On the Stokes and Navier-Stokes flows
in the perturbed half-space and the aperture domain 摂動半空間と開口領域における
ストークス流やナヴィエ・ストークス流の研究
久保 隆徹
Takayuki Kubo
数理科学 偏微分方程式
2005 6
流体の数学的解析において,領域の形状と流体の流れとの関係を考察することは最も基本的な 研究課題の1つである.本論文では,領域 perturbed half-space または aperture domainにおけ
る次のNavier-Stokes流の初期値・境界値問題が考察されている:
(∂tu+ (u· ∇)u=∇π+ ∆u, ∇ ·u= 0 in (0, T)×Ω
u|∂Ω = 0, u|t=0=a (NS)
ここで、u(x, t) = (u1(x, t), . . . , un(x, t))は流速を、π(x, t)は圧力を表し、ともに未知量である.
また,a(x)は初期速度を表し,既知量である.
Navier-Stokes方程式は,19世紀の中頃NavierとStokesによってそれぞれ独立に提唱された 流体力学における基礎方程式である.Navier-Stokes方程式の数学的手法による本格的な取り扱い
は,1934年にJ. Lerayの研究に始まった.彼の研究により弱解の存在は示されたが,弱解の一意
性は未だ解決をみていない.一方,一意的な滑らかな解の存在は,初期値や外力に制限をつけて 知られているのが現状である.本研究は,後者に属している.
領域の形状においては,2次元以上の全空間や半空間,外部領域,また3次元以上の aperture
domainにおいては,初期値が小さい場合の一意解の時間大域的存在が示されている.本論文の目
的の1つは,今まで研究されていなかった領域であるperturbed half-spaceにおいて次元が2次元 以上で小さい初期値に対する一意強解の時間大域的存在を示し,またその手法を用いて2次元以上
のaperture domain における一意強解の時間大域的存在を示すことである.ここで,perturbed
half-spaceやaperture domain は次の定義を満たす領域のことである:BR={x∈Rn| |x|< R}, Rn±={x∈Rn|xn>±1}とするとき,領域Ωが perturbed half-spaceであるとは,ある正定数 Rに対して,Ω\BR =Rn\BR なる領域であり,また領域Ωが aperture domainであるとはある 正定数Rに対して,Ω\BR= (Rn+∪Rn−)\BRなる領域である.
これらの領域において,Farwig-Sohrにより Helmholtz 分解Lp(Ω)n =Jp(Ω)⊕Gp(Ω) が成 立することが示されている.ここで,Jp(Ω)やGp(Ω)は次で定義された空間である:
Jp(Ω) ={u∈C0∞(Ω)n| ∇ ·u= 0 in Ω}k·kLp(Ω) Gp(Ω) ={∇π ∈Lp(Ω)n|π∈Lploc(Ω)}
ソレノイダル部分への連続射影作用素をP :Lp(Ω)n →Jp(Ω)とおき,Stokes作用素Aを定 義域をD(A) =W2,p(Ω)n∩W01,p(Ω)n∩Jp(Ω)とし,A=−P∆u, u∈D(A)で定義する.そのと き,Farwig- Sohr によりA はJp(Ω)上解析的半群{T(t)}t≥0を生成することが示されている.
