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オウブンシャホールディング事件と法人税法二二条 二項

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(1)

オウブンシャホールディング事件と法人税法二二条 二項

その他のタイトル Construction of Corporate Tax Law §22 II on Obunsha Holding Company Case

著者 藤原 拓哉

雑誌名 關西大學法學論集

54

6

ページ 1338‑1371

発行年 2005‑03‑10

URL http://hdl.handle.net/10112/12202

(2)

1

2東京地裁の判断

3東京高裁の判断

4

1法人税法二二条二項について

2

本件への法人税法二二条二項の適用

3第三者割当増資に係る課税関係

オウブンシャホールディング事件と 法人税法二二条二項

0

(3)

一審と控訴審で結論が分かれ︑現在上告中である︒ ればならない︒

0

租税回避は︑通常︑﹁私法上の選択可能性を利用し︑私的経済取引プロパーの見地からは合理的理由がないのに︑

通常用いられない法形式を選択することによって︑結果的には意図した経済的目的ないし経済的効果を実現しながら︑

通常用いられる法形式に対応する課税要件の充足を免れ︑もって租税負担を減少させあるいは排除すること﹂と説明 すると︑同一の経済的効果を目的として︑通常考えられる私法上の法形式を選択した者と︑異常な法形式を選択し

た者との間で︑租税負担の差異が生じた場合に︑納税者間の公平の観点から問題となる︒この問題に対する姿勢とし て︑公平負担の観点から︑異常な取引を行った者の行為・計算を税務上否認するという姿勢がとられる一方︑租税法 律主義の観点からは︑そのような擬制は法律にその根拠を求めなければならず︑かつ必要最小限でなければならない と考えられる︒すなわち︑租税回避の問題は︑公平負担の原則と租税法律主義の緊張関係のうちに理論構成されなけ 最近︑オウブンシャホールディング事件︵法人税更正処分等取消請求控訴事件︵平成︱四年︵行コ︶第一号・東京

高裁平成一六年一月一八日判決︶が注目されている︒

本件は︑国際間の同族関係会社群を利用し︑旧法人税法五一条の特定現物出資及び第三者割当増資という私法上の

法形式を仕組んだ結果として︑テレビ会社等株式の多額の含み益に対する課税を回避できたことが問題とされた︒第

(4)

本件は︑所得課税上の重要な論点を含み︑かつ︑控訴審において従来にない新しい判断基準が示されたこともあっ て︑今後の租税法解釈に与える影響も大きいと思われる︒本稿では︑本件の提起する諸問題について︑法人税法ニニ

本件は︑内国法人の所有するテレビ会社株式の含み益が︑外国子会社の設立およびその子会社による第三者割当増

︵実質的に︶移転したことが問題とされた︒事実の概要は以下のとおりである︒

オウブンシャホールディングは︑センチュリー文化財団を大株主とする同族会社である︒オウブンシャホールディ ングは︑平成三年九月四日に︑自らの保有するテレビ朝日株式および文化放送株式︵帳簿価額は約一五︑五億円であ

( 3

)  

り︑当時の時価は約一

0

0億円であった︶その他現金をもってオランダに法人税法五一条に基づき特定現物出資を行

01

0 %出資のアトランティック社を設立した︒

センチュリー文化財団は︑平成七年二月一三日︑

アトランティック社株主総会はアスカファンド社に対し第三者割当増資を行う旨の決議を行い︑この決議に アトランティック社は同年二月一五日に払い込んだ︒

オウブンシャホールディングのアトランティック社に対する持ち株割合は︑

低下した︒増資時点での︑ 資を通して︑外国法人に

アトランティック社の資産であるテレビ会社等株式の時価は︑日本円で約二八

0億円で l

条二項の解釈論を中心に︑論ずることとする︒

10

0 %から六︑二五%に

オランダに一

0

0%出資の子会社アスカファンド社を設立した︒

二 ︱

o

O )

(5)

〔相関図〕

オウブンシャホールディング事件と法人税法二二条二項

~

(財)セン

イ [ 贔 ― 文

149.7%オウプンシャホー 特定現し出資

出資 ルデイング

---~ 代 表 取 締 役 乙 平成3年 94日

取 締 役 相 談 役 甲

割当て

l平成7213

‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑-~ ―‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑l‑‑‑‑

設立(平成7213

‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑+ ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑」‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑i‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑<‑‑‑

' l  

旺文社メ―二了yl

代 表 取 締 役 甲 監 査 役 乙

アトランティッ ク社

代表取締役 代表取締役

理事長 評議員

オランダ

払い込み

平成7215

甲乙

, . ,

̀  

JGI 取 締 取 締

̲̲̲̲̲̲̲̲̲̲̲̲̲̲ ,...  のオランダ法人に約二八六億円で売却し︑

アトラン

ティック社は自己の保有するテレビ会社株式等を別

0

日 ︑

なお︑訴訟では認定されていないが︑以下の事実 オウブンシャホールディングに帰属したものとして

テレビ朝日等株式の流れ 出資関係

行為計算の否認﹂

の規定を適用し︑含み益が実現し

れた︒課税庁は法人税法二二条二項の﹁無償による

資産の譲渡﹂

の規定及び同一三二条の

﹁同族会社の

更正処分を行った︒オウブンシャホールディングは

( 4

)  

