農芸用殺菌剤としてのポリハロゲン化フェノール類
およびその誘導体
著者
隈元 実忠
雑誌名
鹿児島大学工学部研究報告
巻
1
ページ
117-121
別言語のタイトル
POLYHALOGENATED PHENOLS AND THEIR DERIVATIVES
AS AGRICULTURAL FUNGICIDE
農芸用殺菌剤としてのポリハロゲン化フェノール類
およびその誘導体
著者
隈元 実忠
雑誌名
鹿児島大学工学部研究報告
巻
1
ページ
117-121
別言語のタイトル
POLYHALOGENATED PHENOLS AND THEIR DERIVATIVES
AS AGRICULTURAL FUNGICIDE
農 芸 用 殺 菌 剤 と し て の ボ リハ ロ ゲ ン化フェ
ノ ー ル 類
お
よ び そ の 誘 導 体
隈
元
実
忠*
POLYHALOGENATED PHENOLS AND THEIR DERIVATIVES AS AGRICULTURAL FUNGICIDE
Sanetada KUMAMOTO
The author had his experiments on fungicidal effect of several scores of newly prepared chlorinated compounds as perchlorinated phenols, their derivatives and mol— ecular compounds of chlorinated phenoquinone type. Against Erwina aroideae and
Saciharomyces cerevisiae, any compound among them above was found hardly effective, while each of them was revealed effective against Baccillus subtilis and Cladosporium fulrum. However, any compound among them which was more effective than PCP which is widely available at present could not be found. Nevertheless, some fixed relationship was found existing between chemical composition of perchlorinated phenols
and their fungicidal effect against Baccillus subtilis.
Received June 5, 1961. 1.緒 言 過 塩 素 化フェ ノ ー ル 類 お よ び そ の 誘 導 体 に 関 す る, 従 来 の 応 用 的 研 究 は 殺 虫 ・殺 菌 剤 を 目 的 と し た も の が 大 部 分 で あ つ て,比 較 的 近 年 の こ と で あ る 。 しか し, 今 日迄 に 研 究 さ れ た の は,フェ ノ ー ル の 過 塩 素 化 物 だ け で,ク レ ゾ ー ル,キ シ レ ノ ー ル な ど の 過 塩 素 化 物 に つ い て は,全 く研 究 さ れ て い な い. 農 芸 用 殺 菌 剤 と して は,2,3,4,4,5,6-ヘ キ サ ク ロ ル-2,5-シ ク ロ ヘ キ サ ジ ェ ン-1-オ ン が 棉 実 な ど の 種 子 消 毒 剤,土 壌 殺 菌 剤 と して 有 効 で あ る 1).そ の ほ か,植 物 の 生 長 抑 制 効 果 も 試 験 さ れ た 2).