脂肪酸の水酸化ナトリウム水溶液による中和で生成する固形石けんの理科的な扱い方について
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第60巻 第1号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(Education)Vol.60,No.1. 平成21年8月 August,2009. 脂肪酸の水酸化ナトリウム水溶液による中和で生成する 固形石けんの理科的な扱い方について. 早野 清治・永田 雅幸*・津田 和也・望月 桂**・大和田秀一***. 北海道教育大学札幌液化学教室 *札幌市立南が丘中学校. 示横浜市立大学国際総合科学部理学系 ***酪農学園大学獣医学部化学教室. ScientificHandlingofSolidSoapProducedbyNeutralizationofFattyAcid WithSodiumHydroxideSolution HAYANOKiyoharu,NAGATAMasayuki*,TSUDAKazuya, MOCHIZUKIKatsura**andOHWADAShyuichi*** DepartmentofChemistry,SapporoCampus,HokkaidoUniversityofEducation. *MinamigaokaJuniorHighSchool,Sapporo **. chemistryDivision,GraduateSchoolofInternationalIntegratedScience,YokohamaCityUniversity. ***. DepartmentofChemistry,FacultyofVeterinarian,RakunoGakuenUniversity. 概 要 小学校で体験している「水溶液の性質(酸性,アルカリ性,中性)」と中学理科の中で扱われている「酸 とアルカリ」や「中和と塩」の知識を活用して脂肪酸と水酸化ナトリウム水溶液の中和で生成する塩を作成 し,その塩が日常生活で使われている固形石けんであることを確かめる理科の実験教材を新に開発した。中 和で生成する塩としての固形石けんを得る本実験を,理科実験2回分の教材として扱う場合の教育的な効果 と,今後の課題について考察したので本論文にて報告したい。. 1 はじめに 小学校の「水溶液の性質」では,身の回りのい. 水に溶けて水素イオン(陽イオンのH+)を生じ るもの,アルカリは水に溶けて水酸化物イオン(陰 イオンのHO ̄)を生じるものであることを学ぶ。. ろいろな水溶液をリトマス試験紙で調べ,それら. この学習は,酸とアルカリの水溶液を混ぜ合わせ. を「酸性,アルカリ性,中性」のグループに仲間. ると互いの性質である酸性とアルカリ性が打ち消. 分けして水溶液の性質を学ぶ1)。この経験をもと. されて或いは弱められて水と塩が生じる「中和と. に中学理科の「酸とアルカリ」の学習では,酸は. 塩」の学習へと発展する。具体的には,酸として. 121.
(3) 早野 清治・永田 雅幸・津田 和也・望月 桂・大和田秀一. 塩酸(HCl),アルカリとして水酸化ナトリウム. 石けんであることを確認する方法の検討も必要で. 水溶液(NaOH)を用いて中和反応を行い,塩と. ある。以下に,「脂肪酸の種類について」,「水酸. して塩化ナトリウム(食塩,NaCl)の生成を確. 化ナトリウム水溶液の濃度について」,「中和反応. 認する実験内容である2)。しかしながら,これら. の確認について」,「塩が固形石けんであることの. の学習内容は実際の日常生活や身の回りの物質に. 確認について」の順に実験の内容や工夫を詳しく. どのように結びつくのか関連しているのか,社会. 説明する。. 