 しく読み取る「解読力」,自分の意見や立場を相 手に受け入れてもらえるように主張する「自己主 張」,相手を尊重して相手の意見や立場を理解す る「他者受容」,周囲の人間関係にはたらきかけ 良好な状態に調整する「関係調整」である(藤 本・大坊,2007)。さらに,藤本・大坊(2007) はこれらのスキルを階層的に分類しており,自己 主張を表現力の上位カテゴリーとし,これらを 「表出系」,他者受容を解読力の上位カテゴリーと し,これらを「反応系」,マネージメントという 共通する行動特性を持つ自己統制と関係調整を 「管理系」としている。 これらのコミュニケーションスキルはSRBと 関連している可能性があると考えられる。福井 (2014b)は,相手にうまく自分の気持を伝えら れないことが,結果的にストーキングに発展する ことを指摘している。また,ストーキングを行な う者は求愛のスキルが乏しく,アプローチするに あたって的はずれな手段に出る傾向があることも 指摘されている(Mullen et al., 2000)。これらの ことから,自身の意志を表現する能力が乏しいた め,望まれない接触やSRBといった不適切な接 近行為に至るのではないかと考えられる。この意 志を表現する能力は,自己主張や表現力といっ た,表出系に関わるコミュニケーションスキルに 相当すると考えられよう。 また,相手の立場に立って物事を考える能力 の乏しさがSRBにつながることも示唆されてき ている。福井(2014a)は,他者の意図を読み取 ることが苦手であるため,一方的に被害感情を抱 き,ストーキングに発展することを指摘してい る。さらに,ストーキング加害者の特徴として, 相手の好みに無関心であることや,なぜ告白やア プローチが実らないのか理解することができない ことが挙げられており,他者の考えや感情を理解 したり受容したりする能力が乏しいことが示唆さ れている(Mullen et al., 2000)。このような,他 者の意志や意図を読み取り,理解する能力は,解 読力や他者受容といった反応系に関わるコミュニケーションスキルに相当すると考えられる。 さらに,自己統制や関係調整といったコミュ ニケーションスキルも,SRBに影響を与える要 因であると考えられる。ストーキング加害者は自 分の感情を整理したり,気持ちを切り替えたりす ることが苦手であることが指摘されている(福 井,2014a)。そして,感情を上手くコントロー ルできず,不適切なストーキングとして行動化す ることが示唆されている(福井,2014a)。これ は,加害者の自己統制スキルが乏しいことを示し ていると思われる。さらに,感情や行動を適切 に制御できず,望まれないSRBを行なうことは, 相手に不快感を与え,両者の関係性の悪化を招く だろう。このような不適切なSRBとして行動化 する点で,加害者の関係調整のスキルも乏しいと 考えられる。これらのことから,SRBを行なう 背景には,自己統制と関係調整といった管理系の コミュニケーションスキルの乏しさも関連してい る可能性があると考えられる。 以上のように,いくつかの先行研究から,コ ミュニケーションスキルがSRBの発現に影響を 与えることが示唆されている。しかし,コミュニ ケーションスキルとSRBの関連性を実証的に検 討した研究は寡少である。Mullen et al.(2000) や福井(2014a)においては,コミュニケーショ ンスキルとSRBとの関連性について,臨床経験 や事例を通して見出された見解が述べられている ものの,客観的なデータに基づいた実証的な検討 は行なわれていない。また,コミュニケーション スキルには多様な側面が含まれているが,その多 様な能力とSRBの関連性についても検討されて きていない状況である。SRBとは,加害者と被 害者という対人関係のなかで生じる問題であり, 特に,SRBは加害者が被害者に何らかの働きか けを行なう結果として生じた行為であると考えら れる。その点で,他者との交流を促す能力である コミュニケーションスキルは,加害者のSRBの 様相にも影響を与えることが推察される。そこ で,本研究では,加害者の心理学的特徴として, この6種類のコミュニケーションスキルに注目 し,これらがSRBに与える影響について検討を 行なうこととした。
SRB
の動機づけ コミュニケーションスキルとSRBの関連性を 検討するうえで,SRBを引き起こす動機づけの 影響を考慮する必要があると考えられる。ストー キングの動機づけについては,諸外国の先行研究 においてしばしば取り上げられている。Ybarra,Langhinrichsen-Rohling, & Mitchell(2016) で は,「怖がらせようとした」「困らせようとした」 といった悪意の有無が取り上げられており,ス トーキング的行動を行なった一般青年のうち,
22%が悪意をもって行なっていたと報告されて
い る。 さ ら に,Thompson, Dennison, &
