瑕 疵 担 保 責 任 の 比 較 法 的 考 察 ︵ 五 ︶
︱︱ 日本
・フ ラン ス・ EU
︱︱
野 澤 正 充
序 章 本稿 の課 題と 対象 第一 章 日本 法⑴
︱︱ 法定 責任 説と 判例 法の 形成 第一 節 起草 者の 見解 とそ の評 価︵ 以上 七三 号︶ 第二 節 法定 責任 説の 形成
︵以 上七 四号
︶ 第三 節 大審 院大 正一 四年 判決 とそ の評 価 第四 節 最高 裁昭 和三 六年 判決 の理 解︵ 以上 七六 号︶ 第二 章 日本 法⑵
︱︱ 債務 不履 行責 任説 の台 頭と 展開 第一 節 債務 不履 行責 任説 の台 頭︵ 以上 七七 号︶ 第二 節 債務 不履 行責 任説 の展 開 第一 款 法定 責任 説の 継承 者⑴
︱︱ 下森 定教 授 第二 款 法定 責任 説の 継承 者⑵
︱︱ その 他の 見解
︵以 上本 号︶ 第三 款 ウィ ーン 売買 条約 の制 定︱
︱一 九八
〇年 第四 款 債務 不履 行責 任説 の進 展︱
︱時 的区 分説 の登 場
第五 款 ま と め 第三 節 近年 にお ける 学説 の動 向 第四 節 日本 法の まと め 第三 章 フラ ンス 法⑴
︱︱ 一九 八六 年ま で 第四 章 フラ ンス 法⑵
︱︱ 一九 八六 年以 降 第五 章 総括 と展 望
第二 章 日本 法⑵
︱︱ 債務 不履 行責 任説 の台 頭と 展開 第二
節 債務 不履 行責 任説 の展 開 第一
款 法定 責任 説の 継承 者⑴
︱︱ 下森 定教 授 一 債務 不履 行責 任説 の多 数説 化 昭和 三六 年の 比較 法学 会に おい てデ ビュ ーし た債 務不 履行 責任 説は
、そ の支 持者 を増 やし
、昭 和五
〇年 代に は、 早く も﹁ 多数
﹂説 を形 成す るに 至っ た。 すな わち
、昭 和五 一年 に刊 行さ れた 星野 英一 教授 の教 科書 では
、﹁ 他の 国 にお いて は、 瑕疵 担保 を債 務不 履行 の一 態様
︵特 則︶ とす ると ころ
﹂が 多く
、わ が国 でも
、﹁ 今日 では
、こ のよ う に考 える 説が むし ろ多 数で ある
﹂と
( )
した
。ま た、 その 翌年 に公 にさ れた 打田 峻一 教授 の法 学セ ミナ ーの 論文 も、 星
1
野教 授の 教科 書を 引用 しつ つ、
﹁学 界の 大勢 は、 瑕疵 担保 を債 務不 履行 の一 態様 とす る方 向に 動い てい る﹂ と
( )
した
。
2
この よう に、 債務 不履 行責 任説 が﹁ 学界 の大 勢﹂ を占 める に至 った のは
、法 定責 任説 の前 提と する
﹁特 定物 のド グマ
﹂に 対す る批 判が 功を 奏し たか らで あ
( )
ろう
。す なわ ち、 法定 責任 説に よれ ば、 特定 物の 売買 にお ける 買主 には
3
完全 履行 請求 権が 認め られ ない
。し かし
、こ のよ うな 結論 は﹁ 常識 的に は理 解し 難﹂ く、 買主 には
﹁可 能な 限り
、 目的 物の 種類 を問 わず 完全 履行 請求 権﹂ を認 める べき であ ると の﹁ 実
( )
質論
﹂が
、広 く学 界に 受け 容れ られ たと 解さ
4
れる
。た だし
、無 過失 責任 であ る瑕 疵担 保責 任と 過失 責任 であ る債 務不 履行 責任 とを 一元 化す る債 務不 履行 責任 説 の理 論的 な
( )
難点 が克 服さ れた わけ では
( )
ない
。そ こで
、債 務不 履行 責任 説が
﹁学 界の 大勢
﹂な いし
﹁多 数﹂ であ ると
5
6
され た後 にも なお
、法 定責 任説 を支 持す る見 解が 根強 く主 張さ れて いる
。 もっ とも
、法 定責 任説 の主 張者 は、 債務 不履 行責 任説 の体 系的 な問 題点 を指 摘す るだ けで は足 りず
、特 定物 の売 買に おい て買 主に 完全 履行 請求 権が 認め られ ない とい う、
﹁具 体的 な効 果﹂ に対 する
﹁か なり の
( )
疑問
﹂に 応え る必
7
要が ある
。そ こで
、法 定責 任説 も、
﹁特 定物 のド グマ
﹂を 維持 しつ つ、 その 効果 につ いて は修 正を 余儀 なく され た。 その 代表 的な 主張 者が 下森 定教 授で あり
、同 教授 は、 今日 もな お、 法定 責任 説の 継承 者︵ ない し第 一人 者︶ とし て の立 場を 堅持 して いる
。た だし
、そ の見 解は やや 変遷 し、 当初 は法 定責 任説 をそ のま ま維 持す るも ので あっ たが
、 後に 一定 の修 正を 加え るこ とと なっ た。 二
下森 教授 の見 解
︱︱ 法定 責任 説の 維持
⑴ 法定 責任 説の 支持
︱︱ ある 裁判 例の 評釈 瑕疵 担保 責任 に関 する 下森 教授 の研 究は
、そ の修 士論 文に はじ
( )
まる
。し かし
、同 教授 が法 定責 任説 に立 脚す るこ
8
とを 初め て公 にし たの は、 ある 下級 審裁 判例 の判 例
( )
評釈 であ った
。そ の事 案は
、新 築の 分譲 マン ショ ンを 買い 受け
9