的な有用性があるのかないのか,わかりづらいの が難点である。 「酸とアルカリ」「中和と塩」の実験学習にお. いて,生徒の興味・関心を強く引き出すためには 身近な日常生活の中で生徒が実際に使用している. 「塩」を実験で扱うことが重要である。その代表 的な「塩」として「固形石けん」を考えた。. 本論文では,脂肪酸の水酸化ナトリウム水溶液. 2−1 脂肪酸の種類について 中和反応に用いる脂肪酸は,飽和脂肪酸のパル. ミテン酸iCH3(CH2)14COOHiとステアリン酸 1cH3(CH2)16COO団,不飽和脂肪酸のオレイン. 酸icH3(CH2)7CH=CH(CH2)7COOHiの3種 類注1)とした。中和後に生成する塩が固形石けん の形状で固まるのかどうかを目安に中和反応を. による中和実験(図1)を行って生成した塩を取. 行った。実験方法は100mlビーカーに1種類の. り出し,得られた塩の理科的な性質に基づいてそ. 脂肪酸を10.Ogとり,中和に必要な水酸化ナト. れが固形石けんであることを確認できる実験方法. リウム水溶液(1mol/1)を加えて室温で10分間. の工夫,これらの理科実験2回分の教材としての. 撹拝した後,紙コップに入れて成型する。反応し. 教育的な効果と今後の課題について考察したので. づらい場合は加熱等を行う。また,固形状になり. 報告したい。. づらい場合には水の量を少なくするために濃度の 高い水酸化ナトリウム水溶液(2,3,5mol/1) を用いる。この詳しい結果については「3 結果」 で述べるが,1種類の飽和脂肪酸から得られた2 つの塩は泡立ちに,不飽和脂肪酸から得られた塩 は固まり方に問題があり,固形石けんを連想させ るのには問題があった。. そこで,牛脂の構成脂肪酸の割合3)を参考にし て混合脂肪酸で中和反応を行うこととした。実験 方法は100mlビーカーに混合脂肪酸(パルミテ ン酸3.5g,ステアリン酸1.5g,オレイン酸5.Og) 図1 脂肪酸と水酸化ナトリウム水溶液の中和反応 (Rは炭素Cと水素Hでできたアルキル基を示す). 10.Ogをとり,グリセリン1mlを加え,少し加 熱(80℃)して脂肪酸を完全に溶かし,中和に 必要な水酸化ナトリウム水溶液(1mol/1)を加 えて室温で約10分間撹拝した後,紙コップに入れ. 2 実 験 脂肪酸の中和反応で塩としての固形石けんを生. て成型した。以後実験で使用する脂肪酸は,加温 溶解した混合脂肪酸(パルミテン酸3.5g,ステ. 成させるためには,中和に用いる酸としての脂肪. アリン酸1.5g,オレイン酸5.Og,グリセリン. 酸の種類と塩基としての水酸化ナトリウム水溶液. 1ml)とする。. の濃度について検討しなければならない。また, 中和反応が行われていることと生成した塩が固形. 122.
(4) 脂肪酸の水酸化ナトリウム水溶液による中和で生成する固形石けんの理科的な扱い方について. 2−2 水酸化ナトリウム水溶液の濃度について 加温溶解した混合脂肪酸を中和するのに必要な. られた固形石けん状に成型できた塩の性質を確認 する。本実験では,泡立ちと洗浄効果の性質を確. 水酸化ナトリウム水溶液の濃度が,中和反応時の. 認することで塩が固形石けんであることが簡単に. 混合物の撹拝状態や得られる塩の状態や塩の成型. 理解できるであろう。試験管に塩0.1gとイオン. 状態にどのような影響を及ぼし,どのような違い. 交換水10mlを加えて80℃で温めて溶かした石. を生じさせるのかを調べ,中和反応に使用する水. けん水の泡立ちについては,試験管にゴム栓をし. 酸化ナトリウム水溶液の濃度を決定する。実験方. て振り混ぜた時の様子で確認する。洗i争効果につ. 法は2−1の加温溶解した混合脂肪酸10.Ogと. いては,実際に生徒に手洗いなどに使用させるこ. 