Stew-art(2012)は,加害者の復讐心が,暴力行為な どを含むより深刻なストーキングと関連すること を報告している。また,悪意や復讐心だけでな く,相手への恋愛感情についても同時に扱う研究 も見られた。Rosenfeld(2003)では,ストーキ ングの動機づけについて,39.2%が恋愛感情であ り,45.1%が復讐心や怒り,15.7%がその他であ ることが報告されている。さらに,動機づけとス トーキングの持続性(どの程度長い間行なった か)との関連を検討した研究では,恋愛感情が中 程度の持続性(1ヶ月以上,12ヶ月以内)と関連 することや,復讐心を有する場合,持続性が1ヶ 月以内に留まる傾向が低いことが報告されている (Johnson & Thompson, 2016)。
一方で,本邦においては,ストーキングの動機 づけとしてうらみの感情に注目が集まっている。 ストーキング規制法においては,ストーキングの 動機づけとして「恋愛感情その他の好意の感情」 と「恋愛感情が満たされなかったことに対する 怨恨の感情」が規定されており,平成30年のス
トーキング事案における加害者の動機は,78.4% が好意の感情であり,21.6%がうらみ(怨恨)の 感情であった(警察庁,2019)。うらみとは,他 者の言動によって生じた不快な状況を容易に改善 させられないと諦める一方で,その他者の言動 を不公正とみなし許せなく思うことである(鈴 木,2019)。さらに,うらみの背景には,甘えた い気持ちや相手との一体感を回復したいという欲 求(以下「一体感欲求」という。)が存在してお り,それらが拒絶されたことでうらみが生じる とも指摘されている(土居,1971; 山野,1989)。 つまり,うらみとは,相手に対するネガティブ感 情と,一体感欲求を満たせないことに関する諦め を抱きながらも,その欲求を捨てきれないでいる 心情であると推察される。これらのことから,ス トーキングの加害者が抱くうらみとは,単に仕返 しや報復を望む復讐心とは異なり,許せなさや不 公正感といったネガティブ感情を相手に向けなが らも,諦めきれない一体感欲求を抱いている心 理的状態であると考えられる。廣井(2018)は, ストーキングの背景に見られる加害者の甘えや依 存性に注目し,これらへの対応において怨恨の感 情(うらみ)を理解することが重要であると指摘 している。 いくつかの先行研究から,コミュニケーション スキルがうらみの生起に影響を与える可能性があ ることが示唆されている。ストーカーは相手の気 持を読み取ることが苦手であるために,一方的に 被害感情を抱き,うらみをもつようになると指摘 されている(福井,2014b)。これは,解読力や 他者受容といった反応系のコミュニケーションス キルの乏しさが,うらみの生起に影響を与えてい ることを示唆しているものと思われる。また,自 分の感情を内に秘めて表出しない傾向や(Kuno, 1991; 田村,2009),自身の意思や考えを相手に 伝えることができないことが(鈴木,2019),う らみの生起に影響を与えることが指摘されてい る。これは,自己主張や表現力といった表出系の コミュニケーションスキルの乏しさが,うらみの 生起と関連していることを示唆していると思われ る。さらに,自己統制や関係調整といった管理系 のコミュニケーショスキルは,対人場面を円滑に すすめるために自己の感情をコントロールし,対 立に対処したりそれを回避したりするような能力 であることから(藤本・大坊,2007),他者との 対立を増大させるようなうらみなどのネガティブ な感情を抑制する働きがあるのではないかと考え られる。 これらのことから,加害者が有するコミュニ ケーションスキルが,SRBを動機づけるうらみ の生起に影響を与える可能性があると考えられ る。以上をまとめると,コミュニケーションスキ ルの乏しさは,SRBとそれを動機づけるうらみ に影響を与え,そのうらみはSRBに影響を与え るという仮説モデルが想定できる。そこで,本研 究では上記の仮説モデルに着目し,その検証を行 なうことを目的とした。 また,本邦のストーカー規制法では,「相手と 付き合いたい」といった好意の感情も動機の一つ として規定されている。国内のストーキング事案 の動機として,好意の感情が占める割合が7割 以上であることから(警察庁,2019),SRBに与 える好意の影響は大きいと考えられる。この点に 鑑みて,本研究では,好意の影響を考慮した仮説 モデルを検討することとした。 研究の目的と仮説モデルの設定 本研究で検討を行なう仮説モデルについて整 理する。まず,加害者の特性要因であるコミュニ ケーションスキルが,拒絶体験後のうらみ,およ びSRBに影響を与えると仮定した。そして,拒 絶体験後のうらみはSRBに影響を与えると仮定 した。また,拒絶体験後に見られる相手への好意 の感情を外生変数として仮説モデルに加え,好意 がSRBに与える影響についても仮定した。
SRBに関する変数については,先行研究にお いてさまざまなものが扱われてきている。まず,
SRBを行なった頻度についてである。De Smet,
Uzieblo, Loeys, Buysse, & Onraedt(2015)では,
UPBに関する複数の行動について,どのくらい
行なったことがあるかを「0:まったくない」か
ら「4: 5回以上」の4件法で尋ね,その行動頻