これを不服として出訴した︒

アトラン

該株式に対する課税を逃れるという結果が問題とさ るアスカファンド社に実質的に移転し︑わが国の当 グの持ち株割合の低下という形でオランダ法人であ ランティック社に対するオウブンシャホールディン していたテレビ会社株式等の多額の含み益が︑

オウブンシャホールディングが従前保有

(6)

の段階では未だ増資の効果は生じていないのであって︑

すれば︑それは︑法形式においては︑

資を実行し︑

ティック社には帳簿価額との差額約二七五億円が生じた︒オランダでは︑法人間での株式の譲渡益が非課税とされて いることから︑このタイミングでアトランティック社に課税関係は生じていない︒さらには︑当該テレビ会社株式は︑

いくつかの法人に譲渡された後︑最終的には︑日本国内のグループ外の会社に取得された︒

第一審の東京地裁は︑本件について以下のように判示し︑法人税法二二条二項の適用を否定した︒また︑当時の法 五一条の下︑本件のような場合に出資資産の含み益がわが国の課税権から離れることは予測可能であったと指摘する︒

アトランティック社の機関である同社の株主総会が内部的意思決定をしたものにほかならず︑そ

アスカファンド社が本件増資により資産価値を取得したと アトランティック社の執行機関が本件増資決議を受けて同社の行為として増 アスカファンド社が新株の引受人として払込行為をしたことによるものである︒そうすると︑本件増 アトランティック社自体による本件増資の実行という行為とそれに応じてアスカファンド社がアトラン ティック社に対して新株の発行をするという行為により構成されており︑本件増資の結果︑

アスカファンド社の払

込金額と本件増資により発行される株式の時価との差額がアスカファンド社に帰属することとなったことを取引的 行為としてとらえるとすれば︑本件増資をして新株の払込みを受けたアトランティック社と有利な条件でアトラン ティック社から新株の発行を受けたアスカファンド社の間の行為にほかならず︑原告はアスカファンド社に対して

何らの行為もしていないというほかない︒﹂︵判旨①︶ 2東京地裁の判断

(7)

﹁原告については本件決議以前には抽象的な含み益があったのみで 決の事案のうち︑第三者指名権が付与された株式に関する部分においても︑少ないとはいえプレミアムが発生する 形で新株が発行される会社の株式を有していた以上︑増資決議がされる以前の時点において当該納税者も有してい たものというべきである︒︶︑原告所有の株式が具体的に増価したとみることはできないから︑本件決議によって譲 渡したとみるに足りる具体的な増価分は存在しないというほかない︒すなわち︑最高裁昭和四一判決の事案におけ る第三者指名権の行使と本件決議とは新株を引き受けるべき者を指定している点においては共通しているが︑前者 においては︑それによって譲渡したものとみるべき具体的利益が存在したのに対し︑後者においては︑それが存在 していない点に大きな差違が存するのである︒また︑双方ともに株式の割当自体は増資会社が行うものであって︑

旧株主は新たな引受人との間で直接的な行為をしない点においても共通しているが︑前者においては︑いったん旧 株主に新株引受権が具体的に帰属し︑それが付着した旧株式自体を旧株主が譲渡することが可能であったことに着 目して︑第三者指名権の行使をそのような譲渡行為と同視することが可能であったのに対し︑後者の場合には︑原 告と︽甲四︾︵筆者注こ

Iスカファンド社︶との間には直接的な行為があったと同視し得る事情は見当たらないの

﹁なお︑上記の結論によると︑もともと原告が保有していた株式に関する多額の含み益については︑何らの課税 もされない結果が生じることとなるが︑これは︑法五一条がその定める特定出資についていわゆる圧縮記帳による 課税の繰延べを認め︑しかも平成一

0年改正前には外国法人の設立についても同条の適用が認められていたことに

端を発するものである︒すなわち︑同条の圧縮記帳の方法により保有株式を簿価で現物出資して外国法人を設立し

~

︵このような含み益は︑最高裁昭和四一年判

(8)

これに対し︑控訴審である東京高裁は︑

3東京高裁の判断

た後︑当該外国法人が現物出資された株式をやはり簿価によって他の外国法人に譲渡した場合︑当該譲渡にはわが 国の課税権が及ばないことから︑結局︑本件と同様︑圧縮記帳によって課税が繰り延べられた含み益については︑