中和に必要な水酸化ナトリウム水溶液(1mol/1). とによって実感しながらの確認が可能であると思. との反応方法と全く同じであり,水酸化ナトリウ. われる。. ム水溶液の濃度を2,3,5,10mol/1と変化さ せて行い,その結果を比較する。. 2−3 中和反応の確認について. 3 結 果 本実験を行った結果は,「脂肪酸の種類につい. 混合脂肪酸と水酸化ナトリウム水溶液の中和反. て」,「水酸化ナトリウム水溶液の濃度について」,. 応で塩の固形石けんが生成する反応では,加温溶. 「中和反応の確認について」,「塩が固形石けんで. 解した混合脂肪酸が示す弱酸性と水酸化ナトリウ. あることの確認について」,の4つに分けて以下. ム水溶液が示す強アルカリ性の互いの性質が弱め. に説明する。. られて弱アルカリ性の塩が生成する。この中和反. 脂肪酸の種類について:顆粒状の飽和脂肪酸の. 応の前後でそれぞれの液性の変化をpH試験紙注2). パルミテン酸(10.Og)とステアリン酸(10.Og). とBTB溶液4・注3). には,それぞれ35.4mlと39.Omlの水酸化ナト. を用いて比較し,中和反応が. 起こっていることの確認が可能かどうかを検討す. リウム水溶液(1mol/1)を加えてガラス棒でか. る。実験方法は,使用した水酸化ナトリウム水溶. き混ぜると室温では反応が進まなかったため電熱. 液5mlの試験管,80∼90℃に加温溶解した混合. ヒーターで少し加熱したところ脂肪酸が溶けて反. 脂肪酸2.Og(パルミテン酸0.70g,ステアリン. 応が進むので10分間かき混ぜた後,紙コップに押. 酸0.3g,オレイン酸1.Og,グリセリン0.2ml). し入れて成型すると翌日には発泡状の固体塩が得. とイオン交換水5mlを混合した試験管,塩0.1g. られた。これらの塩を砕いて水に溶かそうとした. にイオン交換水10mlを加えて80℃で温めて溶. が,水には溶けにくく泡立ちも生じにくかったの. かした試験管を準備し,それぞれの水溶液をガラ. で,飽和脂肪酸の塩は泡立つ石けんを連想させる. ス棒でpH試験紙に付け,pH値を比較する。ま. のには不適であることがわかった。液体状の不飽. た,それぞれの試験管の溶液にBTB溶液を5∼. 和脂肪酸のオレイン酸(10.Og)には,35.Oml. 10滴加えてその色の変化を比較検討する。. の水酸化ナトリウム水溶液(1mol/1)を加えて ガラス棒で10分間かき混ぜたところ室温で均一に. 2−4 塩が固形石けんであることの確認につい て 中和実験で生成した塩が固形石けんであること. 混ざり,紙コップに押し入れて翌日まで成型する と表面は固化するが内部のやわらかい塩が得られ た。オレイン酸の場合,水酸化ナトリウム水溶液. を理解するには,日頃日常生活で使用している市. の濃度を高くして水の量を減らすことで内部まで. 販の固形石けんの特徴的な性質がその塩にも認め. 固化した塩が得られるのではないかと考えて以下. られることを確認する必要がある。「実験2−1. の実験を行った。2,3,5mol/1と濃度を変化. と2−2」で加温溶解した混合脂肪酸の中和で得. させた水酸化ナトリウム水溶液をそれぞれ17.7,. 123.
(5) 早野 清治・永田 雅幸・津田 和也・望月 桂・大和田秀一. 11.8,7.1mlをオレイン酸に加えて同様に反応. の水酸化ナトリウム水溶液をそれぞれ18.3と. させて翌日まで成型したところ,2と3mol/1の. 12.2mlを加えて撹拝すると1mol/1の水酸化ナ. 濃度では塩の内部まで固化できなかったが,. トリウム水溶液の時と同じ状態の水あめ状になり. 5mol/1の場合のみ全体がぼろぼろしたやわらか. 翌日には全体が固体の塩になった。しかし,5と. い固体となった。