〈論説〉アメリカにおける被疑者・被告人の憲法上の権利についての若干の考察
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(2) 史をもっているのに対し、 わが国はどちらかと言えば中央集 権的であり、国民も官僚的支配 になじんできた。. このように見ると、 わが国がアメリカから導入したと考えられている制度も、表面上は似ていても、実質的にはか. なり違ったものであっても不思議ではない。しかし、人権の価値は本来的に同一であり、コモンロー法系の国々 も、. ョーロッパ 大陸法系の国々 も、人権の実現という究極の法的価値を追求する点で合一化に向っていると言っても過言. ではない。このような時に、多くの点で わが国のモデルとなったアメリカの制度をあらためて考察し、検討すること. はそれなりの意 義があると思われる。. 本稿では、 アメリカの被疑 者・被告人の諸権利のうち、 ①自己負罪禁止 特権 (アメリカ合衆国憲法修正 一四条 )、. ②迅速な裁判を受ける権利(同修正 六条 )および陪審裁判を受ける権利(同三条二節 三項·同修正 六条 )を取り上げ、 若干の検討を加える。. 自己負罪禁止特権 ① 自己負 罪禁止特 権とミラ ンダ・ルー ル. 合衆国憲法修正五条は、「 ……何人も、 刑事事件において、 自己に不利な証人となるよう強制されない」と定め て. いる。 この規定 は、 すべての被疑 者・被告人に、自己に不利な供述をなすことを拒否する権利を保障するものである. が、これだけでは、法律の知識がなく、その置かれている状況から、何が不利で何が有利かの判断のつかない一般の 人びとにとっては十分な保護の楯にならないとの批判があった。. -138-. 近畿大学法学 第 49 巻第 2·3 号.
(3) アメリカにおける被疑者・被告人の憲法上の権利についての若干の考察. の批判に応えたのが、 一九六六年のミランダ対アリゾ ナ事件最高裁判決である。 ウォーレン・ コートの代表的判. J. 決であるミランダ判決が打ち出した立場とは、被疑 者が身体拘束中に尋問を受ける場合、 田黙秘 権があること、 ②供. 述がのちの法廷において不利な証拠として用いられる可能性があること、③弁 護人の選任権があること、および. 私選弁 護人を選任する余裕がない場合には、公費で弁 護人を選任してもらえること、の四点について告知を受ける権. 利があり、そのすべてについて告知がなされ、その権利の積極的放棄の意思表示がなされない限り、被疑 者の供述は. 任意 でなされたものとはみなされず、したがって、のちの裁判において証拠として認められない、というものであっ 2 た。この判決の二年前、すなわち、 一九六四年、最高裁は、 エスコベド対イリノイ事件判決において、弁 護人との接. 見を許されず、かつ、修正六 条の弁 護人依頼権の告知を受けずに被疑 者がなした供述の証拠能力を否定していたが、. ミランダ判決の証拠排除は、弁 護人依頼権によってではなく、修正五 条の自己 負罪禁止 特権(黙秘 権)によるもので. あった。この判決が④の公選弁 護人の選任権の告知を取調官に 義務付けたのは、黙秘 権の実効化をはかるためであっ. たことは言うまでもない。. ミランダ判決は、警察での取調べの状況は本来威圧的であり、そのような雰囲気がなんらかの形で緩和されない限. り、そこで被疑 者が行なった供述はその人の自由な選択によるものとは考えられないという認識に基づいている。い. わゆるミランダ警告( Mi ra nda warni ng) の狙いも、 個人が供述するかしないかを自由かつ賢明に選択し得る環境. を作り出すことにあったと言えよう。この判決については賛否両論が対立し、同判決は一九六 0年代を通じて最も論 議の多いものとなったことは周知の事実である。. しかしながら、犯罪対策に悩む法執行機関などからの激 しい批判をみて、連邦議会は、ミランダ・ ルールを弱める. -139-. (4).
(4) 立法を行った。一九 六八年の「 総合犯罪規制及び安全市 街地法」二篇三五〇一条がそれである。同条は、被疑 者の取. 調べに際してミランダ・ ルールを守 るよう求めているが、同時に、取調官がその基準の―つに違反しても直ちに当該. 被疑 者の自白が排除されるわけではなく、 問題の自白の任意性 は 「 全体の事情」( t ot al i t y ofc i r c ums t anc e s ) に照. らして判断するよう定 めている。この規定 の合憲性は、当初から疑 問視されていたが、のちの最高裁判決はそれを承. 認し、今 日に至っている。. ② ポスト・ ウ ォーレ ン ・コー トとミラ ンダ・ ルール. ミランダ・ ルールはリベ ラルと言 われ たウォーレン・ コートの作であるが、 ウォーレンを初めとするリベラル派裁. 判官が退任した最高裁の下 で、それが弱体化することは大方の予想するところであった。ミランダ判決からの後退へ 固 の第一歩は、一九 七一年のニュー ヨーク対ハリス事件判決にみられる。本件では、最高裁は、 五対四で、ミランダ警. 告を受けずに被疑 者が警察で行った供述は、被疑 者本人を有罪とする証拠としては用いられないが、被疑 者の証人と. しての信憑性を否認するためになら使 用できる、と判示した。この判決は、ミランダ判決を変更 するものではないが、. 少 なくともその効果を狭めるものであって、ミランダ判決の根本理念からは逸脱 しているとみられた。. つぎに、一九 七四年のミシ ガン対タッカー事件において、最高裁は、ミランダ・ ルールに違反して、被疑 者に供述. させた場合、その供述の証拠能力は否認されるが、その供述に基づき喚問された第三者の証言の証拠能力は認められ. ると判示し、ハリス判決に続いて、ミランダ判決の効果を制限する判決(八対一)を下した。 171 さらに、一九 七五年のオレゴン対ハス事件判決においても、最高裁は、ミランダ・ ルールの制限を容認する判決を. -140-. 第 49 巻第 2·3 号. 近畿大学法学.
(5) 下している。本件では、自転車窃盗の容疑 で逮捕 された被告人に対し、笞察官は、直ちに適切なミランダ警告を行っ. たものの、警察署への連行の際、被告人が弁 護士との接見を求めたところ、警察官は署に着いたら会わせてやると約. 束した。ところが、弁 護士と会う前に、被告人は、警察官の質問に答える形で、自分に不利な供述をしてしまった。. 州の第一審の公判において、裁判官は、被告人側の主張を認め、 当該供述は被告人の有罪を立証するための証拠とは. ならないが、被告人の信憑性を判断するための資料としてなら利用できると陪審に説示した。裁判の結果、被告人は. 有罪判決を受けた。 しかし、州控訴裁は、州最高裁の判例に従って、問題の供述が被告人の証言を否認するために不 当に用いられたとして、一審の有罪判決を破棄し、州最高裁もそれを支持 した。. -141-. 上告を受理した合衆国最高裁は、さきのハリス判決に従って、 六対二(反対意 見はプレナンとマーシ ャル)で州最. 高裁判決を破棄し、適切な事前の警告を受けずに被告人が行った供述は、被告人を有罪にするのに用いることはでき. ないが、被告人本人の証言の信憑性を否認するためになら利用できると判示した。本件ハス事件とハリス事件の相 違. 点は、オレゴン対ハス事件のハスに対して発せられたミランダ野告が適切であったのに対し、 一ュー ヨーク対ハリス. 事件のハリスに対して発せられたそれが不完全かつ不十分なものであったという点である。しかし、本件多数意 見は、. その点を問題とせず、「これらの警告 (ミランダ警告) が 特定の場合に、 ハリス事件におけるように不完全かつ欠陥. のあるものであったとしても、そのことは、それらの警告がその不完全さ ・欠陥に気付いていない警察官に対する抑. レナン (マーシ ャル同調) は、「不利な供述は、 有罪の直接の証拠として用いられる場合であっても、 信用性否認の. 止 力にならなかったということを意 味するものではない。また、その欠陥に気付いている警察官にとっても、それは 181 十分な抑止 力となっている。ハリス事件における証拠排除も本件におけるそれも同じものである」と述べている。プ. アメリカにおける被疑者・被告人の憲法上の権利についての若干の考察.
