ミツバ チ科 学 19(1):23-26 HoneybeeScience(1998)
ローヤルゼ リーの社会 医学 的意義
ミツバチが産生する物質の中で,最 も広 く人 類 に利用されているものはハチ ミツであった. しか し,養蜂技術の進歩 により女王蜂 しか摂取 できなかったローヤルゼ リーは,現在では一般 人にも比較的用意に手 に入れ られるほど大量に 採取できるようになった. この物質の効能効果 についてはまだ研究,実証 の必要があると考え られるが,社会的にはローヤルゼ リーの未知の 効能に大 きな期待があるの も事実である.そこ で,本論文ではローヤルゼ リーの社会医学的意 義 について述べてみたい.Ⅰ
.日本の人 口構成の変化 とローヤ
ルゼ リー
ローヤルゼ リーが注 目を浴びるきっかけにな ったのは, ローマ法王が ローヤルゼ リーの服用 後奇跡的に回復 したことと言われている.近代 医学が まだ発展途上 であ ったキ リス ト教国で は, これほどインパク トのある逸話 はないと言 えそうだが, これがそのまま現代の日本社会で もローヤルゼ リーの効能を証明する実話の一つ として広 く伝え られ受 け入れ られている. しか し,現代 日本の医学界は高度な分析技術 と科学 的な論証 により,治療効果を証拠だて理論を積 み上げる近代医学の考え方 を基本 としており, 行政の健康に対する施策 もこれにそったもので ある. ローヤルゼ リーについて も, この効能の 根拠を現代医学の方法論 にそって解釈 し,現代 の日本社会において ローヤルゼ リーのどのよう な機能が求め られているか考えてみる必要があ る. 本邦でのローヤルゼ リーに関す る臨床研究 は 1960年代が最 も盛んであ った.当時の研究内陳 瑞東
容を文献的に検索 してみると,その研究対象 は 大 きく次の3項 目になる. (1)栄養吸収不良の症候群,(2)小児の身体 的発達遅延や栄養障害,(3)更年期障害. これは,当時の日本社会の食料事情や衛生環 境がまだ戦後の復興過程にあり,一般人,特 に 小児や学童の身体的発達遅延や栄養障害が社会 的な問題であったと考え られる.当時の社会が 医学に求めたのは急性疾患,特に結核などを中 心 とした感染症を治療することだったはずであ り, ローヤルゼ リーの研究対象 も60年代 の社 会が期待 した ものに即 して いた といえ る.ま た,当時更年期障害は医師の診療を仰 ぐ疾患で はなかった し,産婦人科で も中心的な研究課題 ではなか った.臨床の現場で更年期の訴えのあ る婦人 に対 して,
「女性の閉経 に伴 う自然の変 化であり,病気 といえるほどの状態ではない. その うちに治 るか ら, しば らく我慢が必要だ」 といった認識で対応 した医師が大勢を占めたの である. したが って,更年期障害に悩む婦人 に とっては, この症状を緩和できる方法を医薬品 以外 に求めるしか道がなか ったともいえる.そ のためにローヤルゼ リーが更年期障害の治療の 候補になったのではなかろうか ? さて, 日本社会 はこの30
年 の間に人 口構成 上大 きく変化 した.乳幼児死亡の低下 と出産数 の増加で人 口増多へ と向か っていた高度成長期 か ら,近年では中子高齢化社会の最先端を走 る 成熟期社会へ と著 しく変貌 した. この結果,栄 養の摂取不良,小児の栄養障害 といった研究課 題 はもはや過去へ と追いや られ,その代 り老化 のメカニズム,老化抑制の方法などが重視 され るようになった. この変化 の象徴が美濃部都政24 の目玉の一つにな った昭和
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年 の東京都養育 院の病院開院であろう.老化の研究 と診療を統 合 した初の公的機関の創設 は当時大 きな話題 と なり,そのころ医学部の学生であった私にも老 化専門の研究機関が 日本 に必要 となる時代が来 た ことに新鮮 な驚 きを覚 えたのを記憶 してい る. さて, この施設 は昭和61年 に東京都老人 医療セ ンターへ と発展 し,現在では名実 ともに 日本の老人医学の臨床 と学問の中心的施設 とな っている. では,小子高齢化社会の成熟社会 となった現 代 日本社会で果た してローヤルゼ リーは必要な のであろうか ? もしそ うな ら,その存在意義 はどこにあるのであろうか ? 当然 ローヤルゼ リーの存在意義 は,成長期の 社会で求め られた機能ではな く,成熟期社会で 要求 される機能でなければな らない.そこで, 成熟期社会で要求 される機能について考察を加 えてみたい.Ⅱ.
