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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 農 学 )    澤 田 和 典

学 位 論 文 題 名

Alterations of central metabolism inapyruvate kinase   gene deletion mutant and anH 十 ― ATPase ― defective     mutant of Corynebacterium glutamlcum

(Corynebacterium glutamicum のピルビン酸キナーゼ遺伝子欠失変異株及び     H ゛ ‑ATPase 欠 損 変 異 株 に お け る 中 枢 代 謝 の 変 化 )

学位論文内容の要旨

  C,orynebacterium glutamicumは工業的アミノ酸発酵の生産宿主として広く用いられてお り,産業上 重要な微生物である.C.glutamicumが発見されて以来,アミノ酸生産,特にグ ルタミン酸 とりジンに関して ,高い生産能を持つ株の育種がさかんに行われてきた.育種 の過程でc.glutamicumに関する代謝の特徴が明らかになったが,未だ不明な点も多い.中 枢代謝もそ の例のーっであり ,様々な生命現象の基盤となる重要な代謝経路であるにもか かわらず, これまでに得られ ている知見は限られている.本論文ではこの中枢代謝の中で も 解糖 系の 鍵 酵素 と考えられて いるピルビン酸キナ ーゼ(PYK)と酸化的リン酸化 による ATP合 成 を担 うFoFl‑ATP合成酵素(H゛‑ATPase)に着目した. これらの変異が中枢 代謝に 与 え る 影 響 と そ れ が 起 こ る メ カ ニ ズ ム に つ い て明 らか に する こと を 目的 とし た . 1) ピ オ チ ン 欠 乏 条 件 下 に お け る pyk欠 失 が も た ら す 代 謝 へ の 影 讐   PYK変異 そのものがもたら す代謝への影響を調 べるため,C.glutamicumの 基準株であ るATCC 13032株 (以 下13032株と する ) を親 株と して用いた.こ の親株のPYKをコード する 遺伝 子pykを 二重 相同 組 換え 法に よ り欠 失さ せ,PYK活性が検出限界以 下となった Dl株 を作 成 した .ま たDl株 にpyk遺伝 子 をも つ発 現用プラスミド で形質転換し,PYK活 性を 相補させた株(Cl株)を 作成した.これら3株を用い ,グルタミン酸生産 条件である ビオチン欠乏条件 で培養を行った.培 地は発酵生産に用 いられる複合培地(F4培地)を用 いた.その結果,Dl株は野生株と比較 して生育が減少(15%減)し たものの,菌体あたり の糖消費速度は25%上昇していた.ま たグルタミン酸生産量,アスパラギン酸生産量はそ れぞれ親株の1.3倍,4.2倍に上昇して いた.酵素活性測 定,転写量測定の結果から,pyk 欠失 によってホスホ エノールピルビン 酸(PEP)が 蓄積し,この蓄積 を解消するためにPEP カ ル ボ キ シラ ーゼ(PEPC)とPEPカル ボ キシ キナ ー ゼ(PEPCK)が協 調 的に 活性 を 変化 さ せたと考えられた .これはPEPを消費しオキサ ロ酢酸を生成する方 向に代謝を傾ける効果 があ ると 推 測さ れた . 特にPEPCKに関 しては転写レベル でも発現量が制御さ れているこ とが示唆された.同様に,PEPの蓄積によってphosphotransferase systemによる糖の取り込 みが促進され,PEPを消費し てピルビン酸を生 成する反応が増大し たと考えられた.これ ら変 化に よ ルオ キサ ロ 酢酸 とア セ チルCoAの 供給 バランスが改善 し,TCAサ イクルがよ り効率よく機能し たためグルタミン酸 の生産量が増大したと考えられた,オキサロ酢酸の 供給 量が増加したこ とはオキサロ酢酸 を前駆体とするア スパラギン酸の生成 量を増大さ せたことにもっな がったと考えられた.Cl株は 野生株とほば同様の 表現型を示したことか ら,Dl株で見られ た代謝変化はpyk欠失による ことが示された.