(6) ,. ゜. ため に用いられる場合であっても、 不利であることに変わりはない」 とのハリス判決の言葉を引用しつつ、「司法府 . .. 3 ... ま‘ 『政府に違法な行為を是認するような様子をいささかたりとも見せないようにし』 なければならない」 と述べ、 、. 原審判決を支持 する反対意 見を書いている。. ロードアイラ ンド対イニス事件判決と「 尋問」の 意味の 拡大. 後 日、被上告人は、今 回の事件とその数 日前にあったタクシー運転手射殺事件の犯人として、誘拐、強盗、謀殺の. よりも子供たちのため に鉄砲を取り除きたいと答え、警察官たちを鉄砲の隠し場所に案内した。. 彼の指 示した場所に向う途中、警察官は再びミランダ警告を発した。しかし、被上告人はよく分かっているが、それ. ばよいが」と同僚に語りかけた。それを聞いた被上告人は、鉄砲の隠し場所を教えるから車を戻してくれと依頼した。. 中、警察官の一人が「この辺りには障害 児の学校があり、そこの子供が弾の入った鉄砲を見つけ、怪我でもしなけれ. ればならず、それが実現するまで尋問を行ってはならないとされている。警察官三人が車で被上告人を警察署に連行. 会いたいと述べた°ミランダ ・ルールによれば、警告が発せられたあと、被疑 者が希望すれば、弁 護士に会わせなけ. 着し、再びミランダ・ルールのすべての基準を告知したところ、同人は憲法上の権利はよく分かっており、弁 護士に. の路上で容疑 者(本件被告人イニス)を逮捕 し、直ちにミランダ警告を行った。間もなく別の警察官が逮捕現場に到. がある。本判決の概要は以下 のとおりである。タクシ ー強盗の被害 者である運転手の通報を受けた警察官が現場近く. 黙秘 権と証拠排除に関するその後の注目 すべき判決として、一九 八 0年五月のロードアイランド対イニス事件判決. (3). 容疑 で起訴された。その公判において、被上告人は、 凶器の発見について、自分が行った供述はミランダ・ルールに. -142 -. 第 49 巻第 2·3 号 近畿大学法学.
(7) アメリカにおける被疑者・被告人の意法上の権利についての若干の考察. 反して得られたものであるから、証拠から排除するよう申し立てた。しかし、事実審裁判所は、ミランダ警告が何度. も発せられており、被 上告人はそれを知ったうえ自発的に放棄したと判断し、 その申立てを却 下し、被上告人を有罪. とした。しかしながら、ロードアイランド州の最高裁は、車内での警察官同士の会話を「 尋問」とみなし、被上告人. がミランダ警告のあと弁 護人との接見を希望したのに、それがかなえられる前に、警察官が「尋問」を行ったのは、. ミランダ・ルールに反すると判示し、下 級審の有罪判決を破棄し、裁判のやり直しを命 じた。. 州裁高裁からの上告を受理した合衆国最高裁は、 六対三(反対意 見はマーシ ャル、プレナン‘ スティープンス)で、. 州最高裁の判決を破棄した。本件での争点は、被 上告人がミランダ判決の意 味での「尋問」を受けたかどうかであっ. -143-. ` ‘ >ヽ たカ スチュアートによる多数意 見は、「 ミランダ判決のいう尋問」 には 「 明示の質問だけでなく、 合理的にみて被. ,. 疑 者から自己負罪的返答を引き出すかもしれないと警察が認識しているような 察 の側の(逮捕や身体の拘束に通常. 随伴 するもの以外の)どのような言葉や行為をも指 している」との見解を示したうえ、警察官たちが車内で行った会. 話が被上告人の自己負罪的返答を引き出したとしても、それはそのような可能性を認識すべきであったのにそれを認. 識せずに使 った警察官の言葉や行為の産物 ではないとして、州最高裁の判決を破棄し、原審に差し戻した。. ディッカーソ ン対合衆国事件判決とミランダ ・ルールの 有効性の 承認 り ミランダ・ルールは、これまで考察してきたように、若干の修正を受けながらも、アメリカ型刑事手続 上の基本的. たとえば、二 000年 、第四巡 回区連邦控訴裁は、逮捕 に際してミランダ笞告を受けないまま行った供述をもとに起. な基準として定 着している。しかし、その間、ミランダ・ルールを無視しようとする動きがなかったわけではない。. (4).
(8) 訴された被告人の証拠排除の申立てを容認した事実審裁判所の決定 を覆した。その根拠は、さきの連邦法二篇三五〇. 一条であった。敷延すれば、黙秘 権と弁 護人依頼権の告知はなされなかったが、供述は任意 になされたのであるから、 被告人の供述は同条により証拠として認められるというものである。. しかし、 合衆国最高裁は、「 当裁判所は、 連邦裁判所に対する監督 権を有しており、 その権限を用いてそれらの裁. 判所を拘束する証拠および手続上 の規則 を定めることができる。しかしながら、当裁判所が裁判により連邦裁判所の. ために憲法上要請されていない証拠および手続上の規則 を定立し執行することは、議会の適切な法律がない場合にの. み認められる。議会は裁判によって作り出された証拠および手続上の規則 で憲法によって求められていないものを修. 正 又は破棄する終局的な権限を保有している。しかしながら、議会といえども憲法を解釈し適用する当裁判所の決定. を法律によって無効とすることはできない。したがって、本件の争点は、ミランダ判決を下 した法廷が憲法上の規範. を判 ホしたのか、あるいは単 に議会の立法が存在 しないために裁判所に対する監督 権を行使 して証拠の規制を行った. に過ぎないのかに関わる」と述べたうえ、ミランダ判決は当裁判所の憲法解釈であり、その効力は議会の法律によっ. ても覆すことができないと結論づけ、ミランダ・ルールの有効性をあらためて支持 した。. S . 436 (1966). zona,384U. i andav.Ar r Mi ,U. S.478 (1964). s noi i Escobedo v.Ill. 注. ②. S.119,§ 3501. 18U.. ①. ,417U. S.433 gan v.Tucker chi Mi. (1974) ; S.714 (1974). Oregon v.Hass,420U.. ④. ③. -144-. 第49巻第2·3号 近畿大学法学.
(9) アメリカにおける被疑者・被告人の憲法上の権利についての若干の考察. .H arris,401 U.S .222 (1971). v. Tucker,supra.. N ew Y ork. H ass,supra.. H ass,supra,at 723. s,supra,at 231. H arri U ni S .338,360 (1974), tedS tates v.Cal andra,413 U .. H ass,supra,at 724. S .291 (1980). s,446 U . R hode I sl and v.I nni. randa,supra,at 474. Mi. 391A.2d 1158.. ー. -145-. s,supra,at 301. nni I. s,supra,at 303 304. Inni T ucker,supra,and H ass,supra. S .428 (2000). tedS tates,530 U . ckerson v.U ni Di. 迅速な裁判を受 ける権利. いる。アメリカにおいても、刑事被告人の迅速な裁判を受ける権利は、 わが国の場合と同様、一九 六0年代に入るま. 予め法律で定 められなければならない)の公平な陪審による、迅速な公開裁判を受け……る権利を有する」と定 めて. 合衆国憲法修正 六条は、「 すべての刑事上の訴追において、 被告人は、 犯罪の行われた州および地区 (その地区は. ① 迅速な裁判を受 ける権利とその 展開. (I�(17) (lb') (15) (14) 03) (I�OD 00) (9) (8) (7) (6) (5).
(10) 近畿大学法学 第49巻第2·3号. で、抽象的であいまいな権利でしかなかった。しかし、 六0年代、 ウォーレン・コートの下 で、新たな判例の展開が 2 131 見られるようになった。それらは、一九 七0年のディッキー対フロリダ事件判決およびバーカー対 ウィンゴ事件判決. である。それらの判決は、裁判が不当に遅延し、迅速裁判を保障する合衆国憲法修正 六条に違反した場合、デュープ. ロセスの見地から、有罪判決を破棄し、あるいは裁判を打ち切って、被告人を放免すべきであると、判示している。. これらの判決がわが国の迅速裁判規定 (憲法三 七条一項)についての学説 ・判例に大きな影響を与えたことは周知の 141 事実である。. 以下 において、アメリカにおける刑事被告人の迅速裁判を受ける権利についての判例の展開を考察し、続いて裁判 の迅速を確保するための立法とその問題点を検討する。. アメリカ連邦最高裁が始めて迅速裁判の保障について判断を示したのは、一九 0五年のビーバーズ対ホーバート事. 件である。 被告人のビーバーズは、 一ュー ヨークとワシントン特別区で刑事訴追を受けていた。 ところが、 一 ュー. ヨークの検察官は、ニュー ヨークの事件を一時中断し、被告人ビーバーズをワシ ントン特別区での公判に付すため移. 送する手続を開始した。これに対し、ビーバーズは、ニュー ヨークでの裁判手続の延期は自らの迅速な裁判を受ける. 権利を侵害 すると主張した。本件上告審において、最高裁は、修正 六条の保障する裁判を受ける権利は「無制限」で. もなければ、 「 絶対的」でもなく、また、 「 社会 的正 義」の権利を妨げるものでもないし、さらに、重 要な点であるが、 161 その権利は当然に「相対的」であり、状況によって遅延を容認する、と判示している。. このような定 義では、 迅速裁判を受ける権利も「 変幻自在 な権利」(pro i ght ) というほかなかったであろう。 t e anr. 意 義ある判例の展開が見られるようになったのは、 一九 六0年 代に入ってからである。. -146-.
