【原 著】
ボートレーサーの
3 年間の競技成績の変化と年齢,性別,体重
および動的バランス能力の関連―コホート調査による検討―
鈴木 康裕
1)清水 如代
2)椿 拓海
1)野崎 礼
3)紺野 春生
3)平田 紳悟
4)羽田 康司
2) 1)筑波大学附属病院リハビリテーション部 2)筑波大学医学医療系リハビリテーション医学 3)梅田病院リハビリテーション科 4)横浜市立大学附属病院リハビリテーション部 【要約】目的:ボートレーサーの競技成績(勝率)の変化率をアウトカムとし,関連する因子をコホート 調査によって検討した。 方法:対象者は110 名のボートレーサー(平均 42.7±7.5 歳)とし,ベースライン(base line; BL)時,3 年 後に行われたレース結果の勝率を用い,(3 年後勝率-BL 勝率)/BL 勝率×100 にて勝率変化率を算出し アウトカムとした。3 年間の勝率変化率と性別,BL 時の変数(勝率,年齢,体重,動的バランス能力)お よび各変数の変化量(体重,動的バランス能力)との関連について,重回帰分析を行った。 結果:勝率変化率はBL 時の年齢および体重と有意に負の関連を示した(p < 0.05)。一方,BL 勝率, 性別,動的バランス能力については,関連因子としての有意性は認められなかった。 結論:ボートレーサーの競技成績の3 年間の変化率は,BL 時の年齢および体重と負の関連を示した。 Key words:年齢,ボートレース,競技成績,動的バランス,スポーツ1.緒 言
スポーツには,さまざまな分類方法がある。そ のなかで,道具を用いたスポーツとして,ボール・ スポーツ,キネマティック・スポーツ,ボード・ スポーツなどに加えて,原動機(エンジンや電気モ ーター)を搭載した乗り物を用いるモーター・スポ ーツがある。モーター・スポーツの1 つであるボ ートレースは,我が国の公営競技の1 つであり, 国土交通省の監督のもと,モーターボート競走法 に基づいて運営されている。2018 年度の売り上げ は,1 兆 3,000 億円を超え(前年度比+10.9%)観覧 目的での競走場への来場者延べ人数は 3 億 2,000 万人を超える非常に大きな市場を形成している 1)。 すべてのレースは1 年間,ほぼ毎日,各地ボー トレース場で開催されている。レース開催(節)は, 通常 4~6 日間(最大 7 日間)連続で行われる。レ ースで使用される競技コースおよび艇,プロペラ の規格は同一であるが,モーターの性能は優劣が ある。これらの艇,プロペラ,モーターは,節ご とに抽選により,エントリーされたレーサーに割 り当てられる 2)。レーサーは,モーターの整備と プロペラ調整の作業を自身で行わなければならず, レースの勝敗には機械整備の技術,競技戦略,そ して選手の操縦能力(身体能力)が重要になる。一 般的に,アスリートにおける競技会での順位によ る競技成績は同一競技であっても,年齢や性別, 種目,ポジション,体重,階級,大会などによっ て分かれてしまうため ,共通した評価指標がなく, 比較可能性を保つことが難しい。 ボートレースは, 公営競技であるため,厳密に公平性が担保されて おり,このような条件下で算出される勝率は,競 技成績を反映する指標として適切とされている 3)。 レーサーの選手寿命は約 28 年間,平均引退年齢 は 50 歳であり,他のスポーツ競技に比べて長い ことから 4),勝率は,年齢や加齢によって変化す る体重や身体能力,更に男女が同じレースで競い 合うことから性別とも関連する可能性がある。レ ースおよびレースで用いる道具は,選手間で公平 性が保たれているため,勝率に対する年齢,性別, 連絡先:鈴木康裕,筑波大学附属病院リハビリテーシ ョン部,〒305-8576 茨城県つくば市天久保 2-1-1, [email protected] 投稿日:2020 年 9 月 2 日,受理日:2020 年 10 月 7 日体重,身体能力の影響が道具に左右されずに検討 が可能である。そこで,横断調査が行われた結果, ボートレースにおける勝率は,年齢とは独立して, 体重および身体能力の1 つである動的バランス能 力と関連することが明らかになった3)。 一方,横断調査の欠点として,交絡因子の影響 が生じやすく,原因と結果の因果関係が明確では ない,などの点が挙げられるが,コホート調査の 場合,因果関係や予測因子の推定において強みが あるとされている 5)。そのため,横断調査で立証 された勝率と体重およびバランス能力の関連につ いて,コホート調査においても同様に検討するこ とは極めて重要である。本調査の場合,従属変数 として「コホート期間後の勝率」あるいは「コホ ート期間中の勝率の変化」のどちらかの選択が可 能だが,因果関係により迫るには変化に着目する 必要がある。