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博 士 ( 理 学 ) 廣 瀬 雅 人

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Academic year: 2021

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博 士 ( 理 学 ) 廣 瀬 雅 人

     学 位 論 文 題 名

  Cheilostomatous Bryozoa (Gymnolaemata) from Sagami Bay , with Notes on Bryozoan Diversity and     Faunal Changes Over the Past 130 Years

(相模湾産唇□目コケムシ類の多様性と130 年間におけるコケムシ相の変化)

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

コケム シ動物 門はオ ルドビ ス紀 から知 られる 群体性水生固着動物で,現生種約6,000種が報告されており,化 石種を 含むと その数 は20,000種 におよ ぶ.現 在, コケム シ動物 門はそれぞれ,淡水産の被喉綱と,主に海産 の裸 喉綱と 狭喉 綱の3綱に 分類さ れてお り,こ のうち 裸喉 綱唇口 目は現 生種の 中で 最も多 様な一 群であ る.

コケム シはサ ンゴや イガイ など の固着 生物と 同様に ,基 質資源 として 他の生 物に生 息場所を提供するとぃう 重要な 要素を 担って いるこ とか ら,海 洋生態 系にお いて 群集の 多様性 を支え ている と考えられている.日本 の海産コケムシ相についてはこれまで,岡田彌一郎,L. Silen,馬渡静夫,馬渡駿介,D.P. Gordonといった研 究者 によっ て研 究が行 われ, およそ300種 が報 告され てきた ,中で も,相 模湾 から報 告され ている 種は 他に 比ぺて 数が多 く,日 本のコ ケム シ相を 代表す るもの であ ると言 える.

  相模 湾は ,暖流 と寒流 の両影 響が みられ ること や,多 様な底 質環 境,さ らに陸 から近 い位 置に1000m以上 の深海 域を有 するこ とから ,古 くから 生物多 様性が 特に 高い海 域として知られてきた.そのため,120年以上 前から ,お雇 い外国 人教師 とし て来日 してい たLudwig H.P. Dbderlein(調査年:1881)やドイツ人動物学者の FranzT.Doflein( 同:1904−1905)などの 研究者によって生物相調査が行われ,多数の海産生物の標本が得ら れてい る.ま た,20世紀に は,ヒ ドロ虫 をご専門とされていた昭和天皇によって多数の標本が採集され(同:

1918―1971), 近年で は国 立科学 博物館 による 相模 灘調査 の一環 でも膨 大な数 の標 本が得 られて いる( 同:

2001−), この ように ,相模 湾は120年以 上に 渡って 継続的 に生物 調査が行なわれ,多数の生物標本が保存さ れてい る世界 的にも 他に例 をみ ない海 域であ ると同時に,日本の海産生物研究の原点ともいえる海域である,

  日本の 海産コ ケム シ研究 もまた 相模湾 からは じまった.上述のDeiderleinが同湾で採集したコケムシ標本に 基づい てArnoldE.Ortmannが1890年に発 表し た総説 がその 原点で ある ,この 中でOrtmannは81新種を含む126 種のコ ケムシ を相模 湾から 記載 してい る.こ の総説 は現 在にお いても ,日本 産のコ ケム シを扱った論文中で 最多の 種数を 誇って いる.

  しか し,こ のよう に継続 的に 収集・ 蓄積さ れてき た相 模湾産 コケムシ標本の多くは,Ortmannの総説以降,

近年ま でほ とんど 再研究 されて こな かった .その 最大の 理由は ,膨 大な標 本数と 相模湾 におけるコケムシ種 の予想 を上 回る多 様性に よるも ので あった .さらに,Ortmann (1890)らによる過去の記載も,現代の分類学の ス タン ダ ー ド に 照ら し て 不 十 分 であ り , こ れ らの 標本 につい ても 走査型 電子顕 微鏡(SEM)な どを使 った再 研究が 求め られて いた,

