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管理職の健康──他職種との比較,時代的変遷,今後の課題(PDF:985KB)

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 目 次 Ⅰ はじめに Ⅱ 管理職の健康状況 Ⅲ 管理職の生活習慣 Ⅳ 管理職の死亡率 Ⅴ 考 察 Ⅵ おわりに

Ⅰ は じ め に

公衆衛生学の一分野として産業保健は労働者の 災害や疾病を未然に防ぎ,その健康保持と増進を 特集●変化する管理職の役割と地位

管理職の健康

――他職種との比較,時代的変遷,今後の課題

管理職の役割が変化する中で,わが国の管理職は他の職種と比べて健康であると言える のか。本稿では管理職の健康について疫学データを提示し,他職種との比較,時代的変 遷,今後の課題を考察した。『国民生活基礎調査』をもとに主観的健康感,糖尿病通院割 合,高血圧症通院割合,喫煙状況,飲酒状況を職業別に分析したところ,男女とも他職種 に比べて,特に専門職や事務職との比較において管理職が明らかに健康状態がよいと結論 づけられるほど大きな差は認められなかった。人口動態職業・産業別調査の分析による と,男性管理職の死亡率は 1980 年代から 1990 年代中頃にかけては他の職業に比べて低い 状況であったが,1990 年代後半から死亡率が大きく上昇して他の職業と傾向が逆転した。 この傾向は 2000 年以降も続き,2015 年においても管理職の死亡率は事務職や専門職に比 べて相対的に高い状況が続いている。1995 年頃までわが国の男性管理職(専門職を含む) の死亡率はフランス,スイスなどと同じ水準で推移していたが,2000 年以降に死亡率が 急上昇して高止まりしたため 2010 年以降もこれらの国に比べて高い水準であった。働く 女性の健康に関する研究は特に少なく,社会・雇用環境が変化する中でどのように労働と 健康をめぐる諸課題を把握して対応していくか課題となっている。管理職自身がよい健康 状態を保ち働き続けることは働き方改革の成否を握るキーポイントと言えるだろう。

田中 宏和

(エラスムス大学医療センター研究員)

小林 廉毅

(東京大学大学院教授) 目的として発展してきた。歴史的には特に現業の 労働者(工場作業者や建設作業者など)の安全と健 康に重点が置かれてきた経緯がある。その中で, 管理職は労働現場に従事する労働者を指揮し組織 の運営にあたる職務上,産業保健活動の主要な対 象ではなかったと言えるだろう。つまり,管理職 はその部下である労働者の安全と健康を管理・監 督する立場であるが,自身は産業現場の危険にさ らされることは少なく,また,その他の職種と比 較して裁量度が高くストレスが低いとされ,「管 理職は健康である」こと,「健康であるからこそ 労働者の指揮・組織の運営ができる」と考えられ

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てきた。 しかし,日本社会が 1990 年代以降「失われた 20 年」とよばれる長期的な経済不況を経験し企 業を取り巻く環境の変化により,管理職の役割が 変化(例えば組織の管理と実務の両方をこなすプレ ーイングマネージャー化など)する中で,管理職の 健康も大きな影響を受けていると思われる。『国 勢調査』(総務省 2015)の結果では,男性の管理 職の人口割合は長期的に低下していることがわか っており,組織自体の規模が変わっていない,も しくは大きくなっていると仮定すると一人ひとり の管理職にかかる業務負担は増していると考えら れる。これを裏付けるように,管理職の過労死・ 過労自殺の事例も報告されている。したがって近 年では労働者の健康管理のなかで,管理職自身の 健康をどう守るかについても産業保健の重要なト ピックになっている。 近年のわが国の労働と健康に関する動きの一つ に,官民が推進する健康経営という考え方があ る。健康経営は経営的な視点から従業員などの健 康管理を「投資」として捉え戦略的に実践するこ とと定義され,その結果として従業員の健康増進 による生産性の向上や業績・企業価値向上が期待 されている(経済産業省 2019)。健康経営の実践 において部下である労働者の健康管理を担当する 管理職の役割は大きい。こうした新たな経営戦略 の流れにおいても管理職は組織を構成する労働者 の健康の管理・監督とともに自身の健康管理を実 践することがますます重要になっている。また, 性別で見ると管理職は男性が多くを占めていた が,政府は女性活躍の目標として女性管理職比率 を 30%とすることを掲げており,今後,女性管 理職の増加が予想される。労働者の健康を守ると いう理念は男女で本質的に大きな違いはないもの の,女性には妊娠・分娩,あるいは女性特有の疾 患がある一方,後述するように女性管理職の健康 問題に関する調査・報告が少ないことから,女性 管理職の健康管理に関する学術的蓄積は限られて いる。したがって,管理職の健康というテーマを 考える上で女性の管理職に着目する視点も今後の 課題として重要であろう。 本稿ではわが国の管理職は他の職種と比べて健 康であると言えるのかという問いに対して,男女 ともに焦点を当てて議論するために公的統計を分 析して疫学データを提示し,その特徴を考察す る。具体的には,『国民生活基礎調査』(厚生労働 省),『国勢調査』(総務省)および『人口動態統 計』(厚生労働省)の個票データの二次利用による 分析とこれらのデータを用いた先行研究のレビュ ーを通じて,管理職と他の職種(職業)との健康 状態や生活習慣などの比較,時代的変遷,今後の 課題について論じる。

Ⅱ 管理職の健康状況

1 分析データ 管理職の健康状況について『国民生活基礎調 査』(厚生労働省 2017)を用いて分析を行った。 健康状況を示す指標として主観的健康感,糖尿病 通院割合,高血圧症通院割合を取り上げた。な お,本稿における管理職とは日本標準職業分類 (大分類)により定義された「管理的職業従事者 (生産や販売の現場ではなく,オフィスにおいて,専 ら経営体の全般又は課(課相当を含む)以上の内部 組織の経営・管理に従事するものをいう)」を指す。 その他の職種(職業)についても特に断りがない 限り日本標準職業分類(大分類)(総務省 2012)に 準拠する。 『国民生活基礎調査』は厚生労働省が保健,医 療,福祉,年金,所得等,国民生活の基礎的事項 を調査し,厚生労働行政の企画及び運営に必要な 基礎資料を得るために実施する基幹統計の一つで ある。毎年,所得に関する調査が行われ 3 年に一 度,健康・介護・貯蓄などの項目も含めた大規模 調査が全国の住民を対象に実施されている。2016 年の調査(厚生労働省 2017)では無作為抽出され た国勢調査区の世帯員(約 71 万人)を対象に調査 された。健康票については 1986 年から 2016 年ま での 3 年毎に分析が可能である。本分析は『国民 生活基礎調査』の個票データ(各年度約 70 万人) を厚生労働省の許可(承認番号:令和元年 7 月 1 日 -1)を受け分析した。また,東京大学大学院医学 系研究科・医学部倫理委員会の承認(承認番号:

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2018112NI)を受けて分析を実施した。 職業は日本標準職業分類をもとに「管理的職業 従事者」「専門的・技術的職業従事者」「事務従事 者」「販売従事者」「サービス職業従事者」「保安 職業従事者」「農林漁業従事者」「輸送・機械運転 従事者」「生産工程従事者/建設・採掘従事者/運 搬・清掃・包装等従事者」「無職/不詳」の 10 区 分に分類した。分析は生産年齢人口を対象とし, 25 歳から 64 歳までに限定し 5 歳区分で男女別に 行った。20~24 歳は就労していない人(大学,大 学院,短期大学,専門学校などの高等教育機関に在 学している人など)が一定数いるため分析から除 外した。『国民生活基礎調査』は重み付けのため 各個票データに対して拡大乗数(対象地域の人口 に対する調査参加者数の逆数)が設定されており, 全ての解析はこれを用いて重み付けを行った。ま た,時代的変遷をみる際には,人口の年齢構成の 変化(少子高齢化など)を考慮することが必要な ため,標準的な方法による年齢調整を実施してい る。 表1に 2016 年の『国民生活基礎調査』におけ る調査参加者(25-64 歳)の職業分布と重み付け 割合(主観的健康感の有効回答があった人の人数と 割合)を示す。就労者のうち管理職が占める割 合は男性では 12.2%,女性では 2.1%であった。 2015 年の『国勢調査』の結果によれば就労者の うち管理職が占める割合は男性では 3.2%,女性 では 0.7%であり,特に男性において実際の管理 職の人口割合より相対的に多くサンプリングさ れていた。また事務職が占める割合は男性で 8.8 %,女性で 27.2%であり,2015 年の『国勢調査』 の結果(男性 16.1%,女性 29.0%)と比較すると男 表1 国民生活基礎調査における職業分布と重み付け割合*(2016 年) n (%) 重み付け割合(%) 男性 全人口(25-64 歳) 131,121 職業(日本標準職業分類) 管理的職業従事者 12,204 11.2 12.2 専門的・技術的職業従事者 29,720 27.3 28.6 事務従事者 9,156 8.4 8.8 販売従事者 8,167 7.5 7.9 サービス職業従事者 12,744 11.7 12.0 保安職業従事者 2,334 2.1 2.2 農林漁業従事者 3,778 3.5 2.4 輸送・機械運転従事者 5,025 4.6 4.6 生産工程従事者/建設・採掘従事者/運搬・清掃・包装等従事者 25,558 23.5 21.4 無職/不詳 22,435 女性 全人口(25-64 歳) 136,925 職業(日本標準職業分類) 管理的職業従事者 1,812 2.0 2.1 専門的・技術的職業従事者 22,955 25.7 25.1 事務従事者 23,022 25.7 27.2 販売従事者 7,969 8.9 9.1 サービス職業従事者 21,216 23.7 24.0 保安職業従事者 136 0.2 0.1 農林漁業従事者 2,176 2.4 1.8 輸送・機械運転従事者 242 0.3 0.3 生産工程従事者/建設・採掘従事者/運搬・清掃・包装等従事者 9,931 11.1 10.2 無職/不詳 47,466 * 2016 年『国民生活基礎調査』の参加者のうち主観的健康感の有効回答があった人の人数と割合である。割合(%)は無職/不詳 を除いた職業分布を示す。 出所:厚生労働省より提供された『国民生活基礎調査』個票データより筆者が分析し作成。

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性において少ない割合でサンプリングされていた

(Tanaka, Tanaka and Wada 2020)。

2 主観的健康感 (1)主観的健康感の分析 主観的健康感は自らの健康状態について主観的 な判断に基づいて評価される健康指標である。主 観的健康感は社会調査や疫学調査で簡便に測定さ れ個人の医学的な健康状態と相関し,その後の 死亡リスクと強い関連が報告されている重要な 健康指標の一つである(Jylha 2009; Miilunpalo et al. 1997; Burstrom and Fredlund 2001)。『国民生活 基礎調査』において「あなたの現在の健康状態 はいかがですか」の質問に対し「よい」「まあよ い」「ふつう」「あまりよくない」「よくない」の 5 段階で調査されたものを「よい(0)」「まあよ い(1)」「ふつう(2)」「あまりよくない/よくな い(3)」の 4 区分とし,順序尺度とした。分析に は順序ロジスティック回帰モデルを用い(Lall et al. 2002),年齢と職業を共変量とし,各職業につ いて管理職に対して「より悪い主観的健康感をも つ確率」をオッズ比として推定した。得られた回 帰モデルから年齢調整済みの職業別の主観的健康 感の分布を算出した(Williams 2012)。なお,日 本人の主観的健康感はその他の高所得国と比べて 「あまりよくない/よくない」と答える者の割合が 高いことが報告されている(OECD 2019)。 (2)職業別の主観的健康感(2016 年) 図 1 に 2016 年の職業別の主観的健康感の結果 を示す。管理職は主観的健康感について「よい」 と答えた人の割合が男性で 26.6%,女性で 23.3% であり男女とも(人口の少ない保安職を除いて)最 も高かった。しかし,主観的健康感の結果が最も 悪い傾向にあった生産工程・労務作業者(「よい」 と答えた人の割合は男性で 19.4%)と比べて大きな 差は観察されなかった。したがって,わが国の管 理職の主観的健康感はその他の職業と比べてよい 傾向にあるが,その差は小さい状況であると言え る。 (3)主観的健康感の経年変化(1986-2016 年) 図 2 に管理職とその他の職業の主観的健康感に ついて「あまりよくない/よくない」と答えた割 合の経年変化を示す。1986 年において管理職で 「あまりよくない/よくない」と答えた人の割合は 図1 管理職とその他の職業の主観的健康感(25-64歳,2016年) 出所:厚生労働省より提供された『国民生活基礎調査』個票データより筆者が分析し作成。 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 管理的職業従事者 専門的・技術的職業従事者 事務従事者販売従事者 サービス職業従事者 保安職業従事者農林漁業従事者 輸送・機械運転従事者 生産工程・労務作業従事者 管理的職業従事者 専門的・技術的職業従事者 事務従事者販売従事者 サービス職業従事者 保安職業従事者農林漁業従事者 輸送・機械運転従事者 生産工程・労務作業従事者 割合︵ % ︶ あまりよくない/よくない ふつう まあよい よい 男性 女性

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男性 8.8%,女性 11.0%であり,男女とも事務職, サービス職,生産工程・労務作業者に比べて割合 が小さかった。1995 年頃まで全ての職業で主観 的健康感について「あまりよくない/よくない」 と答えた人の割合は低下し,その後この割合は上 昇した。管理職もその傾向に沿った変化をしてお り,2016 年までの過去 30 年間において主観的健 康感について「あまりよくない /よくない」と答 えた人の割合はその他の職業に比べて低かった。 管理職とその他の職業の差は,2007 年以降わず かに拡大しており,近年の管理職は男女ともその 他の職業に比べて主観的健康感がよい傾向で推移 していた。 3 糖尿病通院割合 (1)糖尿病通院割合の分析 糖尿病は生活習慣病の一つであり,糖尿病性網 膜症などの合併症を引き起こすとともに心血管疾 患などのリスクを高め生活の質に大きく影響する 慢性疾患である。疫学的には高齢者の方が生産年 図2 管理職とその他の職業の主観的健康感「あまりよくない/よくない」の割合の経年変化(25-64歳,1986-2016年) 出所:厚生労働省より提供された『国民生活基礎調査』個票データより筆者が分析し作成。 0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0 14.0 16.0 割合︵ % ︶ 割合︵ % ︶ 0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0 14.0 16.0 (A)男性 1986 1989 1992 1995 1998 2001 2004 2007 2010 2013 2016 調査年 1986 1989 1992 1995 1998 2001 2004 2007 2010 2013 2016 調査年 (B)女性 管理職 事務職 サービス職 生産工程・労務作業者 管理職 事務職 サービス職 生産工程・労務作業者