身体 の機能 システムの相 関 と ロ
ーヤルゼ リー
身体の調節機能である神経系,内分泌系,免 疫系などは相互に関連 していることが知 られて いる. これ らはつい最近 まで独立 な機能系であ ると考え られて釆たが,実際には相互 に強いネ ットワークを持 って関連 し合 っていることが明 かになった.例えば, 自律神経系に変化がある と,それが内分泌系や免疫系の機能にも影響が 及ぶ可能性があるというわけである. そこで, ローヤルゼ リーの作用が期待 される 更年期障害を例 にとって, この病態における身 体の機能 システムの相関 とローヤルゼ リーの効 果について考察 してみたい. 更年期障害で訴えの多 い 「のぼせ」症状 は女 性ホルモンの減少によって引き起 こされる.だ か ら,のぼせで悩む更年期女性に女性 ホルモ ン を投与すると, この症状 は消失 して しまう. と ころが興味あることに,女性 ホルモ ンが含 まれ ていない漢方薬で ものぼせ症状を改善す ること が可能である (陳,1998).さらに,世界的にの ぼせ症状の発生頻度を調べてみると,欧米では 閉経直後 の更年期婦人の約70%が強 いのぼせ 症状 を訴 え るのに,本邦 の婦人で は約30%程 度 しか この症状が発現 していない.人種が違 っ て も女性 ホルモ ンの血 中濃度 に差異 はないの で,人種差が症状頻度の違 いの原因ではない. つまり更年期障害 は女性 ホルモ ンだけが関与す る 病 態 で は な い の で あ る (Cheneta1., 1993). ではどのような要因が更年期障害に関係 し, また漢方薬などの効果 はどのようなメカニズム によるのであろうか ? 女性ホルモンが含 まれていない漢方薬がのぼ せに有効であることは,女性ホルモンとは異 る 物質によって症状が調節 されることを意味 して いる.つまり,実際には内分泌系に直接作用 し ていな くて も,神経系などを通 じて女性 ホルモ ンと似た作用が発現できるという訳である.莱 ′際漢方薬には自律神経系を調節す る作用がある ことは広 く認め られている. もし,漢方薬が自 律神経 を介 して更年期障害を改善 しているな ら, これはまさに神経系,内分泌系,免疫系の ネットワークを利用 していることになる. 一方で,のぼせ症状が起 こるメカニズムを研 究 しているうちに私 は興味ある事実を発見 した (Kobayashieta1.,1995).結 論 か ら先 にいえ ば,更年期障害は女性ホルモン低下 によって直 接発生す るのではなか ったのである.のぼせの 発生 は自律神経が興奮 した結果,神経末端か ら 血管拡張物質が血管に分泌 され, これがのぼせ の原因になっていたのである.女性 ホルモ ンの 作用 はこの物質が神経末端か ら過度に分泌 され ないように抑制 していたのである (陳,1996). さらに,漢方薬を服用 して更年期障害が改善 し た人の血液を調べたところ, この血管拡張物質 の濃度 は低下 していることが明 らかにな った (陳,1998).以上か ら,漢方薬 は自律神経を介 して血管拡張物質の分泌を抑制 し,女性 ホルモ ンと似た作用を発現させたのである. 日常の婦人科の診療の中では,面 白い事例に 出会 うものである.例えば更年期障害について いえば,月経が整順で,女性ホルモ ンの分泌が 正常 と考え られる婦人なのに更年期障害 とそっ図1 ローヤルゼ リーの更年期障害に対する作用の 仮説 ローヤルゼ リーはおそらく自律神経系に作用 して,女性ホルモン低下に伴い増加する神経 末端からのニューロペブタイ ド分泌員を調整 する. くりの症状 を訴 え る場合 や,65歳位 で更年 期 などとっくに通 り過 ごした と思 われ る老婦人が 更年期降の症状 を訴 え る場合 な どが これにあた る. この様 な事例が存在す ることは, まさに更年 期障害が内分泌系 と自律神経系 とのネ ッ トワー クの失調 によ り発生す る病態 であることを物語 っている. したが って,女性 ホルモ ンが無効 な 更年期障害,漢方 で も無効 な もの,女性 ホルモ ンと漢方で効果 が得 られ る更年期障害 もあ って 不思議 で はない. では, ローヤルゼ リーはど うであろ うか ? すでに ローヤルゼ リーには, 自律神経,特 に副 交換神経 を相対 的に優位 にす る作用があること が明 らかにされて来 てい るので (陳, 1986), 漢方薬 と同 じよ うに身体 の機能 システムのネ ッ トワークを利用 して,生体 の機能 を調節す る作 用があるのであろ う. そ こで更年期障害 にお いて, ローヤルゼ リー が神経系,内分泌系,免疫系 のネ ッ トワー クに どのよ うに作用す るか,私 の仮説 を図示 してみ W た (図1).
