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甲府における酸性沈着物の計測 利用統計を見る

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Academic year: 2021

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松 本   潔

北 村 梨 紗



坂 井 美 紗

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5LVD.,7$085$

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1.緒言 11.酸性沈着物  大気中の水溶性気体成分や微粒子(エアロゾル)は、降水により洗浄され地表へと降下する。また 降水によらずとも、重力や風の影響などにより大気中成分は地表へと降下する。大気から地表への物 質の降下は沈着ともよばれ、降水によるものを湿性沈着、降水によらないものを乾性沈着とよぶ。い ずれも、大気にとっては物質の除去経路となり、地表の生態系からみれば物質の供給経路である。  大気からの物質の沈着に関しては、酸性沈着物に関する研究が広く行なわれてきた。これは、先進 諸国において大気汚染による公害問題が大きな社会問題となった当初から酸性沈着物の環境影響が広 く問題視されてきたことに加え、1970年代から80年代にかけて欧米諸国で広く確認された森林衰退の 原因として酸性沈着物が注目されてきたためである。  酸性沈着物の議論においては、硫酸イオン(6242)と硝酸イオン(123)が注目される。降水 の酸性化への硫酸(+2624)と硝酸(+123)の寄与が大きいことに加え、乾性沈着においても、 +2624、+123、その前駆気体である二酸化硫黄(622)や窒素酸化物(12[)が重要な酸性物質だか らである。また、アンモニウムイオン(1+4)も注目される。アンモニア(1+3)は大気中でほぼ唯 一といってよい塩基性の気体であり、降水や乾性沈着物の中和に寄与するが、地表に沈着後は硝化に よって123となり、土壌の酸性化に関与する。また、後述するように窒素飽和にも寄与するため、酸 性沈着物の環境影響の議論において大変重要な成分である。  産業革命以降、エネルギーの使用量と食糧の生産量は飛躍的に増大してきたが、これは化石燃料や 化学肥料の使用量の増大によるところが大きい。その結果、大気中への622、12[、1+3の放出量は 増大し、酸性沈着物の沈着量も増大してきた。酸性沈着物の沈着量の増大が引き起こす環境影響は様々 ある。直接的なものとしては、呼吸器疾患など人体の健康への影響を挙げることができる。国内にお いても、1960年代を中心に四日市ぜんそくに代表される健康被害が大きな社会問題となった。このよ うな問題は、国や地域によっては今なお深刻な状況にあるが、公害対策に一定の成果の得られた先進 諸国においては、現在、酸性沈着物のより長期的な負荷による生態系への影響が懸念されている。  酸性沈着物の地表への負荷は、土壌の酸性化を引き起こすと考えられている。その結果、毒性の高 いアルミニウムイオンの溶出や植物の生長に不可欠なカルシウムやマグネシウムの溶脱による流亡を 引き起こし、土壌生態系の崩壊や樹勢の低下による森林衰退につながるとの指摘がなされている。ま た、酸性沈着物によってもたらされる123や1+4といった窒素成分は、栄養分として利用可能な固 定態窒素成分として生態系の物質循環に組み込まれる。元来生態系は窒素が欠乏した状態にあること が多く、これら固定態窒素の負荷は生態系における生産の活発化につながるが、その過剰な負荷は、 生態系に様々なダメージを与えることが指摘されている。例えば、植物体内における栄養分のバラン 山梨大学教育人間科学部