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齢人口より糖尿病有病割合は高いが,定期的な通 院による専門医の診察,生活習慣指導や投薬の管 理が重要であり,労働者世代に対する糖尿病対策 は重要な課題になっている。『国民生活基礎調査』 において傷病で「通院している」と答えた者でそ の傷病名(複数回答可)について糖尿病と答えた 者を糖尿病患者として定義し,25 歳から 64 歳ま での年齢調整した糖尿病通院割合を算出した。 (2)職業別の糖尿病通院割合の変化(1986-2016 年) 表 2 に管理職とその他の職業の糖尿病通院割合 の変化を示す。1986 年において,男性の管理職 の糖尿病通院割合は 1.9%(95%信頼区間:1.6-2.1 %)であり,他の職業に比べて高い傾向にあった ものの差は小さかった。糖尿病の有病割合は過去 30 年間で全体的に増加しており,2016 年におい て男性の管理職の糖尿病通院割合は 3.9%(95% 信頼区間:3.7-4.2%)であり,2.0 ポイント増加し た。他の職業においては販売職を除いて 2.0 ポイ ント以上の増加しており,管理職の増加率は相対 的に小さかった。女性では 2016 年において管理 職の糖尿病通院割合は 1.0% (95%信頼区間:0.6-1.3%)であり,他の職業に比べて低い傾向であっ た。 4 高血圧症通院割合 (1)高血圧症通院割合の分析 高血圧症は動脈硬化の原因となり心血管疾患な どのリスクを高める。高血圧症はわが国の通院者 において最も大きい割合を占めており,労働者世 代においても必要に応じて投薬や生活習慣の改善 が重要である。『国民生活基礎調査』において傷 病で「通院している」と答えた者でその傷病名 (複数回答可)について高血圧症と答えた者を高血 圧症患者として定義し,25 歳から 64 歳までの年 表 2 職業別の糖尿病通院割合の変化(25-64 歳,1986-2016 年) 1986 年 2016 年 変化 % 95% 信頼区間 % 95% 信頼区間 % 男性 職業(日本標準職業分類) 管理的職業従事者 1.9 (1.6 - 2.1) 3.9 (3.7 - 4.2) 2.0 専門的・技術的職業従事者 1.4 (1.2 - 1.6) 3.4 (3.2 - 3.6) 2.0 事務従事者 1.6 (1.4 - 1.8) 3.8 (3.4 - 4.1) 2.1 販売従事者 1.9 (1.7 - 2.2) 3.7 (3.3 - 4.1) 1.7 サービス職業従事者 1.4 (1.1 - 1.7) 4.0 (3.7 - 4.4) 2.7 保安職業従事者 1.7 (1.1 - 2.3) 4.6 (3.8 - 5.3) 2.9 農林漁業従事者 0.8 (0.7 - 1.0) 4.5 (3.8 - 5.2) 3.6 輸送・機械運転従事者 1.2 (0.9 - 1.5) 4.3 (3.8 - 4.8) 3.1 生産工程従事者/建設・採掘従事者/運搬・清掃・包装等従事者 1.0 (0.9 - 1.1) 3.2 (3.0 - 3.5) 2.2 無職/不詳 2.6 (2.3 - 2.9) 4.9 (4.7 - 5.2) 2.3 女性 職業(日本標準職業分類) 管理的職業従事者 0.9 (0.4 - 1.5) 1.0 (0.6 - 1.3) 0.1 専門的・技術的職業従事者 0.8 (0.5 - 1.1) 1.4 (1.2 - 1.5) 0.5 事務従事者 1.0 (0.7 - 1.2) 1.4 (1.3 - 1.6) 0.5 販売従事者 0.9 (0.7 - 1.1) 1.4 (1.2 - 1.6) 0.5 サービス職業従事者 1.1 (0.8 - 1.3) 1.6 (1.4 - 1.7) 0.5 保安職業従事者 0.0 (0.0 - 0.0) 1.4 (0.0 - 3.4) 1.4 農林漁業従事者 0.6 (0.4 - 0.7) 2.0 (1.4 - 2.7) 1.5 輸送・機械運転従事者 0.7 (0.0 - 1.5) 2.3 (0.4 - 4.1) 1.6 生産工程従事者/建設・採掘従事者/運搬・清掃・包装等従事者 0.7 (0.6 - 0.8) 1.7 (1.4 - 1.9) 1.0 無職/不詳 1.1 (1.0 - 1.2) 2.4 (2.2 - 2.5) 1.2 出所:厚生労働省より提供された『国民生活基礎調査』個票データより筆者が分析し作成。

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齢調整した高血圧症通院割合を算出した。 (2)職業別の高血圧症通院割合の変化 (1986-2016 年) 表 3 に管理職とその他の職業の高血圧症通院 割合の変化を示す。1986 年において,男性の管 理職の高血圧症通院割合は 6.2%(95%信頼区間: 5.7-6.7%)であり,他の職業に比べて高い傾向に あったものの差は小さかった。高血圧症の有病割 合は過去 30 年間で全体的に増加しており,2016 年において男性の管理職の高血圧症通院割合は 9.3%(95%信頼区間:9.0-9.7%)であり,3.1 ポイ ント増加した。男性の事務職では 8.8%(95%信 頼区間:8.3-9.3%),生産工程・労務作業者では 7.5%(95%信頼区間:7.2-7.8%)であり,無職を除 いて最もこの割合が低いのは専門職でその割合は 7.4%(95%信頼区間:7.1-7.7%)であった。した がって男性の管理職の高血圧症通院割合はその他 の職業に比べて最も高い傾向のままであった。女 性では 1986 年から 2016 年にかけて高血圧症通院 割合は全体的にほぼ変わっていなかった。女性で は 2016 年において管理職の高血圧症通院割合は 5.1%(95%信頼区間:4.3-5.9%)であり,事務職 やサービス職と同じくらいの割合であった。