  そこ で私 は,相 模湾 産コケ ムシ類 の多様 性と その変 化を明 らかに するこ とを 目的と して, 約120年前か ら 現在 までに 得ら れた相 模湾産 コケム シ標本 をす べて再 研究し .本論 文に まとめ た.論 文はニっの章から構成 され る,

  第 ー章で は, 「相模 湾にお ける120年間 のコ ケムシ の種構 成と多 様性の変遷の解明」をめざし,現生のコケ ム シ種の 中で最 も多様 性が 高い裸 喉綱唇 口目に 焦点 を当て ,国内 外の博 物館に おい て光学および走査型電子 顕 微鏡を 用いて 標本を 観察 するこ とで日 本産コ ケム シ類に 関する 知見の アップ デー トを目指した,具体的に は ,ドイ ツおよ びフラ ンス の博物 館に保 管され てい る相模 湾産標 本のほ か,昭 和天 皇によって採集された標 本 や近年 の調査 で得ら れた 標本の 観察も 行なっ た, その結 果,総 数約1,000点の 標本か ら8,000以上のコケ ム シ 群 体 を確 認 し , 唇 ロ目 コケ ムシ 類57科118属261種を 発見 した. このう ち15種 は日本 初記録 属であ り,

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80種は 未 記載 種で あ った .こ れ まで 日本 の 海産 コケ ムシは約300種とされて きたが,本研究は その知見を大 幅 に塗 り 替え る結 果 とな った . コケ ムシ 動 物相 の変 遷に関しては ,相模湾では120年前から現 在にかけて65 種 の減 少 がみ られ る こと がわ かった, これには様々な要 因が考えられるが, 砂底環境にみられ る種の減少が み られ る こと から , 堆積 物な どの底質 環境の変化も考え られる,一方で,ア ミコケムシ科など の大型種が現 在 まで 継 続的 に得 ら れて いる ことから ,相模湾では底引 き網などによる底質 環境の破壊が少な ぃか,あるい は 破壊 さ れて も再 生 が早 いた めに大型 種によるコケムシ 群集が維持されてい るものと推測され る.なお,本 章で はOrtmaffin (1890)らによって研究さ れた標本も観察し ,その過程でLectotype 50種,Neotype3種を選定 した .また,22の新組合 せを提唱した,

  第二章では 、「相模湾における 各海流要素の影響 の推定」を目的に ,観察した標本中でみられた大型のコケ ムシ 群 体を 基質 資 源と なる「主要骨格」 と定義し,その形態 パターンから環境 の推定を行なった ,また,こ れら を 黒潮 影響 下 にあ る薩南海域およぴ 親潮影響下にある岩 手県大槌湾のもの と比較することで ,相模湾に おけ る 海流 の影 響 の変 化も推定した.さ らに,相模湾の主要 骨格を、大規模な コケムシ群集で知 られるニュ ージ ー ラン ド・ オ タゴ 湾のそれと比較し ,その種構成にどの ような相違点がみ られるかを検証し た.まず,

相模 湾 のコ ケム シ 主要 骨格を標本から推 定した,その結果, これまでに報告さ れている中で最大 規模のニュ ージーランド の6種(Key et甜.,1999)に 対して,相模湾では17種のコケムシが 主要骨格であると 判断され,

中で も アミ コケ ム シ科 の起立性群体が特 に多様である結果と なった.その形態 パターンを薩南海 域と大槌湾 のも の と比 べた と ころ ,相模湾では他の 海域に比べて主要骨 格の形態パターン が顕著に多様であ ると共に,

北方 系 およ び南 方 系, さらに相模湾特有 の形態グループが混 在していることも 明らかとなった. これらの結 果か ら ,相 模湾 は 黒潮 要素と親潮要素の 両影響を受けた独特 な環境であると考 えられる,また, 相模湾の主 要骨 格 の経 時的 変 化を 調べたところ,大 槌湾でみられるグル ープの減少がみら れたことから,相 模湾におけ る寒 流 要素 の減 少 も推 測された.相模湾 のアミコケムシ科の 起立群体には,多 毛類や棘皮動物, 小型甲殻類 など の 棲息 が確 認 され たことから,相模 湾ではこれらの群体 が海産生物の生息 環境として重要な 役割を果た していると考 えられた,

