ナノバブル発生技術を用いた脳脊髄液酸素化による
脊髄虚血再灌流後の対麻痺に対する新たな治療法に
関する研究
著者
長沼 政亮
学位授与機関
Tohoku University
学位授与番号
11301甲第19119号
URL
http://hdl.handle.net/10097/00129214
1 博士論文 ナノバブル発生技術を用いた脳脊髄液酸素化による脊髄虚血再灌流後の対麻痺 に対する新たな治療法開発に関する研究 東北大学大学院医学系研究科医科学専攻 外科病態学講座 心臓血管外科学分野 長沼 政亮
2 目次 Ⅰ. 論文要約・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 Ⅱ. 研究背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 Ⅲ. 研究目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11 Ⅳ. 研究方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 Ⅳ-1 過飽和酸素化人工髄液の作成・・・・・・・・・・・・・12 Ⅳ-2 動物実験プロトコール・・・・・・・・・・・・・・・・12 Ⅳ-3 評価方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 Ⅴ. 研究結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20 Ⅴ-1 過飽和酸素化人工髄液灌流群における虚血再灌流後の 髄腔内酸素分圧の保持・・・・・・・・・・・・・・・・20 Ⅴ-2 過飽和酸素化人工髄液灌流群における 神経学的機能の保持・・・・・・・・・・・・・・・・ 20 Ⅴ-3 病理学的評価による過飽和酸素化人工髄液灌流群での 正常前角細胞の有意な保持・・・・・・・・・・・・・・21 Ⅴ-4 DNA 解析による過飽和酸素化人工髄液灌流群での 炎症性遺伝時発現の抑制・・・・・・・・・・・・・・・21 Ⅵ. 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23 Ⅶ. 結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30 Ⅷ. 謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31 Ⅸ. 引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32
3
Ⅹ. 表・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37 Ⅺ. 図の説明・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41 Ⅻ. 図 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・44
4 Ⅰ.論文要約 【研究背景】 大動脈手術後の脊髄障害はいまだ未解決な合併症の一つであり,様々な 予防法が考案されてはいるが,今なお抜本的な治療法には至っていない.脊髄障 害による対麻痺が一旦発症すると,生活の質が著しく低下するだけでなく生命 予後も悪化するとされており,その解決法が待たれる.そこで今回,実際の脊髄 虚血再灌流障害が形成された後に,過飽和酸素化人工髄液を脊髄腔内に灌流す ることで脊髄保護効果が得られるという仮説を立て検証した. 【研究方法】 市販されている人工髄液に対してナノバブル発生装置を用いて過飽和 酸素化人工髄液を作製した.次に,脊髄虚血再灌流モデルとして家兎を用いて腹 部大動脈を血管内バルーンで15 分間遮断し,同バルーンを除去することで大動 脈循環の再開を行うモデルを作製した.その後の治療的介入として、過飽和酸素 化人工髄液を髄腔内に灌流する実験を行った.合計20 羽の日本白色種の家兎を 以下の群に分けた.Group S (Sham 群)は,腹部大動脈にカテーテルを挿入し 5 秒 間のみバルーン拡張する群とした.Group I (Ischemia 群)は,腹部大動脈を 15 分
間バルーン閉塞する群とした.Group N (Non-oxygenated 群)は Group I と同様の
処置から 15 分後に未処理の人工髄液を用いて髄腔内を 1 時間灌流する群とし
た.Group O (Oxygenated 群)は,Group I と同様の処置から 15 分後にナノバブル
5
処置から 48 時間後に脊髄障害に関して modified Tarlov score を用いて神経学的
評価を行い,その後安楽死処置を行った.また第2,第 3 腰椎レベルでの脊髄組
織を摘出し,正常前角細胞数変化を観察するための病理学的評価,網羅的遺伝子
解析目的でのmicroarray 解析,さらに microarray 解析にて観察された変化の検証
のための定量的PCR 解析を行った.
【研究結果】
虚血再灌流後48 時間の時点での modified Tarlov score は,Group O (3.8 ± 0.4)では,Group I (2.0 ± 0.9),N (2.6 ± 0.5)と比較してそれぞれ有意に神経学的機 能が保持されていた (P < 0.01).また,病理学的評価において虚血領域の前角細 胞数は,Group I (2.7 ± 2.7)と比較して Group N (10.2 ± 2.2),O (10.4 ± 2.2)におい てそれぞれ有意に保持されていた (P < 0.01).microarray 解析において,Group S
と比較してGroup I において fold change が 2.0 以上の遺伝子を抽出したところ,
644 の遺伝子が抽出され,これらの遺伝子を用いた functional enrichment 解析を 行うと,33 の遺伝子がいずれも inflammatory response と有意な関係にある遺伝 子と示された.その遺伝子の中で,interleukin 6 (IL-6)と tumor necrosis factor (TNF)
の発現は,Group I と比較して Group O でシグナル値が抑制されていた.これら
遺伝子を検証するため,脊髄組織からRNA を抽出し,その RNA より cDNA を
作製し,これらを用いて定量的PCR 解析を行うと,IL-6,TNF いずれも Group I
6 【結論】 脊髄虚血再灌流後に過飽和酸素化人工髄液を髄腔内に灌流をすること により神経学的な脊髄障害を改善し得る.病理組織学的には脊髄前角細胞の保 持が得られ,その機序として IL-6,TNF を含む炎症性因子と関連のある遺伝子 の抑制が関与している可能性が示唆された.
