変形性膝関節症の成因と治療に関する研究
著者
杉田 健彦
雑誌名
東北医学雑誌
巻
129
号
2
ページ
175-180
発行年
2017-12
URL
http://hdl.handle.net/10097/00128765
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髙橋記念賞受賞記念講演
― 2017年 5 月 20 日 : 勝山館変形性膝関節症の成因と治療に関する研究
本間記念東北整形外科・東北歯科 杉 田 健 彦 略 歴 1979年 3 月 東北大学医学部卒業 1979年 4 月 東北大学医学部整形外科研修医 1979年 10 月 秋田県厚生連由利組合総合病院整形外科 1981年 11 月 東北労災病院整形外科 1985年 9 月 東北大学医学部整形外科助手 1986年 2 月 東北労災病院整形外科 1989年 4 月 東北大学医学部整形外科講師 1989年 7 月 国立水戸病院整形外科医長 1992年 7 月 東北大学医学部整形外科講師1996年 8 月 Royal National Orthopaedic Hospital (London)留学 2002年 7 月 東北大学医学部整形外科助教授
2004年 9 月 仙台整形外科病院副院長 2005年 9 月 本間記念東北整形外科副院長 2006年 9 月 本間記念仙台北整形外科院長
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髙橋記念賞受賞記念講演
―変形性膝関節症の成因と治療に関する研究
Pathogenesis and Treatment of Knee Osteoarthritis
杉 田 健 彦 本間記念東北整形外科・東北歯科 1. なぜ今,変形性膝関節症(OA)か 超高齢社会において,健康寿命の延伸ということが 国を挙げての大きな課題になっている.健康寿命を損 なう原因として,骨折,関節疾患などの整形外科疾患 が 4 人あるいは 5 人に 1 人になっており,この中の関 節疾患は,高齢者の場合はほとんどが膝 OA と考えら れることから,要支援あるいは要介護の 10 人に 1 人 は,膝 OA と言ってもいいと思われる.さらに,症状 を有する膝 OA 患者は約 800 万人と言われており,膝 OAはいまや国民病と言っても過言ではないという状 況になっている. 2. 変形性膝関節症の成因に関する研究 OAによる変形が高度になり,かつ疼痛が強い場合 には,最終的に人工膝関節置換術(TKA)が選択され る.自分で TKA を行うようになった昭和 60 年頃,膝 内側の関節軟骨が消失したために,レントゲンでは関 節裂隙は完全に閉じているにもかかわらず,内側半月 板は結構残存していることに気づいた(図 1).この 現象を説明するには,内側半月板は関節の外側に逸脱 していると考えるしかないわけで,これを radial dis-placementとして記載し,さらに radial displacement が関節裂隙の狭小化に先行して起こっている可能性を 報告した1).そこから,radial displacement の原因が分 かれば OA の成因にかなり迫れるのではないかと考え た.その後,radial displacement の原因として内側半 月板前角の付着形態が関与していると考えるようにな り,東北整形において,OA に対する 225 例の TKA 手術中に内側半月板前角付着位置を観察した.これを 当院の佐々木啓先生にまとめてもらい,OA の成因と 関連付けて報告した2). OAのほとんどは内側の関節裂隙が狭小化する内側 型 OA である.外側関節裂隙は狭小化しておらず(図 1),TKA 時の切除骨矢状断面の軟 X 線像をみると, 関節軟骨は良く残存していることが多い.東北整形で の 34 例の TKA 時に採取した大腿骨外側顆部と外側脛 骨プラトーの観察から,約 20% の症例で関節軟骨内 に骨が形成されている所見がみられた(図 2).骨形 成部の軟骨は当然薄くなっているので,荷重時には軟 骨変性は進みやすいと考えられる.また,内側の軟骨 残存部にも同様な骨形成がみられたことから,関節軟 骨内に形成された骨化も OA の成因の 1 つになり得る のではないかと考え報告した3).さらに,10 歳男児の 大腿骨内側顆部の関節軟骨内にも骨形成がみられた症 例があり 1 例報告した4). OAの成因とともに,現在の OA が進行性であるか 否かという予後を予測することも重要である.近年 図 1. 人工膝関節置換術を行うような内側型変形性膝 関節症では,内側関節裂隙は消失しているが内側半月 板は残存していた.外側関節裂隙は狭小化していない. 図 2. 関節軟骨内に骨形成がみられた.