(11) アメリカにおける被疑者・被告人の意法上の権利についての若干の考察. ②. ディッキー 対 フロリダ州事件判 決. 一九 六0年 六月 二八 日、 フロリダ州のモーテルで武装強盗が発生したが、その直後にディッキ ーという男がそれよ. り前に起こった別の連邦犯罪(銀行強盗)の容疑 者とし て逮捕され、 勾留 された。 その勾留 中、目 撃者の証言に基づ. き、地元の ガズデン ・カ ウンティー警察は、 ディッキ ーを武装強盗の犯人と断定 し、州裁判所から同人の逮捕 状を得. tこo. ディッキ ーは、一九 六0年 七月 一日から同年九月二 日までの ニヶ月間、 前述の連邦犯罪の関連でジャック ソン・カ. ウンテ ィー拘置所に勾留 され ていた。しかるに、武装強 盗を捜 査し ていた ガズ デン ・カ ウンティ ー警察は、デ ィッ. キーが連邦犯罪の容疑 で勾留 され ていることを知っ ていながら、逮捕 状を執行し、裁判のため身柄を確保しようとす. る努力を払わなかった。九月 二 日、連邦地方裁判所で有罪判決を受けたディッキ ーの身 柄は フロ リダ州から他州へ移. されたが、同 日になっ て、やっと州 の逮捕 状が連邦執行官に送付 され、それ と 同時 に正式の州 の勾留 令状がディッ キーに対 し て発せられた。. 一九 六二年、ディッキーは、 ガズデン・カウンティー地区の州検事正を相 手どっ て、州裁判所での裁判のため自分. を直ちに フロリダ州へ連れ戻すか、あるいは合衆国憲法修正第 六条の迅速裁判を保障できないことを理由とし て州の. 勾留 令状を取り消すか、のいずれかの決定をなすよう州裁判所に繰り返し請求した。しかし、同裁判所は次のような. 理由で請求を却 下した。. それらの理由とは、 田 フロ リダ州裁判所での裁判を受けるためディッキ ーが同州へ赴け ないのは、自分が勝手に連. 邦犯罪を犯し、その結果、連邦刑務所に拘禁され ているからにほか ならない、②遅延が公平な裁判を不可能にするほ. - 147 -.
(12) どの程度に至 っているか否かの判断は裁判の際に行われるべきものであり、したが って、現 段階で迅速裁判の問題を. 提起するのは時期尚早で ある 、 ③直ちに裁判を行わないことがディッキ ーの修正第 六条上の権利の 侵害 になるとして. も、その侵害 は同人の身柄を拘束している連邦機関によるものであり、したが って、救済の請求は連邦当局に対して. なされなければならない、な どである。. ディッキーは、フ ロ リダ州最高裁判所に上訴した。州検事局は、すでに刑事事件の犯人として拘禁されている者は. 別の事件について憲法上の迅速裁判の権利を主張できないと抗弁 したが、同裁判所は、m他州 や連邦によ って拘 禁中. で あることを理由に被告人に迅速裁判の保障を拒否することはできない(このような者の身柄を獲得する手段はず っ. と前から存在 するのであるから)、 ②被告人が訴追者である州に迅速裁判を請求した以上、 州は同人を法廷に連れて. くるために積極的な措置を講ずる 義務を 負 ったと言える。そして、時間の経過が大きくかつ許されない程度に至 って. いる場合、訴追する州が裁判のため被告人を直ちに連れ戻さなければ、のちに下 される判決が破棄されることになる. かもしれない、と判示した。しかし、同判決は、ディッキーが権限を有する州の検察官ではなく州地方裁判所を相手 191 ど って提訴したことは手続上誤りであるとして、結論的には同人の上訴を棄却した。そこで、強盗発生 後 七年た った. 一九 六七年九月一 日、ディッキーは、州裁判所に対し、 あらためて自らをフロ リダ州へ連れ戻すよう州検察官に命 ず. るか、 あるいは勾留 令状を取り消すか、いずれかの決定をなすよう求める申立てを提起した。州検察官は前者を選び、. 一九 六八年 一月二三 日、ディッキ ーは武装強盗の裁判のためフ ロ リダ州に連れ戻された。そして、州裁判所での裁判. の結果、ディッキーは有罪となり、懲役 一0年の刑を言い渡された。 ディッキーは、そこでの審理に際して提起した. 迅速裁判保障規定違反を理由とする公訴棄却の申立てを州地方裁判所が却下 したのは違法であるとして、上 訴したが、. - 1 48-. 第 4 9巻第 2 · 3 号 近畿大学法学.
(13) ア メ リ カ に お け る 被疑者 ・ 被告人 の 憲法上の権利 に つ い て の 若干の考察. 棄却 されたため、連邦最高裁判所へ上告を行った。. m. 連邦最高裁判所は、全員一致 で、 過去の 七年の間にいつ でも被告人を州の法廷に呼び出すことが できたし、被告. 人自身が繰り返しかつ熱心に迅速裁判を請求しているのに、検察官が裁判を延期しようとしたのは 正当 ではない、 ②. 七年 間裁判が遅延しているうちに二人の証人の 死亡、一人の証人の失踪および警察記録の紛失などが生 じ、被告人が. 防禦上重 大な不利益を受けたことは明白 であ る、③裁判が著しく遅延し、それによって防禦上の不利益が生じた以上、 3nu 被告人は武装強盗に関し公訴の棄却を求める権利を有する、と判示した。. ハーラン判事は、州の刑事手続きにおける迅速裁判の問題は、デュー・プロ セス条項 の保障する手続的公正の原則. -149 -. によって決せられるべき であるとの補足意 見を述べている。このほか、プレナン判事(マーシ ャル判事同調)の補足. 意見もある。. バーカー 対 ウインゴ事件判決. た。しかし、検察 が ―二回目の延期を申し立てるに及ん で、被告人はやっと公訴棄却 の申立てを行った。しかし、こ. バーカーは保釈されていることもあって、この間(三年 半の間) 一 回も公判の延期決定 に対し異議を申し立てなかっ. 間がかかったため、検察 は ―一 回もバーカーの公判の延期を求め、州地方裁判所もその都度それを認めた。被告人の. 一審 でバーカーを有罪にするためには共犯の証言がどうしても必要と考えられた。ところが、その共犯の訴追に手. 違反となるか否かが争われた事 件 である。. 本件は、殺人 で起訴された上告人バーカーの一審裁判が一六 回も遅延され、合計五年もかかったのが迅速裁判条項. (3).
(14) の申立ては斥けられ、さら に二回の延期 が行 われ たが 、被告人はこれ に ついては異議申立てをしなか った。ここで、. いよいよ公判が開かれること にな ったが、本件の捜査責任 者である警察官が病気で出席できなか ったため、当 日検察. は重 ねて公判の延期を申請 し た。被告 人はこれ に対して異議の申立てを行 ったが、それは却下され、さ ら に同じ理由. で、もう 一度、 (-六回目 の)公判延期が認められ た。. そこで、被告人 バーカーは、次の公判で迅速裁判保障条項違反を理由 に公訴の棄却を申し立て たが、容れられず、. 審理が行 われた結 果、無期 懲役の判決を受け た。州控訴裁判所がこの判決を支持 したため、 バ ーカーは連邦地方裁判. 所 に人身 保護令状の発給を求め た。しかし、連邦地方裁判所も、続く連邦控訴裁判所も、 ①被告人は一 ―回目の延期. の決定 がなされるまでの 三年半の間 に一度も裁判の促進を請求しなか ったこと、② ―二回 目 の公判延期の請求 に際し. ,. 被告人が異議の申立てをしてから実際 に裁判が行なわれるまでの期間(一年半)は不当 に長いとは言えないことなど. を理由 に、迅速裁判条項違反の主張を 斥け た。. 上告を受けた連邦最高裁判所は、m迅速な裁判を受ける権利は、刑事被告人 に保障されているその他の憲法上の権. 利と比 べあいまいか つ異質な概念であり、具体的な 日数や月数で示すことはできない。し たが って、裁判手続のどの. 時点でこの権利を主張しなければならないかを正 確 に示すことは不可能である、 ②被告人が裁判の促進を請求し たか. 否かは、迅速裁判保障条項違反の有無の判断を するに際して考慮しなければならない要素の 一っであるが、迅速裁判. 保障の第一次的責任は裁判所と検察 官 にある、③迅速な裁判を受ける権利の侵害 の有無は、検察 ・被告人双方の行動. の比較衡量 によ って決せられるが、裁判所としては遅延の期間、遅延の理由、被告人 による迅速裁判の請求の有無お. よび、遅延 によ って被告人 に生じ た不利益などの諸要素を考慮 す べきである、④本件は異常 に遅延しており、きわど. - 150 -. 第 4 9巻第 2 · 3 号 近畿大学法学.
