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南アジア研究 第29号 024学会近況・増木 優衣「英語テーマ別セッションⅠ 南アジアにおけるNGO/CBO の役割についての再考」

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Academic year: 2021

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(1)南アジア研究第29号(2017年). 学・会・近・況. 英語テーマ別セッションⅠ. Reexamining the Role of NGOs/CBOs in South Asia 南アジアにおける NGO/CBO の役割についての再考. 増木優衣 本パネルは、南アジアにおける NGO(Non-Governmental Organization)および CBO(Community-Based Organization)の役割を、その草 の根レベルでの諸活動に焦点を当てながら再考することを目的とするも のであった。報告においては、とりわけ急速な都市化に伴うゴミ問題、 貧困問題、公衆衛生問題の深刻化に対して、地域社会においてローカル な NGO や CBO がいかに対処しようと試みているのかを、インドおよ びネパールの事例からそれぞれ明らかにした。司会兼コメンテーターに は、上智大学総合グローバル学部教授の田中雅子(Masako Tanaka)と、 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科教授のローハン・デ スーザ(Rohan D Souza)を迎えた。なお、報告および質疑・応答はすべ て英語で行われた。 第一報告は、伊東さなえ(Sanae Ito)に よ る Beyond Market and Government: A Case Study of Waste Management and a Community Based Organization in Nepal (市場と政府を超えて ネパールにおけ る廃棄物処理と CBO の事例から)である。伊東は、ネパールのカトマン ドゥ地域における CBO による諸活動を事例に、それが政府主導の廃棄 物処理のオルタナティブとなる可能性について人類学的観点から議論し た。従来までの廃棄物をめぐる人類学的研究においては、廃棄物処理に 携わる労働者と市場、または政府による地域社会における廃棄物処理プ ロジェクトの負の影響について焦点が当てられる傾向にあった。そこで は、地域資源の利用や社会関係の管理などにおいてキャパシティが脆弱 なネパール国家のもとで、地域社会がいかに機能しているのかについて 284.

(2) 学会近況 英語テーマ別セッションⅠ Reexamining the Role of NGOs/CBOs in South Asia. は、十分に明らかにされてこなかった。それゆえに、NGO や CBO の重 要性に目を向けること、そして、多様なアクターとの協働による廃棄物 処理の民営化をカトマンドゥ自治体に対し推奨していくことが求められ る。伊東は、CBO の事例としてパンガ環境保全社会(PWSS)による諸 活動を取り上げ、ごみの分別やコンポストに取り組むこうした試みが、 単に地域住民への啓蒙活動の達成を目標とする、政府主導の廃棄物処理 の取り組みを超えたところにあるものであることを指摘した。 CBO による一連の活動の過程では、民間セクターや政治家の介入を はじめとして、種々のアクターによる利害をめぐるコンフリクトが発生 している。しかしながら、このようなコンフリクトは、地域社会内にお けるパワーバランスを変え得るものでもある。さらに、廃棄物処理の過 程において、新たなリスクを負うことになる労働者たちが置かれた状況 にも留意する必要がある。結論として、伊東は、CBO は政府主導のシス テムのとは異なる領域で廃棄物処理に携わっているものの、それは政府 や市場に取って代わったわけではないのだということを指摘した。むし ろ、CBO は、政府や市場と交渉をするアクターであり、脆弱なネパール 国家のもとでの彼らによる諸活動は、上述のようなコンフリクト等の問 題点を孕みながらも、現代ネパールの地域社会における廃棄物処理とい う現実的な問題に直結するものとして意義のあるものであるとした。 第 二 報 告 は、佐 藤 希(Nozomi Sato)に よ る The Role of Self-Help Groups for Promoting Women Empowerment: A Case Study of Andhra Pradesh in India (女性のエンパワーメント促進のための自助グ ループの役割について インド、アーンドラ・プラデーシュ州の事例か ら)である。佐藤は、アーンドラ・プラデーシュ州を事例に女性の自助 グループ(Self-Help Groups、以下 SHG)が女性のエンパワーメントに いかに寄与し得るのかについて分析した。この問いを明らかにするため に、 (1)SHG 参加者の特徴と SHG の組織化の過程、 (2)SHG とドメス ティック・ヴァイオレンスの発生率との関連、に焦点が当てられた。従 来の研究において、節約とクレジット(融資) ・サービスに基づいて女性 を組織することが、彼女らのエンパワーメントの促進にとって最も効果 的な方法のひとつであるとされてきた。しかし、こうした自助グループ による社会経済的影響についての実証的な研究はほとんどなされてこな 285.