OAの進行度を他覚的に評価するツールとして,MRI で見られる bone marrow lesion(骨髄病変)の有無(図 3)が広く用いられている.すなわち,bone marrow lesion のある症例では,症状あるいは痛みが強くかつ 進行しやすいと考えられている.しかしながら,bone marrow lesionの 組 織 学 的 研 究 は 驚 く ほ ど 少 な く, bone marrow lesionが骨髄内のどのような変化を反映 しているのかの詳細は不明であったため,bone mar-row lesionあり,なしでの組織像の違いを検討した5).
関節軟骨が消失して軟骨下骨が露出していても,bone marrow lesionがみられない症例では,軟骨下骨板が 著明に肥厚し,脂肪髄と骨梁は正常に保たれていた(図 4).一方 bone marrow lesion がみられる症例では,露 出した軟骨下骨板は薄いか連続性が絶たれており,骨 梁は肥厚し脂肪髄は fibrous あるいは fibrovascular tis-sueで置換されていた.さらに,硝子軟骨が表層ばか りでなく深部にまでみられるなど,組織学的には非常
に多彩な像を呈していた(図 5).これらのことから, 「bone marrow lesion のある症例では,症状あるいは痛
みが強くかつ進行しやすい」という知見は,露出した 軟骨下骨板が薄いか連続性が絶たれ脆弱になってい る,ということで説明できるのではないかと考えてい る. 3. 変形性膝関節症の治療,特に人工膝関節 置換術(TKA)に関する研究 全国的に TKA 症例は右肩上がりに増えており,今 では年間約 8 万例行われている.当院では年間 200 -250例で,宮城県内では最も多い症例数になっている. ここでは TKA に関する臨床研究について述べる. 膝窩筋腱に関して述べる.膝窩筋腱は,外側側副靭 帯とともに膝の後外側支持機構として重要であるが, TKA手術においてはほとんど注目されていなかった. 以前から,TKA 時に膝窩筋腱大腿骨付着部が切離さ
図 4. Bone marrow lesion がみられない症例では,軟 骨下骨が露出していても,軟骨下骨板が著明に肥厚し, 脂肪髄と骨梁は正常に保たれていた.
図 3. MRI で見られる bone marrow lesion (BML)(骨 髄病変)の有無.
図 5. Bone marrow lesion がみられる症例では,露出 した軟骨下骨板は薄いか連続性が絶たれており,骨梁 は肥厚し脂肪髄は fibrous あるいは fibrovascular tissue で置換されていた.硝子軟骨が表層ばかりでなく深部 にまでみられた.
178 杉田 ─ 変形性膝関節症の成因と治療に関する研究 れることが気になっていたので,実際の手術時に 50 例についてまとめて報告した6).大腿骨遠位の骨切り の際に,約半数 (44.0%)の症例で部分的に,あるい は完全に切離されていた.次に東北大学の高橋敦先生 が,21 例の cadaver knee を用いた観察から,30-40% の膝で膝窩筋腱大腿骨付着部は手術手技に関わりなく 切れてしまうものがあるということを明らかにしてく れた7).さらに,当院の 275 TKA のデータを東北大 学大学院の秋貴史先生にまとめてもらった.275 膝の うち 143 膝 (52.0%)で,部分的,あるいは完全に切 離されており(図 6),切離の危険因子は低身長,大 腿骨遠位骨切り厚であることを示すことができた8). 今後の課題として,膝窩筋腱切離が術後成績に影響を 与えるか否かを臨床的に示すことが必要であると考え ており,現在経過観察を継続している. TKAの際には脛骨関節面を脛骨骨軸に直角に骨切 りし,その骨切り面に脛骨のコンポーネントを設置す る.この骨切り面は決して内外対称ではないのである が,実際のコンポーネントはほとんどが内外対称に作 られている(図 7).そこで,どの程度非対称である のかを知るために術中に骨切り面を計測した.この データを当院の宮武尚久先生にまとめてもらい報告し た9).内側前後径が外側前後径より有意に長く(内外 前後径の差は平均 4.8 mm),脛骨骨切り面は内外非対 称であることを示すことができた.現在使われている 人工関節はほとんどが外国製であり,将来日本人に 合った人工関節デザインを考える場合の基礎データに はなるだろうと考えている. 変形が高度な症例に TKA を行う時に,脛骨内側に 図 6. 人工膝関節置換術が行われた 275 膝のうち 143 膝 (52.0%)で,膝窩筋腱大腿骨付着部は,部分的ある いは完全に切離されていた. 図 7. 人工膝関節置換術時の脛骨骨切り面は内外対称 ではないが,実際の脛骨コンポーネントはほとんどが 内外対称に作られている.
