2019 年度 博士学位論文
ビフリル骨格含有バイオベース材料の開発
群馬大学大学院 理工学府 理工学専攻 物質・生命理工学領域 環境調和型材料科学研究室
林 千里
目次
第1章 序論 4
1-1 持続可能な社会への取り組み 5
1-2 第一世代バイオマス資源と第二世代バイオマス資源 5
1-3 フルフラール 7
1-4 フルフラールを原料とするバイオベース高分子 7
1-5 フラン環含有高分子 9
1-6 ビフリル骨格 12
1-7 本研究の目的 17
1-8 参考文献 19
第2章 フルフラール由来ビフリル骨格含有ポリシッフ塩基の合成と物性評価 24
2-1 緒言 25
2-2 実験 26
2-2-1 試薬 26
2-2-2 特性評価 26
2-2-2-1 核磁気共鳴 (NMR) スペクトル 26
2-2-2-2 フーリエ変換赤外 (FT-IR) スペクトル 26
2-2-2-3 単結晶X線回折測定 26
2-2-2-4 DFT計算 27
2-2-2-5 分子量測定 27
2-2-2-6 熱的性質測定 27
2-2-2-7 紫外可視吸収スペクトル 28
2-2-2-8 引張試験 28
2-2-2-9 分解試験 28
2-2-3 2-(2-フリル)-1,3-ジオキソラン2-3の合成 28
2-2-4 5,5’-ジ(1,3-ジオキソラン-2-イル)-2,2’-ビフラン2-4の合成 29
2-3 結果と考察 31
2-3-1 2-2の合成 31
2-3-2 2-2の重合 34
2-3-3 PShBの構造解析 36
2-3-4 PShBの熱的性質 43
2-3-5 PShBの光学的性質 46
2-3-6 PShBの機械的性質 49
2-4 まとめ 52
2-5 参考文献 53
第3章 フルフリルアルコール由来ビフリル骨格含有ポリエステルの合成と架橋挙動 55
3-1 緒言 56
3-2 実験 58
3-2-1 試薬 58
3-2-2 特性評価 58
3-2-2-1 核磁気共鳴 (NMR) スペクトル 58
3-2-2-2 フーリエ変換赤外 (FT-IR) スペクトル 58
3-2-2-3 単結晶X線回折測定 58
3-2-2-4 分子量測定 59
3-2-2-5 熱的性質測定 59
3-2-2-6 密度汎関数法 (DFT) 計算 59
3-2-3 フルフリルアセテート3-4の合成 60
3-2-4 ビフルフリルアセテート3-3の合成 60
3-2-5 ビフルフリルアルコール3-2の合成 60
3-2-6 PBFDの合成 62
3-2-7 モデルDA付加物3-5の合成 62
3-2-8 ビスマレイミドを用いたPBFSの架橋反応 62
3-2-9 3-5のretro-DA反応 62
3-2-10 架橋PBFSのretro-DA反応 62
3-3 結果と考察 63
3-3-1 3-2の合成と構造解析 63
3-3-2 3-2からPBFSへの重合 65
3-3-3 PBFSの構造解析 67
3-3-4 PBFSのDA反応による架橋 68
3-3-5 架橋PBFSの熱的性質 77
3-4 まとめ 82
3-5 参考文献 83
第4章 総括 85
参考文献 89
業績目録 91
謝辞 92
第 1 章
序論
1-1 持続可能な社会への取り組み
現代社会にとって、持続可能な社会をいかにして構築するかが大きな課題となっている。そのた め、2015年には国連サミットで持続可能な開発目標(SDGs)が採択され、17のゴール、169のタ ーゲットからなる国際目標が提案された1。17のゴールの一つとして、気候変動に対する取り組み
「13 CLIMATE ACTION」が設定された。同年、第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)
では、京都議定書の後継としてパリ協定が採択された。気候変動に対する目標を達成するため、化 石資源エネルギーからバイオマスエネルギーへの転換が求められ、化石資源から生産されているプ ラスチックもバイオマス由来のプラスチック(バイオベース高分子)への転換が迫られている。一 方、欧州において環境配慮のための循環社会構築を経済的利益と両立させるサーキュラーエコノミ ー (CE:循環型経済) が提唱され、サーキュラーエコノミーパッケージが採択されている (Figure 1-
1)。CE では、これまでの生産→消費→廃棄の直線的プロセスに、廃棄→再生産のプロセスを導入
し、全ての資源を循環するプロセスを確立することを目指しており、バイオベース高分子はその循 環プロセスを完結させる手段となる。CE を目標とするバイオベース高分子開発では単に高分子原 料にバイオマスを使うのではなく、バイオベース高分子の生産・利用に経済性を付与することが重 要となっている。
Figure 1-1. International effort for sustainable development goal.