Ⅲ 管理職の生活習慣

1 分析データ 管理職の生活習慣について喫煙と飲酒を取り上 げ,『国民生活基礎調査』(厚生労働省 2017)を用 いて分析を行った。喫煙状況と飲酒状況について は『国民生活基礎調査』において 2001 年以降に, 調査項目に加えられ調査が行われている。調査参 加者の特徴は健康状況の分析と同じである。ま た,全ての解析は拡大乗数を用いて重み付けを行 表 3 職業別の高血圧症通院割合の変化(25-64 歳,1986-2016 年) 1986 年 2016 年 変化 % 95% 信頼区間 % 95% 信頼区間 % 男性 職業(日本標準職業分類) 管理的職業従事者 6.2 (5.7 - 6.7) 9.3 (9.0 - 9.7) 3.1 専門的・技術的職業従事者 4.7 (4.3 - 5.1) 7.4 (7.1 - 7.7) 2.7 事務従事者 5.5 (5.1 - 5.9) 8.8 (8.3 - 9.3) 3.3 販売従事者 5.5 (5.1 - 5.9) 8.0 (7.5 - 8.6) 2.5 サービス職業従事者 4.7 (4.1 - 5.2) 7.5 (7.0 - 7.9) 2.8 保安職業従事者 5.4 (4.4 - 6.3) 9.1 (8.1 - 10.2) 3.8 農林漁業従事者 3.9 (3.6 - 4.3) 8.2 (7.4 - 9.1) 4.3 輸送・機械運転従事者 5.8 (5.0 - 6.5) 8.5 (7.9 - 9.2) 2.8 生産工程従事者/建設・採掘従事者/運搬・清掃・包装等従事者 4.6 (4.4 - 4.9) 7.5 (7.2 - 7.8) 2.9 無職/不詳 6.8 (6.4 - 7.2) 7.3 (7.0 - 7.6) 0.6 女性 職業(日本標準職業分類) 管理的職業従事者 4.9 (3.7 - 6.1) 5.1 (4.3 - 5.9) 0.2 専門的・技術的職業従事者 4.8 (4.1 - 5.5) 5.2 (4.9 - 5.5) 0.4 事務従事者 5.0 (4.5 - 5.6) 4.6 (4.4 - 4.9) -0.4 販売従事者 5.2 (4.8 - 5.6) 5.0 (4.6 - 5.4) -0.2 サービス職業従事者 5.8 (5.3 - 6.2) 5.0 (4.8 - 5.3) -0.7 保安職業従事者 4.3 (0.0 - 8.9) 10.9 (4.4 - 17.4) 6.6 農林漁業従事者 4.8 (4.4 - 5.2) 6.9 (5.9 - 7.8) 2.1 輸送・機械運転従事者 8.7 (4.5 - 12.8) 9.0 (5.5 - 12.5) 0.4 生産工程従事者/建設・採掘従事者/運搬・清掃・包装等従事者 5.7 (5.3 - 6.1) 5.4 (5.0 - 5.8) -0.2 無職/不詳 6.2 (6.0 - 6.3) 5.4 (5.2 - 5.6) -0.8 出所:厚生労働省より提供された『国民生活基礎調査』個票データより筆者が分析し作成。

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い,標準的な方法による年齢調整を実施した。 2 喫煙率 (1)喫煙率の分析 喫煙は肺がん,咽頭がん,喉頭がん,食道がん 等の悪性新生物や虚血性心疾患,呼吸器疾患など を引き起こし,糖尿病や歯周病など多くの疾患 とも関連する疾病リスク要因である。わが国で 喫煙率は特に労働者世代の男性で高く(Tanaka, Mackenbach and Kobayashi 2020),精神的なスト レスが喫煙習慣を促進したり,あるいは禁煙を妨 げたりするとも言われている。『国民生活基礎調 査』において喫煙に関する質問項目の「あなたは たばこを吸いますか」に対して「毎日吸ってい る」または「時々吸う日がある」と回答した人を 現在喫煙者と定義し,25 歳から 64 歳までの年齢 調整した喫煙率を算出した。 (2)職業別の喫煙率の変化(2001-2016 年) 表 4 に管理職とその他の職業の喫煙率の変化 を示す。喫煙率は職業別に明瞭な差が観察され た。男性では 2001 年において管理職の喫煙率 は 54.2%(95%信頼区間:53.1-55.3%)であり,最 も喫煙率が低かった事務職の 48.9%(95%信頼区 間:48.0-49.8%)に比べて 5.3 ポイント高かった。 2001 年から 2016 年にかけてすべての職業で喫煙 率は低下した。この期間に最も喫煙率が低下した のは事務職であり,喫煙率は 21.0 ポイントの低 下であったが,管理職では 17.8 ポイントの低下 で差は広がった。男性管理職の喫煙率は大半の職 業に比べて低い傾向にあるものの約 3 人に 1 人は 喫煙者という状況にある。 表 4 職業別の喫煙率の変化(25-64 歳,2001-2016 年) 2001 年 2016 年 変化 (2001-2016 年) % 95% 信頼区間 % 95% 信頼区間 % 変化* 男性 職業(日本標準職業分類) 管理的職業従事者 54.2 (53.1 - 55.3) 36.4 (35.2 - 37.7) −17.8 −32.8 専門的・技術的職業従事者 49.7 (49.1 - 50.3) 31.6 (31.1 - 32.1) −18.1 −36.4 事務従事者 48.9 (48.0 - 49.8) 27.9 (27.0 - 28.8) −21.0 −42.9 販売従事者 58.8 (58.0 - 59.6) 40.2 (39.2 - 41.2) −18.6 −31.7 サービス職業従事者 60.1 (59.2 - 60.9) 42.2 (41.4 - 43.0) −17.9 −29.7 保安職業従事者 55.6 (53.8 - 57.4) 37.3 (35.3 - 39.2) −18.3 −33.0 農林漁業従事者 58.1 (56.4 - 59.7) 45.8 (43.7 - 47.8) −12.3 −21.2 輸送・機械運転従事者 64.6 (63.5 - 65.7) 48.3 (46.8 - 49.7) −16.4 −25.3 生産工程従事者/建設・採掘従事者/運搬・清掃・包装等従事者 61.8 (61.3 - 62.4) 47.9 (47.2 - 48.5) −14.0 −22.6 無職/不詳 55.6 (54.8 - 56.3) 38.2 (37.5 - 38.8) −17.4 −31.3 女性 職業(日本標準職業分類) 管理的職業従事者 20.8 (18.9 - 22.7) 14.2 (12.3 - 16.1) −6.6 −31.6 専門的・技術的職業従事者 15.0 (14.4 - 15.6) 10.5 (10.1 - 10.9) −4.6 −30.3 事務従事者 14.0 (13.5 - 14.5) 9.4 (9.0 - 9.7) −4.7 −33.2 販売従事者 23.5 (22.7 - 24.3) 16.3 (15.5 - 17.1) −7.2 −30.7 サービス職業従事者 24.1 (23.4 - 24.8) 18.5 (17.9 - 19.0) −5.6 −23.3 保安職業従事者 20.0 (16.9 - 23.1) 20.7 (12.7 - 28.7) 0.7 3.4 農林漁業従事者 14.2 (12.7 - 15.7) 11.5 (9.2 - 13.7) −2.8 −19.5 輸送・機械運転従事者 34.2 (29.8 - 38.7) 38.5 (32.6 - 44.5) 4.3 12.5 生産工程従事者/建設・採掘従事者/運搬・清掃・包装等従事者 18.4 (17.7 - 19.1) 18.3 (17.5 - 19.2) −0.1 −0.5 無職/不詳 16.1 (15.8 - 16.3) 12.3 (12.0 - 12.6) −3.7 −23.2 *2001 年を基準とした,2001 年から 2016 年の喫煙率パーセンテージの変化(%) 出所:厚生労働省より提供された『国民生活基礎調査』個票データより筆者が分析し作成。

