独話聴解における中上級学習者の困難点
母語話者との比較から
田代ひとみ・中村則子・大木理恵
【キーワード】・ 独話聴解、要約、学習者と母語話者との比較、量的分析、SCAT 分析
1.はじめに
大学で学ぶ留学生の増加に伴い、講義や研究発表のような長い談話を理解する 能力が求められるようになっている。発表や講義等の長い談話では、聞き手が話 のポイントを理解し、些末な部分は切り捨て、話者の最も伝えたいことを把握す ることが必要とされるが、講義は一方的に話される談話を長時間聞き続ける活動 であり、日本語学習者にとってこのような講義理解は容易ではない。また、水田
(1995)は「読む」「話す」「書く」と異なり、「聞く」という言語行動は自分のペース で行うことが難しいと述べている。
Richards(1983)で指摘されているように、講義の聴解は会話聴解とは異なる 活動である。Richards が挙げた 18 項目の聴解技能のうち、講義のテーマや展開 を把握すること、無関係な内容を聞き分けることは特に重要である。片山(2002)
も、情報の取捨選択と要点の構造化を行うことは欠かせないとしている。また、
講義は聞いただけで終わるのではなく、それに後続する生産活動、すなわち答案 作成・レポート作成等において理解したことが書けるように聞いておくことが必 要とされる(平尾 1999)。こうした生産的な活動につなげるには、話を的確に理 解できる能力を育成することが必要である。
そこで、筆者らは講義の聴解能力の向上につながるような、アカデミック・ジャ パニーズ能力育成のための独話の聴解教材(東京外国語大学留学生日本語教育セ ンター編著 2014)を開発し、実践を行ってきた。
本研究では、中上級レベルの独話教材から一つの談話を取り上げ、学習者がそ れをどのように聞いて理解しているかを探った。そしてそこから浮かび上がって きた学習者の独話聴解における困難点を、日本語母語話者との比較を通じて明ら かにする。また、学習者に対するインタビューからその困難点の原因を探る。
東京外国語大学
留学生日本語教育センター論集 45:77~94,2019
2.先行研究
独話聴解の分野においては、水田(1995)、山下(2000)をはじめとするストラ テジー研究が多く行われており、聞いた内容をどのように理解したかについての 研究はあまり多くない。内容理解を実証的に分析する方法としては、再生法(読 んだもの、または聞いたものをそのまま口にしたり書いたりする)と要約が用い られている。
尹(2000)、金庭(2001)、尹(2002)では、再生法が用いられている。再生法では、
もとのテキストを idea・unit(ほぼ単文に相当する意味のある単位)に分け、実験 後に被験者が再生した文の中で実験文の idea・unit と一致している部分を数え、
得点を与える。尹(2000)では、再生文を学習者の理解度を数値データ化するた めに用いており、どのような再生文を書いたかは分析されていない。金庭(2001)
では、5 つの文からなるニュースを聞かせ、どの文が再生されているかを分析し ている。尹(2002)では、学習者がパターン学習をすることにより、ニュースの 形式スキーマを理解し、構造的に聞くことができるようになり、理解が促進した としている。しかし、これらはニュースを聴解の材料としており、パターンが定 型化しているため、講義とは異なる。
要約は、Rost(1994)が英語学習者の講義理解を測る方法として用いている。
ビデオテープに収められた講義を見せ、話のまとまり(4 ~ 10 分)ごとにテープ を止めて要約文を書かせるという方法を提案している。そして、要約は学習者が 講義をどのように理解したかを反映し、学習者の誤解や混乱の原因を探るのに有 効であると述べている。
一方、Riley・&・Lee(1996)は読解の再生文と要約文を比較した研究を行い、学 習者が重要情報と詳細情報を判別する能力を測るのに、再生法より要約の方が有 効であるとしている。この研究は読解に関するものであるが、独話聴解において も、応用できると考えられる。学習者が聞いた談話をもとに作成した要約を分析 すれば、彼らがどのように談話を理解し、どのような部分を重要情報として選択 しているかを明らかにすることができるのではないだろうか。そこで、本研究で も、要約は学習者が長い独話をどのように理解したかを知る手がかりとして有効 であると考えた。
要約課題は、学習者の聞き方にも影響を与える可能性が考えられる。そこで、
中村・田代(2017)では、独話聴解における要約課題の効果をインタビューを通 じて検証した。その結果、学習者の要約経験の有無により聞き方が異なり、経験
がない学習者は、個々の単語の意味や未知語の存在にとらわれている様子が確認 されたが、経験のある学習者は、自ら話の要点を探し,それらを論理的に関連付 け一貫させるため,能動的な聞き方をするようになるということが明らかになっ た。しかし、学習者が聞いたテキストをどのように理解しているかはまだ解明さ れていない。