Circular Economy
(CE)
Paris Agreement SDGs
Action
Circular Design Ø Recycle Ø Reuse Ø Biomass For Economy
エチレン 2、バイオエタノール由来エチレングリコールから生産されるポリエチレンテレフタレー ト (PET)3,5,6、植物油を炭素源として微生物から生産されるポリ(R)-3-ヒドロキシブチレート7、微生 物発酵によるデンプン由来乳酸から生産されるポリ乳酸 8、微生物発酵による糖類由来コハク酸か ら生産されるポリブチレンサクシネート 9、糖アルコール由来イソソルビドから生産されるポリカ ーボネート 10、ひまし油由来セバシン酸から生産されるポリアミド 6,1011、ひまし油由来ウンデシ レン酸から生産されるナイロン 1111などが、バイオベース高分子として市販されている (Figure 1- 2)。
Figure 1-2. Structures of commercially available biobased polymers.
ナイロン 11 以外の市販バイオベース高分子の原料は、第一世代バイオマスと呼ばれるトウモロ コシ由来のデンプンやサトウキビ由来の糖質、パーム油や大豆などの可食バイオマス由来であり、
食糧供給と競合する。一方、第二世代バイオマスと呼ばれる木材、農業廃棄物、トウモロコシの芯、
バガスなどの非可食バイオマスは食用に適さず、食糧供給との競合を回避できる 12–17。そのため、
次世代のバイオマス資源として非可食バイオマスへの移行が求められている。
非可食バイオマスである木質や農業廃棄物などの主成分はセルロース、ヘミセルロース、リグニ ンから構成されるリグノセルロースである 15,17。リグニンは、p-クマリルアルコール、コニフェリ ルアルコール、シナピルアルコールの3種類のモノマーから構成され、これらが炭素-炭素結合な どによって複雑な架橋構造を形成しているため17、単一の化合物や材料として利用することが困難 である。セルロースはグルコースが β-1,4 グリコシド結合によって結合した構造を有し 18、パルプ として利用され、加水分解で得られるグルコースはバイオエタノールの原料やバイオベース高分子 としての利用が検討されている。ヘミセルロースは β-1,4 グリコシド結合によって結合したキシラ ンを主鎖骨格にもち18、加水分解して得られるキシロースが化成品原料として利用されている。
O O
n
Poly[(R)-3-hydroxybutyrate]
n
Polyethylene
O O
n
Poly(lactic acid)
O
O
O O
n
Poly(butylene succinate)
O O O
O O
n
Polycarbonate
NH O
Nylon 11 NH
HN
O
O
n
Nylon 6,10
n
O
O O
O
n
Poly(ethylene terephtalate) (PET)
1-3 フルフラール
ヘミセルロースはフルフラールの原料としても利用されている。フルフラールはフラン環の2位 にホルミル基を有する芳香族化合物であり、融点–37 °C、沸点162 °Cで、室温で液体として存在す る。1921年に米国クエーカーオーツ社が工業生産を開始し19、現在も約70万トン/年(2012年)が 生産され、価格も約1 ドル/kgと安価であるため、バイオベース化合物として経済的に有望である
20。フルフラールの更なる効率的な生産方法が研究されており、現在工業的に用いられている硫酸 触媒による脱水反応に加えて21,22、不均一系の固体酸触媒を利用した効率化の研究が行われている
23–26。
フルフラールの主な利用用途はフラン樹脂である。フラン樹脂はフルフラールを還元して生産さ れるフルフリルアルコールを酸触媒存在下、高温条件下で架橋することで得られ、耐熱性と耐薬品 性に優れていることから、耐食用ライニング、樹脂セメントや金属鋳造の鋳型として利用されてい
る22,27,28。その他、潤滑油精製の抽出溶媒や、フルフリルアルコール、フランカルボン酸、テトラヒ
ドロフラン及びフランなどの化成品原料に用いられている (Scheme 1-1)22,27。
Scheme 1-1.
