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企業倫理と組織文化 : 倫理的組織文化の確立に向けて

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(1)企業倫理と組織文化 倫理的組織文化の確立に向けて. 四. 本. 雅. 人. が盛んになってきている.しかし,こうしたこ 1.はじめに. とは,不祥事の防止において機能するかもしれ. 近年,企業の不祥事に問わる事件が社会を賑. ないが,本質的な意味で倫理的な組織を作るこ. わせている.かつて,私的致富手段だった企業. とにはならない.こうした外的・内的な企業倫. は社会的制度・器官となり,その企業権力お. 理の制度化が,組織文化としても体現されるこ. よび影響力の増大とともに,企業の倫理的問題. とによって初めて倫理的企業となりえる.しか. はまさに社会問題と直結するようになった.例. しながら,企業倫理研究において,組織文化は. えば,雪印事件や牛肉偽装事件は食の安全に対. 重要なファクタ-と意識されつつも十分に捉え. する我々の信頼を揺るがし,三菱自動車・ふそ. られていないように思える.そしてそれ故に,. うのリコール隠蔽事件やJR西日本脱線事故は. 企業倫理の実践と実効性を導く議論が展開され. 我々の交通手技への安全神話を崩壊させた.ま. ていない.そこで本稿は,組織文化論から企業. た,今日,最も大きな事件として騒がれている. の倫理的問題1)を考えることで,倫理的企業を 作るためのアプローチを示唆することを目的と. マンション耐震偽装事件によって我々の住への 安心感が根底から覆されることになった.まさ. する.. に企業倫理の問題は,企業,及び経営学が早急 2.組織文化の逆機能性と非倫理的行動の合理化. に取り組まなければならない課題となってい. 大型車のリコール隠しで社会的な問題となっ. る.. 企業倫理に関する研究は,我が国では1990. た三菱ふそうトラック・バスは,新聞の謝罪広. 年代後半の総会屋への利益供与,金融機関の商. 告のなかで,会社ぐるみの隠蔽事件を生み出し. 法違反等々の事件を発端に,その後,続出する. た自社の文化について,次のような一節を入れ. 企業不祥事が当該企業のみならず,業界,さら. ている.. には社会-大きな負のインパクトをもたらすの. 内各部門の中堅社員12名から成る社長直轄の. に呼応して展開をみせてきた.現実の企業にお. 委員会として,風通しの良いオープンな企業. いても,倫理綱領・行動規範の制定・遵守,社 内倫理教育の設定・実施,企業倫理担当機関の. 文化の創造プログラムを策定し,勧告を行い. 設置と調査・点検等の運用,内部告発制度の制. このことから真っ先に想起させられるのは,か. ます.」 (2004年4月22日付け日本経済新聞).. 定といった企業倫理の制度化が図られてきてい る.また,専門の外部監査機関を置いたり, 委員会の設置において社外取締役から成る監査 委員会によって監査機能の独立性を高める動き. 「企業文化変革推進委員会の創設:社. 3. っての"強い文化2)の逆機能性''に関する議論 である. "強い文化''はやがて「思考様式の均 質化」と「文化の自己保存機能」という2つの 逆機能を招くこととなる.戦略論的観点から言.