わが国では課税がされないままで終わらざるを得ないのである︒本件における税務上の事態は︑アトランティック 社がその保有するテレビ朝日等の株式を簿価でアスカファンド社に譲渡した場合にも生ずることであり︑その場合 には原告に益金が生じたとみる余地は全くないのであるし︑また︑そのような事態が生ずることは︑圧縮記帳の方 法により外国法人の設立を許した場合には容易に想定し得るにもかかわらず︑法が何らの措置を講じていないこと からすると︑法自体がやむを得ないものとして放置していたといわざるを得ないのであるから︑結局︑本件のよう な事態の起こることは︑当時の法人税法上やむを得なかったと考えられるのである︒﹂︵判旨③︶

る判断を下した︒

﹁上記認定事実の下においては︑

意思を相通じた結果にほかならず︑被控訴人は︑

アトランティック社における上記持分割合の変化は︑上記各法人及び役員等が アトランティック社の資産につき︑株主として保有する持分一六分の一五及び株主としての支配権

アスカファンド社がこれらを取得したと認定評価することができる︒そして︑被控訴人が上記資産に係る 株主として有する持分をアスカファンド社からなんらの対価を得ることもなく喪失し︑同社がこれを取得した事実

一転︑控訴人である税務署長の主張を認め︑法人税法二二条二項を適用す

アスカファンド社との合意に基づき︑同社からなんらの対価を得

(9)

オウブンシャホールディング事件と法人税法二二条二項

は︑それが両者の合意に基づくと認められる以上︑両者間において無償による上記持分の譲渡がされたと認定する

﹁両者間における無償による上記持分の譲渡は︑法二二条二項に規定する﹃無償による資産の譲渡﹄に当たると 認定判断することができる︒尤も︑上記﹃持分の譲渡﹄は︑同項に規定する﹃資産の譲渡﹄に当たるとすることに 疑義を生じ得ないではないが︑﹃無償による⁝⁝その他の取引﹄には当たると認定判断することができるというべ きである︒すなわち︑上記規定にいう﹃取引﹄は︑その文言及び規定における位置づけから︑関係者間の意思の合 致に基ついて生じた法的及び経済的な結果を把握する概念として用いられていると解せられ︑上記のとおり︑被控 訴人とアスカファンド社との合意に基づいて実現された上記持分の譲渡をも包含すると認められる︒そして︑本件 において︑法二二条二項に規定する無償による

二︱五

︹ママ︺項に定める無償による資産の譲渡

﹃資産の譲渡﹄又は﹃その他の取引﹄は︑遅くも︹ママ︺︑

ファンド社により引き受けた増資の払込みがなされた時に発生したと認められる︒﹂︵判旨

I I )

﹁たしかに︑同社が増資株式を取得した時点においては︑資産価値の移転が生じたと認めうるものの︑直ちには︑

アスカファンド社が資産を取得し︑被控訴人がこれを喪失する事態は生じてはいない︒しかしながら︑

ば︑本件増資により︑被控訴人はアスカファンド社に対して法二二条︱

又はその他の取引をしたと認めることができる﹂︵判旨

I I I )

I

)

アスカファ

ンド社は上記時点以降いつでも︑取得した増資株式を処分し︑これにより︑その表彰するアトランティック社の資 産価値を実現しうる権利を取得し︑反対に︑被控訴人がこれを喪失するのであり︑このような法的効果に着目すれ

0年の改正前は︑現物出資により設立した海外子会社の株式を取得する親会社が圧縮記帳により課税を

(10)

4

m )  

繰り延べることができ︑改正後︑上記繰り延べが許容されなくなった︒本件においては︑前記改正前においても︑

前記事実経過の下で︑親会社である被控訴人が子会社の増資により持株割合に変化を生じさせたことが資産の譲渡 等に当たり︑法二二条二項により︑課税要件を満たすと認めたのである︒換言すれば︑前記改正前︑繰り延べられ た課税について課税の要件を満たすべき事実が生じたと認められた結果にほかならず︑標記法の規定の改正前に改 正後の結果を先取りするものではなく︑このような理解を前提とする憲法︱四条違反の主張も前提を欠く︒﹂

訴外の一連の関係を見れば︑このスキームが多額の含み益を抱えたテレビ会社株式に対する課税を回避するために 行われたということ自体は容易に認識できよう︒しかしながら︑本件では︑アトランティック社の株主総会における

﹁アスカファンド社に対する第三者割当増資﹂決議が︑オウブンシャホールディングの行った﹁無償による資産の譲 渡﹂若しくは﹁その他の取引﹂にあたるかが問題とされたに過ぎない︒したがって︑本件の法的判断にあたっては︑

事実認定の範囲内での議論︑すなわち︑オウブンシャホールディングが株主として行った第三者割当増資決議を法人 税法二二条二項の﹁無償による資産の譲渡﹂との関係でいかに評価すべきかが問題となる︒実際︑控訴審では法人税 法二二条二項を正面から適用し︑法人税法一三二条の適用の可否については論じられていない︒

以下︑法人税法二二条二項の解釈論を中心に展開し︑本件について私見を述べたいと思う︒

(11)