1-4 フルフラールを原料とするバイオベース高分子
O
O O O
O O O
O
O O
O O
OH H
O
OH O
Reduction Oxidation
Decarbonation
Furfuryl alcohol Furfural Furancarboxylic acid
Furan Tetrahydrofuran
Resinification
Reduction
Furan resin
Extraction solvent
Scheme 1-2.
フルフラールから高分子を合成する研究は、石油化学産業の急速な発達によって経済的な優位性を 失い衰退していった。一方、21世紀になってから、非可食バイオマスから生産されるバイオベース 化合物としてフルフラールは再注目され、フルフラールからの高分子開発が再び脚光を浴びてきた。
フルフラールからの高分子開発として、汎用モノマーのジカルボン酸やジオールを合成する研究 が進められている。Tachibana らはフルフラールから 2 段階の化学反応によってコハク酸及び 1,4- ブタンジオールを合成し、それらを既存の手法で重合することでポリブチレンサクシネート (PBSu) を合成している (Scheme 1-3)40。
Scheme 1-3.
Lu らはフルフラールからワンポット合成した 1,5-ペンタンジオールを脂肪族ジカルボン酸と重 合することで、ポリペンチレンジカルボキシレートを合成している (Scheme 1-4)41,42。
Scheme 1-4.
O H O
C C N
N
Furfural Adiponitrile
H2N NH2
Hexamethylenediamine
NH
Nylon 6,6 HN
O
O
n
Reduction
Polycondensation
O H O Furfural
2 steps HO
O OH O
HO + OH
Succinic acid 1,4-Butanediol
Ti(i-PrO)4 243 °C, <40 Pa, 2 h
O O
O
O Poly(butylene succinate)
n
One-pot O
H O Furfural
HO OH
HOOC CH2 COOH
n
1) Esterification
Ti(OBu)4
200 °C 2) Polycondensation
Ti(OBu)4, 200–240 °C
1,5-Pentanediol Poly(1,5-Pentylene dicarboxylate) C CH2 C
n
O O
O O
m
テレフタル酸はポリエチレンテレフタレート (PET) やポリブチレンテレフタレート (PBT)、あ るいは全芳香族ポリアミドのモノマーなど高強度高分子にとって不可欠なモノマーである。
Tachibanaらはフルフラールを原料として、6段階でテレフタル酸を合成している (Scheme 1-5)43。
Scheme 1-5.
Tachibana らは既存の高分子モノマー以外にも、フルフラール由来のフランとマレイン酸無水物
からオキサビシクロジカルボン酸無水物 (OBCA) へと変換している。OBCA とジオールとの縮合 反応によって、新規バイオベースかつ生分解性を有する高分子としてポリオキサビシクレート (POBC) を合成している (Scheme 1-6)44–46。
Scheme 1-6.
1-5 フラン環含有高分子
1-4 で示した手法でフルフラールから合成したモノマーは、化石資源からも容易に合成が可能で ある。そのため、これらをバイオベース高分子として産業化する際は、原料にフルフラールを用い るか化石資源を用いるかを判断する必要があり、原料及び製造プロセスのコストが重要な検討項目 となる。現状では、フルフラール自体の価格と化石資源の価格差にまだ開きがあり、化石資源から
Terephthalic acid O
OH
O HO
O
O O
O
n
Poly(ethylene terephtalate) (PET)
O H O Furfural
6 steps
HO OH
Bio-ethanol
O H O Furfural
4 steps O O O
O O
O CH2 O
n
O O m
HO CH2 OH
n
1) Esterification
160 °C, 3 h, N2 2) Polycondensation
Ti(i-PrO)4, 180 °C, <10 Pa, 7 h Oxabicyclic dicarboxylic
anhydride (OBCA)
Polyoxabicyclate (POBC)
ら生産することは経済的に不可能であり、2) 化石資源から工業生産した別の樹脂(フェノール樹脂 など)では代替できない特性を有していることから、いまだにフルフラールから生産し使い続けら れている。そして、このフラン樹脂にとって重要な化学構造はフラン環である。フラン樹脂以外に もフラン環を有する化合物であるフルフラール、フラン、5-ヒドロキシメチルフルフラール、フラ ンジカルボン酸などは化石資源からではなくバイオマスから生産される。これらのことは、フラン 環を高分子骨格に導入し、フラン環由来の特性を発現することができるならば、そのバイオベース 高分子は化石資源由来高分子に対する経済的なメリットにつながる (Figure 1-3)。
Figure 1-3. Manufacturing pathway of furan-containing polymer .