(2) 150. (342). 横浜国際社会科学研究. 第11巻第2号(2006年8月). えば,この2つの逆機能により,市場において. 価値や信念は,個々の組織の構成員たちが独自. 環境適応ができなくなるという議論であった.. に展開したものではなく,組織において誰から. 近年,企業が社会的倫理から逸脱した行動を. も信奉されるべき観念である.それは,広くは. 取ったり,不祥事を起こし倫理的対応が求めら. 経営者や企業の理念,ヴィジョン,あるいは組. れるようになったとき,そこに再び文化的逆. 織のリーダーの価値を色濃く反映したものであ. 機能性が大きな阻害要因として立ちはだかって. り,組織において何をどのようにすべきなのか,. いることに気付かされる.たとえば,世間では 非常識なことが,企業のなかで幅を利かせてい. どのような行動が求められているのかというこ. ることは決して少なくない.非倫理的なことで あっても組織のために辻複合わせを行ったり,. の構成員たちは,こうしたものを組織の諸制度! 社会化を通して,共有し,内在化していくこと. 不具合や失敗を組織ぐるみで隠してしまう場合. になる.. とを組織の構成員たちに示すものである.組織. (文化の自己保存機能),自分で考えることなく. こうした価値や信念は,構成員たちが無意識. それまでのやり方を踏襲したり,上司のいいな. に有する世界観とも関係する.それをシャイン. りに仕事をするといった場合(思考様式の均質. は「基本的仮定」と呼び,組織文化の中核的基. 化),これらが企業を社会的な倫理から逸脱さ. 盤とみている。これは,組織の構成員たちが盲. せ,また,いつまでも同じ過ちを繰り返させた. 目的に信じているものであり,それ故,彼らの. りしているのである.こう.した組織文化の逆機. 認知,考え方,感じ方といったものを決める礎. 能性は,客観的に捉えると組織存続の危機を招. となる.それはあまりにも当然のこととして見. くものとしてみえるが,その文化の内部にいる. なされ,構成員たちがそれについて論じること. 人々にとっては他ならぬ合理的に機能している. はほとんどなくなり,また,別の過程に基づい. ことになる.内的には合理的に機能しているか らこそ,この道機能はいつまでも分断されるこ. た行動様式や思考様式は想像のつかないものと. となく続く.ゲラ-マン(1987)によれば,こ. 員たちの行為,思考を規定してしまう根源的な. こには非倫理的な行動を正当化してしまう4つ. ものなのである.. の合理化が働いている:①その行動は``本当は" 不当でも不道徳でもないと信じている;②それ は個人ないしは企業の最良の利益であると信じ ている;③決して,露見しないだろうと信じて. なる.こうした仮定は,その文化に属する構成. むろん,信奉される価値や信念の全てがこう した仮定へと導かれるわけではない.その価値 に基づいた行為が組織にとって成功へと導く結 果をもたらすことを保証するという経験則が必. いる;④それは企業にとって役に立つことだか ら,企業はきっと大日に見てくれるだろうと信. 要となる.その価値を前提とした行為が繰り返. じている.この4つの合理化はそれぞれが独立. のである.. しているわけではなく,現実においては複合的. し機能することで,価値は基本的仮定-となる こうして仮定となったものは,祖織の規範の. に絡み合って働いているだろう.こうしたこと. ベースとなる.仮定は,組織の構成員たちの関. によって,非倫理的なことであっても「自社の. 心を規定し,規範として組織における物事の優. 論理」 「組織内の常識」 「組織ルーチン」として,. 劣や善悪を決める基準となる.すなわち,組織. 企業の内部でまかり通っているのである.. において,何をすることが期待されているのか. 自社の論理,あるいは,組織内の常識として. を知ることを可能とする暗黙の規則である.こ. 成立しているものこそ,まさにその組織の文化. れが組織ルーチン,あるいは組織内の常識とし. である.一般的に,組織文化を語る上で重要と されることは,価値や信念の共有である.この. て呼ばれるものであることは言うまでもないだ ろう..