オ ク タ ク ロ ルフェ ノ ー ル に つ い て は,そ の 異 性 体 の 区 別 は,は つ き り さ れ な い ま ま で,除 草 剤,種 子 消 毒 剤 へ の 利 用 が 報 告 さ れ 3) 4),米 国 で は"Oktone"と よ ば れ て い る. ま た 工 業 用 キ シ レ ノ ー ル 酸 の ポ リ塩 素 化 物 を 殺 菌 剤 と し て,特 に 木 材 防 腐 剤 に 利 用 す る こ と が 考 慮 さ れ て い る.5)そ の 他,2,3,4,4,5,6-ヘ キ サ ク ロ ル-2,5-シ ク ロ ヘ キ サ ジ ェ ン-1-オ ン と 第1,第2ア ミン 類 と の 反 応 に よ つ て,た と え ば,4-ベ ン ジ ル ア ミノ-2,3,4, 5,6-ペ ン タ ク ロ ル-2,5-シ ク ロ ヘ キ サ ジ エ ン-1-オ ン の よ うな 化 合 物 を え て,殺 菌 剤 と し て の 用 途 を の べ て *応 用 化 学 教 室 い る 6)が,二,三 の 化 合 物 にす ぎな い. 著 者 は,殺 虫 効 力 試 験 に供 試 した過 塩 素 化 フェ ノー ル類 お よ び その 誘 導 体 の殺 菌 効 力 試 験 を 実施 す る とと もに,す ぐれ た 殺菌 力 を もつ て い る塩 素 化フェ ノー ル 類 と塩素 化p-キ ノ ン類 と か ら 生 成 す る塩 素 化フェ ノ キ ン分 子 化 合 物 は,相 乗的 作 用で,さ らにす ぐれ た殺 菌 剤 が え られ る ので は な い か と期 待 して,あ わ せ て殺 菌 効 力 を試 験 した.さ らに,こ れ らの 含 塩 素 化 合物 の 殺 菌 効 力 と化 学 構 造 との 関係 につ いて の 知見 を うる こ と が本 研 究 の 目的 で あ る. 2,実 験 殺 菌 効 力 試 験 に 供試 した化 合 物A,B-グ ル ー プは 前 報 7)と同 じで あつ て,化 合 物 の 整 理 記 号 も 共 通 で あ る.ま た,塩 素化フェ ノ キ ノ ン分 子 化合 物 をC-グ ル ー プ と して 加 え た . 2・1.塩 素 化フェ ノキ ノン 分 子化 合 物 塩 素 化フェ ノ キ ノ ン分 子 化 合 物 は 塩 素 化P-キ ノ ン 類(1分 子)と 塩 素 化フェ ノー ル類(2分 子)と か ら 分 子 間 水 素結 合 に よつ て,つ らなつ て生 成 す る もの で あ る 8)∼9).合 成 した二数10種 類 の 分 子 化合 物 の 中 か ら,10数 種 類 を え らび,殺 菌 効 力 試験 に供 した.そ れ らの 性 状 は 表1の 通 りで あ る,
118 鹿 児 島 大 学 工 学 部 研 究 報 告 第1号 表1 C-グ ル ー プ 化 合 物 の 化 学 構 造 と そ の 性 状 − 塩 素 化 フ ェ ノ キ ノ ン 分 子 化 合 物− 2・2.殺 菌 効 力試 験 方 法 供 試 化 合 物(A,B,C-グ ル ープ)は 有効 成 分5% の乳 剤 に調 製 した も のを100倍 に 稀 釈 して 使用 した. 検 定 菌 は,細 菌,酵 母 菌,糸 状 菌 よ り4種 類 を え ら び,試 験 に供 した. 検 定 菌:細 菌 と して,枯 草菌(Baccillus subtilis) ※(D)・ ・・2,5,6-ト リ ク ロ ル-3-メ チ ル-P-キ ノ ン お よ び 軟 腐 病 菌(Erwina aroideae),酵 母 菌 と して ビ ー ル 酵 母 菌(Saciharomyces cerevisiae) ,糸 状 菌 と し て トマ ト葉 カ ビ病 菌(Cladosporium fulrum)を 使 用 し た. 殺 菌 効 力 検 定 試 験 方 法:阻 止 円 法(寒 天 平 板 拡 散 法,特 に 薄 層 円 筒 法)に よ る.