また,勝率は,連続変数であるため, コホート期間中の変化をとらえやすい。更に,先 行研究で用いられていた勝率は,1 年間のレース 結果を反映させた指標であるため3),短期間(例え ば 3 年間程度)でのコホート調査では変動が少な く,コホート期間後の勝率は,ベースライン(base line; BL)時の勝率の影響を強く受けてしまう。そ のため,勝率を用いたコホート調査を行う場合, コホート期間後の勝率を,BL 勝率で補正した「コ ホート期間中の勝率の変化」を従属変数とし,更 にコホート期間中の体重および動的バランス能力 の変化との関連を検討できれば,因果関係につい てのより明確な解釈が可能となる。そして,BL 時 の年齢,性別,体重,勝率などについても併せて 検討することで,将来の勝率の変化を予測できる 因子を推定することが可能となり,レーサーのモ チベーションに繋がる可能性もある。 以上のことから,本研究では,ボートレーサー の競技成績(勝率)の変化について着目し,本指標 が,ボートレーサーの体重および動的バランス能 力の変化,また,BL 時の年齢,性別,体重および 動的バランス能力と関連する可能性を推察し,コ ホート調査として縦断的に検証することを目的と した。
2.方 法
2-1.対象者 すべての現役ボートレーサーは,公益社団法人 日本モーターボート選手会に所属し,3 年間に 1 度,一般財団法人日本モーターボート競走会(以 下,競走会)が実施する登録更新検査を受ける必 要がある。本研究の対象となったボートレーサー は,2016 年 6~10 月において,出走記録のある全 現役ボートレーサー1,474 名のなかから本期間中 に5 回の登録更新検査時に付随して,動的バラン ス能力の測定を受けた者(137 名)のうち 3),更に その3 年後の 2019 年 5 月~2020 年 2 月に行われ た5 回の登録更新検査時に付随して,2 回目の測 定を受けた 110 名である(図 1)。本研究の適格条 件として,①自発眼振がなく日常生活に支障のあ る視覚障害および四肢運動障害がない(非要介護 および非要支援者),②末梢知覚障害がなく静止直 立姿勢をとることが可能である,③めまい・平衡 障害の既往がなく転倒事故経験がない,④歩行お よび日常生活が自立している,の4 条件を定めた が,理学療法士による事前の確認において非該当 となる対象者はいなかった。 なお,本研究は筑波大学附属病院臨床研究倫理 審査委員会の承認を得て実施した(承認番号 H26-29)。本研究への参加に際し,対象者に研究の趣旨, 内容,および調査結果の取り扱いなどに関し口頭 および文書で説明を行い,文書にて同意を得た。 2-2.評価項目 2-2-1.競技成績および体重 競技成績としてボートレースにおける勝率を 用いた。ボートレースでは,当該期間中のレース において1 着から 6 着までの全着順に「着順点」 が付与され,その着順点の合計(総和)を出走回数 で除した数値が勝率と定義される 3)。本研究の対 象者の階級および勝率として,BL 勝率は,2016 年 5 月~2017 年 4 月のレース結果を基に算出し6), 3 年後勝率は,2019 年 5 月~2020 年 4 月のレース 結果を基に算出した 6)。なお,本研究では,勝率 の変化について,「変化率」として数値化し,(3 年 後勝率-BL 勝率)/BL 勝率×100 により算出した。 全現役レーサーの階級は4 階級(A1 級,A2 級, B1 級,B2 級)に分類されており,勝率の他,定率 (当該階級人数/全体人数),事故率(事故点の合計 /出走回数;なお事故点はレースでのフライング, 進路妨害,欠場などにより加算される),最低出走 回数によって規定され3),級別は毎年1 月と 7 月 に更新されている6)。本研究では,対象者のBL 時 の階級を2016 年 5 月~2017 年 4 月のレース結果 を基に更新された 2017 年 7 月時点のレーサーのデータを用い,3 年後の階級を 2019 年 5 月~2020
年 4 月のレース結果を基に更新された 2020 年 7
月時点のレーサーのデータを用いた。
各選手の身長(m),体重(kg)は,登録更新検査
時に測定し,また体重÷身長 2によって体格指数
(body mass index; BMI)を算出した。更に体重は, BL 時および 3 年後それぞれで測定した結果を用 いて,体重変化量を算出した。 2-2-2.動的バランス能力の測定 本研究では,「環境面からの負荷(支持基底面の 変化・視覚的負荷)がかかることで支持基底面を 移動せずとも支持基底面内において重心を安定的 に移動することのできる範囲」を動的バランスと 定義した7,8)。その動的バランス能力の簡便な評価 として,閉眼片脚立位時間を測定した7)。また,重 心動揺検査を用いた方法として,望月ら9)が考案し