たと ころ
、そ の一 年後 に隣 地に マン ショ ンが 建築 され
、日 照が 阻害 され たた め、 買主 が売 主に 対し て損 害賠 償を 請
求し たも ので ある
。こ の問 題は
、今 日で は、 売主 の説 明義 務違 反︵ 情報 提供 義務 違反 の︶ 問題 とし て処 理さ れ、 瑕 疵担 保責 任が 争わ れる こと はほ とん どな い。 そし て、 裁判 所︵ 東京 地裁 も︶
、買 主︵ 原告 の︶ 主張 に従 って 契約 締 結上 の過 失を 争点 とし たも のの
、そ の内 容は
、売 主が 買主 に対 して 信義 則上
﹁調 査解 明、 告知 説明 する 義務
﹂を 負 うか 否か であ り、 結論 とし ては これ を否 定し た。 その 意味 では
、こ の裁 判例 は、 瑕疵 担保 責任 を争 点と はし てい な い。 しか し、 下森 教授 は、
﹁本 件の 実質 的争 点﹂ が、
﹁非 代替 的特 定物 売買 であ るマ ンシ ョン の売 買契 約﹂ にお い て、
﹁当 事者 双方 の責 に帰 すべ から ざる 事由 によ る住 宅環 境悪 化の 場合 にな お買 主の 保護 がは かれ るか
﹂に ある と する
。そ して
、そ の﹁ 損失 発生 の原 因は
、す でに 契約 締結 前に 存在 して いた
﹂と し、
﹁売 主の 瑕疵 担保 責任 の問 題 とし て構 成す るの が、 本件 争点 につ き妥 当な 法的 判断 基準 を定 立し たこ とに なる
﹂と
( )
した
。
10
右の 指摘 は、 裁判 例の 評釈 とし ては やや 異例 であ る。 実際 に、 下森 教授 自身 も、
﹁本 判決 例そ れ自 体の 当否 を語 るこ とは 控え たい
﹂と
( )
述べ
、む しろ
、瑕 疵担 保責 任の 法的 性質 論に 関す る自 らの 見解 を披 瀝す るこ とに 重き を置 い
11
てい る。 すな わち
、﹁ 非代 替的 特定 物売 買に おけ る売 主の 担保 責任 の法 的性 質は
、売 買契 約の 有償 性に 基づ き、 法 が公 平の 見地 から とく に認 めた 無過 失責 任﹂ であ り、
﹁債 務不 履行 責任 の一 形態 とし ての 不完 全履 行に 基づ く責 任 から 区別
﹂し てお くこ とが
、﹁ 今日 なお 理論 的に も、 実際 的に も、 正当 かつ 妥当 であ る﹂ と
( )
する
。そ の主 張は
、鳩
12
山博 士の 見解 を修 正し て、 瑕疵 担保 責任 の適 用領 域を 不代 替的 特定 物の 売買 に限 定し た末 弘博 士の
( )
見解 に依 拠す る
13
もの であ る。 とこ ろで
、下 森教 授は
、債 務不 履行 責任 説に つい ては 次の よう に主 張す る。 すな わち
、﹁ 新説 の立 場﹂︵ 債務 不履 行責 任説
︶は
、﹁ 近時 のド イツ 法の 発展 に倣 うも ので ある
﹂が
、普 通法 時代 にお ける ドイ ツ民 法学 は、
﹁不 完全 な履 行に ある 程度 の履 行価 値を 認め る債 務不 履行 概念 を知 らな かっ たが 故に
﹂、 種類 売買 にお ける 瑕疵 ある 物の 給付 が、 債務 不履 行で はな く、 瑕疵 担保 責任 によ って 規律 され るこ とと なっ た。 この こと は、
﹁特 定物 売買 を前 提と して 作
り上 げら れた 瑕疵 担保 責任 制度
﹂の 種類 売買 への
﹁借 用﹂ であ り、 その 後、
﹁実 際の 商品 取引 では
、種 類売 買が 圧 倒的
﹂と なっ て、 瑕疵 担保 責任 は、
﹁﹃ ひさ しを 貸し て母 屋を 取ら れた
﹄形 とな った
﹂と する
。つ まり
、下 森教 授に よれ ば、 ドイ ツ民 法に おけ る種 類売 買に も﹁ 瑕疵 担保 責任 の規 定を 適用 しう る旨 の明 文の 規定
﹂︵ 旧四 八〇 条︶ は誤 りで あり
、﹁ ドイ ツ民 法学 は、 種類 売買 と特 定物 売買
︵と くに 非代 替的 特定 物売 買︶ の場 合を 明確 に区 別し
、前 者 はは っき り契 約責 任と 構成 し、 後者 は、 本来 どお り、 法定 責任 と構 成す べき
﹂で ある と
( )
する
。
14
なお
、下 森教 授の 言及 した ドイ ツ民 法︵ 旧︶ 四八
〇条 は、 次の よう に規 定
( )
した
。
15
旧四 八〇 条 種類 のみ によ って 定め られ た物 の買 主は
、︵ 特定 物の 瑕疵 担保 に基 づく
︶解 除又 は減 額に 代え て、 瑕疵 の ある 物の 代わ りに 瑕疵 のな い物 を給 付す べき 旨を 請求 する こと がで きる
。こ の請 求権 には
、︵ 特定 物の 瑕疵 担保 に基 づく
︶ 解除 に関 する 規定
︵規 定の 詳細 は省 略︱
︱筆 者注
︶を 準用 する
。 二 危険 が買 主に 移転 する 当時 にお いて
、物 が保 証し た性 質を 欠き 又は 売主 が欠 点を 悪意 に黙 秘し たと きは
、買 主は
、 解除
、減 額又 は瑕 疵の ない 物の 給付 に代 えて
、不 履行 に基 づく 損害 賠償 を請 求す るこ とが でき る。 右の
