博 士 ( 水 産 科 学 ) 伊 藤 元 裕
学 位 論 文 題 名
海鳥における自身のためと雛のための餌選択と採餌行動
一 餌 の 運 搬 方 法 の 違 い に よ る 採 餌 戦 略 一
学位論文内容の要旨
育 雛 中 の 海 鳥 は 、 自 分 自 身 た め の 餌 と 雛 の た め の 餌 の 両 方 を 採 食 し 、 巣 と 餌 場 と を 往 復 し て 餌 を 運 ば な く て は な ら な ぃ 。 巣 と 餌 場 の 距 離 が 遠 い 場 合 、 両 者 の 最 適 化 は 特 に 重 要 な 課 題 で あ り 、 親 鳥 は そ れ ぞ れ に 対 し 、 餌 選 択 と 採 餌 行 動 を 調 節 し て い る と 考 え ら れ る 。 親 鳥 に は 、 雛 に 餌 を 運 搬 す る 能 カ に 限 界 が あ る 。 嘴 に1匹 の 餌 を く わ え て 運 搬 す る シ ン グ ル プ レ イ ロ ー ダ ー で は 、 選 択 す る 餌 の 種 類と その 大き さが 給 餌 物 量 と 給 餌 速 度 を 決 定 す る 最 大 の 要 因 に な る 。 そ の た め 雛 へ の 給 餌 速 度 を 最 大 化 す る た め に は 、 運 搬 の コ ス ト を 多 く 支 払 っ て で も 大 き な 餌 を 選 択す るだ ろう 。一 方 、 複 数 の 餌 を 一 度 に 嘴 に く わ え て 運 搬 で き る マ ル チ プ ル プ レ イ ロ ー ダ ー は 、 大 き い 餌 を 少 数 捕 獲 す る か 小 さ な 餌 を 多 数 捕 獲 す る こ と に よ っ て 雛 へ の 給 餌 速 度 を 最 大 化 す る こ と が で き る 。 そ の た め 、 マ ル チ プ ル プ レ イ ロ ー ダ ー で は 、雛 のた めに 持ち 帰 る 餌 の 選 択 が シ ン グ ル プ レ イ ロ ー ダ ー ほ ど 強 く な ぃ だ ろ う 。 こ の よう に、 餌の 運搬 様 式 と そ れ に よ る 制 約 の 違 い は 、 親 鳥 の 餌 選 択 、 ひ い て は 採 食 行 動 に 大 き く 影 響 す る 可 能 性 が あ る 。 先 行 研 究 に 韜 い て 、 自 身 の た め の 餌 と 雛 の た め の 餌 が 違 う と 報 告 さ れ て い る の は 、 シ ン グ ル プ レ イ ロ ー ダ ー が 多 い 。
本 研 究 で は 、ウ ミス ズメ 科の シン グル プレ イロ ーダ ー であ るハ シブ トウ ミガ ラスUria lomviaと マ ル チ プ ル プ レ イ ロ ー ダ ー で あ るウ トウCerorhinca monocerataとで 、自 身の た め の 採 餌 と 雛 の た め の 採 餌 に お け る 餌 選 択 や 採 食 行 動 を 比 較 す る 。 そ れ に よ っ て 、 海 鳥 が 自 身 の た め と 雛 の た め と い う 目 的 の 異 な っ た 採 餌 を そ れ ぞ れ い か に 最 適 化 し て い る か 明ら かに する 。そ のた め、 ハシ ブト ウミ ガ ラス とウ トウ の餌 選択 と採 餌行 動 を 詳 細 に 比 較 し た 。 ま た 、 親 鳥 が 選 択 し た 餌 の サ イ ズ が 、 雛 に 与 え る 餌 の 総 重 量 に ど う 影 響 し 、 結 果 的 に そ れ が 繁 殖 成 績 に 影 響 す る の か 分 析 し た 。 ‑ 986―
ハシブトウミガラスの採餌
育雛中のハシブトウミガラスの調査を南東べーリング海プリビロフ諸島のセント・ジ ヨー ジ島で、2006年 と2007年に行 った。親 鳥がくわ えてきた 餌を直接観察で調べる こと で雛のため の餌の種 類と大き さを、親 鳥を捕獲 しその胃 内容物を胃洗浄法で吐 かせ ることで親鳥自身のための餌を、それぞれ明らかにした。また、潜水行動と利用 海 域を 、 腹 部に 装 着 した 超 小型 デ ー タロ ガ ーで水圧 と水温を 連続記録 すること で 分 析 し た 。 そ の 結 果 、 雛 の た め に は80mm(FL)以 上 の ス ケ ト ウ ダ ラTheragra Chalcogrammロや カジカ類、 ギンポ類 、カレイ類などの底生魚といった大きな餌を深 く 潜り(40ー80m)得て いたが、 自身のた めには、80mm(FL)以下のO歳 のスケト ウダ ラや オキアミと ぃった小 さな餌を 浅く(20ー40m)潜 り捕獲し た。