創造的な教育実践を求めて〈4〉
特集
国際協力と地域づくり
──「リアルな教材」が生徒を変える── 高知市立高知商業高等学校岡﨑 伸二
武蔵大学和井田清司
1.グローバル化社会と教育実践の課題
21世紀に入り,グローバル化が叫ばれる時代になった。グローバル化とは, ヒト・モノ・カネ・情報等の地球規模の流通や相互環流・相互依存関係の緊 密化をさす概念である。グローバル化の影響は,「チャンスとリスクが背中 合わせ」⑴の関係にある。 学校教育に関しても,グローバルモデルに接近する方策が推進され,説明 責任・情報公開・教育参加に連動する学校経営改革,教師の実践力や生徒の 学力の質保証に関わる仕組みの導入など,世界水準の課題に対応する改革が 進行してきた。テクノロジーの進化にともなうカリキュラムや授業様式の改 革も急展開を迎えつつある。一方,グローバル化の進行の下で,世界的規模 での激しい競争が組織され,さまざまな格差が拡大再生産されるリスクが生 じている。とりわけ貧困の連鎖と固定化に直結する教育格差の問題は深刻で ある。 グローバル化はローカル化・リージョナル化の危機をともなって進行する。 日本の場合,少子化とも相まって地域コミュニティ崩壊の危機が深刻化して いる。貧困の連鎖を断ち切り,子ども・若者の成長と自立にむけた事業を進 めるには,若者支援の社会保障の充実とともに,地域再生の営為が重要とな る。地域を捨てる学力でなく,地域を育む実践が重要になる。 そのような視点から見ると,「地域に根ざし世界と結ぶ学校をめざして」⑵実践を構築してきた高知商業高等学校(以下,高等学校を高校と略記)の国 際ボランティア活動の展開過程は,示唆に富む。以下,2.3.において,そ の実践の経過や構造を紹介する。それを踏まえ,4.において,これからの 時代の学校改革への示唆を指摘したい。
2.「国際交流ボランティア活動」の展開過程
⑴ 高知商業高校紹介―伝統の継承と革新 高知商業高校(以下,本校と略記)は高知市の西に位置する生徒数840名 の高知市唯一の市立高校である。2016年度で創立118年を迎え,これまでに 多くの人材を送り出し,県民からは「市し商しょう」の名で親しまれている。近年, 全国的に,商業高校に入学してくる生徒の変化(男子生徒の減少,進学希望 生徒の増加)は著しく,新しい多様な教育活動の展開が求められている。ま た,長期不況のため求人数は激減し,雇用需給のミスマッチ現象と合わせて 就職希望生徒への対応や進学実績の向上なども課題となっている。そのなか で,本校は伝統的に教育活動の一つの柱として生徒の自主的な活動を重視し, 生徒会を中心として,文化祭・体育祭をはじめさまざまな行事を主体的に 行ってきた。 1994年から本校生徒会は,県内のNGO組織が進めるラオス学校建設活動 に参加した。1995年からは毎年代表生徒をラオスに派遣し,建設された小学 校で運動会や体力検査を実施するなど,交流も盛んになった。1996年からは 募金ではなく,生徒と教職員・保護者が株主となった模擬「株式会社」を校 内に設立し,その資金をもとに生徒がラオスで直接民芸品等を仕入れ,販売 活動を行い,その利益を建設資金に充てる方式をとった。その後,商店街振 興組合や地域の関連団体とも連携し,商店街や高知の活性化をも目指した新 しい形の国際協力活動を展開している。さらに生徒会はPTAをも巻き込ん だ三者協議会である「ステップアップ市商会議」を立ち上げ,施設整備や授 業改善,進路指導の充実を図るなど校内の教育活動にも積極的に参加してい る。また,保健委員会などの各種生徒委員会も実働を始めた。このように生徒の「学校参加」の可能性は国際協力・地域との協働活動によって引き出さ れていった。 ⑵ 国際交流活動の経過と到達点 20年間をこえる活動の発展段階を振り返ると,およそ次のようである。 ①ラオスとの出会い〈第1期〉1994・95年 「高知ラオス会」(NGO)の「学校を贈る」活動を紹介した地元紙の新聞 コラムに触発され,バザー,チャリティライブ,募金活動を通して得た資金 をNGOに寄付する。 ②募金から株式会社設立へ〈第2期〉1996・97年 株式会社を校内に組織し,ラオス商品購入・販売による協力活動に進化す る。売買によるラオス経済への貢献と利益による学校建設という二重の協力 が可能となり,生徒にとっても商業活動の学習機会となった。 ③街に出よう〈第3期〉1998・99年 市内の百貨店を会場にラオス物産展を企画し,販売活動に取り組むととも に,その一環として,建設された学校の写真パネルや民族舞踊実演を行う。 ④高知とラオスの両方の発展〈第4期〉2000・01年 地域の商店街(はりまや橋商店街)と協力し,企画イベントとラオス物産 展に取り組む。以前の会場を借りるという段階から,共同(協働)開催へと 質的に進化する。この時期, 地域通貨(エコマネー)にも取り組んだ。 ⑤起業家への道〈第5期〉2002・03年 一過性のイベントから常設店へと進化する。商店街の空き地に店舗を建設 し,3ヶ月の期間,卒業生の支援も受けながら,常設店(「ラオスカイ」)を 経営する。国際交流活動と地域活性化の恒常的な関係が紡ぎ出されていった。 ⑥協働から融合へ〈第6期〉2004・05年 ラオスと高知の双方の発展をめざして,ラオス工芸品の販売にとどまらず, あらたな商品開発に取り組む。具体的には,ラオス工芸品と高知の地場産業 を融合し,タペストリー等を開発し,販売するようになった。 ⑦先輩から後輩へ,そして次の指導者へ,2006年から現在へ その後10年間は,若い教員たちが中心となり,実践を継承・発展させた。
「高知とラオスの両方の発展」をキーワードに,高知の名所「はりまや橋」 をもじって,ラオスの織物とお箸を融合させた「はりまや箸」を開発し,高 知空港で販売されるなど人気商品を生み出した。 さらに,「結ゆい扇子」と称し,ラオスの織物を活用した商品を開発した。その 後生徒たちも代は替われど,先輩の志を受け継ぎ,様々な困難や課題を克服 しながら環境問題とも関連させた新しい商品を次々に開発してゆき,県内外 で活躍してゆく。 前半の活動経過を見ると,実践を通して新しい地平が次々に開かれ,その 各局面に適時的な課題が設定され,マンネリ化を克服しつつ深化してきた。 年度毎の活動を総括し,次なる課題と方針を模索する生徒会の討議と検討の サイクルが生きている。 後半は,前半の流れを受け継ぎつつも質的な進化を遂げる。第1に,ラオ スと高知のコラボを意識した商品開発の取組が発展する。ラオスの織物で制 作するエコバック,高知の間伐材とラオス布を素材とした「はりまや箸」, 扇子と扇子袋もラオスの織物を活用して開発された。第2に,ラオスでの交 流が深まると同時に日本での活動も全国規模に拡大する。商品開発と販売の 拡大の中で,小浜市(福井県)の箸店との協働や銀座の高知アンテナショッ プでの販売等,広がりを見せるようになった。こうした活動が注目されるに つれ,各種の受賞歴も重なっていく。第3に,校内における指導体制が拡充 する。国際交流活動が一契機となり,生徒の自治活動を支援する特別活動指 導部が校務分掌上創設された(1999年度)。 こうして,20年に及ぶ援助の結果,7つの学校園(小学校5,中高校1, 保育園1)が,高知ラオス会を通じて建設された。卒業生から在校生へ,そ して新入生へとタスキがつながれてきた。 現在,模擬株式会社名はスマイラース[Smilearth(smile+earth)],「笑 顔があふれる世界にするために」の意味である。そして生徒たちは,20周年 を契機に,あらたなステップに踏み出している。LAKOS(Laos Kochi Smiling)プロジェクトである。ラオスと高知をつなぎ,ともに笑顔になれ る活動として,①学校建設の継続(校舎改修にも取り組む),②交流活動の
継続(ラオスでの学校実態調査も実施),③(ラオスにおける)学校間交流 の推進(歌合戦やスポーツ・フェスティバルの実施),④交流からビジネス へ(高知とラオスの企業を結ぶビジネスチャンスを高校生がプロデュース) にチャレンジしている。ASEAN経済圏の発展に伴い,日本との経済交流も 始まっている。高知の企業とラオスを結ぶ架け橋となって高知商業の生徒た ちが活躍していく可能性は十分にある。交流からビジネスへの発展形である。 上述の経過と成果を達成した地平のゆえに,新たな課題が生起している。 ラオスとの関わり方の進化(既設校改修に係わる課題,交流の青年層への拡 大や企業誘致等への波及),ボランティアからビジネスへの進化(「人格無き 社団等」を越える試み,会社・貿易・販売活動の法的基準の達成),生徒の 自主活動としての進化(教師の支援スタイルの再検討)等にいかに取り組ん でいくか。