規定 は、
﹁種 類の みに よっ て定 めら れた
﹂不 特定 物の 売買 にお いて も、 その 目的 物に 瑕疵 があ ると きは
、特 定物 の瑕 疵担 保に 関す る解 除の 規定 が準 用さ れる とと もに
、買 主に 代物 請求 権を 認め るも ので
( )
ある
。換 言す れば
、
16
不特 定物 の売 買︵ 種類 売買 に︶ も瑕 疵担 保責 任を 認め るも ので あり
、法 定責 任説 とは 明ら かに 異な る解 決が 採用 さ れて いた
。し かし
、下 森教 授は
、こ のよ うな ドイ ツ民 法学 の﹁ 発展
﹂が 誤り であ り、 ドイ ツ民 法学 もそ れを 是正 す べき であ ると する
。 以上 の下 森教 授に よる 裁判 例の 評釈 は、 対象 とな った 裁判 例を よそ に瑕 疵担 保責 任の 法的 性質 論を 論じ たも ので
あり
、こ の問 題に 対す る同 教授 のな みな みな らぬ 関心 が示 され てい る。
⑵ 法定 責任 説の 沿革 的理 解︱
︱﹃ 民法 学﹄︵ 一九 七六 年︶ 初期 の下 森教 授の 見解 が提 示さ れて いる のは
、奥 田昌 道教 授の 編ま れた
﹃民 法学 ﹄ に掲 載さ れた
﹁種 類売 買と 瑕疵
( )
担保
﹂と いう 一編 であ る。 この 論考 は、
﹁学 生向 きの 解説 論稿 であ るが
﹂、 同教 授の 修士 論文 とそ の後 の
( )
論文 を
17
18
﹁要 約し てま とめ たも ので あり
、新 説で ある 契約 責任 説批 判を 展開 し、 私見 の全 容を 明ら かに した 点﹂ にお いて
、 自ら も﹁ 重要 論文
﹂と 位置 づけ て
( )
いる もの であ る。
19
下森 教授 の見 解は
、ド イツ 普通 法時 代に おけ る瑕 疵担 保法 の発 展に つい ての 正確 な理 解を 背景 とす る。 すな わ ち、 瑕疵 担保 責任 は、 沿革 的に はロ ーマ 法に さか のぼ り、
﹁当 時の 売買 契約 は特 定物 売買 が中 心で あっ たた めに
、 買主 の法 的保 護と して は、 契約 の解 除と 代金 減額 請求 とが 認め られ るに とど まり
、代 物請 求は 問題 とな らな かっ た﹂
。し かし
、﹁ ロー マ法 を継 受し たド イツ 普通 法の 下に おい て、 資本 主義 の発 達に とも なう 大量 商品 生産
、大 量商 品交 換の 進展
﹂に より
、﹁ 必然 的に 種類 売買
﹂が
﹁商 品取 引の 中心 的存 在﹂ とな った とす る。 そこ で、
﹁種 類売 買に おい て瑕 疵あ る物 の給 付が 行わ れた 場合
﹂に
、そ れを 瑕疵 担保 責任 によ って 処理 する か、 ある いは 債務 不履 行責 任 によ って 対処 すべ きか につ いて
﹁大 論争 が展 開さ れ﹂
、前 述し たド イツ 民法
︵旧 四︶ 八〇 条が 設け られ たと
( )
する
。
20
しか し、 下森 教授 は、 すで に触 れた よう に、 右の よう なド イツ 民法 の発 展過 程に つい ては
、﹁ 原点 に立 ち返 った 再検 討が 必要 であ る﹂ とす る。 そし て、
﹁種 類売 買に おけ る瑕 疵あ る物 の給 付は
、ま さに 債務 不履 行な ので あり
、 債務 不履 行責 任の 領域 にお いて その 法技 術を 用い て解 決す べき であ った
﹂。 にも かか わら ず、
﹁当 時の ドイ ツ民 法学 は、 不完 全履 行に ある 程度 の履 行価 値を 認め うる 債務 不履 行概 念︵ 不完 全履 行︱
︱筆 者注
︶を 知ら なか った がゆ え に、 法定 無過 失責 任で ある 瑕疵 担保 責任 制度 を借 用し た﹂ と
( )
する
。そ して
、﹁ 実際 の商 品取 引で は、 種類 売買 が圧
21
倒的
﹂と なり
、﹁ 瑕疵 担保 責任 制度 の中 で、 種類 売買 のそ れが 肥大 化の 一途
﹂を たど り、
﹁つ いに 瑕疵 担保 責任 制度
それ 自体 を契 約責 任と 構成 する とこ ろま で突 き進 んだ
﹂が
、﹁ この 発展
﹂は
、﹁ 借用 現象 性の 行き 過ぎ
﹂で あり
、ド イツ 民法 学は
、瑕 疵担 保責 任と 債務 不履 行責 任と を﹁ はっ きり 切り 離し
、特 定物 売買
=法 定責 任と して の瑕 疵担 保 責任
、種 類売 買
=債 務不 履行 責任 と構 成﹂ し直 すべ きで ある と主 張
( )
する
。
22
なお
、下 森教 授の 基本 的な 立場 は、 末弘 博士 と柚 木博 士の 法定 責任 説を 継承 し、 瑕疵 担保 責任 は、 特定 物︵ 特に 不代 替的 特定 物︶ の売 買に のみ 適用 され
、不 特定 物の 売買 には 債務 不履 行責 任が 適用 され ると する
。す なわ ち、
﹁元 来、 売主 の瑕 疵担 保責 任の 規定 は、 前述 した よう に、 特定 物売 買に 即し て形 成さ れた もの であ るか ら、 種類 売買 に その まま 適用 する こと はで きな い﹂
