=調 査=
ミズナの貯蔵中における生菌数の変化および細菌叢の変遷
清 水 真 紀
1・石田万里子
1・京 井 大 輔
1,†
河原井武人
1・荻 原 博 和
1 (1日本大学 生物資源科学部) (受付: 令和2年8月25日) (受理: 令和2年9月30日)Changes of Viable Counts and Microflora in
(
subsp.
) during Storage
Maki S
HIMIZU1, Mariko I
SHIDA1, Daisuke K
YOUI1, †,
Taketo K
AWARAI1and Hirokazu O
GIHARA1(1 College of Bioresource Sciences, Nihon University,
1866 Kameino, Fujisawa, Kanagawa 252‒0880; † Corresponding author)
緒 言 ミズナ (水菜; subsp. ) は, アブラナ科アブラナ属に属する野菜である.本種は, 9世紀より主に京都を中心として栽培が行われてきた京 野菜であるが1, 7),昭和後期での品種改良やサラダ等の 洋菜への利用の拡大から全国的に栽培が増加し,作付面 積は2000年代に1,658 ha (平成18年) から2,530 ha (平 成24年) へと急激に拡大した11, 12).また,生産量の増 加より平成22年からは「指定野菜に準ずる野菜」に選 定されている.伝統的にミズナの利用は鍋物や漬物が主 であったが6),近年ではサラダ・惣菜や袋詰めカット野 菜など,最小限の加工で利用されるケースが多い8, 17). このような利用では,食品衛生学的な安全性を確保する ことは当然であるが,品質を保持し,鮮度保持期間を延 長することも極めて重要である4). 地方野菜であったミズナは,急速に普及したため,他 の主要作物と比較して微生物学的な知見は少ない.食品 衛生学的な観点からのミズナの微生物調査はすでに行わ れており,腸管出血性大腸菌やサルモネラ属菌など食中 毒菌の汚染実態調査が行われているほか8),一般生菌数 や大腸菌群数といった一般的な衛生指標については報告 がある8, 13, 18).しかしながら,鮮度保持につながる腐敗 原因菌に関する具体的な情報は,現時点でわれわれが知 る限りでは見られない.同じ葉物野菜であるレタスやホ ウレンソウでは細菌叢中の腐敗原因菌が特定されること によって,腐敗メカニズムや汚染経路の解明が進んでお り4),ミズナにおいても同様のアプローチが行われるこ とで,効果的な微生物制御法につながる知見が得られる と期待される. 近年,次世代シーケンサーの普及とともにサンプル中 の細菌叢の菌種構成を明らかとする16S rRNAメタゲノ ム解析が確立された.本手法は,これまでの腐敗原因菌 の特定で多く用いられてきた菌株の分離および性状試験 による同定というアプローチと比較して,難培養性細菌 も含めて評価できることや,多くの時間と手間を省略で きるという点で利点がある14).以上より,本調査では, ミズナの貯蔵期間中での細菌叢の挙動を16S rRNAメタ ゲノム解析によって調べることにより,その主となる腐 敗原因菌を特定し,鮮度保持期間の延長ならびに微生物 制御法の開発に資する知見を得ることを目的として行っ た. 材料および方法 1. 検 体 2019年4月から7月にかけて神奈川県内のスーパー マーケット2店舗にて購入したミズナを使用した.ミズ ナは1∼2袋を1ロットとして3ロット(茨城県産2生産 者2ロット; 千葉県産1生産者1ロット)を使用した. 切断面からの腐敗を観察するため,根本から1 cmを切除 した後,各ロットを3束に分け,チャック付きのポリプロ ピレン製の袋に入れて密封し,20℃下で0, 72, 168 hrの 貯蔵を行った.貯蔵後,切断面から9 cmまでを3 cmご † 連絡先 TEL: 0466‒84‒3972 E-mail: [email protected] 1 〠252‒0880 神奈川県藤沢市亀井野1866
とに切断および採取した.採取したサンプルを計量し, 9倍量 (v/w) の0.85% NaCl 生理食塩水を加えてスト マッキング処理を行った.その後,得られた懸濁液を生 菌数測定と16S rRNAメタゲノム解析に供した. 2. 生菌数測定 各検体のけん濁液を0.85% NaCl 生理食塩水を用いて 段 階 希 釈 を 行 っ た 後,Trypticase Soy Agar (BD社; New Jersey, USA) に塗抹した.30℃下で48 hrの培養 を行い,コロニー数を測定した.
