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<論説>損害防止費用負担義務の制度的淵源(一) : わが国商法と英国海上保険法

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Academic year: 2021

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(1)損害 防止費用負担義務 の制度 的淵源(一). 損 害 防止 費 用 負担 義務 の制 度 的淵 源(一)* わが国商法 と英国海上保険法. 野. 口. 夕. 子. 目 次 第1節 は じめに 第2節 海上保険契約 におけるわが国商法660条1項 第1款 損害防止義務 および義務違反の効果 損害防止義務 その理論的根拠 をめ ぐる学説の検討 損害防止義務者の範囲 損害防止義務の開始時期 損害防止義務の内容 第2項 損害防止義務違反の効果(以 上,本 号) 第2款 損害防止費用負担義務 一 商法660条1項 但書 と海上保険約款 との比較一 1. 第1項. 2 、3 4. 第1項 第2項. 保険者の損害防止費用負担義務 損害防止費用負担義務をめ ぐる保険約款の有効性 1商 法660条1項 但書の強行性をめ ぐる学説の展開 2海 上保険約款 にみ る損害防止費用負担義務. (1)船 舶保険普通保険約款 (2)内 航貨物海上保険普通保険約款 第3節 小 括 第1款 むす びにかえて 第2款 英国海上保険法の影響 とその考察の必 要性. *本 稿 は,2006年 度 お よ び2007年 度 科 学 研 究 費 補 助 金(若 手 研 究(B)「. 損害 防止. 費 用 負 担 義 務 形 成 史 につ い て の実 証 的 ・比 較 法 的研 究(課 題 番 号18730081)」) に よ る研 究 成 果 の 一 部 で あ る。. 1.

(2) 近 畿大学法 学. 第1節. 第55巻第2号. は じめ に. 海 上 保 険 とは,船 舶 ま た は積 荷 等 の海 上 財 産 につ いて,航 海 に伴 う事 故 に よ って生 ず る損 害 を填 補 す る保 険 で あ る。 海 上 保 険 契 約 は,こ の 船 舶 ま た は積 荷 等 の海 上 財 産 につ い て,航 海 に伴 う事 故 に よ って 生 ず る損 害 を 填 補 す る こ とを 目的 とす る損 害 保 険 契 約 を い うω。 わ が 国現 行 商 法 は,第3編 険 」 と第2節. 「商 行 為 」 第10章. 「保 険 」 に第1節. 「損 害 保. 「生 命 保 険 」 との2節 か ら成 る保 険 契 約 にか か る規 定 を 設 け. て い る の に加 え て,海 上 保 険 契 約 につ いて は,特 に第4編. 「海 商 」 に第6. 章 「保 険 」 と題 して一 章 を設 け,詳 細 に 規 定 す る。 しか しな が ら,あ. くま. で損 害 保 険 の一一reであ る海 上 保 険 に は,現 行 商 法 中 の 第3編 第10章 第1節 「損 害 保 険 」 の第1款. 「総 則 」 規 定 が 当然 に 適 用 さ れ る こ と と な る。 当 該. 総 則 部 分 に規 定 さ れ る商 法660条1項 用 負 担 義 務 にか か る規 定. 損 害 防 止 義 務 お よ び損 害 防止 費. は,非 海 上 保 険(non-marineinsurance)の. み な らず,海 上 保 険 契 約 に も適 用 され る規 定 の 一 つ で あ る。 こ こ にわ が 国 商 法660条1項. は,「 被 保 険者 ハ 損 害 ノ防 止 ヲカ ム ル コ トヲ. 要 ス但 之 力為 メニ 必 要 又 ハ 有 益 ナ リシ費用 及 ヒ填 補額 力 保 険 金額 二超 過 ス. (1)わ. が 国 商 法 は,同815条1項. に 「 海 上 保 険契 約 ハ航 海 二 関 ス ル事 故 二 因 リテ生. スル コ トア ル ヘ キ 損 害 ノ填 補 ヲ以 テ 其 目的 トス」 と規 定 す るが,今 村 有 博 士 は, この 点 につ いて 「この 概 念 規 定 は不 十 分 で あ る。 … … 海 上 保 険 契 約 の概 念 的特 徴 を 述 べ れ ば,保 険 事 故 が 航 海 に関 す る事 故 で あ り,保 険 的保 護 の 目的 た る被 保 険 利 益 が 海 上 運 送 を 行 う船 舶 又 は積 荷 に関 す る も の で あ って,航 海 に関 す る 事 故 が 発 生 す る こ と に よ り被 保 険 者 に損 害 を もた らす 関 係 あ る財 産 財 で あ る こ とで あ る。 す な わ ち,海 上 保 険 契 約 は 航 海 に関 す る事 故 を 保 険 事 故 と し,航 海 に 関 す る事 故 の 発 生 に よ って あ る人 が 損 害 を 被 る関 係 に あ る財 産 財 を保 険 的保 護 の 目的 とす る損 害 保 険 契 約 で あ る」 と指 摘 す る(今 村 有 『海 上 保 険 契 約 法 論 上 巻』105頁(財. 団法 人. 損害 保 険 事 業 研 究 所,1978年))。 2.

(3) 損害防止費用負担義務の制度的淵源(一) ル トキ ト錐 モ保 険者 之 ヲ負 担 ス」旨規 定 す る。 同項 は,ま ず 本 文 に お い て, 被 保 険 者 に損 害 防止 義 務 を課 す 。 また,同 項 但 書 は,被 保 険 者 が 損 害 防 止 義 務 を履 行 す る際 に要 した費 用 につ いて,損 害 防 止 の た め に必 要 また は 有 益 な もの で あ っ た場 合 に は,そ の 結 果 の 成 否 に関 わ らず,か つ,た. とえ そ. の費 用 と損 害 填 補 額 の 合 計 が 約 定 の 保 険 金額 を超 過 す る と きで あ って も, 保 険 者 が その 費 用 を 負 担 す る 旨を 定 め た もの で あ る。 しか しな が ら,損 害 防 止 義 務 お よび 損害 防止 費 用 負担 義 務 の 内容 は,当 該 規 定 上 明 らか に され て い な い た め,そ の具 体 化 は法 解 釈 に委 ね られ て き た 。 な か で も保 険 者 の 損 害 防止 費 用 負 担 義 務 を定 め た 商 法660条1項. 但書. につ い て は,わ が 国 で は,こ れ を任 意 規 定 と解 し,保 険 者 に よ って作 成 さ れ た 損 害 防 止 費 用 負 担 に 関 す る如 何 な る約 款 につ い て も,そ のす べ て に効 力 を 認 めて い る(2)。 保 険 者 が 損害 防 止 費 用 を 全 く負 担 しな い 旨約 定 した損 害 防止 費用 全額 不 担保 約 款 を は じめ,他 の填 補 額 と合 算 して保 険 金 額 を隈 度 と して 負 担 す る損 害 防止 費 用 一 部 不 担 保 約 款,ま 用,保. た応 急 の措 置 に よ る費. 険者 の指 図 に よ って支 出 した費 用,消 火 剤 の補 充 費 用 を他 の 填 補 額. と合 算 して保 険金 額 を超 え る場 合 で も全 額 負 担 す る 旨約 定 した保 険 約 款 に 至 る ま で,す べ て が有 効 とな る。 その 結 果,保 険 実 務 に お いて は,保 険 者 の大 部 分 が損 害 防止 費 用 不 担 保 約 款 を設 け,損 害 防 止 費 用 の 負 担 を 免 れ る. (2)青. 山衆 司 『保 険契 約論. 上 巻(第 三 版)』269頁(巖. 由作 『 海 上 損 害 論』79頁(巖 二. 海商法要義. 232頁(巖. 点一. 下 巻 五 』556頁(岩. 松 堂 書 店,1963年),野. 259∼260頁(野 163頁(海. 波 書 店,1954年),今. 損 害 保 険 事 業 研 究 所,1974年),田. 村 有 『海 上 損 害 論』. そ の 立法 論 上 の 問題. 損 害 保 険論 集』所 収221頁. 辺 康 平 『新 版. 現 代 保 険 法 』149. 島梅 治 『保 険 法 〔 第 三 版 〕』212∼213頁(悠. 下 友 信 『保 険 法 』415頁(有. 藤. 城 照 三 『海 上 保 険 入 門』. 瀬 村 邦 夫 「損 害 防 止義 務 一. 」損 害 保 険 事 業 研 究 所 編 『創 立 四 〇 周 年 記 念. (財団 法 人. 松 堂 書 店,1920年),加. 町 谷 操 三 『海 上 保 険 法 縮論. 津 務 『新 保 険 契 約 法 論(保 険 法論 集 第二 巻)』. 津 務 保 険 法 論 集 刊 行 会,1965年),葛. 文 堂,1967年),古. 頁(文 眞 堂,1995年),西 年),山. 松堂 書 店,1937年),小. 斐 閣,2005年)。. 3. 々社,1998.