(15) アメリカにおける被疑者・被告人の憲法上の権利についての若干の考察. いものであるが、遅延のために被告人に生じた不利益が最小限であることと、被告人が迅速裁判を求めなかったとい. ,. m迅速. う事実は、裁判の遅延によるもろもろの不利益を凌駕している、固以上の点からみて、 上告人の迅速な裁判を受ける. 権利の侵害 はなかったと言える、との判断を示した。 ⑳. この判決には、ホワイト裁判官(プレナン裁判官同調)の補足意見がある。 その中で、ホワイト裁判官は. 裁判条項の目 的の ―つは、起訴から公判までの間の過度の遅延を防止 することであるが、このような遅延は、被告人. ②国の資力不足や未処理事件の増加は不合理な遅延の言い 訳に は ならない、との二点を主張. の実体上の防禦に不利益を生じしめる可能性がある点は別として、被告人の自 由 その 他の 権利に重 大な制約を加える 虞があること、および. - 151 -. している。. ドゲット対合衆国事件. しかし、パ ナマ当局は、 その約束を守 らず、翌年 の 七月 ド ゲットを釈放し、 コロ ンビアに出国させてしまった。同. 手続きが終わり次第アメリカ ヘ強制退去させるよう依頼するだけにとどめ 、同政府 もそれに同意した。. た。 しかし、 同取締官は、 パ ナマ政府に正式な身柄引 渡し( ext on) を求めても無駄と考え、 パ ナマでの法的 i t di ra. その後、 一九 八一年九 月、取締官は同人が麻薬取締法違反の容疑でパナマ当局によって逮捕されていることを知っ. tこ°. たとして連邦地裁に起訴された。しかし、麻薬取締官が身柄を拘束する前に、同人は出国し、姿をくらましてしまっ. 一九八 0年 二月 二二 日、上告人マーク・ド ゲットは 、数人の仲間と共謀し、麻薬を密輸入し、密売することを企て. (4).
(16) 人は、数 ヶ月 間伯母の家に滞在したあと、一九八 二年 九月 二五 日、 一ュー ヨークの税関を通って帰国し、バージ ニア. 州に定 住した。その後、結婚をし、 大学を終え、コンビューター会社の管理 職のポストに就き、本名で堂々 と暮らし. ていた。ところが麻薬取締官は、ド ゲットはパ ナマの刑務所に服役しているものと思い込み、また、その後同人がコ. ロ ンビアに出国したということを知ったあとも、彼を逮捕 しようとする努 力を払わなかった。. 一九八八年九月、連邦執行官が逃亡中の被疑 者や被告人の銀行 口座のチ ェックを行ったところ、ド ゲットが帰国し、. 働いていることが判明した。 一九八八年九月五 日、帰国後ほぼ 六年 ぶりに、また起訴の 日から数えて八年半 ぶりに、. ド ゲットは逮捕 されることになった。. 同人は、連邦治安判事に対し、政府が起訴後八年半もたって公判に付すのは修正 六条の迅速な裁判を受ける権利の. ④遅延による被告人の. 侵害 であると主張し、公訴を棄却 するよう申し立てた。同判事は、 バーカー対ウィンゴ判決の四つの基準、すなわち、. m遅延の期 間、②遅延の理由、 ③被告人による迅速裁判を受ける権利の請求の有無、および. 権利の侵害 の存否、を適用し、 山については、二年半は国外であったとは言え、起訴から身柄の拘束まで八年半もか. かったのはあまりにも長す ぎ、被告人の防禦を妨げたと推定 させるのに十分であり、②については、遅延は明らかに. 政府の怠慢に起因しているし、 ③についても、逮捕前に自らが告発されていることを知っていたという証拠がない以. 上 、権利の援用が遅れたことについて過失は認められない、としたものの、 ぃについては、遅延が被告人の有効な防. 禦を行なう能力を損ない、あるいは何らかの形で被告人の利益を侵害 したということを積極的に立証していない、と 認定 した。. 連邦治安判事のこの認定 を受け、連邦地裁は、迅速裁判規定 に基づく被告人の公訴棄却の申立てを却下 した。被告. - 15 2 -. 第 49 巻第 2·3 号. 近畿大学法学.
(17) ア メ リ カ に お け る 被疑者 ・ 被告人の憲法上の権利 に つ い て の若干の 考察. 人は、アレインメント(罪状認否手続)でも、続く公判でも、有罪の判決を受けた場合に迅速裁判規定 を根拠に上訴 四 す る権利を留 保す るという条件 つきで有罪を認め た。第二審の控訴裁は、巡 回区での先例を援用し、ド ゲット は「現. 実の不利益」( actualprejudice) を立証しておらず、 また、 バーカーの最初の三基準が 「 現実の不利益」 の立証を. 不必要と するほど被告人に有利に傾いてい ることも確証していないとして、同人の控訴を斥けた。このため、 ド ゲッ. トは上告に及んだ。. 上告を受けた合衆国最高裁はバーカーの四基準を再確認したうえ、起訴から身柄拘束までに八年半もかか ったのは、 四 修正 六条が 保障 す る迅速 な裁判を受 け る権利 の 侵害 で あ ると判断し、原審 判決を破棄 •差 戻した。本 判決は、バ ー. (di li gent prosecuti on). 悪意 の遅延」 と 「. (bad |fai t h. カー原則 の第四番目 の基準、すなわち、裁判の遅延により被告人の防禦を行う能力が損なわれたということを明らか. にした。 多数意 見の分析によれば、「 きちんとした訴追」. 「 悪意 の遅延」は被告人 ay)があり、その中間に「 怠慢」 (negl i gence) に よ る訴追の遅延が あ る。 多数意 見は、 del. にほぼ自動的に救済を与える根拠とな るが 、当局の怠慢によ って遅延が生じたという場合には、救済の可能性はその ⑳ 遅 延の長さによ って決 ま る、としたわけであ る。も っとも、多数意見は、怠慢によ って遅延が長びけば長びくほど、. 迅速裁判を受け る権利の侵害として被告人に救済が与え られ る可能 性が大きくなると述べたものの、絶対的タ イ ム・. 8. リミットを示したわけではない。ただ、本件のように、帰国後 六年間も逮捕を怠 ったのはあまりにも長か ったという. だけであ る。. これに対し、オコーナー判事とトーマス判事がそれぞれ反対意見を書き、トーマス反対意見にはレーンク イスト主 8 席判事とスカリア判事が同調してい る。トーマス反対意見は、合衆国対ラウド ・ホーク判決を援用し、被告人に対す. - 153 -.
(18) J. ⑰. の立場によれば、 迅速裁判違反のタ イ ム・カ. る不利益は修正 六条が保護しようとしているような種類の自由の侵害 には当たらない、と述べている( ラウド・ホー ク判決のこのような読み方については、 多数意 見は反対している) 。. ウントは起訴まで生じないことになる。とすれば、逮捕 から公判までの間に長期の遅延が存し、その結果、証人の記. 憶が薄れ、証拠が失われ、証言が得られないことにな っても、迅速な裁判を受ける権利の侵害 は生 じないということ. になる。. 一九七 四年の 連邦迅速裁判法とその 問 題点. 前 述 の バー カ ー 対 ウィ ン ゴ 事 件 判 決に おいて、連 邦 最 高 裁 は 、迅速 な 裁 判 を 受 け る 権利 の 保障 は タ イ ム ・ス ケ. ⑳. ジュールの形で実現をはかるべきであると述べ、同時に、これは最高裁の判決によ ってではなく、議会の制定 法によ. るべきである、と判示した。これを受けて、連邦議会は 一九 七四年の連邦迅速裁判法 ( SpeedyTr i alActof 1974). を制定 している。同法は刑事訴追の主要な段階に対応して、い くつかの具体的タイ ム・リミットを設けている。その. 四. c harge) または起訴は被告人の逮捕 または召喚状の執行の 日から三 0日以内に提起されなければな 第一は、 告発 ( 8. らない。第二は、公判は告発または起訴の提起 の日、もしくは被告人が法廷に出頭し た 日のいずれか遅いほうから 七. 0日以内に開始されなければならない。第三は、被告人に準備の機会を与えるため、公判は被告人が法廷に出頭した. 日から三 0日以内に開始してはならない (被告人が文書で同意した場合はこの限りではない)というものである。. これらの規定の違反は公訴棄却 の絶対的原因となる。しかし、問題は、その棄却を「再起訴可能の却 下」 ( di s mi s s ,. ej udi ce)とするかにつき、裁 t hpr ej udi ce)とするか、 あるいは「再起訴不能の棄却 」 ( di s mi s s alwi t houtpr alwi. -15 4 -. (5). 第 49巻第 2 · 3 号 近畿大学法学.