3. 16S rRNAメタゲノム解析
各検体の懸濁液1 mlよりDNeasy Blood & Tissue Kit (Qiagen社; Venlo, the Netherlands) を用いてDNA抽
出を行った.抽出されたDNAを鋳型として16S rRNA V1‒V2領 域 をPCR増 幅 し5),MiSeq Reagent Kit v2 (500 cycles) (Illumina社; California, USA) を利用して MiSeq (Illumina社) によるDNAシーケンシングを行っ た.得られたリード配列について,Qiime2 pipelineに よる各リードの同定を行った2, 15).同pipelineにてサン
プル毎に全リード数に対する各operational taxonomic units (OTUs)のリード数から各OTUsのサンプル中の 細菌叢における構成比率を明らかとした.その後,サン プル間で各OTUsの菌種構成比率について主成分分析を 行った. 4. 統 計 解 析 生菌数および16S rRNAメタゲノム解析によって明ら かとされたサンプル内の菌種構成比率に対しては,統計 解析処理ソフトウェアRを用いて統計解析を行った16). 生菌数については,その挙動に影響を及ぼす要因を明ら かとするため,「貯蔵時間」と「切断面からの距離」に 対して二元配置分散分析を行った.その後,二元配置分 散分析によって有意差の示された要因(有意水準5%) についてBonferroni法による検定を行った. 菌種構成比率に関しては,主成分分析の結果において 第1主成分 (PC1) への因子負荷量が上位/下位5種の OTUsの構成比率について,その挙動を明らかとするた めに貯蔵時間の異なるサンプル間で一元配置分散分析を 行い,有意差が示されたOTUs (有意水準5%) につい てBonferroni法による検定を行った. 結 果 1. 生菌数の推移 168 hrの貯蔵後において,切断を行った断面は褐変し ていたが,それに続く茎部に関しては褐変および組織の 軟化等は見られなかった.また,葉においては一部で黒 ずんだ変色と組織の軟化が見られた(data not shown). 切断面からの距離が遠い部位程,この変色した葉の割合 は大きかったが,切断面からの距離の異なるサンプルの 間で有意差は見られなかったことから( =0.22),茎葉の 変化は,細菌よりも植物組織による自己消化作用や酵素 的反応であることが示唆された(Fig. 1). 生菌数について,貯蔵時間と切断面からの距離に対し て二元配置分散分析を行った所,貯蔵時間に関してのみ 有意差が見られた(有意水準1%).また,貯蔵時間と 切断面からの距離の間で交互作用は認められなかった ( =0.99). そ こ で, 貯 蔵 時 間 の 異 な る サ ン プ ル 間 で Bonferroni法による検定を行った所,貯蔵時間の増加に 伴って有意に生菌数が増加することが確認された.貯蔵 前では6.7±0.8 Log10 cfu/g (mean±SD) であった生菌
数は,72 hrの貯蔵後には7.8±0.4 Log10 cfu/g, 168 hrの
貯蔵後では8.6±0.5 Log10 cfu/gに増加した (Fig. 1).
2. 菌種構成の変化
16S rRNAメタゲノム解析では最低2,061, 最大30,902,
Fig. 1. Behavior of viable counts in during stor-age under 20℃.
Each bar at the storage time point indicate the viable counts of the part of from the cut section; black bar: 0‒3 cm, left hatched bar: 3‒6 cm, white bar: 6‒9 cm. Error bars indicate standard deviation. -value were calculated by Bonferroni-correction between the storage time points using R16).
Fig. 2. PCoA plot of composition of microflora.
Plot shapes showed the part of from the cut section; circle: 0‒3 cm, square: 3‒6 cm, trian-gle: 6‒9 cm. Plots belonged in same lot and same part were connected by arrow according to time series (0→72 hr, 72→168 hr).