(4) 近畿大学法学. 第55巻第2号. と い う 状 況 を も た ら して い る(3)。. わ が 国 で は,1995年,損. 害 保 険 法 制 研 究 会 に よ って 損 害 保 険 契 約 法 改 正. 試 案(以 下,「 損 害 保 険契 約 法 改 正 試 案」 とい う)が 公 表 され て い る が, 同660条2項. に,損 害 防 止 費 用 に つ いて は損 害 填 補 額 との合 計 が 保 険 金 額. を 超 え る と き で も,保 険 者 の 負 担 と す る 旨 規 定 さ れ て い る(4)。そ の 内 容 は,. 現 行 商 法660条1項. 但 書 と何 ら異 な る と こ ろ は な い。 そ の うえ で,損 害 保. 険 契 約 法 改 正 試 案 で は,663条 の3を る660条2項. (3)こ. も って,損 害 防止 費用 負担 義 務 を定 め. が 任 意 規 定 で あ る こ と を 明 示 した(5)(6》 。損害保険契約法改正試. う した状 況 に つ い て は,木 村 栄 一 「損害 防 止 義務 に 関 す る商 法 六 六 〇 条 の. 規 定 に つ い て」 吉 永 榮 助 編 『田 中 誠 二 先 生 古 稀 記 念 収216頁(千. 倉 書 房,1967年),古. 現代商法学の諸問題』所. 瀬 村 ・前 掲 注(2)221頁 。. (4)損 害 保 険 契 約 法 改 正 試 案660条 は,同3項. に 損 害 防 止 義 務 違 反 に関 す る規 定. を新 設 した 点 を 除 け ば,現 行 商 法660条 を ほ ぼ 維 持 す る か た ち と な って い る。 損 害 保 険 契 約 法 改 正 試 案660条 は,「1項. 保 険契 約 者 ま た は 被 保 険 者 は,保 険. 事 故 の発 生 に あ た り,損 害 の 防 止 ま た は軽 減 に努 め な けれ ば な らな い 。 2項. 前 項 に定 め る損 害 の 防 止 ま た は軽 減 の た め に必 要 ま た は 有 益 な 費 用. は,そ の費 用 と そ の他 の て ん補 額 と の合 計 が保 険 金額 を 超 え る と きで も,保 険 者 の 負 担 とす る。 第636条 の規 定 は,こ の 場 合 に準 用 す る。 3項. 保 険 契 約 者 ま た は被 保 険 者 が故 意 ま た は重 大 な過 失 に よ って 第1項 の. 義 務 を履 行 しな か った とき は,保 険 者 の て ん補 額 は,損 害 額 か ら義務 の 履 行 が あ っ たな ら ば防 止 ま た は軽 減 で き た と認 め られ る損 害 の額 を控 除 した額 を 基 礎 と して 決 定 す る」 旨規 定 す る(損 害 保 険 法 制 研 究 会 編 『損 害 保 険契 約 法 改 正 試 案. 傷 害 保 険 契 約 法(新 設)試 案 理 由書1995年. 確 定 版 』65頁(財. 団法人. 損. 害 保 険 事 業 総 合 研 究 所,1995年))。 (5)損 害 保 険 契 約 法 改 正 試 案663条 の3は,強 第1項 前 段,第634条. 第1項,第641条. 行 規 定 性 に関 して,「1項. 第631条. 第2項 お よ び 第663条 の 規 定 は,契 約 当 事. 者 に お い て 変 更 す る こ とが で きな い。 2項. 第631条 第1項 後 段 お よ び 第2項,第634条. 第639条,第642条 か ら第647条 の7ま. 第2項,第635条,第637条,. 第3項,第643条,第644条,第645条,第646条,第647条 で,第649条. か ら第659条 まで,第660条. の4. 第3項,第651条,第653条,第654条,第658条. 第3項,第661条. な ら び に第662条 の規 定 は,契 約 当. 事 者 が 特 約 して も,保 険 契 約 者,被 保 険 者 そ の 他 の 保 険 契 約 に よ り利 益 を受 け る者 の 不 利 益 に変 更 す る こ と はで き な い」 旨規 定 し,同 改 正 試 案 に お け る強 行/. 4.

(5) 損害防止費用負担義務 の制 度的淵源(一) 案 の下 で も,同 改 正 試 案660条2項. に規 定 す る と こ ろ と異 な る損 害 防止 費. 用 負 担 にか か る保 険 約 款 に対 して,そ の 効 力 が 認 め られ る こ とに な る。 この よ うな 法 規 定 と保 険 約 款 との乖 離 は,従 来,指 摘 され て きた と こ ろ で あ る。 特 に,保 険 法 分 野 にお い て は,法 規 定 を解 釈 す るに あ た って,保 険 約 款 の 存 在 は無 視 で きな い。 む しろ,法 規 定 の解 釈 如 何 に よ って は,保 険 契 約 は,法 で はな く,保 険 約 款 に よ って規 整 され る こ とに な る。 わ が 国 商 法660条1項. 但 書 は,そ の 典 型 とい え る。 そ れ ゆ え,実 際 に は保 険者 に よ. る損 害 防止 費 用 負 担 の行 わ れ て い な い わ が 国 に あ って,商 法660条1項. 但. 書 と異 な る保 険 約 款 の 有 効 性 につ い て は異 論 もあ り,同 項 但 書 の 強行 性 如 何 を 含 め,議 論 が 尽 きな い。 こ こで,改 め て 海 上 保 険契 約 に 目を転 じて み た い。 保 険制 度 の起 源 が海 上 保 険 に存 す る こ とに つ い て は,一 般 に異 論 が な い(7)。そ の 起 源 につ い て. \ 規 定 お よ び 片 面 的 強 行 規 定 を 列 挙 す る。 こ こ に損 害 防 止 費 用 負 担 義 務 を規 定 す る660条2項 (6)古. は,含 ま れ て い な い(損 害 保 険法 制 研 究 会 編 ・前 掲 注(4)75∼76頁)。. 瀬 村 ・前 掲 注(2)221頁 お よ び 西 島 。前 掲 注(2)213頁 は,こ れ を支 持 す る。 これ に 対 して,山 下 友 信 教 授 は,「損 害 防止 費 用 を そ もそ もて ん補 しな い もの. とす る約 款 を 用 い る保 険 種 類 もあ るが,損 害 て ん 補 義 務 を ど こ ま で認 め る か は 契 約 自由 の 問 題 で あ り不 当 視す べ き で は な い」 と しな が ら も,「 も っと も,損 害 防 止 費 用 の て ん 補 を す る場 合 と しな い場 合 とで は 損 害 防 止 義 務 の 内容 に 自ず か ら差異 が生 じ るの で は な い か と思 わ れ る」 と述 べ る(山 下 ・前 掲 注(2)415頁)。 (7)例. え ば,わ が 国 にお い て は,寺 田 四 郎 博 士 が,当 初 か ら そ の研 究 論 文 で 「生. 命 保 険,火 災 保 険,海 上 保 険 等 の 中,海 上 保 険 は 最 先 登 に嚢 生 し獲 達 した の で あ る」 と述 べ て い る(寺 田 四郎 「保 険 業及 び保 険法 の 攣遷(一)」 協 會 會 報11巻1號25頁(1921年)お 新 報10巻3號85頁(1930年))。. 生命保険會社. よ び寺 田 四郎 「 海 上 保 険起 源 論(一)」. 法学. ま た,小 町 谷 操 三 博 士 も,そ の 著 書 に お い て. 「海 上 保 険 が現 代 の 榮 利 保 険 の 始 祖 で あ る こ とは,周 知 の 事 實 で あ る」 とす る (小 町 谷 操 三 『海 上 保 瞼 総 論 一. 海商法要義. 下 巻 四 』11頁(岩. 年))。 同様 に,小 島 昌 太 郎 『現 代 経 済 学 全 集 第19巻 評 論 社,1929年),藤 房,1930年),藤 昌 太 郎 『保 険 学. 本 幸 太 郎 『商 学 全 集 第24巻. 海 上 保 険 論 』17頁(千. 本 幸 太 郎 『海 上 保 険 の 常 識 』38頁(千 総 論 』314頁(日. 本 評 論 社,1943年),鈴 5. 波 書 店,1953. 保 険 学 要 論 』214頁(日 倉 書 房,1941年),小. 本. 倉書 島. 木 祥 枝 『海 上 保 険 と/.

(6) 近畿大学法学. 第55巻第2号. は 未 だ 明 確 に は な っ て い な い も の の,14世. 紀 にそ の 成 立 を み る とい うの が. 通 説 で あ る(8)。こ れ に 対 し て,か か る 法 制 度 に つ い て は,現 在,世 海 上 保 険 条 例 は1369年GabrieleAdornoに. 界最古の. よ る ジ ェ ノ ヴ ァ 条 例 で あ る が,. そ の 内容 の充 実 度 に加 え,条 例 の 体 系 性 に鑑 み,1435年. バ ル セ ロナ 条 例 が. 世 界 最 古 の 海 上 保 険 法 典 で あ る との理 解 が 強 い(9)。しか しな が ら,損 害 防 止 義 務 お よ び損 害 防 止 費 用 負 担 義 務 に関 す る規 定 は,い ず れ の 条 例 に も存 在 しな い。 か か る規 定 が 海 上 保 険 法 制 の 舞 台 に登 場 す るの は,そ の 後 一 世 紀 を経 た1538年 ブ ル ゴ ス条 例 にお け る保 険 証 券 約 款 まで 待 た な けれ ば な ら. \ 共 同海 損 の 実 際』10頁(各 綱 』4頁(早. 務 記 念 財 団,1950年),葛. 稲 田大 学 出版 部,1973年),近. 城 昭 三 『海 上 保 険 講 義 要. 見 正 彦 『海 上 保 険 史 研 究14・5. 世 紀 地 中海 時 代 にお け る海 上 保 険 条 例 と同契 約法 理 一 年),水. 島一 也 『現 代 保 険 経 済 〔 第8版 〕』35頁(千. (8)藤 本 ・前 掲 注(7)(1930年)21頁,加 (春秋 社,1963年),葛. 』1頁(有. 斐 閣,1997. 倉 書 房,2006年)。. 藤 由 作 『ロ イ ド保 険 証 券 の 生 成 』3頁. 城 ・前 掲 注(7)7頁 。 寺 田四 郎 博 士 は,海 上 保 険 の発 祥 時. 期 を め ぐっ て,古 代 説 に は じ ま る 多 種 多 様 な 学 説 見 解 を 詳 細 に 検 討 した う え で,「海 上 保 瞼 の成 立 時 期 に關 し諸 説 匠 々な りと難 も,十 四 世紀 前 半 説 が最 も有 力 で あ る」 とす る(寺 田 ・前 掲 注(7)(1921年)33∼34頁)。. な お,海 上 保 険成 立. 過 程 にか か るわ が 国 の 議 論 状 況 つ いて は,拙 稿 「損 害 防 止 費用 負担 義 務 形 成 史 序説一 学. わ が 国 学 説 にみ る海 上 保 険 成 立 過 程 と法 形 成 史 の な か で 一. 法 学53巻1号30∼35頁(2005年)を. 」近畿大. 参照 の こ と。. (9)加 藤 ・前 掲 注(8)3頁 。 近 見 正 彦 教 授 は,こ の 点 につ いて,こ の1435年 バ ル セ ロ ナ条 例 が 「1432年条 例 を 疇 矢 と し,そ の1432条 例 は,1424年. ヴ ェネ ツ ィ ア条 例 の流 れ を汲 む もの で. あ って,バ ル セ ロ ナ条 例 は,そ れ 以 前 の イ タ リア初 期 の 条 例 と き わ め て密 接 な 関 係 を 有 して い た 」 こ とを そ の 詳 細 な 研究 の うえ に 指摘 し,「従 来,イ タ リア初 期 の 条 例 は 「断 片 的,公 法 的 」 で あ る と され,あ た か もバ ル セ ロ ナ条 例 は,イ タ リア 初 期 の 条 例 と は無 関 係 に制 定 され た か の 如 き主 張 が な さ れ て き た が,実 際 の と こ ろ は,決. して そ うで はな く,バ ル セ ロ ナ条 例 は,イ タ リア初 期 の条 例. と,無 視 す べ か ら ざ る関 係 を 有 して い たの で あ る」 と して,バ ル セ ロ ナ条 例 以 前 の もの を 軽 視 す る傾 向 に苦 言 を呈 して い る(近 見 正 彦 『海 上 保 険 史研 究 14・5世. 紀 地 中海 時 代 に お け る海 上 保 険 条 例 と同 契 約 法 理 一. 閣,1997年))。 6. 』108頁(有. 斐.

