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言語権・言語法 : 言語政策の観点から

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言語政策の観点か ら

1.は じ め に 法 言 語 学 にお け る 「法 と言 語 と社 会 」 の 問 題 を 人権 の 観 点 か ら考 え る と な る と,言 語 権 の 問 題 が 浮 上 して くる1)。言 語 また は 言 語 権 に 関 す る法 制 度 と い う点 で は,言 語 法 とい う実 定 法 の有 無 が 焦 点 に な る。 そ れ が も しあ れ ば どの よ うな ものか,言 語 政 策 の 一環 と して言 語 法 はEUや コモ ン ・ロー の 国 々 で は どの よ う な形 を採 っ て い る か,「 多 文 化 共 生 社 会 」 の 日本 に は どの よ うな 言 語 政 策 が あ る の か 問 う て み よ う。 2.言 語 権 と は何 か A.言 語 権 の 定 義 言 語 権(languagerights)と は,簡 潔 に 言 え ば,自 己 が 自 ら 望 む 言 語 を 使 う こ と が で き る 権 利 で あ る 。 だ か ら,「 被 疑 者 ま た は 被 告 は 自 己 に 不 利 な 供 述 は 強 要 さ れ な い 」 とす る 黙 秘 権 と は,言 語 の 使 用 ・不 使 用 と い う意 味 合 い に お い て 反 対 概 念 で あ る と 言 え る(Gibbons2003:256)。 言 語 権 な る も の は,環 境 権 や 知 る 権 利 な ど と 同 じ く,近 年 注 目 さ れ て き 権 利 で あ る 。 こ れ は,「 言 語 的 人 権 」(1inguistichumanrights)と も 言 わ れ, *本 学 国 際 教 養 学 部 キ ー ワ ー ド:法 言 語 学,言 語 権,言 語 法,多 言 語 主 義,言 語 政 策

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「自 己 も し くは 自己 の 属 す る言 語 集 団 が,使 用 した い と望 む言 語 を使 用 し て,社 会 生 活 を営 む こ と を誰 か ら も妨 げ られ ない 権 利 で あ る」(鈴 木2005: 8)。 こ の 定 義 に は,つ ぎ の2つ の 観 点 が 含 まれ る 。 ① 自 己 また は 自集 団 が 使 用 した い 言 語 を社 会 的場 面 で 自 由 に使 え る権 利 ② そ の社 会 の 中 で 自己 の言 語 が 使 用 す る 環 境 を 国 家 が 整 え る こ と を要 求 す る権 利 この う ち,① の 方 が 一 義 的 で あ り,一 種 の 自 由権 で あ る。 ② は 一 種 の 社 会 権 で あ る 。 で は,そ れ ぞ れ の 定 義 に つ い て よ り詳 し く検 討 して み よ う 。 言 語 権 は, 精 神 の 自由 権 の 一 部 で あ る。 確 か に精 神 の 自 由 の 中核 を なす 点 で 個 人 権 で あ るが,言 語 集 団 の ア イ デ ンテ ィ テ ィ ー に深 く係 わ る 点 で 集 団権 で もあ る (鈴 木2000:8f.)。 だ か ら こそ,使 用 す る言 語 に 自己 決 定 権 が あ る の だ 。 社 会 権 と して の言 語 権 は,少 数 派 言 語 の 地 位 向上 を求 め て主 張 され,以 下 の4領 域 で 用 い られ る共 同財 と認 識 され る(渋 谷 ・小 嶋2007:28f.)。 ① 国家 的 領 域 立 法 ・司 法 ・行 政 の 三 権 を 中 心 とす る 国 家 機 関 また は 自治 体 にお け る公 的 業 務 言 語 ・文 書 言 語 ② 企 業 活 動 の 領 域 企 業 内 の 就 労 言 語 ・業 務 言 語,広 告 の言 語,商 品 説 明 書,契 約 書 の 言 語 ③ 市 民 的 公 共 領 域 公 営 ま た は民 営 の マ ス ・メ デ ィ ア の言 語(特 に テ レ ビ ・ラ ジ オ ・新 聞) ④ 学 校 教 育 の 領 域 公 立 ま た は私 立 の 学校 に お い て 教 育 言 語 ま た は教 科(科 目)と して の 当 該 言 語 の 教 育 言 語 権 の 観 点 か ら言 え ば,来 日移 民 ・移住 者 に は次 の よ う な 施 策 が 必 要 で あ ろ う。

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① の 国家 的領 域 に 関 して は,外 国 人 へ の 言語 サ ー ビス,特 に コ ミ ュニ テ ィー 通 訳(司 法 ・医 療 ・学 校 ・行 政 ・災 害 ・行 事)が 十 分 保 障 され るべ きで あ る 。専 門 別 の通 訳 者 が 養 成 され,適 切 な報 酬 が保 障 さ れ るべ きで あ る 。 ② の 企 業 活 動 の 領 域 に関 して は,就 労 す る 従 業 員 の 国 際 化 と市 場 の 多 様 化 に合 わ せ て,言 語 的 多 様 化 が 図 ら れ るべ きで あ る 。 ③ の 市 民 的 公 共 領 域 に関 して は,多 言 語 情 報 の 提 供 や エ ス ニ ッ ク ・メ デ ィ ア の発 達 が 助 成 ・推 進 さ れ る べ きで あ る 。 ④ の 学 校 教 育 の 領 域 に関 して は,外 国籍 児 童 ・生 徒 へ の 教 育 が 義 務 化 され, 日本 語 を教 育 言 語 と して学 習 す る と同 時 に継 承 語 の 学 習 も支 援 され るべ き で あ る 。 B.少 数 言 語 と手 話 の 地 位 地 域 語 ・少 数 言 語 の 話 者 や手 話 を母 語 とす る ろ う者 は言 語 上 の 差 別 を受 け て きた 。 しか しな が ら,1948年 国 連 総 会 採 択 の 世界 人 権 宣 言 は,第2条 にお い て,人 種 ・性 別 な どに よ る差 別 と並 べ て,言 語 に よ る差 別 が あ っ て は な らな い と して い る。1966年 国 連 総 会 採 択 の 国 際 人 権 規 約(B規 約)の 第27条 は 自己 が 言 語 を使 用 す る 権 利 に つ い て 言 及 し,言 語 を 人権 の 内 容 と し て位 置 づ け て い る 。 そ して,1992年 採 択 の 民 族 的 又 は種 族 的,宗 教 的及 び 言 語 的 少 数 者 に属 す る者 の権 利 に 関す る 宣 言(マ イ ノ リ テ ィ権 利 宣 言) にお い て は,彼 等 の保 護 ・促 進 に関 す る 国 家 の 義 務 の 基 本 原 則 を示 して い る。 さ ら に,1996年 採 択 の 世 界 言 語 権 宣 言 で は,「 言 語 権 が 個 人 的 権 利 で あ る と同 時 に集 団 的権 利 で もあ る」 と明 言 し,も っ と も進 ん だ考 え方 を表 明 して い る 。 以 上 の 諸 宣 言 に 関 して は,言 語 権 研 究 会 編(1999)の 「第3 部 資 料 編 」 を参 照 。 言 語 権 は,言 語 社 会 の 多 数 派 ・主 流 派 に は,取 り立 て て 問題 視 され る こ と は な か っ た 。 だ が,そ の よ うな 権 利 の保 障 は,地 域 語 ・少 数 言 語 の 話 者