オウブンシャホールディング事件と法人税法二二条二項

金の額に算入すべきものの内容を明らかにしている︒

二︱七

法人税法二二条二項は︑﹁内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すぺき金額 は︑別段の定めがあるものを除き︑資産の販売︑有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供︑無償による資産の 譲り受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする︒﹂と定め︑当該事業年度の益 この場合の﹁別段の定めがあるものを除き﹂という文言は︑法人税法二三条から二六条までにおいて当該事業年度

の益金に算入しないこと︑法人税法二八条では特定の事業年度の益金の額に算入すること︑さらに︑法人税法六三条

( 5 )  

から六五条までの割賦販売等の特例による収益および費用の分割等の特別の規定を指すとされる︒

法人税法二二条二項は︑益金を構成する収益として︑その原因となる取引を類型化し︑これを例示している︒重要 な点は︑法人税法二二条二項において﹁取引﹂という用語が用いられていることから︑これは実現した所得を課税の

(6 ) 

対象としていると解される点である︒金子教授は法人税法二二条二項について﹁この規定は︑益金を取引にかかる収 益として観念しているが︑このことは︑法人税法も︑所得税法と同様に︑原則として実現した利益のみが所得である

(7 ) 

という考え方︵実現原則︶を採用し︑未実現の利得を課税の対象から除外していることを意味する︒﹂と述べられて

1

1

l

法人税法二二条二項について

1 1 0 . ︱ ︱

 

(12)

1

3

 ﹁その他の取引﹂の意義

この﹁取引﹂と﹁実現﹂の概念は︑本稿の議論において重要な視点となる︒

法人税法二二条二項は︑益金が生ずる原因となる取引の﹁例示﹂として六つの類型をあげている︒これらの取引類 型のうち︑特に注目すべきものとして三つの無償取引にかかる収益をあげることができる︒﹁無償による資産の譲渡﹂︑

﹁無償による役務提供﹂及び﹁無償による資産譲受け﹂がそれである︒

( 8

)  

このうち︑﹁無償による資産の譲受け﹂から収益が生じるのは異論の少ないところ︑﹁無償による資産の譲渡﹂や

﹁無償による役務の提供﹂から収益が生ずることについては︑多様な考え方が存する︒例えば︑①相手方に収益が 生ずるのは異論がなく︑譲渡者・役務提供者に収益が生じているとする説︵同一価値移転説︶②無償取引の場合に は︑譲渡者・役務の提供者にまず収益が生じ︑それを相手方に贈与︵移転︶したとみなす説︵二段階説︶③そもそ もこの規定が︑正常な対価で取引を行った者との公平の視点から設けられたものであって︑無償取引からも収益が生 ずることを擬制したものと解する説︵適正所得算出説︶等が論じられている︒

本来無償で資産を譲渡した場合︵つまり贈与した場合︶には︑その贈与した側において︑そのことから収益が生ず

( 1 0 )

1 1

)  

るはずが無いとする考え方もあるが︑わが国判例は無償取引から収益が生ずることを肯定したものと思われ︑学説上 も無償取引からも収益が生ずることを肯定する結論におおよその一致をみている︒

上記のとおり︑法人税法二二条二項は︑資本等取引以外のすべての﹁取引﹂から生ずる収益を益金に取り込んでい ると解される︒本条に掲げられている六つの類型が例示であるとされるのは︑﹁その他の取引﹂という文言に由来す

1│2無償取引から収益が生ずる根拠

(13)

本件への法人税法二二条二項の適用

ンシャに﹁無償による資産の譲渡﹂は認定されなかった︒︵判旨①︶

る︒ただし︑﹁その他の取引﹂をバスケット・クローズであると解したとしても︑何が取引であり︑何が取引となら ないかという判断を要する︒本件の争点は︑まさにこの﹁取引﹂をいかに解するか︑という点にあった︒

本件訴訟は︑具体的には第三者割当増資によりオウブンシャホールディングからアスカファンド社に移転した経済 的価値をとらえて︑わが国として法人税法二二条二項の﹁無償による資産の譲渡﹂を適用し︑

オウブンシャホール

ディングに課税できるか否か︑という点が争われた︒法二二条二項の適用の可否をいくつかの視点から分析し︑控訴

アトランティック社の持分の移転を取引的行為として捉えた場合に︑増資決議を受けたアトランティッ ク社の取締役会が新株発行を行い︑それに対し払い込みを行ったアスカファンド社との二当事者間の取引であると解 し︑原告オウプンシャとアスカファンド社の間に取引的行為を認定しなかった︒このことの掃結として︑原告オウプ 対して控訴審は︑﹁取引﹂という文言を︑﹁関係者間の意思の合致に基づいて生じた法的及び経済的な結果を把握す

る概念﹂と解し︑本件持分の移転は原告オウブンシャとアスカファンドの﹁合意﹂の結果生じたものであるから︑

﹁無償による持分の譲渡﹂がなされたものと判断した︒控訴審は︑当事者が行った取引の全体を巨視的に捉えて︑当 事者の﹁合意﹂を認定︑あるいは擬制しようとしたものである︒具体的には︑当事者の行った別個の取引︵オウブン