雛に給餌された80m m(FL)以上 の ス ケト ウ ダラ は 着 底期 に 相 当し、 コロニー の周辺海 域では、 海底付 近 に多 く 分 布す る 。 また 、 同様 に 雛 に給 餌 された他 の底生魚 も海底付 近に多く 分 布 する 。 一 方、 親鳥が 自身のた めに捕食し た0歳のス ケトウダ ラは表層 生活期に 相 当 し、 水 温 躍層 が発達 する海域 においては 、表層(30―40m)に分布す る。また 、同 様に 親鳥が自身 のために 捕食した オキアミ もフロン ト域や水 温躍層が発達する海域 にお いて表層に 分布する 。このよ うに親鳥 は、潜水 深度を親 鳥白身のための餌と雛 のた めの餌に合 わせてい ると考え られる。 採餌効率 は、自身 のための採餌の方が雛 のための採餌よりも数倍高いことが分かった。これらの結果は、ハシブトウミガラスが 雛 への 給 餌 速度 を 最 大化 す るた め に 、大 き な餌を高 い採餌コ ストを支 払って捕 獲 す る 一 方 、 自 身 の た め に は採 餌 効 率を 最 大 化す る ため に 浅 い水 深 に描 い て 高密 度 集 団 を 形 成 す る 小 さ な 餌 を 繰 り 返 し 利 用 し た こ と を 示 唆 す る 。
ウトウの採餌
北海道 天売島で、 ウトウの 調査をハ シブトウ ミガラス と同様な方法で2006年から 2008年に 行 い 、自 身 の ため の 採餌 と雛の ための採 餌につい て比較した 。ウトウ で は、雛のための採食バ,ウト長(連続して潜水を韜こなう時間)は1413土593秒と親鳥 自身のための採食(157土27秒)よりも長かったが、ハシブトウミガラスとは対照的に、
親 自 身 お よ ぴ 雛 の た め の 餌 と て イ カ ナ 〓 翰mmodytes personatus.ホ ッ ケ Pleurogrammus azonus、カタ クチイワシEngraulis japonicusを利用し、潜水深度に も (平 均11ー15m)差 は無 か った 。 そのため 、親鳥自 身のため 採餌と雛の ための採 ー987―
餌における採食効率は変わらをかった。
ウトウの雛の餌は育雛期の途中にイカナゴやホッケからカタクチイワシヘ急激に切 り替わった。水温より採食水塊を推定すると、ウトウはカタクチイワシが採食可能範 囲に来遊すると、それらが多いと考えられる表面水温の高い(13℃)水塊を能動的に 利用していた。カタクチイワシは、エネルギー価が高くウトウの雛の成長に良い影響 を与える餌であることが知られている。よってウトウも雛には選択的に良い餌を選ん でいる が、 結果 的に それが親鳥自身にとっても効率の良い餌であることが示唆され た。
ウトウの最適餌サイズ
マルチプルプレイローダーに韜いて、大きな餌を運ぶよりも中間のサイズの餌を複 数 運ん だ方 が、 給餌 効率 が良くなるかどうかを見るため、天売島に韜ける1984年か ら2009年のウトウのモニタリングデータを使い、餌サイズと1回にくわえてくる餌の総 重 量と の関 係や 、餌 の総 重量と雛の成長速度との関係を明らかにした。その結果、
ウトウでは、最も大きな餌をくわえてくるよりも、中間的なサイズ(119cm)のカタクチイ ワシを3匹くわえてくる場合に餌の総重量が最大となった。また、年ごとのウトウの餌 に占める最適なサイズのカタクチイワシの割合が大きいほど、ウトウの繁殖成績がよ かった。
このようにマルチプルプレイローダーであるウトウは、中程度の大きさの餌を多数 捕獲することで雛への給餌速度を比較的に大きくすることができる。そのため、ウトウ で は 自 身 の た め の 餌 と 雛 の た め の 餌 に 違 いが 見 ら れ な か っ た のか もし れな い。
シングル・マルチプルプレイローダ―の餌選択
本 研 究 に おい て見ら れた 種間 の差 が、 餌の 運搬 方法 の違 いか ら説 明で きるの か を、以下の3っの仮定のもとに簡便なモデルを使い検証した。1)シングルプレイロー ダーは、雛のために出来る限り大きな餌を選ぶ。2)マルチプルプレイローダーは、ウ トウで示されたとおり、大きな餌が必ずしも嘴にくわえた餌量を最大化させるわけで はなく、中間的な「ちょうどよい」サイズの餌を選ぶことで雛への給餌速度が最大に ぬる 。3)親自身のための餌は、運搬の必要がなく採食場所において捕食ですること がで きる ため 、採 餌効 率( 潜水 時間当たりの獲得エネルギー)が最も高い餌が最適 ‑ 988―
を餌である。餌は大きいほど捕獲が難しくなると考えられるため、餌のサイズが大き いほどが採餌効率は低下する。