容易でない課題への挑戦が続く。 ⑶ ラオス派遣事業の意味 前述のとおり,ラオスには1995年から「国際ボランティア活動」と位置づ け,毎年生徒・教職員の代表を派遣しており,その数はのべ200名を越える。 現地では株式会社の社員としての重要な任務である仕入れ活動を行う。言葉 の全く通じないマーケットでの仕入れは電卓だけが頼りで,生徒たちはその やりとりの中でラオスの現実を知り,経済活動を深く学ぶ。 また建設された学校も毎年訪問しており,当初は一緒に遊んだり歌を歌っ たり交流を中心としてきたが,近年では日本式運動会をやってみたいという ラオスからの要望もあり,日ラオ交流大運動会を実施した。ラオス人にとっ ては生まれて初めての体験である。競技のやり方やルールを本校生徒たちが ラオスの子どもや先生たちに教え,当日は大勢の村人や教育関係者の見守る 中,言葉や文化の壁を越え大成功に終わった。現在ではラオス小学校独自の ものへとアレンジし定着しつつある学校もある。さらに2002年の派遣におい ては,ラオスの子どもたちの運動能力検査を実施して日本の子どもたちとの 比較・分析を行い,結果を発表した。 これらの取組は単なる交流イベントというだけでなく,ラオスの教育推進 のためのヒントをラオスの教育関係者に提供する重要な意味を持つ。日本の
ように学習指導要領のようなものがないラオスにとって,遊びを運動として とらえ,記録や統計をとり成長や発達を科学的に分析して教育することの必 要性を理解することは重要である。これは校舎建設というハード面の協力と 同等の価値を持ったソフト面での国際協力である。また,建設した学校の老 朽化に伴うメンテナンスをどう考えるかという新たな課題もある。ラオスの 人々の管理責任と建設を支援した者との関係はどうあるべきか。開発途上国 の実態を知り国際協力のあり方を生徒たちはラオスの現実から学ぶのである。 ⑷ 生徒が活躍できる出番(居場所)づくり 生徒の「やりがい」や「可能性」を引き出すことができた要因は以下の通 りである。 第1に,生徒が多様な形で活動に参加できる「仕掛け」があったこと。株 式会社に対して生徒たちはある意味で「おもしろがって」参加した。また, 意欲のある者は活動の中心として実際にラオスに行き仕入れ活動にも参加し, 現地の子どもたちとも交流できる。商店街での販売活動にもボランティアス タッフとして100名を超す参加者があった。募金や活動を強制されるのでは なく,国際協力活動を企画・運営する会社に多様な形で「参加」することが できた。 第2に,得意技を生かせる場,選びとれる活動の場が設定されたこと。生 徒の才能や個性・価値観は多様であり,平等な役割分担は生徒の意欲を削い でしまう。生徒の興味関心や性格も含めた役割分担がやりがいを生み,成功 の原動力になる。「選択制」と「動機付け」―これがキーワード。自分は何 ができ,何をしたいか。これを追求させ,それを実現できる役割を創出する。 仕事や組織に人を合わせるのではなく,人から仕事や組織を作ってゆく発想 が大切である。 第3に,教師がプロデューサーとしての役割に徹したこと。今,教師が 「教え込む」時代から「プロデュース」する時代へと移っている。教師自身 の知識・技能を直接生徒に指導するだけでなく,一般社会をも巻き込んだ取 り組みを総合的に「プロデュース」する力量が教師に求められている。生徒 が意見を出せる環境をつくり,決定するまで「待つこと」。そして地域の人
の紹介,決定したことが実行できる環境を設定すること。ここに徹したこと により,生徒の能力が引き出され,やりがいに結びついていった。 第4に,バーチャル社会から飛び出して,リアルな現実社会に出会ったこ と。今の高校生は,細かい人間関係を気にしながら,小さな自分の「島」で ひっそりと暮らしている。自分をどう表現するか,どう人と接するか,どう 行動をしなくてはならないのかがわからない。そういう生徒がこの一連の活 動を通して変わってゆく瞬間に立ち会ってきた。その瞬間に共通しているの は,生徒が本物に触れた時である。