7 Ⅱ.研究背景 脊髄障害は、胸部大動脈瘤手術において手術手技が問題なく施行された のちでも発症しうる重篤な合併症の一つである.その発症を予測することは困 難であるが,その理由として脊髄組織の血流支配と循環生理が複雑であること が挙げられている.臨床上での脊髄虚血の発生頻度は,胸腹部大動脈人工血管置 換術において3.8 ~ 13.2%と報告されている1-3.低侵襲治療とされる胸部大動 脈ステントグラフト内挿術においても,2.5 ~ 9.4%4-6と報告され無視し得ない 発生頻度と捉えられている.脊髄虚血、また,虚血再灌流障害による対麻痺は一 旦発症してしまうと患者の生活の質を著しく低下させる.対麻痺に伴う下肢の 運動制限だけではなく,膀胱直腸障害,深部静脈血栓症,褥瘡形成など多岐にわ たる障害により生活制限を受ける.また,それに伴う合併症としての尿路感染症, 肺塞栓,敗血症などによる生命予後の悪化を来す.対麻痺の重症度が高まるにつ れ生命予後が低下することが報告されており 7,可能な限り対麻痺発症を防ぎ, 不全対麻痺が不可避な状況においてもその程度を軽減させることが生命予後の 観点からも重要と考えられる. 脊髄保護のために多くの研究者が様々な治療法を検討しているが,いず れも有効な治療法には至っていない.脊髄虚血に対する脊髄保護方法としては, 脊髄循環血流を増加させるための中心血圧の維持8,脊髄代謝を抑制するための 低体温法の併用9,硬膜外冷却による脊髄局所冷却 10,11,髄腔内圧上昇による脊 髄浮腫予防のための脳脊髄液ドレナージ12-14,Adamkiewicz 動脈と交通する主要 肋間動脈の再建 15, 16,術前肋間動脈,および腰動脈コイリングによる collateral
8 network の構築促進17などが報告されている.しかし,これらの脊髄保護法の中 で既に発症してしまった脊髄虚血に対して効果があると報告されている治療法 としては脳脊髄液ドレナージのみであり,さらにその効果は限定的であること が示されている 18 (図 1).そのためこの病態に対する新規治療法が待たれる. 本学において,以前に家兎を用いた脊髄虚血再灌流モデルを作製し,新 規治療法としてナノバブル技術を用いた過飽和酸素化人工髄液を脊髄虚血前に 髄腔内へ灌流することにより,その後に生じる脊髄虚血および脊髄再灌流障害 に対する脊髄保護効果があることを報告している 19.ナノバブルの定義として は諸説あるが,マイクロバブルよりもさらに小さい1 μm 以下の液体内にとどま る気泡とされ,それぞれのバブル内で高い内部圧を有することから多くの気体 を液体内に保持させることができる特性を有している20, 21 (図 2).通常気泡は浮 力が生じ,液体中では急速に上昇して液体表面で気泡が破裂し,気泡内の気体は 大気中に拡散していく.しかし,気泡の径が縮小するにつれて液体中に長時間と どまることができるようになり,やがて液体中で崩壊し溶解していくという性 質が報告されている.気泡が小さくなるにつれて気泡内の圧力が上昇し,この時 に液体と気泡の境界にはヘンリーの法則に従って液体中の気体分子の溶解が進 行することになり,そのために液体に対して大気圧を上回るような高度の気体 溶解度を示す.具体的には松木らによると直径1 μm の気泡内における気圧は 3 atm と報告されている22. 本学での先行研究において,人工髄液の中にナノバブル酸素を発生させ, 高濃度の酸素の溶存を可能し,溶液中酸素分圧が 750 mmHg 以上の過飽和酸素
9 化人工髄液を作製した 19.これを脊髄虚血前に髄腔内に留置したカテーテルを 介して過飽和酸素化人工髄液を髄腔内灌流したのちに脊髄虚血再灌流を生じさ せると,人工髄液非灌流群と比較して有意に神経学的予後が改善した.これらの 研究結果から,脊髄組織は血流からのみではなく,髄腔内経路からも酸素供給が できる可能性があることが示唆された.しかしながら,臨床上では胸腹部大動脈 人工血管置換術ならびに胸部大動脈ステントグラフト内挿術に先立って,全例 において予防的に脳脊髄液ドレナージカテーテルを介して過飽和酸素化人工髄 液を髄腔内灌流することは現実的ではなく,必要のない患者に対しては過剰な 治療的侵襲となる.脊髄虚血、また、虚血再灌流障害による対麻痺が判明してか ら治療的介入を行うことが,実臨床上も有益な処置となり得る. そこで,より臨床応用に近い治療法を確立するために,既に虚血再灌流 障害を受けた障害脊髄組織に対して髄腔内経路から酸素供給をすることにより 脊髄障害の進行を抑制できるのではないかと仮説をたてた.その仮説の理論的 背景は以下のとおりである.脳神経領域においては,虚血再灌流後に神経組織の 酸素消費が上昇することが報告されている23.さらには虚血によるpenumbra 領 域の神経組織では炎症性サイトカインなどのシグナルを介して虚血再灌流後も 障害が進行するとされる.このpenumbra 領域となった神経組織内の相対的酸素 不足を,髄腔内からの酸素供給を追加することにより解消し,さらには脊髄虚血 解除による細胞障害シグナルを停止させ脊髄障害の進行を抑制できるのではな いかと考えた.このことを実証するためには,神経生理学的な脊髄神経機能評価 と脊髄病理組織学的な障害の軽減を評価することに加え,障害脊髄組織内,およ
10 び髄腔内から酸素供給を受けた脊髄内での遺伝子発現変化を観察することによ り上述の仮説の検証ができると考えた.先行研究と今回の実験研究は大きく異 なり,先行研究は大動脈遮断前に過飽和酸素化人工髄液を灌流する「予防効果」 を検証した 19 のに対して,今回は大動脈を遮断し大動脈循環再開後に過飽和酸 素化人工髄液を髄腔内灌流するという「治療効果」を評価している点にある.
11 Ⅲ.研究目的 本研究の目的は,1)家兎を用いた腎動脈下大動脈遮断による脊髄虚血再 灌流モデルに対して,脊髄虚血再灌流後に過飽和酸素化人工髄液を髄腔内投与 することにより脊髄障害治療効果があることを検証し,2)脊髄組織内で起こる遺 伝子発現変化を網羅的に検索し脊髄虚血再灌流障害の進展とその抑制に関与す るメカニズムを明らかにすることである.
12 Ⅳ.研究方法 Ⅳ-1 過飽和酸素化人工髄液の作製 ナノバブル発生装置を使用して過飽和酸素化人工髄液の作製を行った. 使用した機器,製品は以下の通りである. ・ナノバブル発生装置:MA3FS ASUPU 株式会社,静岡 ・人工髄液:アートセレブ® 大塚製薬株式会社,徳島 ・血液ガス分析装置:epoc® SIEMENS,ミュンヘン,ドイツ ナノバブル発生装置の吸引管と排出管をアートセレブ®100ml に浸漬し, 気体酸素を1 L/min の流量でナノバブル発生装置内に通気させ,15 分間アート セレブ®中にナノバブルを発生させた.ナノバブル発生終了後,2 分間静置して, 視認可能な泡がすべて消失した後,アートセレブ®内の酸素分圧を測定し,partial
oxygen (PO2)が 750 mmHg 以上であることを確認した.epoc®は,酸素分圧測定
可能上限が 750 mmHg までであり,今回の実験で使用した過飽和酸素化人工髄 液の酸素分圧はすべてPO2 750 mmHg 以上であった.本研究においては,この 過飽和酸素化人工髄液を作製後すぐに使用しているが,実際にシリンジ内で5 時 間ほど放置した状態での酸素分圧を測定したところ 400 mmHg 以上の酸素分圧 を保つことができることが分かっている.時間単位でのナノバブルの溶存度を 示す実験は行っていないものの、1 時間当たり平均 70mmHg 以下の溶存酸素の 揮発に留まっていると考えられる.この過程を経て作製された液体を過飽和酸 素化人工髄液として定義し以後の実験に使用した.尚,温度は室温 (24 ℃)環境 に保った.