これらの仮定のもとに、シングルプレイローダーは、雛には出来る限り大きな餌を 選 び、自身 はいっも それより も採り易 い小さな餌 を選ぶことが予想される。そのた め 、 親 自身 の 餌と 雛 の ため の餌 のサイズ や種類は異 なるのだ と考えら れる。一 方 で 、マルチ プルロー ダーも雛 への給餌 速度を最大 化するために、最適な餌を選ばう とするが、最適な餌サイズは中程度の物になり、その餌の選択幅も広くをる。そのた め マ ル チプ ル ロー ダ ー では 、親 鳥自身に とって最適 な餌と雛 のために 最適な餌 の サ イズレン ジが近く なり、コ ロニー周 辺の海洋環 境に応じて親鳥自身のための餌と 雛 のため餌 が異なる こともあ るが、本 研究のよう に親鳥自身のため餌と雛のため餌 が同じこともよく起こり得ると予測される。これまで見てきた本研究の結果は、シング ル プレイロ ーダー、 マルチプ ルプレイ ローダーと ぃう餌の運搬方法の違いで説明で きることが示唆された。
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学位論文審査の要旨
主 査 教 授 桜 井 泰 憲 副 査 教 授 齊 藤 誠 一 副 査 准 教 授 綿 貫 豊
副 査 准 教 授 新 妻 靖 章 ( 名 城 大 学 )
学 位 論 文 題 名
海鳥における自身のためと雛のための餌選択と採餌行動
一餌の運搬方法の違いによる採餌戦略ー
【背景】
育雛中の海鳥は、自分自身のための餌と雛のための餌の両方を採食し、巣と餌場とを往 復して餌を運ばなくてはならない。巣と餌場の距離が遠い場合、両者の最適化は特に重要 な課題であり、親鳥はそれぞれに対し、餌選択と採餌行動を調節していると考えられる。
嘴に1 匹の餌をくわえて運搬するシングルプレイローダーは、選択する餌の種類とその大き さが給餌物量と給餌速度を決定する最大の要因になる。そのため雛への給餌速度を最大化 するためには、運搬のコストを多く支払ってでも大きな餌を選択するだろう。一方、複数 の餌を一度に嘴にくわえて運搬できるマルチプルプレイローダーは、大きい餌を少数捕獲 するか小さな餌を多数捕獲することによって雛への給餌速度を最大化することができる。
そのため、マルチプルプレイローダーでは、雛のために持ち帰る餌の選択がシングルプレ イローダーほど強くないだろう。先行研究において、自身のための餌と雛のための餌が違 うと報告されているのは、シングルプレイローダーが多い。このように、餌の運搬様式と それによる制約の違いは、親鳥の餌選択、ひいては採食行動に大きく影響する可能性があ る。
【目的と方法】
本研究では、シングルプレイローダーであるハシブトウミガラスとマルチプルプレイロ ーダーであるウトウで、自身のための採餌と雛のための採餌における餌選択や採食行動を 比較することによって、これら目的の異なった2 種類の採餌をそれぞれいかに最適化して いるか明らかにする。そのため、ハシブトウミガラスとウトウの餌選択と採餌行動を詳細 に比較した。ハシブトウミガラスの調査は、南東べーリング海プリビロフ諸島のセントジ
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ヨージ島で 、2006年と
2007
年に行った。ウトウの調査は、北海道天売島で2004
年から2008
年に行った。雛に給餌された餌の直接観察によって雛のための餌を、親鳥の胃内容物 を胃洗浄法で吐かせることで親鳥自身のための餌を明らかにし、データロガーを装着して 親鳥の採餌行動を記録した。親鳥が選択した餌のサイズが、雛に与える餌の総重量にどう影響し、結果的にそれが繁 殖成績に影響するのかを、20年間にわたるウトウのモニタリングデータを使い分析した。
【結果と考察】
ハシブトウ ミウガラス は、雛のた めには、着底期のスケトウダラ(FL>80mm)やカジ カ類、ギンポ類、カレイ類たどの底生魚といった大きな餌を深く潜り得ていたが、自身の ためには、 表層生活期 の0歳魚 スケトウダラ
(FL
く80mm)やオキアミといった小さな餌 を浅く潜り捕獲した。採餌効率は、自身のための採餌の方が雛のための採餌よりも数倍高 いことが分かった。ハシブトウミガラスはシングルプレイローダーであるため、選択した 餌サイズが直接的にその給餌速度を規定する。これらの結果は、ハシブトウミガラスが雛 への給餌速度を最大化するために、大きな餌を高い採餌コストを支払って捕獲する一方、自身のためには採餌効率を最大化するために浅い水深において高密度集団を形成する小さ な餌を繰り返し利用したことを示唆する。