た姿勢安定度評価指標(index of postural stability; IPS)を閉眼およびラバー上で行う修正姿勢安定度 評価指標(modified IPS; mIPS)を用いた10-12)。また
BL 時および 3 年後のそれぞれで測定した結果を 用いて,閉眼片脚立位時間変化量および mIPS 変 化量を算出した。 1)閉眼片脚立位時間 閉眼で両手を腰にあて片側支持脚にて立位姿 勢をとり,他方の足を軽く前方向へ上げ,片足を 床から離した状態で立ち続けた時間を計測した。 測定は左右2 回ずつ行い,その最大値を計測値と し,計測時間の上限は60 秒とした。なお,支持足 の位置が大きくずれたときや腰にあてた手が離れ たとき,支持足以外の体の一部が床に触れた時点 で終了とした13)。 2)mIPS 重心動揺計(Gravicorder GS-6000:測定周波数 20 Hz , ア ニ マ 社 製 ) お よ び ラ バ ー マ ッ ト と し て AIREX® Balance-pad plus(25%圧縮抵抗 20 kPa,密
度5 kg/m3,張力260 kPa,410×500×60 mm,AIREX AG 社製)を用いた。まず,対象者にラバーマット 上(中央)で閉眼での安静立位をとらせ,次に,前 方・後方・右方・左方の順で重心移動を指示し, 行うことのできた前後および左右の重心移動距離 を乗じることにより矩形面積を算出し,これを安 定性限界面積(前後の重心移動距離×左右の重心 移動距離)とした。また,中央・前方・後方・右方・ 左方の5 条件下での 10 秒間の重心動揺面積の平 均値を算出し,これを平均重心動揺面積とした。 この安定性限界面積と平均重心動揺面積を用いて, mIPS を「log〔(安定性限界面積+重心動揺面積)/ 重心動揺面積〕」として算出した10-12)。 なお,本測定は1 名の理学療法士によって行わ れた。また,測定前に対象者10~15 名ずつ測定方 法の説明を行い,測定肢位についてのデモンスト レーションを行った。 2-3.統計解析 本研究の対象集団の経年的変化を確認するた め,階級,年代および性別の各構成について,ボ ートレーサーの元集団であるBL 時と 3 年後の解 析対象者の比較をχ2検定を用いて行った。本研究 の対象者のBL 時および 3 年後における年齢,身 長,体重,BMI,勝率,閉眼片脚立位時間,mIPS, また体重変化量,勝率変化率,閉眼立位時間変化 量,mIPS 変化量について,それぞれの記述統計を 平均値±標準偏差を用い,閉眼片脚立位時間と閉 眼立位時間変化量については,計測上限の 60 秒 に達した人数および変化量0 秒の人数の割合(%) も示した。更に,BL 時と 3 年後の比較について, それぞれの変数を ShapiroWilk 検定を用いて分布 の正規性を検討し,単変量解析として連続変数は, パラメトリックデータであれば対応のあるt 検定, ノンパラメトリックデータであればMann-Whitney のU 検定を用いて検討した。 勝率変化率の関連因子を検討するため,まず勝 率変化率とBL 年齢,BL 体重,体重変化量,BL 勝 率,BL 閉眼片脚立位時間,閉眼片脚立位時間変化 量,BL-mIPS,mIPS 変化量について,ShapiroWilk 検定を用いて双方の変数における分布の正規性を 確 認 し た 。 双 方 に 正 規 性 が 認 め ら れ る 場 合 は Pearson の積率相関係数,認められない場合は該当 変数をカテゴリ化し Spearman の順位相関係数を 選択し,それぞれの単相関関係について検討を行 った。そして,勝率変化率を従属変数,BL 年齢, 性別,BL 体重に加えて,有意な単相関の認められ た他変数を独立変数とし,強制投入法による重回 帰分析を行った。更に,勝率変化率に対する年齢 の関連を検討するため,BL 時における 40 歳未満 のみ,40 歳以上のみを対象とした層別解析を行っ た 3)。統計解析は,SPSS バージョン 24.0(IBM Japan)を用い,統計学的有意水準は 5%とした。
3.結 果