読解の要約においては、佐久間(1994)、小宮(1994)が、韓国語母語話者の書 いた文章の要約文を分析している。そこでは日本語母語話者の要約文とは異なり、
結論部分の結尾部を欠く類型の要約文が多いことを指摘しており、原因は読解力 不足であるとしている。独話聴解においても同様の傾向が見られるかを検証する 必要があると考えられる。
なお、日本語での講義要約の研究では、藤村・朴(2010)が、2 名の日本語母語 話者の要約文について、全体の主題文と中心文の CU(情報伝達単位)を詳細に分 析している。しかし、本研究では、学習者の多数のデータを用いて日本語母語話 者と比較しながら困難点を探るため、話の全体ではなく、結論部分に焦点を絞り、
具体的な出来事の説明部分と比較しながら分析を行うことにした。
3.本稿の目的
本研究では、独話を聞いて作成された要約文の分析を通して、学習者と母語話 者の内容比較を行う。また、インタビューを通じて要約内容に違いが起こる理由 を探る。
4.学習者と母語話者の要約の比較(量的分析)
4.1 調査 1 学習者の要約分析 4.1.1 調査方法
調査 1 では、東京外国語大学の留学生日本語教育センターの聴解授業の受講生 49 名を調査対象者とした。日本語能力は中級後半(中上級)で、日本語能力試験 N2 合格程度である。データ採集時は 2017 年から 2018 年(2017 年度春学期と秋 学期)である。
期末テストの問題として、3 分程度(スクリプトは 978 文字)の独話を研究対象 者に聞かせ、それに関する〇×問題、そして QA 問題に答えさせた後に、180 字 程度の要約文を書かせた。QA 問題の内容は、店の本が売れなくなった理由は何 か、店を続けようと思った理由は何か、話者の意見は何か等である。実際に音声
を聞かせたのは、合計 3 回である。辞書の使用は許可した。スクリプト全体の概 要は以下の通りである。
話者が、アメリカのある本屋の経営者に関する記事を紹介する。彼の書店は開 店当時、順調だったが、その後、ネットで本を買う人やデジタルの本を買う人 が増加したため、閉店を決意した。しかし、客の言葉に励まされ、別の場所で 店を開くことにした。客の応援を経営者は嬉しく思った。この記事を読んで、
話者は、ネットやデジタルの普及は便利だが、いくら便利でもなくしてはいけ ないものがあると考えた。
学習者の書いた要約文の中で、話の中の 2 箇所を要約した部分を分析対象とし た。この 2 箇所はどちらも内容の要点として要約に必要なポイントである。一つ 目の箇所はスクリプトの中盤にあり、出来事の具体的な内容を語っている。二つ 目の箇所は話の最後に語られる話者の意見であり、この話の結論部分である。
スクリプトでは、それぞれ以下のようになる。(文はスクリプトの原文通り)
①閉店の知らせを聞いた客の反応の部分
(経営者は客に閉店を知らせた。)すると、400 人もの人から、「店をやめないで」
というメールや電話が来ました。「これからはもっとこの店で本を買う」と約束 する人や、「店のために、お金を出す」と言う人もいました。あるお客さんは、「本 屋はただ本を売るための店じゃない。町の文化のために必要な場所なんだ」と 言いました。
②記事に関する話者の意見の部分
とまあ、こんな記事だったんですが、これを読んで、私も少し考えてしまいま した。ネットで本を買ったりデジタルの本を読むのは本当に便利ですが、便利 さだけを無邪気に喜んでいてもいいのでしょうか。いくら便利でも、私たちの 生活から消えてもいいもの、消してはいけないものがあるのではないでしょう か。みなさんはどう思われますか。
この 2 箇所について、学習者の書いた要約の中から該当する部分を取り上げた。
4.1.2 結果
学習者の要約文の中で、4.1.1 にあげた 2 箇所を、筆者 3 名が「正しい要約」「不 十分な要約」「誤解のある要約」「該当部分なし」の 4 つに分類した(表 1)。図 1 は、
同じ結果をパーセンテージで示したものである。
表 1 学習者の要約に対する評価 客の反応部分と話者の意見部分(単位:人)
正しい 不十分 誤解 なし 合計
客の反応部分 46 3 0 0 49
話者の意見部分 11 5 7 26 49
図 1 学習者の要約に対する評価(客の反応部分と話者の意見部分の比較)
一つ目の箇所(①客の反応部分)については「正しい要約」が 93.9 %、「不十分な 要約」が 6.1 %、「誤解のある要約」及び、「該当部分なし」は 0 %で、全員の要約に 記述があり、正しいものが 9 割以上を占めた。「正しい要約」に分類したのは、「そ の店が町のために大切な場所だと言い(S1)」「町の人々はそのことを聞くとすぐ トムさんにメールを送って(S2)」のような要約である。「不十分な要約」に分類し たのは、「町の文化のために(店をまた始めることにした)(S3)」「トムさんにお客 さん達が激しく反応した(S4)」等である。