(3) 企業倫理と組織文化(四本). (343). ここまでの言説において,価値を出発点とし. なる.こうした社会的に構成された現実として. てみてきたわけだが,その価値そのものが必ず. の文化のなかに,先の4つの倫理的逸脱の合理 化がその妥当性体系に組み込まれていれば,そ. 151. しも倫理的であるとは限らない.すなわち,倫 理的に歪んだ価値が組織に注入され,それが繰 り返し機能し,組織の構成員たちの基本的仮定. の非倫理的行為は自然的態度において正当化さ れ,疑うことすらない状況もあり得るわけであ. へと落とし込められた場合もあり得るわけであ る.だからこそ,ゲラ-マンの挙げたような4. る.. つの合理化が,組織の常識として通用してしま うのである.. 区別したように,人々は必ずしも全人格を組織. しかしながら,親織の構成員たちは,その組. も社会的な一個人として,社会通念上において. 織という場だけで生きているわけではなく,社. 非倫理的な文化に異議申し立てを行うことがで. 会の一員としても生活をしている.そんな彼ら. きず,個人人格が圧倒されてしまうのは,非公. が,社会通念上の倫理的なことから逸脱し,何 故に非倫理的なことを正当化することになるの. 式にメンバーシップを剥奪し排除してしまうよ. むろん,バーナードが組織人格と個人人格を に投入しているわけではない.しかし,それで. うな斉-性圧力がかかるからである.そしてま. か.それを説明するためには,組織文化が社会. た,こうした圧力や排除は,文化が政治的な装. 的に構成された現実であるということをみてい. 置を学んでいることを示している.すなわち,. く必要がある.. 組織の構成員たちが文化を社会的に構成してい くことは,たとえ,それが倫理から逸脱したも. 3.文化という社会的に構成された現実3) 組織において経験される世界とは,特定個人 のものではない.現象学的に言えば,それは構 成員たちの問で共有された世界であり,他者. のであっても,それを非正当化したり,異議申 し立てをするような見方をしたりすることを暴 力的に排除することを意味する.フーコー流に. が自分と同じ主観として存在し,また,その人. いうならば,文化的な日常性の自明性は,その 根底に権力が働く土台が埋め込まれているので. が自分と同じく同一世界の存在に関して理解し. ある.そして,この権力による排除が,文化的. 合っているという確信を経験させる世界(問主. な妥当性構造をより強固なものとし,さらなる. 観的世界)である.これを可能にしているもの. 自明性をもって文化を現前させることになる.. は,組織の文化的な規範や慣行といった社会的 制度であり,それは組織の時間的な連続性のな かで「妥当なもの」として継承され,また,組. 4.企業倫理へのシンボリック・アプローチ それでは,こうした倫理から逸脱した組織の. 織内の日常的な相互作用において,人々を同じ. 文化は,いかなる方法によって正常化させるこ. 構成員という統制のなかに組み込んでいくこと. とができ,また,倫理的な雑織文化として再生. になる.. 産させることができるのだろうか?一般に,. 組織の構成員たちにとって,こうした社会的. 規範論を主張する企業倫理論であれば,シャイ. 制度は自然世界の現実に似た,組織の客観化さ れた現実として自明さのなかに経験されている. ン(1992)でいう信奉された価値に,倫理性お よび道徳性を注入し, 「-すべき」という競範. ものなのである.この客観化された現実がもた. 体系をもって,倫理的な組織文化の形成を試み. らす妥当性構造は,特殊な疑念を停止させるた. ようとする.そして,倫理綱領の遵守と倫理教. めの基盤となる.これには,社会的な制裁が内 在化されており,それが絶えず確認されること により現実の崩壊を免れることができるように. 育プログラムを強化し,逸脱した価値観の修正 を図ろうとするだろう. しかし,組織の文化的世界は,崇高な価値や.