。そ して
、種 類売 買は
、﹁ 債務 不履 行責 任の 問題 とし て﹂ 対処 すべ きで あり
、
﹁特 定物 売買
=瑕 疵担 保責 任= 法定
・無 過失 責任
=無 催告 解除
・代 金減 額な いし 代金 減額 的損 害賠 償請 求﹂ と﹁ 種 類売 買
=債 務不 履行 責任
=契 約・ 過失 責任
=要 催告 解除
・損 害賠 償﹂ とい う図 式は
、﹁ 正当 かつ 有用 な構 成﹂ であ ると
( )
する
。ま た、 この 見解 によ れば
、不 特定 物の 売買 にも 瑕疵 担保 責任 の適 用を 認め る判 例法 の理 解は
、﹁ 困難
﹂
23
と
( )
なる
。す なわ ち、 大審 院大 正一 四年
( )
判決 につ いて は、 買主 が瑕 疵の ある 物を 受領 して も、
﹁債 務不 履行 責任 を問
24
25
えて しか るべ き﹂ であ り、 その 結論 は妥 当で ない こと にな る。 そし て、 大審 院判 例を 前提 とし た最 高裁 昭和 三六 年
( )
判決 につ いて も、
﹁﹃ 履行 とし て認 容し 受領 した
﹄と いう こと の意 味内 容﹂ が﹁ 明確 でな く﹂
、ま た、
﹁そ の効 果を ど う 26
解す べき かも 問題 が残 され てい る﹂ と
( )
する
。
27
三 下森 教授 の見 解
︱︱ 修正 法定 責任 説の 提唱
⑴ 新築 建物 の売 買に おけ る瑕 疵修 補請 求権 下森 教授 の見 解は
、そ の後 も基 本的 には 一貫 し、 瑕疵 担保 責任 が不 代替 的特 定物 の売 買に のみ 適用 され る法 定責 任で ある とす る。 すな わち
、﹁ 不代 替的 特定 物売 買に おけ る売 主の 瑕疵 担保 責任 は、 売主 の本 来的 履行 債務 の不 履
行の 効果 では なく
、売 買契 約の 双務
・有 償性 に鑑 み、 公平 の見 地か ら両 給付 の対 価的 均衡 性を 維持 する ため
、か つ それ を通 じて 取引 の信 用を 保護 する こと を目 的と して
、法 律が 特に 売主 に課 した 法定 無過 失責 任と みる べき であ る
︵法 定責 任説
︶﹂ と主 張
( )
する
。た だし
、下 森教 授は
、一 九七
〇年 代の 高度 経済 成長 期に おけ る新 築建 物や マン ショ ン
28
など の住 宅販 売の 増加 を背 景に
、買 主の 瑕疵 修補 請求 権に つい て一 定の 修正 を加 える
。す なわ ち、
﹁新 築あ るい は 新築 さる べき 建物
︵マ ンシ ョン
︶の 企業 によ る販 売﹂ にお いて は、 その 建物 は不 代替 的特 定物 であ るも のの
、﹁ 結論 とし て、 買主 に瑕 疵修 補請 求権 が認 めら れる べき だと いう 利益 衡量 につ いて は、 おそ らく 異論 がな い﹂
。そ こで
、 この 問題 は、
﹁形 式的 には
、当 面当 事者 意思 の合 理的 解釈 とい うテ クニ ック によ り処 理し
、い ずれ は立 法的 に解 決 すべ き﹂ であ ると
( )
した
。よ り具 体的 には
、新 築建 物の 売買 契約 にお いて は、 買主 は、
﹁中 古住 宅の 場合 とは 異な っ
29
て、 当然
、瑕 疵の ない
﹂建 物の
﹁入 手を 期待 し﹂
、半 面、
﹁こ れを 販売 する 住宅 産業 にと って も﹂
、瑕 疵修 補の 手段 と能 力を 有し てい るか ら、 これ に応 じた 方が
﹁経 済上 も信 用上 も有 利﹂ とな る。 それ ゆえ
、こ のよ うな
﹁売 買契 約 類型 にお いて は﹂
、明 示の 特約 や商 慣習 がな い場 合に も、
﹁本 来の 給付 義務 の内 容と して
﹃瑕 疵な き物
﹄の 給付 義務 あり とみ るの が当 事者 意思 の合 理的 解釈 とし て妥 当﹂ であ ると
( )
する
。そ して
、結 論と して は、
﹁新 築あ るい は新 築
30
さる べき 建物
︵マ ンシ ョン の︶ 企業
︵あ るい は業 とし てこ れを 営む 個人 に︶ よる 販売 契約 にお いて
、瑕 疵あ る物 が給 付さ れた 場合 は、 債務 の本 旨に 従っ た履 行で なく
、不 完全 履行 とな り、 債務 者た る売 主は
、瑕 疵あ る物 の給 付に つ いて
、故 意・ 過失 の有 無を 問わ ず、 債務 を免 れえ ない
︵五 五五 条、 四二 九条
、四 九三 条︶
﹂か ら、 買主 は、 売主 に対 して
、﹁ 本来 の給 付義 務の 不履 行を 理由 とし て瑕 疵修 補の 請求
﹂を する こと がで きる と
( )
した
。
31
右の 下森 教授 の研 究は
、そ の後 の立 法に 反映
( )
した
。す なわ ち、 二〇
〇〇 年四 月一 日よ り施 行さ れた
﹁住 宅の 品質
32
確保 の促 進等 に関 する 法律
﹂︵ 平成 一一 年六 月二 三日 法律 第八 一号 は︶
、﹁ 新築 住宅 の請 負契 約又 は売 買契 約に おけ る 瑕疵 担保 責任 につ いて 特別 の定 めを する