一方、二つ目の箇所(②話者の意見部分)は「正しい要約」が 22.4 %、「不十分な 要約」が 10.2 %、「誤解のある要約」が 14.3 %、「該当部分なし」が 53.1 %と一つ目 の箇所とは大きく異なる結果となった。こちらの箇所で「正しい要約」に分類し たのは、「記事を読んだ人は、新しいものが便利だが、消してはいけないものが あるのを忘れてはいけないと思った。(S5)」等である。「不十分な要約」に分類した のは、「個人の便利だけではなく文化に考えたほうがいいである。(S3)」等で、「誤 解のある要約」に分類したのは、「この状況を見ると、デジタル本は幾ら便利でも 紙本は消してもよくない。(S6)」等である。前者は「文化に考えたほうがいい」と いう表現が曖昧であること、後者は、消してはいけないものは紙の本だと書かれ に語られる話者の意見であり、この話の結論部分である。
スクリプトでは、それぞれ以下のようになる。(文はスクリプトの原文通り)
①閉店の知らせを聞いた客の反応の部分
(経営者は客に閉店を知らせた。)すると、400 人もの人から、「店をやめないで」と いうメールや電話が来ました。「これからはもっとこの店で本を買う」と約束する人や、
「店のために、お金を出す」と言う人もいました。あるお客さんは、「本屋はただ本を 売るための店じゃない。町の文化のために必要な場所なんだ」と言いました。
②記事に関する話者の意見の部分
とまあ、こんな記事だったんですが、これを読んで、私も少し考えてしまいました。
ネットで本を買ったりデジタルの本を読むのは本当に便利ですが、便利さだけを無邪 気に喜んでいてもいいのでしょうか。いくら便利でも、私たちの生活から消えてもい いもの、消してはいけないものがあるのではないでしょうか。みなさんはどう思われ ますか。
この2箇所について、学習者の書いた要約の中から該当する部分を取り上げた。
4.1.2 結果
学習者の要約文の中で、4.1.1にあげた2箇所を、筆者3名が「正しい要約」「不十分 な要約」「誤解のある要約」「該当部分なし」の4つに分類した(表1)。図1は、同じ結 果をパーセンテージで示したものである。
表1 学習者の要約に対する評価 客の反応部分と話者の意見部分(単位:人)
正しい 不十分 誤解 なし 合計
客の反応部分 46 3 0 0 49
話者の意見部分 11 5 7 26 49
図1 学習者の要約に対する評価(客の反応部分と話者の意見部分の比較)
22.4
93.9
10.2
6.1
14.3 53.1
0% 20% 40% 60% 80% 100%
話者の意見部分
客の反応部分 正しい
不十分 誤解 なし
ており、話者が言及しているものより範囲が狭い(話者は紙の本や本屋を消して いけないものの例として出しており、さらに多くの消してはいけないものについ て述べている)ことから、「誤解のある要約」と分類した。
一つ目の箇所は、前述したように時系列に具体的な内容を語っている部分で、
難しい語彙もなく、談話の流れから比較的予測しやすい内容である。ここでは学 習者もほぼ問題なく要約文に内容を記述することができたと考えられる。一方、
二つ目の箇所は、一つ目の箇所と同じく難しい語彙が使用されているわけではな いが、「該当部分なし」の割合が 53.1 %にも上る。話者の主張を含む結論部分がな ぜ欠落するのかについては、4.3 で考察する。
4.2 調査 2 母語話者の要約分析 4.2.1 調査方法
調査 2 では、東京近郊の大学で日本語教育関連の授業を受講している学生(以 後、母語話者)26 名を調査対象者とした。データ採集時は 2018 年である。デー タ採集は、テストではなく、授業の一環として行なったが、採集方法は 4.1.1 と 同様である。
4.2.2 結果
母語話者が書いた要約について、4.1.2 と同様に、筆者 3 名が「正しい要約」「不 十分な要約」「誤解のある要約」「該当部分なし」の 4 つに分類した(表 2)。図 2 は、
同じ結果をパーセンテージで示したものである。
表 2 母語話者の要約に対する評価 客の反応部分と話者の意見部分(単位:人)
正しい 不十分 誤解 なし 合計
①客の反応部分 23 0 0 3 26
②話者の意見部分 19 1 3 3 26
4.2.2 結果
母語話者が書いた要約について、4.1.2と同様に、筆者3名が「正しい要約」「不十分 な要約」「誤解のある要約」「該当部分なし」の4つに分類した(表2)。図2は、同じ結 果をパーセンテージで示したものである。
表2 母語話者の要約に対する評価 客の反応部分と話者の意見部分(単位:人)
正しい 不十分 誤解 なし 合計
①客の反応部分 23 0 0 3 26
②話者の意見部分 19 1 3 3 26
図2 母語話者の要約に対する評価(客の反応部分と話者の意見部分の比較)
一つ目の箇所(①客の反応部分)については「正しい要約」が88.5%、「不十分な要約」
及び、「誤解のある要約」が無し、「該当部分なし」が11.5%と、ほぼ全員の要約に記述 があり、正しいものが9割近くを占めた。