Ⅲ.
成熟期の現代 日本社会 で求 め ら
れるローヤルゼ リーの機能
先 に も述べたよ うに,成熟期 の現代 日本社会 で は老化 のメカニズム,老化抑制 の方法 な どが 重視 され,特 に老年者 での機能保持 に社会的な 関心が高 まると考え られ る. ローヤルゼ リーが 現代 日本社会で評価 され るためには, この流れ にそ った効能効果 を有 していることが重要であ ろ う. この観点か ら注 目され るローヤルゼ リーの作 用 を以下 に列挙 してみた. (1) 糖代謝 に対 す る作用 奥 田 らは脂肪細胞 を利用 した実験系で, ロー ヤルゼ リーの トラ ンス-10-ヒ ドロキ シデセ ン 酸, トランス-9-ヒ ドロキ シデセ ン酸, トラン ス ー9-オ クタ ン酸, オク タ ン酸 な どにイ ンス リ ン様作用があ ると してい る. (2) 腎臓 の血流,血圧 に対す る作用 奥 田 らは実験系 で ローヤ ルゼ リーの トラ ン ス-10-ヒ ドロキ シデセ ン酸, トランス-2-オ ク タン酸, オクタン酸 にア ンジオテ ンシン転換酵 素 を阻害す る作用があると している. (3) プ ロス タグラ ンデ ィンの産生,血栓形成 に対 す る作用 奥田 らは血液細胞 を利用 した実験系で, ロー ヤルゼ リーが トロンボキサ ンA2の生成 を阻害 す る作用があ ると してい る. (4) 細胞増殖 に対す る作用 米倉 らは培養細胞 を利用 した実験系で, ロー ヤルゼ リーに存在 してい る糖 タンパ クに細胞増 殖 を促進す る作用があると している. 以上 の研究 はローヤルゼ リーの ヒ トに対す る 機能 は従来か ら指摘 されて きたア ミノ酸, ビタ ミンなどの既知 の物質 によるもので はないこと が明確 にな った といえ る.特 に, ローヤルゼ リ ー中に最 も多 く含有 され ると考 え られ る糖 タン パ クに細胞増殖作用があ ることは注 目され る, もし, ローヤルゼ リーの糖 タンパ クが細胞 の寿 命を規定 していると考 え られ るテ ロメアなどの 遺伝子 に対す る作用があ った り,細胞 の変性 を 抑制す るよ うな作用が証 明 されれば,今後医薬26 品への開発が期待 されることになろう. それほどのイ ンパ ク トはな くて も,奥田 らの 報告か らローヤルゼ リーが生体の生化学反応を 修飾す ると考えて間違 いはない.列挙 した3項 目の作用 はそれぞれに興味深 い内容である. イ ンス リン様物質 はニ ンジンなどの生薬で証明さ れ ることが多 く,臨床的には血糖を下 げ過 ぎな いで安定化 させ, その結果,動脈硬化 の予防, 末梢神経系の機能保持,過酸化反応 の抑制など が期待 され る. ア ンジオテ ンシン転換酵素の阻 害 は腎の血流 を調節 して血圧を安定 させ るだけ でな く,血糖 の調節やプロスタグランデ ィンの 産生を抑制す る可能性がある. プロスタグラン デ ィン産生 に関わるサイクロオキ シナーゼとい う酵素反応 にローヤルゼ リーが作用す るな ら, 発癌抑制を も含 めた広 い領域での老化や変異抑 制作用が期待できるか もしれない. この意味で ローヤルゼ リーが血小板 で の トロ ンボキサ ン A2の生成 を阻害 した とい う報告 は意義深 い も のといえよ う. おわ りに ローヤルゼ リーは社会的 に医薬品 として認識 されて きたが,現在ではこの認識 はな くな って いるように思われる. その理 由はローヤルゼ リ ーの効能が不明確だか らといえよ う.一般的に は 「体 にいい らしい」 といった認識 が浸透 して いるが, これはローヤルゼ リーが栄養吸収障害 の人や更年期障害の婦人 の間で主 に服用 されて きた歴史があるか らと考え られ る. さて, この ローヤルゼ リーが将来 も社会的に 評価 され るかどうかは, ヒ トに対す る有用性が どの程度証明され るかによると考え られる.覗 在 までの研究の成果 は将来性を占えるものに達 していないが,期待性を窺 わせ るものではある 漢方薬が現代医学 の手法 により効能効果が証 明されるに したがい,最近では特 に若手医師や 欧米の医学者のなかで も評価が高 くな って きて いることを考えると,今後 の ローヤルゼ リーの 学 際的 な研究 が拡 が って い くことを期待 した い. (〒164-0012 中野区本Ⅰ町2-46-1 サ ン プ ラ イ ト ツインメディカルモール 陳瑞東クリニック) 引用文献 陳瑞東 1986.奇跡のローヤルゼリー美肌法.学陽書 房,東京.
