Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College,
Available from http://ir.tdc.ac.jp/
Title
小児の歯数異常・萌出異常への対応 4.低位乳歯
Author(s)
辻野, 啓一郎; 新谷, 誠康
Journal
歯科学報, 114(6): 555-557
URL
http://hdl.handle.net/10130/3510
Right
カ ラ ー ア ト ラ ス の 解 説
低位乳歯は咬合を営んでいた乳歯が,何らかの原
因により咬合平面より低位となったものである(図
1)。咬合位に達することなく未萌出となっている
埋伏歯と同一視されることが多いが,厳密にいうと
別の疾患である。臨床ではこれらを明確に区別でき
ないため,低位乳歯(かつて咬合していた乳歯が低
位となったもの=狭義の低位乳歯)と歯冠の一部の
み確認できる状態の半埋伏歯を同一に低位乳歯(=
広義の低位乳歯)と扱うことが多い。いずれの場合
でも対応が遅れると処置が困難となり,小児に大き
な侵襲を与えることにもなる。
頻度としては下顎第一乳臼歯,下顎第二乳臼歯に
多くみられる。原因はほとんどの場合,乳歯歯根の
骨性癒着により周囲の歯槽骨の成長との間に差が生
じるためとされている。
低位となる過程(図2)
低位となる過程は図2のように考えられている。
まず,低位となる乳歯の歯根に骨性癒着が起きる。
骨の成長過程で歯槽骨部の高さの成長が起きるが,
骨性癒着を起こしている歯では骨の高さの成長が起
きない。そのため咬合平面からみると相対的に低位
になっていく。さらには隣在歯との接触点がなくな
るため隣在歯は傾斜する。特に下顎第二乳臼歯が低
位となった場合には,第一大臼歯が近心傾斜して第
二乳臼歯に被さるように萌出し,対応が困難とな
る。
低位乳歯の影響(図3)
低位となった乳歯は清掃が困難となるため齲蝕に
罹患しやすい。低位のため齲蝕治療は困難となる。
また,乳歯を早期喪失した場合と同様に,対合歯の
挺出や隣在歯の患部への傾斜が起きる。放置した場
合はさらに隣在歯が傾斜し,永久歯萌出余地の不足
が起きる。
低位乳歯への対応(図4)
対応は,低位が軽度であり隣在歯および後継永久
歯への影響が少ない場合は,後継永久歯への交換ま
で経過観察を行う。しかし,隣在歯が傾斜してくる
場合や,後継永久歯の萌出に影響があると考えられ
る場合は抜歯が必要となる。抜歯が必要な症例で対
応が遅れると,低位がより悪化するだけでなく隣在
歯の傾斜により術野が狭くなり抜歯が困難なものと
なる。その場合,矯正的治療により傾斜した隣在歯
の歯軸を改善し,その後に抜歯を行う方が,侵襲が
少ない。また,抜歯後は後継永久歯が萌出するまで
保隙が必要となる。
低位乳歯の抜歯(図5)
重度の低位乳歯は,以下の理由で抜歯が困難とな
る。
・低位乳歯の原因は骨性癒着である。
・隣在歯が傾斜してくるため,抜歯に必要な空隙
が不足する。
・乳臼歯は歯根が大きく離開している。
・抜歯が必要となる年齢では乳歯の歯根吸収がほ
とんど起きていない。
そのため抜歯に際しては埋伏歯抜歯と同様な術式
をとることがあり,骨の開削や歯の分割などが必要
となることもある。
症例は7歳の女児で下顎右側第二乳臼歯の埋伏を
認めた。抜歯の際には粘膜骨膜弁を形成し,頬側の
歯槽骨を一部削去し,歯冠部から近遠心的に分割抜
去を行った。大きな侵襲が予想されたため全身麻酔
下で抜歯を行った。今後,保隙を行う予定である。
咬合誘導が必要な症例(図6)
低位乳歯では隣在歯の傾斜が大きな問題となり,
抜歯を行う前に隣在歯の傾斜を改善することがあ
る。しかし,第二乳臼歯が低位となった症例では,
早期に抜歯を行ったとしても,第一大臼歯は抜歯し
たスペースに近心傾斜しながら萌出してくるので,
萌出後に近心傾斜の改善が必要となることがある。
症例は5歳の女児で下顎左側第二乳臼歯の低位乳
歯を認めた。第二小臼歯の歯胚は第二乳臼歯と第一
