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96 酸量を管理する献立を立てる際に有用なプリン体と酸生成量を同時に管理できる方法を提案することとした. 方法被験者は, 広島女学院大学生活科学部管理栄養学科の学生である. 参加者は年齢 21 歳の女性で, 2005, 2008,2009,2010 の各年度に10 名,7 名,9 名,5 名であった

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神原  彩  三浦 芳助  瀬山 一正 要  約  我々は「食物成分の操作による尿のアルカリ化 が尿酸排泄を促進する」ということを発見した. この発見を生活の場で具体化するためには,献立 をたてる段階で,食物が代謝された時に尿酸だけ でなくH+の生成量を予測することが必要不可欠 となる.Frassetto等(1998)は,食事に含まれる タンパク質(g)とK+(mEq)の比率であるP/K比 は,腎による正味の酸排泄量([滴定酸]+[NH4+] -[HCO3-])と直線的相関関係があると報告して いる.我々は,この仮説が過去4年間に得られた データと一致するか検証した.得られた結果は彼 らのデータを支持するものであった.そこで,プ リン体含有量とP/K比で分類した食物を選択する ための簡単な参照表を作成した.プリン体はすで に金子氏によって報告されたデータを使用し,P/ K比は五訂増補日本食品標準成分表を用いて算出 した.高尿酸血症予防のためによいとする食事の P/K比の境界線は,日本痛風・核酸代謝学会の治 療指針に尿路結石予防のために尿pHを6.0以上に 維持することが示されているので,尿pH6.0に相 当する一日当たりの食事のP/K比1.5とした. 緒  言  我が国の大規模調査によると,高尿酸血症を発 症している人は,500~600万人であるといわれ ている.これは,成人男性の20~25%にあたり, 特に頻度の高い30歳代の男性では,30%にも及 ぶ.さらに,高尿酸血症の若年齢化も問題となっ ており,10歳代の頻度は16.3%であると報告され ている1).高尿酸血症と密接に関連する痛風も急 速に増加している.2004年の国民生活基礎調査 では,「痛風で通院中」と回答した人が87万4千 人で,これは1995年の2.1倍,1986年の3.4倍に あたる.高尿酸血症は,痛風の要因になるだけで なく,高血圧,糖尿病,脂質異常症,慢性腎疾患, 心血管疾患との密接な関係も示唆されている2)  このような背景の中で,我々は食物を選択する ことにより尿pHをアルカリ化すると尿酸排泄量 が増えることを発見し報告した(2010)3).2011 度には尿中と血清中のクレアチニンと尿酸値を同 時に測定することによりそれぞれのクリアランス を求めた.その結果,クレアチニンクリアランス は食の変化による影響は無かったが,尿酸クリア ランスは酸性食摂取時に低下した.酸性食による プリン体負荷が増えるにもかかわらず,尿が酸性 化すると尿酸排泄が減少することを意味している (2011)4).これにより,食による尿の酸性化が尿 酸排泄を抑制することが一層明確になった.食に よる尿酸排泄量を調整する介入では,食品中の尿 酸前駆体であるプリン体負荷量のみならず酸生成 量も考慮する必要がある.食品中のプリン体含有 量については,金子氏等5)の秀でた業績があるが, 献立の段階で簡易に酸生成量の見当を付ける方法 があれば,食の介入がより行いやすくなる.  Frassetto等は食品が代謝を通じて生成する酸 性成分とアルカリ性成分が中和した後に残余の酸 が尿に排泄されることに注目し,酸生成量の簡易 計算法を提案している6).我々は今回の報告で Frassetto等の方法の妥当性について検証し,尿

高尿酸血症・痛風の食を通じた予防策の試案

受付:2011年11月4日,受理:2012年8月6日

広島女学院大学 生活科学部 管理栄養学科  Aya Kanbara, Yoshisuke Miura, Issei Seyama Key words:高尿酸血症,痛風,食の介入,予防