また、二つ目の箇所(②話者の意見部分)は「正しい要約」が73.1%、「不十分な要約」
が3.8%、「誤解のある要約」及び、「該当部分なし」がそれぞれ11.5%となった。これは、
学習者の要約で二つ目の箇所(②話者の意見部分)の欠落が多かったことと比較すると、
大きく異なる結果である。
4.3 学習者と母語話者の比較 4.3.1 結果
客の反応部分については、学習者も母語話者も約9割が正しい要約を書いており、顕 73.1
88.5
3.8 11.5 11.5 11.5
0% 20% 40% 60% 80% 100%
話者の意見部分 客の反応部分
正しい 不十分 誤解 なし
図 2 母語話者の要約に対する評価(客の反応部分と話者の意見部分の比較)
一つ目の箇所(①客の反応部分)については「正しい要約」が 88.5 %、「不十分な 要約」及び、「誤解のある要約」が無し、「該当部分なし」が 11.5 %と、ほぼ全員の 要約に記述があり、正しいものが 9 割近くを占めた。
また、二つ目の箇所(②話者の意見部分)は「正しい要約」が 73.1 %、「不十分な 要約」が 3.8 %、「誤解のある要約」及び、「該当部分なし」がそれぞれ 11.5 %となっ た。これは、学習者の要約で二つ目の箇所(②話者の意見部分)の欠落が多かっ たことと比較すると、大きく異なる結果である。
4.3 学習者と母語話者の比較 4.3.1 結果
客の反応部分については、学習者も母語話者も約 9 割が正しい要約を書いてお り、顕著な違いは無いことから、ここでは話者の意見部分について、学習者と母 語話者の結果を比較する。
表 3 学習者と母語話者の 話者の意見部分の要約に対する評価比較 (単位:人)
正しい 不十分 誤解 なし 合計
学習者 11 5 7 26 49
母語話者 19 1 3 ・3 26
4.2.2 結果
母語話者が書いた要約について、4.1.2と同様に、筆者3名が「正しい要約」「不十分 な要約」「誤解のある要約」「該当部分なし」の4つに分類した(表2)。図2は、同じ結 果をパーセンテージで示したものである。
表2 母語話者の要約に対する評価 客の反応部分と話者の意見部分(単位:人)
正しい 不十分 誤解 なし 合計
①客の反応部分 23 0 0 3 26
②話者の意見部分 19 1 3 3 26
図2 母語話者の要約に対する評価(客の反応部分と話者の意見部分の比較)
一つ目の箇所(①客の反応部分)については「正しい要約」が88.5%、「不十分な要約」
及び、「誤解のある要約」が無し、「該当部分なし」が11.5%と、ほぼ全員の要約に記述 があり、正しいものが9割近くを占めた。
また、二つ目の箇所(②話者の意見部分)は「正しい要約」が73.1%、「不十分な要約」
が3.8%、「誤解のある要約」及び、「該当部分なし」がそれぞれ11.5%となった。これは、
学習者の要約で二つ目の箇所(②話者の意見部分)の欠落が多かったことと比較すると、
大きく異なる結果である。
4.3 学習者と母語話者の比較 4.3.1 結果
客の反応部分については、学習者も母語話者も約9割が正しい要約を書いており、顕 73.1
88.5
3.8 11.5 11.5 11.5
0% 20% 40% 60% 80% 100%
話者の意見部分 客の反応部分
正しい 不十分 誤解 なし
図 3 学習者と母語話者の 話者の意見部分の要約に対する評価比較 上記の表と図からわかるように、結論である話者の意見について、学習者は要 約に含まなかったものが 5 割以上あるのに対して、母語話者は正しく理解し要約 に含めている割合がはるかに高い。
上記の評価比較について、「正しい要約」、「不十分な要約」、「誤解のある要約」、
「該当部分なし」の割合に学習者と母語話者で差があるかを見るためχ2検定、及 びフィッシャーの直接確率検定を行った。その結果、どちらの検定でも、母語話 者と学習者の書いた要約における 4 つの分類の比率は、高度に有意差が認められ た。(***p<0.000)。
4.3.2 考察
4.1.2 及び 4.3.1 の図を見ると、53.1 %もの学習者が話の結論部分(②話者の意見 部分)を書いていない。これは、結論部分がよく聞き取れなかったから要約に書 かなかったのではないかという疑問が生じるが、要約作成の前に書いている「話 者の意見は何か」という QA 問題に対しては全員が記述している。このことから、
その部分を聞いてはいるものの、話全体の中での位置づけができず、要約に必要 な部分とみなしていなかった学習者もいるのではないかと考えられる。また、学 習者に「誤解のある要約」が 14 %あった。これは、話の中で話者の意見を要約に 入れなければならないと思ったが、内容を正しく理解できなかったことが示唆さ れる。
一方、母語話者は「正しい要約」の割合が 73.1 %であり、22.4 %の学習者と比 較すると、はるかに多い。母語話者はこの部分を要点の一つとみなした割合が高 著な違いは無いことから、ここでは話者の意見部分について、学習者と母語話者の結果 を比較する。