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にお い て,特 に重 要 で あ る。 日本 列 島 の 地 域 語 と して は,北 方 先 住 民 の ア イ ヌ語 と沖 縄 人 の琉 球 語 が 挙 げ られ る。 確 か に,ア イ ヌ 新 法 の 成 立 に よっ て ア イ ヌ 文 化 の 振 興 が 叫 ば れ て は きた もの の,ア イ ヌ 語 は もは や 地 域 社 会 の 生 活 言 語 で は な い か ら,そ の使 用 領 域 は極 め て 限 定 的 で,「 危 機 に瀕 す る言 語 」 とみ な さ れ て い る。 他 方,沖 縄 の 琉 球 語(ウ キ ナ ー グ チ)は,年 配 の 方 々 に よ っ て使 わ れ て い る もの の,若 者 へ の継 承 が 不 十 分 で あ る。 と い う の も,日 本 語(ヤ マ トゥグ チ)へ の言 語 的 同化 が 進 ん だ か らで あ る 。 そ の 中 に あ って,り ん け んバ ン ドな どは,琉 球 語 の使 用 ジ ャ ンル を広 げ る の に貢 献 した 。 つ ぎのC.裁 判 の 言 語 と司 法 通 訳 で 述 べ るが,裁 判 に お け る地 域 語(方 言)の 使 用 は,言 語 権 を め ぐ る議 論 に 問 題 を投 げ か け る。 そ の 他 に,少 数 言 語 と して は,オ ー ル ドカ マ ー の朝 鮮 語 や 中国 語,ニ ュ ー カマ ー の ブ ラジ ル ・ポ ル トガル 語,ス ペ イ ン語,フ ィ リ ピ ノ語 な どの 移民 ・ 移 住 者 の 言 語 が あ る 。 果 た して そ れ ぞ れ の 言 語 権 が社 会 生 活 の 諸 領 域 で ど の 程 度 保 障 され て い るだ ろ うか 。 そ れ は ま さ に 「多 文 化 共 生 社 会 」 の 課 題 で あ る(桂 木2003,徐 ・遠 山 ・橋 内2000,米 勢 ・ハ ヤ シザ キ ・松 岡2010)。 と こ ろ で,耳 の不 自 由 な人 々 の 間で 使 わ れ る手 話 も言 語 で あ る 。 そ こ で ろ う児 を もつ 親 の 会 は小 嶋 勇 弁 護 士 を代 理 人 と し て,2003年 に 「ろ う児 の 人 権 救 済 申立 」 を行 っ た。 この 申立 て に よれ ば,日 本 手 話 を 母 語 と して 育 っ た ろ う児 は言 語 的 少 数 者 で あ るか ら,教 育 言 語 と して の 日本 手 話 の使 用 が 言 語 権 と して保 障 さ れ るべ きで あ る とい う。 国 内 の 大 抵 の ろ う学 校 で は 日本 語 に よ る 口話 法 で 教 育 が 行 わ れ て きた が,ろ う者 の 母 語 で あ る 日本 手 話 は(音 声)日 本 語 と は異 な る独 自 の 言 語 で あ る 。 この こ と を認 識 して, 手 話 法 に よ る教 育 が 保 障 さ れ るべ き だ 。 日本 語 の 口 話 法 に よ る 教 育 は ろ う者 の 母 語 を抹 殺 す る もの で あ っ て,ろ う児 の 言 語 権 を 軽 ん じ て い る 。 だ か らこ の よ う な ろ う教 育 は止 め て,手 話 法 に よ る教 育 に切 り替 え るべ き で あ る 。 以 上 が この 申立 て の 骨 子 で あ る(小 嶋 ・全 国 ろ う児 を もつ 親

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の 会2004)。 な お,2011年(平 成23年)に 改 正 さ れ た 障 害 者 基 本 法 で は, 「言 語(手 話 を 含 む)」 と し,手 話 を 言 語 と し て 認 め る よ う に な っ た の は 画 期 的 な 出 来 事 で あ る2)。 C.裁 判 の 言 語 と司 法 通 訳 日本 の 裁 判 法74条 に は,「 裁 判 所 で は,日 本 語 を用 い る」 とい う規 定 が あ る 。 で は,「 日本 語 」 とは何 を指 す の か 。 い っ た い ウチ ナ ー グ チ(琉 球 方 言 ま た は 琉 球 語)は 日本 語 で あ る の か,そ の 他 の 各 地 の 方 言 は 裁 判 で使 え る の か 。 札 埜(2009)は,abcdeの5名 の裁 判 官 に 法 廷 に お け る方 言 の 使 用 に つ い て 問 うて い る。 そ の 回 答 は下 記 の よ うに ま ち ま ち で あ る。 a.「 方 言 」 使 用 を政 治 的 示 威 行 動,あ るい は抗 議 運 動 と見 る。 b.方 言 も 日本 語 の 一 つ で あ る か ら,方 言 が 通 じる場 合 は,方 言 を用 い る こ と に何 ら支 障 は な い。 c.ウ チ ナ ー グ チ も 日本 語 で あ り,通 訳 を付 け る な どそ の よ うな 意 味 を と らえ る こ とが で き る よ うな措 置 を とる こ とが 適 切 で あ る 。 d.日 本 語 は標 準 語 を意 味 し,地 方 の方 言 は含 ま れ な い 。 e.ウ チ ナ ー グ チ は 日本 語 の範 疇 に 入 ら な い が,[外 国 語 で は な い か ら] 通 訳 をつ け る わ け に もい か な い 。 札 埜(2009)は 「言 語 権 の 中 に 方 言 権 が 含 まれ る」 と考 え て い る 。 そ して 法 廷 で方 言 を使 う意 味 は3つ あ る とい うの で あ る 。 ① 法 廷 の 中 で 事 実 を明 らか に す る た め, ② 法 廷 にお け る方 言 権 の確 立 の ため, ③ そ の こ と ば を使 用 す る 自身 の ア イ デ ンテ ィ テ ィー の た め,で あ る。 被 告 人 が 日本 語 を解 さ な い外 国 人 の場 合 に は,要 通 訳 の 裁 判 が 行 わ れ る 。 刑 事 裁 判 の 場 合 に は,裁 判 所 が 通 訳 人 を選 任 す る 。 特 に,被 告 人 の 言 語 権 の 保 障 とい う点 で 問題 に な る の は,的 確 で公 正 な通 訳 が 行 わ れ な か っ た場