(4) 152. (344). 横浜国際社会科学研究. 第11巻第2号(2006年8月). 道徳の内面化によって維持されているわけでは. なかに現前させ,確固たるものとするのも,こ. なく,あくまでも組織内において当然とみなさ. うした文化的シンボルに他ならない.以下,. れる常識的思考に支配されている.実際のとこ. つの事例を示しているが,三菱自・ふそうト ラックバスとJOCは,文化的シンボルを介し. ろ,早くから企業内外の倫理教育プログラムを 駆使してきたアメリカにおいて,大企業が度重. て非倫理的な文化となり,不祥事を起こしたし. なる不祥事を起こしている様をみると,その有. まったケースである.そして,最後のヤマト運. 効性を疑問視せざるを得ない4).押し付け型の. 輸は,たった1つのシンボルによって倫理的文. 企業倫理の制度化は,一時的な意識の変化をも. 化が再生産されたケースである.. たらすかもしれないが,結局は,組織の場とい う生活世界レベルの規範や習慣への内省が加え. <三菱自・ふそうトラックバスのリコール隠蔽>. られることがなければ,非倫理的な病魔は取り. 三菱自は旧経営陣が逮捕・起訴されたよう. 除かれることがないままに文化は再生産され維. に,まさしく会社ぐるみで非倫理的な病理に冒. 持されてしまうだろう.これは換言すると,坐. された文化を育み続けていた.なかでも89-97 年に社長・会長の任にあった中村裕一氏はリ. 活世界レベルにおいて,その妥当性や自明性の 維持に寄与している要因,あるいは,それらを 打ち破る要因を特定すれば,操作可能となり,. コールに対して極めて消極的であったという. 三菱自にとってリコールは「スリーダイヤに相. 倫理的な組織文化として再生産させることがで. 応しくない」ものであって,この教条(言語的. きるということでもある.. シンボル)に従わない者には厳しい処遇(行動. 組織文化論がもたらした知見は,社会的に. 的シンボル)が課せられるとの社内認識があっ. 構成された現実としての文化の発見だけではな. た.その結果,欠陥車が出ても,決して公表さ. い.それを可能にしている意味の体系としての 文化という側面もある.客観的現実が事実とし. れることはなく,本来リコール対象車であった. て,そして,自明のものとして提示する知識や 意味は,常に明文化されているわけではない.. それを社内で伝え聞いた従業員たちは,リコー. ものはヤミ改修された.こうした一連の慣行と. むしろ,意味は組織の社会的現実の様々な事象. ル隠しを正当化する文化を組織的現実として構 成していた.三菱自の歴代経営陣は技術畑の. (シンボル)の背後に隠されているものであっ. 出身者が多く,自社の技術に対する過信があっ. て,個々の構成員たちはそれを読み取っている.. たと言われてる.しかし,何よりも強かったの. その過程において,解釈と意味付与がなされ,. は三菱ブランドの誇りであり,だからこそ「ス. 組織の社会的現実は,意味ある世界として主観. リーダイヤに相応しくない」ことが近視眼的判. 的な現実ともなっているのである.このように,. 断のもとで保身的行為に走らせ,未曾有の社会. 意味体系としての文化は,シンボリックな世界. 的不祥事を招くことに至った.そもそも,三菱. としての性格を帯びており,人々が組織生活の. 自は97年に総会屋-の利益僕与事件を起こし,. 社会的に構成された現実に従事できるのは,徳. 「オープンでクリーンな企業として社会に受け. らがシンボル5)を作り,使用し,解釈し,意味. 入れられる存在感のある会社となる」という企. 付けを行っているからである6).っまり,シン. 業行動指針を表明していた.しかし,その文言. ボルこそが,組織の社会的現実としての文化の. は単なる作文でしかなかった.同じ技術指向で. 妥当性と自明性を維持するものであり,シンボ. あっても,故・本田宗一郎氏の「社会あっての. ルの操作によって倫理的な組織文化としての再 生産の道が開かれるわけである.. 会社だぞ」という教条のもと,反社会的行為は. もちろん,非倫理的な文化を組織の日常性の. 会社滅亡に繋がるとの意識が浸透し,品質・安 全に厳しい監視体制を敷いた本田技研の文化と. 3.