本研究に参加したボートレーサーは,BL 時の137 名(男性 129 名,女性 8 名)のうち,3 年後の不 参加者27 名を除いた,110 名(男性 106 名,女性 4 名)であった(参加率 80.3%)(図 1)。なお,不参 加者27 名中のうち 17 名は,既に現役を引退して いた(20 歳代 2 名,30 歳代 4 名,40 歳代 6 名,50 歳代 5 名)。本研究の対象となった集団の属性構 成における経年的変化を検討するため,元集団で ある BL 時の解析対象者(137 名)と本研究の解析 対象者(110 名)を比較した結果,階級,年代,性別 のすべての構成において有意な差は生じていなか った(表 1)。また,対象者の性別構成は,女性が 著しく少なく全体の 4%であった。また,対象者 の年齢,身長,体重,BMI,勝率,動的バランス能 力の経年変化を検討するため,BL 時と 3 年後に ついて,閉眼片脚立位時間は Mann-Whitney の U 検定を,それ以外の変数は対応のあるt 検定を用 いて比較した結果,年齢,体重,BMI は有意に増 加し,身長および mIPS は有意に低下することが 示された(表 2)。また,体重および身長の変化は 著しく少なく,体重は BL 時の平均約 1%程度の 増加,身長はBL 時の平均約 0.1%程度の低下であ った。なお,データに欠損値はなかった。 1 2 3 4 5 6 7 8 B a s e L i n e 時 解 析 対 象 者 1 3 7 名 3 年 後 登 録 更 新 検 査 登 録 者 1 2 0 名 解 析 対 象 者 110 名 研 究 対 象 者 110 名 登 録 更 新 検 査 不 参 加 者 10 名 引 退 者 17 名 図 1 研究対象者選定のフローチャート 表 1 BL 時解析対象者と本研究解析対象者における対象ボートレーサーの階級 年代および性別構成の比較 BL 時解析対象者 (137 名) 本研究解析対象者 (110 名) p 値 階級 A1 42(31%) 36(33%) 0.89 A2 32(23%) 26(24%) B1 58(42%) 42(38%) B2 5( 4%) 6( 5%) 年代(歳) 16-25 4( 3%) 3( 3%) 0.74 26-35 39(28%) 32(29%) 36-45 64(47%) 55(50%) 46-55 25(18%) 19(17%) 56-65 3( 2%) 0( 0%) 66- 2( 1%) 1( 1%) 性別 男性 129(94%) 106(96%) 0.42 女性 8( 6%) 4( 4%) BL; base line. %:該当階級および年代人数/対象レーサー人数
全対象者(110 名),40 歳未満(57 名),40 歳以上 (53 名)の対象者において,勝率変化率とBL 勝率, 体重変化量,BL 閉眼片脚立位時間,閉眼片脚立位 時間変化量,BL-mIPS,mIPS 変化量におけるそれ ぞれの分布の正規性を確認した。結果,BL 閉眼片 脚立位時間に正規性が認められなかったため,BL 閉眼片脚立位時間は計測上限の 60 秒に達してい るか否かに応じてカテゴリ化のうえ Spearman の 順位相関係数を選択し,それ以外は Pearson の積 率相関係数を選択し,それぞれの単相関関係を検 討した(表 3)。結果,勝率変化率は,全対象者に おいて,BL 年齢(R =-0.24,p = 0.006)と,40 歳 未満のみにおいて,BL 年齢(R =-0.35,p = 0.004), BL 体重(R =-0.23,p = 0.046),mIPS 変化量(R = 0.24,p = 0.036)と有意に関連していた。一方,40 歳以上においては,すべての変数と有意に関連し ていなかった。更に,勝率変化率を従属変数とし, 全対象者においてBL 年齢,性別,BL 体重の 3 変 数を独立変数として重回帰分析を施した結果,BL 年齢(p = 0.007)および BL 体重(p = 0.038)と有意 に負の関連が認められた(表 4 A)。次に,対象者 を 40 歳以上とした全対象者と同様の独立変数を 表 2 対象者の年齢,身長,体重,BMI,勝率,動的バランス能力の BL 時と 3 年後の比較 BL 時 3 年後 変化量および変化率 p 値 年齢(歳) 39.4±7.5 42.7±7.5 3.3±0.5 < 0.001 男性/女性 106/4 106/4 ― ― 身長(m) 1.65±0.04 1.65±0.04 -0.002±0.008 0.001 体重(kg) 53.1±2.5 53.5±2.6 0.5±1.2 < 0.001 BMI(kg/m2) 19.6±1.0 19.8±0.1 0.2±0.5 < 0.001 勝率 5.61±0.98 5.49±1.13 -4±12%* 0.08 OLS(秒) [%]** 36±19 [25]** 35±20 [25]** 0±17 [17]** 0.88 mIPS 0.56±0.21 0.51±0.21 -0.05±0.20 0.02
BMI; body mass index, BL; base line, mIPS; modified index of postural stability, OLS; one-leg standing time with eyes closed.