(19) アメリカにおける被疑者・被告人の忠法上の権利につ いての若干の考察. 判官 に裁量権を与えていることである。. 連邦迅速裁判法は、「 再起訴不能の棄却」 にするか、あるいは「再起起訴可能の却下」 にするかを決定する場合 に、 8 裁判所が考慮しなければならない三つの要素を明示している。それらは、 (犯罪の重 大性、 ②棄却または却下 に至 っ. た事件の事実と状況、および ③再起訴が迅速裁判法および刑事司法全体 に与えるインハ。クトの程度である。これら. 三つの要素のうち最も重 要で問題となるのが②である。な ぜな ら、担当裁判官は棄却 または却下の決定 に当たり誰が. 遅延を生ぜしめたのか、何故遅延が生じたのかを認定 しなければならないからである。検察 や裁判所 に怠慢があ って. 遅延が生じたのであれば、裁判所としては再起訴不能の棄却 の決定をなすべきであるとした下 級裁判判決もかなり出. ている。そして、実 際 に、遅延の原因が検察または裁判 所 にある場合、再起訴不能の棄却 の決定 をするのが妥当であ 8 るか否か、またどの程度の怠慢があればそうなるの か について、論争がなされている。. もともと、連邦迅速裁判法が提案されたのは、連邦裁判所が刑事被告人の迅速な裁判を受ける権利を侵害 しないよ. う保障するためであ った。議会の狙いは刑事裁判を長期 化させるさまざまな方策や慣行を除去すること にあ った。 こ. の法律の制定 の経過を見れば、「 再起 訴不能の棄却」 がこの目標を達成する 「 最も有効、 かつ恐らく唯一の有効 な手 ⑳. 段」であると議会が信じていたことは明らかである。この法律の最終案は「 再起 訴不能の棄却」と「再起訴可能の却. 下」を定めているが、この規定 の挿入は、法案の提案者がもともと意 図していたものではなく、頑強な反対派議員 に 8 対する土壇 場での譲歩であ ったようである。. この法律は連邦の刑事訴追 にしか適用されないが、かなりの州が迅速裁判を保障するため同種の法律を制定 してい. る。そして、こん にち 、大多数の迅速裁判の問題はそれらの法律の下で処理されている。しかし、被告人が連邦憲法. - 155-.
(20) 修正六条に よる救済を求めてくる以上、結局、同条の迅速裁判を受ける権利の判例の流れを把握することが重 要とな. 迅速裁判の 判断基準.|「 要求 法理」と「 利益衡量論」. ることは言うま でもない。. ⑥. 以上の合衆国最高裁判決から、刑事被告人が迅速裁判を受ける権利を根拠に公訴の棄却 を求 める ことが できるのは、. m. つぎ の二つの要件が充たされた場合に限られる ことが導き出される。それらは、 被告人自身が熱心に裁判の促進を. 求めたのに検察官がそれに応じなかった場合、お よび②裁判が不当に長く遅延したため、証人の死亡、失踪、あるい は証拠の消失が生じ被告人が防御上重 大な不利益を蒙ったとい う 場合 である。. 勿論、いずれの判決も、一般的にどの位裁判が遅延すれば、迅速裁判保障規定 の侵害 が認められるのかについての. 判断は示していない。しかし、 ディッキーの場合には、被告人が繰り返し熱心に裁判の促進を求めたのに、事実審が. 七年 もかかり、被告人は防 御上重 大な不利益を受けたとして、被告人の公訴棄却の申立てを容認したのに対し、 バー. カーの場合には、迅速裁判保障規定 違反の有無は、遅延の期 間、遅延の理由、被告人による迅速裁判の請求の有無お. よび、遅 延によって被告人に生じた不利益などの諸要素を考慮して決すべき であるとしたうえ、被告人が裁判の促進. を求めなかった(三年半の間に一度も求めなかった)という事実は、裁判の遅延による被告人の防御上の不利益を凌. 駕していると判示し、被告人(上告人)の迅速な裁判を受ける権利の侵害 はなかったとの判断を下 している。. 要約すれば、刑事被告人の迅速な裁判を受ける権利の侵害の有無を決定 する基準として、被告人が裁判の促進を求. めたか否かを判断基準とする「要求法理」 と、検察、被告人双方の行動を比較衡量して決定 する「 利益衡量論」が定. - 156-. 第 49巻第 2·3 号 近畿大学法学.
(21) ア メ リ カ に お け る 被疑者 ・ 被告人の 憲法上の権利 に つ い て の 若干の考察. 日本 国窯法三七条 一項 はす べての刑事被告人 に迅速 な裁判を受 ける権利 を保障 し ているが、 学説、 判例とも長 らく同規定を. 着 し た と 考 え て よ い であ ろう 。. m , 398U.S. 30 (1970). Dickyv.Fl ori da kerv.W i Bar ngo,407U.S. 514 (1972).. 訓示規定 ととらえ、 裁判 の著 し い遅延が生 じ ても、 担当裁判官が 「 司法行政上 そ の他 の責任」 を問 われ るに過ぎな いと見 てい た。法学協会編 「 注解 日本国憲法」 ( 有斐閣 •一九 四八年 ) 、最大判昭和 二三 ·―ニ ・ニニ刑集 二巻 ―四号 一八五四頁。 ③. ②. が第 一回公判から 一0年 も放謹 された こと により、「 訴追 の相当 性は救 いがたい影響 を受 け、手続 の正義 を支 える べき 訴追 の正. ④ 明 らか に アメリカ の判例 の影 響を受けたと思 われる二 つの下級審判決 があらわれた。 ―つは、 八王子戦安事件判決 で、 審 理. 当 な利 益 が失 われ る に至 った」 として、 刑訴法 三三八条 四号 を準 用し公訴棄却 の判決 を下 し ている ( も っとも、 この判決 は上. もう ―つの判 決 は、 高 田事 件 審 一判決 で、 被告人側 の要望 によると は言 え、 審 理が途中 で 一五年 間も放 置され た のは 「 実質. 級審 で棄却 され ている。東京地八王子支部判昭 和 三七 •五 •一六下 刑集四巻五 •六号 四四六頁 ) 。. 的 には公訴 の時効 が完 成 した場 合 と同様 の効果 を生 ず る ことを認 めざ るを 得な い」 と判 示 し、 刑法三三七条 四号 を準 用し て、. sv•Hauber t, 198U.S. 77. Beaver , d. I at 86-87. ,"A New SpeedyTr Adr i an Brooks i alSt andar dfo rBar kerv.W i ngo:Revi ewi ngaConst i t ut i onalRemedyi nanAge. 上告審判決最大判刑集 二六巻 一0号六 三 一頁)がわが国 のリーデ ィング ・ケー スとな っている。. 免訴を言 い渡 し ている (この判決は控訴審 で破棄 されたも のの、上告審 にお いて支持 され ている)。 この後者 の判決 ( 高 田事 件 ⑤ ⑥ m. , at 34. I d.. ー. " cagoL.Rev. 589 (1994). v.ofChi , 61Uni ofSt es ut at , 398U.S. 30,33 34 (1970). Di ckyv•Fl or i da. ⑨. , I d. at 37-38. , I d. at 38.. ⑧ 閥 皿. - 157 -.