平均8,727のリードが得られた.また,72 hr貯蔵後の切 断面から0∼3 cmの1サンプルのみシーケンスデータを 得ることができなかった.そのため,そのサンプルを除 いた26サンプルの菌種構成比率について主成分分析を 行った (Fig. 2).同ロットおよび同切断面からの距離の サンプルの菌種構成比率の変化を貯蔵時間の経過に準じ て追った場合,各プロットは貯蔵前の時点では大きく分 散している一方で,貯蔵時間の経過に伴ってPC1軸で 正の方向へ収束した.このことから,貯蔵前ではサンプ ル毎に菌種構成にばらつきがあり,貯蔵によって菌種構 成が特定の構成比に収束することが示された.また,こ れらの菌種構成比率の変化も生菌数と同じく切断面から の距離は影響していないことが示された. 3. 菌種構成比率を変化させる主要菌種 前項の菌種構成比率の変化の解析において貯蔵時間の 増加に伴ってPC1軸に対して正の方向へ菌種構成が変 化したことから,PC1に対する因子負荷量の上位および 下位の各5種のOTUsについて,貯蔵時間の間で一元配 置分散分析を行った (Table 1).その結果,PC1に対す る 因 子 負 荷量 が 正 のOTUsに お い て は,OTU0207と OTU0352にて貯蔵時間によって構成比率が変化してい る可能性が示された ( < 0.05). OTU0207とOTU0352について貯蔵時間の間での構成 比率の変化を調べた結果,両OTUsは,貯蔵時間の増加 によって構成比率が増加することが確認された (Fig. 3). これらのOTUsの挙動について見た場合,OTU0207は 貯蔵時間0 hrから168 hrにかけて直線的に構成比率が増 加しているのに対して,OTU0352は貯蔵72から168 hrに かけて構成比率が増加することが示された.なお,SIL-VA databaseよりOTU0207は sp., OTU0352は sp.と同定された15). 考 察 市販の生食用葉菜類における一般生菌数は,その種に もよるが,5.5 Log10 cfu/g程度であるとされている21). 対して,本調査でのミズナの一般生菌数は市販されてい る時点で6.7±0.8 Log10 cfu/g (mean±SD)であり,他の
葉菜類と比較してやや高い結果となった (Fig. 1).これ は,ミズナが細い葉茎が密集した形態を有しており1), 他の葉菜類と比較して重量あたりの表面積が多いことに 起因すると推察される.ただし,本調査に用いたミズナ は,市販されているものであり,一般生菌数は,室温を 想定した20℃下で1週間の貯蔵で約2 Logの増加が見ら れたことから,収穫から販売までの流通過程において増 加した可能性があることは考慮する必要がある.また, 本調査では通常の加工過程で行われる洗浄処理を加味 していないが,弁当および惣菜の衛生規範にて,生野 菜等の未加熱処理のもので望ましいとされる生菌数 6.0 Log10 cfu/g以下を満たすためには,他の野菜と同等 もしくはそれ以上の十分な洗浄と良好な保管条件が必要 であると考えられる9). ミズナは草丈が50cm以上になる野菜であり,ほとん どの場合でカットして利用される.植物組織の切断は,
Table 1. OTUs which showed higher or lower roading factor for PC1.
OTUs Roading factor
(PC1)
Number of detected
samples* Composition rate One-way ANOVA Identification†
0 hr 72 hr 168 hr 0 hr 72 hr 168 hr -Value OTU0076 −0.25 4/9 4/8 6/9 7.9±15.8% 2.1±2.4% 1.7±1.4% 0.36 sp. OTU0571 −0.18 1/9 1/8 0/9 3.3±9.3% 0.2±0.6% 0.0±0.0% 0.43 spp. OTU0010 −0.15 2/9 1/8 0/9 2.9±7.7% 0.3±0.7% 0.0±0.0% 0.41 sp. OTU0246 −0.13 2/9 1/8 1/8 2.8±7.6% 0.0±0.1% 0.0±0.0% 0.38 sp. OTU0138 −0.10 1/9 0/8 1/8 1.8±5.0% 0.0±0.0% 0.0±0.1% 0.41 sp. OTU0207 0.13 6/9 8/8 9/9 4.3±4.2% 6.0±3.4% 9.5±4.1% 0.04 sp. OTU0249 0.08 4/9 6/8 5/9 0.6±0.8% 2.2±2.9% 4.9±5.6% 0.09 sp. OTU0352 0.08 7/9 8/8 9/9 3.9±4.1% 2.3±1.8% 6.6±3.1% 0.04 sp. OTU0717 0.07 6/9 6/8 9/9 1.9±2.3% 3.5±2.6% 2.9±3.2% 0.52 sp. OTU0713 0.06 6/9 8/8 8/9 8.2±9.6% 3.2±1.3% 2.9±2.1% 0.15 sp.