(5) 企業倫理と組織文化(四本). 153. (345). は対照的である.三菱自の場合,組織的現実の. て会社に奉仕することになってしまった.. 自明性を打ち破ったのは,内部告発を契機とす. は安全文化を醸成するための,組織・体制の整. るリコール隠しの発覚と当時の経営陣の逮捕で. 備を誓っているが,原子力事業という性質を考. あった.三菱自・ふそうは新聞の謝罪広告のな. えれば,社会の安全を含め,何よりも重視され. かで,倫理的企業への取り組みを表明したが,. て然るべきことだったであろう.. これまでの非倫理的な文化が倫理的文化として 再生産されるためには「スリーダイヤに相応し. <ヤマト運輸の「安全第一,営業第二」. JCO. >. ヤマト運輸には故・小倉昌男氏が掲げた「安. くない」ことを隠蔽してきた旧経営陣が悪役の シンボルとして解釈され,また,リコール隠し を成功させた物語が反面教師的に解釈されるよ うなシンボル操作が必要とされる.そして,. 「ス. リーダイヤに相応しくない」ことが,反社会的 行為を指すこととして解釈されるようになっ て,三菱自に倫理的組織文化が再生産されるこ とになるだろう.. 全第一,営業第二」というスローガンがある. スローガンは文化の言語的シンボルである.ち し,これが「安全第一」だけであれば,宅配業 を営む企業に共通のスローガンとして,ヤマト 運輸の従業員にはごく当たり前の標語でしかな かっただろう.しかし.. 「営業第二」と加えた. ことで,従業員たちの意味解釈・意味構成に影 響を与え,経済性よりも安全性を優先するとの. <. JCO東海村臨界事故>7). 共通の意味体系が構築されることになった.つ. 1999年,茨城県東海相のJCO事業所で臨界 事故が起きた.死者2名を含む被爆者49名を. まり,この2つの言葉を序列的に並べることに. 出し,地元住民を生命の危機に晒す,我が国最. が大きく異なってくるのである.実際に,この. 大の放射能事故であった.厳しい経営状況に. スローガンを用いたことで,ヤマト運輸は,辛 業が急激に拡大されても,配達事故や労災が大. あって,. JCOでは作業の効率化が至上命題と なり,社内報でコストダウンとそのための改善. よって,組織の社会的現実での安全性への意識. きく減ったという.これはシンボル操作によっ. 捷案が求められ,その提案に基づく形で,本来,. て,倫理的な組織文化が再生産されたケースと. 取るべき作業手順とは異なる違法な手順が「裏. いえるだろう.. マニュアル」としてまとめられていた.この作 業効率改善の提案には,会社から報奨金が出さ. 以上の3つのケースのなかで,三菱自・ふそ. れ,職員はそれを励みにするとともに会社への. うトラックバスのケースは,文化の暗黒部分と. 貢献を実感していた.現場では悪気もなければ,. も言うべき言説的呪縛によって,社会的な不祥. 違反しているという認識もなかったという.ま. 事ともなるリコール隠しが組織的な非倫理的体. さしく,組織の構成員たちが文化的シンボルと. 質を生み出したものを表している.三菱自・ふ. しての「裏マニュアル」を作り,使用し,また,. そうトラックバスは,こうして繰り返された不. 意味付け(最善の効率化手段としてのシンボル. 祥事によって,社会的信頼を失い,大きく業績. である「バケツ」発案)を行うことで,結果的. を落とすことになるわけだが,そうした危機的. に惨事を招くことになる文化を再生産していた. 状況に至っても,三菱の関係者には「三菱グルー. わけである.この背景には,コスト優先,あ. プの人間が三菱のクルマを買えば,会社は潰れ. るいは効率主義を優先価値としたがために,安 全性を図ることが疎かになってしまったという. ない」と豪語していた者がいたという.ここで. ことがある.会社をあげて取り組んだコストダ. を主に取り上げたが,そのスリーダイヤという. ウンの施策によって,職員が文字通り身を捧げ. まさに三菱のシンボルに対する過剰な崇拝が,. は「スリーダイヤに相応しくない」という教条.