(7) 損害防止費用負担義務の制度的淵源(一) な か っ た ⑩。. とは い え,こ の ブ ル ゴ ス条 例 に お け る保 険 約 款 の 同一 条 文 中 に規 定 され た損 害 防止 義 務 お よ び損 害 防止 費 用 負 担 義 務 は,こ れ 以 降,中 世 に お いて 形 成 さ れ て い く数 々 の保 険証 券 約 款 に 引 き継 が れ て い っ た に と ど ま らず, 海 上 保 険 取 引 の 拡 大 に と も な い,イ. ギ リ ス へ と 伝 え られ,1906年. イギ リス. 海 上 保 険法 の付 則 に保 険証 券 様 式 と して 採 用 され て い る1779年 ロ イ ズ保 険 証 券 へ と発 展 して い く。 そ れ らは規 定 文 言 が 多 少 異 な るの み で,実 質 的 に も,形. 式 的 に も ほ と ん ど 差 異 は な いaD。. しか も,こ れ ら中世 保 険 証 券 約 款 中の 損 害 防 止 義 務 お よ び損 害 防 止 費 用 負担 義 務 に か か る規 定 は,現 在 の各 国 制 定 法 に定 め られ る と こ ろ と,そ の. ⑩. それ 以 前 の1532年 フ ィ レ ンツ ェ条 例 に お け る保 険 証券 約 款 中 に は,損 害 防 止 義 務 に 関す る規 定 を み る こ とが で き る が,損 害 防止 費 用 負 担 義 務 に か か る規 定 が 設 け られ て い な い た め,当 該 約 款 に お け る そ れ を現 代 に つ な が る損 害 防 止 義 務 の原 型 と考 え る こ と に は異 論 が あ る(加 藤 ・前 掲 注(8)166∼167頁)。. aD加. 藤 ・前 掲 注(8)166頁,木 村 栄 一 『ロ イ ズ 保 険 証 券 生 成 史 〔 第 二 版 〕』457頁. (海文 堂,1980年)。 ドイ ツ に お い て は そ の過 程 で,海 上 保 険 は ア ン トワー プ か ら移 植 され,そ れ と 同時 に ア ン トワ ー プ の保 険証 券 約 款 お よ び慣 習 法 が ハ ンブ ル クに 伝 え られ た と され る が,そ の後1731年 ハ ンブ ル ク保 険 ・海 損 条 例 の 制 定 ま で続 き,引 が れ て い る(亀 井 利 明 『海 上 保 険 証 券 免 責 条 項 論 一 す る一 研 究 一. 』17頁(株. 式会社. き継. 海 上 危 険 と海 上 損 害 に関. 保 険 研 究 所,1961年))。. わ が 国 海 上 保 険 法 は,「1731年 の ハ ム ブル グ保 険 ・海 損 条 例 を 噛 矢 とす る ドイ ツ法 を継 受 した もの で あ る が,そ の ハ ム ブ ル グ保 険 ・海 損 条 例 に は,1681年 LouisXlvに. の. よ る海 事 勅令 が 多大 な影 響 を与 え て い た。 ま た,フ ラ ン ス海 上 保 険. 法 も,淵 源 と して,上 記 海 事 勅 令 に さ か の ぼ る こ とが で き,イ タ リア 海 上 保 険 法 につ い て も同様 で あ る。 結 局,わ. が 国,ド イ ツ,フ ラ ンス お よ び イ タ リア の. 海 上 保 険 法 は,い ず れ も起 源 的 に は,海 事 勅 令 に収 敏 す る の だ が,か か る海 事 勅 令 も,当 時 全 く新 規 に定 め られ た わ け で は な く,16世 紀 中 葉 ル ア ンに お い て, お そ ら くAntoineMassiasの. 手 で編 纂 され た ギ ドン ・ ドゥ ・ラeメ ー ル の 影 響. の 下 に制 定 さ れ た の で あ り,さ らに,こ れ に は,15世 紀 の バ ル セ ロナ 海 上 保 険 条 例 が 大 き な影 響 を与 え て い」 る(近 見 ・前 掲 注(9)3頁)。 7.

(8) 近畿大学法学. 第55巻第2号. 内容 は ほ ぼ変 わ らな い。 両 義 務 にか か る規 定,特. に損 害 防 止 費 用 負 担 義 務. に関 す る それ は,そ の 当時 か ら,現 行 法 にみ る規 定 内 容 と ほぼ 完 全 に一 致 して い る。 わ が 国 商 法660条1項. や イ タ リア民 法 典1914条,ド. イ ツ保 険 契. 約 法63条 な ど,い ず れ も損 害 保 険 契 約 につ い て 規 整 す る もの で は あ るが, 現 状 にお いて これ らを 最 終 形 態 とす るな らば,損 害 防 止 費 用 負 担 義 務 に 関 して は,そ の規 定 が設 け られ た とき に は既 に完 成 して い た とい って よ い⑫。 損 害 保 険 契 約 の 一 類 型 で あ る海 上 保 険 契 約 に お い て も,損 害 防 止 義 務 お よ び損 害 防止 費 用 負 担 義 務 に 関 して は商 法660条1項. が適 用 され る こ と と. な る。 上 述 の よ うな 海 上 保 険 法 制,特 に 損 害 防止 義 務 お よ び 損 害 防 止 費 用 負 担 義 務 に か か る規 定 を め ぐる歴 史 的 背景 に 加 え,他 の 保 険 に 比 して,国 際 的 な 保 険 分 野 で あ るだ け に 保 険 実 務 が 先 行 す る海 上 保 険 に お い て,当 該 規 定 が 如 何 に 解 釈 され,運 用 され て い るか,そ の現 状 を理 解 す る こ とは, 同 時 に 保 険 契 約 に お け る損 害 防止 義 務 お よ び損 害 防止 費 用 負 担義 務 の本 質 的 な位 置 付 け を 明 らか に す るた め に検 討 す べ き課 題 を 浮 き彫 りに す る上 で 必 要 不 可欠 で あ る と考 え る。 た だ,こ. こで 一 つ の 問 題 が生 じ る。 こ こで 検 討 の 対 象 とす る商 法660条. 1項 を 含 め,わ が 国保 険法 分 野 に お い て は,特 に海 上 保 険 と非 海 上 保 険 と に 区別 した議 論 が展 開 され て い な い こ と で あ る。 近 年 で は,海 上 保 険 に特 化 した議 論 は 見受 け られ な い とい って も過 言 で は な い。 した が って,商 法 660条1項. ⑰. を め ぐって も海 上 保 険 契 約 に お け る独 自の 解 釈 論 を 展 開 す る に. わ が 国 に お い て展 開 され て き た海 上 保 険 制 度 発 祥 とそ れ に伴 う法 ・約 款 形 成 史 と,そ の な か で考 察 さ れ て き た 損 害 防 止義 務 お よ び 損 害 防 止 費 用 負 担 義 務 を め ぐる学 説 を整 理 し検 討 した結 果 と して,少 な く と も,損 害 防 止 義 務 お よ び損 害 防 止 費 用 負 担 義 務 に か か る 規 定 の 萌 芽 を 中世 に 見 出 し得 る こ とが 明 らか と な っ た と と も に,わ が 国 の 海 上 保 険 法,ひ いて はわ が 国 商 法660条1項. に規 定 さ. れ る損 害 防 止 義 務 お よ び損 害 防止 費 用 負 担義 務 の 起 源 も また,中 世 保 険 証 券 約 款 にみ る こ とが で き る。 詳 細 は,拙 稿 ・前 掲 注(8)25∼53頁 を 参 照 の こ と。. 8.

(9) 損害防止費用負担義務の制度的淵源(一) は至 って お らず,む. しろ海 上 保 険 約 款 論 に 終 始 して い る嫌 い が あ る。. そ の 大 きな 要 因 に,海 上 保 険 分 野 が,そ の 国 際 性 と相 侯 って,常 に 実 務 先 行 型 で あ った こ とが 挙 げ られ よ う。 事実,海. 上 保 険 取 引 に お い て は,い. わ ゆ る海 上 保 険 約 款 が 重 要 な 役 割 を 演 じて お り,海 上 保 険 契約 は ほ とん ど す べ て 当 該 約 款 に 支 配 され て き た⑬。 海 上 保 険 は,船 舶 所 有 者 の 所 有船 舶 に対 す る被 保 険 利益 を対 象 とす る船 舶 保 険 と,海 上 運 送 され る 貨物 の輸 送 中 に生 ず る お そ れ の あ る損 害 を填 補 す る こ とを 引 き受 け る貨 物 海 上 保 険 に大 別 さ れ る が,わ が 国 の海 上 保 険実 務 にお い て は,い ず れ も各保 険 会社 に共通 す る統 一 約 款 が用 い られて い る"の 。 船 舶 保 険 の うち,日 本 籍 船 を対 象 とす る船 舶 保 険 に つ い て は,1933年. に日. 本 船 舶 連 盟 に よ って作 成 さ れ た船 舶 保 険 普 通 保 険 約 款(以 下,「 旧船 舶 保 険 普 通 保 険約 款 」 とい う)お よ び損 害 填 補 の範 囲 に関 す る船 舶 保 険 特 別 保 険 約 款 が,そ. れ で あ る。 ま た,内 航 貨 物 海 上 保 険 に つ い て は,1943年. に完. 成 ・実 施 を み た貨 物 海 上 保 険 普 通 保 険 約 款(以 下,「 旧 内航 貨 物 海 上 保 険 普 通 保 険 約 款 」 と い う)で あ る。 そ の後,両 約 款 は,文 語 体 を 口語 体 に改 め. ⑬. 「海 上 保 険 法 の 法 源 と して は,商 法 第 四編 海 商 第 六 章 保 険 に 収 め られ た 商 法 の 規 定 を 中心 と して 商 法 の淵 源 に関 す る原 則 が一 般 に適 用 され るが,海 上 保 険 取 引 の 実 際 に お い て は,保 険 約 款 が 重 要 な役 割 を 演 じ,海 上 保 険 契約 関 係 は ほ とん ど全 部 保 険 約 款 に よ っ て支 配 さ れ,実 際 上,国 家 の定 め た 法 律 の 代 用 を な し,法 律 は 単 に補 充 的 な 意 義 しか もた な い」(葛 城 照 三 『貨 物 海 上 保 険 普通 約 款 論. 付 ・運 送 保 険 普 通 約 款 論』1頁(早. 稲 田 大 学 出 版 部,1971年))。. aの 統 一 約 款 の 作 成 ・実 施 をみ る以 前 は,各 保 険 会 社 ご と に作 成 さ れ た普 通 保 険 約 款 に よ って 保 険 の 引 受 が 行 わ れ て い た。 そ の 後,1898年1月,「 事 業 を 営 ん で い た 東 京 海 上 保 険 会 社,日 本 海 陸 保 険 会 社,帝. 当 時 海上 保 険. 国海 上 保 険株 式 会. 社 お よ び 日本 海 上 保 険 株 式 会 社 の 四 社 は,大 阪 に お い て 四社 会 議 を 開催 して, 保 険 料 の 引 上 げ と船 舶 お よび 貨 物 の 保 険 証 券 につ いて 議 し,保 険証 券 の改 正 と 共 に普 通 保 険 約 款 の 改 正 も同 年 一 〇 月 に決 定 し,同 年 一 一 月 か ら改 正 約 款 が実 施 され た。 この 四 社 会 議 に よ って 作 成 され た 保 険 約 款 は,大 綱 に お い て は 同 じ で あ った が,細 部 に わ た って は,会 社 に よ っ て 多少 の 相違 が あ った」(葛 城 ・前 掲 注⑬17∼18頁)。 9.