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合,つ ま り誤 訳 や 通 訳 エ ラ ー(訳 し落 し,語 句 ・文 の 追 加,編 集,文 法 上 の 誤 り,文 の 意 味 の誤 訳,レ ジ ス タ ー の不 一 致 言 い 淀 み 追 加 な ど)が 生 じた場 合 で あ る。 古 くは メ ル ボ ル ン事 件(1994),新 し くは ニ ック ・ベ イ カ ー事 件(2002)や ベ ニ ー ス事 件(2009)が こ れ に 当 た る。 い ず れ の 場 合 に も言 語 弱 者 ・情 報 弱 者 で あ る外 国 人 被 告 人 に不 利 に は た ら き,信 頼 す べ き公 正 な 裁 判 が 受 け られ な か っ た こ とに な る。 こ の 点 に司 法 関係 者 は留 意 し て法 廷 通 訳 人 の資 質 の 向上 に 力 を注 ぐべ き だ ろ う(渡 辺 ほ か2010)。 3.言 語 法 と 言 語 政 策 A.言 語 法 とそ の類 型 言 語 権 を実 定 法 化 した もの が 言 語 法 で あ り,国 家 が 領 土 内 で用 い る言 語 の 地 位 や 使 用 に 関 して 規 定 す る 法 律 で あ る 。 「言 語 法 」 とい う名 の 成 文 法 を もつ 国 は多 くな いが,こ こで は 憲法 ・刑 事 訴 訟 法 や 民 族 的 少 数 者 ・メ デ ィ ア関 連 の 法律 な どの 実 定 法 に お け る言 語 関 連 法 の総 体 を指 す こ と とす る 。 鈴 木(2000)に よれ ば,世 界 各 国 の憲 法 お け る言 語 の 規 定 は,ほ ぼつ ぎ の4つ に分 類 さ れ る 。 ① 憲 法 で,国 語,公 用 語 を 宣 言 す る も の 。例,ス イ ス連 邦 。 「ス イス の 国語 は ドイ ツ語,フ ラ ンス 語,イ タ リア 語 及 び レ トロマ ンス 語 で あ る 。 ドイ ツ語,フ ラ ンス 語 及 び イ タ リア語 は連 邦 の 官 庁 語 と され る。」 (憲 法 第116条)。 ス ペ イ ンや ベ ル ギ ー の憲 法 に も言 語 規 定 が あ る 。 ② 多 様 な 言 語 を承 認,保 護 しな が ら,将 来,国 語 の 統 一 を 目指 す 憲 法 。 例,イ ン ド連 邦 。 「イ ン ド領 ま た は そ の 一 に 居 住 す る公 民 で あ っ て 固 有 の 言 語 文 字 又 は 文 化 を有 す る もの は,こ れ を保 持 す る 権 利 を有 す る」 (憲 法 第29条 第1項)そ し て 憲 法 第343条 にお い て,ヒ ン デ ィ ー 語 を 連 邦 公 用 語 と し,英 語 を 「連 邦 の 公 の す べ て の 目 的 の た め に継 続 して 」 使 用 す る こ と と して い る。 また,第347条 は 州 の 人 口 の 多 数 が使 用 す

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る言 語 を公 に承 認 す る と し,憲 法 第8付 則 に22の 言 語 を例 示 して い る。 ③ 民 族 語 を尊 重 す る憲 法 。 例,中 華 人 民 共 和 国 。 「中 華 人 民 共 和 国 は, 多 民 族 の統 一 国 家 で あ る。(中 略)各 民 族 は す べ て の 自 己 の 言 語,文 字 を使 用,発 達 させ る 自由 を有 し,自 己 の 風 俗 習 慣 を保 存 し,又 は改 革 す る 自 由 を有 す る。(以 下 省 略)」(憲 法 第3条) ④ 特 に,国 語 や公 用 語 には触 れ ない 憲 法 。 例,日 本(日 本 国 憲 法,後 述) 世 界 各 国 の 憲 法 に お け る言 語 の 地 位 に 関 して特 に 注 目す べ きは,①EU の 公 用 語,② 欧 州 諸 国 にお け る 公 用 語 と地 域 語 の扱 い で あ る 。③ カ ナ ダ や ウ ェ ー ル ズ に も地 域 語 尊 重 の言 語 法 が あ り,社 会 言 語 学 的 な 関 心 を呼 ぶ 。 B.欧 州 連 合 と欧 州 評 議 会 の 多 言 語 主 義 ヨ ー ロ ッ パ の 国 際 機 関 と し て 注 目 さ れ る の が,欧 州 連 合(European Union,EU)と 欧 州 評 議 会(CouncilofEurope,CoE)で あ る(橋 内2010)。 前 者 の 本 部 は ブ リ ュ セ ル と ル ク セ ン ブ ル グ,欧 州 議 会 は フ ラ ン ス の ス ト ラ ス ブ ー ル で 開 か れ る 。 後 者 の 本 部 は ス ト ラ ス ブ ー ル に あ る 。 欧 州 連 合(EU)は,そ の 前 身 で あ る 欧 州 石 炭 鉄 鋼 共 同 体(1951年)・ 欧 州 経 済 共 同 体(EEC,1957年)を 経 て,欧 州 共 同 体(EC,1967年)を1993 年 に 発 展 さ せ た も の で あ る 。2011年 現 在27の 加 盟 国 が あ る が,そ の 公 用 語 は23を 数 え る 。 こ の 点 で 他 の 国 際 機 関 と比 べ て 突 出 し て い る 。EUは 「多 様 性 の 中 の 統 合 」 を 目 指 し,多 言 語 主 義(multilingualism)・ 多 文 化 主 義 (multiculturalism)の 政 策 を 採 る か ら だ 。 加 盟 国 の 数 と 公 用 語 の 数 が 同 数 で は な い の は,英 語 は 連 合 王 国 と ア イ ル ラ ン ド と マ ル タ で,フ ラ ン ス 語 は フ ラ ン ス ・ベ ル ギ ー ・ル ク セ ン ブ ル グ で,ド イ ツ 語 は ド イ ツ ・オ ー ス ト リ ア ・ベ ル ギ ー ・ル ク セ ン ブ ル グ で 公 用 語 の 地 位 が あ る か ら で あ る 。 そ し て, 国 に よ っ て は 複 数 言 語 を 公 用 語 と し て 認 め て い る 。 例 え ば,マ ル タ で は マ ル タ 語 と 英 語 が 公 用 語 で あ る 。(EUに つ い て は 村 上2009を,多 言 語 主 義