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スを崩し、光合成産物の分配に影響を及ぼし、植物の生長をかえって低下させる等の影響が指摘され ている。更には過剰な窒素分が土壌の酸性化や渓流水の水質汚濁を促すなど、窒素飽和とよばれる一 連の様々な問題を引き起こすと考えられている。また、これらの窒素成分が海洋へ沈着することによ る海洋生態系への影響も考えられる。これら諸問題は長い時間をかけて顕在化する可能性も指摘され ており、長期的な監視が必要である。 12.酸性沈着物の観測  酸性沈着物による環境影響が懸念されるにつれ、その観測も行なわれてきた。日本では環境庁(当時) による第1次酸性雨対策調査が1983年度に始まり、今日まで日本国内の多くの地点において酸性沈着 物のモニタリングが継続的に行なわれている。また、東アジア地域において国際協調に基づく酸性雨 対策を推進するための東アジアモニタリングネットワーク(($1(7)による酸性沈着物のモニタリ ングが、1998年度から10カ国の参加により試行稼働、2001年度から本格稼働し、長距離輸送され易い 酸性沈着物の東アジアスケールでのモニタリングが継続的に行なわれている。  このように酸性沈着物の観測は広域的に行なわれてきているが、その一方で観測データの不十分さ も指摘される。沈着という現象は局地的な因子の影響を強く受け、またその生態系等への影響も局地 的な因子に大きく支配される。例えば、神奈川県の丹沢大山における酸性沈着物の観測結果1),2),3) からは、同じ山においても標高によって或いは斜面の方角によって酸性沈着物の沈着量が大きく異な ることがうかがえる。同地域ではブナ林の衰退が指摘され、酸性沈着物の影響についても議論されて いるが、このような生態系への影響を理解するには、沈着量の詳細なマッピングが必要であるといえ る。 13.本研究の目的  山梨県は、周囲を山に囲まれた地形ゆえ大気汚染物質が滞留し易く、また風系によっては首都圏か らの気塊の移流を受け易い。従って、大気汚染物質の影響を受け易い地域と考えられる。例えば環境 省報道発表資料4)によると、2001年度から2010年度までの10年間の光化学オキシダント注意報等の 県別発令延日数の累積日数は、山梨県においては89日であり、これは関東1都6県と大阪府に続いて 全国で9番目である。特に年間12日を記録した2006年度は、東京都、大阪府、埼玉県、神奈川県に次 いで全国で5番目に多かった。また浮遊粒子状物質に関しても、1996年度から2005年度までの10年間 の甲府における粒子質量濃度は、横浜や川崎など南関東地域の一般環境大気測定局での測定値と同レ ベルであるとの報告もある5)  しかし山梨県における酸性沈着物の沈着量に関する報告例は少なく、1970∼80年代の断続的な調査 報告以外はほとんどない。近年では2009年度の1年間の調査例6)などに限られており、実態の把握 には不十分である。筆者は、山梨県甲府市において湿性沈着物と乾性沈着物とを合わせた全沈着物を 2010年度より継続的に採取し、主要イオン成分の沈着量を計測し、その季節的変動性や大気中濃度と の関係、乾性沈着量と湿性沈着量の割合などの解析を行っている。本稿では特に酸性沈着物に注目し、 1年間の観測データより得られた沈着量とその季節変動に関する初期知見を報告する。 2.研究方法 21.試料採取地点及び期間  山梨県甲府市に位置する山梨大学工学部キャンパス内の建屋屋上(地上約17P)において、全沈 着物の採取を行った。採取地点は市の中心部から北に約2NP離れた住宅地に位置する。試料採取は、 2010年5月から概ね1週間間隔で連続的に行っている。本稿では、2010年6月から2011年5月までの

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試料の結果について報告する。 22.試料採取方法  全沈着物の採取は、口径70FPのポリサルフォン製漏斗に混合セルロース製メンブレンフィルター ($100$047$、外径47PP、東洋濾紙)を装着し500P/のポリプロピレン製褐色ボトルを接続したも のを用いた。褐色ボトルには微生物活性を抑えるために予めチモールを004J入れておいた。漏斗の 上端は、建屋屋上の床面からおよそ14Pの位置とした。 23.分析方法  試料の採取が終了した後、50P/超純水で漏斗を洗浄し、洗浄液を装着してあるメンブレンフィ ルターで濾過し褐色ボトル内の試料と混合させ全沈着物試料とした。その液量をメスシリンダー で計測後、一部を分取し直ちにS+と電気伝導度を測定した。残りは37)(メンブレンフィルター (',60,&13+3、 孔 径045μP、 東 洋 濾 紙 ) で 濾 過 後、 主 要 イ オ ン 成 分(1D、1+ 4、.、0J2、 &D2、&O、122、123、6242)をイオンクロマトグラフ(';120、',21(;)にて分析した。 3.結果と考察 31.甲府における主要イオン成分の全沈着量  湿性沈着物と乾性沈着物とを合わせた全沈着物中の主要イオン成分の2010年6月から2011年5月ま での年間沈着量を表1に示す。沈着物中には海塩由来の6242が含まれているため、表中には1Dを海 塩指標として算出した非海塩由来6242(QVV6242)の値も示した。なお、この期間の甲府地方気象 台における降水量は12925PPであった。佐々木ら6)が2009年度に甲府市の山梨県衛生環境研究所に おいて行なった同様の計測からは、QVV6242、123、1+4の年間沈着量としてそれぞれ092、100、028 JP2が得られており、本研究と比較してQVV62421+4の沈着量が少ない傾向にある。1D&D2 どの他イオンの沈着量にはあまり差がなく、この2成分のみ本研究で高い沈着量が得られたといえる。 試料採取場所が異なるため局地的発生源を持つ大気汚染物質の影響に違いが生じた可能性が考えられ るが、そもそも観測した年が違うため単純には比較できない上観測データも不十分であり、その理由 の検討は今後の課題としたい。  神奈川県内の複数点において1997年から5年間全沈着物の採取を行なった小山7)の報告によると、 QVV6242、123、1+4の年間沈着量はそれぞれ、横浜市中心部では350、260、072JP2、県西部の 小田原では216、223、067JP2であった。また埼玉県8)によると、県北部の熊谷及び加須における 2009年度のQVV6242、123、1+4の年間沈着量は、それぞれ194及び206JP2、276及び270J P2、107及び135JP2であった。一方環境省9)によると、($1(7観測点において2003∼2007年度に 行なわれた降水及び大気の分析結果から見積もられた非海塩由来硫黄の全沈着量は、離島を除いた地 点で最も多かった伊自良湖で年間173JP2、最も少なかった佐渡関岬で年間134JP2、一方亜硝酸 態窒素を除く窒素の全沈着量は、最も多かった伊自良湖で年間182JP2、最も少なかった八方尾根で 年間105JP2であった。本研究で得られた全沈着物中非海塩由来硫黄及び亜硝酸態窒素を除く窒素の 沈着量は、それぞれ076及び081JP2となる。本研究で得られた甲府における酸性沈着物の沈着量は、 表1.全沈着物中主要イオン成分の年間沈着量(g/m2/yr)