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  酸量を管理する献立を立てる際に有用なプリン体 と酸生成量を同時に管理できる方法を提案するこ ととした. 方  法  被験者は,広島女学院大学生活科学部管理栄養 学科の学生である.参加者は年齢21歳の女性で, 2005, 2008,2009,2010の各年度に10名,7名,9 名,5名であった.実験計画は広島女学院大学倫 理委員会の承認を得た後に実施された.実験前に は,各参加者から腎疾患等の既往が無いことを確 認し,インフォームドコンセントをとった.摂取 された食事は,尿の酸性化をもたらす食事(酸性 食)と尿のアルカリ化をもたらす食事(アルカリ 性食)の2種類とした.我々は,同じ実験目的の 下で行われた過去4年間のデータを用いて食材の 分析と尿中酸排泄量を検討した. 1.食材の選択方法  エネルギー摂取量は,被験者の年齢,身長およ び体重の平均値を用いて,ハリス–ベネディクト の式より算出した値を目標にした.2005,2008, 2009,2010年度の実際のエネルギー摂取量はそ れぞれ,1885kcal(38.5kcal/体重kg),2005kcal (39.3kcal/体重kg),2083kcal(40.1kcal/体重kg), 2035kcal(38.5kcal/体重kg)であった.食材を選 択するうえで,五訂増補日本食品標準成分表(以 後,食品成分表と呼称する)を基に,食材100g あたりの含硫アミノ酸含有量を調べた.タンパク 質源となる食品群では,魚介類,肉類,卵類に含 硫アミノ酸が多く含まれており,そのうち上位を 占め,食品100g当たりの含硫アミノ酸含有量が 600mg以上の食材を酸性食に使用し,酪農製品 や大豆製品など含硫アミノ酸含有量が食品100g 当たり300mg以下の食材をアルカリ性食に使用 した.他の食品群においても同様に,含硫アミノ 酸含有量が上位の食材を酸性食に,下位の食材を アルカリ性食に使用して献立を作成した.また, 含硫アミ ノ酸の摂取量は,酸性食でそれぞれ 25.9mmol,31.2mmol,31.6mmol,29.89mmol, アルカリ性食でそれぞれ10.3mmol,16.4mmol, 14.1mmol,15.0mmolであった.2005,2008年度に は1日ごとに肉や魚,野菜の種類を変えていたた め,1日あたりに使用する食材は統一していない が,2009,2010年度にはより一定した結果を得 るために1日あたりに使用する食材を5日間統一 した. 2.P/K比とプリン体による食材の分類  我々の研究成果を実際の生活の場で使う際に は,食材を選定する段階で,代謝後排泄される尿 のpH を予測することが重要である.  Frassetto等は,酸生成量に関わる式([有機酸] +[SO42-]-[腸管吸収アルカリ])7)の前二つの 項の内,有機酸は食事の内容によって排泄量が大 きく変化することはないので,硫酸イオン量に注 目した.タンパク質には常に10-14%の含硫ア ミノ酸が存在するので,食品の選択の仕方で量的 変化の大きなタンパク質量は尿への酸排泄量を左 右する主要因子として振舞うことになる.一方, アルカリ生成成分([腸管吸収アルカリ])として は植物性の食品に最も多く含まれる有機酸カリウ ム塩から出るK+を選択し,食事に含まれるタン パク質量(g)とカリウムイオン量(mEq)の比(以 後,P/K比と呼称する)から酸の排泄量を予測で きることを実験的に示した8).さらに,Frassetto 等は,一日当たりの食事のP/K比が0.5以上であ れば,食事のP/K比と酸排泄量の間の相関が高 いが,これを下回る場合には食物由来の酸生成量 が少なくなり,TCA回路等の代謝回転から漏洩 する有機酸の寄与が大きくなるため,食事のP/K 比と酸排泄量の間の比例関係が成立しなくなるこ とを指摘している.  そこで,過去4年間のそれぞれの食事のP/K 比を算出し,尿pHが食物由来の酸生成量による 変化であることを確認した.また,それぞれの食 事に使用した食材固有のP/K比を算出し,食材 の特徴について検討した.  食事のP/K比および食品固有のP/K比は,食 品成分表に基づいて算出した.食事のP/K比は, 1日あたりの総タンパク質摂取量(g)を総K+ 取量(mgをmEqに換算)で除して求めた.