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につ い て は 三 浦1997を 参 照 。) 欧 州 委 員 会,欧 州 議 会,欧 州 理 事 会 や 欧 州 裁 判 所 な どの 諸 機 関 で はEU の 公 用 語 を使 う こ とが 可 能 で あ り,通 訳 官 に よ っ て 同 時 通 訳 され る。 系 統 の 異 な る 少 数 言 語 の公 用 語(例 え ば,フ ィ ン ラ ン ト語 とマ ル タ語)の 間 で は,作 業 言 語 を介 して リ レー通 訳 が な され る。 公 式 文 書 もこ れ らす べ て の 公 用 語 に 翻 訳 さ れ る 。 但 し,EUの 様 々 な 部 局 の委 員 会 に お け る 主 な作 業 言 語 は英 語 ・フ ラ ンス 語 ・ ドイ ツ語 で あ る 。 EU内 の 欧 州 委 員 会(EuropeanCommission)で は,加 盟 国 が 申 請 す れ ば 公 用 語 に加 え て 国 内 の 地 域 語 を併 用 公 用 語 と して 認 め る。 だ か ら,例 え ば,バ ル セ ロ ナ の市 民 が カ タ ル ー ニ ャ語 で 欧 州 委 員 会 に問 い合 わ せ をす れ ば,同 委 員 会 は カ タル ー ニ ャ語 で 回 答 を し な け れ ば な ら な い 。 他 方,欧 州 評 議 会(CoE)は,第2次 世 界 大 戦 後 の1949年 に議 会 制 民 主 主 義 と法 秩 序 の 維 持 と人 権 擁護 を基 本 理 念 と し,平 和 主 義 を標 榜 す る国 際 機 関 で あ る 。 本 部 は フ ラ ンス の ス トラス ブ ー ル に あ り,欧 州 人 権 裁 判 所 を併 設 して い る 。2007年 現 在,47力 国 が 加 盟 して い る 。公 用 語 は英 語 と フ ラ ン ス 語,作 業 言 語 は ドイ ツ語,イ タ リア語,ロ シ ア語 を含 む。 この 機 関 の本 部 に は 言 語 政 策 局 が あ っ て,2001年 以 来CEFRの 枠 組 に よ る複 言 語 主 義 (plurilingualism)・複 文 化 主 義(pluriculturalism)(個 人 レベ ル で の 多 言 語 ・ 多 文 化 対 応 能 力 の 向 上 を 目標 とす る)の 言 語 教 育 政 策 を提 言 して い る。 欧 州 評 議 会 に よ る政 策 提 言 は,EU各 国 で採 用 さ れ て,「 母 語+2」 の 三 言 語 教 育 が 実 施 され て い る(大 谷 ほ か2010,橋 内2010)。 C.ヨ ー ロ ッパ 諸 国 の 言 語 法 ヨ ー ロ ッパ 諸 国 に お い て は,「 言 語 に 関 す る 法 律 」 が 個 別 に制 定 さ れ て い る(渋 谷2005)。 そ れ は,国 家 が 国 全 体 の 公 用 語 と して 認 知 す る言 語, 国 内 の あ る 地 域 ・自治 州 に お い て 公 的 に認 め る言 語 を規 定 す る もの で あ る 。

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EUの 多 言 語 主 義 は 加 盟 各 国 の 国 内 法 制 定 に 影 響 を 与 え て い る 。 例 え ば オ ー ス ト リ ア 東 部 の オ ー バ ー プ レ ン ド ル フ(Oberpullendorf)と オ ー バ ー ヴ ァ ル ト(Oberwart)に お い て は,地 域 語 の ハ ン ガ リ ー 語 が 行 政 ・郵 便 ・ 鉄 道 ・軍 隊 で 公 用 語 と し て の 法 的 地 位 を 得 た(Gibbons2003:258)。 こ れ ら の 地 域 社 会 お け る ハ ン ガ リ ー 語 か ら ド イ ツ 語 へ の 言 語 移 行(1anguage shift)を 食 い 止 め て,地 域 少 数 言 語 を 振 興 す る ね ら い が あ る 。 つ ぎ に 述 べ る ス ペ イ ン と ベ ル ギ ー の 例 は,地 域 語 を 公 用 語 と す る 地 方 分 権 と い う 点 で 興 味 深 い 。 ス ペ イ ン は,フ ラ ン コ 独 裁 の 時 代(1939-1975)に は 中 央 集 権 国 家 で あ っ た た め,ス ペ イ ン全 土 に お い て ス ペ イ ン語(カ ス テ ィ ー リ ャ 語)の み を 唯 一 の 公 用 語 と し て い た。 だ が,議 会 君 主 制 民 主 主 義 を 謳 う1978年 憲 法 の 第 3条 で は,ス ペ イ ン の 国 家 公 用 語 は ス ペ イ ン 語 で あ る も の の,各 自 治 州 ご と に 公 用 語 を もつ こ と が 認 め ら れ て い る 。 そ れ は,言 語 の 多 様 性 を 文 化 財 と し て 尊 重 し保 護 す る 考 え 方 と も 関 連 す る 。 そ れ ゆ え,カ タ ル ー ニ ャ で は カ タ ル ー ニ ア 語(1979年),バ ス ク で は バ ス ク 語(1979年),ガ リ シ ア で は ガ リ シ ア 語(1981年),バ レ ン シ ア は バ レ ン シ ア 語(1982年),ナ バ ー ラ は バ ス ク 語(1982年),バ レ ア レ ス 諸 島 は カ タ ル ー ニ ャ 語(1983年)を 各 ・々 の 自 治 州 の 自 治 憲 章 に 規 定 し た 。 そ れ ら に 関 連 し て,各 州 ご と に 地 域 公 用 語 に 関 す る 法 律 が 制 定 さ れ た 。 さ ら に,カ タ ル ー ニ ャ 自 治 州 の ア ラ ン 谷 で は 「ア ラ ン谷 特 別 体 制 法 」(1990年)に よ り,ア ラ ン 語 も公 用 語 の 地 位 を 得 た 。 カ タ ル ー ニ ャ 語 な ど の 自 治 州 の 公 用 語 は,欧 州 連 合(EU)の 欧 州 委 員 会(EuropeanCommission)に お け る 併 用 公 用 語 の 地 位 も 獲 得 し た (渋 谷2005:ll2)。 他 方,ベ ネ ル ッ ク ス3国 の 一 つ で あ る 「ベ ル ギ ー は 共 同 体 と 地 域 圏 で 構 成 さ れ る 連 邦 国 家 で あ る 。」(1994年 憲 法 第1条)言 語 共 同 体 毎 に 地 域 自 治 が 行 わ れ て い る 。 ① ワ ロ ニ ー 地 域 圏(フ ラ ン ス 語 共 同 体,ド イ ツ 語 共 同 体),