(10) 近畿大学法学. 第55巻第2号. る と い う表 現 形 式 に主 目的 を お い た1965年 改 定 に 加 え ⑮,内 航 貨 物 海 上 保 険 普 通 保 険 約 款 は1989年 に⑯,船 舶 保 険 普 通 保 険 約 款 は1990年 に行 わ れ た 大 改 定 を 経 て ⑰,現 在 に 至 っ て い る⑱。. 本 稿 で は,こ の 点 に留意 しつ つ,海 上 保 険 契 約 に お け る わが 国 商 法660条 1項 を め ぐる解 釈 と運 用 の 現 状. 特 に海 上 保 険約 款 に お け る損 害 防止 義. 務 お よ び損 害 防 止 費 用 負 担 義 務. に 焦 点 を 当 て る。 そ の 際,損 害 防止 義. 務 お よ び損 害 防 止 費 用 負 担 義 務 にか か る規 定 を め ぐって,従 来,わ が 国商 法660条1項. を 論 じる上 で 問 題 と され て き た船 舶 保 険 普 通 保 険 約 款 お よ び. 内航 貨 物 海 上 保 険 普 通 保 険 約 款 を 中心 に検 討 す る こ と とす る。. a5)船 舶 保 険 普 通 保 険 約 款 お よ び内 航 貨 物 海 上 保 険 普 通 保 険 約 款 に お け る 当該 改 定 の 経 緯 とそ の 要 旨に つ い て は,葛 城 ・前 掲 注a3)18∼20頁 を参 照 の こ と。 a6)1989年. 改 定 に 至 る 経 緯 に つ い て は,松 島 恵 『貨 物 海 上 保 険 概 説 』1∼2頁. (成 文 堂,1991年)を ⑰ ⑱. 参 照 の こ と。. 当該 改 定 の 経緯 お よ び そ の 内容 に つ い て は,松 島恵 『船 舶 保 険 約 款 研 究 』2 ∼3頁(成 文 堂,1994年)を 参 照 の こと。 ま た,船 舶 保 険 特 別 約 款 に 至 って は,1933年. 以 降 改 定 され る こ と な く,現 在. も使 用 され て い る。 加 え て,わ が 国 に お け る船 舶 保 険 で は現 在,MARフ ム と呼 ば れ る 英 国 の新 しい海 上 保 険証 券 に倣 っ たMarinePolicyと. ォー 称 す る海. 上 保 険 証 券 様 式 を 作 成 し,こ れ と一 体 と して 用 い る べ き普 通 保 険 約 款 と して 1983年10月1日. 制 定 協 会 期 間 建 船 舶 保 険 約 款(lnstituteTimeClauses-. Hulls(1/10/83))を 籍 船 の み な らず,日. わず か に 修 正 して 採 用 した 英 文 保 険 証 券 を 制 定,便 宜 置 本 籍 船 に 対 して も,こ の 英 文 保 険 証 券 に よ る保 険 引 受 を. 行 って い る(中 西 正 和 「英 文船 舶 保 険 証 券 の 問 題 点 」 落 合 誠 一=江 頭 憲 治 郎 編 『日本海 法 会 創 立 百 周 年 祝 賀. 海 法 大 系 』 所 収548頁(商. 事 法 務,2003年))。. た,国 際貿 易 貨 物 を 対 象 とす る外 航 貨 物 海 上 保 険 につ いて は,1906年 保 険 法(MarineInsuranceAct1906)お. ま. 英国海上. よ び 慣 習 に準 拠 した英 文 保 険 証 券. と英 文 保 険約 款 が用 い られ て いる。 これ らにつ いて は,第3節 一10一. にお い て詳 述す る。.

(11) 損害防止費用負担義務の制度的淵源(一). 第2節. 海上保険契約におけるわが国商法660条1項. 第1款. 損 害 防 止 義 務 お よび 義 務 違 反 の 効 果. 第1項. 損害防止義務. 1そ. の 理 論 的 根 拠 を め ぐる学 説 の 検 討. 損 害 保 険 契 約 で は,被 保 険 者 は 損 害 の 防 止 に 努 め る義 務 を 負 う とい うの が,比 較 法 的 に も普 遍 的 な原 則 とな って い る⑲。 わが 国 商 法660条1項. 本文. もま た,「 被 保 険 者 ハ 損 害 ノ防 止 ヲカ ム ル コ トヲ要 ス」 と定 め,被 保 険者 に損 害 防 止 義 務 を 課 す 。 損 害 防 止 「義 務 は,損 害 保 険 に 共 通 す る もの で あ るが,海 上 保 険 に お い て,こ の義 務 の,最 も重 要 且 つ 典 型 的 な 適 用 例 を,見 る こ とが 出來 る」⑳ と しな が ら も,当 該 義 務 を規 定 す る商 法660条1項. 本 文 を め ぐる議 論 は,常 に. 非 海 上 保 険 が 先 行 して,ま た 非 海 上保 険 を 中心 に 展 開 され て き て お り,今 日 にお い て は 特 に海 上 保 険 分 野 で 扱 わ れ る こ と も皆 無 とな って い る。 この よ うな 現 状 を 踏 まえ つ つ,海 上 保 険 分野 に お け る 先行 研 究 を 中心 と して, わ が 国 商 法660条1項. 本 文 を め ぐる学 説 を 整 理 ・検 討 す る。. ag)山 下 ・前 掲 注(2)412頁。 確 か に,台 湾 保 険法 の よ うに損 害 防止 費用 負担 義 務 の み 規 定 す る立 法 もあ るが,ほ. とん どの 制 定 法 が 損 害 防 止 義 務 と損 害 防 止 費 用 負. 担 義 務 の 両 義 務 を 併 せ て 規 定 して い る。1995年 損 害 保 険 契 約 法 改 正 試 案 を作 成 す る際 に も,損 害 防 止 義 務 と損 害 防 止 費 用 負 担 義 務 に関 す る規 定 を設 け る ス イ ス 保 険 契 約 法,ド イ ツ保 険 契 約 法,英 国 海 上 保 険 法,イ タ リア民 法 典,ス ウ ェー デ ン保 険 契 約 法,デ. ンマ ー ク保 険 契 約 法,ノ ル ウ ェー 保 険 契 約 法 な ど多 数 の立. 法 例 が 参 照 され て い る(損 害保 険法 制 研 究 会 編 ・前 掲 注(4)65∼68頁)。 な お,台 湾 保 険 法 に お け る損 害 防 止 義 務 お よ び損 害 防 止 費 用 負 担 義 務 に 関す る規 定 ・解 釈 に つ い て は,拙 著 『保 険 契 約 にお け る損 害 防 止 義 務 一 止 機能 とい う観 点 か ら一 ⑳. 』279∼314頁(成. 小 町 谷 ・前掲 注(2)554頁。 一11一. モ ラ ル ・ハ ザ ー ド防. 文 堂,2007年)を. 参 照 の こと。.

(12) 近 畿大学法学. 第55巻第2号. わ が 国 商 法 が660条1項. 本 文 を も って 被 保 険 者 に 損 害 防 止 義 務 を 課 す 根. 拠 を め ぐ って,特 に海 上 保 険 分 野 で展 開 され て き たの は,以 下 に挙 げ る三 説 で あ る⑳。 い ず れ も,被 保 険 者 に損 害 防 止 義 務 を負 担 さ せ る こ と につ い て は異 論 は な い。. そ の理 論 的根 拠 は,古. くは 「保 険 者 が 損 害 を 填 補 す るの 理 由 に依 りて 保. 険 契 約 者 又 は被 保 険 者 が利 盆 の保 全 に封 す る努 力 を 疎 か にす るの 幣 を 匡 正 し,且,財. 物 を無 駄 に消 蓋 せ ざ ら しめ ん とす る公 盆 保 持 を 目的 とす る にあ. る 」と考 え ら れ て き た ⑳。 い わ ゆ る 公 益 保 護 説 で あ る 。 しか し な が ら,同 説. に対 して は,商 法660条1項. 本 文 に定 め る被 保 険 者 の 損 害 防 止 義 務 が,保 険. 事 故 に よ る損 害 の 防止 を 義 務 づ け た もの で あ り,「 も っぱ ら保 険 者 保 護 の. ⑫D非 海 上 保 険 を 中心 とす る損 害 保 険 契 約 に お け る議 論 で は,上 記三 説 に,現 在 の 通 説 と 目 され て い る 見 解 が 加 わ る。 同説 は,商 法660条1項. 本 文 に損 害 防止. 義 務 を 規 定 す る理 由 を,「 保 険 事 故 の 偶 然 性 」を 「損 害 の発 生 」 に ま で 及 ぼ した もの と解 す る。 商 法660条1項. 本 文 に お い て 被 保 険 者 に 損 害 防止 義 務 を 課 して. い るの は,損 害 の 発 生 その もの が,被 保 険 者 の 悪 意 ま た は重 大 な過 失 に よ る も の で あ って は な らな い とい う精 神 を 「損 害 の 範 囲 」 に まで 及 ぼ した もの と捉 え る結 果,被 保 険 者 が 自 ら招 致 した 保 険 事 故 につ いて は,保 険 者 は損 害 填 補 義 務 を 負 わ な い と規 定 した商 法641条 の 趣 旨を,損 害 の範 囲 に ま で拡 張 解 釈 した も の で あ る(古 瀬 村 邦 夫 「損 害 防 止 義 務 及 び 損 害 防 止 費 用 につ い て一 関連 に お け る考 察 一. 」 私 法 第18号57頁 以 下(1957年),石. 海商 法 ・ 保 瞼法 』329頁(勤 堂,1991年),田. 草 書 房,1971年),坂. 辺 ・前 掲 注(2)158∼159頁,西. 約款 との. 井 照 久 『商 行 爲 法 ・. 口光 男 『保 険法 』151頁(文. 眞. 島 ・前 掲 注(2)204頁)。 損 害 保 険 契. 約 に お け る 損 害 防止 義 務 の 理 論 的 根 拠 を め ぐ る学 説 の 検 討 につ いて は,拙 著 ・ 前 掲 注 ⑲67∼71頁 を参 照 の こ と。 伽. 加 藤 ・前 掲 注(2)329頁,今 店,1941年)。 113頁(中. 村 有 『海 上 保 険 契 約 論 〔 上 巻 〕』176頁(巖. 松堂書. 同説 は,青 山 。前 掲 注(2)262頁 や 松 本 蒸 治 『保 瞼 法(増 訂17版)』. 央 大 学,1926年)に. よ って 主 張 。支 持 され て い た が,今 村 有 博 士 も. ま た こ れ を 支持 し,そ の 後 も 「そ の 立 法 の 根 拠 は,保 険 契 約 に よ り,保 険 者 が 損 害 を填 補 す る た め に,被 保 険者 又 は 保 険契 約 者 が 事 故 発 生 に 当 り,財 産 の 保 全 に対 す る 努力 を お ろ そ か に す る 弊 害 を 除去 し,財 物 を 無 駄 にす る こ との な い た め の政 策 的考 慮 に よ る」 と して その 見 解 を 維 持 して い る(今 村 ・前 掲 注(1)258 頁)。 一12一.