平均値±標準偏差 * %:(3 年後勝率-BL 勝率)/BL 勝率×100 ** 60 秒達成者もしくは変化量 0 秒者人数/全対象者人数 表 3 対象者の勝率変化率とBL 年齢,BL 体重,体重変化量,BL 勝率, BL 閉眼片脚立位時間,閉眼片脚立 位時間変化量,BL-mIPS,mIPS 変化量の相関係数の結果 BL 年齢 BL 体重 体重 変化量 BL 勝率 BL-OLS*** OLS 変化量 BL-mIPS mIPS 変化量 全対象 -0.24* -0.12 -0.08 -0.05 -0.03 -0.13 0.01 0.05 40 歳以上 -0.22 -0.02 -0.08 0.22 -0.16 -0.20 0.03 -0.18 40 歳未満 -0.35* -0.23** -0.08 -0.12 0.003 -0.04 -0.04 0.24**
BL; base line, mIPS; modified index of postural stability, OLS; one-leg standing time with eyes closed. *p < 0.01. **p < 0.05. ***BL-OLS について,60 秒達成者を 1,それ以外を 0 にカテゴリ化した。 表 4 対象ボートレーサーにおける勝率変化率の重回帰分析の結果 A 全対象ボートレーサー B 40 歳未満のボートレーサー 偏回帰 係数 標準 偏回帰 係数 95%信頼区間 偏回帰 係数 標準 偏回帰 係数 95%信頼区間 下限 上限 下限 上限 定数 0.60 0.10 1.10 定数 0.94 0.28 1.60 BL 年齢 -0.004 0.10 -0.01 -0.001 BL 年齢 -0.01 0.31 -0.02 -0.001 BL 体重 -0.01 -0.21 -0.02 -0.001 BL 体重 -0.02 -0.32 -0.03 -0.002 性別* -0.07 -0.10 -0.06 0.19 性別* 0.17 0.19 -0.08 0.41 R2= 0.10, ANOVA p = 0.012 mIPS 変化量 0.94 0.28 1.60 R2= 0.23, ANOVA p = 0.009 * 性別について,男性を 1,女性を 2 にカテゴリ化した。
用いた層別分析を行った結果,モデル自体が有意 とはならなかった(p = 0.537)。一方,40 歳未満で は,BL 年齢,性別,BL 体重に加え mIPS 変化量 の4 変数を独立変数として重回帰分析を施した結 果,全対象と同様にBL 年齢(p = 0.022)および BL 体重(p = 0.021)と有意に負の関連が認められた (表4 B)。なお,それぞれの重回帰分析における, すべての独立変数の分散拡大要因は2 以下が示さ れ,独立変数同士の多重共線性は認められなかっ た14)。
4.考 察
本研究では,ボートレーサーを対象に,年齢, 性別,体重および動的バランス能力(閉眼片脚立位 時間,mIPS)と競技成績の変化が関連するかどう かについて,コホート調査によって検討した。ボ ートレーサーは,他のスポーツ競技に比べて選手 寿命が長いため 4),勝率変化率と各変数との関連 は,年代層によって異なる可能性を想定し,全対 象および区分した年代層ごとの検討を行った。区 分する年代層について,本研究では,先行研究 3) と同様のデザインを採用し,全対象のレーサーを 40 歳以上と未満に分類した。また,体重の変化は, レース現場では率よりも生値が重視されているこ と,閉眼片脚立位時間の変化率は,バラつきが大 きく,正規性の担保が難しいこと,また,mIPS は, 先行研究において,個人の2 回の測定による変化 量の有効値12)が報告されていること,以上のこと から,本研究では,これらの独立変数の変化の指 標として,変化量を採用した。 先行研究の横断調査によって,体重および動的 バランス能力の指標の1 つである mIPS とレーサ ーの勝率に関連が認められたことから 3),体重お よび動的バランス能力と勝率に因果関係があるこ とを推察した。そのため,本研究では,体重およ び動的バランス能力の変化量と3 年間の勝率変化 率が関連することを予想し,検証を行ったが関連し ておらず,因果関係にも迫ることはできなかった。 動的バランス能力は,レーサーの操縦能力の一 部を反映していると考えられているが 3),操縦能 力以外の機械整備の技術,競技戦略,競技経験な ども,勝率と関連する重要な因子であり,勝率変 化率に対する各因子の影響の強さは明らかにされ ていない。本研究の結果,コホート期間を3 年間 とした場合のレーサーの勝率変化率は,動的バラ ンス能力以外の他の因子によって,より影響され ていた可能性が考えられた。一方,40 歳未満のレ ーサーの場合,動的バランス能力である mIPS の 変化量と勝率変化率に弱いながらも有意な正の単 相関関係が認められた。mIPS は,若年から高齢に 至るまで一貫して低下することが明らかとなって おり10,11),今後6~9 年間などコホート期間を延長 することで対象レーサーの mIPS は更に低下する と考えられ,その際,改めて勝率変化率の関連を 再検討することで,新たな知見が得られる可能性 がある。