﹂︵ 同一 条︶ もの であ り、 その 第九 五条
︵旧 八八 条︶ が﹁ 新築 住宅 の売 主の
瑕疵 担保 責任 の特 例﹂ とし ての 瑕疵 修補 請求 権を 規定 した
。
︵新 築住 宅の 売主 の瑕 疵担 保責 任の 特例
︶ 第九 十五 条 新築 住宅 の売 買契 約に おい ては
、売 主は
、買 主に 引き 渡し た時
︵当 該新 築住 宅が 住宅 新築 請負 契約 に基 づ き請 負人 から 当該 売主 に引 き渡 され たも ので ある 場合 にあ って は、 その 引渡 しの 時︶ から 十年 間、 住宅 の構 造耐 力上 主要 な部 分等 の隠 れた 瑕疵 につ いて
、民 法第 五百 七十 条に おい て準 用す る同 法第 五百 六十 六条 第一 項並 びに 同法 第六 百三 十四 条第 一項 及び 第二 項前 段に 規定 する 担保 の責 任を 負う
。こ の場 合に おい て、 同条 第一 項及 び第 二項 前段 中﹁ 注文 者﹂ とあ るの は﹁ 買主
﹂と
、同 条第 一項 中﹁ 請負 人﹂ とあ るの は﹁ 売主
﹂と する
。 二 前項 の規 定に 反す る特 約で 買主 に不 利な もの は、 無効 とす る。 三 第一 項の 場合 にお ける 民法 第五 百六 十六 条第 三項 の規 定の 適用 につ いて は、 同項 中﹁ 前二 項﹂ とあ るの は﹁ 住宅 の 品質 確保 の促 進等 に関 する 法律 第九 十五 条第 一項
﹂と
、﹁ 又は
﹂と ある のは
﹁、 瑕疵 修補 又は
﹂と する
。 右の 規定 は、 やや 判読 しに くい が、 新築 住宅 の売 買契 約に おけ る買 主が 売主 に対 し、
﹁瑕 疵の 修補 を請 求す るこ とが でき る﹂ とす るも ので ある
︵品 質確 保法 九五 条一 項、 民法 五七
〇条
、六 三四 条一 項本 文︶
。
⑵ 法定 責任 説の 修正 右の 下森 教授 の見 解は
、当 初は
、新 築建 物な いし マン ショ ンの 売買 契約 に限 られ てい たが
、そ の後 はこ れを
﹁修 正法 定責 任説
﹂と 名
( )
付け
、よ り広 範に 展開 する
。す なわ ち、 瑕疵 担保 責任 は法 定責 任で はあ るが
、﹁ 民法 第五 七〇
33
条の 規定 は任 意規 定で ある から
、契 約自 由の 原則 上当 然の こと なが ら、 当事 者が 目的 物の 瑕疵 なき こと を保 証し た り、 瑕疵 なき 物の 給付 ある いは 瑕疵 の修 補を 特約 する こと は自 由で あり
、か つ有 効に これ をな しう る﹂ と
( )
する
。
34
では
、右 のよ うな 明示 また は黙 示の 特約 を認 める こと がで きな い場 合は どう か。 下森 教授 は、 特約 を﹁ 契約 当事
者の 意思 解釈 とし て認 めえ ない 場合
﹂に は、 原則 とし て買 主の 瑕疵 修補 請求 権が 認め られ ない とす る。 しか し、
﹁宅 建業 者に よる 新築 建売 住宅 の売 買の 場合 など のよ うに
、民 法第 五七
〇条 の形 式的 適用 が現 代の 取引 社会 の実 状 にあ わず
、そ の結 論が 妥当 性を 欠き
、社 会的 正義 や公 平に 合致 しな い﹂ とき は、
﹁取 引慣 行を 考慮 し、 当事 者意 思 の合 理的 解釈 や信 義則 法理 の適 用と いっ た法 的構 成に より
、か つ、 政策 判断 ない し利 益衡 量の 実質 的判 断基 準を で きる だけ 明確
﹂に して
、﹁ 一定 の限 度な いし 範囲 で瑕 疵修 補義 務を 契約 上の 債務 とし て例 外的 に売 主に 課し
、買 主 の瑕 疵修 補請 求権 を認 める こと が許 され る﹂ と
( )
する
。
35
右の 見解 は、 要す るに
、限 られ た範 囲内 では ある が、 不代 替的 特定 物の 売買 にお いて
、当 事者 の意 思解 釈ま たは 信義 則に よっ て瑕 疵修 補請 求権 を認 める もの であ る。 この 見解 に対 して は、 すで に新 築建 物販 売に 関す る論 文の 発 表当 時か ら、 次の よう な批 判が なさ れて いた
。す なわ ち、
﹁︵ 下森 教授 は︶ 総論 的枠 組と して 瑕疵 修補 請求 権︵ ない し瑕 疵担 保責 任一 般︶ の法 律構 成に つき 法定 責任 説を とる 旨を 明言 して いる
﹂が
、そ の﹁ 内容 はむ しろ 契約 責任 説 的な もの とな って おり
、こ の点 で、 多少 首尾 一貫 して いな い点 があ りは しな いか
﹂と の指 摘で
( )
ある
。換 言す れば
、
36
下森 教授 は﹁ 特定 物の ドグ マ﹂ を支 持す るも ので ある が、 当事 者意 思の 合理 的解 釈に よっ て瑕 疵修 補請 求権 を認 め るの であ れば
﹁意 味が ない
﹂。 それ ゆえ
、﹁ 自ら を法 定責 任説 と規 定す る教 授の 立場 が、 この 点で は表 示と 内容 の乖 離を もた らし てい る﹂ こと に
( )
なる
。
37
そこ で、 本款 の最 後に
、右 の批 判も 踏ま えて