表3 学習者と母語話者の 話者の意見部分の要約に対する評価比較 (単位:人)
正しい 不十分 誤解 なし 合計
学習者 11 5 7 26 49
母語話者 19 1 3 3 26
図3 学習者と母語話者の 話者の意見部分の要約に対する評価比較
上記の表と図からわかるように、結論である話者の意見について、学習者は要約に含 まなかったものが5割以上あるのに対して、母語話者は正しく理解し要約に含めている 割合がはるかに高い。
上記の評価比較について、「正しい要約」、「不十分な要約」、「誤解のある要約」、「該当 部分なし」の割合に学習者と母語話者で差があるかを見るため χ2検定、及びフィッシャ ーの直接確率検定を行った。その結果、どちらの検定でも、母語話者と学習者の書いた 要約における4つの分類の比率は、高度に有意差が認められた。(***p<0.000)。
4.3.2 考察
4.1.2及び4.3.1の図を見ると、53.1%もの学習者が話の結論部分(②話者の意見部分)
を書いていない。これは、結論部分がよく聞き取れなかったから要約に書かなかったの ではないかという疑問が生じるが、要約作成の前に書いている「話者の意見は何か」と いうQA問題に対しては全員が記述している。このことから、その部分を聞いてはいる
73.1 22.4
3.8 10.2
11.5 14.3
11.5 53.1
0% 20% 40% 60% 80% 100%
母語話者 学習者
正しい 不十分 誤解 なし
い。読解における要約を分析した佐久間(1989:236)は、一般性の強い、抽象的 な話題を示す表現や、問いかけを示す文末表現等が母語話者の要約文に多く残存 する傾向があるとしているが、聴解でも同様な結果になったと言える。
以上のことから、話の結論で述べられている話者の意見部分は、母語話者には 要点とみなされる割合が高いが、学習者には、語彙が難しくなくても、正確に解 釈し、要約の要点として捉えるのが難しいことが明らかになった。
5.学習者に対するインタビュー(質的分析)
4.3 で学習者、母語話者の要約文の量的分析を行った。その結果、学習者は母 語話者と比較して、聞いた内容の要約に話の結論部分で述べられた話者の意見を 含めない割合が多いことが明らかになった。そこで本章では、学習者にインタ ビューを行い、学習者がなぜ結論部分を要約に書くべき重要なポイントとして選 択しなかったのかを明らかにする。
5.1 分析方法
本研究では、Steps・for・Coding・and・Theorization(以下 SCAT)(大谷 2008a:
27-44,・2008b:340-354,・2011:155-160)の手法を用いて分析する。SCAT は、比較 的小規模の質的データの分析にも応用可能とされる分析手法である。データを〈1〉
データの中の着目すべき語句、〈2〉それを言い換えるためのデータ外の語句、〈3〉
それを説明するための語句、〈4〉そこから浮かび上がるテーマ・構成概念という 4 ステップに分けてコーディングし(資料参照)、さらにそこから得られた構成概 念を「意味のつながりをもたせて、一筆書きのように一筋につないだ(大谷 2011:
159)」ストーリーラインとして記述する。分析過程を明示化することにより省察 可能性を高めることができ、妥当な結論を導くことができるとされる。
5.2 対象とする学習者
インタビューの対象者は、2017 年度秋学期に本センター全学日本語コースの 500 レベル(中上級クラス、日本語能力試験 N2 程度)の聴解クラスを受講した学 習者の中の 9 名である。学習者は、漢字圏 1 名、非漢字圏 8 名である。本稿で分 析するのは、9 名のうちの 4 名であり、そのうち、正しい結論部分を書いた学習 者が 1 名、結論部分を書かなかった学習者が 2 名、結論部分を誤解した学習者が 1 名である。なお、インタビューに応じた学習者 9 名のうち、結論部分を要約に
書いたのは 1 名だけであった。
5.3 インタビューの手順
本稿で分析している課題は、期末試験に使われたものである。インタビューは、
期末試験後に、個人面談方式、半構造化インタビューの形で行った。時間は一人 約 20 分である。インタビュー開始から終了までを全て録音し、文字起こしを行っ たものをデータとして使用した。主な質問項目は、以下の通りである。
1)今までに要約を書いたことがあるか。
2)要約は難しかったか。難しいとすれば、何が難しかったか。
3)どのようにして要約のポイントを選択したか。
4)この話の中のポイントは何だったか。
5)質問 5(話者の意見を説明する問題)には何を書いたか。
6)(質問 5 の答えを要約に入れた学生には)なぜこの部分を要約に入れたのか。
(質問 5 の答えを要約に入れなかった学生には)なぜこの部分を要約に入れな かったのか。
5.4 結果(学習者のストーリーライン)