度を変数として用いている。このような,行動 の頻度は多くの研究で用いられており(例えば, Dardis & Gidycz, 2017; Smith-Darden, Reidy, & Kernsmith, 2016),SRBの特徴を捉えるうえで, その頻度を指標とすることは有用であると考えら れる。このことから,本研究ではSRBの頻度を 変数として用いることとした。 また,SRBを行なう期間の長さ(持続性)に ついてもしばしば扱われてきている(例えば, McEwan, Mullen, & MacKenzie, 2009; Strand & McEwan, 2012)。Johnson & Thompson(2016) では,元パートナーへストーキングを行なってい た期間について,「1−7日」から「10年以上」の 9件法で尋ねており,この持続性と他の要因との 関連について検討している。他にも,金政・荒 井・島田・石田・山本(2018)においては,多 様なストーカー的行為を用いる程度を扱ってお り,これは行動の多様性を示す変数であると考え られる。SRBが持続し長期化することや,多様 な手段で接近されることは,被害者の苦悩を増 悪させる深刻な要因であると考えられる。また, SRBの持続性や多様性をSRBの行動指標として 採用し,それらに影響を与える要因を検討するこ とは,被害の拡大を抑止するための有用な知見を 生成することにつながると考えられる。さらに, SRBの行動指標として,その頻度,持続性,多 様性という多側面に注目して検討することで,他 の要因がどのようなSRBの特徴に影響を与えて いるのかを考察することができると考えられる。 そこで,本研究ではSRBに関する変数として, SRBの頻度,持続性,多様性を採用した。以上 をまとめた仮説モデルをFigure 1に示した。 方 法 研究参加者と実施手続き インターネットを通じてアンケートの参加を 呼びかける業務委託サービス(クラウドソーシン グ)を提供するクラウドワークスを用いてウェ ブ調査を実施した。研究参加者は,全国の18歳 から39歳の一般男女とした。調査前に,「過去 5年間に好意を抱いている相手や元交際相手から 接触を拒まれた経験がある(「もう会いたくない」 「関わらないで」「連絡してこないで」と言われ た,など)」という条件に当てはまる場合のみ回 答するよう教示した。また,回答は匿名化される こと,データは厳重に管理され,プライバシーは 保護されること,回答や回答の中断において不利 Figure1 仮説モデル
益を被ることはないことを説明し,同意した場合 のみ回答するよう教示した。ウェブ調査について は,回答漏れを防ぐために,すべての質問項目に 回答しなければ提出できないよう予め設定した。 さらに,回答に伴う心理的負荷を考慮し,回答終 了後に心理相談窓口などを紹介することで倫理的 配慮を行なった。 調査の結果,417名のデータが得られたが,す べて同じ選択肢を選んでいるものや,参加者の 条件に合わないもの(例えば,年齢が40歳以上 のもの),項目の指示通りに回答しなかったもの (例えば,「この質問では4を選択してください。」 という項目に「4」以外を選択しているもの)な ど,不適切な回答が見られたデータは除外した。 最終的に,欠損値のない388名(男性:n=191, 平均年齢=31.01, SD=5.36;女性:n=197,平 均年齢=30.75, SD=5.13)の有効回答が得られ た。なお,本研究は東京大学倫理審査委員会にお いて承認を得ている(審査番号:19-149)。 調査内容 ストーキング関連行動と動機づけ 鈴木(2020) で抽出されたSRBの行動指標をもとに,内容の重 複,項目数などを考慮して19の項目を作成した (Table 1)。それぞれの項目について,どの程度行 なったことがあるか5件法(「0=ない」「1=1回」 「2=2回」「3=3∼4回」「4=5回 以 上 」) で 回 答 Table 1 ストーキング関連行動尺度の項目と主成分分析の結果 好意を抱いている相手や元交際相手(以下,相手)から接触を拒まれたあと(「もう会いたくない」「関わらないで」 「連絡してこないで」と言われた,など)のことについてお答えください。過去5年間で,その相手に以下のことを どの程度行なったことがありますか?また,複数の人から接触を拒まれた経験がある方は,あなたにとって最も重 要な一人についてお答えください。 No. 項目内容 第の負荷量1主成分 1 相手に電話をかけた .55 2 相手に手紙を送った .25 3 相手にSNSでコメントを送ったり,“いいね!”