、下 森教 授の 見解 を検 討し よう
。 四
若干 の検 討
⑴ 二つ の問 題点 下森 教授 の修 正法 定責 任説 は、 法定 責任 説が 有す る体 系的 明快 さに 加え て、 現実 的な 妥当 性も 図ら れた 優れ た見
解で
( )
ある
。そ れゆ え、 債務 不履 行責 任説 が有 力化 した 後も なお
、法 定責 任説 が多 くの 支持 者を 集め て存 続し
( )
えた の
38
39
は、 ひと えに 下森 教授 の功 績で ある とい えよ う。 しか し、 修正 法定 責任 説に もい くつ かの 問題 点が 存在 する
。こ こで は、 細か な問 題点 は捨 象し て、 大き な二 つの 問題 点を 指摘 する にと どめ る。 一つ は、 それ が特 定物 のド グマ を前 提と する 法定 責任 説で ある 以上
、法 定責 任説 に 対す る批 判を 免れ てい ない こと であ り、 もう 一つ は、 沿革 的か つ比 較法 的観 点か らの
、法 定責 任説 の正 当性 ない し 妥当 性に つい てで ある
。以 下、 順に 検討 する
。
⑵
﹁特 定物 のド グマ
﹂に 対す る批 判︱
︱理 論的 な問 題点 この 点に おい ても
、さ らに 二つ の問 題が ある
。 第一 に、 論理 的に は、
﹁特 定物 のド グマ
﹂と 瑕疵 修補 請求 権が 相容 れな いこ とで ある
。こ のこ とは
、前 述の よう に、 すで に指 摘さ れて いた が、 より 鋭く 批判 した のは 森田 宏樹 教授 であ る。 同教 授は
、次 のよ うに 指摘 する
。す な わち
、﹁︵ 不代 替的 特︶ 定物 につ いて は瑕 疵な き物 を給 付す るこ とは 原始 的な いし 論理 的に
( )
不能 であ ると いう 特定 物
40
のド グマ を前 提と する もの であ れば
、た とえ 特約 によ ると して も瑕 疵な き物 の給 付義 務を 認め るこ とは 理論 上で き ない はず であ る。 特定 物ド グマ が右 のよ うな 一定 の論 理的 思考 をも った
﹃ド グマ
﹄で ある 以上 は、 一定 の売 買に 限 って 政策 的に これ を否 定し うる よう なも ので は﹂ ない
。そ れゆ え、 不代 替的 特定 物に つい ても 瑕疵 なき 物の 給付 義 務を 認め るこ とは
、﹁ 特定 物の ドグ マを 前提 とす る法 定責 任説 とは 矛盾 して
( )
いる
﹂。
41
右の 指摘 は適 切で あり
、下 森教 授も
、不 代替 的特 定物 の売 主に 瑕疵 修補 義務 が認 めら れる のは
、﹁ 当事 者が 目的 物の 瑕疵 なき こと を保 証し たり
﹂特 約し た場 合や 信義 則に よる
﹁例 外﹂ であ るこ とを 強調
( )
する
。し かし
、買 主に 瑕
42
疵修 補請 求権 が必 要な 場合 には
、広 く黙 示の 合意 や信 義則 によ って それ が認 めら れる ので あれ ば、 実質 的に は︵ 債 務不 履行 責任 説を 含む
︶契 約責 任説 と変 わら ず、 法定 責任 説と は矛 盾す る。 また
、そ の例 外を 狭く 限定 する ので あ
れば
、不 代替 的特 定物 売買 の多 くの 場合 にお いて は、 瑕疵 のあ る物 をそ のま ま引 き渡 して も﹁ 法律 的に は売 主の 義 務を 果た した こと
﹂に なり
、﹁ 常識 的に は理 解し
( )
難い
﹂と の法 定責 任説 に対 する 批判 がそ のま ま妥 当し よう
。
43
結局
、修 正法 定責 任説 は、
﹁特 定物 のド グマ
﹂を 前提 とす る以 上、 法定 責任 説に 対す る批 判を
︱︱ 部分 的に は回 避し うる にし ても
︱︱ 完全 に免 れる こと はで きな いと 解さ れる
。 第二 に、 仮に 下森 教授 の指 摘さ れる 黙示 の保 証約 束な いし 瑕疵 のな い物 を給 付す る特 約が 認め られ ると して も、 その 違反 は、 売主 の過 失を 前提 とす る債 務不 履行 とな り、 法定 無過 失責 任と して の瑕 疵担 保責 任と は相 容れ ない の では ない か、 とい う点 であ る。 もっ とも
、こ の点 につ いて 法定 責任 説は
、﹁ 瑕疵 ある 物の 給付 は債 務の 本旨 に従 っ た弁 済と はな らず
、従 って
、た とい 債権 者が 一応 これ を受 領し ても
、債 権は なお 履行 によ って 消滅 する には 至ら な いか ら、 債権 者は 瑕疵 のな い物 の履 行を 請求 する こと がで きる
﹂と し、
﹁あ たか も履 行遅 滞と 同様 であ る﹂ と主 張
( )
する
。そ して
、下 森教 授も この 論理 に従 い、 不代 替的 特定 物の 売買 にお いて
、﹁ 当事 者意 思の 合理 的解 釈﹂ から 瑕 疵 44
修補 義務 が認 めら れる 場合 には
、瑕 疵あ る物 が給 付さ れた とし ても それ は不 完全 履行 とな り、 売主 は、
﹁故 意・ 過失 の有 無を 問わ ず、 債務 を免