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関東隣県や日本国内でのこれらの報告値と比較すると、やや低い水準であったといえる。 32.甲府における固定態窒素沈着量の季節変動と窒素飽和への影響  沈着物中の固定態窒素成分としては123、122、1+4を考える必要がある。この中でも量的には 123と1+4が重要である。近年の研究から大気中に生物利用可能な成分から成る有機態窒素化合物 が有意な濃度で存在することが指摘されているが10),11)、本研究では計測を行っていないため、ここ では上記の無機態窒素成分にのみ着目する。  図1には、硝酸態窒素(1231)、亜硝酸態窒素(1221)、アンモニア態窒素(1+41)の月別 沈着量の和を、降水量とあわせて示した。図中の破 線は、欧州での観測から窒素飽和の閾値と考えられ ることの多い10NJ1KD\U12)に相当する値である。固 定態窒素成分の月別沈着量は、00563∼148NJ1KD の範囲内にあり、夏季に沈着量が増大する傾向を示 した。同様の季節変動はQVV6242にもみられ、また 佐々木らの報告6)においても認められる。これは夏 季に降水量が多く湿性沈着量が増大する影響が大き い。 ま た、123と1+4は 大 気 中 で は 気 温 の 高 い 夏 季にエアロゾルではなくガス態として存在する比率 が高まることも一因と考えられる。一般にガス態の +123と1+3は、エアロゾル中の硝酸塩、アンモニウ ム塩に比して乾性沈着速度が大きいためである13), 14)  2010年6月から2011年5月までの1年間の窒素沈 着量は834NJ1KDであり、これは上記の窒素飽和閾 値を超えてはいない。しかし上述したように、大気 中には本研究で観測していない有機態窒素化合物が 有意な濃度で存在することが指摘されており、その 降水中濃度は全窒素のおよそ20∼40を占めるとの 報告もある10)。更に、甲府盆地を取り囲む山林地で は試料採取地点より大きい沈着量も予想される1),2),3)。今後、有機態窒素成分の計測や周辺の山林地 での観測も必要と考えられる。 4.結論  2010年6月から2011年5月に甲府において採取された全沈着物中のQVV6242、123、1+4の年間 沈着量は、それぞれ227、128、067JP2であり、関東隣県や日本国内での報告値と比較すると、や や低い水準であったといえる。  固定態窒素成分(1231、1221、及び1+41)の月別沈着量は、00563∼148NJ1KDの範囲内 にあり、夏季に沈着量が増大する傾向を示した。夏季に降水量が多く湿性沈着量が増大する影響が大 きいが、123と1+4が気温の高い夏季に大気中で乾性沈着速度の大きいガス態として存在する傾向 にあることも一因と考えられる。観測期間中の固定態窒素の年間沈着量は834NJ1KDであったが、本 研究で計測していない有機態窒素化合物の存在や、甲府盆地を取り囲む山林地ではより大きい沈着量 が予想されることから、この地域での窒素負荷が将来周辺の森林生態系に窒素飽和をもたらす可能性 図1.2010年6月から2011年5月までの月別 の固定態窒素(NO3--N、NO2--N、NH4+-N) 沈着量(下)、及び月別降水量(上)。下図 中の破線は、欧州での観測から窒素飽和の 閾値と考えられることの多い 10kgN/ha/yに 相当する値。上図に示した降水量は甲府地 方気象台の値。