13 Ⅳ-2 動物実験プロトコール Ⅳ-2-1) 実験動物と実験プロトコール 実験には計 20 羽の日本白色種家兎(オス,体重 2.89 ± 0.06 kg)を使用 し,以下の4 群を設定し,検証した.図 3 に実験のシェーマ,ならびに各群の条 件設定を表1 に記した. ・Sham 群 (Group S) 髄腔内カテーテル留置と5 秒間の大動脈内バルーン閉塞 ・虚血群 (Group I ; Ischemia) 髄腔内カテーテル留置と15 分間の大動脈内バルーン閉塞による脊髄虚血 ・人工髄液非酸素化群 (Group N; Non-oxygenated) 髄腔内カテーテル留置と15 分間の大動脈内バルーン閉塞による脊髄虚血誘 導後,大動脈遮断解除15 分経過後から 1 時間の非酸素化人工髄液の髄腔内 持続注入 ・人工髄液酸素化群 (Group O ; Oxygenated) 髄腔内カテーテル留置と15 分間の大動脈内バルーン閉塞による脊髄虚血誘 発後,大動脈遮断解除15 分経過後から 1 時間の過飽和酸素化人工髄液の髄 腔内持続注入 Ⅳ-2-2) 麻酔法と術中管理 すべての群で麻酔はFiO2 50%に調整した混合気体と 5.0%イソフルラン (和光純薬工業株式会社,大阪)吸入にて導入し,50 mg/kg のケタミン塩酸塩(第
14 一三共株式会社,東京)を右大腿部に筋肉内注射して鎮痛した.導入後は 2.0~ 3.0%イソフルラン吸入にて維持し,必要時に 50 mg/kg のケタミン塩酸塩の筋肉 内注射を追加した.呼吸は自発呼吸であり,気管内挿管および人工呼吸器の装着 は行わなかった.手術操作の間は乳酸加リンゲル液(ラクテック® 大塚製薬株 式会社,徳島)を 7 ml/kg/hr の速度で持続静注した. Ⅳ-2-3) 髄腔内カテーテル挿入 家兎を腹臥位として,第一腰椎と第二腰椎の間を目標として皮膚切開を 置いた後,第二腰椎棘突起を指標とし 18G 針を尾側へ傾けながら慎重に髄腔内 にむけて穿刺し,脳脊髄液の逆流を確認した後,硬膜外麻酔用カテーテルである 0.90 mm3孔ポリウレタン製カテーテル(UNIEVAR®,株式会社ユニシス,東京)を 先端が尾側へむかうように2 cm 挿入して留置し固定した.脳脊髄液採取と人工 髄液の持続注入はこのカテーテルを使用して行った. Ⅳ-2-4) 脊髄虚血モデルの作製 家兎を仰臥位とし,右鼠径部を切開して右大腿動脈を露出し,テーピン グした.腎動脈下腹部大動脈をバルーンで閉塞する約 10 分前にヘパリン 100
U/kg を静注した.右大腿動脈に小切開を加え,そこから 4Fr Fogarty occlusion カ テーテル(Edwards Lifesciences, CA, USA)を頭側に向けて進めた.先端が鼠径靭帯
から 15 cm 進んだ位置まで挿入した後,バルーンを拡張し腎動脈下腹部大動脈
を閉塞させた.この家兎脊髄虚血再灌流モデルは多くの論文にて報告されてお
り確立されたモデルである 19, 24-26.15 分間バルーン拡張し腎動脈下腹部大動脈
15 Group I においてはその後創部を縫合閉鎖し,75 分後脳脊髄液の酸素分圧を測定 したのちにカテーテル,点滴ラインを抜去した.Group N,Group O においては 大動脈遮断解除 15 分後,先に髄腔内に挿入したカテーテルから人工髄液を 5ml/hr にて持続注入し 1 時間髄腔内灌流した.投与中は注入圧をモニタリング し,30 mmHg を超える圧となった際には適宜 0.1 ml ずつ脳脊髄液を回収し髄腔 内を減圧した.1 時間髄腔内灌流後はカテーテル,点滴ラインを抜去した.止血 と覚醒を確認したのち,家兎を飼育用ケージに戻した. Ⅳ-2-5) 安楽死処置と標本摘出 この実験に使用された家兎を,虚血発生後 48 時間の時点で脊髄障害に 関して神経学的機能評価を行った後,イソフルランを十分に吸入させた深麻酔 下において十分量の塩化カリウムを急速投与することで安楽死処置を行った. 続いて可及的に第12 胸椎と第 6 腰椎の椎弓を除去し,この間の脊髄を頭側から 尾側に向けて押し出すことで脊髄を摘出した.実験動物総数26 羽の中で,肉眼 上髄腔内カテーテル挿入による脊髄への外的損傷が明らかな個体は 6 羽認めら れ,これらの個体は除外とした (図 4). Ⅳ-2-6)実験動物管理 実験で使用する家兎は最低1 週間飼育ゲージで水とエサが自由に到達で きる状況にて馴化させたのちに使用した.安楽死処置までの間にその他薬剤の 追加はされていない.この一連の実験における実験動物の管理および手術操作 は国立大学法人東北大学実験動物等に関する規定に基づいて行われた.実験に 先立ち,東北大学動物実験計画倫理審査委員会の承認を受けて行われた(承認番
16 号:2017 医動-079) Ⅳ-3.評価方法 Ⅳ-3-1) 脳脊髄液酸素分圧の測定 脳脊髄液中の酸素分圧測定は各々のグループで以下の時点で行った.図 5 にサンプリングポイントを同様に示した. ・Group S ; 髄腔内カテーテル挿入時 ・Group I ; 髄腔内カテーテル挿入時,15 分虚血終了時,遮断解除 75 分後 ・Group N ; 髄腔内カテーテル挿入時,15 分虚血終了時, 人工髄液持続注入開始60 分後 ・Group O ; 髄腔内カテーテル挿入時,15 分虚血終了時, 人工髄液持続注入開始60 分後 髄腔内に人工髄液を持続注入した群における酸素分圧の測定では,あら かじめカテーテル内に残存した人工髄液を十分に吸引して破棄した後に,脳脊 髄液採取を行った. Ⅳ-3-2) 神経学的評価 主要な評価項目である脊髄障害の評価については,バルーン操作後48 時
間の時点で,以下のようなmodified Tarlov score27に従って評価を行った.
1= わずかな動きのみ 2= 補助にて座位可能 3= 単独で座位可能
17 4= 弱い跳躍 5= 正常な跳躍 Ⅳ-3-3) 病理学的評価 実験動物を犠牲死させた後,速やかに脊髄組織を摘出し,10%中性緩衝 ホルマリン液 (和光純薬株式会社,大阪)に 1 週間以上浸漬させ,組織固定した. その後,脊髄組織を短軸方向に切離し,段階的に脱水した後,パラフィンワック スにて包埋標本とした.それを薄切して,厚さ5 μm のプレパラート標本を作製 し,Hematoxylin-Eosin (H-E) 染色を施した.病理学的評価は,群分けの結果を知 らされていない病理医によって行われた.H-E 染色標本のうち,第 2 および第 3 腰椎レベル (L2,L3)の横断面において,前正中裂と後正中溝を結ぶ線と,そ れと脊髄中心管を通って直行する線で,脊髄組織を4 分割した.そのうち,脊髄 前角を含む 1 領域における脊髄前角細胞の数を計測した (図 6).脊髄前角細胞 は正常では大型細胞であることから,判定は神経膠細胞の核から 4 倍の大きさ を有する細胞のみを対象として,数の計測を行った.正常前角細胞は円形,好塩 基性の核を有し,多角形の細胞体であることで判定し,またdark neuron と呼ば れる塩基性細胞は標本固定時のアーチファクトであると判定し正常細胞とみな した.変性脊髄前角細胞は好酸性細胞 (red neuron), 核の消失,クロマチン融解 像の所見をもって変性細胞と判定した.正常脊髄前角細胞とみなした大型細胞 の数を病理学的評価とした.