この5mol/1の場合の塩は,水. 10mol/1の水酸化ナトリウム水溶液それぞれ7.2. に溶けやすく泡立ちや水切れも良かったが,固形. と3.7mlを加えながら撹拝すると撹拝中に中和. の石けんを連想させる固体状態ではなかった。こ. された塩がすぐに粒状になって分離し,粒状の固. のように1種類の脂肪酸では満足できる塩の生成. 体の塩が得られるだけで固形状に成型ができなく. ができなかったので,80℃に加温溶解したグリ. なった。表2にNaOH水溶液の濃度による塩の. セリン1mlを含む混合脂肪酸10.Og(パルミテ. 状態比較をまとめた。. ン酸3.5g,ステアリン酸1.5g,オレイン酸5.Og) を用いて36.6mlの水酸化ナトリウム水溶液 (1mol/1)で同様に室温で中和反応を行ったと. NaOH 水溶液の. ころ,混合物は水あめ状となり,紙コップに押し. 濃度. 入れて翌日まで成型すると全体が固体の塩が得ら. 翌日の塩. れた。塩の泡立ちも良かった。表1に1mol/1 NaOH水溶液による脂肪酸の中和による塩の状. の状態. 2. 3. 5. 10. mol/1 mol/1 mol/1 mol/1. 固体塩 固体塩 粒状塩 粒状塩. 表2 NaOH水溶液の濃度による塩の状態比較. 態比較を示した。. この結果から,中和実験に用いる水酸化ナトリ. 翌日の塩 の状態. パルミ ステア オレイ 混合脂. ウム水溶液の濃度が1∼3mol/1であると塩の生. チン酸 リン酸 ン酸 肪酸. 成と成型が簡単にできることがわかった。. 発泡状 の固体 塩. 塩. 軟らか い塩. 中和反応の確認について:中和反応前の水酸化 固体塩. 水に洛 水に洛 水に洛 水に洛 泡立ち方. けにく けにく けやす けやす く悪い く悪い く良い く良い. 表11mol/lNaOH水溶液による脂肪酸の中 和による塩の状態比較. ナトリウム水溶液(1∼3mol/1)とイオン交換 水5mlを含む加温溶解した混合脂肪酸2.Og(パ ルミテン酸0.70g,ステアリン酸0.3g,オレイ ン酸1.Og,グリセリン0.2ml)とをpH試験紙 を用いてpHを調べた結果,水酸化ナトリウム水 溶液では濃い紫色に変色してpIIが約11となり, 強いアルカリ性であることが示された。また,イ. この実験結果から,水酸化ナトリウム水溶液 (1mol/1)による中和で塩を生成させるための. オン交換水を含む加温溶解した混合脂肪酸では,. 溶解した液体状の混合脂肪酸によって薄いオレン. 脂肪酸には,加温溶解したグリセリン(1ml). ジ色に変色してpHが約4となり,弱い酸性であ. を含む混合脂肪酸(パルミテン酸3.5g,ステア. ることが示された。しかしながら,混合脂肪酸中. リン酸1.5g,オレイン酸5.Og)の使用が最適で. の水屑をpH試験紙につけて調べた場合にはpH. あると示された。. が約6前後で明らかな酸性を示すには至らなかっ. 水酸化ナトリウム水溶液の濃度について:加温. た。このことから,混合脂肪酸の酸性を確認する. 溶解した混合脂肪酸を用いて,それを中和するの. には,液体状の混合脂肪酸を直接pH試験紙につ. に必要な水酸化ナトリウム水溶液の濃度を2,3,. けることが重要である。中和反応後に生成した塩. 5,10mol/1と変化させて実験を行った。グリセ. の水溶液では青緑に変色してpIIが8∼9前後を. リン1mlを含む混合脂肪酸10.Ogに2と3mol/1. 示した。. 124.