(22) 粛 抵剥. 8 .8. 6v�. 拙 坦粘 Y経屯. ST. | co ー. � Id., at 38. �壊+,,��, 怜弄走竺 ’ 毎廿o-< 12;1;;;;嶽→怜忘埠�-l:J, ::...l -l.2 >J -'J i(<! 科);1;l+,, l{l岩��+念 や -\Q l{l �斗 ’ 膏�i«!l!!l:脚 Q -l.2 お割.....)J認1"'�蔀ti� � , .JJ .....) \-J � l{l o "!-' ...J \-J' "l-' Q 捉瞭.JJ .....) \-J' 塞牌弄悉如渚磁.....)' -Q 0 匝芽J;6 QjnjS淫心� [' \-J � 心廿D紫 込埒 · 0 v\tt,$竺-\o, "( \-J 縁早:j,J -'--6 .JJ Q 翠恰如 :t:.....) \-J ' I'\ ロ =' ��斗苔器弄志 旦 樹.....)J廊-\o, -'--6 •0 !1弄l伶.....) \-J � l{l o 老 Id., at 38-39 (Harlan concurring opinion). <.;> Id., at 39 ff. (B rennan concurnng opm10n). 0 塁 442 F. 2d 1 1 41 (197 1 ) . 宦 Barker v . Wingo, 407 U. S. 5 1 4, 521-22 (1972) . 巨 Id., at 529. � Id., at 53か33. 琶 Id., at 533. 忌 Id., at 537-39 (White concurring opinion). � Doggett v. United States, 505 U. S. 647, 650 (1991). § Ringstaff v. Howard, 885 F. 2d 152 (CA 11 1 989) . � Doggett. supra, a t 653. 思 Id., at 656-57. @ Id., at 658- 59 (O' Connor dissenting opinion). � United States v. Loud Hawk, 474 U. S. 302 (1986) . 5 Dogget, supra, at 661 (Thomas dissenting opinion) . 毯 18 U.S. C . §§ 3 16 1-3174 ( 1 982) & Supp. IV (1986). � Id., § 3161 (b). 窓 Id., § 3161 (c) ( l ). 忌 Id., § 3161 (c)(2). g Id., § 3162 (a) . � Note : Determination of Dismissal Sanctions under the Speedy Trial Act of 1974, 56 Fordham L. Rev. 51か5 1 1 (1987) . 忌 18 U.S. C. § 3162 (a) ( 1 982)..
(23) アメリカにおける被疑者・被告人の憲法上の権利についての若干の考察. ,56For . 520. v dham L.Re e anot Supr. 陪審 による裁判を受ける権利 ① 陪審裁判を受 ける権利と「 公平な陪審」の 保障. アメリカ合衆国憲法三条 二節 三項は、 「 弾劾の場合を除き、す べての犯罪の裁判は陪審 によるものとする」と定 め、. また、 同憲法修正六条は、「す べての刑事訴追 において、 被告人は……犯罪が行われた州および地区の公平な 陪審 に. よる迅速な公開裁判を受ける権利を有する」と規定 している。前者の規定 により、連邦の刑事裁判が陪審 によって行. なわれなければならないことは明白であったが、この規定 が州の場合 にも適用されるかどうかは長年論議の的であっ. tこo. しかし、この問題は、一九六八年のダンカン対ルイジア ナ事 件 判決によって司 法 的 に解決されることとなった。敷. 延すれば、同判決の中で、合衆国最高裁は、 前示二条項は、修正 一四条を通じ、州をも拘束し、したがって、州の刑. 事裁判も連邦のそれと同様 に陪審 によらなければならず、州の刑事被告人も連邦の刑事被告人と同じよう に陪審裁判 を受ける権利を保障されていると判示した。. つ ぎ に問題となったのは、「公平な陪審」 を支える州の陪審の構成と評決方法である。 一九 七 0年 代 に入って、 そ. れらの問題が合衆国最高裁 に持ち込まれるよう になった。伝統的 に連邦の陪審 の構成は ―二人で、有罪の評決は全員. 一致 によるものでなければならないとされてきた。この点、州 の陪審 もそれと同じでなければならないか が争点と. - 159 -. Cl@.
(24) な っていた。. 以下において、アメリカにおける州の陪審の構成、陪審の評決方法および陪審員の忌避について論述する。. 「 公平な陪審」と州の 陪審の 構成. ②死刑が適用されない事件の裁判は、 六人制陪審. た。しかし、同州上 訴裁判所がこの請求を棄却 したため、 ウィリア ムズは、連邦最高裁に上告を行 った。 4 一九 七 0年、最高裁は、 ウィリア ムズ対フロリダ事件判決において、mに ついては 六対二 で、また ②については. によると定めたフ ロリダ州規則 は「公平な陪審」を保障した同憲法修正 六条に違反すると主張し、判決の破棄を求め. 州 刑事訴訟規則は黙秘 権を保障した合衆国憲法修正 五条に、また. イ証人の氏名および住所 と、自分が居たと主張する場所を、あらかじめ検察官に告知することを 義務づけたフロ リダ. 陪審により有罪と され 、終身刑の宣告を受けた。彼は、①被告人が公判においてアリバイを主張する場合に、アリバ. ると定 めたフロリダ州法が「公平な陪審」による裁判を保障した合衆国憲法修正 六条に違反するかどうかが争われる 131 こ ととな った。強盗容疑 でフロ リダ州裁判所に起訴 された ウィリ ア ムズは、フロリダ州刑事訴訟規則 の定め る 六人制. この点、まず、有罪 とな れ ば死刑となる可能性のある事件以外の裁判は、― 二人制陪審 では な く、 六人制陪審によ. 必ずしも―二人 である必要はない とされてきた。. 員の数は― 二人 とされてきたが、選任手続 きの複雑 さ、コストなどの問題もあり、刑罰 の比較的軽い事件の場合には. 憲法の定 める「公平な陪審」を確保するのに陪審の構成が重 要 であるこ とは言うま でもない。コモンロー 上、陪審. (2). 七対 一で、 それぞれ原審判決を支持 した。ここ では、もちろん陪審の構成の問題のみを取り上げるが、この点につい. - 160 -. 第 4 9巻第 2 · 3 号 近畿大学法学.
(25) アメリカにおける被疑者・被告人の憲法上の権利についての若干の考察. ては、最高裁の多数意 見は、 ―二人制陪審は「歴史的偶然」に過ぎず 、憲法制定 者がコモンロ ー上の陪審制の 特色を ⑤ そのまま合衆国憲法に取り入れようとしたとは思われないと述 ぺている。多数意 見は、さらに、陪審の目 的は「腐敗. した、あるいはやり過ぎる検察官と、人の言いなりになる、あるいは異常な性格の裁判官に対する備え」をなすこと. によって、政府の圧制を防止することにあるとしたダンカン対ルイ ジア ナ事件判決を援用しながら、陪審 の本質的特. 質は、「 訴追する者と訴追されるものとの間に素人のグループの常識的判断を介在 させること、 およびそのグループ m に有罪か無罪かを決定 させることによって共同体参加と責任の連帯を作り出すこと」にあると述べている。. このような見地から、陪審の構成員の具体的な数について、多数意見は、 「(陪審)の数は、外部からの脅迫にさら. されることなく、グループ討議を促進し、かつ社会の各層を代表する公正な可能性を提供できるだけの大きさをもつ. べきである。だが、その数が六人だからといって、それが ―二人の場合よりも、これらの目 的が達成しにくくなると 8 考える理由はほと んどない。 とりわけ、 全員一致の要件が保持 されている限りにおいては」 と論じ、 さらに、「 ―二. 人制陪審は、有罪宣告を阻止してくれる一人の陪審員を見つけるため のより多くの 『 機会』を保障してくれるだけに、. 被告人により大きな利点を与えることになると思われるかもしれない。しかしながら、このような利点は、反対に、. 容易に ―二人のうちの 一人でよいから、有罪を主張し、 無罪放免を阻止してくれる陪審 員を必要とする検察のものと なるかもしれないのである」と述べている。. この判決の意 義は、連邦の権利章典が修正 一四 条を通じて州に対してもそっくりそのまま適用されるとする説を斥. け、修正六 条の要求する ―二人制陪審の基準が州には適用されないことを宣言した点にある。これについては、マー. シ ャル裁判官のみが反対意見を書いている。プラックマンは本件審理に参加しなかった。. - 161 -.