レーサーにとって,体重は非常に重要な 要素であることが知られており 3),本研究におい ても,全対象および40 歳未満のレーサーの場合, BL 体重と勝率変化率に負の関連が認められた。 レーサーは,レース出場のための最低体重を男性 51 kg,女性 47 kg に規定されており4),この規定 を順守できない場合,出場するには重量調整(最 低体重に到達するまで500 g 単位の重錘を体の一 部もしくはボートに荷重される)が必要となり,ま た体重が低いほど,物理的に操縦に有利となるた め,日頃から厳密に体重の自己管理を行っている。 本研究において,BL 時と比べた 3 年後の対象者 の体重の平均変化量は,僅か約 1%程度の増加で あり,ほとんど変化していなかった。つまり,現 役レーサーの体重管理は,競技生活を継続するう えでの必須条件であるため,3 年間程度の短期間 の場合,レーサーが体重の変化の幅をごく僅かに 抑えることは必然であり,結果的に,勝率の変化 に影響を及ぼすほどの変化が生じなかったと考え られた。 本研究では,将来の勝率の変化を予測できる因 子を新たに推定できる可能性を推察し,BL 時の 年齢,性別,体重,動的バランス能力,勝率とそ の後3 年間の勝率変化率の関連を前向きに検討し た。結果,全対象者および40 歳未満の場合,3 年 間の勝率変化率は,BL 時の年齢および体重と負 の関連を示し,レーサーの勝率は,BL 時の年齢が 低く,また体重が軽いほど,その後3 年間で上昇 しやすい可能性が示された。つまり,40 歳未満の レーサーの場合,その時点の年齢および体重は, その後3 年間の勝率変化率を予測できる因子とな る可能性がある。若手レーサーによる,養成所修 了後から 20 歳代くらいまでの期間は,訓練生か ら現役レーサーへ立場が変わることもあり,公式 レースや機械整備の経験を積み,更に,それらに 伴う技術や戦略などを新たに習得できる時期である。つまり,20 歳代のレーサーほど,短期間で 「勝てる能力」を大きく伸ばすことが可能であり, このことが,その後3 年間での勝率の向上に繋が っていた可能性がある。一方,レーサーが 40 歳 以上の場合,BL 時の年齢および体重と,その後 3 年間の勝率変化率は関連していなかった。レー サーの勝率のピークは 30 歳代後半と考えられて いるため6),40 歳を過ぎた場合でも,年齢および 体重の上昇に伴い,その後3 年間では勝率変化率 は低下していくことを予想したが相違していた。 レーサーの平均引退年齢は50 歳前後であり4),本 研究のBL 時の解析対象者において,その後 3 年 間で引退したレーサーは 17 名いたが,40 歳以上 は11 名(65%)であった。このことから,40 歳以 上のレーサーの場合は,生存者バイアス(survival bias)が生じ,結果的にレーサーの年齢および体重 と勝率の変化率は関連しなかった可能性が考えら れた。 本研究における限界として,5 つが挙げられる。 1 つ目は,本研究におけるコホート期間の短さが 挙げられる。本研究におけるコホート期間は,競 走会が実施する登録更新検査に付随して行われた ため3 年間に設定されたが,レーサーの平均在籍 期間である約 30 年間を考慮すれば,相対的に短 期間と考えられる 4)。このような短期間では,各 レーサーの能力の変化は小さく,勝率に及ぼす影 響も少なくなり,関連因子の変化や勝率変化率が 限定的であった可能性がある。そのため,本来, コホート調査でも関連することが予想された,体 重および動的バランス能力と勝率が,それぞれ変 化量,変化率に変わったために関連し切れず,結 果的に,先行研究による横断調査3) と,本研究に よるコホート調査の結果に相違が生じた可能性が ある。今後,本研究におけるコホート調査期間を 中長期間に延長することで,新たな知見が得られ る可能性がある。 2 つ目は,体重と動的バランス能力以外の身体 能力指標,競技戦略や競技経験,機械整備の技術 など他の関連因子について検討できていなかった ことである。機械整備の技術,競技戦略,競技経 験なども,勝率と関連することから,これらの因 子についても,将来の勝率予測因子として検討す る必要がある。今後,測定項目を増やし,またア ンケート調査などを実施することで,これら他の 複数の指標とともに,再検討することが今後の課 題である。 3 つ目は,本研究によるレーサーの対象者の代 表性に問題が生じていることである。本研究の対 象となった BL 時の解析対象者であるレーサーの 階級,年代および性別の構成は,母集団である全 現役レーサーとは異なっていたが,3 年後の本研 究解析対象者の構成についても有意な変化はみら れなかった。特に,本研究の対象者における女性 の構成割合は 4%であり,全現役ボートレーサー の12%6)と比べて少なく,正確に性別と勝率の変 化率の関連性を検討できなかった可能性がある。 これらのことから,本研究で得られた結論が,必 ずしも全現役ボートレーサーに当てはまるとはい い切れない。この点を踏まえ,今後,解析時に構 成調整を行うなどの工夫も考慮する必要がある。 