Ⅳ-3-4) RNA 抽出および DNA microarray 解析
18
の脊髄組織の一部を切離し,液体窒素を用いて急速凍結保存し,その後は-80℃
冷凍庫で凍結保存した.凍結保存しておいた脊髄組織を,-20℃で保存分注して
おいたRNAlater™-ICE frozen tissue transition solution (Life Technologies, Carlsbad, CA)へ浸し,-20℃で 24 時間保存した.その後,液体窒素を用いてすり鉢でホモ ジナイズした.続いてそのサンプルをRNeasy mini kit (QIAGEN, Hilden, Germany)
で DNase 処理ならびに RNA 抽出をプロトコールに従い各群のサンプルにて行
った.total RNA 濃度,ならびに質の計測には,nanodrop (Life Technologies)を用
いた分光分析法にて施行し,さらに0.8%アガロースゲルを用いた電気泳動法に
て確認した.本実験においては,分光分析法にて吸光度での比率 (A260/280,
A260/230)1.8 以上がよい質と判断した.さらにエチレンブロマイドにて染色され
た0.8%アガロースゲルで 28S ならびに 18S ribosome RNA にて構成されている
ことを確認した.microarray は,アジレント社 (Agilent Technologies, Santa Clara, CA)1 色 法 を 用 い て 行 っ た . rabbit origo 4 × 44k DNA microarray (Agilent Technologies; 020908)を採用した.cyanine3-ラベル化 cRNA を合成し,RNeasy mini kit (QIAGEN)を用いて精製した.nanodrop を用いた分光分析法にて cRNA1.65μg
以上,Cy3-CTP 取り込み率が 6 pmol/μg であることを確認した.各群のラベル化
cRNA をそれぞれガスケットスライド(Agilent Technologies; G2534-60011)に滴下 し,アレイスライドをセットしたのち,hybridization oven (Agilent Technologies; G2545A)で 65℃,17 時間 hybridization した.その後スライドを 10%Triton X-102 を添加したgene expression wash buffer (Agilent Technologies; 5188-5975)を用いて 洗浄し,Agilent microarray スキャナシステム (Agilent Technologies)を用いて解析
19
した.スキャンしたデータはfeature extraction ver.10.7.3.1 (Agilent Technologies)を 用いて数値化した.genespring ver.14.5 (Agilent Technologies)にて 75 percentile に
てデータの normalization を行った.各 probe において non detected または
compromised は除外した.
次に増加または減少した遺伝子群が、どの遺伝子セットに多く含まれて いるかを調べるために施行したfunctional enrichment 解析は,DAVID ver6.8 (The database for annotation, visualization and integrated discovery)を用いて行った. Group I / Group S において fold change 2.0 以上の Group I で高発現の遺伝子を抽 出し分析した.
Ⅳ-3-5) 定量的 PCR 解析
microarray のデータを検証するために,定量的 PCR 解析を行った.各群 3 検体ずつの抽出された RNA1 μg から cDNA を作成した.Microarray にて発現 上昇が認められた項目のうち,脳神経系の虚血再灌流障害にて上昇することが
すでに証明されている IL-1β,IL-6,TNF を定量的 PCR 解析することとした.
primer は IL-1β (Oc03823250s1),IL-6 (Oc04097051m1),TNF (Oc03397715m1)を Applied Biosystems (Foster City, CA, USA)より購入した.作成した各群の cDNA そ れぞれに各primer,TaqMan universal master mix II (Applied Biosystems; 4440043)を
混合し各ウェルに30 μl 滴下した.内因性コントロールとして GAPDH (Applied
Biosystems; Oc04097051m1)を使用した.増幅プログラムはすべての物質において, 50 ℃ 2 min ,95℃ 10 min,その後 95 ℃ 15 sec と 60 ℃ 1 min を 40 サイクル
20
2-ΔΔCT (ΔCT = Ct [Target] – Ct [GAPDH], ΔΔCT = ΔCt [Target] – average ΔCt [Sham])
Ⅳ-3-6) 統計学的評価
すべてのデータは平均値±標準偏差で示した.周術期に関する連続変数
データはKruskal-Wallis test にて解析した.脳脊髄液の酸素分圧値,前角細胞数,
modified Tarlov score は各群それぞれ Mann-Whitney U test にて解析し Bonferroni
法による補正を行った.定量的 PCR 解析による ΔΔCT 値は,多重比較として
Tukey-Kramer 法を用いた。統計解析はすべて JMP Pro 13.0.0 software (SAS Institute, Inc, Cary, NC)を用いて行った. Ⅴ.研究結果 Ⅴ-1 過飽和酸素化人工髄液灌流群における虚血再灌流後の髄腔内酸素分圧の 保持 脳脊髄液サンプリングポイントにおける脳脊髄液酸素分圧の経時的変 化ならびに各群間での変化を図 7 に示す.脊髄虚血処置前における脳脊髄液酸 素分圧は,Group I,N,O,S で 130.3 ± 16.6,138.0 ± 13.3,130.0 ± 26.7,132.3 ± 31.3 mmHg であり各群での個体差は認めなかった(P = 0.82).Group I において は,処置前と比較して,虚血再灌流から75 分後の脳脊髄液酸素分圧が 85.3 mmHg と処置前と比較して有意差をもって低下していた (P < 0.01).一方,Group O に おいては,60 分の過飽和酸素化人工髄液灌流後の脳脊髄液酸素分圧は 134.8 ± 19.8 mmHg と処置前と比較して軽度の上昇にとどまっていた.しかし,大動脈 遮断解除75 分後における各群での脳脊髄液酸素分圧を比較すると,Group I (85.3
21
± 10.0),Group N (103.3 ± 15.0)と比較して Group O(134.8 ± 20.0)が有意差をもって 高値であった(P < 0.01,P <0.05). Ⅴ-2 過飽和酸素化人工髄液灌流群における神経学的機能の保持 脊髄障害に関連する要因と考えられる髄腔内カテーテル留置時におけ る平均脊髄圧と脊髄虚血発生時の平均血圧,平均直腸温,平均動脈血酸素分圧, 平均血中ヘモグロビン値を表 2 に示した.これらの項目において各群間に有意 差は認められなかった.神経学的評価はバルーン操作後 48 時間の時点で
modified Tarlov score を用いて行われた (図 8).modified Tarlov score を連続変数
とみなすと,Group I,N,O,S における平均スコアはそれぞれ,2.0±0.9,2.6±
0.5,3.8±0.4,5.0±0 と Mann-Whitney U 検定と Bonferroni 法による補正で,Group O で Group I,N と比較して有意にスコアが高かった (P < 0.01,P < 0.05).Group N と Group I の比較において,Group N でスコアが高い傾向ではあったが,有意 差は認めなかった (P = 0.279). Ⅴ-3 病理学的評価による過飽和酸素化人工髄液灌流群での正常前角細胞の有意 な保持 病理学的評価は H-E 染色における脊髄前角細胞の数と形態評価をもっ て行った (図 9,10,11,12).1 領域当たりの平均脊髄前角細胞数は Group I, N,O において,それぞれ L2 では 2.7 ± 2.7,10.2 ± 2.2,10.4 ± 2.2 と Mann-Whitney U 検定と Bonferroni 法による補正で Group N,O では Group I と比較し
22 て有意に正常脊髄前角細胞数が保持されていた (P < 0.01) (図 13). L3 において は1.4 ± 1.0,6.8 ± 1.4,6.8 ± 0.7 と L2 と同様 Group O と Group I の間に有 意差を認めた (P < 0.05) (図 14). Ⅴ-4 DNA 解析による過飽和酸素化人工髄液灌流群での炎症性遺伝時発現の抑 制
Group I / Group S において fold change が 2.0 以上の遺伝子を抽出したと
ころ,644 の遺伝子が抽出された.これらの遺伝子を functional enrichment 解析
を 行 っ た .gene ontology に お け る biological process の カ テ ゴ リ ー で は , inflammatory response (GO:0006954),positive regulation of I-kappa B kinase/NF-kappa B signaling (GO:0043123),cellular response to mechanical stimulus (GO:0071260)で の強い相関性が認められた (表 3).inflammatory response では計 18 の遺伝子が 抽出され,その中でのfunctional category において cytokine に属するものが 10 項
目認められた.この10 項目における各群での fold change を表 4 に示す.いずれ
の項目においてもGroup I/ Group S において fold change が 2.0 以上である一方, Group N/Group や S Group O/Group S では fold change が 1.0 前後と発現上昇が比
較的抑制されていた.これら10 項目と各群で heat map で示した図 15 で明らか
なように,Group I にてこれら炎症性サイトカインの発現上昇が認められる一方,
Group N,O ではそれらが比較的抑制されている所見が認められた. IL-6,TNF, IL-1β のシグナル値を図 16,17,18 に示す.IL-6,TNF,IL-1β いずれも Group I で発現上昇が認められる一方、他の群では発現が抑制されていた.
