学 位 論 文 題 名
博 士 ( 理 学 ) 片 山 薫
Absorbance measurement in turbid media by
photon correlation spectroscopy and its application to biological systems
( 光 子 相関 分 光 法 に よ る 散乱 媒質 中の 吸収 測定 とその 生物 系へ の応 用)
学位論文内容の要旨
多重 散乱 媒質 中で の吸 収定 量法 は現 在の とこ ろ確立されていない。このような媒 質で は光 が散 乱を 受け 直進 せず その 光路 長が 物理的長さと一致しない。そのため 透明 溶液 でのBeer‑Lambert則が その まま は適 用出来ないからである。散乱媒質中 での光路長を測定する方法としてTOF (time of flight)法があり、これによって直 接、 光の 飛行 距離 を求 め、 吸収 定量 する 方法 が提案されている。しかしこの方法 は 短 パ ル ス レ ー ザ ー を 用 いる ため 装置 の取 り扱 いが 大変 でし かも 高価 な検 出器 が必 要で ある 。本 研究 では この 手法 とは 全く 異なる光子相関分光法を用いた散乱 媒質 中で の吸 収定 量計 測法 を提 案し 実験 的に 確かめた。またその生物系への応用 の可能性を探った。
本手法の基となる動的光散乱(dynamic light scattering:DLS)法は物理化学の分野 でよ く利 用さ れて いる 計測 方法 であ る。 散乱 媒質中(単散乱領域に限定)での粒 子が 運動 する こと によ り光 の位 相が 変化 し、 その結果強度が変動する。この変動 の程 度は 光強 度の 自己 相関 関数 で表 され 、フ ォトンカウンテイングレベルにおい て光子相関分光法(photon correlation spectroscopy: PCS)を用いて計測出来る。
相 関 関 数 の 減 衰 は 媒 質 中の 粒子 の動 きを 反映 して おり その 動き から 粒子 自身 の形 、運 動性 に関 する 情報 が判 ると 共に 逆に 粒子自身の特性がわかっているとき は、 粘性 など 媒質 の特 性も 知る こど がで きる 。さ らにDLSを 多重 散乱 領域 に拡張 した拡散波分光法(diffusing wave spectroscopy: DWS)と呼ばれる手法が提案されて いる 。一 般に 多重 散乱 領域 での 光強 度変 化は 単散乱領域に対して速くなり相関関 数の 減衰 も速 くな る。 これ は何 度も 光が 散乱 を受けその度に強度が変動しそれが 蓄積 して いく ため であ る。 散乱 媒質 中の 光路 長分布は散乱回数の関数なので多重 散 乱 領 域 に お け る 光 強 度 の変 化に は光 路長 分布 を介 して 吸収 情報 を含 んで いる は ず で あ る 。 事 実 、DWSに お け る 光 強 度 の 自 己 相 関 関 数は 光 路長 分布 関数 のラ プラ ス変 換の 形で 表さ れて おり 、光 路長 分布 は媒質に含まれる吸収に依存する。
従っ て自 己相 関関 数は 吸収 量の 関数 とな る。 これを解析することで吸収量を定量 でき る。 本研 究は この 点に 注目 し散 乱媒 質中 での吸収定量法における新たな計測 法を提案、実証した。
本 研究 にお いて 散乱媒質としてイントラリピッド2%溶液(静脈注射用乳剤)、
吸収 体と してCuS04を 用いた 。イ ント ラリ ピッ ドは 生体 を模 擬し た実 験に よく使
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わ れ て おり そ の特 性 も 既知 で ある 。CuS04は 発光が無 く散乱媒質 とも相互 作用し な い た め使 用 した。光 路長分布 関数が上 記のよう に表される とすると 媒質中に 吸 収 体 が 存在 す る時 の 自 己相 関 関数 は そ の関 数 を時 間 的 にシ フ ト させ る のみで あ り そ の シフ ト 量は 吸 収 量に 比 例す る 。 イン トラ リピッド2% 溶液に徐 々に吸収 体 の 濃 度 を増 加 させたと ころ相関 関数は徐 々に遅く 減衰するこ とが確か められた 。 