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② フ ラ ー ンデ レ ン 地 域 圏(オ ラ ン ダ語 共 同体),③ ブ リ ッユ セ ル首 都 地 域 圏(フ ラ ンス 語 ・オ ラ ン ダ語 併 用 共 同体)で あ る 。 各 共 同体 は 言 語 境 界 線 に よ っ て 区 分 さ れ て い て 言 語 共 同 体 毎 に公 用 語 が 異 な る。 連 邦 政 府 に お け る 「各 議 院 の 選 出議 員 は,法 律 を もっ て 決 め ら れ た 方 法 に よ り,フ ラ ンス 語 言 語 集 団 とオ ラ ン ダ 語 言 語 集 団 に分 け ら れ る 。」(憲 法 第43条)そ して 「憲 法 の 法 文 は フ ラ ン ス 語 ・オ ラ ン ダ語 ・ ドイ ツ 語 で 作 成 さ れ る」(憲 法 189条)。 現 在 ベ ル ギ ー は,立 憲 君 主 制 の 連 邦 国 家 で あ り,図1の よ うな 複 雑 な 国 家 体 制 を 施 い て い る 。(図1は 石 部2011:31を 参 考 に し た。) 連邦国家国 ベ ル ギ ー 王 国 言語 圏 オ ラ ン ダ語 圏 首都二言語併用圏 フ ラ ンス 語 圏 ドイ ツ 語 圏 共 同体 フ ラ ー ン デ レ ン 共 同体1フ ラ ン ス 語 共 同 体 ドイツ語話者共同体 地 域 フラー ンデレ ン地域 ブ リュ ッセ ル 地 域 ワ ロ ニ ー 地 域 州 5州 5州 自治 体 589自 治 体 図1ベ ル ギ ー の 国 家 体 制 ベ ル ギ ー の 言 語 法 は1930年 の 独 立 以 来,言 語 政 策(languagepolicy)の 変 遷 と と も に4つ の 時代 区分 に よ り変 化 して き て い る(石 部2011:64)。 第1期(1830年 一1860年 代)単 一 言 語 主 義 フ ラ ンス 語 の み公 用 語 第2期(1870年 代 一 第1次 世 界 大 戦)二 言 語 主 義(フ ラー ンデ レ ンの み) 第3期(第1次 世 界 大 戦 後 一1950年 代)地 域 別 一 言 語 主 義 第4期(1960年 代 一現 在)連 邦 制 と地 域 別 一 言 語 主 義 の 厳 格 化 ベ ル ギ ー で は,各 時代 に異 な る言語法 が制定 された。言語 政策の方針 が 変 わ る た び に,行 政 ・教 育 ・裁 判 ・軍 隊 の 領 域 別 に新 た な法 律 が 制 定 され た 。 こ れ ら4つ の領 域 が 「言 語 戦 争 」 の 主 戦 場 で あ っ た の で あ る 。 法 律 が

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修 正 ・改 正 され る こ と毎 に新 た な 言 語 政 策 が 展 開 した の だ。 先 に述 べ た ス ペ イ ンの 場 合 は,カ ス テ ィー リ ャ語 と地 域 語(例 え ば,カ タル ー ニ ャ語)に よ る社 会 的 バ イ リ ンガ リズ ム を推 進 す る言 語 政 策 が 実 施 され て い る 。 そ れ に対 して,ベ ル ギ ー の場 合 に は,言 語 圏 ・共 同 体 ご と に 公 用 語 が 異 な り,二 言 語 併 用 地 域 で あ る首 都 ブ リュ ッセ ル以 外 で はモ ノ リ ン ガ リズ ム(単 一 言 語 主 義)を 強 化 させ る 施 策 で推 移 して い る よ う に見 え る。 D.コ モ ン ・ロ ー の 国 々 の 言 語 規 定 で は,英 米 法 で 代 表 さ れ る コ モ ン ・ロ ー 諸 国 の 言 語 規 定 に つ い て 取 り上 げ て み よ う 。 以 下 カ ナ ダ と ウ ェ ー ル ズ に つ い て は,主 に 鈴 木(2000)に よ る 。 ① カ ナ ダ 1988年7月 に成 立 し た 「カ ナ ダ にお け る 多 文 化 主 義 の 維 持 と振 興 に 関 す る法 律 」(略 称,カ ナ ダ多 文 化 主 義 法)に よ り,二 言 語 二 文 化 主 義 を発 展 させ て,多 文 化 主 義 を前 進 させ る よ うに な っ た。 こ こで 二 言 語 二 文 化 とは 英 語 とフ ラ ンス 語,二 文 化 とは イギ リス文 化 と フ ラ ンス 文 化 を 指 す 。 こ れ ら二 言 語 は カ ナ ダ連 邦 の 公 用 語 と して機 能 して い る 。 新 た に多 文 化 主 義 を 謳 う の は,政 府 に は先 住 民(イ ヌ イ ッ トと フ ァ ー ス ト ・ネ イ シ ョン と称 さ れ る ア メ リ カ原 住 民)と 移 民 の 文 化 を含 め た モ ザ イ ク型 社 会 を 維 持,発 展 させ よ う とい う姿 勢 が あ るか らで あ る 。 この点 で と きに メル テ ィ ン グ ・ポ ッ トと喩 え られ る ア メ リ カ合 衆 国 の 政 策 とは 対 照 的 で あ る。 カ ナ ダ 多 文 化 主 義 法 の 第3条 と第5条 に はつ ぎの よ う に謳 っ て い る。 第3条 ① こ こ に カ ナ ダ連 邦 政 府 の 施 策 と して次 の よ う に宣 言 す る。 (i>カ ナ ダ公 用 語 の 地 位 と使 用 を振 興 す る と と も に,英 仏 語 以 外 の 言 語