などを押したりした .32 4 相手にメールやメッセージ(LINEなど)を送った .52 5 相手にプレゼントを送った .23 6 相手の後をつけた .36 7 友人に相手についての情報を求めたり尋ねたりした .28 8 SNSを使って相手の行動や活動を調べた .24 9 相手の自宅や学校/職場/バイト先の近くで相手を待った .54 10 相手がいるかもしれないと思った場所に会いに行った(相手の家や学校/職場/バイト先など) .51 11 相手を傷つけるとおどかした .38 12 相手が傷つくような情報や知られたくないことを広めるとおどかした .24 13 相手が写っている不適切な写真(恥ずかしい写真,裸の写真など)をSNSやインターネット (LINEやメールなど含む)を使って広めるとおどかした .40 14 相手の携帯電話やスマートフォンの中のメールやメッセージの内容,通話履歴を無断で確認した .60 15 相手についての悪い噂を,相手の学校/職場/バイト先やSNSで広めた .26 16 相手が写っている不適切な写真(恥ずかしい写真,裸の写真など)をSNSやインターネット (LINEやメールなど含む)を使って広めた — ※ 17 相手の所有物を無断でとったり,盗んだりした .52 18 相手の所有物や大切にしているものを傷つけたり損害を与えたりした .52 19 相手に素手や物を使って暴力を振るったり,物を投げつけたりした .49 ※項目16は,1回以上行なったことがある人がいなかったため,分析から除外した。
を求めた。これについて主成分分析を行い,SRB を行なう頻度の高さを示す合成得点を算出した。 次に,一度でも経験があると回答した項目の 総数を,どのくらい多様な種類のSRBを行なっ たかを示すSRB多様性の指標とした。 さらに,これらの行動を1つでも行なったこ とがあると回答した人に対して,SRB持続性と 動機づけについて尋ねた。SRB持続性について は,どのくらいの期間SRBを行なっていたかを 6件 法(「1=1日∼7日 」,「2=1週 間∼1ヶ 月 未 満」,「3=1ヶ月∼2ヶ月未満」,「4=2ヶ月∼6ヶ 月未満」,「5=6ヶ月∼12ヶ月未満」,「6=1年以 上」)で尋ねた。 動機づけについては,SRBを行なっていたと き,相手にうらみと好意をどの程度抱いていたか を,それぞれ5件法(「1=まったくあてはまら ない」∼「5=非常にあてはまる」)で尋ねた。 コミュニケーションスキル 藤本・大坊(2007) が開発したコミュニケーションスキル尺度である ENDCOREsを採用した。本尺度はコミュニケー ションスキルを6つのカテゴリーに分け,それぞ れのスキルの高さを測定している。6つのカテゴ リーとは,「自己統制」「表現力」「解読力」「自己 主張」「他者受容」「関係調整」であり,各カテゴ リー4項目ずつ,計24項目から構成されている。 各項目について7件法(「1=かなり苦手」∼「7 =かなり得意」)で尋ねた。そして,各カテゴリー の4項目の得点を合計し,項目数で割った値をそ のカテゴリーの得点とした。 結 果 SRBの項目16の経験者が1人もいなかったこ とから,これを除く18項目を分析に用いた。 基礎的分析
SRB
の経験率 好意をもつ相手から拒絶さ れた体験において,いずれかのSRBを一度で も行なった経験がある人の割合は,男性では 82.72%,女性では82.74%であった。次に,SRB の各項目について,1回以上行なった経験があ るかないかで整理した。その結果,男性におい ては「相手にメールやメッセージ(LINEなど) を送った(66.0%)」,「SNSを使って相手の行動 や活動を調べた(50.3%)」「相手に電話をかけ た(47.1%)」の順で経験率が高く,女性におい ては,「相手にメールやメッセージ(LINEなど) を送った(60.4%)」「SNSを使って相手の行動や 活動を調べた(58.4%)」「友人に相手についての 情報を求めたり尋ねたりした(45.7%)」の順で 経験率が高かった。また,「相手にSNSでコメン トを送ったり,“いいね!”などを押したりした」 経験が一度でもある人の割合は,男性(25.7%) の方が女性(16.8%)よりも有意に高かったが (χ2=4.612, df=1, p<.05),それ以外の項目には 経験率に有意な性差は見られなかった。 以降では,SRBを行なった経験が一度でもあ ると回答した者のみを対象として分析を行なった (男性:n=158,女性:n=163)。 各尺度の構成の検討 複数の項目から構成さ れている尺度の構造について確認を行なった。ま ず,コミュニケーションスキルを測定した END-COREsの各下位尺度について,α係数は.70か ら.91の範囲であり,比較的高い内的一貫性を示 していた。 次に,SRB頻度を表す変数を抽出するために, SRBを行なう頻度を尋ねた18項目の回答につい て主成分分析を行なった。その結果,第1主成 分においてすべての項目が正の負荷値を示してお り,これはSRBを行なう頻度の高さを表す成分 であるといえる(Table 1)。さらに,18項目につ いてのα係数は.70であり,ある程度の内的一貫 性を示した。よって,以下の分析では,この第1 主成分の合成得点をSRB頻度として用いた。 各変数の基本統計量と相関分析 各変数の平 均値と標準偏差,および男女別の相関分析の結果をTable 2に示した。SRBに関する変数と動機づ けとの間では,男女ともに,SRB頻度とSRB多 様性がうらみ及び好意との間に有意な正の相関を 示したが(r=.18–.39),SRB持続性との間には 有意な相関は示されなかった。SRBに関する変 数とコミュニケーションスキルとの間では,男性 においてSRB持続性と自己主張との間に有意な 負の相関を示したが,その値は非常に小さいもの であった(r=−.17, p<.05)。