以下に学習者 4 名(S7 ~ S10)のストーリーラインのうち結論部分に関する内 容を、書かれた要約文を参照しながら検討する。
S7 (話者の意見部分を書かなかった学習者)
話のポイントは、理由や話者の意見であると考えているが、実際にはこの話で は具体的な事実を重視した。なぜなら、話者の意見の部分はスピードが速く感 じられ、理解が不十分だったからである。一方で具体的な出来事は理解が容易 と実感している。教師の指摘があるまで話者の意見部分を要約に書かなかった ことに気づかなかった。この話では話者の意見部分は重要ではないと思う。要 約のポイントをどのように選択したかは言語化できない。
S7 は、話を聞くときには、理由や話者の意見が大事なポイントであるという 認識を持っているにもかかわらず、この話では、選択は無意識に行われ、話者の 意見をポイントとして選択せず、要約に話者の意見を全く書かなかった。その理 由は、話者の意見の部分のスピードについていけず、十分に理解できなかったか
らであると答えている。実際に質問 5 の答えも「確かにデジタル本は便利だが、
生活のスタイルを簡単に変えるわけではない」というもので、言いたいことが不 明瞭な答えであった。聞いた内容が未消化なままで答えを書いたと思われる。一 方、具体的な説明の部分はよく理解できたため、要約に詳しく書いた。つまり、
要約にはよく理解できたことを書き、内容理解に自信が持てない部分は、重要な ポイントとして選択しなったということである。
S8 (話者の意見部分を書かなかった学習者)
自分は語彙力が足りないと思っており、聞き取り時には大事な言葉より新しい 言葉に注目している。その理由は、辞書の利用で未知語がわかれば、内容がつ かめると期待しているからだ。聞いている時は、因果関係とテーマが重要だと 思いながら聞いている。このテキストでは話者の意見部分ではなく、出来事の 因果関係がポイントだと思っていた。インタビューで教師から話者の意見部分 が話の大切なポイントだということを聞き、驚いた。意見部分は、メモをとる ことができ、質問・5 には正確に答えを記述できたが、実はあまり理解できてい なかった。自分の母語でわからないと具体的にイメージできない。自分は読書 経験が少なく、以前から話をまとめることが苦手である。
この学習者は、インタビューの中で「聴解のスピード?難しいテキストなら、
スピードは速いだと思いますが、簡単なテキストなら、大丈夫だと思います。た ぶん今も言葉が足らない。単語が。」と述べており、語彙が足りないために意味 処理に時間がかかり、スピードに対処できないことがあるようである。そのため、
いつも新しい言葉に注目しており、それがわかれば、内容がつかめると思ってい るので、辞書を使って言葉の意味を調べている。因果関係が大切であると思って いて、この話では、なぜ本屋を閉店しなければならないかという因果関係がこの 話の重要な点だと思っていた。したがって、話者の意見がこの話の結論であると いうことは予想外のことであった。しかし、質問・5 には、正確な答えが書かれて いたので、その答えの意味を説明するように求めると、実は意味がよくわからな かったが、メモに書かれていた言葉をそのまま書いたと述べた。実際、書かれた 質問・5 の答えは、原文(聞いた文)とほぼ同じであったが、これは短期記憶に頼っ て書かれたメモによると推測される。また、質問・5 で書いた話者の意見を要約に 書かなかった理由については、母語でわからないこと、つまり深い理解に至らな
いことは要約に書けないということであった。これは要約という作業においては、
学習者は聞いた内容を一度自分の中に取り込み、それを再構築して要約文を書い ていることを意味しており、単に質問に答えるより、さらに深い理解が求められ ると解釈できる。なお、この学習者は、日本語のみならず、母語においても話を まとめることが苦手であったと述べ、自らの読書経験の乏しさがまとめる力の欠 如に影響していると自己分析している。
S9 (話者の意見部分を誤解して書いた学習者)
話のポイントは、順序の説明や話者の意見だと思っている。また、QA 問題を 活用してポイントを選択する。結論部分に話者の意見があるというこの話の構 成は理解していた。試験後の答え合わせで結論部分を反対の意味に誤解してい たことに気づいた。その理由は複雑な文末表現があったからである。そのよう な複雑な表現を聞いて、「困った」と思ったが、後から、一生懸命に意味を考えた。
しかし、うまくいかなかった。このような表現は、能力試験 N1 の準備のため に勉強し、授業でも指導を受けたが、やはり理解が難しかった。