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使 用 を保 持 し,推 進 す る,そ して (j>カ ナ ダ公 用 語 へ の 国家 的公 約 と調 和 させ な が ら,カ ナ ダ全 体 を通 じ て 多 文 化 主 義 を進 め る こ と。 第5条 ① 担 当 大 臣 は カ ナ ダ の 多 文 化 主 義 政 策 の実 施 にあ た っ て,必 要 と 考 え る 限 度 にお い て,(中 略)次 に よ りこ れ を施 行 しな け れ ば な らな い 。 (f>カ ナ ダの 多 文 化 継 承 財 産 に寄 与 した す べ て の 言 語 の 修 得,保 持 及 び 使 用 を促 進 す る こ と。 な お,多 文 化 主 義 とい う点 で,カ ナ ダは オ ー ス トラ リ ア と比 べ られ る こ とが あ る 。 類 似 点 は と も に イ ギ リス ・ア イ ル ラ ン ド系 住 民 が 多 数 派 ・主 流 派 で あ っ て,そ れ に先 住 民 と多 様 な移 民 か ら な る 国 で あ る こ と。 相 違 点 は カ ナ ダ は 主 にケ ベ ッ ク な どに居 住 す る フ ラ ン ス系 市 民 に配 慮 して 英 仏 二 言 語 を連 邦 の 公 用 語 とす る の に対 して,オ ー ス トラ リア は英 語 の み が 公 用 語 で あ る こ とで あ る 。 ② ウ ェ ー ル ズ ウ ェー ル ズ は,連 合 王 国 の 一 部 を なす が,ケ ル ト系 の言 語 で あ る カム リー 語(ウ ェ ー ル ズ 語)の 文 化 が息 づ い て い る 。1940年 代 か ら カ ム リー 語 高 揚 運 動 が 高 ま り,1967年 に カ ム リー 言 語 法(全5条)が 成 立 した 。 この 言 語 法 は1942年 ウ ェ ー ル ズ 裁 判 所 法 第1条 を廃 止 して,次 の よ う に 改 定 さ れ た 。 「ウ ェ ー ル ズ 言 語 法 及 び マ ンモ ス シ ャー にお け る 法 手 続 きの い か な る も の で あ っ て も,カ ム リ ー語 の使 用 を望 む 当 事 者,証 人 あ る い は そ の 他 の い か な る 人 々 も,カ ム リ ー語 を用 い る こ とが で き る 。 カ ジス トレー ト ・コー ト以 外 の 裁 判 所 で取 り扱 わ れ る 事 件 に つ い て も,こ れ に基 づ く裁 判 所 規 則 で 定 め る と ころ に従 い,ま た 通訳 に 関 して必 要 とさ れ る諸 規 定 も これ に従 っ て 作 られ る もの とす る。」 とあ る。 こ の規 定 に よ っ て,裁 判 所 に お い て ウ ェー ル ズ語 を使 う権 利 が 保 障 され

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た の で あ る 。 カ ム リー 語 の訴 訟 に関 して は,必 ず 通 訳 が 行 わ れ た 。 上 級 裁 判 所 で は 法 廷 内 に 同 時 通 訳 の設 備 が 設 け られ,必 要 な 通 訳 要 員 を国 家 の費 用 で 養 成 した 。 こ の よ う に カ ム リ ー語 が 英 語 と 同等 の 地 位 が 得 られ る よ う な司 法 制 度 改 革 が 進 ん だ の で あ る。 1993年 に は新 しい 「カ ム リ ー言 語 法 」(全37条)が 成 立 し,カ ム リ ー語 委 員 会 に よ る カ ム リー 語 運 用 計 画 と地 方 教 育 委 員 会 に よ る カ ム リー 語 教 育 計 画 が 盛 り込 ま れ た 。こ の 言 語 法 は カ ム リ ー語 の 地 位 を確 固 た る もの に し, EU内 に お け る言 語 少 数 民 族 の 言 語 と文 化 の 尊 重 とい う国 際 的 な 要 請 に も 対 応 す る もの で あ る 。 な お,ウ ェ ー ル ズ と同 様 ケ ル ト系 の ア イ デ ン テ ィー を もつ ア イ ル ラ ン ド 共 和 国 の場 合 は,ゲ ー ル 語(ア イ ル ラ ン ド語)を 国 語 ・第 一 公 用 語 と し, 英 語 を 第 二 公 用 語 と して い る 。伝 統 的 ゲ ー ル 語 社 会 は 辺 境 の地 に散 在 して い る。 以 上 述 べ て きた 国 々 は,す べ て 多 言 語 国 家 ま た は複 数 言 語 国 家 で あ る 。 世 界 全 体 の 言 語 状 況 か ら言 え ば,そ れが 一 般 的 で あ る 。 と い うの も,世 界 に あ る200余 の 国 家 の 中 で,合 わ せ て ほ ぼ7,000近 くの 言 語(Ethnologue 2009)が 使 わ れ て い る か らで あ る 。 E.日 本 の 言 語 法 日本 に は,実 定 法 と して の 「言 語 法 」 は ない し,そ の 必 要 性 が 公 に論 じ られ た こ とが な い 。 日本 国憲 法 に は,こ の 国 の 国語 や 公 用 語 に 関 す る条 文 は な い 。 言 語 に 関 す る言 及 は,裁 判 所 法 第74条 「裁 判 所 で は 日本 語 を用 い る」 とい う規 定 に留 ま る。 国 の 言 語 規 定 が 乏 しい の は,長 い 間 「わ が 国 は 日本 語 だ け の 単 一 言 語 社 会 で あ る」 とい う暗 黙 の前 提 ・思 い込 み(つ ま り 「単 一 言 語 国 家 」 の神 話)が 多 数 派 で あ る 日本 語 母 語 話 者 の 間 にあ っ た か らで あ る 。