23
定量的PCR 解析の結果を図 19,20,21 に示した.IL-6,TNF において
は,microarray の結果と同様に group I と比較して Group O では Tukey-Kramer 法 による多重比較で統計学的有意差をもって発現の抑制が認められた(P < 0.05). IL-1β においては,Group O にて比較的発現抑制は認められたが有意差は認めら れなかったが,Group I と比較すると比較的発現が抑制傾向であった. Ⅵ.考察 本研究では,既に発症した脊髄虚血再灌流障害に対して,過飽和酸素化 人工髄液を脊髄虚血発症後に髄腔内灌流することによる対麻痺の改善効果を示 し,また炎症反応の抑制と相関があることを示すことができた.これらは,一定 の頻度で発症してしまう脊髄障害に対する新たな治療方法となりうると考えら
れる.脳梗塞発症の際にはtissue plasminogen activator や,カテーテルインターベ
ンションによる直接的な血行再建術が可能であるが,脊髄梗塞に関しては直接 的 な 血 行 再 建 は 不 可 能 で あ る . な ぜ な ら 胸 腹 部 大 動 脈 手 術 の 際 に は , Adamkiewicz 動脈に繋がる主要肋間動脈の再建を行う一方で,すべての肋間動脈 を再建することは現実的ではないため,小さな側副血行路はある程度犠牲とせ ざるを得ないからである.従って,髄腔内で脊髄外からの酸素供給が可能であれ ば,本研究で用いた過飽和酸素化人工髄液の髄腔内灌流は一つの重要な酸素供 給路とすることができる可能性がある. 虚血再灌流障害と酸素消費 本研究とナノバブルを用いた本学で施行された先行研究19の重要な違い
24 は,脊髄虚血再灌流障害前に過飽和酸素化人工髄液を灌流するか,再灌流障害後 に灌流するかという点である.本研究では,Group I と同様に,Group O も前処 置なく腹部大動脈遮断による脊髄虚血としている.したがって,Group O におい ても同程度に虚血再灌流障害が発症していると考えられる.そして今回の研究 データからも虚血再灌流障害とみられる反応が認められる.重要な観察事項と して,Group I において,大動脈遮断解除 1 時間後の脊髄液酸素分圧計測では酸 素分圧が大動脈遮断解除前までの上昇は得られず,むしろ有意差をもって低下 をきたしていた (図 7).また、神田らの報告では19,過飽和酸素化人工髄液投与 前に脳脊髄液酸素分圧が 140.5 ± 46.5 mmHg であったものが過飽和酸素化人 工髄液灌流後は脳脊髄液酸素分圧が 291.9 ± 51.9 mmHg と有意な上昇をきた していた.しかし今回は大動脈遮断を解除し,さらに人工髄液の酸素分圧が750 mmHg 以上の過飽和酸素化人工髄液を 60 分髄腔内灌流しているにも関わらず脳 脊髄液の酸素分圧上昇は軽度であった.脳神経系においてHarvey らは虚血再灌 流後脳神経組織の酸素消費が増大することを報告している 22.脊髄も同様に虚 血に至ることにより大動脈遮断解除後相対的酸素不足となり髄腔内の脳脊髄液 中の酸素を消費していることが可能性として考えられた.そのためGroup I では 髄腔内の脳脊髄液中の酸素の消費による髄腔内酸素分圧の低下,Group O では過 飽和酸素化人工髄液から供給される酸素の消費により全体としては軽度な髄腔 内の脳脊髄液酸素分圧の上昇にとどまったのではと考えられた.脊髄虚血と脳 脊髄液酸素分圧の相関については,過去にも報告がある.Lips ら 28はブタの脊 髄虚血モデルに対して持続的髄腔内酸素分圧モニタリングを行い,虚血脊髄に
25 おけるmotor-evoked potentials と脳脊髄液酸素分圧の低下を報告している.また, Ishizaki ら29は,イヌの実験において,大動脈遮断による脊髄虚血ののちに髄腔 内に留置した持続的髄液内酸素分圧モニタリングを行うと,大動脈遮断後は脳 脊髄液内酸素分圧の低下を認めることを報告している.また,実際に人に対して の臨床応用もなされており,胸腹部大動脈人工血管置換術の際に髄腔内に脳脊 髄液内のpO2,pCO2,pH を計測可能なセンサーを挿入し,大動脈遮断後に髄腔 内 pO2の低下を報告している 30.Lips らのデータでは,大動脈遮断後髄腔内の pO2モニターの値が40 mmHg 前後から 20 mmHg 前後に低下,Ishizaki らのデー タでは33.5 ± 4.5mmHg から 20.9 ± 3.4mmHg と低下し,測定デバイスが違う ことから絶対値では多少の相違があるものの、本研究の大動脈遮断後脳脊髄液 酸素分圧低下は約14mmHg であり、ほぼ同程度の低下傾向であった.以上から, 脳脊髄液の状態は単純に脊髄の状態を反映しているだけではなく,脳脊髄液と 脊髄組織の間で重要なクロストークがあることを窺わせると考えられる. 脳脊髄循環系の酸素消費 もし実際に脊髄組織が髄液内の脳脊髄液の溶存酸素を消費していると すると,どのように組織内へ供給されるのかは定かではないものの,いくつかの メカニズムの可能性が考えられる.脳脊髄液は脳室系の脈絡叢から産生され,各 脳室を経由して脳室内のくも膜顆粒,または脊柱管を経由して脊髄静脈叢など へ循環していくというのが従来から考えられているものである31.しかし,Greiz ら 32 はこれらの循環サイクルのみではなく,脳内の毛細血管からも吸収される
26 という報告をしており,その後もそれを裏付けるように多数の報告がなされて いる33-35.また,Nedergaard らは脳脊髄液からグリア細胞を経由して老廃物等を 代謝する glymphatic system が存在すると提唱し,グリア細胞の血管周囲腔から 間質さらに静脈周囲腔を経て代謝されていることを報告している 36, 37.これら において酸素に関する記述はないものの脳脊髄液代謝経路として毛細血管から 脳実質への移行があるとすると,これら脳脊髄液の酸素が脊髄組織の毛細血管 から実質へ酸素が供給されているという可能性は十分にあり,かつ,今回のデー タと一致する.また,髄腔内投与という経路自体も脳梗塞,神経変性疾患,脳神 経腫瘍などの領域ですでに多数なされており確立された投与経路と考えられる 38.この治療戦略における一つの懸念は,臨床的には長期的なカテーテル留置に よる感染のリスクがあることから長期投与が困難である点である.しかしなが ら,著者はこれらの人工髄液代替療法が,脊髄虚血発症早期の間において期待さ れる役割を果たすことができると考えている.なぜならEtz らは,大動脈手術に おける肋間動脈閉塞後,周囲の十分な側副血行路が発達するまでの期間は 5 日 程度であると報告している39, 40.よって,この側副血行路が発達するまでの橋渡 しとして短期間過飽和酸素化人工髄液灌流をすることにより神経学的予後が改 善されるのではと期待される. 虚血再灌流障害の酸素供給の影響 既に虚血再灌流障害を来した脊髄へ酸素を供給することで保護的な効 果を示すかどうかについては議論の余地がある.神経組織における虚血領域に
27