隈 元:農 芸 用 殺 菌 剤 と し て の ポ リ ハ ロ ゲ ン 化 フ ェ ノ ー ル 類 お よ び そ の 誘 導 体 119 (阻止 円 法) ペ トル 皿(径12cm)に 素 寒 天20ccを 流 しこ み 固 化 させ る.あ らか じめ,バ レイ ショ寒 天 培 地 に 検定 菌 を 混 じて お き,こ れ を 素 寒 天 層 の 上 に,20 cc流 し こん で 種 層 を つ くる.こ れ が 固 化 して か ら,そ の 表 面 上 に 底 の な い短 い 円筒(日 本抗 生 物 質 学 術 協議 会規 定 の もの で,長 さ10mm外 径8.0 mm±0.1mm,内 径6mm±O.1mmの 不銹 鋼 円筒) 数 個 を しず か に おい て 後,培 養す る.試 料(供 試 化 合物)の 拡 散 によ つ て 検 定 菌 の 発 育 が 抑 制 さ れ,円 形 の透 明 な 抑 制帯(阻 止 円像)を 生 ず る. 2・3.殺 菌 効 力 検 定試 験結 果 42種 類 の上 記A,B,C-グ ル ー プ 化 合物 の抗 菌 性 を 阻止 円法 に よ つて 試 験 し,試 験 結 果 を 表2(A,C-グ ル ー プ)お よ び表3(B-グ ル ー プ)に 示 す. 表2 A,C-グ ル ー プ化 合 物 の 抗 菌性 検 定 試 験 結果 *(註)ク ロ ン(PCPNa塩90%):1800倍 稀 釈 液,昇 コ ウ(試 薬 特 級):1000倍 液,ニ リ ッ ト (15%水 和 剤):400倍 液. (C),(SC),(NC)は 阻 止 円 辺(帯)の 鮮 明 度 を あ ら わ す. (C)… 鮮 明,(SC)… 半 鮮 明,(NC>・ ・不 鮮 明.
120 鹿 児 島 大 学 工 学 部 研 究 報 告 第1号 表3 B-グ ル ープ 化合 物 の抗 菌 性 検 定 試験 結果 3.結 果 お よび 考察 A,C-グ ル ー プ の化 合 物 は過 塩 素化フェ ノー ル類 お よ び 塩 素 化フェ ノ キ ノ ン分 子化 合物 で あ るか ら,現 在,殺 菌 剤 と して多 面 的 用 途 を もつて い るペ ン タク ロ ルフェ ノー ル(PCP)を 基 準 に して,そ の抗 菌性 を比 較 す る.表2の 結 果 か ら,軟 腐 病 菌,ビ ー ル酵 母 菌 に 対 して は,A,C-グ ル ー プ と も に ほ とん ど 効 力 は な い.ま た,PCPは 枯 草 菌,ト マ ト葉 カ ビ病 菌 に対 し て,殺 菌 効 力 が大 で あ る. まず,A-グ ル ー プ の 化 合 物 に つ いて,枯 草 菌,ト マ ト葉 カ ビ病 菌 に対 す る抗 菌 性 をPCPを 基 準 に して 比 較 検 討 す る.枯 草 菌 に 対 して は,p-キ ノ イ ド型 過 塩 素 化フェ ノ ー ル(A-6)がPCPよ り,す ぐれ た抗 菌性 を 示 した だ け で,o-キ ノイ ド型 過 塩 素 化フェ ノ ー ル (A-5)がPCPと 同 等 の 抗 菌 性 を示 して い る.そ の 他 の過 塩 素 化フェ ノー ル類 は,いづ れ もPCPよ り劣 る結果 で あつ た.フ エ ノー ル,m一 ク レゾ ー ル,1,3, 5-キ シ レノ ール な ど の各 々4種 類 の環 の構 造 が 異 る過 塩 素化 物 につ い て,抗 菌 性 を 比 較 す る と,環 の構 造 の 相異 に よつ て 規 則 的 で あ る.す な わ ち,2,5-シ ク ロヘ キ サ ジ エ ン-1-オ ン環(p-キ ノ イ ド型)の 過 塩 素 化 フ ェ ノー ル類 が 最 も抗 菌 性 が 大 き く,つ ぎ に2,4-シ ク ロヘ キ サ ジ エ ン-1-オ ン環,2-シ ク ロヘ キ セ ン-1-オ ン 環,3-シ ク ロヘ キ セ ン-1-オ ン環 の順 に 抗 菌性 は 低 下 す る こ と がわ か つ た.ま た,過 塩 素 化フェ ノー ル類 の 中 で は,過 塩 素 化フェ ノ ー ルが 最 も効 力 が大 き く,ク レゾ ール 類 キ シ レノ ー ル類 の 順 に抗 菌 性 は低 下 す る が,メ チ ル基 の結 合 位 置 に よ る差 異 は判 然 と しな い. トマ ト葉 カ ビ病 菌 に 対 して は,1,2,5-キ シ レ ノー ル 過 塩 素化 物 が 過 塩 素 化フェ ノ ー ル 以 上 の 効 力 が あ り,PCPに 近 い効 力 が認 め られ た.