(13) 損害防止費用負担義務 の制度的淵源(一) た め に定 め られ た の で あ って,天 下 の財 貨 を無 駄 に滅 失 損 傷 せ しめ て は な らな い とい う公 益 保 護 は全 く派 生 的 な もの にす ぎ な い」 との 批 判 が あ る⑳。 公 益 保 護 説 に続 い て 主 張 さ れ た の が,商 法660条1項. 本 文 に損 害 防 止 義. 務 を規 定 す る立 法 理 由 を衡 平 法 の 原 則 に求 め る説 で あ った⑳。 同 説 は,公 益 保 護 説 と は異 な り,保 険 法 に お け る損 害 防 止 義 務 は,民 法 にお け る過 失 相 殺 の規 定 と 同 じ く,自 分 の 過 失 に よ って 損 害 を 受 けた 者 は,損 害 を 蒙 っ た とは 認 め られ な い 旨の 衡 平 法 の原 則 を基 礎 と して い る と考 え る。 した が って,保 険 事 故 の 発 生 に よ って 利 益 を 与 え るの で は な く,避 け る こ との で き な い 損 害 を 填 補 す る こ とを 目 的 とす る保 険 制 度 に お い て,被 保 険 者. ㈱. 葛 城 ・前 掲 注a3)288頁 。 同 様 に,石 田 満 『現 代 法 律 学 講 座19商 法)【 改 訂 版 】』173頁(青. 林 書 院,1994年)。. 法IV(保. 険. 加 え て,「 こ の損 害 防止 義 務 につ い. て は,財 貨 を 徒 ら に滅 失 せ しめ な い とい う國 民 経 濟 的 理 由 を主 と して掲 げ,或 い は この理 由 を も加 味 す るの が 一 般 的 で あ るが,私 的 な 保 瞼 契 約 法 上 の 關 係 と して は,こ の理 由 を 掲 げ る必 要 は な い と考 え る」 との 指 摘 も あ る(石 井 ・前 掲 注⑳329頁,坂 ⑳. 口 ・前 掲 注 ⑳146頁)。. 加 藤 由 作 博 士 は,「 損 害 防 止 費 用 は畢 寛 保 瞼 事 故 に 因 り獲 生 した る 損 害 で は あ る が保 険 の原 則 上 當 然 保 瞼 者 の負 措 に露 す る もの で は な い」が,「保 瞼 者 之 を 填 補 す べ き 旨規 定 して 居 る」 の は 「寧 ろ 公 平 の 観 念 に 基 づ い て 居 る」 とす る (加藤 ・前 掲 注(2)79頁)。 「保 険 事 故 が 発 生 した 場 合,被 保 険 者 が その 物 に保 険 が 付 け られ て い る か ら とい って損 害 の 防止 に 努 め な い とす れ ば,国 民 経 済 上 も貴 重 な財 が 失 わ れ る こ とに な る が,な に よ り も第1に 保 険 者 の て ん 補 責 任 額 が 増 加 す る こ と に な る。 した が って,古 来,保 険 者 は被 保 険者 に 損 害 防 止 義 務 を 課 して い る」 と解 す る木 村 栄 一 博 士 も,同 様 の見 解 を採 る もの と思 わ れ る(木 村 栄 一 『海 上 保 険』174頁(千. 倉 書 房,1978年))。. また,小 町 谷 操 三 博 士 は,衡 平. 法 の 原 則 に加 え て,損 害 防止 義 務 の理 論 的根 拠 を 「 被 保 険者 が,保 険 契約 が あ る こ と に よ り,損 害 の発 生 につ い て痛 痒 を感 ぜ ず,そ 観 す る こ とは,著. の発 生 及 び拡 大 を換 手 傍. し く保 険 者 の 意 思 に反 し,信 義 則 に背 る もので あ」 り,か つ,. 「一 方 に於 て 保 瞼 者,從 つ て保 瞼 團体 に不 利 盆 で あ るの みな らず,他 方 に於 て 公 共 の 福 祉 に反 し國 民 経 済 上 か ら も,是 認 しえ な い」 と し,損 害 防止 「 義 務 は, 公 盆 に も關 係 を 有 す るか ら,損 害 の防 止 を禁 止 す る特 約 は,無 効 で あ る」 とす る(小 町 谷 操 三 「損 害 防 止 義 務 につ いて(一)」 損 害 保 険研 究12巻4号5∼6頁 (1950年)お. よ び小 町 谷 ・前 掲 注(2)553∼556頁)。 一13一.

(14) 近畿大学法学. 第55巻第2号. が,当 然 に防 止 で き る損 害 の 填 補 を も,保 険者 に 負 担 させ る こ とは妥 当 で はな い 。 つ ま り,保 険 者 は,損 害 額 を 基 準 と して 保 険 金 支 払義 務 を 負 うべ き もの で あ る こ とか ら,保 険 利 益 の 享 受者 で あ る 被 保 険者 も,衡 平 法 の原 則 上,損 害 の 発 生 また は 拡 大 を 防 止 す べ き義 務 を 負 うべ き で あ る との理 由 で,損 害 防 止 義 務 が 設 け られ て い る とす る。 最 後 に,「保 険 者 は被 保 険 者 が 誠 實 な る人 物 で あ つ て,保 瞼契 約 が あ る か らとて,損 害 の 防 止 を 怠 るが 如 き こ とは あ るま い と信 じて,そ の 信念 に立 脚 して 保 険 契 約 が 成 立 す るが た め に,か. \る規 定 を 要 す るに 至 った」 と解. す る,そ の根 拠 を保 険 契 約 に お け る信 義 誠 実 の 原 則 に求 め る見 解 が あ る㈱。. 2損. 害防止義務者の範囲. わ が 国 商 法660条1項. 本 文 に よれ ば,損 害 防 止 義 務 の 履 行 者 は,「 被 保 険. 者 」 で あ る。 同 条1項 本 文 が,損 害 防 止義 務 者 と して 被 保 険者 の み を定 め る こ と につ い て,学 説 は,保 険 の 目的 と最 も密接 な 関 係 を 有 し,損 害 防止 に最 も適 した 地 位 にあ る者 は,普 通 は 被 保 険者 で あ る と考 え られ る か らで あ ろ う と解 す る こ とで 一 致 して い る㈱。 ㈱. 椎 名 幾 三 郎 『海 上 保 険 論 』207頁(千 集31保. 険法 〔 補 訂 版 〕』170頁(有. に,野 津 務 博 士 は,民 法727条2項. 倉 書 房,1938年)。. 斐 閣,1985年)は,同. 大 森 忠 夫 『法 律 学 全 説 を支 持 す る。 さ ら. に よ り 「不 法 行 為 の被 害 者 も,損 害 の 防止 軽. 減 を 怠 っ た と き に はそ の 賠 償 請 求 につ いて 過 失 相 殺 が な さ れ る。 け だ し,加 害 者 に対 して も被 害 者 の 信 義 誠 実 が 要 請 され るか ら で あ る。 況 ん や,保 険契 約 の 善 意 契 約 性 にか ん が み て も,被 保 険 者 は,保 険 者 の 負 担 に帰 す べ き填 補 額 を減 少 す る よ うに 損 害 防 止 に 努 め るべ き」 で あ る と続 け る(野 津 ・前 掲 注(2)255頁)。 これ に対 して,小 町 谷 操 三 博 士 は,保 険 契 約 の 本 質 か ら,損 害 防 止 義 務 を信 義 則 に 基 づ く義 務 で あ る と 「説 くこ と に,ど れ だ け の意 味 が あ る か不 明 で あ る」 と批 判 す る(小 町 谷 ・前 掲 注(2)556頁)。 ⑳. 今 村 ・前 掲 注(1)260頁 。 小 町 谷 操 三博 士 は,「 商 法 が 六六 〇 條 に お い て,特 に, 被 保 険 者 と いふ 文 字 を用 ゐ た の は,恐. ら く,被 保 瞼 者 が,保 瞼 の 目的物 に,最. も緊 密 な 關 係 を有 し,損 害 防 止 に,最 も適 す る地 位 に ゐ る,と 考 へ た の と,被 保 瞼 者 は,原 則 と して 保 険 契 約 者 で あ る,と 考 へ た た め で あ」 る と解 す る(小/ 一14一.