2) ピ オ チ ン 十 分 条 件 下 に お け るpy斥 欠 失 が も た ら す 菌 体 形 成 量 増 大 効 果   次に13032株,Dl株,C1株を用い,生育によ り適した条件であ るビオチン十分条 件下 において ,p竹欠失 が代謝に与える影 響について明らか にすることを試みた,培地はF4培

―971 ‑

(2)

地を用いた .培養の結果,Dl株において生育量が 大幅に増加し(37%増),菌体あたりの 糖消費速度も増大した(35%増).反対に呼吸活性は低下していた(55%減).生育量の増加 は乾燥菌体 重量でも評価し,Dl株において18%増 加していることを 確認した.酵素活性 測 定, 転写 量 測定 の結果,ビ オチン欠乏条件と 同様,PEPCとPEPCKの恊調的 な活性の変 化が観察さ れた,オキサロ酢 酸の代謝に関与する ,リンゴ酸‐キノン酸化還元酵素(MQO) の活性も低 下していた.また ビオチンを補酵素と するピルビン酸カルボキシラーゼ(PCx) の活性低下 も転写量測定から 示唆された,このこ とからビオチン欠乏条件と同様に,pyk 欠 失に よ ってPEPの 蓄積 が 起こ り, こ の蓄 積を 解 消す るた め にPEPCとPEPCKの 活性 が 変化したと 考えられた.この 結果オキサロ酢酸の供給量が増大し,過剰なオキサロ酢酸が 生 成さ れる こ とを 防ぐ た め,MQOお よびPCxの 活 性が 低下 し たと 推測された,MQOはり ンゴ酸をオ キサロ酢酸に酸化 する際,電子を呼吸鎖にあるメナキノンに伝達する,このこ と からMQOの 活性 低 下はDl株 に おけ る呼 吸 活性 の低 下 と関 連し ている可能 性が示唆さ れ た, また グ ルタ ミン酸非生 産条件であること とMQOの活 性低下の相乗効果 により菌体 形成の前駆 体となる代謝中間 体の濃度が上昇し,菌体形成量の増大にっながったと考えら れた.またCl株は野生株とほ ぼ同様の表現型を示 したことから,Dl株で見られた代謝変 化はpyk欠失によるこ とが示された.

3)H+‑ATPase欠損変異株が示す 呼吸活性増大メカニ ズムの解明

  e glutamicumのH十‑ATPase欠損変異株に おいては糖消費速度の上昇と呼吸活性の増大が 起こ ることが知られてい る.そこでこの現 象のメカニズムに ついて解明を試みた.13032 株と ,この株を親株とし ,H゛‑ATPaseの活 性を低下させる点変異を遺伝子操作によって導 入 したA‑l株 を 使用 し,13032株 とA‑l株の 発酵 特性につ いて調べた.培養 の結果,A‑l 株は13032株と 比べ,生育速度は50%低下し,菌体あたりの糖消費速度は1.9倍になった.

呼 吸活 性 も1.4倍に 上昇 して いた,一般的にNADHの再酸化に関与す る酵素であるNDH‑II の 活性 に は変 化が 見 られ なかった.こ れに対して,NADHの再酸化と呼吸に 関与するTCA サ イク ル のMQO/リ ン ゴ酸 デヒ ド ロゲ ナー ゼ(MDH)と解糖 系近傍のL.乳酸デヒドロゲ ナ ー ゼ(LldD)/ 乳酸 デ ヒド 口ゲ ナ ーゼ(LdhA)の酵 素活 性 およ ぴ転 写 量はA‑l株で有意 に 上昇 していた.このこと から,基質的リン 酸化によるATP合成が促進された結果,菌体内 のNADH濃 度 が 上 昇 し ,MQO/MDHお よ びLldD/LdhAの2つ の カ ッ プ リ ン グ 反 応 が 過剰 なNADHを再 酸化していること が示唆された.ま た,末端酸化酵素全 体の活性も上昇し て い た,転写 量測定の結果から ,その上昇は,プ ロトン駆動力形成能 が低いシトクロムbd オ キ シ ダー ゼの 上 昇に 起因 し てい ると 推 測さ れた . この こと か ら呼 吸活 性 の増 大は MQO/MDH,LldD/LdhAのカ ップ リ ング 反応 の 亢進 とシトクロムbdオ キシダーゼの活性 上 昇に よると考えられた.

  これらの研究を通じてc.glutロmicumは代謝のかく乱に対して,中枢代謝を駆使し代謝バ ランスを維持 しようとすることが 明らかになった. またpyk欠 失とH十‑ATPase欠損の両研 究を 通 して ,TCAサイ ク ルの 一反 応 を担 うMQOの比活性と呼吸活 性との問に正の相関 が 見られたこと は興味深い現象である,これらの知見はC.glutamicumの基礎的な生理特性の 理解,およびC.glutamicumによるさらな る発酵生産の効率化 に貢献すると期待できる.