フラン環を有する高分子として、Gandini らはフラン誘導体である 2,5-フランジカルボン酸とエ チレングリコールからポリエチレンフラノエート (PEF) を合成している (Scheme 1-7)47。PEF は PETよりも優れたガスバリア性を有しており、PET代替材料と期待されている。そのため、オラン
ダのAvantium社はPET代替のバイオベース高分子としてPEFの工業生産を検討している30,48–50。
Fossil resource Oil
Biomass Manufacturing=
Expensive
Manufacturing=
Inexpensive
Furan-containing biobased polymer
O H O Furfural
O Furan
O H O HO
5-Hydroxymethylfurfural
O OH O Furandicarboxylic acid
HO O
O
Furan derivative
O
nScheme 1-7.
Okadaらは2つのフラン環をスペーサーで連結したビスフランジエステルとイソソルビドからビ
スフラン骨格含有ポリエステルを合成している (Scheme 1-8)51,52。得られたポリエステルはアモル ファスであり、ガラス転移温度は112 °Cであった。
Scheme 1-8.
Gaitonde らはフルフラールを原料としてビスフェノール A 類似化合物であるビスフランジオール
を合成し、ビスフランジオールとコハク酸からポリエステルを合成している (Scheme 1-9)53。5%重 量減少温度は224 °Cであり、ガラス転移温度は20 °Cであった。また、融点は観測されなかった。
Scheme 1-9.
O OH O HO
O + HO OH O
O O O
O HO OH
HCl aq.
75 °C, 6h
Sb2O high vacuum
70 – 200 °C O
O O O
O HO OH
n
2,5-Furandicarboxylic acid Ethylene glycol Diester diol
Poly(ethylene furanoate) (PEF)
O H O
Furfural
O O
O O
O O
Bisfuran diester
O
O O
O O
O O
O O
n
1) Esterification 2) Polycondensation
Bisfuran-containing polyester HO
OH
O O
Isosorbide
O H O Furfural
O O
OH HO
Bisfuran diol
O O
O O
O O
n
Succinic acid, DMAP, N, N'-diisopropylcarbodiimide 1,2-dichloroethane, r.t., 15 h, N2
Bisfuran-containing polyester
1-6 ビフリル骨格
フラン環を連結した骨格として、フラン環同士を直接連結するビフリル骨格が存在する。モノフ ラン環、ビスフラン骨格、ビフリル骨格の構造特性をTable 1-1に示す。モノフラン環は平面である が、ビスフラン骨格はフラン環同士をスペーサーで連結しているためフラン環同士は非平面になる。
一方、ビフリル骨格はフラン環の2位同士が直接炭素-炭素結合した構造であり、2つのフラン環が 同一平面上にある。通常、高い平面性は構造の剛直性につながり、高強度材料に利用が可能である。
また、ビスフラン骨格は 2 つのフラン環の間で共役系が繋がっていないが、ビフリル骨格ではp共 役系が拡張しており、光・電気化学的特性発現が期待できる構造である。
Table 1-1. Structural properties of mono-furan, bisfuran and bifuryl moiety
Bloomらはab initio法により、フラン二量体であるビフランとチオフェン二量体であるビチオフ
ェンの最安定構造を求めた。ビフェニル54、ビチオフェン55、ビフラン55の最安定構造およびその
二面角をTable 1-2に示す。ビフェニルは水素同士の立体障害によって、2つのベンゼン環の間の二
面角が137.5°のときに、最も安定なコンフォメーションになる。ビチオフェンは硫黄原子の軌道が
大きいため共平面とならず、2つのチオフェン環の間の二面角が156.3°のとき、最も安定なコンフ ォメーションになる。一方、ビフランの酸素原子は硫黄原子よりも小さいことから、2つのフラン 環の間の二面角が180°のときに最も安定なコンフォメーションになり、2つのフラン環は共平面と なる。
Mono-furan Bisfuran Bifuryl
Connection – Spacer Direct C-C bonding
Planarity Plane Non-plane Coplanar
p-Conjugation Only furan ring Each furan ring Expansion between two furan rings
Table 1-2. Calculation results of dihedral angles of biphenyl, bithiophene, and bifuran54,55.