2

1 取引の意義

審の結論に批判的に検討を加える︒

(14)

ニ ニ

O

O )

シャホールディングーアトランティックの特別決議・アトランティックーアスカファンドの増資行為︶を一体のもの 東京地裁判決の意義は︑﹁取引﹂の存在が︑法人税法二二条二項の適用の可否を決める基準となると述べている点

( 1 2 )

 

にある︒この判断基準を用いた結果︑オウブンシャとアスカファンドの間に︑法二二条二項の適用を可能とする﹁取 引﹂が存在するか否かが︑争点となるのである︒

先に見たように︑法人税法二二条二項における益金発生原因として掲げられている取引は例示であると考えられて いる︒では︑例示されたもの以外の取引とはいかなるものか︒武田教授は︑法人税法二二条二項にいう﹁取引﹂の意

3 ) ( 1

 

義について︑次のように述べられている︒

﹁第二二条二項においては収益の発生の原因となる例示を掲げているが︑これを一括すれば﹁取引﹂に係る収 益を問題としていることになる︒この場合の取引という用語は︑簿記上の取引がその基底に存するものと考えら れる︒すなわち︑商法においても︑第三三条において︑﹃会計帳簿ニハ左ノ事項ヲ整然且明瞭二記載スルコトヲ 要ス﹄とし︑第二号において︑﹁取引其ノ他営業上ノ財産二影響ヲ及ボスベキ事項﹂としている︒この場合の取 引とは︑資産︑負債及び資本の増減及び収益︑費用・損失などの原因となる事項をいうものとされている︒すで に述べた﹃その他の取引﹄としての例示においてみられるように︑これらが会計及び商法と異なっている点から

の概念は一般的概念を基底に置きながら税法上独特の内容をもっていると解すべきである︒収益と して計上する取引は︑資本等取引は除外される︒資本等取引の内容については︑後述するとして︑すべての取引 のうち︑資本等取引以外のものに係る収益の額が益金の額に算入されることになる︒この場合の取引は︑いわゆ

として捉えた︒︵判旨

I )

(15)

オウブンシャホールディング事件と法人税法二二条二項

る損益取引が前提となっているものと解される︒すなわち︑

流入︑流出の原因となる事実をさすものと考えられるが︑このほかたとえば︑減価償却費︑貸倒れ等の内部的評

価をも含むものと解すべきである︒﹂

武田教授のいわれる﹁取引﹂の概念を率直に解すれば︑﹁取引﹂の概念は一般的概念︑すなわち簿記上の取引を基 底に置きながら︑さらに税法上独特の内容をもっていると述べられていると思われる︒

( 1 4 )

 

これに反対する見解として︑水野教授は以下の様に述べられている︒

﹁仮に企業会計が発生主義の下で︑取引を広く解しているとしても︑資産︑負債︑資本の増減変化をもたらす 一切の原因として簿記上の記録となるものすべてが︑﹃取引﹄に該当するわけではないと思われる︒

I取引﹂が法

律上の概念として規定されている以上︑私法上の概念︑もしくは︑社会通念が優先するのであり︑特殊企業会計 的な考え方が優先する根拠はないし︑また︑所得課税では︑企業会計による発生主義よりも︑限定的かつ明確な︑

権利確定主義を採用しているのであり︑株式の価値の変動または価値の移転をもって︑取引とみることはできな 水野教授が述べられているように︑所得課税の法体系においては︑企業会計上の発生主義はもちろん︑実現主義で

もより厳格な権利確定主義が採用されていると解されるところ︑﹁取引﹂の判断基準を簿記上の取引に求めることに は︑難がある︒この﹁取引﹂概念を画定する際には︑やはり︑私法上の取引︑すなわち︑法律行為を基本に考えるべ きである︒法人税法が﹁取引﹂という文言を用いている以上︑まずは︑取引という文言の根拠を私法上の概念に求め るべきであろう︒その上で︑法二二条四項を根拠として︑減価償却や貸倒れ損失等の会計主体内部の処理について︑

一般的には︑取引は企業を中心とする対外的価値の

(16)

は一義的に明確ではない︒ 税のタイミングを確定するのである︒この点は︑後に触れる︒ 取引要件は課税要件の充足自体を左右する基準となり︑さらに︑実現原則によって課税適状にあるかが判定され︑課 それを収益・費用とする会計慣行のあるものとして法人税法上の収益・費用の計上原因と捉えればよい︒付言するに︑

以上のように考えることが︑租税法律主義及び納税者の予測可能性を担保するという視点からも︑妥当性があるも

本件は︑︵オウブンシャが株主となっている︶

~

アトランティック社の内部機関である株主総会の決議と︑同社の取

締役会による新株の発行という2

つの法律行為により構成されることは疑いようのない事実であるが︑わざわざ︑直 接あるいは間接にも法律行為の存在しないオウブンシャと引受人アスカファンド社の間に﹁合意﹂があるとして︑