は,ischemic core,penumbra,region of benign oligemia の 3 つ領域があると考え
られているが,これらの領域のうち,penumbra 状態の神経組織は,酸素供給状
態によって ischemic core へ移行していく可能性のある部位である一方,早期虚
血改善により治療が期待できる部位でもある41, 42.従って,本研究の治療のター
ゲットとしてはこの血流再開後penumbra 状態で相対的な虚血状態となっている
脊髄組織と考えられる.penumbra から ischemic core へ広がってしまう要因とし て,excitotoxicity,spread of depression,oxidative stress,inflammatory response が
関連していると報告されている40.その中でもIadecola ら43は,病理生物学的に
Inflammatory response が脳虚血における重要な因子であると評価している.これ
らの炎症反応が起こるメカニズムとしては,障害を受けた神経細胞から ATP,
UTP の nucleotide が放出され,それらが microglia や macrophage の受容体へ結合 し,それらがIL-1β,IL-6,TNF などの proinflammatory cytokines を産生するとさ
れている.これらによる細胞障害により細胞死を来たし,これらから danger
associated molecular pattern molecules (DAMPs) を 形 成 し , さ ら に こ れ ら が microglia や macrophage の toll-like receptor を刺激し,炎症を誘導するという vicious cycle へ至り障害が加速すると考えられている. 脳梗塞ならびに脊髄虚 血においての炎症性反応の関与は多数報告されており,その中でもこれらの炎 症性サイトカインでの中心的役割をきたすものにIL-1β,IL-6,TNF があげられ, microarray や定量的 PCR 解析などを用いた解析により DNA の発現上昇をきたす ことがわかっている44-47.今回の研究で施行し評価したmicroarray,ならびに定 量的PCR 解析においても,Iadecola らが報告したものを裏付けるように Group I
28 においてIL-6,TNF の発現上昇が認められた.一方,Group O においては,これ らの発現は有意差をもって抑制されていた.これらのデータから,酸素投与によ り抗炎症作用がもたらされたことが推察される.また興味深いことに,Group N においても有意差はないものの Group I と比較し IL-6,TNF が低下傾向であっ た.さらにはGroup N においては正常前角細胞数も Group I と比較して保持され ていた.これらの結果から推測されることは,酸素化されていない人工髄液中の 溶存酸素を虚血に陥った脊髄組織が消費したことによる結果ではないかと考え られた.それを裏付けるデータとして,Group N における脳脊髄液酸素分圧は, 虚血前は138.0 mmHg に対して非酸素化人工髄液灌流後は 103.0 mmHg とむしろ
有意差をもって低下傾向であった.またそれと連動してModified Tarlov score に
よる神経学的評価においてGroup O で 3.8±0.4,Group N で 2.6±0.5,Group I で 2.0±0.9 と酸素濃度依存性の改善傾向があり酸素消費と神経細胞の保持の可能 性が示唆された.また,各グループにおいてL2 と L3 の間には有意差は認めな かったが,Group N, O において L3 と比較して L2 で正常前角細胞の数が比較的 保たれている傾向があった.その原因としては,カテーテルは尾側に向けて挿入 されており、先端位置からの距離がL3 において若干離れているために、その分 だけ人工髄液注入部からの酸素の拡散が少なくなったと推察された。 本研究の概念のまとめとして,今回神経学的改善が認められた理由とし ては以下の2 点が考えられる.まず 1 つは penumbra 状態にある神経細胞への直 接の酸素供給による前角細胞の保持である.2 つ目は,前角細胞保持に伴う microglia/macrophage 炎症性サイトカイン放出の抑制による悪循環の停止である.
29 すでに虚血壊死に陥ってしまったものへの酸素投与での改善ではなく,残存し たpenumbra 領域への酸素供給による直接的な改善、さらには二次的障害を最小 限とすると考えられた. 本研究の限界 本研究においてはいくつかのlimitation があげられる.第一に,脳脊髄液 灌流に関連した障害の懸念がある点である.脳脊髄液灌流に伴い髄腔内圧を上 昇させ,脊髄組織内血流を低下させる可能性がある.本研究において理想的には double lumen のカテーテルを挿入し,人口髄液の髄腔内灌流とドレナージを同時 に施行することができればよいと考えられたが,家兎の髄腔内は非常に狭小で あることから double lumen カテーテルは挿入できず,その代替として髄腔内圧 が30 mmHg を超える圧となった場合には間欠的にドレナージを実施した. 第二に,髄腔内カテーテルは18G にて穿刺後に挿入しているが,その口 径差から,穿刺部より脳脊髄液の漏出によるドレナージ効果がある可能性があ る点である.第一の限界であげたように髄腔内上昇時には間欠的にドレナージ を施行しているが,穿刺部周囲からの圧上昇による漏出が多少はあると考えら れる.可能な限りの漏出を防ぐために穿刺部の縫合処置を行っているがそれぞ れ漏出の個体差がでる可能性が潜在的にある. 第三に,脊髄組織から抽出できる RNA 量の制限から炎症に関連したす べてのDNA 発現は解析できなかった点である.我々は,過去の脳神経領域にお ける虚血時の炎症性変化を解析した報告を参考にしてIL-6,TNF,IL-1β を選択
30 した.今後のさらなる解析において脊髄虚血時における炎症性遺伝子の変化の 評価が必要とされると考えられる. 第四に,本研究ではMicroarray,定量的 PCR 解析による DNA 解析を施 行しているが,これらの項目における蛋白発現の解析は施行していない点であ る. 第五に,本研究では大動脈遮断解除後,髄腔内へ人工髄液を灌流するま での間に麻酔を中止し対麻痺が発症しているかの神経学的評価は施行していな いことから,本当に対麻痺を発症しているか否かが不明である点である.しかし, 本研究における家兎虚血再灌流モデルは多くの研究にて用いられている安定し たモデルであるため,本研究では家兎への負担を考慮し,中途覚醒はしない方針 とした. Ⅶ.結論 ナノバブル技術により作製された過飽和酸素化人工髄液を,脊髄虚血発 症後に髄腔内灌流することにより脊髄障害治療効果が得られ,さらに,脊髄組織 における炎症性変化が抑制されていることを証明することができた.この新規 治療法がより臨床経過に即した治療介入手技であり,側副血行路発達までの橋 渡しの治療法として有効である可能性があると考えられた.