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女性では 2001 年において管理職の喫煙率は 20.8 %(95 % 信 頼 区 間:18.9-22.7 %)で あ り, 最 も喫煙率が低かった事務職の 14.0%(95%信頼区 間:13.5-14.5%)に比べて 6.8 ポイント高かった。 2001 年から 2016 年にかけて管理職では喫煙率が 6.6 ポイント低下した。 3 飲酒状況 (1)飲酒状況の分析 飲酒は適量であれば循環器疾患などの予防効果 が認められている一方で,過度の飲酒は急性アル コール中毒や食道がん,肝臓疾患など生活習慣病 の原因となる。2016 年『国民生活基礎調査』に おいて飲酒に関する質問のうち,「あなたは週に 何日くらいお酒(清酒,焼酎,ビール,洋酒など) を飲みますか」と「お酒を飲む日は 1 日あたり, どのくらいの量を飲みますか」の回答から算出 された飲酒量が,1 日当たりの純アルコール摂取 量換算にて男性 40g 以上,女性 20g 以上の者を 「生活習慣病のリスクを高める量を飲酒している 者」と定義した。この定義は厚生労働省が推進す る「健康日本 21(第二次)」における生活習慣病 のリスクを高める量の飲酒と同じものである(厚 生労働省 2013)。職業別に生活習慣病のリスクを 高める量を飲酒している者の割合を 25 歳から 64 歳まで年齢調整して算出した。 (2)職業別の飲酒状況(2016 年) 表 5 に管理職とその他の職業の生活習慣病のリ スクを高める量を飲酒している者の割合を示す。 男性の管理職で「生活習慣病のリスクを高める 量を飲酒している者」の割合は 19.5%(95%信頼 区間:18.6-20.3%)であり,専門職(15.8%)や事 務職(14.9%)と比べてやや高く,どちらかと言 うと飲酒割合の高い職業の 1 つと考えられた。女 性の管理職では「生活習慣病のリスクを高める量 を飲酒している者」の割合は 16.6%(95%信頼区 間:14.8-18.4%)であり,専門職(12.1%)や事務 表 5 職業別の生活習慣病のリスクを高める量を飲酒している者の割合(25-64 歳,2016 年) % 95% 信頼区間 男性 職業(日本標準職業分類) 管理的職業従事者 19.5 (18.6 - 20.3) 専門的・技術的職業従事者 15.8 (15.4 - 16.2) 事務従事者 14.9 (14.3 - 15.6) 販売従事者 19.8 (19.0 - 20.6) サービス職業従事者 19.2 (18.5 - 19.8) 保安職業従事者 16.5 (15.1 - 17.9) 農林漁業従事者 19.7 (18.1 - 21.2) 輸送・機械運転従事者 19.7 (18.6 - 20.7) 生産工程従事者/建設・採掘従事者/運搬・清掃・包装等従事者 20.2 (19.7 - 20.7) 無職/不詳 14.0 (13.6 - 14.5) 女性 職業(日本標準職業分類) 管理的職業従事者 16.6 (14.8 - 18.4) 専門的・技術的職業従事者 12.1 (11.7 - 12.5) 事務従事者 12.6 (12.2 - 13.0) 販売従事者 13.7 (12.9 - 14.4) サービス職業従事者 15.6 (15.2 - 16.1) 保安職業従事者 21.5 (14.1 - 28.9) 農林漁業従事者 9.0 (7.3 - 10.8) 輸送・機械運転従事者 23.3 (18.3 - 28.3) 生産工程従事者/建設・採掘従事者/運搬・清掃・包装等従事者 12.3 (11.7 - 13.0) 無職/不詳 10.0 (9.8 - 10.3) 出所:厚生労働省より提供された『国民生活基礎調査』個票データより筆者が分析し作成。

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職(12.6%)と比べてやや高かった。したがって 管理職の健康リスクに影響を及ぼしうる飲酒状況 は専門職と事務職を除いてその他の職種とほぼ同 等と考えられる。

Ⅳ 管理職の死亡率

1 職業別死亡率に関する統計 わが国において,職業別死亡率は『国勢調査』 の実施年度に合わせて行われる『人口動態職業・ 産業別調査』にて 5 年に1度,厚生労働省により 調査されている(田中・豊川・小林 2016; 厚生労働 省 2018)。『人口動態職業・産業別調査』では調 査年の 4 月 1 日から翌年 3 月 31 日までに死亡し た人で定められた期間に届けられたものが集計 され,全数調査となっている(厚生労働省 2018)。 亡くなった人の職業については通常の死亡届の項 目に加えて死亡時の職業を届出者が職業・産業例 示表から選択し記号を記入することで調査され る(厚生労働省 2018)。この死亡者数を分子,『国 勢調査』における職業別人口を分母として横断調 査として死亡率が算出される(厚生労働省 2018)。 下記ではわが国の職業別死亡率とその推移につい て,筆者らの先行研究で示されたデータをもとに 管理職に焦点を当てて議論する。 2 管理職とその他の職業の死亡率(2015 年) (1)男性の職業別死亡率 表 6 に 2015 年の男性の職業別死亡率を示す

(Tanaka, Tanaka and Wada 2020)。管理職の死亡 率は 193.0(人口 10 万人対)であり,サービス職 と農林漁業従事者に次いで 3 番目に高かった。管 理職では最も死亡率の低い事務職(53.7/ 人口 10 万人)に比べて 3 倍以上の死亡リスクとなってい る。死因別に見ると悪性新生物,循環器疾患とも に死亡率が高く,特に外因死(不慮の事故や自殺 を含む)による死亡率は管理職では農林漁業従事 者に次いで 2 番目に高かった。 (2)女性の職業別死亡率 表 7 に 2015 年の女性の職業別死亡率を示す (田中 2019)。管理職の死亡率は 246.3(人口 10 万 人対)であり,建設・採掘従事者と輸送・機械運 転従事者に次いで 3 番目に高かった。最も死亡率 の低い事務職(24.2/ 人口 10 万人)に比べて,管 理職の死亡リスクはおよそ 10 倍であった。した がって,女性の管理職は死亡率が高い傾向にある 表 6 男性の職業別の死亡率(25-64 歳,2015 年) 就業者 死亡者 全死因死亡率 (人口 10 万人対) 死因別死亡率(人口 10 万人対) 人口(人) (%) (人) 悪性新生物 循環器疾患 外因死 その他 (C00-D48)* (I00-I99)(V01-Y98)* 就業者総数 24,863,422 28,695 101.0 36.1 26.8 25.2 12.9 職業(日本標準職業分類) 管理的職業従事者 794,143 (3.2) 2,031 193.0 64.6 42.5 62.8 23.1 専門的・技術的職業従事者 4,173,468 (16.8) 4,840 110.3 43.4 28.6 25.5 12.7 事務従事者 4,003,816 (16.1) 2,495 53.7 21.1 12.8 13.8 5.9 販売従事者 3,377,013 (13.6) 2,890 82.1 32.0 21.9 17.2 10.9 サービス職業従事者 1,467,882 (5.9) 3,579 240.3 80.2 66.7 57.9 35.5 保安職業従事者 791,484 (3.2) 794 90.1 27.2 25.3 26.9 10.6 農林漁業従事者 642,983 (2.6) 2,017 211.4 53.8 51.3 72.1 34.1 輸送・機械運転従事者 1,568,689 (6.3) 2,015 100.3 33.5 27.8 27.4 11.6 生産工程従事者 4,528,220 (18.2) 3,424 73.8 26.2 20.5 18.7 8.4 建設・採掘従事者 2,024,420 (8.1) 3,546 146.9 47.7 37.5 40.6 21.1 運搬・清掃・包装等従事者 1,491,304 (6.0) 1,064 62.1 18.5 21.4 14.1 8.1 無職 6,199,344 58,569 765.8 240.0 175.1 137.7 213 *International Statistical Classification of Diseases 10th Revision(ICD-10)