―972 ‑

(3)

学位論文審査の要旨 主査 副査

副査 副査

教授 教授 准教授 客員准教授

横田 松井 和田 湯本

学 位 論 文 題 名

     篤 博 和      大      勳

Alterations of central metabolismlnapyruVatekinaSe   genedeletionmutantandanH 十―ATPaSe −defeCtiVe

    mutantof のめ伽e ぬC 絶mlm 餌U ぬm を脚

(&め珊e ぬc 絶mfm 〆u ぬm たum のピルビン酸キナーゼ遺伝子欠失変異株及び     H ゛ , ATPase 欠 損 変 異 株 に お け る 中 枢 代 謝 の 変 化 )

   本論文は,英文145 ベージ,図Il ,表12 ,5 章からなり,参考論文2 編が付されている,

Corynebacterium glutamicu.m は工業的アミノ酸発酵の生産宿主として広く用いられており,

産業上重要な微生物であるが、中枢代謝を含む代謝機構については未解明な点が多い.本 研究は中枢代謝の中 でも解糖系の鍵酵素と考えられているピルピン酸キナーゼ(PYK) と 酸化的リン酸化によ る ATP 合成を担うF 。Fl‑ATP 合成酵素(H ゛ ‑ATPase) に着目し、これら の変異が代謝に与える影響とそれが起こるメカニズムについて明らかにしたものである.

1 )ピオチン欠乏条件におけるpyk 欠失がもたらす代謝への影響

  PYK 変異そのものがもたらす代謝への影響を調べるため,C .glutamicum の基準株であ る ATCC 13032'r 株(野生株)を親株と する,pyk 欠失変異株(DI 株)とDl 株にPYK 活性 を相補させた株(Cl 株)を作成した.これらをピオチン欠乏によるグルタミン酸生産条件 で培養を行った.その結果,Dl 株は野生株と比べ生育が減少したが,菌体あたりの糖消費 速度は上昇した,グルタミン酸生産量,アスパラギン酸生産量はDl 株において増加した,

こ の メ カ ニ ズ ム と し て PEP カ ル ポ キ シ ラ ー ゼ (PEPC) と PEP カ ル ボ キ シ キ ナ ー ゼ (PEPCK) が協 調的 に活 性を 変化 させ 、 PEP の蓄 積を 回避 した と推 測し た. 同 様に , phosphotransferase system によって糖の取り込みが促進され,PEP からピルピン酸を生成す る反応が増大したと考えた.これ ら変化によりOAA とアセチル CoA の供給バランスが改 善し,TCA サイクルがより効率よく機能したためグルタミン酸の生産量が増大したと考察 した. OAA の供給量が増加したことはOAA を前駆体とするアスパラギン酸の生成量増大 にもっながった.PYK 変異単独の効果でグルタミン酸生産が増大することは新規な知見で ある.

2 ) ピ オ チ ン 十 分 条 件 に お け る pyk 欠 失 が も た ら す 菌 体 形 成 量 増 大 効 果    次に野生株,Dl 株,Cl 株を用い,生育により適したビオチン十分条件における,ガた

―973ー

(4)

欠 失 が 代 謝 に 与 え る 影 響 に つ い て 調 べ た . 培 養 の 結 果 ,Dl株 に お い て 生 育 量 が 大 幅 に 増 加 し , 菌 体 あ た り の 糖 消 費 速 度 も 増 大 し た , 反 対 に 呼 吸 活 性 は 低 下 し て いた , 酵 素 活 性測 定 , 転 写 量 測 定 の 結 果 ,PEPCとPEPCKの 協 調 的 な 活 性 の 変 化 が 観 察 さ れ た .OAAの 代 謝 に 関 与 す る , リ ン ゴ 酸 ― キ ノ ン 酸 化 還 元 酵 素(MQO)の 活 性 も 低 下 し て い た . ま た ピ ル ビ ン 酸 カ ル ポ キ シ ラ ー ゼ(PCx)の 活 性 低 下 も 転 写 量 測 定 か ら 示 唆 さ れ た . こ の こ と か らPEPの 蓄 積 を 解 消 す る た め にPEPCとPEPCKの 活 性 が 変 化 し ,OAAの 供 給 量 が 増 大 し た と 推 測 し て い る .MQOお よ びPCxの 活 性 低 下 はOAAの 過 剰 生 成 を 防 ぐ た め と 考 察 し て い る , MQOは り ン ゴ 酸 をOAAに 酸 化 す る 際 , 電 子 を 呼 吸 鎖 に あ る メ ナ キ ノ ン に 伝 達 す る た め , MQOの 活 性 低 下 がDl株 に お け る 呼 吸 活 性 の 低 下 と 関 連 す る 可 能 性 を 示 唆 し て い る .PYK 変 異 で バ イ オ マ ス 生 産 が 増 加 す る こ と を 発 見 し た の は 新 規 の 知 見 で あ る .