31 Ⅷ.謝辞 本研究を進めるにあたり,終始多大なご指導をいただきました東北大学 大学院医学系研究科心臓血管外科分野の齋木佳克教授,秋山正年准教授に心か ら感謝致します.病理評価ならびに分子病理学的な解析に関しましては,分子病 理学分野堀井明教授,齋木由利子先生に懇切なるご指導を頂きました.この場に て改めて深く御礼を申し上げます.また,脊髄組織の病理標本作成においては, 病理プラットフォームのスタッフの皆様にご尽力いただきました.実験動物管 理には東北大学動物実験センターの橋本信子様他,スタッフの皆様に多大なる ご協力をいただきました.動物実験に関するマネジメントに関しましては,東北 大学大学院医学系研究科心臓血管外科分野実験助手の小野亜矢子様に惜しみな いご協力をいただきました.合わせて深謝いたします. 本研究は,以上のように多くの方々のご支援により成し遂げられたもの であり,ここに心からの謝意を申し上げます.
32 Ⅸ.引用文献
1. Coselli JS, LeMaire SA, Preventza O, et al. Outcomes of 3309 thoracoabdominal aortic aneurysm repairs. J Thorac Cardiovasc Surg. 2016;151:1323-1338.
2. Conrad MF, Crawford RS, Davison JK, et al. Thoracoabdominal aneurysm repair: A 20-year perspective. Ann Thorac Surg. 2007;83:S856-S861.
3. Frederick JR, Woo YJ. Thoracoabdominal aortic aneurysm. Ann Cardiothorac Surg. 2012;1:277-285.
4. Rizvi AZ, Sullivan TM. Incidence, prevention, and management in spinal cord protection during TEVAR. J Vasc Surg. 2010;52:86S-90S.
5. Bobadilla JL, Wynn M, Tefera G, et al. Low incidence of paraplegia after thoracic endovascular aneurysm repair with proactive spinal cord protective protocols. J Vasc Surg. 2013;57:1537-1542.
6. Leurs LJ, Bell R, Degrieck Y, et al. Endovascular treatment of thoracic aortic diseases: Combined experience from the EUROSTAR and United Kingdom thoracic endograft registries. J Vasc Surg. 2004;40:670-679.
7. Middleton JW, Dayton A, Walsh J, et al. Life expectancy after spinal cord injury: a 50-year study. Spinal Cord. 2012;50:803.
8. Bischoff MS, Di Luozzo G, Griepp EB, et al. Spinal cord preservation in thoracoabdominal aneurysm repair. Perspect Vasc Surg Endovasc Ther. 2011;23:214-222.
9. Kulik A, Castner CF, Kouchoukos NT. Outcomes after thoracoabdominal aortic aneurysm repair with hypothermic circulatory arrest. J Thorac Cardiovas Surg. 2011;141:953-960.
33
injury by perfusion cooling of the epidural space during most or all of a descending thoracic or thoracoabdominal aneurysm repair. Gen Thorac Cardiovasc Surg. 2010;58:228-234.
11. Motoyoshi N, Takahashi G, Sakurai M, et al. Safety and efficacy of epidural
cooling for regional spinal cord hypothermia during thoracoabdominal aneurysm repair. Eur J Cardio Thorac surg, 2004;25,139-141.
12. Safi HJ, Miller CCI, Huynh TTT, et al. Distal aortic perfusion and cerebrospinal fluid drainage for thoracoabdominal and descending thoracic aortic repair: Ten years of organ protection. Ann Surg. 2003;238:372-381.
13. Safi HJ, Bartoli S, Hess KR, et al. Neurologic deficit in patients at high risk with thoracoabdominal aortic aneurysms: The role of cerebral spinal fluid drainage and distal aortic perfusion. J Vasc Surg. 1994;20:434-443.
14. Khan SN, Stansby G. Cerebrospinal fluid drainage for thoracic and thoracoabdominal aortic aneurysm surgery. Cochrane Database Syst. Rev. 2012.
15. Safi HJ, Miller CC, Carr C, et al. Importance of intercostal artery reattachment during thoracoabdominal aortic aneurysm repair. J Vasc Surg. 1998;27:58-68.
16. Acher CW, Wynn MM, Mell MW, et al. A quantitative assessment of the impact of intercostal artery reimplantation on paralysis risk in thoracoabdominal aortic aneurysm repair. Ann Surg. 2008;248:529-540.
17. Etz CD, Debus ES, Mohr F-W, et al. First-in-man endovascular preconditioning of the paraspinal collateral network by segmental artery coil embolization to prevent ischemic spinal cord injury. J Thorac Cardiovasc Surg. 2015;149:1074-1079.
34
cerebrospinal fluid drainage to prevent paraplegia after high-risk surgery on the thoracoabdominal aorta. J Vasc Surg. 1991;13:36-46.
19. Kanda K, Adachi O, Kawatsu S, et al. Oxygenation of the cerebrospinal fluid with artificial cerebrospinal fluid can ameliorate a spinal cord ischemic injury in a rabbit model. J Thorac Cardiovasc Surg. 2016;152:1401-1409.
20. Zhukhovitskii DI. Molecular dynamics study of nanobubbles in the equilibrium Lennard-Jones fluid. J Chem Phys. 2013;139:164513.
21. Temesgen T, Bui TT, Han M, et al. Micro and nanobubble technologies as a new horizon for water-treatment techniques: A review. Adv Colloid Interfac. 2017;246:40-51.
22. Matsuki N, Ichiba S, Ishikawa T, et al. Blood oxygenation using microbubble suspensions. Eur Biophys J Biophy. 2012;41:571-578.
23. Weiss HR, Grayson J, Liu X, et al. Cerebral ischemia and reperfusion increases the heterogeneity of local oxygen supply/consumption balance. Stroke. 2013;44:2553-2558.
24. Sakurai M, Nagata T, Abe K, et al. Survival and death-promoting events after transient spinal cord ischemia in rabbits: Induction of Akt and caspase3 in motor neurons. J Thorac Cardiovasc Surg. 2003;125:370-377.
25. Sakurai M, Aoki M, Abe K, et al. Selective motor neuron death and heat shock protein induction after spinal cord ischemia in rabbits. J Thorac Cardiovasc Surg. 1997;113:159-164.
26. Murakami H, Tsukube T, Kawanishi Y, et al. Transcranial myogenic motor-evoked potentials after transient spinal cord ischemia predicts neurologic outcome in rabbits. J Vasc Surg. 2004;39:207-213.
35
27. Isadore M. Tarlov. Acute spinal cord compression paralysis. J Neurosurg. 1972;36:10-20.
28. Lips J, de Haan P, Bouma Gert J, et al. Continuous monitoring of cerebrospinal fluid oxygen tension in relation to motor evoked potentials during spinal cord ischemia in pigs. Anesthesiology. 2005;102:340-345.
29. Ishizaki M, Sugiyama S, Uchida H, et al. Identification and selective perfusion of the spinal cord-feeding arteries by intrathecal pO2 monitoring for spinal cord protection. Eur J Vasc Endovasc Surg. 1999;18:17-24.
30. Christiansson L, Karacagil S, Thelin S, et al. Continuous monitoring of intrathecal pO2, pCO2 and pH during surgical replacement of type II thoracoabdominal aortic aneurysm. Eur J Vasc Endovasc Surg 1998;15:78-81.