Chen,J.T.etal.1993.Lancet342:49.
陳瑞東.1996.更年期障害これで安心 (堀口雅子編). 小学館,東京.
陳瑞東.1998.Prog.Med.18:75.
Kobayashi,T.etal.1995.J.Endocrinol.146:431
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CHEN, JU卜TUNG.Socl0-medicalsignificance of royalJelly.HoneybeeScience(1998)19(I) :23-26.JT Chen ClinlC,2-46-1,Honcho,Nakano,
Tokyo,164-0012Japan.
A beeproductofroyaljelly hasbeen ac -cepted and broadly used ashealth promoting substanceespecially in Japan Many caserep一 〇rtsorsmallretrospectivenon-randomizedpre -liminarytrialsindicatedthatroyalJellyshowed somewhatpositiveeffectin patientswith ma1 -absorptionsyndrome,climactericsymptomsor childrenwithgrowthretardationglVen0.2to2 goffrozenorfreezedriedroyaljelly.Butthese publlShed articlestodatehavebeen anecdotal and notformalclinicaltrlalswith clearlydef -ined objectives,eligibility criteria,end points and remained ofthe issue ofevaluating non respondents.
Thebio-activecomponentorroyaljellylS notfully evaluated,however,recentin-Vitro studiesdemonstratethathydroxydecenoieacid or octenoIC acid in royaljelly mightinhlblt epinephrlneinducedlipolysisorenzymeactivi -tyofangiotensinconvertingenzyme,orglyc o-protein in it stlmulates the proliferation of human monocytes.ThlSmlghtexpecttoindi -catethehealth promoting effectofroyalJelly bymaintainlngthebloodglucoseorbloodpres -surelevelwithinnormallimlL
ILisstllldifficulttoassesstheclinicaleffl -cacy ofroyaljelly aLpresent,butthereisa highexpectancyfrom peoplehavingroyaljelly toevaluatein which condltionsroyalJelly af -fects,how itworks,orthesuitabledoseand theperiodsorittotake.Thisarticleisashort review tolnrOrm thebioactivityorroyaljelly from theaspectorsocio一medicalsignificance.