﹁取引﹂の存在を擬制したことは︑現行の法人税法の解釈上︑疑問である︒

この﹁取引﹂の定義について︑控訴審の独自性が見て取れるのは︑﹁取引﹂を﹁意思の合致に基づく法的及び経済

的な結果﹂とした点にあろう︵判旨

I I )

︒しかし︑控訴審のいう﹁意思の合致﹂の内容が何をさすのか︑判決文から

私法上の法律行為との関係︑たとえば︑民法における意思表示との関係で考えれば︑

ティック社の意思は﹁第三者割当て増資を行うこと﹂で合致している︒しかし︑通常︑ここでの意思の内容に﹁経済 的な結果﹂が当然に含まれるかは︑議論のあるところと思われる︒藤曲氏によれば︑私法一般にいう﹁意思の合致﹂

( 1 5 )  

と控訴審のいうところの「意思の合致」とは異なるものであるとされる。氏によれば、「控訴審のそれ(意思の合致~

筆者注︶は私権の変動を及ぼす直接の行為についての意思ではなく︑その直接の行為に係る動機の一致﹂とされる︒

オウブンシャとアトラン

(17)

る ︒

用することは︑現行法上不可能である︒ 当事者間の経済的な結果の合意は︑あくまでも動機でしかなく︑法律行為にいうところの効果意思は︑﹁第三者割当増資による私権の変動﹂を指すのである︒本件においては︑第三者割当増資決議及び新株発行という二つの法律行為は有効に成立し︑かつ︑その目的に適合する形で︑達成されている︒そして︑民法上も︑動機の云々の問題は︑契約を有効に成立させるかどうかという場面で議論される問題であり︑法律行為そのものの内容を確定させる要素とは

( 1 6 )

 

ならないと解されているのである︒

やはり︑取引の解釈という観点からは︑増資決議と新株発行のそれぞれを別個にみるほかはなく︑オウブンシャと

引受人アスカファンド社の間に︑﹁取引﹂︑すなわち︑法律行為は存在しないと解す以外にないのではなかろうか︒

法人税法二二条二項が適用できるか否かを判定するにあたっては︑オウブンシャとアトランティック社︑あるいは

アトランティック社とアスカファンド社の間の私法的関係において適用可能かどうかを判断しなければならない︒直

接の取引関係のないオウブンシャとアスカファンド社の間に﹁合意﹂なるものを擬制して︑それに法二二条二項を適

控訴審の採った﹁当事者の合意﹂を認定して﹁取引﹂とみる方法論について︑占部教授は次のように述べられてい

﹁このような論法を採るならば︑租税回避行為はすべて事実認定のレベルで否認することが可能となるといわ

ざるを得ない︒⁝⁝司法としての役割を超えた事実認定が行われているといわざるを得ない︒事実認定のレベル

で︑強引に﹃当事者の合意﹄を認定して︑結果的には事実認定という名を借りながら︑強引な立法行為を行って

~

(18)

ニ ニ

占部教授が述べられているように︑控訴審の採用した方法は︑現実には法律行為のないところに法律行為を擬制す

るものであるから︑租税法律主義を掲げるわが国租税法の解釈理論からは到底許されるべきものではない︒

して︑このような司法過程での法律関係の擬制が何らの縛りもなく認容されてしまうならば︑納税者の予測可能性は

著しく害されることになろう︒租税法を適用した結果として︑︵課税というシステムの性格上当然に︶国民の財産権

を制限することになるから︑租税法規は一種の侵害規範といえる︒租税法の解釈・適用にあたって裁判所は︑租税法

の文言を厳格に解釈し︑結果の合理性を理由に強引な解釈を行うことは厳に慎まねばならない︒

( 1 7 )  

対して︑中里教授は︑相互売買の事案と本件が結論を異にした原因について︑次のように述べておられる︒

﹁オウプンシャホールディング事件の事案は同一企業グループ内の取引が用いられたのに対して︑相互売買は

非関連会社間の取引であったという点である︒グループ内取引の場合には︑取引の全体をとらえるという観察法

( 1 8 )

 

の採用がより広く認められるのかも知れない︒﹂

ここで述べられているような︑取引の全体をとらえる観察法というものが︑法二二条二項との関係において許され

るものかどうかは︑疑問である︒上述したように︑文言上は法二二条二項の適用場面においてこのような観察法が許

されると解する余地はなく︑同族会社の行為計算の否認規定である法一三二条の適用においてさえ︑私法上の取引の

概念をこえた﹁合意の擬制﹂を用いて適用するのには無理があるように思う︒

また︑渕教授は︑益金の発生につき私法上の取引の存在のみを基準とすると︑未実現のキャピタル・ゲインが法人

( 1 9 )

 

格間で移転する可能性があることを指摘した上で︑次のように述べられ︑控訴審判決に一定の評価をなされている︒

﹁もちろん︑第三者への株式の割り当てのような場合に︑その時点で資産の再評価を行い課税は繰り延べると

(19)