相 関 関 数を3次 の キュ ム ラ ント 関 数で フ イ ットし 、吸収を含 まない時 の関数を 基 準 に 吸 収を 含 む関数の 時間的な シフト畳 をそのバ ラメータか ら計算し た。その 結 果 加 え た吸 収 量と相関 関数の時 間的なシ フト量は 比例関係を 示した。 傾きから 得 られたモル吸光係数は10.5:f0.2M‥cm. ̄であり、これはCuS04のそれ(10.4M‥cm'l) と ほ ぼ 一 致 し た 。 こ の 結 果 は 他 の 手 法 を 用 い た 精 度 と 同 程 度 で あ る 。 散 乱 媒 質 中 に お け る 単 一 波 長で の 吸光 度 がPCSを 用 いて 求 ま るこ と を実 証 し た が 、 さら に 波長に対 する吸光 度変化っ まり吸収 スベクトル が得られ れば吸収 体 の 性 質 を知 る ことがで きる。原 理的には 単一波長 での作業を すべての 波長で行 え ば よ ぃ がこ れ には大変 な労カが 必要とな る。そこ で単一波長 でのパラ メータと そ の パ ラ メ 一 夕 の 波 長 依 存 性 を 検 討 す る こ と で 波 長 に 依 存 しな い 一 般的 な 形で DWSを 記 述 し 、741‑842nm間 のCuS04とAcid Violetの 吸 収 ス ベ ク ト ル を750nm の 吸 光 度を 基 準に求め た。高濃 度での吸 収量に対 しては若干 誤差があ るものの ほ ぼそれぞれの吸収スベクトルを再現出来た。
さ らに2種 類 の生 物 試 料( パ ン酵 母 、 灌流 し たラ ッ ト の肝 臓 ) を用 い てPCSの 応 用 の 可能 性 を確かめ た。市販 のパン酵 母の懸濁 液にその活 性を低下 させるた め のKCN(青 酸カ1J)及 びTCA(トリク ロル酢酸 )を加え 、それぞ れの懸濁液 の強度自 己 相 関 関数 を 測定 し た 。KCNは ミト コ ン ドリ アの酵 素を阻害し 好気代謝 を止める が 、 測 定時 間 内ではミ トコンド リアの活 動を完全 には止めな いためそ の関数は 酵 母 そ の も の と 大 き く 違 わ な か った 。 し かしTCAを 加え た 懸濁 液 は その 関 数の 形 が 酵 母 の み の 時 と は 異 な っ た 。こ れ はTCAが 細 胞 内夕 ン パク を 変 性さ せ 細胞 内 物 質 の 動き を 即時 に 止 めた た めそ の 動 きに よ る影 響 が 無く な っ たた め だと考 え ら れ る 。こ の よう にPCSで細 胞 内レ ベ ル での 動きを 計測出来る 可能性が 確認出来 た 。また酵 母のviabilityはMB(メ チレンブルー)での染色の度合で決定される。そ こ でMBの 吸 収特 性 を 利用 し て、 懸 濁 液レ ベ ル でviabilityの 評 価 をPCSを用 いて 試 み た 。 そ の 結 果viabilityが 悪 いほ どMBに 染 色 され そ の結 果MBの 吸 収 効果 で 相 関 関 数の 減 衰は 遅 く なっ た 。相 関 関 数を3次の キュムラン ト関数で フイット し た時の1次の係数がviabilityの指標になることが見出せた。
次 に灌 流 した ラットの 肝臓に対 してその 強度相関 関数を計測 した。灌 流液に色 素(Rhodamine 6G)を 加えると その吸収 効果によ り相関関 数の減衰 が遅くなっ た。
こ れ は イン ト ラリピッ ドを用い た結果と 一致する 。さらに潅 流、虚血 、再灌流 時 の 肝 臓 から の 散乱 光 強 度の 相 関関 数 を 測定 す ると 虚 血 時に は 灌 流時 と は異な る 減 衰を示し 、再灌流 時には虚血 前の灌流時と同様な減衰に戻った。しかしながら、
こ れ ら に関 し ては 実 験 の回 数 が少 な く また プ レパ レ ー ショ ン ご との 再 現性が 十 分 得 ら れ て い な い た め 今 後 さ ら に 実 験 を 繰 り 返 す 必 要 が あ る 。 本 手 法 は 従 来 散 乱 情 報 の 取 得の た めに 利 用 され て いたPCSを 新た に 散乱 媒 質 中 の 吸 収定 量 に拡張し たもので 、今後懸 濁試料の 吸光度測定 に幅広く 利用でき る と 確 信 し て い る 。 今 後 はPCSを 実用 的 を 場面 で よ り簡 便 にか つ 安 定に 応 用す る