大きな骨欠損が生ずる場合がある.教科書的には,10 mm以上の欠損に対しては金属部品で補填することが 推奨されており,世界的にも一般に行われている.こ れに対し,将来的な再置換術に備えて可能な限り骨を 温存する必要があると考え,自家骨移植で対処するこ とにこだわってきた(図 8).1997 年以降 10 mm 以上 の骨欠損例だけでも 74 例あり,これを 2 度にわたっ て報告してきた10,11).骨移植後に懸念される移植骨の 圧壊はなく,脛骨コンポーネントの緩みも生じていな い.レントゲンでは 1-2年のうちに移植部に骨梁を認 め,生着も確認できている.本法は,骨を温存できる ばかりでなく,特別な器具の必要もないため簡便でか つ経済的であるという利点も有している. TKA術後には患者の QOL を評価することも必要で ある.QOL 評価の報告は国内外で数多くみられるが, ほとんどすべてが片側 TKA 症例を対象にしたもので ある.これに対し私たちは,両側性に罹患することが 多 い OA に 対 す る TKA 術 後 の QOL 評 価 は, 両 側 TKA後の方がより適していると考え,両側 TKA 後の 症例に注目して評価を行ってきた.QOL は片側 TKA 後にも有意に改善するが,両側 TKA 後 1 年ではさら に有意に改善し,その改善は両側 TKA 後 3 年まで維 持されていた12).最近の検討で QOL の改善は 5 年後 も維持されており,さらに,5 年後に 80 歳を超える 群でも,平均年齢で 8.3 歳の差があるにもかかわらず, 80歳以下の群と同様に QOL の改善は維持されている ことが明らかになった. 最後に稿を終えるにあたり,これまでご指導いただ いた諸先輩,そして一緒に膝に関わってくれた仲間た ちに深謝する. 文 献
1) Sugita, T., Kawamata, T., Ohnuma, M., et al. (2001)
Radial displacement of the medial meniscus in varus osteoarthritis of the knee. Clin. Orthop., 387, 171 -177.
2) Sasaki, A., Sugita, T., Aizawa, T., et al. (2017) Evalu-ation of the size and position of the insertion of the anterior medial meniscus root in varus osteoarthritic knees. Knee Surg. Sports Traumatol. Arthrosc., 25, 362-367.
3) Sugita, T., Aizawa, T., Kawamata, T., et al. (2013) Bone formation within the articular cartilage of the lat-eral compartment of varus osteoarthritic knees. J.
Orthop. Sci., 18, 543-546.
4) Hatta, T., Sugita, T., Aizawa, T., et al. (2011) Bone island within the articular cartilage of the knee in a child : a rare condition for early
osteoarthritis. Ortho-pedic. Reviews, 3, e5.
5) Sugita, T., Kawamata, T., Aizawa, T., et al. (2014) Histological Findings of Bone Marrow Lesions on Mag-netic Resonance Images in Patients with Varus Knee Osteoarthritis. Open Journal of Orthopedics, 4, 327 -334.
6) 杉田健彦,日下 仁,小暮敦史ほか(2010) 人工 膝関節置換術における膝窩筋腱切離例の検討.東日 本整災会誌,22, 29-32.
7) Takahashi, A., Sugita, T., Aizawa, T., et al. (2015) Potential risk of excising the femoral insertion of the popliteus tendon during primary total knee arthr-oplasty : a biometric study. J. Orthop. Sci., 20, 1030 -1035.
8) Aki, T., Sugita, T., Takahashi, A., et al. (2016) Femo-ral footprint of the popliteus tendon may be at the risk of damage during total knee arthroplasty. Knee Surg.
Sports Traumatol. Arthrosc., Doi : 10.1007/s00167-016 -4177-z.
9) Miyatake, N., Sugita, T., Aizawa, T., et al. (2016) Comparison of intraoperative anthropometric measure-ments of the proximal tibia and tibial component in total knee arthroplasty. J. Orthop. Sci., 21, 635-639. 10) Sugita, T., Aizawa, T., Sasaki, A., et al.
(2015) Autolo-gous morselised bone grafting for medial tibial defects in total knee arthroplasty. J. Orthop. Surg., 23, 185 -189.
180 杉田 ─ 変形性膝関節症の成因と治療に関する研究
11) Sugita, T., Aizawa, T., Miyatake, N., et al. (2017) Pre-liminary results of managing large medial tibial defects in primary total knee arthroplasty : autogenous morselized bone graft. Int. Orthop., 41, 931-937. 12) Sugita, T., Kikuchi, Y., Aizawa, T., et al.
(2015) Qual-ity of life after bilateral total knee arthroplasty deter-mined by a 3-year longitudinal evaluation using the Japanese Knee Osteoarthritis Measure. J. Orthop.