以下,本論文における各章の概要を述べる.第1章では,Introduction として研究の背景,
Notation,主結果が述べられている.第2章では,次の半空間での Stokes resolvent問題が考察 されている:
(λ−∆)u+∇π=f, ∇ ·u= 0 inRn+ u|xn=0= 0, (RS)
部分的 Fourier 変換を利用することで上の問題の解の表現式を得ている.その式を解析すること
で,λ= 0の近くでのresolvent 展開を得ている:
Theorem 1. R > 0, 1 < p < ∞とし,Bp,Rj = L(LpR(Rn+), Wj,p(BR)) (j = 1,2)とおき,
R(λ), Π(λ)を(RS)の解作用素とする.このとき,次を満たす作用素Gk(λ)∈ A(U1/16, Bp,R2 ×B1p,R) が存在する:
(Rj(λ)f, Π(λ)f) =λn−12 G1(λ)f+ (λn2 logλ)G2(λ)f+G3(λ) (EX) また,解の表現式から解作用素R(λ), Π(λ)に対して次を得ている:
1
Theorem 2. 1< p <∞, 0< ε < π/2とし,Σε ={λ∈C| |argλ|< π−ε}とする.このとき,
次を満たす作用素R(0)∈ L(LpR(Rn+), Wloc2,p(Rn+)), Π(0)∈ L(LpR(Rn+), Wloc1,p(Rn+))が存在する:
(i) f ∈LpR(Rn+)に対して次を満たす:
−∆[R(0)f] +∇[Π(0)f] =f, ∇ ·[R(0)f] = 0, in Rn+, R(0)f|xn=0= 0 (ii) 次の評価を満たす.
kR(λ)f −R(0)fkW1,p(BR)+kΠ(λ)f −Π(0)fkLp(BR)≤Cp,R,ε|λ|14kfkLp(Rn+)
(iii) さらに|x| ≥Rに対して,次の評価を満たす.
|[R(0)f](x)|+|∇[R(0)f](x)|+|[Π(0)f](x)| ≤Cp,R|x|−(n−1)kfkLp(Rn+)
これらの定理は以下に述べるStokes半群のLp−Lq評価の証明の鍵となる定理である.Theorem 2のR(0), Π(0)の性質からR(λ), Π(λ)のΩでのresolvent展開 が半空間でのresolvent展開(EX) と同様の展開であることが示されるからである.
第3・4章では,第2章で得たTheorem 1,2から岩下の方法により局所減衰評価を得ている:
kT(t)P akW2,p(ΩR)≤Ct−n2−12kakLn(Ω)
この局所減衰評価を用いてこれらの領域におけるStokes半群のLp−Lq評価を得ている:
Theorem 3. 次元nはn≥2を満たすとし,f ∈Jp(Ω)とする.
1. 指数p, qが1≤p≤q≤ ∞, (p, q)6= (1,1), (∞,∞)を満たすとき,次が成立する:
kT(t)fkLq(Ω)≤Cp,qt−n2(1p−1q)kfkLp(Ω), t >0 (1) 2. 指数p, qが1≤p≤q <∞ (q 6= 1)を満たすとき,次が成立する:
k∇T(t)fkLq(Ω)≤Cp,qt−n2(1p−1q)−12kfkLp(Ω), t >0 (2) ここでこのLp−Lq評価について2つの点が今までの研究にはない新しい点である.1つ目 は(2)の∇T(t)f の評価において,1 ≤ p ≤ q < ∞とq に対する条件に制限がない点である.
外部領域においては指数q に対して,1 ≤ q ≤ nなる制限が必要であるのに対し, perturbed half-spaceや aperture domainではその制限が必要ない事実を示したことが特筆に値する.2つ 目は次元がn≥ 2である点である.実際 aperture domain については,次元がn ≥3に対して,
1≤p≤q≤n(q 6= 1) or 1≤p < n < q <∞のとき∇T(t)f の評価が成立するという先行結果が あるが,次元n= 2に関しては結果が得られていなかった.この結果の改良は,Theorem 1, 2 の 基本解の詳しい解析によっている.
第5章では,第3章・第4章で得たStokes半群のLp−Lq評価をNavier-Stokes 方程式(NS) に応用している.加藤の方法により,(NS)を積分方程式になおし,Lp−Lq 評価を用いて,小さ い初期値に対して積分方程式の一意強解を時間大域的にもつことを示している.すなわち次の2 つの定理が示されている.