(6) 脂肪酸の水酸化ナトリウム水溶液による中和で生成する固形石けんの理科的な扱い方について. このpH試験紙の変色結果から,本実験の中和. れるのは翌日まで待たねばならないがやわらかい. 反応では強いアルカリ性(pH≒11)の水酸化ナ. まま使用して塩が石けんであることを確認した。. トリウム水溶液と弱い酸性(pH≒4)の混合脂. この泡立ちと手洗いの結果から,本実験で得られ. 肪酸とを混ぜ合わせると互いの強いアルカリ性と. た固形の塩は,容易に市販の固形石けんと同じで. 弱い酸性とが弱められて弱いアルカリ性(pH≒. あることが理解できた。. 8∼9)の塩を生成していることが示された。. 次に,BTB溶液を用いて水酸化ナトリウム水 溶液(1∼3mol/1)とイオン交換水を含む加温 溶解した混合脂肪酸との液性を調べた結果,水酸. 4 考 察 「3 結果」をふまえて2回分の理科の実験授. 化ナトリウム水溶液では青色に変色してアルカリ. 業や選択理科の実験授業を行う場合には,以下の. 性であることがわかり,混合脂肪酸では水屑のみ. ような実施方法が可能であろう。1回目(30∼35. が黄色に変色して酸性であることがわかった。ま. 分間)の『中和で固形石けんを作ってみよう』で. た,塩の水溶液もBTB溶液によって薄い青色に. は,“塩酸と水酸化ナトリウム水溶液の中和で「塩」. 変色してアルカリ性の弱いことも示された。. の食塩が生成することをふまえて塩酸の代わりに. このBTB溶液の変色結果から,アルカリ性の. 脂肪酸を中和すると「塩」の固形石けんができる. 水酸化ナトリウム水溶液と酸性の混合脂肪酸とを. のではないが’の見通しを持った後に,80℃に. 混ぜ合わせると互いの性質のアルカリ性と酸性が. 加温溶解したグリセリン1mlを含む混合脂肪酸. 弱められて弱いアルカリ性の固体の塩が生成して. 10.Og(パルミテン酸3.5g,ステアリン酸1.5g,. いることが示された。表3にpH試験紙とBTB. オレイン酸5.Og)と18.3mlの水酸化ナトリウ. 溶液による液性調査結果をまとめた。. ム水溶液(2mol/1)を配布して,それらの中和 で生成する塩を得て紙コップに入れ,少量のその 塩が固形石けんのように泡だって手を洗うことが. NaOH水 含水混合脂肪 塩の水溶液. pH試験紙. BTB溶液 青色. 濃い紫色 pH≒11. 薄いオレンジ 色(脂肪酸). pH≒4. 溶液 酸. 青緑色 pH≒8∼9. 黄色(水屑) 薄い青色. 表3 pH試験紙とBTB溶液による液性調査結果. できることやビーカーに付着している塩が沈ま争時. に泡立つことを確認して終わりたい。時間的に余 裕があれば少量の塩とイオン交換水10mlを試験 管に入れてゴム栓をして振り混ぜさせて泡立つこ との確認をすると良い。残った塩は翌日には硬い 固形右けんになっているので,その感触によって も固形石けんができたことを印象づけたい。危険. 塩が固形石けんであることの確認について:グ. 性の高い1∼3mol/1の水酸化ナトリウム水溶液. リセリン1mlを含む加温溶解した混合脂肪酸. の濃度は,あまり高いものを使用させたくない思. 10.Og(パルミテン酸3.5g,ステアリン酸1.5g,. いから中間の濃度2mol/1を使用することとす. オレイン酸5.Og)を水酸化ナトリウム水溶液(1. る。2回目(35∼40分間)の『固形石けんができ. ∼3mol/1)で中和して得られた3種類の塩につ. た中和を確かめてみよう』では,水酸化ナトリウ. いて,それぞれ右けん水を試験管に調製し,ゴム. ム水溶液(2mol/1)5mlの試験管,イオン交換. 栓をして振り混ぜるときめ細かな泡が試験管内一. 水5mlを含む加温溶解した混合脂肪酸2.Og(パ. 杯になるのが観察された。実験後のまだやわらか. ルミテン酸0.70g,ステアリン酸0.3g,オレイ. い塩を少し多めに手にとって手洗いをしてみると. ン酸1.Og,グリセリン0.2ml)の試験管,塩. 固形右けんのように泡立ち,手がきれいに洗われ. 0.1gにイオン交換水10mlを加えて80℃で温め. た。中和して得られた塩が固形石けん状に成型さ. て溶かした試験管とを配布してpH試験紙や. 125.