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 表1では,食材の選択の実例として我々が献立 に使用した食材と一般的によく使用される食品に ついて,100gあたりのタンパク質(g)とK+(mEq に換算)の値からP/K比を計算し,食品群別に 表示した.  日本痛風・核酸代謝学会の「高尿酸血症・痛風 の治療ガイドライン 第2版」では,食品のプリ ン体含有量に応じて,①300mg以上を「極めて 多 い 」, ②200-300mgを「 多 い 」, ③50- 100mgを「少ない」,④50mg以下を「極めて少 な い 」 と 分 類 し て い る. こ れ に 加 え,100- 200mgを「中間程度」として分類し,P/K比と プリン体含有量の両方を考慮して食材を分類する ために表2は作成された.プリン体含有量につい ては,金子氏5)によって報告された値を引用した. 3.酸排泄量の測定項目  それぞれの食事を摂取すると同時に,午前8時 から翌朝の8時までの24時間尿を蓄積し,尿総量, pH,滴定酸を測定した.尿pHは,pHメーター (D-54 株式会社堀場製作所)を用いて測定した.  尿への酸の排泄は,リン酸とアンモニアによる緩 衝を受けたものが出てくるので,酸排泄量=([滴 定酸]+[NH4+]-[HCO3-])(mEq/日)という関係 式が成り立つ.この関係式の各項を測定及び計算し た.滴定酸は蓄積した尿から尿pHを7.4まで戻すた めに必要な0.1molNaOH量から算出した.NH4+は, 24時間尿から4mlを分取し-80℃で保存していた 試料を解凍した後に,HPLCによって測定した.尿 はHPLC用蒸留水で100倍希釈して試料とし,Bond Elut C18で濾過後にカラムに注入した.HPLCの装 置は,検出器;L-7470,脱気装置;L-5090,送液ポ ンプ;L-6200,カラム恒温槽;L-5025,データ処理 装置;D-2500(いずれも株式会社日立ハイテクノロ ジーズ)を使用し,カラム;GL-IC-C65,ガードカ ラム;GL-IC-C75G(株式会社日立ハイテクノロジー ズ),移動相;2.5mM硫酸溶液,流速;1.0mL/min, カラム温度;40℃の条件を用いた.  重炭酸量は,Henderson-Hasselbalch式(二酸 化 炭 素 の 溶 解 度 係 数=0.0309mmol/mmHg·L, PKa=6.10,PCO2=40mmHgと仮定した)9)から計算 により求めた.  これらの実測値から酸排泄量を求め,摂取され た食事のP/K比との関係を調べた.さらに,尿 pHと食事のP/K比との関係から,食事のP/K比 から尿pHの予測が可能か検討した. 4.データと統計処理  摂取した食事が尿のpHに反映され,安定する までに3日間程度かかるため3),結果は実験開始 3日目以降の3日間を平均した値を標準偏差付で 示した.t-testによる有意差検定を行い,危険率 5%未満のとき,群間に有意差ありとした.  図1では,各年度の値を区別しやすくするため, またここで取り扱う項目の3日間の値が一定であ ることから,1年度毎に平均値をプロットし,エ ラーバーで各項目の標準偏差を示した. 結  果 1.食事の P/K比および食材固有の P/K比  過去4年間のそれぞれの食事についてP/K比を 算出した.我々の取り扱ったデータではいずれの 食事のP/K比も0.5以上であり,Frassetto等の主 張によれば,食物由来の酸生成量が尿の酸排泄量 に反映する範囲内であった.2005, 2008年度には 1日あたりに使用する食材を5日間異なるものと したが,食事のP/K比は酸性食でそれぞれ1.76~ 1.99,1.32~1.42,アルカリ性食ではそれぞれ0.57 ~0.75,0.70~0.84と5日間にわたって大きな差は なかった.  表1,2において,食品群別にみると,畜肉, 魚介類にはプリン体が多く含まれるうえにP/K 比が大きい.これに対して,タンパク質源となる 豆類,牛乳は,プリン体含量が少ないうえにP/K 比が小さい.穀類は,プリン体含量が少ないが, 精製度が高いほどP/K比が高く,精白米や小麦 粉はP/K比が畜肉,魚介類と同程度である.野菜・ 堅果類(アーモンド,落花生)・海藻類は,プリ ン体含量は少なく,P/K比が非常に小さい.過去 4年間の献立に使用した食材は,酸性食ではより P/K比が大きい食材,アルカリ性食ではP/K比 が小さい食材を多く含んでいた.