この学習者は「最初にこの人が新聞記事についての話だから、その後は自分の 意見を話して、何がいいなと(原文まま。どうしたらいいかを)たぶん私たちに 伝えたい、伝えたいと思います。」と述べており、この話の構成を理解し、要約 文には要約のポイントとして意見部分を選択している。しかし、意見を述べると きに使われる複雑な文末表現(~のだろうか、~のではないだろうか ~てはい けない ~てもいい 等)を正しく理解することができず、反対の意味に誤解し てしまった。このような文末表現については、文法の授業で教師から丁寧な指導 を受けたが、耳で聞いて瞬時に意味を理解することはできなかった。質問・5 の 答えにも、「…ネットで本を買ったり電子たる本(原文まま。デジタル本の意味か)
を読んだりすることが便利だが、無邪気によろこんでいてもよろしい。…」と、
誤解した内容が書かれていた。インタビューの際に、再度、話者の意見はどのよ うなものであったか説明を求めると、自分の理解に自信が持てず、文末が肯定な のか、否定なのかはっきりしない曖昧な回答をした。
S10 (話者の意見部分を正しく書いた学習者)
読解要約と比較して聴解要約は困難であるが、読解要約の指導を受けた経験か ら、キーワードを決めるという意識がある。内容理解のために様々な資源(QA 問題、タイトル、プレタスク、話し合い)を活用している。要約に慣れるとともに、
ポイントの取捨選択が重要だと認識するようになった。多く選びすぎる場合も あるが、大事なポイントを逃すことはないという自信がある。この話では、話 者の意見は要約に必須であると認識しており、簡略化してでも入れるべきだと 思っている。その理由は、母語にもある同様な談話構造を想起しているからで ある。談話構造にはさまざまなものがあり、事実の説明だけで終わり、話者の 主張を含まないものもあるが、この話については話者の意見が重要であると正 しく理解した。なぜそう思ったかについては読書経験を活用している可能性が あると内省している。
この学習者は話を聞いて、母語でも見られる同様の談話構造を想起し、この話 者の意見部分ははずせないポイントであると認識した。「この人は…自分の意見 を説明するために、前の話を使ったと思います。」と述べている。そのため、字 数に余裕はなかったが、最後に「本屋は消してはいけないものの一つだ」という 一文を入れた。質問・5 の答えでは、もっと詳しく話者の意見を説明し、最後に「消 えていいものはありますが、消してはいけないものもあります」と書いており、
文末表現も正しく理解していた。
5.5 考察
以上、SCAT 分析から抽出した 4 名のストーリーラインを検討した結果、要約 に話者の意見部分を入れた S9、S10 には、本屋のエピソードを紹介した上で話者 が意見を述べるという全体の構成への気づきがあった一方で、話者の意見部分を 書かなかった S7、S8 からは全体の構成への言及はなかった。S7、S8 は、話の筋 を追い、その中から因果関係を見つけようとする聞き方にとどまっている。一般 に見られる談話の中には、「A だから B であった」「C なのは、D だからである」と いうように因果関係を説明することが話の主旨であるものもあるが、本研究で対 象とした話は、因果関係を含む事例に対する話者の意見を述べるものであり、意 見部分が話の結論である。談話構造に注目するかどうかが結論を正しく捉えられ るかどうかに影響した可能性がある。
また、S7、S8 が述べたように、要約にはよくわかったことを書き、深い理解 に至らなかったことは書かない傾向が見られ、学習者が話の主旨を捉えられたか どうかは要約を書かせることによって明らかになることが改めて示された。
S7 と S8 は話者の意見部分を述べるスピードが速すぎて、意味が十分に理解で きなかったと述べた。S8 の場合は、質問・5 の答えに正しく答えているため、教 師は意見部分の理解はできたと判断しがちであるが、意味がわからなくても質問 には答えられるということである。一方、S9 も意見部分で使われる表現に苦手 意識を持っており、自分の理解に自信が持てなかった。このように 3 名が意見部 分の理解に困難を感じたことから、意見部分で使われる表現(特に文末表現)は、
具体的な出来事を述べた部分に比べて、理解が難しいことがわかった。
しかし、S9 の場合は、談話構造への気づきがあったため、結果として誤った 要約となったものの、話者の意見部分を要約に入れている。談話の主旨を把握す るためには、談話構造への気づきが必要であると言える。ただし、それだけでは 不十分で、そこで述べられる意見の文を正確に理解することも求められると言え よう。
さらに、要約に意見部分を含めなかった S8、要約に正しく意見部分を入れた S10 がインタビューでの内省の過程で、それぞれ読書経験の多寡が要約能力に影 響する可能性に言及していたことは興味深い。
6.おわりに
本研究では、独話を聞いて作成された中上級レベルの学習者と母語話者の要約 文を比較した。その結果、学習者は、具体的な部分に関しては 93.9 %が要約に 正しく記述できていたが、話の結論部分(話者の意見部分)に関しては 53.1 %が 要約に書かなかった。一方、母語話者は話の結論部分を正しく要約に入れていた 割合が 73.1 %であり、結論部分を正しく要約に入れられた 22.4 %の学習者と比 較すると、はるかに多い。以上のことから、話の結論で述べられている話者の意 見部分は、母語話者には要点とみなされる割合が高いが、中上級レベルの学習者 には、要約の要点として捉えるのが難しく、要約に入れない割合が高いことが明 らかになった。