4 つ目は,本研究の独立変数として用いた指標 の測定が,BL 時では 2016 年 6~10 月であるのに 対し,3 年後は 2019 年 5 月~2020 年 2 月となっ たことである。本研究の測定は,競走会によって 実施される,全レーサーを対象とした登録更新検 査に付随して行われた。この更新検査を行うタイ ミングは,3 年ごとの実施と規定されているが, 各個人のレース・スケジュールを勘案して調整さ れるため,全レーサーの登録検査が必ずしもちょ うど36 か月(3 年)ごととはならない。そのため, 本研究の対象レーサーの登録検査も若干の日程の 相違が生じてしまい,結果的に体重および動的バ ランス能力の測定も,前回の測定時期とは異なっ てしまった。本研究による縦断調査の結果は,前 回と比べて時期が異なったことによる季節変動性 や,社会情勢(例えば感染症流行)の変化などによ り,体重や動的バランス能力に影響を及ぼした可 能性がある。 最後に,本研究で用いた勝率変化率には,一定 の変動性を有していることが挙げられる。ボート レースのグレードは,格式の高い順に SG,G1, G2,G3(一般戦)の 4 段階に分けられ,各レースに 出走できる資格は,年齢や勝率などの規定によっ て決められる。上位レースほど成績優秀者から選 出されることが多く,レース出場によって付与さ れる着順点も,下位レースに比べて大幅に上乗せ される。一方,階級の下位レーサーほど,差配さ れるレース数が制限されるため,出走回数や着順 点を獲得できる機会も少なくなる。また,階級を 維持,上昇させるためには,最低限の出走回数お よび勝率の担保が必要である 3)。つまり,レーサ ーは,階級が下の階級から上がるほど勝率を上げ
る機会に恵まれ,下の階級に下がるほど勝率が低 迷しやすいことを意味している。このように,本 研究の対象レーサーの勝率変化率においても,観 察期間中に,同様の変動性を有していたと考えら れ,体重や動的バランス能力の変化との関連に影 響を及ぼした可能性がある。
5.結 論
本研究において,ボートレーサーを対象に,性 別,BL 時の年齢,体重および動的バランス能力 (閉眼片脚立位時間,mIPS),また体重,動的バラ ンス能力の3 年間の変化量とボートレーサーの 3 年間における競技成績(勝率)の変化率との関連を コホート調査によって検討した。結果,全対象者 および 40 歳未満におけるボートレーサーの勝率 の 3 年間の変化率は,BL 時の年齢および体重と 負の関連を示した。 謝 辞 本研究遂行にあたり,測定に協力していただい たボートレーサーの方々に深く感謝申し上げます。 また,測定機器の設営補助およびボートレーサー の誘導を行っていただいた一般財団法人日本モー ターボート競走会本部企画部広報課の方々,測定 日に測定場所として笹川記念会館会議室の使用を 許可していただいた一般財団法人日本モーターボ ート競走会様に心より感謝申し上げます。本研究 は , つ く ば ・ な る と バ ラ ン ス (Tsukuba Naruto Balance; TNB)スタディによる研究調査の一環と して行われました。 なお,本研究に関連し,開示すべきCOI 状態は ありません。 文 献 1) BOAT RACE.平成 30 年度売上・利用者につ いて. https://www.boatrace.jp/owpc/pc/site/news/2018/ 04/5601/ (アクセス日:2020 年 8 月 10 日) 2) BOAT RACE.ボートレースガイド. http://www.boatrace.jp/owpc/pc/extra/enjoy/guide /level1/l1_01_03_07.html (アクセス日:2020 年 8 月 20 日) 3) 鈴木康裕,中田由夫,清水如代,他.ボート レーサーの年齢,性別,体重および動的バラ ンス能力と競技成績の関連―横断的調査に よる検討―.運動疫学研究.2019; 21(1): 38-46. 4) BOAT RACE.ボートレーサーという職業とは. http://www.boatrace.jp/extent/pc/racerbosyu/about _racer/index.html (アクセス日:2020 年 8 月 20 日) 5) ステファン BH,スティーブン RC,ウォーレ ン S,他(著),木原雅子,木原正博(訳).医 学的研究のデザイン.[In] 横断研究とコホー ト研究をデザインする.メディカル・サイエ ンス・インターナショナル社,東京,2014; 88-111. 6) 一般財団法人日本モーターボート競走会.レ ーサー期別成績ダウンロード. http://www.boatrace.jp/owpc/pc/extra/enjoy/guide /level1/index.html (アクセス日:2020 年 8 月 10 日)7) Lee BG, Lee JH. Immediate effects of ankle balance taping with kinesiology tape on the dynamic balance of young players with functional ankle instability. Technol Health Care. 2015; 23: 333-41.