オウブンシャホールディング事件と法人税法二二条二項

一般に公正妥当と認められる会計処理の基準︵法二二条四項︶となっているならば︑その基準に従 うべきである︒しかし︑このような再評価が行われていないならば︑私法上の取引がなくとも︑キャピタル・ゲ インに対する課税を確保するために︑法二二条二項が適用されうると解すべきなのではないだろうか︒﹂

﹁しかし︑私法上の取引なしに資産の経済的価値が変動するあらゆる場合に益金が計上されると考えるのは︑

明らかに︑評価益の計上を否定する法二五条と矛盾する︒経済的価値の喪失について法二二条二項を適用するに は︑更なる絞り込みが必要である︒おそらく︑経済的価値の喪失が︑単なる外的要因によるものではなく︑特定 の他人に対して資産を移転する意図に基づくことが法二二条二項適用の要件なのではないかと思われる︒﹂

このような考え方は︑明文上の根拠を欠くこととともに︑当事者の意図を認定するという非常に困難な作業を課税 行政庁に強いることになり︑担当官の主観の介入を排除できない点で問題があり︑また︑納税者の予測可能性を担保 する必要性からも︑採用され得ないと思われる︒前述したように︑私見は︑法人税法二二条二項の﹁取引﹂を︑﹁私 法上の取引︵すなわち法律行為︶と会計慣行上︑収益・費用とされる処理﹂と解する立場を採った︒今回のような第 三者への株式割り当ての場合には︑資産の再評価を行い課税するという会計慣行が存在しないのであるから︑本件を 評価するにあたっては︑私法上の取引に限定して﹁取引﹂該当性を検討すべきなのではなかろうか︒

さて︑わが国の法人税法二二条二項は︑その規定の重要性に比して多分に抽象的である︒そのため︑この規定を適 用することで︑結果として租税回避否認を行ったのと同様の効果が生じることがある︒しかしながら︑法人税法ニニ 条二項は︑控訴審がしたような︑無制限にその適用を拡大できる規定であるとは考えられない︒

ここで︑米国法に若干触れる︒我が国と米国では︑当然︑租税法をとりまく事情が異なるため︑単純に比較するこ

二二五

(20)

とはできないが︑その規定振りを比べることは少なからず我が国の議論にも参考になると思われる︒

米国では︑関連当事者間の所得の付け替え等に対処するため︑内国歳入法

I (

RC

) 四八二条に規定をおいている︒

﹁二個以上の組織︑営業もしくは企業であって︑同一の利害関係者によって直接もしくは間接に支配されたま たは所有されているものは︵法人格の有無または合衆国内で組織されたものか否かを問わず︑かつ相互に関連が あるか否かを問わず︶︑租税逃れを防止し︑またはこれらの組織・営業もしくは企業の所得を正しく計算するた めに必要と認められる場合には︑財務長官またはその代理人は︑総所得︑経費控除額︑税額控除額もしくは控除 限度額をこれら組織・営業もしくは企業間に配分・割当てもしくは振り替えることができる︒﹂

この規定は︑関連法人群内における所得の移転︑分割︑振替を介して︑グループ全体の租税負担を極小化しようと する試みに対して︑これを租税逃れであると判断し︑そうした関連法人グループの内部における所得の不当な割当て を防止しようとするものである︒条文に明記されているとおり︑この規定の第一の目的は租税逃れを防止することで あり︑第二の目的が適正所得計算ということになる︒

IRC 四八二条もわが国法人税法二二条二項も︑﹁所得計算の 適正さ﹂を要求していることは自明のことといってよいが︑果たしてわが国の二二条二項の文言上︑

IRC

四八二条

のように︑租税回避行為に対して積極的な解釈が可能であるかは別の問題である︒村井教授はこの点につき以下のよ

( 2 0 )

 

うに述べられている︒

﹁二ニ条二項が適正所得計算とともに租税回避否認の目的をもつものかについては争いがある︒適正所得計算 の目的は包括的であるから︑論理的には租税回避否認の目的も内包しているものと解することもできようが︑具

米国の内国歳入法四八二条は次のとおりである︒

(21)

2̲2  べきことを指し示している︒

体的に二二条に積極的に租税回避否認目的が要件化されているかと問われれば︑それは無償取引収益の益金構成 が結果的に租税回避否認機能を営んでいるといわざるを得ない︒その意味では︑二ニ条二項は︑四八二条ほど積 法人税法二二条二項と

IRC 四八二条の最も大きな違いは︑﹁関連法人グループ﹂概念の有無︑及び︑明文で﹁租 税逃れを防止﹂するという﹁目的﹂を示している点であろう︒法人税法二二条二項には︑特殊関係にある当事者間取 引を特に要件として定めていないし︑租税回避目的が明文上積極的に定義されてはいない︒このことは︑租税法律主 義の観点からは︑米国