本研究は ,過去130年にわたって得ら れた歴史的標本を現代の手法で再研究した点,ならびに生物多様性の高い 相模湾を対象として日本のコケムシ相に関する知見を飛躍的に増加させた点で大いに意義がある,本研究は相模湾 産唇口日コケムシ類の新たな総説として,日本のコケムシ相の理解はもとより,北太平洋のコケムシ相の理解,さらに は世界中のコケムシ相との比較を可能にする上でも重要な位置を占める.また,環境変化との関連にっいては,今後 の 相 模 湾 の 生 物 相 と 環 境 変 化 と の 関 連 を 研 究 す る 上 で も 重 要 な 基 盤 と な る こ と が 期 待 さ れ る .

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学位論文審査の要旨

主 査    教 授    馬 渡 駿 介 副 査    教 授    片 倉 晴 雄 副 査    教 授    堀 口 健 雄

     学位論文題名

  Cheilostomatous Bryozoa (Gymnolaemata) from Sagami Bay ,with Notes on Bryozoan Diversity and     Faunal Changes Over the Past 130 Years

( 相模 湾産 唇□ 目コケムシ類の多様性と130 年間におけるコケムシ相の変化)

  苔 虫動物 門はオ ルドビ ス紀 から知 られる 水生固 着性 の群体 動物で 、これ までに 報告されている現生 約6,000種は 、淡 水産の 被喉綱 と、主 に海産 の裸 喉綱と 狭喉綱 の3綱に分類され、このうち裸喉綱唇口 目は 最も 多様な 一群で ある。 .裸 喉綱唇 ロ目苔虫はサンゴやイガイなどと同様に、基質資源として他の 生物 に生 息場所 を提供 し、海 洋生 態系に おいて 群集の 多様性 を支 えてい る。日 本の海 産コケムシ相の 研究は120年前の相模湾に遡る。お雇い外国人教師として来日していたLudwig H.P. DOderlein(調査年:

1881)が 同 湾 で採 集 し た 標 本 に基 づ ぃ てArnold.E.Ortmannが1890年 に81新 種を含 む126種の コケム シを 記載 した総 説がそ の原点 であ る。相 模湾は 、暖流 と寒流 の両 影響を 受け、 多様な 底質環境に恵ま れ 、 さ らに陸 から近 い位 置に1000m以上 の深海 域を 有する ことか ら、生 物多 様性が 特に高 い海域 とし て知 られ てきた 。その ため、Doderlein以降も、ドイツ人動物学者のFranzT.Doflein(同:1904‑1905) あるいは、ヒドロ虫をご専門とされていた昭和天皇によって多数の標本が採集され(同:1918ー1971)、

近年 では 国立科 学博物 館によ る相 模灘調 査でも膨大な数の苔虫類標本が得られている(同:2001―)。

  し かし、 このよ うに継 続的 に収集 ・蓄積 されて きた 相模湾 産コケムシ標本の多くは、Ortmannの総説 以降 ほと んど再 研究さ れてこ なか った。 その最 大の理 由は、 膨大 な標本 数と相 模湾に おけるコケムシ 種の 予想 を上回 る多様 性によるものであった。また、そのOrtmannの総説にある記載は情報量が少なく、

現 代 の 分類学 のスタ ンダ ードに 照らし て不十 分であ る。 以上の 点から 、走査 型電 子顕微 鏡(SEM)など を用 いた 標本の 再研究 が求め られ ていた 。

  そ こで 著者は 、相 模湾産 コケム シ類の 多様 性とそ の120年間の 変化を 明ら かにす ること を目的 に、

Doderleinか ら現在 までに 得られ た相模 湾産 コケム シ標本 のほと んどを再研究し、本論文にまとめた。

論文 はニ つの章 から構 成され る。

  第 一章で は、裸 喉綱唇 口目 に焦点 を当て 、ドイ ツお よびフ ランス の博物 館に保 管されている相模湾 産標 本、 昭和天 皇採集 標本、 そし て近年 の調査 で得ら れた標 本を 、光学 および 走査型 電子顕微鏡を用 いて 観察 するこ とで、 相模湾 にお ける120年間 のコケ ムシの 種構 成と多様性の変遷の解明をめざした。