ラオスの小学校に行った時,ラオスの マーケットで仕入れをした時,商店街の方の指導を受けた時,ラオス民族舞 踊の先生の指導を受けた時,商店街のお客さんと接した時,振興組合の理事 の方々にお願いに行った時,常設店舗の企画を商工会議所に持ち込んだ時。 学校内の疑似社会空間ではない生の社会に触れた時,生徒は大きく変わって いった。時には厳しい指摘を受けるが,社会からの評価が次のやる気を生む。 その意味で,この一連の取り組みはリアルな現実の社会に触れることのでき る絶好の環境を生徒に与えた。 ⑸ 実践を継続・発展させることのできた諸要因 20年以上にわたり活動が継続し,進化してきた要因としては,以下のこと があげられる。 第1に,継続した活動ができる組織を作ったこと。当初の2年間は一般的 な援助方法である募金活動の段階であった。しかし1996年からは実際に現地 を訪れた生徒たちが中心となり国際協力活動を目的とした模擬株式会社を設 立し,出資者を募り,その会社が協力活動を行うというシステムになった。 単なる募金活動であれば一過性のイベントで終わっただろう。生徒の可能性 を引き出し新しい実践を継続・発展させるには,それにふさわしい組織が必 要である。 第2に,非日常の行事を日常の学習活動の延長線上に位置づけたこと。単 なる文化祭,生徒会行事として終わらせず商業高校としての専門性を生かし た活動にすることにより,活動の可能性と教育的な意義が認められ,教職員 への理解も広がり,学校の支援体制も整えられた。それにより国際協力・地
域活動が校内に定着し,継続した活動として発展させることが可能となった。 非日常的な行事や自主活動を校内に根付かせてゆくためには,どこの学校に おいても,その持っている特色や得意技とマッチングすることが肝要である。 そのような柔軟な発想が大切である。 第3に,確かな成果を生徒たちに示すことができたこと。よく「何故ラオ スか」を問われる。学校での国際協力活動は,その成果が明確でないと生徒 たちの「やりがい」も含め継続は難しい。その点この活動は学校建設と現地 や地元商店街との交流が実現したという具体的な成果を生徒に示すことがで きた。現地で交流した生徒たちはこの活動のリーダーとして驚くほど成長し, 一連の取り組みを成功に導いて行った。さらに,出資者である生徒たちにそ の様子をビデオ等で見せ,国際協力の意義をリアルに伝えることもできた。 このリアリティのある成果が継続の原動力になる。そして,その成果を感動 的に広く伝える生徒のプレゼンテーション能力の育成と,その前提となる指 導者自身のプレゼンテーションスキル習得も不可欠といえる。 第4に,ラオスにこだわったこと。「姉妹校」の交流は数多いが,ある「国」 や「県」という単位の結びつきは稀である。ラオスにこだわったことが,人 とのつながりの点においても,商業という専門分野においても結果的に本校 の教育活動に活力を与えた。ラオスにこだわり,ラオスを核にして活動を展 開したことが,結果として大きな教育的効果を生み,その波及効果が各種方 面に及んだ。「続ける」「深める」ことはすなわち「広がる」ことなのである。 第5に,高知とラオスの課題を共有化させたこと。国際協力活動や地域活 動はややもすると「特別な意識を持った者の特別な活動」ととらえられがち である。これを払拭するために生徒たちは街に出た。「高知とラオスを結ぼ う。若者はもっと地域のことを知る必要がある。商店街の活性化とラオスの 発展をめざそう」―この合言葉で実施した商店街を借り切ったラオス交流物 産展や常設店舗の取り組みは成功をおさめた。商店街振興組合も継続実施を 期待している。地域との協働でこの活動を行うことで,県内各地に広がりが 生まれ,学校はもちろん,さまざまな関係機関による生徒への援助体制が確 立してゆく。とりわけ重要な成功要因は,ラオスの課題だけを強調するので