Vikramadityaらは、ビチオフェンとビフランの回転障壁のエネルギー差をCCSD/ADZ法により求
めた56。ビチオフェンはチオフェン環同士が垂直になる時が最もエネルギーが大きく、チオフェン
環同士が149°になる時が最安定構造となり、そのエネルギー差は4.6 kJ·mol-1である。一方、ビフラ
ンはフラン環同士が垂直になる時が最もエネルギーが大きく、フラン環同士が逆平行 (anti 配座) になる時が最安定構造となり、そのエネルギー差は13.4 kJ·mol-1である。また、最安定構造から5°
回転させるときのエネルギーはビチオフェンでは0.08 kJ·mol-1であるのに対し、ビフランでは0.16
kJ·mol-1である (Figure 1-4)。以上のように、ビフランはビチオフェンよりも自由回転が阻害されて
おり、ビフリル骨格においても、2 つのフラン環が一つのp平面分子骨格として振る舞うと推測し た。
Chemical
structure Top view Side view Dihedral angle φ/
Biphenyla 137.5
Bithiopheneb 156.3
Bifuranb 180
a: Calculated by B3LYP/6-311+G(d). b: Calculated by MP2/aug-cc-pVTZ.
O O S
S
Figure 1-4. Rotation barriers of bifuran and bithiophene calculated by B3LYP/6-31+G(d).
ビフリル骨格含有化合物の合成は古く、Grigg らは銅触媒を用いたハロゲン化フラン誘導体の
Ullmann カップリングによってビフリル誘導体を 1966 年に合成している (Scheme 1-10)57。
Kozhevnikov58は1976年に、Itaharaらは1984年に59、Pd(OAc)2触媒を用いたフルフラールの直接酸 化的ホモカップリングによるビフルフラール合成を報告しているが、いずれも低収率であった。そ
の後、Märklらは1996年に、ホルミル基をアセタール保護したフルフラールのCuCl2触媒とn-BuLi
を用いたホモカップリングを報告しているが60、Griggらの5-ヨード-フルフラールのUllmannカッ プリングによるビフルフラールの合成と比較して57、合成工程が増えた一方、収率はほとんど変わ らなかった。そして、Liらは2014年に、Pd(OAc)2触媒を用いた酸化的ホモカップリングによるビ フリル骨格含有化合物の容易かつ高収率での合成方法を報告した (Scheme 1-11)61。
Scheme 1-10.
Scheme 1-11.
20
15
10
5
0
∆E/ kJ·mol-1
360 320
280 240
200 160
120 80
40 0
Dihedral angle/ °
–Bifuran –Bithiophene
O Cu bronze O
100 °C, 12 hDMF O
5-iodo-furfural Bifurfural
H O
I H
O
H O
R= -alkyl, -CH2OMe, -CH2CO2Et
O
O R
R Pd(OAc)2, TFA, O2
DMSO 50 °C, 24 h
O R
Furan derivative Bifuryl derivative
ビフリル骨格を高分子のビルディングブロックとする研究は電子材料開発の領域で進められて いる。Ree らは、5,5’-ビス(4-アミノフェニル)-2,2’-ビフリルとピロメリット酸無水物からポリイミ ドを合成し、有機ELの青色発光材料として利用可能なことを報告している (Scheme 1-12)62–64。
Scheme 1-12.