IRC のそれよりも広い解釈の幅があると解すべきではなく︑逆に︑きわめて限定的に適用す わが国法人税法二二条二項には︑米国の

IRC 四八二条のような積極的な租税回避行為否認の目的があるとは文言 上解釈できないから︑本件控訴審ように︑当事者の合意なるものを推定︵擬制︶して︑法二二条二項を適用すること は︑司法による法文解釈の域を超えた立法行為がなされたと解されても仕方のないことである︒

米国の

IRC 四八二条に相当するものはわが国の租税法規には存在しない︒近いものが法人税法一三二条の﹁同族 会社の行為計算否認﹂の規定であるが︑これも

IRC 四八二条とその構造を異にする点で同様である︒法人税法ニニ 条の解釈に際しては︑目的論的な解釈ではなく︑その文言に忠実に解釈を行う必要があると考える︒

資産の譲渡と実現

﹁資産﹂とは︑﹁譲渡性のある財産権を含む観念で︑動産・不動産はもとより︑借地権︑無体財産権︑許認可権な

( 2 1 )

 

どによって得た権利や地位などが広くそれに含まれる﹂と一般に解されている︒では︑本件において﹁無償による資

極的に租税回避行為に対処するものではない︒﹂

ニ ニ

(22)

ニ ニ

産の譲渡﹂又は﹁その他の取引﹂の対象となったとされる﹁割合的持分権﹂が︑独立した﹁資産﹂として譲渡の対象 この点につき︑﹁割合的持分権﹂を財産権の枠内で捉えること自体にはあまり抵抗がないが︑﹁譲渡﹂性については

疑問がある︒法人所得課税の場面においては︑﹁譲渡性﹂の有無が重要である︒なぜなら︑譲渡性と実現要件を切り 離して課税関係を考えることはできないからである︒

( 2 2 )

2 3 )

 

最高裁昭和四一年六月二四日判決︵いわゆる︑相互タクシー事件︶事件においては︑この﹁譲渡﹂の認定が正面か 最高裁は︑相互タクシーから役員への旧株式の信託的譲渡を﹁同社所有の増資会社株式の値上がり部分の価値の社

外流出を意味するもの﹂とし︑このうち︑いわゆる新株プレミアム部分について︑益金に計上すべきであるとした︒

課税庁は︑相互タクシー事件を引用して︑本件の増資決議によってアスカファンド社に含み益が移転しているとし

( 2 4 )  

て︑当該含み益への課税の正当性を主張する︒

たしかに︑本件と相互タクシー事件では︑︵第三者割当増資の決議と縁故引受という点で︑手段を異にはするが︶

新株の引受人を指定している点では共通する︒しかし︑

に新株引受権が具体的に帰属し︑

相互タクシー事件においては︑

その後に︑新株引受権の付着した株式を譲渡しているのに対し︑本件では新株引受 権のように具体的に増加したと見るべき利益が無いのである︒第一審はこの点に着目し︑相互タクシー事件とは異な り︑本件では増資決議を譲渡行為と同視し得ないと判示している︒

本件と相互タクシー事件では︑その前提となる﹁移転利益﹂に関する事実関係が異なるものと思われる︒その意味 となりうる性質のものかという問題がある︒

(23)

通常︑第三者に対する有利発行が問題となる場合とは︑時価との比較で︑新株の発行価額が著しく有利な場合をいう︒

仮に︑本件においてテレビ朝日等株式の含み益が実現しているとすれば︑この利益相当額がアトランティック社の

純資産額に反映されているはずである︒その後に︑割合的持分権の変動に起因し︑具体的な利得がアスカファンド社 に移転するというのなら︑第三者割当増資にともなう課税関係が生ずるという議論にも一理がある︒

しかし︑実際には︑第三者割当増資の時におけるアトランティック社の純資産額に︑テレビ朝日等株式の含み益は 本件控訴審は︑発行会社であるアトランティック社が保有しているテレビ朝日等株式の含み益に対する支配権の移

転を観念している点で︑従来の有利発行の課税関係とは異質のものといわざるを得ない︒

法人税法二二条二項には﹁取引﹂と規定されていることから︑これは私法上の取引を意味し︑外部者との損益取引

を前提にしているから︑実現した所得を課税の対象としている趣旨と解されることは前述のとおりである︒ 反映されていない︒ のではなかろうか︒

( 2 5 )  

で︑第一審の昭和四一年判決に対する姿勢は正しいといえよう︒

さらに︑本件においては︑

アトランティック社の持分は外見からみるに︑特別決議から新株発行という過程を経て︑

オウブンシャからアスカファンド社に﹁移転﹂しているようにみえるのであるが︑このオウブンシャが喪失したテレ ビ朝日等株式に対する支配権

I I 持分価値は︑実現していないと思われる︒法人税法は︑﹁株式﹂を通して︑株主の権

利の移転を観念していると考えられる︒とすれば︑株式から持分権だけを切り離して譲渡するという行為は︑第三者 割当増資等によって実質的にそれと同じ経済的効果をもたらしたとしても︑﹁譲渡された﹂と解することはできない

ニ ニ

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