Theorem 4. 次元nはn≥2とする.次を満たす正定数δ=δ(Ω, n)が存在する:初期値a∈Jn(Ω) がkakLn(Ω) ≤δを満たせば,問題(NS)は(0,∞)上で一意な強解u(t)をもつ.さらに,t→ ∞で 次の漸近挙動をもつ:
ku(t)kLr(Ω)=o(t−12+2rn) for n≤r≤ ∞, k∇u(t)kLr(Ω)=o(t−1+2rn) for n≤r <∞,
2
Theorem 5. 次元nはn ≥ 2とする.次を満たす正定数η = η(Ω, n) < δが存在する:初期値 a ∈ Jn(Ω)∩L1(Ω)がkakLn(Ω) ≤ ηを満たせば,Theorem 4で得た強解u(t)は次の漸近挙動を もつ:
ku(t)kLr(Ω)=O(t−n2+2rn) for 1< r≤ ∞, k∇u(t)kLr(Ω)=O(t−n2+2rn−12) for 1< r <∞, k∂tu(t)kLr(Ω)+kAu(t)kLr(Ω) =O(t−n2+2rn−1) for 1< r <∞, k∇2u(t)kLr(Ω)+k∇π(t)kLr(Ω)=O(t−n2+2rn−1) for 1< r <∞.
第6章では,Lp−Lq評価を用いてNavier-Stokes 方程式の周期解の一意存在を小薗- 中尾の 方法によりperturbed half-space やaperture domain において論じている.外力fや指数q, rに 対して次を仮定する.
Assumption 6. 指数q, rを2 < q < n, n2 < r < nとする.q, rに対して,外力fが次の仮定 を満たすものとする.
(i)次元nがn≥4の場合,指数p, `が1< p, ` <∞であり,1q+n2 < 1p, 1r < 1` < 1r +n1 を満た すものに対して,f ∈BC(R;Lp∩L`) を仮定する.
(ii) 次元nがn = 3の場合,指数pが1< p < min(q, r)であり,2p3 +δ ≥ max(1 +2q3, 12 + 2r3) を満たす正定数δが存在し,f ∈ BC(R;L`)に対して,P f(s) = Asg(s)(s ∈ R)を満たすある g∈BC(R;D(As))が存在すると仮定する.
外力f がこの仮定を満たすとき,次の定理を得ている:
Theorem 7. 次元nはn≥3とし,f(t)をある周期ωをもつ周期関数とする.このとき,次を満 たす正定数η >0が存在する:
sup
s∈R
kP f(s)kLp+ sup
s∈R
kP f(s)kLl ≤η for n≥4 sup
s∈R
kg(s)kLp+ sup
s∈R
kP f(s)kLl≤η for n= 3 であれば,積分方程式にはfと同じ周期を持つ周期解uが存在する.
また,sups∈Rku(s)kLq + sups∈Rk∇u(s)kLr が十分小さければ,解が一意である.
Theorem 8. fがH¨older連続であれば,定理 7で得た周期解uは次の性質をもつ:
(i) u∈BC(R:Jn)∩C1(R:Jn)
(ii) u(t)∈D(A) for t∈Rであり,Au∈C(R:Jn)である.
(iii) uはJnで ut+Au+P(u· ∇u) =P fを満たす.
以上述べてきたように,申請者は Navier-Stokes方程式研究のなかの時間大域的存在証明を漸 近レートを含めて考察するという最も基本的な問題において,結果が余り得られていないaperture domainや従来全く研究されていなかったperturbed half-spaceにおいていくつかの優れた研究結 果を挙げた.特に,論文の中で展開されてきた理論・技法は独創性に富み,またこれからのこの 分野,および関連分野の研究に大きく貢献する特筆すべきものである.よって本論文は博士(理 学)の学位論文として十分に価値のあるものと認める.
2005年5月 審査員 主査 早稲田大学教授 理学博士(筑波大学) 柴田 良弘
副査 早稲田大学教授 理学博士(名古屋大学) 山田 義雄 早稲田大学教授 理学博士(東京大学) 山崎 昌男
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