(3) 南アジア研究第29号(2017年). かった。また、ドメスティック・ヴァイオレンスと女性 SHG との関連に ついても、先行研究において議論の的となってきた。 佐藤の報告においては、2004年と2006年にアーンドラ・プラデーシュ 州が州内の県を対象に貧困問題を解決するための取り組みとしてスター トさせた、 Andhra Pradesh District Poverty Initiative Project(DPIP) が対象とする3県において実施された層別家計パネル調査に基づくデー タが使用された。はじめに、SHG に参加する女性たちの特徴について、 2004年および2006年の双方において、寡婦の参加率は既婚者のそれに比 べて低いことが明らかとなった。SHG のリーダー格となる女性の特徴に 関しては、相対的な学歴が高いことも明らかとなった。さらに、クレ ジットへのアクセスについて、2004年のデータにおいては所有する農地 がより広い世帯ほど、また、2006年のデータにおいては高学歴な女性の いる世帯ほど、アクセスのしやすい状況にあることが明らかとなった。 次に、SHG とドメスティック・ヴァイオレンスの発生率との関連につい ては、SHG のリーダーの世帯においてのみドメスティック・ヴァイオレ ンスが減少したことが明らかとなった。2001年と2006年のデータからは、 SHG の参加者はクレジット・サービスに容易にアクセスが可能である ことから、彼女たちのなかでドメスティック・ヴァイオレンスの発生率 が増加していることがわかった。このことは、SHG 参加女性の夫が、妻 がクレジットへアクセスすることに対して脅威を感じることにより(暴 力を行使し) 、結果的に女性が家庭のなかでより脆弱であると感じてし まうようになることを示唆してもいる。 第三報告は、Mahesh Gogate による Voluntarism and Urban Sanitation: A Study of the Clean India Mission in Varanasi City(India) (ヴォランタリズムと都市におけるサニテーション インド、ヴァー ラーナシー市におけるクリーン・インディア・ミッションの事例から) である。Gogate は、主に次の2点について議論した。すなわち、 (1)地 域社会のローカルな NGO が、インド国家主導のクリーン・インディ ア・ミッション(ヒンディー語で Swachh Bharat Abhiyan)における、 多様なアクター間の相互不信や断絶という問題にいかに取り組み対処し ているのか、そして、 (2)ソーシャル・メディアを用いた自発的な参加 への呼びかけと啓蒙活動が、ソーシャル・メディアや他のメディアにお 286.

(4) 学会近況 英語テーマ別セッションⅠ Reexamining the Role of NGOs/CBOs in South Asia. ける新たな領域の構築にいかに貢献しているのか、である。具体的には、 (a)キャンペーンにおける、社会福祉に対して倫理的に責任のある「市 民」のロールモデルの構築、そして、 (b)現代インド社会における若者 たちの位置づけをめぐる状況について考察した。 事例として、Gogate は、クリーン・インディア・ミッションの一環で、 インド北部のヴァーラーナシーにおけるローカルな NGO でヴォラン ティアとして活動する、中流階級出身で高学歴の若者たちによる、一連 の清掃活動を取り上げた。Gogate の報告における若者たちは、先行研究 において取り上げられてきたような、就職が決まるまでの期間を、単に チャイを飲んだりしながら時を過ごして待つという若者たちの事例とは 異なり、大学卒業間近の時間を、ガンジス河のガートの清掃という社会 貢献活動に積極的に携わることで過ごしている。彼らは、清掃活動をめ ぐ る 一 連 の メ ッ セ ー ジ を ソ ー シ ャ ル・ネ ッ ト ワ ー キ ン グ・サ イ ト (SNS)を用いて拡散し、自らの経験を同世代の若者たちと共有しつつ、 新たなメンバーを募っている。しかしながら、NGO が清掃活動を行う場 所には、自身の組織や活動を可視化するための形をもった宣伝手法や横 断幕などはない。NGO で活動する若者たちは、ガンジス河とガートとい う場所に対する、不可視で暗黙の愛着を共有しつつ活動に参加していた のである。それゆえ、SNS 上での共有メンバーの数は増えていくものの、 実際にガートで清掃活動に従事する参加者が新規に増えていくことは少 なく、地元の若者たちによる活動にとどまっていることが指摘された。 第四報告は、増木優衣(Yui Masuki)による The Impact of NGO Activities on Caste: Negotiating Relationships over Food Transaction in Rajasthan, India (NGO の諸活動がもつカーストへの影響 インド、 ラージャスターン州における食物授受をめぐる相互交渉)である。増木 は、ダリトに属する清掃人カーストの人びとの社会経済・文化的地位向 上を目指すインドの NGO スラブ・インターナショナル(以下スラブ) による、ラージャスターン州における諸活動に焦点を当てた。そして、 その影響によりいかに差別的なカースト間関係、具体的には食物授受を めぐる言説・実践が変容しつつあるのかを考察した。その際、カースト 間関係を、浄・不浄イデオロギーに基づくヒエラルキーの維持、あるい は公的領域における崩壊という二項対立的観点からではなく、異なる立 287.