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と言えるが,女性の管理職を含め死亡率が高い職 業(建設・採掘従事者,輸送・機械運転従事者,保 安職業従事者)の就業者全体に占める人口割合は 1%以下であり,死亡統計におけるバイアス(ア ーチファクト)が原因で極端に高い死亡率となっ ている可能性がある。このため,女性の職業別死 亡率の解釈には注意が必要である。 (3)職業別がん死亡率 悪性新生物(がん)はわが国の死因第一位であ り,生産年齢人口においても高い死亡率となっ ている。罹患率の高いがん部位(胃,大腸,肝臓, 肺)について,表 8 に 2015 年の職業別がん死亡 率を示す。この分析は管理職と人口割合の高い専 門職,事務職,サービス職,生産工程従事者(男 性のみ)に限定した。男性では管理職はどのがん においてもサービス職に次いで死亡率が高い傾向 にあり,がんの死亡率リスクは事務職の約 3 倍と なっていた。女性でも管理職のがん死亡率は他の 職種に比べて高かった。 (4)男性の職業別自殺率 わが国の自殺率は他の高所得国よりも高い水準 にあり,特に 20-40 歳代では死因の上位(20 代, 30 代では死因第一位)となっている。また,長時 間労働に起因する過労自殺の事例も報告されてお り,労働者世代の精神的な負担を表す指標として も重要である(Kondo and Oh 2010)。図 3 に 2015 年の男性の職業別自殺率を示す。男性の管理職の 自殺率は 46.9(人口 10 万人対)であり,その他の 職業に比べて最も自殺率が高かった。事務職と比 べると管理職は自殺のリスクが 4.7 倍であった。 3 職業別の死亡率の変化(1980-2010 年) 図 4 に男性の職業別死亡率の推移(1980-2010 年)を示す(Tanaka et al. 2017)。1980 年において 男性管理職の年齢調整死亡率(30-59 歳)は 166.8 (人口 10 万人対)であり,サービス職(459.8/人口 10 万人),専門職(271.2/人口 10 万人),生産工程 従事者(196.1/人口 10 万人),事務職(259.8/ 人口 10 万人)などその他の職業と比べて低い水準にあ った。それ以降,職業別死亡率は全体的に低下傾 向であったが,管理職(と専門職)は 1990 年代 後半に死亡率が急上昇し,低下傾向が続いた生産 工程従事者や事務職と比較して傾向が逆転した (Tanaka et al. 2017)。専門職の死亡率は 2000 年以 降低下したものの,管理職の死亡率は高止まりし ており,表 6 で示したとおり 2015 年においても 管理職はサービス職と農林漁業従事者に次いで 3 番目に高い死亡率となっている(Tanaka, Tanaka and Wada 2020)。すなわち,わが国において管理 職の死亡率は 1980 年代から 1990 年代中頃にかけ 表 7 女性の職業別の死亡率(25-64 歳,2015 年) 就業者 死亡数 全死因死亡率 人口(人) (%) (人) (人口 10 万人対) 就業者総数 20,370,458 9,613 42.7 職業(日本標準職業分類) 管理的職業従事者 138,581 (0.7) 454 246.3 専門的・技術的職業従事者 3,920,001 (20.0) 1,691 44.1 事務従事者 5,897,973 (30.2) 1,461 24.2 販売従事者 2,460,388 (12.6) 974 36.6 サービス職業従事者 3,462,595 (17.7) 1,969 49.4 保安職業従事者 51,613 (0.3) 91 210.5 農林漁業従事者 358,670 (1.8) 468 74.7 生産工程従事者 1,796,603 (9.2) 694 32.8 輸送・機械運転従事者 58,491 (0.3) 219 347.3 建設・採掘従事者 46,602 (0.2) 352 617.4 運搬・清掃・包装等従事者 1,369,666 (7.0) 199 12.0 無職 11,313,504 34,907 250.1 出所:田中(2019)より筆者作成。

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ては他の職種に比べて低い状況であったものの, 1990 年代後半を境に死亡率が大きく上昇して他 の職種と傾向が逆転した。この傾向は 2000 年以 降も続き,2015 年においても管理職の死亡率は 事務職や管理職に比べて相対的に高い状況が続い ている。 表 8 職業別のがん死亡率(25-64 歳,2015 年) がん死亡率(人口 10 万人対) 胃がん 大腸がん 肝臓がん 肺がん (C16)* (C18-20)(C22)(C33-34)* 男性 全人口 10.1 12.1 6.9 16.2 職業(日本標準職業分類) 管理的職業従事者 9.1 8.3 5.4 12.0 専門的・技術的職業従事者 5.6 6.1 3.7 7.6 事務従事者 3.0 2.9 1.6 4.0 サービス職業従事者 8.3 12.6 7.7 16.9 生産工程従事者 5.5 4.5 3.3 8.0 無職 29.1 39.1 20.6 48.1 女性 全人口 5.2 7.9 1.5 5.5 職業(日本標準職業分類) 管理的職業従事者 10.0 15.1 3.0 22.0 専門的・技術的職業従事者 2.5 3.0 0.5 1.8 事務従事者 1.1 1.3 0.4 0.9 サービス職業従事者 2.4 2.5 0.5 2.3 無職 10.2 16.8 2.8 11.4

*International Statistical Classification of Diseases 10th Revision(ICD-10)

出所:厚生労働省より提供された『人口動態職業・産業別調査』個票データより筆者が分析し作成。 図3 管理職とその他の職業の自殺率(男性25-64歳,2015年) 出所:厚生労働省より提供された『人口動態職業・産業別調査』個票データより筆者が分析し作成。 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 管理的職業従事者 専門的・技術的職業従事者 事務従事者 販売従事者 サービス職業従事者 保安職業従事者農林漁業従事者生産工程従事者 輸送・機械運転従事者 建設・採掘従事者 運搬・清掃・包装等従事者 自殺率︵人口 10万人対︶

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4 男性の管理職・専門職の死亡率の国際比較と 経年変化 国によって統計上の職業分類が異なるため,わ が国の管理職と他の国の管理職の死亡率を直接 比較した研究は報告されていないが,Erikson-Goldthorpe-Portocarero(EGP)階 層 分 類 を も とに管理職・専門職をまとめて上級熟練労働 者(upper non-manual workers)と し て 職 業 階 層別死亡率を国際比較した研究が報告されてい る(Tanaka et al. 2019)。図 5 に管理職・専門職 の年齢調整死亡率の経年変化の国際比較を示す (Tanaka et al. 2019)。1995 年までわが国の管理 職・専門職の死亡率はイングランド・ウェール ズ,スイス,フィンランド,フランス,韓国と同 じ水準で推移していたが 2000 年以降死亡率が急 上昇したためこれらの国に比べて高い水準となっ た。わが国の管理職・専門職の死亡率は高止ま りしているため,この傾向は 2010 年以降も続い ている。なお,韓国の管理職・専門職の死亡率は 2000 年代後半から上昇傾向にある。日本の 1990 年代後半はバブル経済の崩壊とアジア経済危機の 時期にあたり,韓国の 2000 年代後半はリーマン ショックの時期にあたっていた。推測に過ぎない が,経済危機による健康影響が管理職・専門職に 最も大きくでた可能性が考えられる。 5 職業別死亡率の注意点 わが国において職業別死亡率の全国統計は上記 の人口動態職業・産業別調査で推定するほかない が,特に女性で死亡統計におけるバイアス(アー チファクト)が起きている可能性がある。これは 人口動態職業・産業別調査において人口と死亡が それぞれ『国勢調査』と『人口動態統計』という 別々の情報源から職業の情報を得ているためであ る。死亡者についてはその家族が職業を分類して 届け出ることから特に誤分類の原因となりうる。 また,女性の職業別死亡率についての研究は非常 に少なく,特に管理職について分析した研究は報 告されていない。そのため,本研究においても管 理職の死亡率の国際比較,さらには自殺率の分析 (図 3)や職業別死亡率の経年変化(図 4)につい て女性の結果を示さなかった。これは人口が少な い職業(女性の管理職を含む)について死亡率が 過大に算出されている可能性が高く,そのバイア スの大きさを評価することが難しいためである。 図4 管理職とその他の職業の年齢調整死亡率の経年変化(男性30-59歳,全死因,1980-2010年)