はなく,高知(地域)の課題と共有化させたこと。このことで,活動は爆発 的な広がりをみせ,ネットワークもスパイラル状に広がった。身近な環境問 題と共有化させた「ecoの実プロジェクト」や「はりまや箸」企画もこの延 長線上にある。そして,現在生徒たちは,高知に移住して起業した方や地元 企業との協同事業に取り組み始めている。 ⑹ 自分の心に学校を建てる―自立する高校生 この活動は卒業後の生徒の進路にも大きな影響を与えた。最近では,国際 的な活動を専門的に学ぶために大学の関連学部に進む者,外国の大学へ留学 する者,教師になろうとする者,起業家となるべく経営学を学んでいる者, 専門学校へ進み旅行関係の会社に就職する者,青年海外協力隊として派遣さ れる者等,少なからずこの活動によって学んだことが生徒たちのその後の発 展的な学習や自分自身の生き方につながっている。自分の頭で進路を考え, 自分の言葉でこの活動を語り,進路を切り拓いていった。 また,卒業してからこの経験を実際に社会の中で生かそうと,NPO法人 を設立し活動しているメンバーもいる。活動を経験し学習した結果,働きな がらあるいは学びながら,社会や地域に貢献しようとする姿は,まさしく未 来社会を担う若者たちの姿ではないか。教育本来の意義を再認識する。これ らの経験を通じて,さまざまな地方を取り巻く厳しい環境のなか,地域で主 体的に活躍する生徒が一人でも多く巣立ってゆくことを願わずにいられない。 今,振り返ると,彼らは「ラオスに学校を建てよう」と「ラオス」のため に街にでた。そして地域と協働して実現させてきた。彼らの成長していく姿, 自分自身の進路を自らの力で切り拓く姿を見ると,実はその「学校」は「ラ オス」ではなく「自分自身の心の中」に建てていたのではないかと思えてな らない。情報が氾濫する現代に生きる若者たちは,果たしてどれくらい「本 物」に触れ,「ショック」を受けることがあるだろうか。今年も高校生がラ オスの子どもたちに会いに行く。そして街に出て自分自身を発見し,自立へ の道を歩み始めることであろう。
3.実践の構造―その背景と要因
⑴ 実践の構造 本校の国際交流活動は,20年以上にわたって継続して現在に至る。主体で ある生徒が3年周期で入れ替わるなか,継続するだけでなく広く深く進化し てきたのである。そこにはどのような要因が作用してきたのであろうか。 第1に,模擬株式会社というツールが実践の継続と発展の基盤になった点 があげられる。模擬ではあっても,会社という組織のルールに沿って取組が 企画・実施・決算され,その成果が途上国の教育改善として具体化され,地 元の地域振興にもつながっていく。社会的役割や責任が伴ってくる。また, 株式会社の運営は,商業教育の実習ともなっている。商業高校の特性を生か した活動システムが構築されている点に注目したい。第2に,社会的活動と いう「リアルな教材」によって生徒たちが法則的に成長していく「仕掛け」が 生きている。ラオスでの教育交流や工芸品の仕入れ,商品開発をめぐるプロ の職業人との協働,地元商店街との折衝等,活動には深い思慮と責任が求め られる。そうした活動の節目をくぐりぬけるなかでたくましく成長する生徒 の姿が,後輩たちの目標や刺激となり,バトンが渡されていく。第3に,教 師側の支援体制の充実という要因である。まず,生徒の得意分野にあわせて 組織を作るという柔軟な発想が生かされている。そのため,多様な生徒がそ の個性を生かして意欲的に参加している。組織としても,生徒会顧問の指導 として始まる活動が,特別活動指導部の発足を契機に全校的指導へと拡充さ れる。 ⑵ 授業改善を通した学校改革 国際ボランティア活動の発展過程は,特別活動指導部の創設にみられるよ うに,指導体制の進展過程でもあった。同時に,経営ビジョンの開発や校内 研修の改善(授業研究の日常化)など,学校改善の展開過程でもあった。学 級や授業の経営ビジョンを明確化し,個々の授業方針(シラバス)を共有す るようになった。そして,校内研修の一環として,各教員が研究授業を年1回は実施し,授業改革にとりくんできた。授業研究会は,前もって事前研究 会を開き,授業者の意図と検討の視点を確認する。その上で,授業公開をし, 放課後事後検討会を開催するという手順を踏んでいる。公開した教師が, やってよかったと言えるように配慮されている。 ⑶ 普遍的にして個性豊かな実践 本校の活動は個性的な実践である。ラオスとの接点にこだわり,専門高校 としての特性を生かした特殊な事例とも言える。だが,この個性的な実践は, その根底に普遍的な価値を内包している⑶。学校や地域の課題を世界の課題 と繋げ,学習活動を組織していくこと。子どもの得意分野を生かし,意欲的 に取り組む中で人間形成をはかっていくこと。ビジョンとプロセスを提示し ながら,子どもの試行錯誤を組織的に支援すること。国際理解・環境保全・ 地域振興という方向性を持ち,地域や社会に働きかけること。こうした実践 枠組みは,どの地域どの学校段階においても,参照可能なものである。