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人 権 を 重 ん じる立 場 か らす れ ば,憲 法 改 正 の 折 り に は,第14条(法 の 下 の 平 等)「 す べ て 国 民 は,法 の 下 に 平 等 で あ っ て,人 種,信 条,性 別,社 会 的 身分 又 は 門地 に よ り,政 治 的,経 済 的 又 は社 会 的 関 係 に お い て,差 別 さ れ な い 。」 に 「言 語 」 を加 え る こ とが 望 ま れ る 。 も っ と も,現 行 の 日本 国 憲 法 第14条 に あ る 「人 種 」 以 下 の 文 言 は例 示 で あ っ て 列 挙 で は ない と解 釈 す る な らば,す で に 「言 語 」 も含 ま れ て い る と判 断 で きる だ ろ う。 現 実 の 日本 列 島 は,歴 史 的 ・地 理 的 に 北 方 先 住 民 の ア イ ヌ 語,日 本 語 (共 通 語 と方 言),沖 縄 の 琉 球 語 に加 え て,日 本 手 話,来 日移 民 の諸 言 語 (中 国 語,韓 国語,ブ ラ ジ ル ・ポ ル トガ ル 語,ス ペ イ ン語,フ ィ リ ピ ノ語 な ど)が 使 わ れ る多 言 語 社 会 で あ る の だ が,法 制 度 を含 む社 会 の 諸 制 度 が そ の よ うな 多 言 語 状 況 に対 応 し きれ て い な い の が 現 状 で あ る(真 田 ・庄 司 zoos)o 刑 事 訴 訟 法 第175条 に は 「国 語 に 通 じな い 者 に 陳 述 を させ る 場 合 に は, 通 訳 人 に通 訳 を さ せ な け れ ば な ら な い 。」 と あ る 。 しか しな が ら,法 廷 通 訳 人 の 能 力 に高 度 な もの を要 求 して い な い(東 京 高 裁 平9.7.16高 刑 集49-2-354V)が た め に,的 確 で 公 正 な 裁 判 が 必 ず し も保 障 され て い な い 。 手 話 通 訳 士 の 資 格 認 定 制 度 が 有 効 に機 能 す る 一 方 で,外 国 語 通 訳 担 当 の 通 訳 人 資 格 技 能 検 定 は2011年 度 か ら一 般 社 団 法 人 ・日本 司 法 通 訳 士 連 合 会 (JLIA)に よっ て 始 め られ る こ とに な っ た ば か りで あ る 。 F.日 本 の 言 語 政 策 ・言 語 計 画 と こ ろ で,言 語 法 は 言 語 政 策 とい う施 策 に基 づ い て 法 制 化 され る。 一 連 の 言 語 政 策 は 「言 語 計 画 」(languageplanning)と 称 され,次 の3段 階 を 経 る。 第1に 地 位 計 画(国 語 ・公 用 語 の 選 定,地 域 語 や少 数 言 語 の扱 い), 第2に 実 体 計 画(文 字 の 創 案 ・標 準 語 と標 準 表 記 の確 定,語 彙 の 近 代 化)

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第3に 普 及 計 画(公 的 機 関 ・教 育 機 関 ・メ デ ィア等 を介 して使 用 ・普 及) が 推 進 され る。 そ うな ら ば,近 現 代 史 を言 語 政 策 の 点 か ら捉 え 直 す 価 値 が あ る。 総 じて,日 本 の行 政 は縦 割 りの た め,省 庁 間 の連 係 が 乏 しい 。 そ の た め 共 通 の理 念 に基 づ く,明 確 な 言 語 政 策 が 打 ち 出 さ れ て い な い 。 そ うい う中 にあ っ て,国 語 政 策 は,明 治 以 来 第1に 日本 語 を 「国 語 」 に定 め,第2に 語 彙 の 近代 化(借 用 翻 訳 語 彙 の 採択 と文体 の言 文 一 致)と 国 語 の標 準 語 化 ・ 共 通 語 化 を図 っ て,文 法 ・語 彙 ・書 記 体 系(漢 字 制 限 や 送 り仮 名,仮 名 遣 い)な どの 規 範 化 を行 い,第3に 共 通 語 を公 的 機 関 ・教 育 機 関 ・メ デ ィア を介 して 普 及 させ た(西 原2010)。 戦 前,台 湾 ・朝 鮮 な ど の 旧 統 治 領 に お い て,「 国 語 」 が 植 民 政 策 の 一 環 と して教 え られ た の で あ る 。 そ の 結 果, 日本 手 話,地 域 方 言,ア イ ヌ語 ・琉 球 語 や 旧 統 治 領 の 言 語 は,中 央 集 権 的 同 化 政 策 に よ り周 縁 化 ・倭 小 化 され た の で あ る。 他 方,外 国 語 政 策(自 治 体 の 言 語 サ ー ビス な ど)と 日本 語 教 育 政 策(地 域 日本 語 教 育)は,先 に述 べ た 日本 社 会 の 多 言 語 化 状 況 に十 分 に対 応 して い る と は言 え な い 。 「多 文 化 共 生 社 会 」 とい う認 識 が 進 む 中 で あ っ て,日 本 の 外 国 語 教 育 政 策 は,小 中 高 大 とい うす べ て の教 育 段 階 で英 語 偏 重 で あ るか ら,中 国 語 ・朝 鮮 語 ・ロ シ ア語 を含 む 隣 語 教 育 や 複 言 語 教 育 の 推 進 が 侯 た れ る 。 今 後 は言 語 権 や 言 語 法 へ の一 般 の 関 心 を 高 め,総 合 的 な言 語 政 策 の 立 案 と実 現 が 求 め ら れ る 。 4.ま と め 言 語 権 も言 語 法 も 「法 と言 語 」 の 研 究 課 題 で あ る 。 言 語 権 は 言 語 的 弱 者 が 自 己 の 言 語 を 自由 に使 用 し得 る権 利 で あ る,と 同 時 に 自 らの 集 団 の ア イ デ ン テ ィテ ィ ー を確 立 す る た め の 権 利 で もあ る。 言 語 や 言 語 権 につ い て法 制 化 さ れ て,言 語 法 とい う 国家 の 言 語 規 定 に な る 。 日本 の 実 定 法 で は,裁