(15) 損害 防止 費用 負担義務 の制度的淵源(一) 商 法660条1項. 本 文 に損 害 防止 義 務 者 を被 保 険 者 と規 定 して い る立 法 趣. 旨を 上 述 の よ うに 理 解 した 上 で,同 法 に お け る損 害 防止 義 務 者 の範 囲 を め ぐって は,立 法 論 と して は 被保 険者 の他 に保 険 契 約 者 も損 害 防 止 義 務 を 負 う こ とを 規 定 す べ き とす る説⑳,お よ び,保 険 契 約 者 もま た 損 害 防 止 義 務 を 負 担 す る もの と解 しな け れ ば な らな い とす る保 険契 約 者 包 含 説 ㈱ の二 説 が 存 す る。 しか しな が ら,い ず れ も保 険 の 目的 に密 接 に関 係 し,損 害 防 止 に最 も適 した地 位 に あ る の が被 保 険 者 で あ る と い う こ と に基 づ いて,商 法 が被 保 険者 を損 害 防止 義 務 者 と定 め て い る こ とか ら,保 険 契 約 者 が 保 険 の 目的 に対 して密 接 な地 位 を有 す る場 合 に は,保 険 契 約 者 もま た損 害 防 止 義 務 を履 行 す べ き で あ る と して,被 保 険 者 の み な らず,保 険 契 約 者 を も含 め る と解 す る点 で争 い は な い。 こ こ で注 視 す べ き は,非 海 上 保 険 を 含 め,損 害 保 険 契 約 で は,上 述 の 二 説 に加 え,損 害 防 止 義 務 は法 律 が 特 に被 保 険 者 に対 して 認 め た 義務 で あ る. \ 町 谷 ・前 掲 注(2)554頁)。 また,「 自 己の た め に す る保 険 契 約 で は,保 険契 約者 と 被 保 険 者 は 同一 人 で あ る か ら,被 保 険 者 のみ を損 害 防止 義 務 者 と して も問題 は 全 く生 じな い し,他 人 の た め にす る保 険 に お いて も,被 保 険 者 が損 害 の 防止 に 最 も適 した地 位 に あ る場 合 は そ れ で足 りる。 しか し,被 保 険 者 よ り も保 険契 約 者 の 方 が 損 害 の 防 止 に よ り適 した地 位 に あ る こ と も決 して ま れ で は な い」 と指 摘 す る木 村 栄 一 博 士 も また,こ れ と 同 旨で あ ろ う(木 村 ・前掲 注⑳175∼176頁)。 他 に 同 様 の 見 解 と して,大 森 ・前 掲 注飼170∼171頁,石 ⑳. 田 ・前 掲 注 ㈱174頁 。. 加 藤 由 作 博 士 は,商 法 が 損 害 防 止 義 務 者 と して 保 険 契 約 者 を規 定 して い な い こ と につ い て,「 商 法 の敏 階 と構 して差 支 な い 」 と批 判 す る(加 藤 ・前 掲 注(2) 330頁)。 青 山 ・前 掲 注(2)270∼271頁,木. 村 ・前 掲 注(3)208頁,大. 森 ・前 掲 注 ⑫D. 171頁 も,同 様 の 見 解 を 採 る。 ⑱. 小 町 谷 操 三 博 士 は,既 述 に あ る 「商 法 が 六 六 〇 條 に お い て,特 に,被 保 険 者 とい ふ 文 字 を 用 ゐた の は,恐 ら く,被 保 瞼 者 が,保 瞼 の 目的 物 に,最 も緊 密 な 關 係 を 有 し,損 害 防 止 に,最 も適 す る地 位 に ゐ る,と 考 へ たの と,被 保 険 者 は, 原 則 と して 保 険 契 約 者 で あ る,と 考 へ た た め で あ 」 る と の立 法 理 由 に照 ら し, 「保 険 契 約 者 の 損 害 防 止 義 務 を,否 定 す る趣 旨で は な い」 と した上 で,「 尤 も, 立 法論 と して は,『 保 険契 約 者 及 び被 保 険 者 は云 々』 と規 定 して,疑 を避 け る の が 正 當 で あ る」 と続 け る(小 町 谷 ・前 掲 注(2)554頁)。 一15一.

(16) 近畿大学法学. 第55巻第2号. か ら,保 険 契 約 者 は これ に何 らの 関 係 も有 しな い とす る被 保 険 者 限 定 説 が 存 す るの に対 して ⑳,特 に海 上 保 険分 野 に お い て は この よ うな見 解 は な い。 海 上 保 険 に お いて は,他 の 損 害 保 険 に比 して,被 保 険 者 以 外 の 者 に損 害 防 止 義 務 の 履 行 が 委 ね られ る場 合 が 往 々に して 想 定 され る所 以 で あ ろ う。 海 上 保 険 実 務 にお い て も,損 害 防 止 義 務 を 約 定 す るに あ た り,損 害 防 止 義 務 者 につ い て は そ の 当 初 か ら 「保 険 契約 者 ま た は 被 保 険 者」 と約 定 して い た⑳。 被 保 険 者 に加 え,保 険 契 約 者 を損 害 防 止 義 務 者 とす る理 由 と して,. ⑫9)戸 出 正 夫 「損 害 防 止 義 務 につ い て 」保 険 学 雑 誌454号109頁(1971年),田 中誠 二=原 茂 太 一 『新 版保 険法(全 訂版)』190頁(千 倉 書 房,1986年),西 島 ・前 掲 注(2)206頁。 詳 細 は,拙 著 ・前 掲 注⑲71∼73頁 を参 照 の こ と。 ⑳. 旧船 舶 保 険 普 通 保 険 約 款 は,そ の15条 に,損 害 防 止 義 務 お よ び 同義 務 違 反 の み な らず,損 害 防 止 費 用 負 担 にか か る約 定 を 設 けて い た。 す な わ ち,同. 「保 険. 契 約 者 又 は被 保 険者 は,損 害 の 防止 軽 減 に努 め な け れ ば な らな い。 2損. 害 の 防止 軽 減 に 関 して 生 じた 費 用 は,特 約 が な い限 り,当 会 社 は,て. ん補 す る責 に任 じな い。 3損. 害 を 防止 軽 減 す る こ とが で き た に もか か わ らず,保 険 契 約 者,被 保 険. 者 又 は こ れ らの者 の 代 理 人 が これ を 怠 った 場 合 に は,当 会 社 は,損 害 額 か ら防 止 軽 減 す る こ とが で き た と認 め られ る 損 害 の額 を 控 除 した 残 額 を 基 礎 と して, て ん補 額 を決 定 す る。 4他. 人 か ら損 害 の 全 部 又 は一 部 の 賠 償 を 受 け る こ と が で き る 場 合 に お い. て,保 険 契 約 者,被 保 険者 又 は こ れ らの者 の代 理 人 が そ の 賠 償 請 求 権 を 消 滅 さ せ た と き,又 は そ の請 求 権 の行 使 若 し くは保 存 に必 要 な 手 続 を 怠 った と き は, 当会 社 は,損 害 額 か ら賠 償 を受 け る こ とが で き た と認 め られ る金 額 を 控 除 した 残 額 を基 礎 と して,て ん 補 額 を 決 定 す る」。 ま た,旧 内航 貨 物 海 上 保 険普 通 保 険約 款20条 は,損 害 防 止 義 務 とそ の 義 務 違 反 につ いて,「保 険者 ま た は被 保 険者 は,損 害 の 防 止 軽 減 に 努 め な けれ ば な らな い。 2保. 険 契 約 者 ま た は被 保 険 者 が,損 害 を防 止 軽 減 で き た に もか か わ らず,. これ を 怠 っ た場 合 に は,当 会 社 は,損 害 額 か ら防止 軽 減 で き た と認 め られ る損 害 の 額 を 控 除 した 残 額 を 基 礎 と して,て ん 補 額 を 決 定 す る。 3保. 険 契 約 者 ま た は被 保 険 者 が,他 人 か ら損 害 の全 部 ま た は一 部 の 賠 償 を. 受 け る こ とが で き る場 合 に お い て,そ の賠 償 請 求 権 を消 滅 さ せ ま た は そ の請 求 権 の 行 使 も し くは保 存 に必 要 な 手 続 き を怠 っ た と き は,当 会社 は,損 害 額 か ら 賠 償 を 受 け る こ とが で き た と認 め られ る金 額 を控 除 した残 額 を 基礎 と して,て/ 一16一.

(17) 損害防止費用負担義務の制度的淵源(一) 立 法 論 上 も し くは解 釈 論 上,損 害 防止 義 務 者 に保 険 契 約 者 を含 め る とす る 学 説 と同 じ く,倉 庫 業 者 ま た は運 送 業 者 が 荷 主 の た め に受 寄 物 や 運 送 品 に つ い て 「他 人 の た め にす る保 険 契 約 」 を締 結 し,貨 物 等 が その 管 理 下 に あ る 間 に被 災 した場 合 な ど,む. しろ保 険 契 約 者 の 方 が 損 害 防 止 に最 も適 した. 地 位 に あ る こ とを挙 げ る。 さ らに,船 舶 保 険 普 通 保 険 約 款,内 航 貨 物 海 上 保 険 普 通 保 険 約 款 が 時 期 を 同 じ く して大 改 定 さ れ た こ と に は既 に触 れ た が,船 舶 保 険 普 通 保 険 約 款 は そ の24条1項. に お い て,旧 船 舶 保 険 普 通 保 険 約 款15条1項. に 「また は船. 長 を して これ に努 め させ な け れ ば な らな い 」 旨を 追 加 して い る⑳。 こ こ に 損 害 防 止 義 務 者 は,あ. くまで 「保 険 契 約 者 また は被 保 険 者 」 で あ る。 しか. しなが ら,海 難 事 故 に遭 遇 した際,船 舶 保 険 にお い て 当 該 義 務 を 履 行 す る に あ た って 最 も適 した地 位 に あ るの は船 長 で あ る こ とか ら,保 険 契 約 者 ま た は被 保 険 者 に対 して,こ れ らの 者 の 代 理 人 と して 船 長 に損 害 防止 義務 に 努 め る よ う要 請 す べ き こ と を,当 該 規 定 に明 示 す る もの で あ る。. \ ん 補 額 を 決 定 す る」 旨定 め る。 な お,両 約 款 に お け る 当該 約 定 は,1965年. 改定. の 際 に 口語 体 化 され た の み で,そ の 内 容 に 変更 は な い。 ⑳. 当 該 約 款24条 は,以 下 の よ う に約 定 す る。 す な わ ち,同. 「保 険 契 約 者 ま た は. 被 保 険 者 は,保 険 事 故 発 生 に あ た り,損 害 の 防 止 軽 減 に努 め,ま た は船 長 を し て これ に 努 め させ な けれ ば な らな い。 2保. 険 契 約 者 ま た は被 保 険者 が,故 意 ま た は重 大 な 過 失 に よ って 損 害 の 防. 止 軽 減 を 怠 った と き は,当 会 社 は,防 止 軽 減 す る こ とが で き た と認 め られ る額 を 損 害 額 か ら控 除 した 残 額 を 基 礎 と して,て ん補 額 を 決定 す る。 3保. 険 契 約 者 ま た は 被 保 険者 が,第 三 者(他 人 の た め に す る保 険契 約 の場 合. の 保 険 契 約 者 な らび にそ の 代 理 人 お よ び使 用人 を 含 む。 以 下 同 じ。)に対 し損 害 の 賠 償 を 請 求 す る こ とが で き る場 合 に は,そ の 請 求 権 の行 使 ま た は保 全 に努 め な け れ ば な らな い 。 4保. 険 契 約 者 ま た は被 保 険者 が,故 意 ま た は重 大 な 過 失 に よ って 第 三 者 に. 対 す る請 求 権 の 行 使 また は保 全 を怠 っ た と き は,当 会 社 は,そ の請 求 権 を行 使 す れ ば,第 三 者 か ら賠 償 を 受 け る こ とが で き た と認 め られ る額 を損 害 額 か ら控 除 した 残 額 を 基 礎 と して,て ん 補 額 を 決定 す る」。 一17一.