*; Number of detected samples per number of total samples.
†; Identification was based on 16S rRNA V1‒V2 region.
Fig. 3. Boxplot of composition rate of OTU0207 and OTU0352 in the microflora.
A) OTU0207, B) OTU0352. -value were calculat-ed by Bonferroni-correction between the storage time points using R16).
細胞内容物の流出や微生物の侵入などを引き起こし,腐 敗を促進することはよく知られており4),本調査では切 断面からの腐敗を調査するため,切断面からの距離ごと に分けて細菌の挙動を調べた.結果として,生菌数およ び菌種構成の両方において切断面からの距離による影響 は見られなかった.植物は切断面にカルスと呼ばれる癒 傷組織を形成することが知られており,カルス形成が切 断面からの腐敗を抑制した可能性が考えられる23) .ま た,ミズナを含むアブラナ科の植物は組織の破壊によっ てグルコース配糖体であるグルコシノレートからイソチ オシアネートを生成する10).特にミズナに多く含まれ るグルコシノレートであるグルコナピンのイソチオシア ネートは,黒腐病の原因となる に対する抗菌活性が報告されている22).以上より, ミズナの切断面のカルスによる癒傷および生成されたイ ソチアシアネートによる抗菌効果によって切断面からの 腐敗が抑制されたと推察される. 切断面からの距離にかかわらず,貯蔵時間の増加に 伴って生菌数が増加したことから,ミズナの葉茎表面で 全体的に細菌の増殖が起こったと考えられる (Fig. 1). また,貯蔵時間の増加に伴ってミズナ中の細菌叢の菌種 構成は収束し (Fig. 2),それを推進した菌種はOTU0207 ( sp.) とOTU0352 ( sp.) であっ た (Table 1, Fig. 3). 属は,根粒菌として知 られているが,一方で,植物に腫瘍を引き起こす種も内 包した属である3).このことから,OTU0207がミズナ に対して高い腐敗活性を有している可能性が考えられる が,現時点では 属の野菜に対する腐敗活性 は明らかとされておらず,さらなる調査が必要である. 一方,OTU0352が同定された 属は,野菜 の腐敗に関与する細菌としてよく知られている20).興 味深いことに,OTU0352の顕著な構成比率の増加は貯 蔵72 hr以降に発生した.自身以外の微生物が産生する ペクチナーゼやセルラーゼなどによる植物組織バリアの 破壊によって,植物組織への侵入が可能となる例が報告 されており19, 20),OTU0352も植物組織の分解が進行す ることによって急激な増殖が可能となる菌種であると推 察される. 本調査で使用したミズナは,3ロットと少数であり, 得られた知見を一般化するためにはより多くの調査が必 要である.だが,われわれの知る限り,本調査はミズナ の貯蔵中における腐敗細菌の挙動を解析した初の事例で あり,また,本調査結果において顕著な増殖を示した菌 種はミズナの品質劣化において少なくない影響を有して いると推察される.以上より,本調査結果にて明らかと された細菌叢の挙動および示唆された腐敗細菌の特性の 解明により,ミズナの貯蔵および品質保全の最適化が図 られることが期待される. 文 献 1) 青葉高: ツケナ類の品種生態と作型.野菜園芸大百科 第2版 17 ハクサイ・ツケナ類・チンゲンサイ・タア サイ.農文協編,p. 225‒226. 農村漁村文化協会,東京 (2004).
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