31. J. Gordon McComb. Recent research into the nature of cerebrospinal fluid formation and absorption. J Neurosurg. 1983;59:369-383.
32. Greitz D, Hannerz J. A proposed model of cerebrospinal fluid circulation: observations with radionuclide cisternography. Am J Neuroradiol. 1996;17:431-438.
33. Bulat M, Klarica M. Recent insights into a new hydrodynamics of the cerebrospinal fluid. Brain Res Rev. 2011;65:99-112.
34. Chikly B, Quaghebeur J. Reassessing cerebrospinal fluid (CSF) hydrodynamics: A literature review presenting a novel hypothesis for CSF physiology. J Bodyw Mov Ther. 2013;17:344-354.
35. Brinker T, Stopa E, Morrison J, et al. A new look at cerebrospinal fluid circulation. Fluids Barriers CNS 2014;11:10-10.
36
37. Iliff JJ, Wang M, Liao Y, et al. A paravascular pathway facilitates CSF flow through the brain parenchyma and the clearance of interstitial solutes, including amyloid β. Sci Transl Med. 2012;4:147ra111-147ra111.
38. Calias P, Banks WA, Begley D, et al. Intrathecal delivery of protein therapeutics to the brain: A critical reassessment. Pharmacol Therapeut. 2014;144:114-122.
39. Etz CD, Kari FA, Mueller CS, et al. The collateral network concept: remodeling of the arterial collateral network after experimental segmental artery sacrifice. J Thorac Cardiovasc Surg. 2011;141:1029-1036.
40. Etz CD, Zoli S, Bischoff MS, et al. Measuring the collateral network pressure to minimize paraplegia risk in thoracoabdominal aneurysm resection. J Thorac Cardiovasc Surg. 2010;140:S125-S130.
41. Ramos-Cabrer P, Campos F, Sobrino T, et al. Targeting the ischemic penumbra. Stroke. 2011;42:S7-S11.
42. Manning NW, Campbell BCV, Oxley TJ, et al. Acute ischemic Stroke. Stroke. 2014;45:640-644.
43. Iadecola C, Anrather J. The immunology of stroke: from mechanisms to translation. Nat Med. 2011;17:796.
44. Bond BC, Virley DJ, Cairns NJ, et al. The quantification of gene expression in an animal model of brain ischaemia using TaqMan™ real-time RT-PCR. Brain Res. 2002;106:101-116.
45. Hu X, De Silva TM, Chen J, et al. Cerebral vascular disease and neurovascular injury in ischemic stroke. Circ Res. 2017;120:449-471.
46. Albadawi H, Chen JW, Oklu R, et al. Spinal cord inflammation: Molecular imaging after thoracic aortic ischemia reperfusion injury. Radiology.
37 2017;282:202-211.
47. Jin R, Yang G, Li G. Inflammatory mechanisms in ischemic stroke: role of inflammatory cells. J Leukoc Biol. 2010;87:779-789.
38 Ⅹ.表
39
42 Ⅺ.図の説明 図1:心臓血管外科手術における脊髄虚血発症のメカニズムと従来の対麻痺予防 法 図2:ナノバブルの基本的性質について 図3:実験内容のシェーマ 図4:摘出した家兎脊髄組織所見 上段 損傷のない正常の脊髄組織 下段 髄腔内カテーテル挿入時に損傷したと思われる脊髄組織.このよ うな脊髄損傷が認められた場合は除外とした. 図5:脳脊髄液サンプリングポイントの時間軸 図6:脊髄前角細胞計測部位(H-E 染色 ×40) 前正中裂と後正中溝を結ぶ線と,それと脊髄中心管を通って直行する線 で,脊髄組織を 4 分割した.そのうち,脊髄前角を含む 1 領域(四角で 囲まれた部位)における脊髄前角細胞の数を計測した. 図7:各群における脳脊髄液酸素飽和度の経時的変化 7A 各群別での脳脊髄液酸素分圧の推移.Group I,N においては虚血前 と比較して処置後脳脊髄液酸素分圧の低下がみられた。一方, Group O においては,軽度上昇している. 7B 脳脊髄液採取ポイント別の脳脊髄液酸素分圧の推移.人工髄液灌流
43 値であった.
Mann-Whitney U 検定と Bonferroni 法による補正を行った. *:P < 0.01 †:P < 0.05
図8:modified Tarlov score を用いた虚血再灌流 48 時間後の神経学的評価
1 = わずかな動きのみ 2 = 補助にて座位可能
3 = 単独で座位可能 4 = 弱い跳躍 5 = 正常な跳躍
Group O は Group I,N と比較して有意に神経学的機能が保持されていた.
また,Group N は Group I と比較すると有意に神経学的機能が保持されて いた. Mann-Whitney U 検定と Bonferroni 法による補正を行った. *P < 0.01; †P < 0.05; ‡P = 0.279 図9:Group S における脊髄前角所見 (H-E 染色 ×200) 正常な脊髄前角細胞が多く確認された. 図10:Group I における脊髄前角所見 (H-E 染色 ×200) 前角細胞からは核が脱落しており,一部に出血が認められる.変性した前 角細胞が多数確認された. 図11:Group N における脊髄前角所見 (H-E 染色 ×200) Group I と比較して比較的多数の形態を保持した脊髄前角細胞が認められ る一方,変性途中と考えられる形態変化した前角細胞も散見された. 図12:Group O における脊髄前角所見 (H-E 染色 ×200) 一部軽度の変性した前角細胞が認められるも正常の形態を有した脊髄前
44 角細胞が多数認められた. 図13:第 2 腰椎 L2 レベルにおける正常脊髄前角細胞数の比較 Group I では他の群と比較して有意に正常前角細胞の数が減少していた. Mann-Whitney U 検定と Bonferroni 法による補正を行った. *P < 0.01 versus Group I 図14:第 3 腰椎 L3 レベルにおける正常脊髄前角細胞数の比較 Group O は Group I と比較して有意に正常脊髄前角細胞が保持されていた.
Group N においては Group O と同様に正常前角細胞が Group I と比較して 多数認めるものの有意差はなかった.
Mann-Whitney U 検定と Bonferroni 法による補正を行った. *P < 0.01 versus Group I †P < 0.05 versus Group I
図 15:microarray 解析によるシグナル値において Group I/Group S での fold change が 2 倍以上の遺伝子のうち、inflammatory response と cytokine のカ
テゴリーの遺伝子での群におけるheat map での比較
図16:microarray 解析における各群の IL-6 における processed signal 値の比較. 図17:microarray 解析における各群の TNF における processed signal 値の比較. 図18:microarray 解析における各群の IL-1β における processed signal 値の比較.
図19:定量的 PCR 解析における各群の IL-6 における ΔΔCT 値の比較.Group O
においてはGroup I と比較して有意に遺伝子発現が抑制されていた.
多重比較としてTukey-Kramer 法を用いた.
45 図20:定量的 PCR 解析における各群の TNF における ΔΔCT 値の比較.Group O においてはGroup I と比較して有意に遺伝子発現が抑制されていた. 多重比較としてTukey-Kramer 法を用いた. *P < 0.05 versus Group O 図21:定量的 PCR 解析における各群の IL-1β における ΔΔCT 値の比較.Group O においては Group I と比較して軽度遺伝子発現が抑制されている傾向は 認められたが有意差は認めなかった.
46 Ⅻ.図