(6) 154. (346). 横浜国際社会科学研究. 第11巻第2号(2006年8月). 我々の社会の倫理性・道徳性との温度差を生み 5.おわりに. 出しているのは間違いないだろう.ここでは詳 しく言及しないが,三菱マテリアルの土壌汚染. 続発する不祥事に対し,企業倫理の確立を. を隠したマンション販売や,三菱重工の橋梁談. 目指す企業が増えている.企業倫理の制度化. 合・防衛庁絡みの談合など,三菱グループの非. に様々な取り組みがなされているが,制度の導. 倫理的体質はかなり根が深い.. 入・整備面に比べ,運用性・実効性の点でまだ. さて,文化的シンボルは組織の社会的現実を. まだ成果が上がっていない.こうした実態を中. 構成するものであるが,それが非倫理的なもの. 野(2004)は「仏作って魂入れず」と表現して. である場合,シンボル操作によって文化の再 生産を先導することができるのは,やはり経営. いる.倫理的な組織文化を構築することが,仏 に魂を吹き込み,そのまま宿らせることになる. 者,組織のリーダーということになる.なぜな. だろう.. ら,一般の組織構成員たちは,シンボルにおい. 本稿では,企業倫理へのシンボリック・アプ. て文化的意味世界のなかに埋没しているからで ある.仮に,非倫理的な病魔に気付いたとして. ローチを提案し,そのなかで経営者およびリー ダーの役割の重要性を述べてきたが,ここに大. も,そこには先に述べたような自明性の権力的. きなジレンマがあることも指摘しておこう.そ. 排除や組織の斉-性圧力が働いてしまう.経営. れは特に日本企業の場合,内部昇進によって経. 者は自らの権威と権限をもって,そうした圧力. 営者になった着こそ,どっぷりとその文化に浸. を排する立場にある唯一の存在である.そして. かっており,また,その文化によって評価され. 同時に,道徳性・倫理性を備えた理念を公式に. てトップになっているということである.これ. 表明しうる存在でもある.ヤマト運輸の小倉氏. は三菱自の旧経営陣の逮捕を見れば明らかであ. や本田技研の本田宗一郎氏のように,その理念. ろう.不祥事を起こした会社がなかなか変われ. を体現することでリーダーの言動はまさに倫理. ないと言われるのもここに原因がある.だから. 的シンボルとなり,リーダーの言説を言語的シ. こそ,外部からのチェックが不可欠となる.よっ. ンボルとして,そして,倫理的行為を評価する 儀礼や儀式を行動的シンボルとして,組織の成. て,企業倫理の確立には,ガバナンスから株主 を含めた様々なステークホルダーによるチェッ. 員たちの解釈過程に影響を与え,倫理的価値観. ク&コントロールを通した外的統制の側面,檎. や信念といった意味の体系が共有されるように. 理綱領の制定・社内倫理教育の実施・企業倫理. なる.フェツファー(1981)によれば,マネジ. 担当機関の設置等の内的統制の側面,そして,. メントの重要なタスクは,共有された意味,パ. シンボリック・マネジメントによる倫理的組織. ラダイム,言語などの文化の体系を構成し,維. 文化の構築という言わば心的統制の側面の三位. 持することである.そして,言語や儀式などの. 一体の働きかけによって,初めて達成されるこ とになるだろう8).. シンボリズムは,共有された意味や信念の体系 を発達させるプロセスにおいて,重要な要素で. こうした三位一体の企業倫理の確立がなされ. あり,管理活動の焦点,あるいは目的となる. なければ,企業は本質的な部分からいつまでも. ことだとも述べている.こうした経営者や組. 変わることができない.たとえ,企業倫理担当. 織のリーダーのシンボリック・マネジメント行. 機関が設置されたとしても,それはスパイとし. 為と,組織の構成員たちの意味解釈の行為とに よって,どれだけ意味の共有化が図れるかが,. てみなされるだろうし,内部告発があれば,普 発者には組織の裏切り者のレッテルが貼られる. 非倫理的な文化を廃し,倫理的な組織文化を再. ことになりかねない.そしてまた,倫理的な組. 生産することの鍵となろう.. 織文化の確立のためには,不正を徹底的に廃し,.