﹂れ るこ とが でき ず、
﹁買 主は 売主 に対 し、 本来 の給 付義 務の 不履 行を 理由 とし て 瑕疵 修補 の請 求を なし うる
﹂と
( )
した
。し かし
、こ の法 定責 任説 によ る不 完全 履行 の要 件お よび 効果 の理 解は 適切 で
45
あろ うか
。 まず
、現 実の 訴訟 では
、履 行遅 滞も 不完 全履 行も 債務 不履 行の 一態 様で あり
、債 権者 の履 行請 求に 対し て、 債務 者か らの
﹁帰 責事 由の 不存 在﹂ の抗 弁が 提出 され るこ とに なる
。た とえ ば、 買主 が売 主に 対し て特 約に 基づ く瑕 疵 修補 を請 求し た場 合に は、 売主 は、 その 瑕疵 が不 可抗 力に よる もの であ り、 自己 の責 めに 帰す べき 事由 によ らな い こと を抗 弁と して 主張 する こと に
( )
なる
。と りわ け、 不完 全な がら も履 行の なさ れた 場合
︵不 完全 履行 は︶
、全 く履
46
行が なさ れて いな い履 行遅 滞と 同じ には 解さ れず
、売 主に よる 帰責 事由 の不 存在 の抗 弁が 不可 避的 に問 題と なら ざ
るを えな いと 解さ れる
。 また
、仮 に買 主が 売主 の過 失の 有無 とは 関係 なく 瑕疵 修補 を請 求す るこ とが でき ると すれ ば、 買主 は、 その 瑕疵 修補 請求 権が 時効 によ って 消滅 する まで は、 瑕疵 修補 を請 求し うる こと にな り、 妥当 でな い。 そこ で、 この 場合 に は、 信義 則に よる 修正 が提 案さ れて
( )
いる が、 信義 則と いう 一般 条項 に頼 らざ るを えな いこ とに 難点 があ る。
47
さら に、 下森 教授 の見 解に よれ ば、 瑕疵 修補 請求 と解 除お よび 損害 賠償 の請 求と は区 別さ れ、
﹁契 約解 除や 損害 賠償 の請 求を する にあ たっ ては
、現 行法 の原 則に した がい
、帰 責事 由が 必要
﹂と
( )
なる
。し かし
、そ うだ とす れば
、
48
無過 失責 任で ある 瑕疵 担保 責任 の長 所が 失わ れ、 売主 に責 めに 帰す べき 事由 のな い場 合に は、 買主 は、 目的 物の 瑕 疵が あっ ても 契約 を解 除す るこ とが でき ない こと とな る。 以上 のよ うな 諸問 題は
、瑕 疵担 保責 任の 適用 領域 を不 代替 的特 定物 の売 買に 限定 し、 それ 以外 の売 買を すべ て債 務不 履行
︵不 完全 履行
︶と して 処理 する こと に起 因す るも ので ある
。そ して
、法 定責 任説 は、 部分 的に 修正 を加 え たと して もな お、
﹁特 定物 のド グマ
﹂を 前提 とす る限 りは
、妥 当な 解決 をも たら すこ とは 難し いと 解さ れる
。
⑶ 法定 責任 説の 採否
︱︱ 現実 的な 問題 点 法定 責任 説は
、理 論的 には とも かく
、瑕 疵担 保責 任の 沿革 には 合致 する
。す なわ ち、 下森 教授 が指 摘し たよ う に、 ロー マ法 の時 代や 民法 典が 制定 され た当 初は
、特 定物 の売 買が 中心 であ り、 瑕疵 担保 責任 の規 定も 特定 物の 売 買の みを 前提 に制 定さ れた もの であ る。 この こと は、 日本 民法 の瑕 疵担 保規 定の 母法 であ るフ ラン ス民 法に おい て も同 様で ある
。す なわ ち、 フラ ンス 民法 典の 制定 に大 きな 影響 を与 えた ポテ ィエ
︵P ot hi er は︶
、注 文制 作に よる 樽 や芸 術品 など の特 定物 の売 買の みを 念頭 に瑕 疵担 保責 任を 論じ て
( )
いた
。そ して
、ポ ティ エの 見解 を前 提に 制定 され
49
たフ ラン ス民 法典 も、 特定 物の 売買 のみ を想 定し
、そ の後 の註 釈学 派も 当初 は、 不特 定物 の売 買に 全く 言及 して い なか
( )
った
。し かし
、産 業革 命を 経て
、資 本主 義が 進展 する とと もに
、フ ラン スに おい ても
、商 品取 引の 重点 が不 特
50
定物 の売 買︵ 種類 売買 に︶ 置か れる よう にな る。 そこ で、 一九 世紀 後半 の学 説︵ 註釈 学派 の衰 退期 は︶
、不 特定 物の 売買 にも 瑕疵 担保 責任 が適 用さ れる とし た。 すな わち
、フ ラン スで は、 瑕疵 担保 責任 は危 険負 担の 法理 によ って 基 礎づ けら れ、 特定 物の 売買 にお いて は、 契約 成立 の時 に所 有権 とと もに 危険 が買 主に 移転 し、 売主 はそ れ以 前の 瑕 疵を 担保 する と解 され てき た。 それ ゆえ
、不 特定 物の 売買 につ いて も、 同じ 論理 によ って 瑕疵 担保 責任 が適 用さ れ るこ とと なる
。す なわ ち、 不特 定物 の売 買は
、そ の特 定︵
=引 渡し
︶の 時に 所有 権と とも に危 険が 買主 に移 転し