同様に,女性にお いては,SRB頻度とSRB多様性が自己統制と有 意な負の相関を示し(r=−.24, p<.01;r=−.20, p<.01),さらにSRB頻度は表現力と関係調整と も有意な負の相関を示した(r=−.26, p<.01; r=−.19, p<.05)。動機づけとコミュニケーショ ンスキルとの間では,男性において,うらみが他 者受容(r=−.21, p<.01),および関係調整(r= −.19, p<.05)と有意な負の相関を示した。同様 に,女性においては,うらみが自己統制,解読 力,他者受容,関係調整と有意な負の相関を示し た(r=−.23–−.28)。 各変数の性差 SRBに 関 す る 変 数 と 動 機 づ け,およびコミュニケーションスキルについて, Welchのt検定を用いて性差を検討した。SRB に関する変数については,SRB持続性において のみ有意な性差が示され,女性の方が男性より もSRBが長期化する傾向があることが示された (t=-2.045, df=315.672, p<.05)。動機づけにつ いては,女性の方が男性よりもうらみを抱く傾 向が有意に高いことが示された(t=-3.485, df= 314.426, p<.05)。最後に,コミュニケーション スキルについては,自己主張においてのみ有意な 性差が見られ,女性よりも男性の方が高いことが 示された(t=3.730, df=317.206, p<.001)。 仮説モデルの検証 いくつかの変数において性差が示されたこと から,男女を分けて仮説モデルの検証を行なうた め,共分散構造分析による多母集団同時分析を行 なった。なお,分析にはFigure 1のモデルを仮 定し,コミュニケーションスキルからうらみ,お よびSRBに関する変数に対するパス,うらみと 好意からSRBに関する変数に対するパスを設定 した。その際,年齢からうらみとSRBに関する 変数へのパスを設定し,年齢の影響を統制した。 適合度指標を参考に分析を行なった結果,Figure 2の結果が得られた。男女の各パスに関して等値 制約を行なわなかったモデルの適合度はGFI=
0.960, AGFI=0.900, CFI=0.976, RMSEA=0.037, AIC=234.878であり,等値制約を行なったモデ ルの適合度は,GFI=0.953, AGFI=0.908, CFI= 0.974, RMSEA=0.034, AIC=220.858で あ っ た。 Table 2 各変数の平均値,標準偏差,ならびに男女別の相関係数 Mean SD 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 1.SRB頻度※ 0 1 .83*** .02 .18* .27** −.24** −.26** .07 −.01 −.01 −.19* 2.SRB多様性 3.51 2.01 .77*** −.03 .22** .23** −.20** .06 .02 −.01 −.09 −.11 3.SRB持続性 2.37 1.54 .26** .11 −.07 .02 .05 .10 .03 −.06 .02 −.04 4.好意 3.82 1.19 .27** .39***−.11 −.11 −.12 .03 .02 −.08 .02 −.03 5.うらみ 2.31 1.25 .32*** .20* .05 .05 −.28*** .01 −.23** −.06 −.25** −.25** 6.自己統制 4.20 1.03−.10 −.06 −.07 −.05 −.14 .23** .54*** .41*** .58*** .62*** 7.表現力 3.50 1.17−.11 −.01 −.12 −.12 −.05 .27*** .29*** .24** .48*** .52*** 8.解読力 4.56 1.21−.02 −.09 .07 −.13 −.13 .52*** .35*** .36*** .41*** .50*** 9.自己主張 3.82 1.19−.15 −.01 −.17* −.09 −.13 .43*** .64*** .36*** .32*** .39*** 10.他者受容 4.73 1.04−.01 −.02 .05 −.03 −.21** .42*** .37*** .41*** .47*** .77*** 11.関係調整 4.16 1.06−.11 −.09 −.02 −.07 −.19* .52*** .51*** .50*** .49*** .66*** 左下が男性(n=158),右上が女性(n=163)の相関係数である。※ SRB頻度は主成分分析によって抽出された合成得点であるた め,平均値が0,標準偏差が1となる。***p<.001, **p<.01, *p<.05