Bao らは、側鎖にアルキルシロキサンを持つイソインディゴとビフリル誘導体を右田-小杉-Stille カップリング反応によって連結することでp共役高分子を合成し、半導体材料として利用可能なこ とを報告している (Scheme 1-13)65,66。
O O
O
O O
O
O
O NH2
H2N +
NMP, r.t., 1 day
Heat O
O
n
N N
O
O O
O
Pyromellitic dianhydride
Poly(amic acid)
Polyimide 5,5′-Bis(4-aminophenyl)-2,2′-bifuryl
O
O NH
O
OH O NH
O
HO
O n
O
O SnMe3
Me3Sn +
N
Br Br
O
O Si
O O
Si
Si N
Si O
O Si
Si
m m
O O
N O
O Si
O O
Si
Si N
Si O
O Si
Si
m m
Migita-Kosugi- Stille coupling
Bifuryl derivative
以上のように、ビフリル骨格を電子材料のビルディングブロックとして用いる研究はこの 10 年 で進められている。先に述べたように、フラン環はバイオマスに特有の構造であり、ほとんどのフ ラン環含有化合物はバイオマス資源から生産されている。すなわち、上記のビフリル骨格含有電子 材料におけるビフリル骨格もバイオマスを原料にしていると推測されるが、ビフリル骨格をバイオ ベース高分子のビルディングブロックとして利用し、高強度材料などバルク材料として利用する研 究は行われていない。
1-7 本研究の目的
フルフラールを原料とするバイオベース高分子合成は2つに分類される。
A. フラン環を別の構造へと変換したモノマーの合成 B. フラン環を維持したモノマーの合成
Tachibanaらが行ったフルフラールからテレフタル酸などの合成はAにあたり、Gandiniらが行った
フランジカルボン酸からPEFの合成や、Okadaらが行ったフランカルボン酸からビスフラン骨格含 有ポリエステルの合成はBにあたる。Aは、化石資源から生産されるモノマーをバイオベースに代 替することになり、現在の高分子生産化プロセスをそのまま利用可能であるという利点があるが、
化石資源から生産される同じモノマーと比較して生産コストが高くなり、経済的観点から工業生産 が困難だという欠点がある。Bは、高分子生産のプロセスや用途開発が必要など利用拡大を阻害す る欠点がある。その一方で、バイオマス特有の構造であるフラン環由来の機能が高分子に付与され れば、機能性バイオベース高分子として経済的に工業生産が可能になるという利点がある。
本研究を開始するにあたり、Bの手法でのフルフラールの有効利用を検討することとし、ビフリ ル骨格に着目した。ビフリル骨格は高い平面性やp共役の拡張など機能性材料にとって有望な構造 特性を有しているが、バイオベース高分子の材料設計にビフリル骨格を利用する研究はこれまで行 われてこなかった。そこで本博士論文では、ビフリル骨格を高分子に導入することで、ビフリル骨 格特有の機能が材料特性に発現されるのか、また、モノフラン環と比べてビフリル骨格が優れた材 料特性を発現しうるのかを明らかにし、ビフリル骨格がバイオベース高分子のビルディングブロッ クとして有望であることを証明する (Figure 1-5)。
Inedible biomass (Lignocellulose)
Bifuryl monomer
O H O
O O
O O
n
= -CHO, -CH2OH
Furfural Bifuryl polymer
の熱的および機械的性質と比較することで、ビフリル骨格がバイオベース高分子のビルディングブ ロックとして有用かを評価する。また、芳香族ジアミンとの重縮合によってp共役の拡張性を評価 する。
第3章では、ジオールとしてビフルフリルアルコールの合成を検討し、それを用いたポリエステ ルの合成を行う。モノフラン環含有のポリエステルの熱的性質と比較することで、ビフリル骨格が バイオベース高分子のビルディングブロックとして有用かを評価する。また、ビフリル骨格は電子 飽和なフラン環を有することから、ビスマレイミドとのDiels-Alder (DA) 反応による架橋が可能で ある。そこで、合成したポリエステルをビスマレイミドで架橋反応することで、ビフリル骨格含有 高分子の物性制御を検討する。