大臼歯の歯根間に変位している。低位乳歯となって
いる第二乳臼歯の抜歯を行った。その後,第一大臼
歯が近心傾斜しながら萌出してきたが,第二小臼歯
の歯胚は位置,方向が改善してきている。床型咬合
誘導装置を用いて第一大臼歯の歯軸を改善し,第二
小臼歯の萌出余地を獲得した。その後リンガルアー
チによる保隙を行ったところ,第二小臼歯の萌出が
みられた。処置終了まで約9年間を要した。
低位乳歯は乳歯列期に発見されたとしても,永久
歯列期までの長期間にわたる管理が必要である。ま
た重度な場合は,抜歯の侵襲も大きく小児への負担
も大きい。特に処置の開始が遅れるとともに難症例
になっていくため,安易に経過観察せずに早期に対
応することが重要となる。
小児の歯数異常・萌出異常への対応
4.低位乳歯
辻 野 啓 一 郎,新 谷 誠 康
東京歯科大学小児歯科学講座
隣在歯の傾斜は軽度である。
この時期に抜歯を行えば,後
継永久歯の自然萌出が期待で
きる
後継永久歯交換まで経過観察し
た症例
隣在歯の傾斜が強く,抜歯
も困難である。この状態で
の抜歯は侵襲も大きく,難
抜歯となる
第一大臼歯の遠心移動後に
抜歯を行う方が,侵襲は少
ない
抜歯後は第二小臼歯萌出ま
で保隙を行う必要がある
自然萌出がなければ開窓牽
引を行う
低位乳歯への対応が遅れた症例
図4 低位乳歯への対応
初診時 第二乳臼歯抜歯後
第一大臼歯が近心傾斜して萌出
床型咬合誘導装置にて
第一大臼歯近心傾斜の改善
リンガルアーチに変更し保隙
その後,第二小臼歯は萌出した
図6 低位乳歯抜歯後の咬合誘導
隣在歯の傾斜
永久歯萌出余地の減少
永久歯胚の変位
清掃困難による齲蝕の発生 対合歯の挺出
図3 低位乳歯の影響
低位の程度は軽度のものから重度のものまで様々である
レントゲン画像検査では,歯根膜腔が不明瞭
であり骨性癒着していると思われる所見がみ
られる
図1 低位乳歯
骨性癒着が起きる 歯槽骨の高さの成長に
おいていかれる
正常な成長 低位乳歯
骨性癒着を起こした乳歯は,歯槽骨の高さの成長についていけないため,咬合
平面からみると相対的に低位になっていき,歯肉に埋まっていくようにみえる
図2 低位乳歯となる過程
抜歯は,頬側の歯槽骨を一部削去し,歯冠部
から近遠心的に分割抜去を行った
図5 低位乳歯の抜歯
研究室から
臨床へ
この頁は……
本号に掲載されている論文について紹介する頁です。とかく原著はむずかしくて固苦しいものと思われて
いますが,それはただ表現上のことであって,実はどれ一つをとってみても歯科臨床の指針であったり,テ
クニックの裏付けであったりします。そうした見方で各論文の指導教授あるいは,これに準じる方に紹介の
労をとっていただきました。手っとり早く,本号全体を把握するのに役立つ頁です。
東京歯科医学専門学校における大正期大学令と財団法人化
⑶ 臨時教育会議答申と帝国議会での大論争
金 子
譲
他
大学令は「臨時教育会議答申」が基である。だが歯科界に重要な文言が両者で相違した。歯学を大学令か
ら何故除外したのか謎であったが,後の歯科医師法改正案の帝国議会討議でその理由が明らかにされる。こ
の審議は歯学とは何かを問いかけ,今日的な問題を含んでいる。革新的な答申をした「臨時教育会議」を解
説し,歯科医学教育に制動を駆けた政府文部省と歯科大学設置を訴える議員との質疑答弁から,両者の肉声
を伝達した。 (本号561頁)(金子 譲 記)
◆ ◆ ◆
口腔扁平上皮癌周囲に広がる上皮性異形成に対する
切除範囲の決定法
野 村 武 史
他
早期表在性の口腔癌を切除する際に,癌周囲に広がる異常粘膜を肉眼で判断することは難しく,時として
この取り残しが二次性癌を誘発する。私達の教室では,1997年以降ヨード生体染色法による切除範囲の決定
を行い治療成績の向上に努めてきた。さらに2010年以降はヨード染色に加え,蛍光診断機器を用いてより客
観性のある切除法を検討している。今回私達の教室における切除法の概念について過去の研究成績をふまえ
報告する。 (本号586頁)(髙野 伸夫 記)