3) H+‑ATPase欠 損 変 異 株 が 示 す 呼 吸 活 性 増 大 メ カ ニ ズ ム の 解 明

  C. glutamicumのH゛‑ATPase欠 損 変 異 株 に お い て , 糖 消 費 速 度 の 上 昇 と 呼 吸 活性 の 増 大 が 起 こ る メ カ ニ ズ ム に つ い て 解 明 を 試 み た . 野 生 株 と , こ の 株 を 親 株 と し , H+‑ ATP aseの 活 性 を 低 下 さ せ たA‑l株 を 使 用 し , 発 酵 特 性 に つ い て 調 べ た . 培 養 の 結 果 ,A‑I株 は13032 株 と 比 ベ , 生 育 速 度 は 半 減 し , 菌 体 あ た り の 糖 消 費 速 度 は1.9倍 に な っ た . 呼 吸 活 性 も 上 昇 し た ,NADH再 酸 化 酵 素 のNDH‑IIの 活 性 に は 変 化 が 見 ら れ な か っ た . こ れ に 対 し て , NADHの 再 酸 化 と 呼 吸 に 関 与 す るMQO/リ ン ゴ 酸 デ ヒ ド ロ ゲ ナ ー ゼ(MDH)とL‑乳 酸 デ ヒ ド 口 ゲ ナ ー ゼ(LldD)/ 乳 酸 デ ヒ ド 口 ゲ ナ ー ゼ(LdhA)の 酵 素 活 性 お よ び 転 写 量 がA‑I株 で 有 意 に 上 昇 し て い た . こ の こ と か ら , 基 質 レ ベ ル の り ン 酸 化 に よ るATP合 成 が 促 進 さ れ た 結 果 , 菌 体 内 のNADH濃 度 が 上 昇 し , 前 述 の カ ッ プ リ ン グ 反 応 が 過 剰 なNADHを 再 酸 化 し て い る こ と が 示 唆 さ れ た , ま た , 末 端 酸 化 酵 素 全 体 の 活 性 も 上 昇 し て い た , 転 写 量 測 定 の 結 果 か ら , そ の 上 昇 は プ 口 ト ン 駆 動 力 形 成 能 が 低 い シ ト ク 口 ムbdオ キ シ ダ ー ゼ の 上 昇 に 起 因 し て い る と 推 測 し て い る . 以 上 か ら 呼 吸 活 性 の 増 大 はMQO/MDH,LldD/LdhAの カ ッ プ リ ン グ 反 応 の 亢 進 と シ ト ク 口 ムbdオ キ シ ダ ー ゼ の 活 性 上 昇 に よ る と 考 察 し て い る , MQO活 性 と 呼 吸 活 性 の 関 連 を 明 確 に 示 し た の は 新 規 の 知 見 で あ る .

  以 上 の 研 究 を 通 じ てC, glutamicumは 代 謝 の か く 乱 に 対 し て , 中 枢 代 謝 を 駆 使 し 代謝 バ ラ ン ス を 維 持 し よ う と す る こ と が 明 ら か に し た , ま たpyk欠 失 とH゛‑ATPase欠 損 の 両 研 究 を 通 し て ,TCAサ イ ク ル の 一 反 応 を 担 うMQOの 比 活 性 と 呼 吸 活 性 と の 問 に 正 の 相 関 が 見 ら れ た こ と は 興 味 深 い 現 象 で あ る . こ れ ら の知 見 はC.glutロmicumの基 礎 的 な 生 理特 性 の 理 解 , お よ びC.glutロmicumに よ る さ ら な る 発 酵 生 産 の 効 率 化 に 貢 献 す る と 期 待 で き る .

  よ っ て 審 査 員 一 同 は , 澤 田 和 典 氏 が 博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 認 め た ,

―974―

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図2に実験装置の概略を,表1に主な実験条件を示す.実