、 売主 はそ れ以 前の 瑕疵 につ いて 無過 失責 任を 負う とさ
( )
れた
。な お、 フラ ンス では
、﹁ 瑕疵
﹂︵ vi ce は︶
、滅 失ま たは
51
損傷 を意 味す る﹁ 危険
﹂︵ 給付 危険
︶の 一種 であ るた め、 その 物の 変質 や損 傷な どの 客観 的な 欠陥 とし て捉 えら れ て
( )
いる
。 こ 52
のよ うに
、ド イツ のみ なら ず、 フラ ンス にお いて も、 民法 典は
、特 定物 の売 買の みを 念頭 に瑕 疵担 保責 任の 規 定を 設け た。 そし て、 不特 定物 の売 買が 商品 取引 の中 心と なっ たと きに
、瑕 疵担 保責 任は
、法 定責 任説 のよ うに 特 定物 と不 特定 物の 売買 とを 峻別 する こと なく
、不 特定 物の 売買 をも その 対象 とし て取 り込 むこ とと なっ た。 その 理 由と して は、 物の 瑕疵 につ いて は、 無過 失責 任で ある 瑕疵 担保 責任 の適 用を 広く 認め るこ とが 買主 にと って 望ま し いこ とに 加え
、危 険負 担の 法理 から して も、 不特 定物 の売 買に つい ては その 特定 の時
︵= 引渡 しの 時︶ から 瑕疵 担 保責 任を 適用 する こと に何 の違 和感 もな かっ たこ とが 挙げ られ よう
。 これ に対 して
、法 定責 任説 は、 ドイ ツの 一時 期の 通説 的見 解に 従い
、あ るい はそ の沿 革に 忠実 に、 瑕疵 担保 責任 は特 定物 の売 買を 規律 し、 不特 定物 の売 買は 債務 不履 行責 任に よる とい う図 式に 固執 する
。し かし
、現 実の 社会 に おい ては
、こ のよ うな 図式 に従 う国
︱︱ 世界 のす べて の国 の瑕 疵担 保制 度を 検証 した わけ では ない が︱
︱は
、わ が 国の 判例 法も 含
( )
めて
、皆 無で ある
。そ の意 味で は、 各国 にお ける 瑕疵 担保 法理 の発 展過 程な いし 現実 を捨 象し て、
53
たと えば ドイ ツ民 法を 法定 責任 説に 合わ せる べき であ ると の下 森教 授の 主張 は、 非現 実的 であ ると いえ よう
。
⑷ 小 括 下森 教授 の修 正法 定責 任説 は、 債務 不履 行責 任説 の主 張を 部分 的に は取 り込 み、 柔軟 な解 決を 図ろ うと する もの であ り、 債務 不履 行責 任説 の立 場と の﹁ 相違 はか なり 相対 化さ れて いる
﹂と の評 価も 存在
( )
する
。ま た、 その 沿革 の
54
理解 は適 切で あり
、日 本を 含む 一九 世紀 の民 法典 の規 定が
、特 定物 の売 買の みを 念頭 に制 定さ れた こと は確 かで あ る。 しか し、 修正 法定 責任 説は
、﹁ 特定 物の ドグ マ﹂ を維 持す るた め、 理論 的に は、 法定 責任 説に 対す る批 判が その まま 妥当 し、 その 批判 を回 避す るに は至 って いな い。 のみ なら ず、 現実 の社 会は
、無 過失 責任 であ る瑕 疵担 保責 任 の長 所を 認め
、不 特定 物の 売買 につ いて もそ の法 理を 適用 して いる
。そ の意 味で は、 特定 物と 不特 定物 とで その 適 用規 範を 区別 する 法定 責任 説︵ 修正 法定 責任 説を 含む は︶
、世 界の どこ にも 存在 しな い、 非現 実的 な制 度を 主張 す るも ので ある と解 さ
( )
れる
。
55
︵
︶ 星野 英一
﹃民 法概 論Ⅳ
﹄︵ 良書 普及 会、 一九 七六 年︶ 一三 四頁
。
︵ 1
︶ 打田 俊一
﹁不 特定 物売 買と 瑕疵 担保 責任
﹂法 学セ ミナ ー二 七二 号六 九頁
︵一 九七 七年
︶。
︵ 2
︶ 前稿
︵野 澤﹁ 瑕疵 担保 責任 の比 較法 的考 察︵ 四︶
﹂立 教法 学七 七号 三三 七頁
﹇二
〇〇 九年
﹈︶ にお いて も指 摘し たが
、円 谷峻 教授 は、
﹁今 日、 特 3 定物 ドグ マの 否定 につ いて は、 一般 に好 意的 に受 けと めら れて いる
﹂と する
︵円 谷﹁ 瑕疵 担保 責任
﹂星 野英 一編
﹃民 法講 座
﹄﹇ 有斐 閣、 一 九八 五年
﹈二 五五 頁︶
。
︵
︶ 星野 英一
﹁瑕 疵担 保の 研究
︱︱ 日本
﹂比 較法 研究 二三 号三 六頁
︵一 九六 二年
︶。
︵ 4
︶ 野澤
・前 掲注
︵
︶三 三六 頁以 下参 照。 5
3
︵
︶ すで に繰 り返 し引 用し たが
、円 谷峻 教授 は、 率直 に、 債務 不履 行責 任説 の主 張者 によ る無 過失 責任 と過 失責 任の
﹁接 合﹂ の試 みが
﹁成 功し て 6 いる とは 思え ない
﹂と する
︵円 谷・ 前掲 注︵
︶二 五五 頁︶
。 3
︵
︶ 星野
・前 掲注
︵
︶一 三四 頁。 7
1
︵
︶ 下森 定﹁ 種類 売買 の法 的保 護に 関す る一 考察
﹂成 蹊法 学六 四号 七五 頁︵ 二〇
〇七 年︶
。な お、 同論 文は
、長 く未 公表 のま まで あっ たが
、二 8