(18) 近畿大学法学. 第55巻第2号. 内 航 貨 物 海 上 保 険 普 通 保 険 約 款 に 至 って は,旧 内航 貨 物 海 上 保 険普 通 保 険 約 款20条 が 損 害 防 止 義 務者 に つ い て 「保 険契 約 者 ま た は被 保 険者 」 に 限 定 して い た の に 対 し,1989年. 改定 の 際,同 約 款14条1項. 前 段 に 「保 険契 約. 者,被 保 険者 ま た は これ らの者 の代 理 人 も し くは使 用 人 は,保 険 事 故 の発 生 に あ た り,損 害 の 防止 ・軽 減 に努 め な け れ ば な りませ ん」 と約 定 し,保 険契 約 者,被 保 険者 の代 理 人 も し くは使 用 人 を損 害 防 止 義 務 者 と して新 た に追 加 した 鋤。 保 険 契 約 者 が法 人 で あ る場 合 に は,実 際 に損 害 防 止 義 務 を 履 行 す る の は代 理 人 ま た は使 用 人 で あ る こ とが 多 い こ と を,そ の理 由 に挙 げ る㈱。 こ の よ うな損 害 防 止 義 務 者 の範 囲 を保 険 契 約 者 に まで 拡 張 す べ きで あ る とす る従 来 の学 説 や,保 険 実 務 の動 向 を受 けて,損 害 保 険 契 約 法 改 正 試 案 で は,同660条1項. に 損 害 防 止 義 務 者 を 「被 保 険 者 お よ び保 険 契 約 者 」 と. 定 め,そ の範 疇 に 保 険 契 約 者 を包 含 す る こ とを 規 定 中 に 明示 したmの 。 ここ. 働. 当 該 約 款14条 は,損 害 防 止 義 務 と題 して,以 下 の よ うに約 定 す る。 同 「保 険 契 約 者,被 保 険 者 ま た は これ らの 者 の代 理 人 も し くは使 用 人 は,保 険事 故 の 発 生 に あ た り,損 害 の 防 止 ・軽 減 に努 め な けれ ば な りま せ ん。 保 険契 約 者,被. 保. 険 者 また は これ らの 者 の 代 理 人 も し くは使 用 人 が 損 害 の 防止 ・軽 減 を怠 った と きは,当 会 社 は,防 止 ・軽 減 す る こ とが で き た と認 め られ る額 を損 害 額 か ら控 除 した 残額 を 基 礎 と して,保 険 金 の額 を決 定 しま す。 2保. 険 契 約 者,被 保 険 者 また は これ らの 者 の 代 理 人 も し くは使 用 人 は,第. 三 者(他 人 の た め に す る保 険 契 約 の 場 合 の 保 険 契 約 者 な らび に そ の代 理 人 お よ び 使 用 人 を 含 み ま す。 以下 同 じ。)に 対 して,損 害 に つ い て 賠償,補 償 そ の他 の 給 付 を 請 求 す る こ とが で き る場 合 に は,そ の 請 求 権 の 行 使 ま た は保 存 に努 め な け れ ば な りま せ ん 。 保 険 契 約 者,被 保 険 者 ま た は これ らの 者 の代 理 人 も し くは 使 用人 が 第 三 者 に 対 す る請 求 権 の 行 使 また は 保 存 に必 要 な手 続 き を怠 っ た と き は,当 会 社 は,そ の 請 求 権 の 行 使 に よ って,第 三 者 か ら給 付 を受 け る こ とが で き た と認 め られ る額 を 損 害 額 か ら控 除 した 残 額 を 基 礎 と して,保 険 金 の額 を決 定 します 」。 ㈱. 日本 損 害 保 険 協 会 貨 物 保 険 部 編 『貨 物 海 上 保 険 ・運 送 保 険 普 通 保 険 約 款 改 正 理 由書 』34頁(日. ㈱. 本 損 害 保 険 協 会 貨 物 保 険 部,1989年)。. 損 害 保 険 法 制 研 究 会 編 ・前 掲 注(4)65頁。 一18一.

(19) 損害防止費用負担義務の制度的淵源(一) で も保 険 契 約 者 を 列 挙 した 理 由 と して,「 保 険 の 目的物 に密 接 な 関 係 を 持 ち,損 害 の防 止 に最 も適 した地 位 に あ る者 は,通 常 は被 保 険 者 で あ るが, 倉 庫 業 者 とか運 送 業 者 が 荷 主 の た め に受 寄 物 や 運 送 品 につ い て 保 険 契 約 を 締 結 す る場 合 な どで は,む. しろ,こ れ らの 保 険 契 約 者 が 損 害 の 防 止 に 最 も. 適 した地 位 に あ る こ と を考 慮 した か らで あ る」 とす る⑳。. 3損. 害防止義務の開始時期. 近代保険法が概ね損害防止義務の履行の開始時期について明示的に規定 して い る中 で,わ が 国 商 法660条1項. 本 文 は,「 損 害 ノ防 止 ヲカ ム ル コ トヲ. 要 ス」 る 旨定 め るの み で,そ の 開 始 時 期 に 関 して は特 に 規 定 して い な い。 そ の た め,損 害 防 止 義 務 の 開 始 時 期 に つ い て は,従 来,解 釈 に委 ね られ て きた 。 同 項 本 文 に規 定 す る 「損 害 ノ防止 ヲカ ム ル コ トヲ要 ス」 る との文 言 か ら,保 険 事 故 が 発 生 した 場 合 に 損害 の発 生 を避 け,ま た は損 害 の拡 大 を 防 ぐこ とを 要 す る点 に 異 論 は な い が,保 険事 故 の発 生 を も防止 しな け れ ば な らな い か 否 か を め ぐって 見解 の相 違 が あ る。 一 つ は ,損 害 防止 義 務 は保 険事 故 の発 生 を前 提 と して存 在 す る義 務 で あ り,保 険 事 故 自体 の発 生 を 防止 す る こ と は含 ま れ な い とす る説 で あ る㈱。 小 町 谷 操 三 博 士 は,商 法660条1項. 本文 における損害防止義務 が衡平法 の. 原則 に立 つ もの で あ る との立 法 理 由 に照 ら し,当 該 「義 務 は,保 険 事 故 が. ㈲ ㈲. 損 害 保 険 法 制 研 究 会 編 。前 掲 注(4)65∼66頁 。 小 町 谷 ・前 掲 注(2)560頁 。 青 山 。前 掲 注(2)262頁,石. 井 。前 掲 注 ⑳327頁,大. 森 。前 掲 注e5171頁 も,こ れ を支 持 す る。 また,今 村 有 博 士 も当 初 は 「損 害 防 止 義 務 は保 険事 故 嚢生 に 際 して課 せ られ た る義 務 で あ る。 保 険 事 故 そ れ 自身 の 髪 生 を防 止 す る が如 き は こ こに そ の義 務 の 範 園 で な い 。 これ,商 法 第 六 四 一 條 の 規 定 の 範 園 に 屡 す る 所 で あ る」 と して い た が(今 村 ・前 掲 注 ⑳176頁),後. に. 「損 害 防止 義 務 は保 険事 故 発 生 後 に 限 らず,事 故 が 切 迫 した 場 合 に こ れ を 回 避 す る手 段 を講 じる こ と も損 害 防止 行 為 と して認 め る べ きで あ る」 と して,そ の 解 釈 を改 め て い る(今 村 ・前 掲 注(1)259∼260頁)。 一19一.

(20) 近 畿大学法 学. 第55巻第2号. 獲 生 した こ とを,要 件 とす る もの と解 す る のが,妥 當 で あ る。 然 る に,も し保 険事 故 の 防止 義 務 を も含 む,と 解 す る な らば,保 瞼 契 約 を な した 目的 が,殆 ん ど無 意 義 に な る。 蓋 し被 保 瞼 者 は,偶 然 の事 故 に よ る損 害 を,保 険 に よ つ て保 護 しよ う と した の に,そ の偶 然 の 事 故 の 獲 生 を防 止 す る こ と に,意 を用 ゐ る こ とを要 す る な らば,保 険 の 存 在 に よつ て,少. しも安 心 す. る こ とが,出 來 な い か らで あ る。 且 つ,保 険 契 約 者 及 び被 保 険 者 は,保 瞼 事 故 を招 か な い義 務 を,負 澹 して ゐ るか ら,保 険 事 故 獲 生 前 にお け る保 険 者 の利 盆 は,こ れ で,充 分 に保 護 せ られ るの で あ り,立 法 者 も,そ の 程 度 で漏 足 して ゐ る,と 解 す べ き もの で あ る」 と,そ の 理 由を 述 べ る⑳。 他 方,こ. こ に損 害 防 止 は,保 険 事 故 が 発 生 した と き,ま た は,そ の 発 生. が避 け難 い と認 め られ る とき に要 す る との 見 解 が あ る幽。 同説 に よ れ ば, 「商 法 は損 害 の 防 止 と い って,事 故 の 防 止 とは い って い な い。 しか し,ま た,事 故 が発 生 した時 と もい って いな い 。 損 害 の 防 止 は事 故 の 防 止 又 は 事 故 を 回避 す る こ と に よ って 最 も よ くそ の 目的 が 達 成 され る。 損 害 防 止 義 務 の履 行 期 を事 故 発 生 時 か ら事 故 発 生 前 に さか の ぼ らせ る こ とは,一 見 被 保 険 者 に酷 な よ うで あ るが,事 故 防 止 に要 した 費 用 は 損 害 防 止 費 用 と して 取 扱 われ,保 険 者 が 負 担 す る。 事 故 発 生 を 防 止 しな か った た め に,不 作 為 に よ る事 故 招 致 と して 保 険 者 を 免 責 す る よ りは,事 故 発 生 の 防 止 を 義 務 づ け. (3D小 町 谷 ・前 掲 注(2)560頁 。 ㈱. 加 藤 ・前 掲 注(2)331頁,木 村 ・前 掲 注 ⑳175∼176頁,今. 村 ・前 掲 注(1)260頁 。. 葛 城 照 三 博 士 は 「保 険 事 故 の発 生 が 避 け難 いか 否 か を抽 象 的 に決 定 す る の は 困 難 で あ る」 と しな が らも,保 険 事 故 に よ る損 害 の発 生 が 避 け難 い と き の損 害 防 止 行 為 と して 二 つ の 例 を 挙 げ る。 す な わ ち,「船 舶 が 現 実 に台 風 に翻 弄 され,こ の ま まで は沈 没 全 損 を免 れ な い と き,船 長 が 海 浜 に 向 っ て ま っ し ぐ らに 突進 し て 任 意 座 礁 す る な らば,そ れ は船 舶 保 険 に お け る損 害 防 止 行 為 で あ る。 … …船 内 に火 災 が 発 生 し,被 保 険 貨 物 へ の 延 焼 が 確 実 で あ る と き,消 防鎮 火す る行 為 は貨 物 保 険 にお け る損 害 防 止 行 為 で あ る」(葛 城 ・前 掲 注⑬288∼289頁)。 一20一.