出所:Tanaka et. al(2017)より筆者作成。

0 50 100 150 200 250 300 350 400 450 500 1980年 1985年 1990年 1995年 2000年 2005年 2010年 年齢調整死亡率︵人口 10万人対︶ サービス職 管理職 専門職 生産工程従事者 事務職

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Ⅴ 考  察

1 管理職の健康状況と生活習慣 『国民生活基礎調査』をもとに主観的健康感, 糖尿病通院割合,高血圧症通院割合,喫煙状況, 飲酒状況を職業別に分析したところ,職業間の差 は小さく管理職が他の職業に比べて明らかに健康 状態がよいと結論づけられるほど顕著な傾向の違 いはなかった。また,学歴の分布(大学卒業者の 割合など)や職業階層において似た側面(収入が 高く,裁量が大きいなど)を持つ専門職と比べる と,特に男性において健康状態がよくない傾向が あった(高血圧,喫煙,飲酒について健康指標が悪 かった)。 喫煙率を一例にとると,男女とも管理職の喫煙 率は最も喫煙率の低い事務職と比べると明らかに 高く,また,職業階層において似た側面のある 専門職よりも高い。特に事務職では 2001 年から 2016 年にかけて,喫煙率が大きく低下していた。 これは 2003 年の健康増進法の施行などにより職 場での受動喫煙対策が強化され,事務職の一般的 な職場であるオフィスで最もその対策が導入され やすかったためと考える。基本的にオフィスでの 執務が一般的で事務職と職場環境が同じである管 理職において,喫煙率が事務職ほど低下していな いことは,管理職において喫煙につながるスト レスが強いなど禁煙を妨げている要因が存在する 可能性が示唆される。管理職は大学卒業者の割合 が高いが,喫煙率が男女とも事務職と専門職(そ れぞれ管理職と同じように大学卒業者の割合が高い) よりも高いことは管理職の生活習慣として特徴的 であると言える。実際,管理職の健康状態が事務 職など他の職業と比べて悪いことを示唆する研究 はいくつか報告されている。1996 年から 1998 年 にかけて 9 つの会社,工場を対象に職業別の身体 活動量を調査した結果によれば,男性の身体活動 量は管理職より事務職のほうが多かった(Takao et al. 2003)。さらに,石川県の中小企業に勤め る労働者を 2009 年に調査した研究では 40-59 歳の男性で管理職はサービス職や生産工程・労 務作業者より肥満が多かったと報告されている (Morikawa et al. 2012)。これらの研究では女性に ついても調査されているが,女性の管理職の身体 活動量や肥満などが事務職と比べて差があったと は報告されていない(Takao et al. 2003; Morikawa et al. 2012)。 女性の管理職においては人口割合が小さいこと (約 2%)もあり,本稿で分析した指標では他の職 業と比べて明確に健康状態が良い,悪いといった 傾向を示すことは難しい。しかし,主観的健康感 がその他の職業に比べて良好である一方,専門職 と比べて喫煙や飲酒などの生活習慣は悪い傾向に あり,全体的な傾向は男性と同様と思われる。女 性の職業別の健康状態,特に管理職に着目した研 究は少ないため,今後さらなる研究が必要であ る。 2 管理職の死亡率 男性の管理職の死亡率は 1980 年代から 1990 年 代中頃にかけては他の職業に比べて低い状況であ ったが,1990 年代後半を境に死亡率が大きく上 昇して他の職業と傾向が逆転した。一般的に管 理職は高学歴で,収入が高く,健康維持のために 多くのリソースを割くことができる職業(社会階 層)とみなされるため,この特徴的な変化は議論 の嚆矢となった(Wada et al. 2012)。図 5 に示し たとおり,わが国におけるこうした男性管理職の 死亡率の変化は欧州と比べても特徴的であること が示されている(Tanaka et al. 2019)。 わが国において 1990 年代後半に男性管理職の 死亡率が急上昇した要因は明らかになっていな い。死因別では全ての死因において死亡率の上昇 が観察されたが,特に自殺率の上昇が顕著であり 管理職と事務職の死亡率の差を広げた要因となっ ていた(Tanaka et al. 2017)。バブル経済崩壊後で 国内の金融機関の破綻が相次いだ 1998 年には人 口全体で自殺率の急上昇が観察されており,管理 職の死亡率上昇の時期と一致する。したがって, 平成初期からの長期経済停滞による労働環境の変 化が身体的な負担とともに精神的な負担を増大さ せ,この時期の管理職の健康悪化を招いた可能性 がある。さらに,2015 年においても他の職種に 比べて男性管理職の自殺率は依然として高水準に

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あり,1990 年代後半の死亡率急上昇の影響は 20 年近く経過した現在も残っている。 過労死や過労自殺といった長時間労働・過度な 業務負担に起因する様々な疾病リスクは特に管理 職で発生しやすい傾向があり,相対的に高い死亡 率につながっている可能性がある。これを裏付け るように管理職の高い高血圧症通院割合は,高血 圧の原因となる過度な業務負担などに起因してい る可能性が考えられる。一方で本稿において示し た死亡率はわが国の管理職およびその他の職種の 全体的な傾向を示すものであり,様々なタイプの 管理職がこの集団に含まれていることに注意が必 要である。例えば,管理職のなかの特定の層にお ける高い死亡リスクが全体の死亡率を引き上げて いるが,その一方で管理職の大部分で死亡リスク はそれほど高くないというような分布になってい ることも考えられる。管理職の死亡率については どの特徴を持つ管理職で死亡リスクが高い(例: 過労死・過労自殺が起きやすい)のか明らかにする ことが今後の課題である。 死亡率と主観的健康感の過去 30 年間の経年変 化を比べると,主観的健康感は 1995 年から 2010 年にかけてどの職業においても全体的に悪化した 一方で,管理職を除く死亡率は大きく低下してい た。つまり管理職の死亡率は急上昇したものの, 管理職の主観的健康感は同じ時期にその他の職種 に比べて顕著に悪化したわけではない。この傾向 の乖離の要因は現時点で不明であり,管理職の健 康について議論する際の大きな課題である。 職業による健康問題を論じる際,女性の職業別 死亡率についてはこれまでほとんど議論がなされ てこなかった。これは上述したように人口が少な い職業(女性の管理職を含む)で死亡統計のバイ アスが発生している可能性が高いためである。表 7 によると女性の管理職の死亡率はその他の職業 に比べて高い可能性があるものの,死亡リスクが 事務職の約 10 倍の値を示すなど,同じ社会にお いて働く人の死亡リスクの差としては考えづら い。現状の死亡データでは女性の管理職の死亡率 を正確に捉えることは難しいと考えられる。 3 今後の課題 本研究では可能な限り代表性の高い疫学データ を示したが,管理職の健康に影響する要因や因果 関係までは言及できていない。例えば高血圧症は 管理職において最も通院割合が高いが(表 3),管 理職においてどのようなメカニズムが働きこうし た結果につながっているかは未だ十分に解明され ていない。主観的健康感の結果は管理職において 他の職種と比べて最もよく,経年変化をみても