(7) 企業倫理と組織文化(四本). (347). 155. 注. 図. 企業倫理確立のための3つの柱. 倫理的行為を正当化するための組織の制度づく りが不可欠である.倫理的な企業としての文化 を確立するためには,ガバナンスによる外的統 刺,組織内制度化による内的統制,そして,シ ンボリック・マネジメントによる文化的・心的 統制の3つがしっかりと据えられかナればなら ないのである.. アカデミックな世界において,組織文化・企 業文化の研究は衰退の一途を辿ってきた感があ るが,こうした企業倫理が問われる時代になっ て,再び,脚光を浴びることになるだろう.し かし,企業倫理研究においてt組織文化アプロー チの研究は,ガバナンスアプローチと内的制度 化アプローチに比べ,大きく遅れている.特に, 本稿で用いたような解釈主義的なアプローチ は,ギア-ツがいう「厚い記述」によるエスノ グラフイ-が求められることになるだろう.こ うした方法論を含め,さらなる理論的発展が待 たれるとともに,今後の課題としたい.. 1)論者により倫理には様々な定義が与えられる が,本稿では水谷(1998)の定義を踏まえ「社 会秩序を乱すような反社会的行為を否定する考 え方」と定義をしておく.また,企業の倫理的 問題を,不祥事にまつわる反社会的行為に関す る問題と限定して議論する.中村(2001)は企 業倫理の課題事項を関係領域と価値理念で整理 しているので,これも参照のこと. 2)企業文化論ブームの火付け役となったのは, ピータース&ウオーターマン(1982)の『エク セレント・カンパニー』とディール&ケネディ (1982)の『シンボリック・マネジャー』であり, 当時"強い文化''論がもてはやされた. 3)シュッツ(1970)やバーガーら(1967)の理 論をベースにするこの捉え方は近年,社会的構 成主義と呼ばれるが,組織文化論では解釈主義 として論じられてきた.但し,解釈主義的文化 論には,ギア-ツの解釈人類学からの知見が含 まれる点が,社会的構成主義との大きな違いに なるだろう. 4)築達(2003)はこの問題をビジネス・エシッ クスの正統性への懐疑として論じており,示唆 に富んでいる.アメリカのビジネス・エシック スと日本の企業倫理との相違も含め,これから 議論されるべき問題であろう. 5)ハッチ(1997)によれば,文化的シンボルは 以下のようなものがある.物理的シンボル(デ ザイン・ロゴマーク・建築物・制服・オフィス 等の物理的レイアウト等),行動的シンボル(儀 礼・儀式・コミュニケーションの方法・慣習・ 報酬/処罰等),言語的シンボル(神話・物語・ 仲間言葉・独自の説明等). 6)組織論においてシンボルに焦点をあてた研究 は組織シンボリズム論として確立されている. 詳しくは,ボンデイら(1983),アルベッソン ら(1992),高橋(1998),坂下(2002)を参照 のこと.. 7) JCOの事例については,遠田(2001)の「テ レビドキュメント『調査報告・東海村臨界事故一 緊迫の22時間を追う』」 (242-251頁)を参照 した. 1999年10月10日放送のNHKスペシャ ルの同名タイトル番組がベースになっている. 8) 2006年1月28日,日本経営学会関東部会1 月例会において,本稿をベースにして「企業の 倫理的問題と組織文化」というタイトルで研究 報告を行った.その際,作新学院大学の中村瑞 穂教授に,企業倫理の制度化には,本稿で述べ たような文化的統制も含まれているとの有り難 いご指摘を頂いた.従って,ここでの制度化と は, institutionalizationではなく,formulation.