(7) 早野 清治・永田 雅幸・津田 和也・望月 桂・大和田秀一. BTB溶液によるそれらの液性調査の結果を中和. る。また,塩は塩化ナトリウム(食塩)だけでは. 反応前後で比較させ,その結果をもとに混合脂肪. なくて我々の身の回りにいろいろな塩が存在して. 酸の「酸」を水酸化ナトリウム水溶液の「アルカ. いるのではないかという疑問や気づきを持つ学び. リ」によって中和すると互いの液性を弱めあって. の広がりにもなりうるであろう。. 「塩」の固形石けんが生成していることを容易に. 混合脂肪酸と水酸化ナトリウム水溶液の中和で. 確認できると考える。塩酸の「酸」が水酸化ナト. 生成する塩を理科的な性質に基づいて確認する実. リウム水溶液の「アルカリ」で中和されて塩化ナ. 験には以上のような教育的効果が十分に期待でき. トリウムの「塩」が生成することと比較・関連さ. る。/ト学校や家庭生活の中で,或いは中学校で学. せると理解させやすい。脂肪酸の構造については. んで身に付けてきた知識・観察・実験を思い出し. 触れずに模式的に「酸」であることのみで進めた. ながら,それらを十分に復習・活用しながらの新. い。中和で生成した塩の固形石けんが中性ではな. たな学びができることも本実験の教育的な特徴と. くて弱いアルカリ性を示すことは,生徒は不思議. 言えよう。. に思うであろうが,弱い酸性と強いアルカリ性の. 本中和実験を実験授業として実施する場合に. 中和であるので強い方のアルカリ性が少し弱く残. は,混合脂肪酸と水酸化ナトリウム水溶液,液性. るからであるという理由で生徒を納得させたい。. を比較する溶液,BTB溶液等の調製・配布等の. 混合脂肪酸と水酸化ナトリウム水溶液の中和で. 教員の十分な事前準備が必要である。水酸化ナト. 生成する塩を得る本実験を理科実験教材として上. リウム水溶液は,強いアルカリ性なので目を保護. 述したように実施する場合には,以下のような教. するための「保護めがね」と手を保護するための. 育的効果が期待できよう。. 一つ目は,生活の中の身近な物質である固形石. 「保護手袋(使い捨て)」を着用させる等の安全 教育の徹底も必要である。今後の課題は,“固形. けんを扱うことができるので,実験に対する生徒. 石けんはどうして洗浄効果を示すのか,汚を落と. の興味関心を最大限引き出すことが可能であると. すのか?’’を理解しやすいような実験授業の開発. 考えられる。. を模索しなければならない。. 二つ臼は,自ら有用な固形石けんを作ることが できる驚きと喜びを生徒が実感するなかで,中学 注. 理科で学んだ「中和」の知識や実験が実際の生活 や物を作るのに「使える・活かせる」ことを生徒. 注1)パルミチン酸(特級試薬),ステアリン酸(化学用),. に認識させることができる。この認識は生徒に学. オレイン酸(1級)は和光純薬工業株式会社より購. ぶ意欲をかき立てるであろう。. 入して使用した。 注2)アドバンテック東洋株式会社のpH試験紙UNIV. 三つ目は,小学校の「酸性・アルカリ性」と中. (ロールタイプ,pH測定値1∼11)を購入して. 学理科の「酸・アルカリ」の知識,それらと指示 薬としての「BTB溶液」による液性の識別法を. 使用した。 注3)BTB(ブロモチモールブルー)の結晶0.1gをエ タノール20mlに溶かし,水でうすめて100mlの溶. 総合的に関連づけた学習に加え,発展的なpH試. 液として使った。pHl.2∼2.8で赤色から黄色に,. 験紙の知識や水に溶けづらい塩の存在も生徒に学. pH8.0∼9.6で黄色から青色に変化する指示薬であ. 習させることが叶能であると考えられる。. る。. 四つ目は,中和反応で水に溶ける塩の塩化ナト リウムが生成する過程では何の変化も観察できな 参考文献. いが,石けんが生成する中和の過程では水あめ状 の状態に変化するのが観察でき,中和を生徒に視 覚的にとらえさせることが可能であると思われ. 126. 1)「/ト学理科6上」教育出版,pp.50−60,67−68(2005 年)。.
(8) 脂肪酸の水酸化ナトリウム水溶液による中和で生成する固形石けんの理科的な扱い方について 2)「新編 新しい科学1分野上」東京書籍,pp.80−83 (2006年)。 3)「新版 教養の現代化学」三共出版,多賀光彦・片 岡正彦・早野清治 共著,p.90(2008年)。 牛脂の構成脂肪酸の割合は,パルミチン酸:ステア リン酸:オレイン酸=32%:25%:38%であることが 知られている。本実験では,中和で生成する混合物が. 水あめ状になるようステアリン酸を減らしてオレイン 酸を多くした(パルミチン酸:ステアリン酸:オレイ ン酸=35%:15%:50%)。. 4)「新編新しい科学1分野上」教師用指導書 研究編 東京書籍,p.362(2006年)。. (早野 清治 札幌校教授). (永田 雅章 札幌市立南が丘中学校 教諭・理科). (津田 和也 札幌校大学生) (望月 桂 横浜市立大学教授) (大和田秀一 酪農学園大学准教授). 127.
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