相対比較に用いられるAICの値から,等値制約 を行なったモデルの方が比較的当てはまりが良い ことが示された。したがって,ここでは男女とも に同様の値を示すと仮定した等値制約ありのモデ ルを採用した。 このモデルにおいては,自己統制と他者受容 が う ら み に 負 の 影 響 を 与 え(β=−.13, p<.05; β=−.15, p<.05),うらみがSRB頻度とSRB多 様性に正の影響を与えるという経路が示され た(β=.28, p<.001; β=.23, p<.001)。 こ の こ とから,自身の感情を適切にコントロールする 能力,あるいは,他者の考えを理解し尊重する 能力が乏しいほど,好意のある相手から拒絶さ れた体験において,その相手にうらみを抱きや すく,それによってSRBを行なう頻度や,より 多様なSRBを行なう傾向が高まることが示され たと言える。また,自己統制はSRB頻度に対し て,直接的に負の影響を与えることも示された (β=−.16, p<.01)。さらに,自己主張がSRB持 続性に有意な負の影響を与えており(β=−.16, p<.05),自身の意見を他者に理解してもらうよ うに伝える能力が乏しいほど,SRBが長期化す ることが示された。 また,好意はSRB頻度とSRB多様性に正の 影響を与えることが示された(β=.24, p<.001; β=.31, p<.001)。このことから,拒絶された後 においても相手に対して好意を抱いているほど, SRBを行なう頻度が高く,その種類も多様であ ることが示されたと言える。 考 察 本研究では,加害者の心理学的特徴とSRBと の関連性を検討することを目的とし,コミュニ ケーションスキルと,拒絶体験後に生じるうら み,SRBの関連性について仮説モデルを設定し 検証を行なった。共分散構造分析の結果,等値制 約ありのモデルが採用されたが,これは男女に共 通して見られるモデルであると考えられる。 コミュニケーションスキルがうらみに与える影響 コミュニケーションスキルからうらみへの影 響については,自己統制と他者受容においてのみ 示され,仮説モデルを部分的に支持する結果と なった。自己統制は自身の感情や行動をコント ロールする能力であるが(藤本・大坊,2007), この能力が乏しいために,他者に対するネガティ ブ感情を抑えられず,うらみが強まる可能性があ るのではないかと考えられる。感情制御が困難で あるためにうらみが持続する可能性があることも 指摘されており(鈴木,2019),本結果にも通ず る見解であると考えられる。 他者受容とうらみの関係性については,視点 取得の乏しさが関連しているのではないかと考え られる。他者受容は他者の意見や立場を理解する 能力であり,その下位概念には共感性が含まれ ている(藤本・大坊,2007)。したがって,他者 Figure 2 コミュニケーションスキルが拒絶体験後の うらみを介してSRBに与える影響 GFI=0.953, AGFI=0.908, CFI=0.974, RMSEA=0.034, AIC=220.858 等値制約モ デルであるため,各値は男女共通である。な お,コミュニケーションスキルの各変数間, SRB頻度とSRB多様性,SRB持続性の誤差 変数間において相関を仮定した。図には有意 なパスのみを示し,有意なパスが示されな かった関係調整,表現力,解読力,SRB多 様性とSRB持続性の誤差変数間の相関,統 制変数である年齢は図から省略した。 ***p<.001, **p<.01, *p<.05
受容は共感性を内包するスキルであり,特に視点 取得に通ずる概念であると考えられる。視点取得 とは,他者の視点に立ってその他者の気持ちを考 えることである(Davis, 1980)。視点取得は,敵 意を抱きやすい傾向と負の関連があることが示さ れているが(日道・小山・後藤・藤田・河村・ Davis・野村,2017),うらみは敵意の下位概念 としても位置付けられている(山崎・坂井・曽 我・大芦・島井・大竹,2001)。これらを踏まえ ると,他者受容スキルが低いことで視点取得の能 力も同時に低下するため,他者に敵意を抱く傾向 が高まり,うらみも抱きやすくなるのではないか と考えられる。 また,関係調整については,うらみに対す る有意なパスは示されなかったが,男女とも に有意な相関係数は示されている(男性:r= −.19, p<.05;女性:r=−.25, p<.01)。関係調整 は管理系のスキルであるため,そこに含まれる自 己統制の要素がうらみと強く関連したことで,有 意な相関が示されたのではないかと思われる。共 分散構造分析において関係調整からうらみへの有 意なパスが示されなかったのは,関係調整から自 己統制の要素が除かれたためであると考えられ る。このことから,他者との関係性を良好に保と うとする指向性よりも,そういった関係性のため に感情や行動をコントロールする能力の方が,う らみの生起において重要な要因であることが推察 される。 解読力についても,うらみに対する有意なパス は示されなかったが,女性においてのみ,有意な 相関係数が示された(r=−.23, p<.01)。これは, 女性においては,他者の感情や意図を読み取るこ とが苦手であるほど,うらみを抱きやすいことを 示していると考えられる。共分散構造分析におい ては,男女を総合した等値制約を行なったモデル で検証したため,有意なパスが示されなかった可 能性がある。解読力と拒絶体験後のうらみとの関 連性は,女性特有のものなのかもしれない。 また,表現系のスキルである表現力と自己主 張においては,うらみへの有意なパスだけでな く,有意な相関係数も示されなかった。このこ とから,自己の考えや感情を適切に表現する能 力と,拒絶体験後に抱くうらみには関連がない ものと思われる。うらみ自体は表出されにくい 心情であると指摘されているが(Kuno, 1991; 田 村,2009),特性的な自己表現の苦手さが,うら みの生起に影響を与えるわけではないのかもしれ ない。 コミュニケーションスキルが