図5 管理職・専門職(upper non-manual workers)の年齢調整死亡率の経年変化の国際比較    (男性 35-64 歳,全死因,1990-2015 年)

出所:Tanaka et. al(2019)より筆者作成。

0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1990年 1995年 2000年 2005年 2010年 2015年 年齢調整死亡率︵人口 10万人対︶ フランス イタリア(トリノ) スイス フィンランド 日本 デンマーク エストニア リトアニア 韓国 イングランド/ ウェールズ

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より良好な傾向で推移しているが(図 1 および図 2),管理職が他の職種と比べて健康であると言え るのかどうかについては明確な結論が導き出せる ほど一貫した傾向は観察されなかった。それぞれ の健康指標について背景や要因を一つひとつ分析 していくことが今後の課題である。 本稿で定義した管理職は日本標準職業分類(大 分類)により定義された「管理的職業従事者」で あるが,「管理的職業従事者」には事業所の課長 から様々な産業の工場・支店・営業所等の長,会 社役員,さらには国務大臣まで広く含まれる。管 理職の役割は個々の職場などで大きく異なるた め,健康に影響する要因やメカニズムはそれぞれ 多様である。より具体的な分析を行うため,それ ぞれの職場や職能団体を介した調査と,本研究で 示された結果との比較により詳細な傾向をつかむ ことが課題である。 管理職の健康を検討するとき,比較する他の職 種として専門職と事務職が重要であろう。なぜな ら,本稿で示したように専門職と事務職は健康状 態が最もよい職業であり,かつ社会階層あるいは 働く環境が管理職に最も近いと考えられるからで ある。それぞれの職業の健康指標が今後どのよう な水準で推移するか継続的なモニタリングと詳細 な比較分析が必要である。 国際比較においては隣国である韓国との比較 が重要であろう。わが国においては 1990 年代後 半に男性管理職(および専門職)の死亡率上昇を 経験したが,韓国においては 2000 年代後半以 降の男性管理職の死亡率上昇が観察されている (Tanaka et al. 2019)。いずれも経済状態の悪化に 際して死亡率が上昇した点で一致しており,管理 職の役割や健康状態の変化について日本と韓国で 特徴的なメカニズムが共通している点があるかも しれない。一方で,欧州との比較では管理職の役 割が異なる可能性が高く単純な比較は難しい。欧 州では管理職・専門職の死亡率が長期的に低く推 移していることから,欧州では管理職がその他の 職種と比較して裁量度が高く,かつストレスが低 く,より健康である可能性を示唆している。 本稿ではわが国の公的統計データを用いて疫学 的な分析を行い,管理職の健康状態を探ってきた が,職業と健康に関する統計は現状では十分では なく課題も多い。職業は収入を得る手段として就 労者が主に一つの職業を有するものと見なされて きたが,政府が推進する働き方改革により,ワ ークシェアリング(一つの仕事を複数の労働者で分 ける働き方)やテレワーク(情報通信技術を活用し た,場所や時間にとらわれない柔軟な働き方)が推 進され,今後は複数の職業を持つ人が増加すると 予測される。さらに若い世代を中心にインターネ ット環境を活用した個人事業主など新しい職業の 普及もあり,従来の職業分類では捉えきれず統計 に反映されにくい事例が増える可能性がある。実 際に人口動態職業・産業別調査において職業が 「分類不能の職業」や「不詳」と回答される割合 は年々増加している。また,このような変化は管 理職の役割にも影響するだろう。したがって,職 業別死亡率などの統計精度向上はわが国における 労働者の健康を把握する点において大きな課題と なっている。より精度の高い職業別死亡率の分析 のためには『国勢調査』により調査された個人に ついて死亡の状況を前向きに追跡して死亡率を算 出することが望ましいが,現行の『国勢調査』は 他の政府統計と突合する仕組みがなく,このよう な分析はできない。また,経済状況や通院状況, 生活習慣などが把握される『国民生活基礎調査』 と『人口動態統計』とのリンケージも現状では不 可能であるが,今後検討すべき課題である。

Ⅵ お わ り に

わが国では管理職の健康状態は男性,女性とも 他職種に比べて差は小さく,特に専門職との比較 においては管理職の方が悪い傾向が示唆された。 管理職の健康の傾向を捉えるには,専門職や事務 職との比較が重要である。男性管理職の死亡率は 1980 年代から 1990 年代中頃まではその他の職種 と比べて低い傾向にあったものの,バブル経済崩 壊後の長期経済停滞に呼応するかのように 1990 年代後半から現在にかけて高い水準が続いてい る。この特徴的な変化により欧州と比べてわが国 の男性管理職の死亡率は高い。国際比較において は,わが国と同様に管理職の死亡率上昇を経験

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した韓国との比較は新たな示唆を生むかもしれな い。女性の管理職は将来的に増えると予想される ものの,働く女性の健康に関する研究はわが国で は少なく,研究の蓄積が課題である。さらに,働 き方の多様化に対応した職業と健康に係わる統計 精度の向上が求められている。 働き方改革や新型コロナウイルス感染症のパン デミックを契機としたテレワークの推進などによ り管理職の役割など今後の労働環境は大きく変わ ると予測される。社会・雇用環境の変化が続く中 で,管理職を含めた働く世代の健康状態や死亡率 の特徴を精確に把握し,どのように産業保健活動 や健康経営にリアルタイムに活用していくかが課 題となっている。管理職自身がよい健康状態を保 ち働き続けることは働き方改革の成否を握るキー ポイントと言えるだろう。 参考文献 経済産業省(2019)『健康経営の推進』. 厚生労働省(2013)『健康日本 21(第二次)』. ───(2017)『国民生活基礎調査』. ───(2018)『人口動態職業・産業別統計』. 総務省(2012)『日本標準職業分類』. ───(2015)『平成 27 年国勢調査』. 田中宏和(2019)「今こそ考えたい 職業と健康(第 4 回)女性 の職業別死亡率の傾向」 『安全と健康』70(4):385-387. 田中宏和・豊川智之・小林廉毅(2016)「壮年・中年期男性にお ける産業別死亡率の経年変化(1980 ~ 2010 年)──人口動 態職業・産業別統計による反復横断研究」『厚生の指標』63 (11):10-16.

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こ ば や し・ や す き 東京大学大学院医学系研究科教 授。最近の主な論文に「公衆衛生における大学と学会の 役割──教育に注目して」『公衆衛生』84(6), pp.363-367, 2020。公衆衛生学専攻。

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