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図1A 献立から算出した1日あたりのP/K比と酸排泄量との相関 1点は1年度分の3日間の平均値を示している。2005年度、2008年度は1日摂取食材を統一して いないため横軸にP/K比の誤差範囲を示した。 図1B 献立から算出した1日あたりのP/K比と尿pHとの相関 1点は1年度分の3日間の平均値を示している。2005年度、2008年度は1日摂取食材を統一して いないため横軸にP/K比の誤差範囲を示した。

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表1 食品毎のP/K比* 穀類 魚類・魚類加工品 肉類 そば粉 カキ 生ハム 玄米 ハマグリ 豚ヒレ 押麦 サワラ 牛ヒレ 胚芽米 アサリ 鶏レバー 薄力粉 ホタテ 豚カタロース 精白米 ズワイガニ 豚カタ 中力粉 ヒラメ ベーコン 強力粉 アンコウ肝 牛モモ 卵・乳製品 タラバガニ 豚ロース 普通牛乳 オキアミ フランクフルト うずら卵 ウニ 牛レバー 鶏卵 なると 牛リブロース プロセスチーズ アユ 牛カタロース 野菜類 クルマエビ ラム ネギ アイナメ 牛バラ コマツナ メバル 豚レバー ホウレンソウ アマダイ ボンレスハム ショウガ マス ウインナー にがうり マグロ 牛タン ズッキーニ アジ レバーペースト ミョウガ ブリ ササミ ピーマン タコ 鶏手羽 ナス カレイ 鶏モモ カリフラワー カツオ プレスハム シソ 大正エビ コンビーフ缶詰 オクラ アンコウ 牛・第1胃 アスパラガス サケ 豆類 ニンニク マイワシ あずき ブロッコリー サバ おから かいわれ大根 マアジ 大豆 モヤシ つみれ 豆乳 タケノコ スルメイカ 枝豆 グリンピース マイワシ(干) (干) そら豆 海藻類・調味料 サンマ 挽きわり納豆 真昆布 ウナギ アーモンド わかめ サンマ 落花生 しいたけだし 蒸しかまぼこ 木綿豆腐 はちみつ 明太子 きのこ類 醤油 ワカサギ ぶなしめじ 白みそ 竹輪 なめこ 赤みそ イクラ エリンギ コンソメ 魚肉ソーセージ えのきたけ みりん スジコ 乾ししいたけ 煮干し さきいか 生しいたけ かつお節 さつま揚げ まいたけ *P/K比は、五訂増補日本食品標準成分表に基づき、食品100g当たりのたんぱく質含有量(g) をカリウム含有量(mEq)で除して算出した。

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  2.食事の P/K比と酸排泄量および尿 pHの関係  摂取された食事のP/K比と酸排泄量との間に は,比例関係が認められた(図1A).得られた酸 排泄量とP/K比の間の直線関係は,Frassetto等 データ(腎酸排泄量(ミリ等量/日)=-10.2+54.5 (P/K比))と比較すると,我々のデータ(腎酸排泄 量(ミリ等量/日)=7.5+41.0(P/K比))は勾配 が小さく出るという小さな違いが見られた.  また,摂取された食事のP/K比と尿pHには負 の比例関係が認められた(図1B).実際の運用 には,食材の使用重量あたりのタンパク質量, K+量から,1日に摂取する全食材のタンパク質の 合計とK+の合計から献立固有の食事のP/K比を 計算する.この食事のP/K比値を図1Bの式(尿 pH=-0.5994(P/K比)+6.9245)に代入すれば 尿の酸性度が求められることになる.日本痛風・ 核酸代謝学会の「高尿酸血症・痛風の治療ガイド ライン 第2版」1)によると,尿酸結石の予防の観 点から尿pHを6.0~7.0に維持することを目標と している.図1の関係式から,尿pH6.0に相当す る食事のP/K比は1.5であった.表2では,この 値を基に食材を分類した. 表2 P/K比1.5で区分した食品のプリン体含有量による分類** < P/K≧1.5 極 め て 少 な い 昆布,ワカメ,ネギ,コマツナ, ショウガ,ニガウリ,ズッキーニ, ミョウガ,しめじ,なめこ,シソ, エリンギ,えのき,オクラ, アスパラガス,椎茸,ニンニク, はちみつ,オカラ,豆乳,枝豆,牛乳, そら豆,アーモンド,モヤシ,白みそ, 玄米,落花生,タケノコ,押麦 胚芽米,木綿豆腐,なると, フランクフルト,薄力粉,精白米, ウインナー,うずら卵,中力粉, 鶏卵,グリンピース,かまぼこ, 竹輪,強力粉,イクラ, 魚肉ソーセージ,すじこ, コンビーフ,さつま揚げ, プロセスチーズ 少 な い ホ ウ レ ン ソ ウ,ピ ー マ ン,ナ ス, カリフラワー,まいたけ, ブロッコリー,小豆,カイワレ大根, 赤みそ,そば粉 ホタテ,タラバガニ,牛ヒレ, 豚肩ロース,豚肩,ベーコン, アンコウ,豚ロース,牛リブロース, 牛肩ロース,つみれ,ラム, 牛バラ,ボンレスハム,ウナギ, 牛タン,プレスハム,ワカサギ, 牛第一胃,さきいか 中 程 度 大豆,納豆,牡蠣,ハマグリ サワラ,アサリ,ズワイガニ, アンコウ肝,ヒラメ,ウニ,アユ, クルマエビ,生ハム,アイナメ, メバル,アマダイ,マス,マグロ, 豚ヒレ,アジ,ブリ,タコ,カレイ, 牛モモ,サケ,サバ,イカ, 鶏ササミ,サンマ,鶏手羽, 鶏モモ,明太子 多 い オキアミ,カツオ,大正エビ, マイワシ,マアジ,牛レバー, 豚レバー 極 め て 多 い 鶏レバー **各欄の食品は,P/K 比の小さいものから順に記載した。 プリン体含有量︵食品 100 g あたり︶