SRB
に与える影響 コミュニケーションスキルがSRBに与える影 響については,自己統制がSRB頻度に,自己主 張がSRB持続性に有意な影響を与えることが示 され,仮説モデルを部分的に支持する結果となっ た。自己統制については,行動のコントロール能 力が乏しいために,望まれない行動を抑えること ができず,SRBを行なう頻度が高まるのではな いかと考えられる。また,自己主張とは,相手に 自分の意見を受け入れてもらえるように主張する 表出系のスキルである(藤本・大坊,2007)。同 様に表出系のスキルである表現力は,単に自分 の考えや感情を表現する能力であり,自己主張 はこの表現力の上位概念に相当する(藤本・大 坊,2007)。自己主張はコミュニケーションに関 する指向性を含んだ能力であり(McCroskey & Richmond, 1996),表現力よりも他者へ働きかけ る側面がより強い能力であると考えられる。これ らのことから,単に自己表現の能力が乏しいとい うことよりも,相手に受け入れてもらうように上 手く意思を伝えることが苦手であるということ が,SRBの長期化に影響を与えるのではないか と考えられる。 また,表現力と関係調整については,SRBに 関する変数への有意なパスは示されなかったもの の,女性においてのみ,SRB頻度と弱い負の相関を示した(r=−.26, p<.01;r=−.19, p<.05)。 これは,自分の感情や意思を表現することが苦手 であるほど,または,他者との良好な関係性を保 つことが苦手であるほど,拒絶体験後にSRBを 行なう頻度が高いことを示していると言える。こ のことから,女性においては,不適切な接近行為 を繰り返す背景に,自己表現や対人交流の苦手さ が潜在している可能性があると考えられる。 反応系のコミュニケーションスキルである解 読力と他者受容においては,SRBに関する変数 に対して有意なパスは示されず,有意な相関関係 も示されなかった。反応系スキルは他者の感情や 思考を汲み取る能力であるが,この能力が乏しい と,拒絶場面において被害感情を抱きやすくなる ことが指摘されている(福井,2014b)。本研究 において,他者受容がうらみに有意な影響を与え ることが示されていることからも,反応系スキル の乏しさは行動を直接的に促進させるものではな く,当人の認知・感情的な側面に影響を与える要 因なのではないかと考えられる。 動機づけが
SRB
に与える影響 うらみはSRB頻度とSRB多様性に有意な正の 影響を与えており,仮説を一部支持した結果と なった。本結果は,拒絶体験後に相手にうらみを 抱くほど,相手に接近する頻度が高まり,より多 様な種類の手段を用いて接近しようとする傾向も 高まることを示していると考えられる。これは, うらみがSRBを動機づけることを示唆するもの であり,その点で先行研究の知見に通ずる結果で あると言える(福井,2014b;廣井,2014)。許 せなさや不公正感といった相手に対するネガティ ブ感情に伴う,諦めきれない一体感欲求がうら みとして自覚され(土居,1971; 鈴木,2019; 山 野,1989),その欲求充足を目的として相手に接 近するようになるのではないかと考えられる。ま た,モデル全体からは,自己統制と他者受容のス キルが乏しいことで,拒絶体験後にうらみを抱き やすくなり,そのうらみがSRBの頻度や多様性 を高めるというプロセスが示された。本結果は, これらのコミュニケーションスキルの乏しさが SRBに発展する背景を考察するうえで,うらみ の影響を考慮することが重要であるということを 示唆していると言えるだろう。 ま た, 好 意 の 感 情 に つ い て も,SRB頻 度 と SRB多様性に正の影響を与えることが示された。 このことから,拒絶体験後においても好意の感情 を抱き続けることで,相手との関係性を保持する ことに執着し,接近行為を繰り返したり,さまざ まな方法を用いて接近したりするのではないかと 推察される。 一方で,うらみと好意はSRB持続性に有意 な影響を与えておらず,男女ともに有意な相関 関係も示されなかった。このことから,うらみ や好意の感情を抱くほどSRBの持続期間が長く なるといったような,連続的な関係性ではない 可能性が考えられる。先行研究においては,ス トーキングを行なっていた期間に応じて,加害 者を短期間,中期間,長期間に分け,動機づけ の群間差を検討したものも見られる(Johnson & Thompson, 2016)。うらみや好意とSRB持続性 との関連性を明らかにするうえでは,Johnson & Thompson(2016)と同様の手法を用いて,探索 的に検討することが有用であるかもしれない。こ の点については,今後の検討課題である。 本研究の意義と限界点 本研究において,いくつかのコミュニケーショ ンスキルが拒絶体験後のうらみ,およびSRBに 影響を与えることが示された。