本研究のインタビューの SCAT 分析からは、談話構造への気づきが話の主旨 の把握につながる可能性が示唆された。また、内容が十分に理解できたものは要 約のポイントとして選択されやすい一方で、理解が不十分である部分は要約のポ
イントに選択されにくいことがわかった。さらに、話者の意見部分の文末表現等 が理解の困難さに影響していることが示された。
聴解教育への示唆としては、〇×問題や QA 問題に答えさせるだけでは内容理 解の確認が不十分であり、要約のような活動を取り入れることによってより正確 に学習者の理解が確認できることが挙げられる。また、中級から中上級レベルで は、日本語の談話の構造を意識させるために、さまざまな構造を持つものを聞か せることも必要であろう。さらに、意見を述べる際によく用いられる文末表現を、
聞いて即座に理解できるように慣れさせる指導は、苦手意識を持っている学習者 に役立つと考えられる。
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資料 SCATの4ステップコーディングの例
Difficulties in Listening to Lectures for Middle-Advanced Learners:
Comparison of summaries by Learners of Japanese and native speakers of Japanese TASHIRO Hitomi, NAKAMURA Noriko, OOKI Rie
Key Words: listening to lectures, summary, comparison of the learners and the native speakers, quantitative analysis, SCAT analysis
In this research, we compared summaries written by middle-advanced level learners of Japanese and Japanese native speakers after they had listened to a short lecture. The results showed that most of the learners could correctly report the factual elements of the lecture, while half of the learners could not write about the conclusions (the section concerning the speakerʼs opinion) in their summary. On the other hand, 70% of the native speakers correctly summarized the conclusions. From the above, summarizing the speaker’s opinion was difficult for middle-advanced level learners, whereas the opinion section in the conclusion was regarded as an important part for native speakers. We conducted interviews with some learners who wrote the summaries to find out why they wrote or did not write the opinion section. From the analysis of the interview, it was suggested that it was difficult to summarize parts which were poorly understood, and the complicated expressions used at the end of the opinion part increased the difficulty of understanding.
For education, to assess learnersʼ understanding it would be useful not only to use “T/
F questions” and “questions about the content” but also to include summaries.