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も考えられ、継続的かつ広域的な監視が必要といえる。 謝辞  山梨大学大学院医学工学総合研究部の小林拓准教授、同大学院医学工学総合教育部の石井勇希氏、 山本裕也氏、同大学教育人間科学部の金聖彬氏、橋本直樹氏には、試料の採取及び分析において協力 を頂いた。記して謝意を表する。 引用文献 1)0,JDZD.0DWVXPXUD+2NRFKL+LJKIUHTXHQF\DQGODUJHGHSRVLWLRQRIDFLGIRJRQKLJKHOHYDWLRQIRUHVW (QYLURQPHQWDO6FLHQFHDQG7HFKQRORJ\3616(2002) 2)井川学,平成15∼18年度科学研究費補助金(基盤研究$,15201008)(「酸性霧の樹冠への沈着から森林 衰退までのプロセスの解明と森林再生プログラムの検討」,研究代表者井川学)研究成果報告書,S13110 (2007) 3)松本潔,井川学,大気汚染と森林,低温科学68,6168(2010) 4)環境省,報道発表資料,KWWSZZZHQYJRMSSUHVVLQGH[SKS 5)清水源治,吉澤一家,石井洋亨,高橋照美,日高照泰,山本敬男,小鳥居哲,堀内達,南関東から見た山 梨県内の630の汚染状況,山梨衛公研年報50,5560(2006) 6)佐々木裕也,辻敬太郎,清水源治,近年の山梨県における酸性降下物の降下量について,山梨衛公研年報 53,7576(2009) 7)小山恒人,神奈川県における酸性降下物の経年的動向(第2報),神奈川県環境科学センター研究報告 25,8592(2002) 8)埼玉県,平成21年度大気環境調査事業報告書,S83114(2011) 9)環境省,酸性雨長期モニタリング報告書(平成15∼19年度),S1548(2009) 10)6(&RUQHOO7'-LFNHOOV-1&DSH$35RZODQG5$'XFH2UJDQLFQLWURJHQGHSRVLWLRQRQODQGDQGFRDVWDO HQYLURQPHQWVDUHYLHZRIPHWKRGVDQGGDWD$WPRVSKHULF(QYLURQPHQW3721732191(2003) 11)%/3HLHUOV+:3DHUO7KHELRDYDLODELOLW\RIDWPRVSKHULFRUJDQLFQLWURJHQGHSRVLWLRQWRFRDVWDOSK\WRSODQNWRQ /LPQRORJ\DQG2FHDQRJUDSK\4218191823(1997) 12)5):ULJKW-*05RHORIV0%UHGHPHLHU.%ODQFN$:%R[PDQ%$(PPHWW3*XQGHUVHQ+ +XOWEHUJ2-.M|QDDV)0ROGDQ$7LHWHPD1YDQ%UHHPHQ+)*YDQ'LMN1,75(;UHVSRQVHRIFRQLIHURXV IRUHVWHFRV\VWHPVWRH[SHULPHQWDOO\FKDQJHGGHSRVLWLRQRIQLWURJHQ)RUHVW(FRORJ\DQG0DQDJHPHQW71163169 (1995) 13)0&(YDQV6:&DPSEHOO9%KHWKDQDERWOD1'3RRU(IIHFWRIVHDVDOWDQGFDOFLXPFDUERQDWHLQWHUDFWLRQV ZLWKQLWULFDFLGRQWKHGLUHFWGU\GHSRVLWLRQRIQLWURJHQWR7DPSD%D\)ORULGD$WPRVSKHULF(QYLURQPHQW38 48474858(2004) 14)$06PLWK:&.HHQH-50DEHQ$$33V]HQQ\()LVFKHU$6WRKO$PPRQLDVRXUFHVWUDQVSRUW WUDQVIRUPDWLRQDQGGHSRVLWLRQLQFRDVWDO1HZ(QJODQGGXULQJVXPPHU-RXUQDORI*HRSK\VLFDO5HVHDUFK112 '10608GRL1010292006-'007574(2007)

参照

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