第4章では、本博士論文を総括し、ビフリル骨格がバイオベース高分子のビルディングブロック としての可能性を述べ、ビフリル骨格含有高分子の今後の課題と研究展望について議論する。
1-8 参考文献
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第 2 章
フルフラール由来ビフリル骨格含有ポリシッフ塩基の合成
と物性評価
2-1 緒言
市販されているフランおよび 1 置換フラン誘導体(フルフリルアルコール、フランカルボン酸、
フルフリルアミン)はフルフラール2-1を基幹物質して工業生産されている。そこで、ビフリル骨 格含有モノマーを合成するにあたり、2-1をカップリングして合成できるジホルミル体であるビフ ルフラール2-2をビフリル骨格含有モノマーの基幹物質として捉える。ジホルミルはジアミンとの 脱水縮合でイミン結合を形成し、ポリシッフ塩基へと変換される。イミン結合は剛直な結合として、
高強度材料の結合として期待されている 1。また、共役系の拡張が可能であることから、電子材料 への応用も期待できる 2。さらに、酸触媒存在時には平衡系であり、開裂・再結合が可能なためリ サイクルポリマーへの利用も期待できる 3。Hui らはジホルミルフランと p-フェニレンジアミンか らポリシッフ塩基を合成し、p共役がイミン結合を介してフラン環とベンゼン環の間に拡張してい ることを示した (Scheme 2-1)4。
Scheme 2-1.
本章ではビフリル骨格がp共役系拡張と剛直性で高分子のビルディングブロックとして有用かを 明らかにするため、2-2 とジアミンとの重縮合によるポリシッフ塩基 (PShB) を合成する (Scheme 2-2)。そして、モノフラン環と比較することでビフリル骨格のビルディングブロックとしての特性 を評価する。
Scheme 2-2.
O
O O
O
N N
H H + H2N NH2 no solvent n
Diformylfuran p-Pheneylenediamine Poly(Schiff base)
2-2 O H O
O
H O
O O
n
N R N PShB
O H O 2-1
R NH2 H2N
2-2 実験 2-2-1 試薬
フルフラール、トルエン、ジメチルスルホキシド (DMSO)、酢酸、脱水テトラヒドロフラン、塩 酸、エチレンジアミン、ジクロロメタン、m-クレゾール、重クロロホルムは関東化学株式会社から 購入した。p-トルエンスルホン酸、1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジア
ミン、1,6-ヘキサンジアミンは東京化成株式会社から購入した。酢酸パラジウム (Pd(OAc)2) とエチ
レングリコールはシグマアルドリッチジャパンから購入した。ジホルミルフランはBLD Pharmatech Ltd.から購入した。フルフラールは減圧下、炭酸ナトリウムを用いて蒸留した。酢酸は単蒸留し、
m-クレゾールは減圧下、蒸留した。トルエン、ジクロロメタン、DMSO、エチレングリコールは水 素化カルシウムを用いて蒸留した。エチレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン、
1,5-ペンタンジアミンは 4Å モレキュラーシーブスを用いて蒸留した。1,6-ヘキサンジアミンと p-
フェニレンジアミンは減圧下、昇華精製した。その他の試薬は精製せずに使用した。
2-2-2 特性評価
2-2-2-1 核磁気共鳴 (NMR) スペクトル
内部標準としてテトラメチルシランを含む重クロロホルム中、JNM-ECS400 NMR 分光計(日本 電子株式会社)、JNM-ECA600 NMR分光計(日本電子株式会社)を用いて1H NMRおよび13C NMR スペクトルを測定した。
2-2-2-2 フーリエ変換赤外 (FT-IR) スペクトル
Nicolet iS50+Continu µmフーリエ変換赤外分光光度計(サーモフィッシャーサイエンティフィッ
ク株式会社)にSpectra-Tech Foundation Performer(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式 会社)を装着し、一回反射全反射減衰 (ATR) 法(スキャン数: 16、分解能: 2 cm–1)を用いてIRス ペクトルを測定した。