(26) 「公平な陪審」と州の 陪審の 評決方法. 判決は、修正 六条の陪審裁判を受ける権利が修正一四条を通 じて州にも適用されると判示した一九 六八年 のダ ンカ ン. 有罪の決定 ができると定めたルイジアナ州法の合憲性に関するジ ョンソン対ルイジアナ事件である。本件の事実審の. もう―つの事件は、法定刑が懲役となっている犯罪の裁判の場合には、 ―二人の陪審員のうち九 人の合意があれば. を合憲としたが、ダグラス、プレナ ン‘マ ーシャル、スチュアートの四人が反対意見を書いている。. ける権利の侵害 であると主張した。これに対し、五人の相 対多数意 見(意 見は三つにわかれている)は、問題の規定. の事件の一人が、全員一致によらない有罪の決定 は、修正一四 条によって州にも適用される修正 六条の陪審裁判を受. ポダカ対オレゴ ン事件であり、そこでは、― ―対一で有罪宣告を受けた二人の被告人と、 10対 二で有罪とされた別. 外の刑事事件においては― 二人の陪審 員のうち一 0人の合意があれば有罪にできるとしたオレ ゴ ン州憲法に関わるア. 一九 七二年五月二二 日、合衆国最高裁は、二つの事件においてこの点についての見解を表明した。 ―つは、謀殺以. なった。. 全員一致によらず、 特別多数 決によって 有罪 •無罪 を決定する陪審 の評決方法の合憲性 が裁判所で争われることと. どの場合以外は、 10対二あるいは九対三でもよいというように、有罪の要件が緩和されるようになった。このため、. 放免してしまうという事例がしばしば見られた。それを避けるため、 七0年代に入ると、州によっては、死刑判決な. 一人でも反対すれば、有罪とすることができなかった。このため、 一人あるいは二人の反対のため、みすみす犯人を. 前述したように、伝統的なコモ ンロー方式によれば、被告人を有罪にするには― 二人 全員一致の決定 が必要とされ、. (3). 対ルイジアナ事件判決よりも前に下されているので、上告人(強盗で有罪)も、同判決の援用はしておらず、もっぱ. - 16 2 -. 近畿大学法学 第49巻第 2 · 3 号.
(27) ら修正一四条の した。. m適正手続規定 および ②法の平等保 護規定 の見地から、 前述のルイジアナ州法を違憲無効と主張. 敷 延 す れ ば、 山 に つ い て は、上 告 人 は 、修 正 一四 条の 適 正 手 続 規定 は「合 理 的 な 疑 い を 生 ぜ し めな い よ う な」. に、 ②については、上告人は、死刑事件では―二人制陪審 による全員 一致を、また懲役を選択的に科しうる事件では. 五人制陪審による全員一致を定 めながら、本件のような、有罪となれば必ず懲役が科される事件では― 二人制陪審に. よる九対 三の評決があればよいとしたのは、修正 一四 条の定める法の平等保 護規定 に違反すると主張した。ホワイト. 裁判官の手になる最高裁多数意 見(五裁判官)は、 ①については、非 死刑事件において全員一致の代わりに九 対三 に. よる有罪決定 を認めたとしても、「 合理的な疑い」の基準を満足せずに有罪を決めたことにはならないと述べ、また、. ②については、九対三という多数決制を定めたルイジアナ州法は、裁判を促進し、経費を節 減するという合理的な目. 的に役立つものであるし、罪の軽重 によって犯罪立証の難易度を変えたとしても著しく差別的とはいえない、と判示. した。本件判決においても、ダ グラス、プレナン、マーシ ャル、スチュアートの四人が反対意 見者となっている。. まず、ダ グラス、プレナン‘マーシ ャルの 三裁判官の反対意見は、つぎの四点に要約できる。すなわち、①全員. 致は、歴史 に深く根ざすものであり、弾劾主 義にとって基本ともいうべき刑事手続上の憲法原則 である。②全員一致. によらない有罪決定 は、陪審の行き詰まりの可能性を減じ、かつ全員一致の評決のために必要な協議や討議の時間を. 短縮させ、終局的には、少 数の陪審員が陪審全体を理性的に説得して無罪決定をさせたり、あるいは比較的軽い罪の. み有罪とさせるという ケースを減少 させることによって、圧倒的に州(検察)に奉仕することになる。③合理的な疑. - 163 -. 的内容として全員一致を求 めていると主張した。 つぎ の具体り edoubt 士趾という基淮ナ onabl as t 古 e E の ) 右罪 ( beyondar. ア メ リ カ に お け る 被疑者 ・ 被告人の憲法上の権利 に つ い て の 若干の考察.
(28) いを 生ぜしめない程度に犯罪を立証するという憲法の基本原則 を適正 に実施するのに全員一致は必要である。 さらに、. ④陪審 の全員一致による評決の要件とか、合理的な疑 いを生ぜしめないような犯罪の立証の要件はき わめて重 要であ. り、それらの変更 は憲法の改正によって行うべきである。. これに対し、スチュアート裁判官の反対意 見(ブ レナンとマーシ ャルが同意 )は、m州が被告人に刑事手続におい. て陪審裁判を受ける権利を保障しているのであれば、修正一四 条の要件からみて、それは陪審の全員一致によるもの. でなければならず、また ②修正 六条の定める全員一致の評決の要件と公正な陪審の選任制度の要件はお互いに補完. しあうものであり、全員一致の要件は陪審員の多数が少 数派人種または少 数派階級に属する同僚陪審員の意見を無視. するのを防止 するのに不可欠であると述べている。. いずれにせよ、前示の判決によって、それまで当然と考えられていた ―二人制陪審と全員一致による評決というコ. モンロー上の方式が憲法上の「 陪審 裁判」の必須の要件でないと され、 ―二人制陪審における九対三の評決方式と 六. 人制陪審の採用がそれぞれ合憲とされたのである。その後、若干の判決によって、陪審の構成とその評決法について. 憲法上許容しうる限度が さらに明らかになった。それらの判決の第一は、一九 七七年のバルー対ジ ョージア事件判決. である。 本件では、上告人バルー (劇場支配 人)はわいせつ映画を上演したかどにより起訴 され、 ジ ョージア州法の. 定 める五人制陪審により有罪(懲役一年および罰 金一OOOドル。ただし、罰 金の納付と同時に懲役は執行猶予)の. 判決を受けたため、軽犯罪より重 い罪を犯した者を五人制陪審で裁くのは修正 一四 条を通じて州にも適用 され る 同 六. 条の陪審裁判を受ける権利の侵害 であるとして、合衆国最高裁に上告を行った。最高裁は、全員 一致 (ただし、意見 は五つに わかれている)で五人制陪審を違憲とした。. - 164-. 第49巻第 2 · 3 号 近畿大学法学.
(29) ア メ リ カ に お け る 被疑者 ・ 被告人 の憲法上の権利 に つ い て の若千の 考察. ,. 第二の判決は、 一九 七九年のバーチ対ルイ ジアナ事件判決である。本件の上告人は、 わいせつ映画を二度上 演した. かどで一年 ニヶ月の懲役(執行猶予つき)および 一OOOドルの罰 金判決を受けたバー チという個人と、―二OOド G ルの罰 金刑に 処せ ら れた法人である。両上告人とも、ル イジアナ州法により 六人制陪審 に付さ れ、バーチは五対一で、. また法人は六人の全員一致により、有罪とさ れた。上訴を受けた州最高裁は、 ジ ョン ソン対ルイジアナ判決のいうよ. うに 七五 %( ―二人中 九人)の同意でよいのなら、八三 %(六人中五人)の同意 を要件とすることは、同判決の許容. する限度内にあり、五対一で有罪判決ができると定 めても、 ウィリア ムズ対フロ リダ判例に反することにはならない、. と判 ホした。しかし、上告を受けた合衆国最高裁は、刑事司法に要する時間と経費の節 減と いう州の利益も五対一に. よる有罪決定 を十分正当化するものではないと述 べ、バーチの有罪判決は破棄し、法人の有罪判決のみ容認する判決. を下した。プ レナン、スチュアート、 マーシャルの三裁判官が部分的に反対意見を述 べているが、五対一による有罪 判決を違憲とする点では多数意見に同調している。. なお、陪審 の構成に関して、女性を排除するコモンロ ー的伝統が問題となっていたが、 一九 七五年のテイラー対ル. イジアナ事件判決において、 最高裁は、「全女性を陪審の 義務から排除したり、 性 別のみに基づいて自動 的に陪審 義. 務を免除した結果、刑事裁判の陪審 候補者がほとんど全部男性になるようなことはもはや支持 し得ない」と述 べ、 全. g. 女性を陪審 義務から免除したルイジアナ州憲法は「 社会の各層」から公平に 選 ば れた 陪審による裁判を受ける被告人. の権利の侵害 である、と判示した。この判決の立場は、 一九 七九年の デュア レン対ミズリー事件判決によっても支持. されている。. -165-.