これは,コミュニ ケーションスキルの乏しさがSRBのリスク要因 となる可能性を示唆していると考えられる。これ まで,コミュニケーションスキルとストーキング との関連を実証的に検討した研究はほとんどな く,本研究はストーキングの加害者研究におい て,新たな知見を生成できた点で意義のあるものであったと思われる。 コミュニケーションスキルは社会的技能訓練 (SST)によって改善可能な能力であり,ストー カーの立ち直りにおいても適用が求められている (生島,2014)。本研究の結果は,具体的にどの ようなスキルがSRBのどのような特徴に影響を 与えるのかを示唆するものであり,加害者への心 理学的アプローチの考案に寄与する知見を見出す ことができたと考えられる。一方で,本研究は一 時点の調査であったため,厳密な因果関係を検証 することはできなかった。この点で,本結果の解 釈は慎重に行なう必要があるが,先行研究から想 定された仮説モデルを用いた検証であったことか ら,ある程度妥当な結果が見出されたものと考え られる。 また,本研究はクラウドソーシングを用いた ネット調査を採用しており,自己報告式の調査で あった。調査では自身のSRBの加害頻度を尋ね ているが,これらは社会的に望ましくない行為で あることから,意図的な回答の歪曲が生じる可能 性が考えられる。さらに,過去を振り返っての回 顧的な形式を用いていることから,記憶のバイア スがかかっている可能性があり,回答の信頼性に も問題が残る。また,本研究では,接触を拒絶 された者が,拒絶した者に対して行なうSRBを 扱っているが,両者がもともとどのような関係性 であったのかを考慮できていなかった。よって, 本研究は,「接触を拒絶した—された」という関 係性において,拒絶された者が行なったSRBに ついての知見であるといえる。今後は,両者の関 係性やその親密度,交際期間など,ストーキング に影響を与える多面的な要因を網羅的に扱った実 証研究を行なうことが求められる。 謝 辞 本論文の執筆にあたり,科学警察研究所の島 田貴仁先生には貴重なご意見とご指導を頂きまし た。心より感謝申し上げます。 引 用 文 献
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Abstract
The aim of this study was to test the association between Stalking-Related Behavior (SRB), urami and communication skills. As variables related to SRB, three factors were investigated: the frequency of SRB, the persistency of SRB and the variation of types of SRB exhibited. As a variable of motivation for SRB,
urami was investigated. As variables of communication skills, six factors were investigated: expressivity,
assertiveness, decipherer ability, other acceptance, self-control, and regulation of interpersonal relation-ships. A web-survey was conducted using 191 male and 197 female participants who have been rejected by someone they have loved (hereby referred to as “the target”) within the last five years. The results of a multiple-group analysis revealed a model that was common in both men and women which showed that poor self-control and other acceptance increased urami in the experience of rejection, and urami in-creased both the frequency and variation of types of SRB exhibited. Furthermore, the results found that as the level of assertiveness decreased, persistency of SRB increased. Finally, the limitations of this study and future prospects about the research of stalking in Japan was discussed.