その 結果 、著者 は、総 数約1,000点の 標本か ら8,000以上 のコケ ムシ群 体を確 認し、 唇口目コケムシ 類57科118属261種 を 発 見し た 。 こ の うち15種 は 日本 初 記 録 属 であ り 、80種は未 記載種 であっ た。

こ れ ま で日本 の海産 コケ ムシは 約300種とさ れてき たが 、本研 究はそ の知見 を大幅 に塗 り替え る結果 で あ る 。コケ ムシ動 物相 の変遷 に関し ては、 相模湾 では120年 前から 現在に かけて65種の 減少が みら れる が、 一方で 、アミ コケム シ科 などの 大型種 が現在 まで継 続的 に得ら れてい ること から、相模湾で は底 引き 網など による 底質環 境の 破壊が 少ない か、あ るいは 破壊 されて も再生 が早い ことを著者は推 測し た。 加えて 、本章 ではLectotype 50種 、Neotype3種 を選定 し、22の新組 合せを 提唱されている。

  第 二章で は、観 察標本 中で みられ た大型 のコケ ムシ 群体を 基質資 源とな る「主 要骨格」と定義し、

その 形態 パター ンから 相模湾 にお ける各 海流要 素の影 響を推 定す ると共 に、こ れらを 、黒潮影響下に ある 薩南 海域、 親潮影 響下に ある 岩手県 大槌湾 、そし て大規 模な コケム シ群集 で知ら れるニュージー

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ラ ンド・ オタゴ 湾と の比較 を試み た。相 模湾 のコケ ムシ主 要骨格 を標本から推定した結果、これまで に 報告さ れてい る中 で最大 規模の ニュー ジー ランドの6種(Key etal.,1999)に対して、相模湾では17 種 が主要 骨格と 判断 され、 中でも アミコ ケム シ科の 起立性 群体が 特に多様であった。その形態パター ン を薩南 海域と 大槌 湾のも のと比べたところ、相模湾では他の海域に比べて顕著に多様であると共に、

北 方系お よび南 方系 、さら に相模 湾特有 の形 態グル ープが 混在し ていることも明らかとなった。これ ら の結果 から、 相模 湾は黒 潮要素と親潮要素の両影響を受けた独特な環境であることが裏付けられた。

ま た、相 模湾の 主要 骨格の 経時的 変化を 調ぺ たとこ ろ、大 槌湾で みられるグループの減少がみられた こ とから 、相模 湾に おける 寒流要 素の減 少も 推測さ れた。

  本 研究 は、過 去120年にわ たって 得ら れた歴 史的標 本を現 代の手 法で 再研究 して新 しい重 要な知見 を 得たこ と、な らび に生物 多様性 の高い 相模 湾のコ ケムシ 相の全 貌を現時点で明らかにしたことで大 い に意義 がある 。本 研究は 相模湾 産唇口 目コ ケムシ 類の新 たな総 説として、日本のコケムシ相の理解 は もとよ り、そ れを 北太平 洋のコ ケムシ 相と 、さら には世 界中の コケムシ相と比較する上でも重要な 位 置を占 める。 さら に、海 底環境 の変化 と生 物相と の関連 を研究 する上で、きわめて重要な基盤とな る ことが 期待さ れる 。

  こ れを 要する に、著 者は、 苔虫動 物の 分類学 のみな らず、 海産 動物の多様性およびその変遷と環境 と の関わ りにっ いて の基礎 的新知 見を得 たも のであ り、生 物多様 性に対する人類の理解を大きく増大 さ せるこ とに貢 献す るとこ ろ大な るもの があ る。

  よ っ て 著 者 は 、 北 海 道 大 学 博 士 ( 理 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れ る 資 格 あ る も の と 認 め る 。

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参照

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