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考  案  血清尿酸レベルの上昇には様々な要因が関与し ている10).高尿酸血症が長期間継続すると,痛風 や尿路結石の発症リスクが高まるだけでなく,糖 尿病,慢性腎臓病,高血圧,心血管疾患などを併 発する頻度が高まると言われる2,11).したがって, 症状が顕在化する前に血清尿酸値を正常範囲内に 維持することは予防的な意味で重要である.我々 の実験結果からは,食を通じた尿の酸性化が尿酸 排泄を抑制することを物語っている3).更に2011 年には,クレアチニンクリアランスと尿酸クリア ランスを測定した.クレアチニンクリアランスは 尿pHの変化の影響を受けなかったが,R(尿酸ク リアランス/クレアチニンクリアランス)が酸性 食摂取3日目に有意に低下したことは,尿の酸性 化が尿酸排泄を妨げることを更に明確にした4)  血清尿酸レベル上昇の予防や高尿酸血症の食事 療法では,プリン体の摂取量を制限することがよ く知られているが,我々はこれまでの実験結果か ら,プリン体摂取量だけでなく食物由来の酸生成 量も考慮した食事を提案する必要があると考えて いる.図1Bでは,食事のP/K比と尿pHの間に は負の比例関係が認められることから,食事の P/K比によって尿pHを予測することが可能であ ると言える.この結果を踏まえ実際に運用するこ とを考えると,対象者にいきなり実験結果の遵守 を求めると,運用上の困難に当たるであろう事が 想像できる.高尿酸血症の予防や治療における食 事は,表2において,P/K比がより小さく,プリ ン体含量がより少ない食品を選択するのが望まし い.しかし,P/K比が大きい食品群には人の嗜好 性が高いものが多いので,実際の運用では,食品 毎のプリン体やP/K比にのみ焦点を置いて制限 するのではなく,組合せを工夫することによって, 食事のP/K比とプリン体摂取量を調節すること がより現実的である.たとえば,表2の右下に分 類される肉や魚を摂取するときには,左上の欄の 野菜・堅果類(アーモンド,落花生)・海藻類を 合理的に十分量を摂取する等,出来る限り尿の pHをアルカリ化することが重要である.  当学会の治療方針では,尿路管理を目的に尿 pHを6.0~7.0に維持することが必須とされてお り,現在は薬物を使用して尿をアルカリ化してい る.しかし,薬物には様々な副作用を伴う場合も ある.食事を工夫することで尿のアルカリ化で尿 酸排泄を促進させることは,生体にとってより負 担のかからない治療となる.実験結果から得られ た関係式によると,日本痛風・核酸代謝学会の治 療指針で尿pHの目標値の下限である6.0以上に維 持するためには1日に摂取する食事の食材は,食 事P/K比が1.5以下である必要がある.これを目 安に献立を作成すると,尿pHのアルカリ化が維 持され尿酸排泄も促進されるので,高尿酸血症の 予防・治療に有効な方法になると考えられる.さ らに,このような食事の内容は,K+を多く含む 植物性食材の構成比が高くなる.従って,糖尿病, 高血圧,ガン,心血管疾患の予防のために推奨さ れる食事12,13,14)と共通した点が多く,この方法を 使えば生活習慣病の予防も併せて行えることにな り,食を通じて公衆衛生上重要な社会的貢献が出 来るのではないだろうか.  しかし,図1Aで示した食事のP/K比と酸排泄 量の比例関係が,Frassetto等のデータと比較し て勾配が小さいという違いがみられたように,1) Frassetto等は20種類の献立データから解析して いるのに対して,我々の献立の種類のデータ数が 4例であること,2)彼らのデータは年齢層が広 い男女からのものであるのに対して,我々のデー タが若年の女性から得ていること等,我々のデー タには制約がある.さらに,高尿酸血症あるいは 痛風患者が主に男性であることから,引き続きこ の実験を続け,データ数を増やすとともに男性に ついてもデータを集める必要がある.このような 制約があるとはいえ,食後の酸生成量を予測し得 ることが明らかになり,食による介入を容易にす る可能性を示し得たことは臨床医学的に意義があ ると考えている.