(30) 近畿大学法学 第49巻第 2 · 3 号. 州の 陪審の 選任と陪審 員候補者の 忌避. アメリカ合衆国では、連邦と州をあわせ年間約八万の刑事裁判が行われ、そのうちの半分強が陪審によって行われ. ている。その陪審を構成する陪審 員の候補者は、選挙人名簿、 課税台帳、自動車運転者登録簿、電話帳、市 民台帳、. 水道・電気・ガス利用者名簿、あるいはこれらの組み合わせによって、無作為に選任されている。もっとも、陪審員. 候補 者となるには、一般的に言って、①少なくとも一八歳に達 していること、②招集 を受け た裁判所の裁判管轄区域. の住民であること、③合衆国の市 民であること、④英語による意 思伝達能力を有していること、が求められている。. さらに、公民権を停止 されている者は、通常、裁判所によって排除されるし、精神的または肉体的欠陥 のため陪審員 8 としての戦務を十分に果 たせないと判断された者も裁判所によって排除されるのが普通となっている。 8 ま た、故なく陪審業 務の呼び出しに応じない者は罰 金刑、ま た場合によっては禁固刑に処せられることもある。. なお、 一定 の職種についている者は、自動的に陪審の義務を免除される。州によって多少の違いはあるが、医師、. 弁 護士、 牧師、 消防士、 死体 保存業 者 ( エン バーマー) 、 警察官、 教員、 自営業 者などは陪審業 務に就くことを辞退. することができる。ま た、苦痛、著しい不便、公務などを理由にしばしば陪審義務の免除がなされている。 ただ 、陪. 審 員となっ たため失職するかもしれないというだけで陪審義務の免除を求めることは通常許されない。何故なら、雇 ⑳ 用主が陪審員就任を理由に従業 員を解雇することを禁じ た法律が多数制定 されているからである. 免除されずに陪審員候補となった者が陪審業務を遂行するための法律上の要件を充 たしているか否か、あるいは公. 平な判断の妨げとなる偏見を有しているか否かを確保する ため、裁判官、検察 官、弁 護人は陪審員候補者に対しそれ. ぞれ質問をすることができる。そして、検察 官または弁 護人は、裁判官の同意を得て、陪審員としての資格に欠ける. - 166 -. (4).
(31) ア メ リ カ に お け る 被疑者 ・ 被告人 の意法上の権利 に つ い て の若干の考察. か、 あ るいは公平性 に疑問のあ る陪審員候補 を忌避 する ことが でき る。もち ろん、裁判官 は、検察官、弁護人 の忌避. の申立 てがなく ても、正当 な理由 があれば、独自 にそ のような陪審員候補 の排除 を命 ず る ことが でき る。 このような. 正当 な理由 にもとづく陪審員候補 の忌避申立 ては無制限 である。. J. の無条件忌避 の申立 ての回数 は. これ に対 し、検察官、弁護人 は理由 を述 べる ことなく陪審員候補 の忌避 の申立 てをす る ことが認められ ている。こ. のような忌避 の申立 ては無条件忌避 ( per empt or yc hall enge) と呼ばれ ている。. 無制限 ではなく、連邦 の刑事裁判を例 にとれば、法定 刑が死刑とな っている事件 にお いては検 察側、被告人側 のいず 8 れ の側 も 三回申立 てを行 う ことが認められ ている。州 の刑事裁判 の場合 にも、無条 件 忌避 の申立 ての回数 は制 限 され. - 167 -. ており、 その法定 刑 の軽重 により差異が存在 し ている。 たとえば、 フ ロリダ州 では、法定刑が死刑 または無期 懲役 と. な っている場合 には検察、弁護人 とも 一0回、法定刑が 一年 を超 え ている場合 には六回、 そし てそれ以下 の場合 には 8 三回申立 てを行 う ことが でき るとされ ている。 もち ろん、申立 てのでき る回数 は、州 によ ってまちまち で、州間 でか. なり の開き がみられる。 たとえば、 ペンシルベ ニア州 では、死刑事件 では、検察、弁護人 の双方 とも 二0回、重罪事. 件 では八回、軽罪事件 では六回とな っている のに対 し、 オ ハイオ州 では、双方 とも死刑事件 では六 回、重罪事件、軽 rzn 罪事件 では、 それぞれ四回 とな っている。. 無条件忌避と平等保護規定. 無条件忌避 は、 「理由 のあ る」 ( fo r caus e) 忌避 と異なり、 申立 て人 は理由 を示 す必要 はなく、 裁判所 の コント. 固 人種を理由 とした無 条件忌避. (5).
(32) 近畿大学法学 第 49巻第 2 · 3 号. ロールにも服さない、それは、検察 、被告人のいずれかに組す る偏 った意見の持 ち主を陪審から無条件に排除す るこ. とを可能 にすることによって、 「 理由のある」忌避の制度の補完をなすものであ る。しかし、アメリカの南部などで、. 検察官が陪審から黒人を排除す る目的でしばしば無条件忌避の申立てを使 用した。このため、アラ バ マ州において、. 検察によって黒人の陪審員六人が排除された事件において、有罪となった黒人被告人が修正一四 条の平等保 護規定 違. 反を理由に判決の破棄を求め、連邦最高裁に上告を行った。しかし、同裁判所は、 特定の人 種に属する者を排除する. ため陪審 の選任手続きが全体として悪用されているという立証がなされない限り、検察 官の無条件忌避使用は適法と ⑳ 。 しかし、 実際問題として、 そのような立証は不可能に近 推定 されると判示した (ス ウ ェイン対アラ バ マ事件判決). く、この事件においても被告人の請求は容認されなかった。 g しかし、 一九八六年の バット ソン対 ケンタッキ ー事件判決において、合衆国最高裁は、ス ウ ェイン判決の差別的意. 図の立 証に関す る部分を修正し、無条件忌避に対する司法審査の道を開いた。この事件の概要はつぎのとおりであ る。. 上告 人 バット ソン(黒人)は、第 二級強盗と盗品収受の罪で ケンタッキー州の地裁に起訴せられた。陪審選任手続. において、検察官は、無条件 忌避の権限を行使して、四人いた黒人の陪審 員候補 者全員を排除した。その結果、 バッ. ト ソンは、 白人だけの陪審により有罪とされ、 ケンタッキ ー州最高裁もこれを支持 したため、修正六 条および―四条. 違反を理由に合衆国最高裁に上告を行った。. さきのス ウ ェイン事件上告審判決によれば、無条件忌避制度が全体として悪用されて いるということの一応の立証. をすれば、検察官に差別的意図があったとの推定 が被告人に与え られ るものの、検察官が差別的動 機を持 っていたこ. とを否定 したり、陪審 員の選任において善意であったことを証言 す るだけで、その推定は容易に打ち破られた。しか. -168-.
(33) アメリカにおける被疑者・被告人の憲法上の権利についての若干の考察. し、本件最高裁判決は、このような一般的な証言だけでは被告人の推定 は打ち破ることができないと述べ、検察 官は. 審理された具体的な事件に即して無条件忌避の行使 にあたって中立的であったということの説明を明瞭に行わなけれ. ばならない、と判示した。. 本判決の 意 義は、修正一四 条の平等保護規 定が 無 条件 忌避に 及 ぶということ、換言 すれば、無 条件 忌避も憲法 上. まったく無条件ではないとした点である。同判決は具体的には、被告人が検察が差 別的意 図をもって無条件忌避の権. 限を行使 したことの一応の立証をすれば、無条件 忌避が中立的に行われたことを説明する 義務が検察側に生ずること. 理由のある忌避」の になるとしている。もっとも、判決は、無条件忌避の本質の維持 にも配 慮を示し、その説明は 「. 行使 を正当化する程度にまで明白である必要はないと述べている。本判決は、七対二で、 原審判決を破棄し、再審の. ”. ため差し戻した。 パウ エル裁判官が法廷意見を書き、バーガー首席裁判官と レースキン裁判官の二人が反対意 見を付. している。. その後、一九 九 一年 のパ ワーズ対オハイオ事件判決において、最高裁は、検察 官が七人の黒人陪審 員候補者を排除. するため行使 した無条件忌避を、忌避された陪審 員候補者の権利の 侵害 として、違憲とした。本判決は、バット ソン. 判決を援用したものの、被告人の権利ではなく、忌避された陪審 員候補者の権利の侵害の有無によって違憲判断を下. したという点で、バット ソン判決とは異なっている。因みに、本件の被告人は加重 殺人などで起訴された白人であっ. n 2 こ°ついで、同年、 最高裁は、 エドモン ソン対リー スビルコンクリート会社事件判決において、民事訴訟の当事者の t. 無条件忌避行使もステート・アクシ ョンを構成し、憲法が適用されるとし、さらに、一九 九二年のジ ョージア対マッ 8 コラ ム事件判決では、刑事被告人が人種差別的意 図をもって行った無条件忌避まで修正 一四 条違反となると判示した。. - 169 -.
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