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判 法 第74条 に 「裁 判 所 の 言 語 は 日本 語 で あ る 」 とあ り,刑 事 訴 訟 法 第175 条 に は 「司 法 通 訳 」,同 第176条 に は 「手 話 通 訳 」 そ して 改 正 障 害 者 基 本 法 第3条3に 「言 語(手 話 を含 む)」 へ の 言 及 が あ る ほ か は,こ れ と言 っ て 言 語 に 関 す る規 定 は 認 め られ な い 。 言 語 規 定 の 乏 し さ は単 一 言 語 国 家 とい う前 提 に 由 来 す る の で あ ろ うが, 「多 言 語 社 会 」・「多 文 化 共 生 社 会 」 の現 実 に対 処 す る た め に は,他 に も言 語 規 定 が必 要 に な る の で は な い か 。 外 国 にお い て法 制 化 さ れ て い る言 語 法 の よ う な規 定 は,国 の 言 語 政 策 の 一 環 と して 作 られ る べ き もの で あ る。 明 示 的 な言 語 政 策 は 欧 州 諸 国 や コモ ン ・ロ ー の 国 々 に は 認 め らえ る 。 だが, 日本 に は経 済 政 策 や教 育 政 策 な ど は あ っ て も,明 確 な 言 語 政 策 は ない 。 日 本 も多 様 な 背 景 を もつ 市 民 と共 に生 きる社 会 に あ る とい う認 識 が 進 む 中 に あ っ て,言 語 法 の法 制 化 を含 む 言 語 政 策 の 欠 如 と遅 れ は 目 を被 うば か りで あ る。 こ の よ う な政 策 課 題 に 向 け て,国 ・自治 体 を含 む 機 関 ・組 織 の 今 後 の 取 り組 み を大 い に期 待 す る と こ ろで あ る 。 参 照 文 献 ・石 部 尚 登(2011)『 ベ ル ギ ー の 言 語 政 策 方 言 と公 用 語 』,大 阪 大 学 出版 会 ・大 谷 泰 照 ほ か 編 著(2010)『EUの 言 語 教 育 政 策 日本 の 外 国 語 教 育 へ の 示 唆 』,く ろ しお 出 版 ・桂 木 隆 夫 編 著(2003)『 こ と ば と共 生 言 語 の 多 様 性 と市 民 社 会 の 課 題 』, 三 元 社 ・言 語 権 研 究 会 編(1999)『 こ と ば へ の 権 利 言 語 権 と は な に か 』,三 元 社 ・小 島 勇 監 修 ・全 国 ろ う児 を もつ 親 の 会(2004)『 ろ う教 育 と言 語 権 ろ う 児 の 人 権 救 済 申 立 の 全 容 』,明 石 書 店 ・真 田信 治 ・庄 司 博 史 編(2005)『 事 典 日本 の 多 言 語 社 会 』,岩 波書 店 ・渋 谷 謙 次 郎 編(2005)『 欧 州 諸 国 の 言 語 法 欧 州 統 合 と多 言 語 主 義 』 三 元 社 ・渋 谷 謙 次 郎 ・小 島勇 編 著(2007)『 言 語 権 の 理 論 と実 践 』.三 元 社

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・鈴 木 敏 和(2000)『 言 語 権 の 構 造 英 米 法 圏 を 中 心 と し て 』 ,成 文 社 ・徐 龍 達 ・遠 山 淳 ・橋 内 武 編 著(2000)『 多 文 化 共 生 社 会 へ の 展 望 』,日 本 評 論 社. ・西 原 鈴 子(2010)「 日 本 の 言 語 政 策 の 転 換 」,田 尻 英 三 ・大 津 由 紀 雄 編 『言 語 政 策 を 問 う!』,ひ つ じ 書 房,pp.33∼49. ・橋 内 武(2010)「 欧 州 連 合 と 欧 州 評 議 会 の 言 語(教 育)政 策 」 ,『 国 際 文 化 論 集 』,43号.pp.51∼68. ・札 埜 和 男(2009)「 法 廷 に お け る 方 言 的 こ と ば 」 ,『 社 会 言 語 学 』IXpp. 213--231. ・三 浦 信 孝 編(1997)『 多 言 語 主 義 と は 何 か 』,藤 原 書 店 ・村 上 直 久 編(2009)『EU情 報 事 典 』 ,大 修 館 書 店 ・米 勢 ・ハ ヤ シ ザ キ ・松 岡 編(2010)『 公 開 講 座 多 文 化 社 会 論 』,ひ つ じ 書 房 ・渡 辺 修 ・水 野 真 木 子 ・中 村 幸 子(2010)『 実 践 司 法 通 訳 』 ,現 代 人 文 社 ・Gibbons ,John(2003)ForensicLinguistics:AnIntroductiontoLanguageinthe JusticeSystem.Oxford:Blackwell. 註 1)本 稿 は 文 部 科 学 省 科 学 研 究 費 補 助 金 ・新 学 術 領 域 研 究 「裁 判 員 裁 判 に お け る 言 語 使 用 と判 断 へ の 影 響 の 学 融 的研 究 」(研 究 課 題 番 号21200046,研 究 代 表 者 堀 田 秀 吾)の 研 究 成 果 の 一 部 で あ る。 と 同 時 に,去 る2011年3月20日 に 名 古 屋 の 金 城 学 院 大 学 で 行 わ れ た法 と言 語 学 会2011年 度 第3回 研 究 会 で の 報 告 「言 語 権 と言 語 法 」 に基 づ い て い る 。 な お,近 刊 の 橋 内 武 ・堀 田秀 吾 編 著(仮 称)『 法 と言 語 法 言 語 学 へ の い ざ な い 』(く ろ しお 出 版)の 「第 3部 法 と言 語 と社 会 」 の 第12章 に は,本 稿 と ほ ぼ 同 じ 内 容 の も の が 載 る 予 定 で あ る こ と をお 断 り し て お く。 2)障 害 者 基 本 法 の 一 部 を改 正 す る 法 律(平 成 二 十 三 年 法 律 第 九 十 号)の 第 三 条 第 三 項 に よ れ ば,「 全 て 障 害 者 は,可 能 な 限 り,言 語(手 話 を含 む)そ の 他 の 意 思 疎 通 の た め の 手 段 につ い て の 選 択 の 機 会 が 確 保 さ れ る と と も に,情 報 の 取 得 又 は利 用 の た め の 手 段 に つ い て の 選択 の 機 会 の 拡 大 が 図 ら れ る こ と。」 と あ る 。

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LanguageRights,LegislationaboutLanguage

LanguagePlanningViewpoint

HASH-UCHITakeshi Legislationaboutlanguageisanimportantareainlanguageandlawre-search. Oneofitsconcernsislanguagerights:therightstousecertainlanguages forpublicpurposesandforone'sidentity.Suchmultilingualnationsas Belgium,Spain,andCanadaclearlystatelanguagerightsintheirconstitutions, anddefinetheirnationalandofficiallanguagesalongwiththestatusofthelocal andminoritylanguages. However,theJapaneseConstitutiondoesnothaveasinglearticlerelatedto legislationaboutlanguage.Wefindinthecourtlawthatthelanguageofthe lawcourtisJapanese.Thuswhenatleastonepartyinalegaldisputeisunable tounderstandandtoexpressoneselfintheJapaneselanguage,courtinter- pretershavetobeprovidedtoresolvethenon-communicationormiscommu-nication. Therecentlyrevisedfundamentallawforthehandicappeddefinesthattheir languageincludessignlanguageofthehearingimpaired,sothatthisminority languagehasfinallygaineditsproperlegalstatus. Inregardtolanguagerights,theendangeredAinuandRyukyulanguages havebeenneglectedintheJapaneselawsystem,sothattheirstatusinthe publicdomainmustbereevaluated.Andwiththeincreaseoftheimmigrant population,thereareplentyofneedsforpublicservicesintheirlanguages. However,conservativelanguagepolicyandplanningseemsstilltomaintain Japanasamonolingualstate.Inconclusion,theauthorstressesthelanguage needsofthegrowingdiversifiedlocalcommunityinthe21stcentury.

参照

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