(5) 南アジア研究第29号(2017年). 場の人びとによる相互交渉的コミュニケーションを通じた、カースト差 別をめぐる言説と実践の変容過程に着目した。 地域社会において、一方でスラブによる乾式から水洗へのトイレ・シ ステムの転換と、清掃人カーストの職業転換・社会経済的地位向上を通 じて、ムスリムや他のダリトによる清掃人カースト差別は緩和されつつ あることが明らかとなった。他方で、清掃人カースト差別の原因はもは やカーストに基づく儀礼的な浄・不浄では語られなくなったものの、そ れが近代公衆衛生的な「清潔さ・不潔さ」として語られることで、とり わけ一般カースト側からの差別が再生産されている。しかし、食物授受 をめぐる言説と実践は、スラブの職業訓練施設における住民間の日常的 コミュニケーションと清掃人カーストの生活習慣・環境の変化を通じて 変わり、差別行為の境界線は常に調整され続けていることも分かった。 具体的には、清掃人カーストと一般カーストとの関係において、手料理 の受け取りは拒まれる傾向にあるが、水、紅茶、スナック類の受け取り については実践されつつある。そこでは、一般カースト側が「清潔」な家 で提供される水を受け取ろうとしたり、清掃人カースト側が「不潔な」 仕事あるいは「不潔な」食事はしていないために紅茶やスナック類を受 け取らせようとしたりする相互交渉を通じて、授受関係の境界線がその 都度調整されていることが指摘された。 各報告に対して、コメンテーターにより次のようなコメントを受けた。 伊東の報告に対しては、カトマンドゥ地域における都市化の進展は近年 著しく、したがって廃棄物そのものを取り巻く環境も大きく変化し続け ているため、そのあたりの文脈をいかに捉えていくかが今後の課題とな るのではないかということが指摘された。佐藤の報告に対しては、主に 次の2点が指摘された。すなわち、 (1)家庭内暴力をエンパワーメント の指標として用いることについて、それが主観的なものであるというこ とを認識したうえで再度検討する必要があること、また、 (2)単に身体 的な暴力のみならず、精神的暴力や性的暴力なども含んで考えていくこ とが求められるであろう、ということである。Gogate の報告に対しては、 ガンジス河のガートの清掃活動に従事する若者たちを分析する視点に、 カーストという指標を取り入れることにで、より広い局面から彼らの活 動や社会的な位置づけを理解できるのではないかということが指摘され 288.

(6) 学会近況 英語テーマ別セッションⅠ Reexamining the Role of NGOs/CBOs in South Asia. た。増木の報告に対しては、地域社会において、調査対象の NGO 以外に 清掃人カーストのための活動を行う社会組織の有無を調べたうえで、 NGO や清掃人カーストの現地社会における位置づけにを明らかにする 必要があることが指摘された。 ますき ゆい ●京都大学. 289.

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