し か し,過 塩 素 化 フェ ノ ー ル類 の 化 学構 造 と 抗 菌 性 との 関係 につ い て,規 則 性 は 認 め られ な い. C-グ ル ープ の 塩 素化フェ ノキ ノ ン分子 化合 物 につ い て も,(C-4),(C-14)の よ うに構 成 成 分 の 一 つ が PCPで あ る もの は,枯 草 菌,ト マ ト葉 カ ビ病 菌 に対 して,か な り効 果 的 で,フェ ノー ル成 分 の 抗 菌性 が, そ の ま ま あ らわれ て い る.す な わ ち,各 分 子 化合 物 の 構 成 成分 で あ る 塩 素 化p-キ ノ ン成 分 と,ハ ロゲ ン化 フェ ノー ル類 成 分 の 相 乗 的効 果 は期 待 で きな い. 過 塩 素 化フェ ノー ル類 の 中 には,枯 草 菌,ト マ ト葉 カ ビ病 菌 に対 して,か な り優 れ た 殺 菌効 力 を 示 す 化 合 物 が あ るが,枯 草 菌 に対 して,ヘ キ サ ク ロル-2,5-シ ク ロヘキ サ ジ エ ン-1-オ ン(A-6)がPCPよ り強力 な だ けで,総 合 的 にPCP以 上 の殺 菌 効 力 を もつ た化 合
隈 元:農 芸 用 殺 菌 剤 と し て の ポ リハ ロ ゲ ン 化 フ ェ ノ ー ル 類 お よ び そ の 誘 導 体 121 物 は見 出 され な か つ た. 4.結 語 現 在,殺 菌 剤 と して 多面 的用 途 を もつ て い るPCP と同 じよ うに,枯 草 菌,ト マ ト葉 カ ビ病 菌 に 対 して は,相 当効 果 的 な 化合 物 が過 塩 素 化フェ ノー ル類 の 中 に見 出 され た が,両 方 の菌,病 菌 に対 して,PCP以 上 の抗 菌 性 を 示 す 化 合 物 は な い.PCPな ど の 過 塩 素 化フェ ノー ル 類 を,さ らに過 塩 素 化 す る こ とに よ つて ,抗 菌 性 の 増大 を期 待 した が,p-キ ノ イ ド型過 塩素 化 フェ ノ ー ル類 以 外 は,過 塩 素 化 す る(シ ク ロヘ キ セ ノ ン環 に な る)こ とに よつ て,む しろ,抗 菌 性 は 低 下 す るこ と がわ か つ た.ま た,過 塩 素 化フェ ノー ル類 の 環 の 構造 と 抗 菌 性(枯 草 菌 に つ いて)と の 関 係 に つ い て,一 定 の姐 則 性 が 見 出 され た.し か し,こ れ らの過 塩 素 化フェ ノ ール 類 は,か な りす ぐれ た 抗 菌性 を もつ て いて,し か も殺 虫 効 力 もあ る ので,何 らか の 特徴 あ る用 途 が 期待 で き る もの と考 え る. ま た,す ぐれ た殺 虫 効力 を示 す シ ク ロペ ン タジ エ ン 付 加 物 お よ び その 誘 導 体 も,殺 菌効 力 は ほ とん ど認 め られ な か つ た。 文献
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3)
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(1954)
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(1957); Chem. Abst., 52, 4091i (1958)
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6)
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Brit. P. 716,
020 (1954); Chem. Abst., 49, 3463h (1955)
7)隈 元:鹿 児 島 大 学 工 学 部 研 究 報 告,1,110∼115(1961).
8)隈 元:鹿 大 工 学 部 紀 要,9,155∼159(1960) 9)隈 元:工 化 誌 投 稿 中(昭和36年3月 受 理)