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文  献 1 )日本痛風・核酸代謝学会ガイドライン改定委 員会: 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライ ン(第2版) 2010年1月 2 )堤善多 , 高橋澄夫 , 井野口卓 他: 痛風患 者におけるメタボリックシンドローム.痛風 と核酸代謝32:25-31, 2008

3 )Kanbara A, Hakoda M, Seyama I : Urine alkalization facilitates uric acid excretion. Nutr J 9:45, 2010

4 )Kanbara A., Seyama I : Effect of urine pH on uric acid excretion by manipulating food materials. Nucleosides, Nucleotides and Nucleic Acids. 30:1066-1071, 2011

5 )金子希代子 : 食品に含まれるプリン体につい て ―血清尿酸値に影響を与える食品と食品 中のプリン体含量―.痛風と核酸代謝 31: 119-131, 2007

6 )Frassetto LA, Todd KM, Morris RC Jr et al : Estimation of net endogenous non carbonic acid production in humans from diet potassium and protein contents. Am J Clin Nutr 68:576-583, 1998

7 )Lennon EJ, Lemann J, Litzow JR : The effects of diet and stool composition on the net external acid balance of normal subjects.

J Clin Invest 45:1601-1607, 1966

8 )Frassetto LA, Morris RC Jr, Sebastian A: A practical approach to the balance between acid production and renal acid excretion in human. J Nephrol 19:S33-S40,2006

9 )Davenport HW, The ABC of acid-base chemistry. 5th ed. The University of Chicago Press. pp35-38, 1969.

10)嶺尾郁夫 : メタボリックシンドロームにおけ る高尿酸血症の病態意義:歴史的経緯から最 近の知見まで . 痛風と核酸代謝 32:121-132, 2008

11)Feig DI, Kang D, Johnson RJ: Uric acid and Cardiovascular risk. N Engl J 359:1811-1821, 2008

12)Buttar HS, Li T, Ravi N : Prevention of cardiovascular diseases :Role of exercise, dietary interventions, obesity and smoking cessation. Exp Clin Cardiol 10:229-249, 2005 13)American Diabetes Association. Nutritional

Principles and Recommendations in Diabetes. Diabetes Care 27: s36-s46, 2004 14)NCI Division of Cancer Prevention : Diet,

food, nutrition : http ://www.cancer.gov/ prevention/lifestyle.html#diet

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In order to materialize our recent finding - urine a l k a l i z a t i o n b y m a n i p u l a t i n g d i e t a r y compositions facilitates uric acid excretion - for the prevention of hyperuricemia and gout, an essential requirement is that one can anticipate at the stage of planning a menu how much H+ as well as uric acid would be generated from the foods being consumed. According to Frassetto et al. (1998), the P/K ratio, in which P denotes protein (in g) and K K+ (in mEq) in diets, is linearly related with net renal acid excretion ([titratable acid] + [organic acid] - [bicarbonate]).We attempted to test whether this hypothesis is applicable to our data accumulated over four years. The obtained

results support their data, albeit with just a small difference in slope. A quick and easy reference table for the sel ection of food materials was constructed using the published data for purine bodies and the values of P/K ratio referring to the Standard Tables of Food Composition in Japan, 5th revised edition. The demarcation line for preparing foods good for the prevention of hyperuricemia is arbitrarily set at a P/K ratio of 1.5. This is because the P/ K ratio of 1.5 appears to correspond to urine pH of 6.0, which is the lower target pH for the prevention of urolithiasis set by the Japanese Society of Gout and Nucleic Acid Metabolism. Aya Kanbara  Yoshisuke Miura  Issei Seyama

A plan for dietary prevention of hyperuricemia and gout

参照

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