(8) 横浜国際社会科学研究. (348). 156. 第11巻第2号(2006年8月). のことを指していると理解してもらいたい.. 参考文献 AIvesson,. M.. Culture. P. 0.. and. Berg. (1992), corporate. Organizational. and Walter. Oven,iew,. de. SymbolismI. I. (1938),The Functions. Barnard,C. Harvard. University. Press.. 杉競・飯野春樹訳『新訳 イヤモンド社, 1968) Berger,. P. and. T.. An. Gruyter. Executive,. of the (山本安次郎・田 経営者の役割』ダ. Luckmann. (1967), The Social (山口敏郎 construction ofRealiO), 訳『日常世界の構成』新曜社, 1977) 「倫理崩壊時のCollective 築達延征(2004) Myopia (集合近眼)の状態と非常識な常識 による呪縛一現象学・社会的構築主義・ハー バーマス・フーコーの方法論による実践診断 理論-」 『組織科学』Vol.37, No.4. Deal, T. E. and A. A. Kennedy (1982),corporate (城山三郎訳『シ culture, Addison-Wesley,. 1983) ンボリックマネジャー』新潮社, 出見世信之(2004) 「企業の倫理的行動-コーポ 『組織 レート・ガバナンスとの関係から-」 Vol.37, No.4. 科学』 遠田雄志(宿) (2001) 『ポストモダン経営学』文 展堂. Chandler.. Geertz,. C,. Interpretation. of Cultures, (吉田禎吾・柳川啓一・中 牧弘允・板橋作美訳『文化の解釈学』岩波書 店, 1987) ゲラ-マン, S,W.(1987), 「`善良な'マネジャー 『ダイヤモンド・ がなぜ道を踏み誤るのか」 Basic. (1973), The. Book,. Inc.. ハーバード・ビジネス・レビュー』. Feb-. Mar. Hatch,. M.. J. (1997), 07ganization. Symbolic, University. and Postmodern Press.. Theoyy/. Perspective,. 三戸浩・池内秀己・勝部伸夫(2004). 企業論』有斐閣. 水谷雅一(1998) 『経営倫理学のすすめ』丸善. 「企業倫理と『日本的経営』」 『明 中村瑞穂(1998) 治大学社会科学研究所紀要』第37巻第1号. 中村瑞穂(2001) 「ビジネス・エシックスと公益」 『公益学研究』Vol. 1, No. 1. 中野千秋(1996) 「日本における企業倫理制度 『組織科学』 化の有効性に関する一考察」 Vol.. 30, No.. 2.. 「組織における個人の倫理的意 中野千秋(2004) 思決定一組織倫理に関する実証研究の可能性 を探る-」 『組織科学』Vol. 37, No. 4. 小倉昌男(1999) 『小倉昌男経営学』日経BP社. Pfeffer,. ∫,(1981),. Action:. ``Management. The. Creation. Organizational. Behavior,. as. Symbolic. Maintenance. and Paradigms'', B. M. Staw of Organizational L. L. Cummings in (eds), Reserch and. Pondy,. L., P. Frost,. (eds) (1983),. 1 152・ T. Dandridge. Vol・ 3・ pp・. G. Morgan organizatonal. and. Symbolism.. JAI Press. 坂下昭宣(2002) 『組織シンボリズム論一論点と 方法-』白桃書房. Greenwich,. Schein,. E.. CT:. H.. Culture and (1992), organizational 2nd Edition, LeadershlP, Jossey-Bass・ Schutz, A. (1970), on phenomenology and Social Chicago Press. (# Relations, University of 川具現雄・浜日出夫訳『現象学的社会学』紀 伊国屋書店, 1980) 高橋正泰(1998)『組織シンボリズムーメタファー. の組織論』同文館. 『組織 「意味体系としての環境」 田中政光(2003) 科学』 Vol. 37, No, 4. 「組織文化論の2つのパースペ 四本雅人(2000) クティヴ」 『横浜国際社会科学研究』第5巻 第3号.. Modern, Oxford. 『<新版>. [よつもと 発研究科]. まさと. 横浜国立大学大学院国際開.

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図 企業倫理確立のための3つの柱 倫理的行為を正当化するための組織の制度づく りが不可欠である.倫理的な企業としての文化 を確立するためには,ガバナンスによる外的統 刺,組織内制度化による内的統制,そして,シ ンボリック・マネジメントによる文化的・心的 統制の3つがしっかりと据えられかナればなら ないのである

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