(21) 損害防止費用負担義務の制度的淵源(一) て,そ れ に要 した費 用 を負 担 す る方 が よ り合 理 的 で あ る」⑳。 また,こ こでの事 故 発 生 の防止 とい うの は,事 故 発生 直 前 の時 点 を い う㈲。 した が っ て,決. して そ の た め に被 保 険 者 の 安心 感 が 失 わ れ,あ. るい は 保 険. 者 の損 害 防 止 費 用 負 担 が 無 限 に増 加 す る とい う懸 念 は な いω。 わ が 国 に お け る 通 説 は,前. わ が 国商 法660条1項. 者 で あ る働。. 本 文 に 損 害 防 止 義 務 の 開 始 時 期 に 関 す る規 定 の な. い こ とか ら,様 々な 解 釈 が 展 開 され て い る中 で,国 内保 険約 款 の 多 くが, 早 くか ら損 害 防 止 義 務 の 開 始 時 期 に つ い て 「保 険事 故 が発 生 した とき」 あ る い は 「保 険 事 故 の 発 生 にあ た り」 と定 め る。 内航 貨 物 海 上 保 険普 通 保 険. ㈱. 木村 栄 一 博 士 が,海 上 保 険 に 限 らず,損 害 保 険 分 野 で主 張 して い た が(木 村 ・ 前 掲 注(3)213頁),今. 村 有 博 士 が これ に依 拠 し,改 説 の 理 由 に挙 げ る(今 村 ・前. 掲 注(1)260頁)。 ⑳. 「未 だ 事 故 は登 生 せ ざ る も,若 し之 を爲 さ ざれ ば事 物 の 自然 の経 過 に 於 て 其 の 獲生 が 避 くべ か ら ざ る もの と認 め 得 る場 合 に 既 に 之 を 爲 す を 要 す る。 故 に例 へ ば船 舶 が遭 難 して 其 の 儘 に 放 置 す れ ば 沈 没 が 避 け 難 き状 態 にあ る に際 して は 該 船 舶 を 坐礁 せ しめ て 之 を 防 止 す るを 要 し,被 保 険 船 舶 に延 嶢 す る こ と確 實 な る 時 に 當 り之 が 消 防 に 從事 す るを 要 す る。 而 して 其 の 以 前 に 於 て は 斯 る行 爲 を 爲 す義 務 は存 しな い」(加 藤 ・前 掲 注(2)331頁)。. (4D木 村 ・前 掲 注(3)213頁 。 ㈹. しか しな が ら,近 時,非 海 上 保 険 を 中心 とす る 議論 の 中 で,後 者 を 支 持 す る もの が 見 受 け られ る。 山 本 哲 生 教 授 は,「 損 害 防 止 義 務 の発 生 時 期 は保 険 事 故 発 生 後 と す る の が 従来 の通 説 で あ る が,有 力 説 の 狙 い は 損 害 防 止 費 用 は 保 険 者 が負 担 す る こ とか ら(660条1項. 但 書),保. 険事 故 発 生 防止 の 費 用 を 保 険 者 に 負. 担 させ る こ とに あ る。 こ の結 論 の妥 当性 に は異 論 は な く,通 説 も類 推 適 用 な ど で 同 じ結 論 を導 い て い る」 と して,こ の 見 解 を 支 持 して い る(山 本 哲 生 「第3 章5。4損 害 防 止 義 務 」 山下 友 信=竹 濱 修=洲 崎 博 史=山 本 哲 生 『有 斐 閣 ア ル マ 保 険 法 』所 収142頁(有. 斐 閣,1999年))。. に脅 か す 場 合 に限 り,例. せ る こ と を認 め よ う とす る説(坂 諸 問 題 の考 察 一. ま た,一 つ の 危 険 が 多 くの 利 益 を 同 時. 外 的 に損 害 防 止 ・軽 減 義 務 を 保 険 事 故 発生 前 に 開 始 さ 口光 男 「損 害 防止 ・軽 減 義 務 に 関 す る若 干 の. ドイ ツ法 理 論 との関 連 に お い て 一. 169∼170頁(1972年))や,損. 」 法 律論 叢45巻5・6号. 害 防 止 義 務 は,保 険 者 の 負 担 す べ き保 険 事 故 が. 発 生 し,か っ,被 保 険 者 が こ れ を知 っ た こ と を前 提 とす る とい う見解(大 前 掲 注 ㈱171頁,石. 田 ・前 掲 注 ㈱175頁)が 一21一. 主 張 され て い る。. 森 ・.

(22) 近畿大学法学. 第55巻第2号. 約 款 も この 例 に もれ ず,1943年. 当 時 か ら 「保 険 事 故 の 発 生 に あ た り」,損. 害 防 止 義 務 を 履 行 す る よ う約 定 して い る㈲。 と こ ろが,船 舶 保 険 普 通 保 険 約 款 は,わ が 国 商法660条1項. 本 文 と 同様,. 損 害 防 止 義 務 の履 行 時 期 につ いて 特 に定 あ て い な か った ㈱。 損 害 防 止 義 務 者 で あ る保 険 契 約 者 また は 被 保 険者 は,保 険事 故 発生 の前 後 を 問 わ ず,常 に損 害 防 止 義 務 を 負 担 す る こ と とな った。 そ の結 果,保 険契 約 者 や被 保 険 者 は保 険 事 故 そ れ 自体 の 発生 を も防止 しな け れ ば な らな い過 酷 な状 況 に お か れ,か つ,偶 然 的 事 実 の 発生 に よ る保 険保 護 を 目的 とす る保 険契 約 自体 の 意 義 を 失 わせ しめ る こ と に な っ て い たus。そ こで,1990年. 改 定 に至 って. 漸 く 「保 険 事 故 発 生 に あ た り」 との文 言 が加 え られ,保 険事 故 に よ る損 害 が 発 生 した か ま た は そ の 発生 が避 け が た い とき を も って損 害 防止 義 務 の履 行 を 要 す る こ とを 明 らか に した㈲。 そ の 後5年. を経 て 公 表 さ れ た 損 害 保 険 契 約 法 改 正 試 案 もま た,同660条. 1項 に お い て,損 害 防止 義 務 が 「保 険事 故 の発 生 に あ た り」 履 行 す べ き義 務 で あ る と,そ の 開始 時期 を 明示 的 に規 定 して い る㈲。. 4損. 害 防止 義 務 の 内容. わ が 国商 法660条1項. 本 文 は,損 害 防止 義 務 に つ い て,「 損 害 ノ防 止 ヲカ. ム ル コ トヲ要 ス」 と定 め て い る。 す な わ ち,こ こ に被 保 険 者 が 果 たす べ き. ㈹. 旧 内航 貨 物 海 上 保 険普 通 保 険 約款20条 ・前 掲 注 ⑳ お よび 内 航 貨 物 海 上 保 険 普 通 保 険 約 款14条 。前 掲 注 勧 を参 照 の こ と。. ㈹. 旧船 舶 保 険 普 通 保 険 約 款15条 。前 掲 注G①を 参 照 の こ と。. ㈲. 松 島 。前 掲 注aT126頁 。. ㈹. 日本 船 舶 保 険連 盟 『 船 舶 保 険普 通 保 険 約款 改定 理 由 書 』92頁(日 連 盟,1990年)。. ⑳. 当該 約 款24条1項. 本船舶保険. につ いて は,前 掲 注 ⑳ を 参 照 の こ と。. な お,「保 険 事 故 の発 生 に あ た り」 と い う文 言 を 用 い た の は,損 害 防 止 義 務 の 開 始 時 期 に 幅 を持 た せ る とい う趣 旨か らで あ る(損 害 保 険 法 制 研 究 会 編 。前 掲 注(4)65∼66頁)。 一22一.

(23) 損害防止費用負担義務 の制度 的淵源(一) 損 害 防止 義 務 とは,そ の文 言 か ら も明 らか な よ うに,損 害 を防 止 す る た め に 努力 す る こ とで あ る。 如 何 な る 損 害 防 止 行 為 を な す べ きか に つ い て は,法 律 上 何 等 制 限 は な い。 商 法660条1項. 本 文 に規 定 す る損 害 防 止 義 務 に は,損 害 の発 生 を 防 止. す る行 為 に加 え,既 に生 じた損 害 の拡 大 を防 止 す る行 為 がす べ て包 含 され る と,学 説 は解 して き た。 しか しな が ら,保 険事 故 を如 何 に解 す るか に よ って,当 該 事 故 発 生 に対 す る損 害 防 止 行 為 の 範 疇 を め ぐ って 争 い が あ る。 小 町 谷 操 三 博 士 に よれ ば,損 害 発 生 の 防止 「は,保 険 事 故 が 嚢 生 した場 合 に,そ の事 故 が,保 険 の 目的 に損 害 を及 ぼす こ とを,防 止 す る行 爲 で あ る に反 し,〔保 険 事 故 発 生 の 防 止 と は,〕 保 険 事 故 そ の もの の 獲 生 を,防 止 す る行 爲(括 弧 内 は,筆 者)」 で あ るか ら,両 者 を 区 別 す る こ とを 要 す る と説 い た 上 で,「 例 へ ば, 埠 頭 に火 災 が起 つ た場 合 に,船 舶 に延 焼 す る こ と を避 け る行 爲 は,前 者 に 屡 す る に反 し,埠 頭 又 は船 舶 内 に,火 災 が 起 る こ と を防 止 す る行 爲 は,後 者 に屡 す る」㈱。 これ に対 して,葛 城 照 三 博 士 は,船 舶 保 険 に お い て 「埠 頭 に 火 災 が 起 こ った場 合 船 舶 に延 焼 す る こ とを避 け る行 為 は保 険 事 故 が 発 生 した後 の 損 害 防 止 行 為 で あ る とす る説 が あ る が,…. …損 害 防 止 行 為 で は な い」 とす. る㈲。 「保 険 事 故 は まだ 発 生 して い な い の み な らず,そ の発 生 が 避 け難 い情. ⑱ ⑲. 小 町 谷 。前 掲 注(2)562頁 。 葛 城 照 三 博 士 に よれ ば,当 該行 為 は,「航 海 の 行 手 に殿 風 が 発 生 した ため これ を避 け る行 為 と同様 損 害 防止 行 為 で は な い 」 。 す な わ ち,「 航 海 の 行 手 に魔 風 が 発 生 した こ と が ラ ジオ で報 ぜ られ,こ の ま ま航 海 を 続 行 す れ ば 船 舶 の 沈 没 ま た は難 破 を免 れ え な い場 合,船 舶 が 中 間港 に 入航 して 待 機 す る行 為 は,船 舶 保 険 に お け る損 害 防止 行 為 で は な い。 そ れ は保 険事 故 発 生 の 単 な る憂 慮 に基 づ く船 長 の運 航 上 の 当然 の義 務 の履 行 にす ぎ な い」(葛 城 ・前 掲 注 ⑱288∼289頁)。 一23一.

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