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ために光学系をできるだけソリッド化し、さらにin vivo での基礎データを数多
く取ることで細胞レベルから組織レベルに至るまでの応用性を確認し、新たな計
測手法として発展させて行きたい。
主査 教 副査 教
学 位論文審査の要旨
授
田 村 授
喜多村
守 副 査 教 授 魚 崎 浩 平 昇 副 査 教 授 谷 口 和 彌
学 位 論 文 題 名
Absor
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bance measurement in turbid media by photon correlation spectroscopy and its application to biological systems(光子相関分光法による散乱媒質中の吸収測定とその生物系への応用)
生体 組織に代 表される 不均一 多重散乱系において、媒質中に存在する吸収物質の定量法 は現在 まで確立されていない。このような散乱系でfま光が散乱により直進せず、その光路 長が物 理的長さと一致しないため、吸収定量における最も基本的なBeerーLambert則がその まま適 用でき ないから である 。最近になり、散乱媒質中で直接光の飛行距離を求め、吸収 定 量を 行 な うTOF(time of flight)法が提 案されて いる。 本論文に おいて 申請者は 、 この手 法と全 〈巽なる 光子相 関分光法を用いた散乱媒質中の吸収定量法を新たに提案し、
そ の妥 当 性 を実 験 的 に 確認 し た 。そ し て 更に そ の生 物系へ の応用の 司能性を 探った 。 散乱 媒質に光 が照射さ れると 、単散乱領域において粒子のブラウン運動により強度が変 動する。この変動.(ゆらぎ)の程度は光強度の自己相関関数で表わされ、光子相関分光法
(pho ton corrcla t.ion spectroscopy, PCS)で計珊jできる。一般に多重散乱領域における 光強度 のゆら ぎは単散 乱に比 べて速くなり、自己相関関数の繊衰も遮い。これは繰り返し 散乱を 受ける ことによ り、そ のっど強度が変動し、それが蓄積していくためである。散乱 媒質中 の光路長分而iは散乱回数の関数なので、多重散乱領域における光強度のゆらぎは結 果的に光路長分布を介して吸収情報を含むはずである。申言肖者は上記の考察から、光強度 の自己 相関関 数が光路 長分布 のラプラス変換の形で表わされることを導き、吸収項は自己 相関関 数の時 間シフト で与え られるこ とを示 した。従 って、こ の時間 シフトをPCSでtlJ 定することにより、吸収定量が可能とナょる。
散乱媒質にイントラリピ・ソドを、吸収体にCuSOiを、それぞれ用、いて実験を行なったと ころ、 吸収体 の濃度と 自己相 関関数の時間シフトが比例することが見出され、得られたモ ル吸光 係数は 透明溶欣 での値 と一致した。さらに彼長依存性を調べ、一般的な形で自己相 関関数の時間シフトより吸収スペクトルを得る方法を実証した。
次に、イ〜フ、ト(yeast)を用いて、本手法の生物試料への応用の可能tiliを示した。す なわち メチレノブル・−を用いて、viabilityの程度と自己相関関数の時間シフトがほば比 例 す る こ と が 見 い 出 さ れ 、 こ れ は 新 た な 計 川 手 段 の 司 能 性 を 示 し た と い え る 。 以上、噂i;ガ者は、従来散乱t青報の取得のために利用されていた光子梱関分光法を多重散 乱媒質中の吸収定量に拡張したもので、今後、本手裡;は懸繝試料の吸光度川定に幅広く利 用できると結論した。
よって中‑, j者fよ、北緬遵大学t専士(f里学)の学cを授与される領栴あるものと認める。
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