8) Ryckewaert G, Luyat M, Rambour M, et al. Self-perceived and actual ability in the functional reach test in patients with Parkinson’s disease. Neurosci Lett. 2015; 589: 181-4. 9) 望月 久,峯島孝雄.重心動揺計を用いた姿 勢安定度評価指標の信頼性および妥当性.理 学療法学.2000; 27: 199-203. 10) 鈴木康裕,中田由夫,加藤秀典,他.重心動 揺計を用いた動的バランス能力と年齢の関 連.体力科学.2015; 4: 419-25.
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【Original Article】
Relationship between Changes in Athletic Performance and Age, Sex, Weight,
and Dynamic Balance Capabilities of Boat Racers over Three Years
- a Longitudinal Study -
Yasuhiro Suzuki
1), Yukiyo Shimizu
2), Takumi Tsubaki
1), Rei Nozaki
3),
Haruki Konno
3), Shingo Hirata
4), Yasushi Hada
2) AbstractObjective: The rates in the competition result (the rates of winning) of boat racers was regarded as the outcome,
and related factors were examined by a cohort survey.
Methods: The subjects were 110 boat racers (mean age 42.7 ± 7.5 years old). The rates of winning from racing
results conducted at the baseline (BL) and three years later were used. Changes in the rates of winning were calculated as (the rates of winning three years later – BL the rates of winning) / BL the rates of winning x 100, which was used as the outcome. Multiple regression analysis was performed on the relationship between the rate of change of the three-year rates of winning and sex, variables at BL (the rates of winning, age, weight, and dynamic balance capability), and the amount of change in weight and dynamic balance capability.
Result: The rate of change in the rates of winning was inversely associated with age and weight at BL (p < 0.05).
In contrast, sex, and dynamic balance capability were not admitted as related factors in terms of their significance.
Conclusion: The three-year rate of change in the competition result of boat racers was inversely associated with
age and weight at BL.
Key words: age, boat race, competition results, dynamic balance capability, sports
1)Department of Rehabilitation Medicine, University of Tsukuba Hospital, Tsukuba, Ibaraki, Japan
2)Department of Rehabilitation Medicine, Faculty of Medicine, University of Tsukuba, Tsukuba, Ibaraki, Japan 3)Department of Rehabilitation, Umeda Hospital, Adachi, Tokyo, Japan