4.学校改革のデザイン―定型思考から柔軟思考へ
アジアと地元商店街を結ぶ高校生のビジネス活動―商業高校の特性を生か したダイナミックな学 びを紹介してきた。こ うした学びの経験を創 出し,進化させてきた 学校や教師は,どのよ うな教育観(生徒観・ 教材観・授業観・学校 観・教師観)や学校ビ ジョンを育んできたの だろうか。そこでは, 定型思考にとどまらず, 柔軟思考で実践が構築 図 学校の三要素~柔軟な発想で 教師 知識・行動の 啓蒙と管理 早熟で未熟な市民 検定教科書 による 定型的授業 教育知識 伝達者 子どもの 試行錯誤の 支援者 ラオス 株式会社 商店街 (国際交流・地域実践) 子ども (児童・生徒) 「教材」 (学習環境と 学習経験)されてきた。 一般的にいって学校における教育行為は,教材を媒介として子どもの発達 を助成する営為である。この場合教育行為は,子どもをどう見るか(子ども 観),教材をどうとらえるか(教師観),教師の行為をどう理解するか(教職 観)によって,多様な広がりをもつ。 一方には,図の左側の系にあるように,学習指導要領や検定教科書に示さ れる教育知識を定型的授業によって伝達し,子どもを啓蒙・管理するという ステレオタイプのイメージがある。だが他方,右側の系にあるように,子ど もを早熟かつ未熟な市民ととらえ,文化財や教育的環境に働きかける社会的 経験を重視して構想することも可能である。また,教師の役割として,啓蒙 と管理で児童生徒を善導するステレオタイプから脱却し,子どもの試行錯誤 を支援する視点も重要となる。危機や危険を排除することは前提だが,子ど もたちは失敗からも深く学ぶ。 本校の実践をみると,教材世界はラオスから地元商店街におよび,学習は 「商業教育の研修」という形をとりつつも社会的役割と責任を担う市民的活 動として組織され,教師は学習環境の組織や試行錯誤の支援者として係わっ ている。これからの学校教育を考えるとき,本校の実践にみられるように, 柔軟で発達的まなざしによる子ども観,社会との接点を意識した開発的な教 材観,状況に応じて繊細に支援する教師観のそれぞれを鍛えることで,教育 行為の意味がより深まり進化することに留意したい。 こんにち,児童生徒に育成すべき新しい能力(「生きる力,21世紀型学力, 社会人基礎力,エンプロイアビリティ」等)や重点的指導領域(「環境教育, キャリア教育,グローバル教育,市民性教育,道徳教育」等)について,さ まざまな提言がなされてきた。しかし,本校の実践を見ると,これら諸課題 は個々別々のものではなく,相互に連関し,統合的に推進されていることが わかる。子どもの良さを伸ばす課題や組織を,地域や世界の課題と繋げて開 発する柔軟な思考が生かされている。ここに,未来の学校ヴィジョンの一つ のヒントがある。
[キーワード] グローバル化,国際交流,地域づくり,学校改革,柔軟な教育観 〈注〉 ⑴ 北村友人,2016「グローバル時代の教育」(『教育の再定義』岩波書店)p.199。 ⑵ 岡﨑伸二,1998『海を越えたボランティア活動』(学事出版)エピローグのタ イトル。 ⑶ 長田新(1962)は「一口に言って個性とは,特殊の中に普遍を宿した生命体 である。そのような個性にしてはじめて真理や道徳や芸術や宗教等の文化を創 造することが出来る」と指摘している(宗像誠也編『教育基本法』新評論, p.82)。 〈付記〉 本稿は,2.を岡﨑が,1.3.4.を和井田が執筆し,全体の調整を和井田が 行った(文責は和井田)。また,以下の著書・論文の内容を統合・再構成するかた ちで執筆した。 ①岡﨑伸二,1998『海を越えたボランティア活動』学事出版,②岡﨑伸二, 1998「高知商業高校国際交流協力活動10年の歩み」(『内発的学校改革』学事出版), ③岡﨑伸二,2005「若者の自立を考える」(『ニート・フリーターと学力』明石出 版),④和井田清司,2015「地域に根ざし世界と結ぶ学校」(『武蔵大学教職課程年 報』29号),⑤岡﨑伸二,2016「生徒会活動から世界へ,そして地域へ」(『武蔵大 学教職課程年報』30号)。