2-2-2-3 単結晶X線回折測定
120 Kでイメージングプレート検出器を使用したX線回折計R-AXIS IV ++(株式会社リガク)を
用いて単結晶X線回折データを収集した。波長0.071 nmのグラファイト単色Mo-Kα放射線を回折 実験に使用した。ソフトウェアパッケージCrystalClear(株式会社リガク)を使用して直接法 (SIR92)
5を用いてX線結晶構造を解析し、プログラムORTEP36を使用してX線構造図を描写した。
X線回折計RINT2200VF(株式会社リガク)を使用して広角X線回折計 (WAXD) 測定を実施し
た。放射源には波長0.154 nmのCu-Kα放射線を使用した。電圧40 kV、電流20 mAに設定した。
それぞれの溶融プレスしたフィルムをサンプルホルダーに載せ、5°から60°の範囲でスキャンした。
2-2-2-4 DFT計算
Gaussian-09 Revision C.01 WIN64 (Gaussian社) を用いて、DFT計算を実行した7。DFT / B3LYP / 6-311 ++ G (d, p) の基底関数を用い8、2-2、モデルイミンの構造を最適化し、TD-DFT / B3LYP / 6-
311 ++ G (d, p) の基底関数を用い8、励起状態を計算した。自然結合軌道法 (NBO) を用いて、軌道
相互作用を評価し、GaussView ver. 5.0.9を用いて、構造と軌道を描写した。
2-2-2-5 分子量測定
TSKgel MultiporeHXL-M、TSKgel MultiporeHXL-M、TSKgel GRCHR(東ソー株式会社)とガード カラムTSKgel guardcolumn MP (XL) (東ソー株式会社)を使用し、UV検出器を有するHLC-8220GPC
(東ソー株式会社)を用いたサイズ排除クロマトグラフィー (SEC) によって分子量を決定した。
クロロホルムを溶離液として使用し(温度: 40 °C、流速: 1.0 mL·min–1)、TSK標準ポリスチレン(東 ソー株式会社、数平均分子量: 1.0×106、3.5×105、9.5×104、3.9×104、8.9×103、2.6×103、8.7×102)を用 いて検量線を作成した。試料をクロロホルムに溶解し、孔径0.45 µmのメンブレンフィルターを用 いてろ過し、測定溶液を調製した。
AXIMA Performance(株式会社島津製作所)を用いたマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛 行時間型質量分析 (MALDI-TOF MS) 測定(窒素レーザー (λ= 337 nm))によって、m/zを測定した。
測定はLinear-positive ion Modeで行った。測定サンプルのジクロロメタン溶液 (100 mg·mL−1) を、
トリフルオロ酢酸ナトリウムのテトラヒドロフラン溶液 (100 mg·mL−1) またはトリフルオロ酢酸 銀のテトラヒドロフラン溶液 (100 mg·mL−1) と等量で混合し、測定試料とした。各混合溶液 (2 µL) をサンプルターゲットプレートに載せて測定した。
2-2-2-6 熱的性質測定
熱重量・熱量同時測定装置STA-6000(株式会社パーキンエルマージャパン)を使用して熱重量減
段階目の昇温過程から各高分子のガラス転移温度 (Tg) を決定した。
2-2-2-7 紫外可視吸収スペクトル
U-3000 UV-vis 分光光度計(株式会社日立製作所)を用いて、紫外可視吸収スペクトルを測定し
た。測定サンプルのジクロロメタン溶液 (5 µg·mL–1) を調整し、石英セル (10×10×20 mm) を使用 して室温で測定した。
2-2-2-8 引張試験
ポリテトラフルオロエチレンでコーティングしたポリイミドフィルム(カプトン®(品番
120HR616, 東レ・デュポン株式会社))に各サンプル粉末を挟み、20×10×0.10 mmのステンレス製
金枠を用い、その上下から厚さ1 mmのステンレス板で挟み、Mini Press Test 10ホットプレス機(株 式会社東洋精機製作所)を用いて、120 °Cで15 MPa、5分間の条件で溶融成形した。溶融成形した フィルムは室温で徐冷した。得られたフィルムを切断し、20×5.0×0.10 mmの試験片を作成し、万能
試験機EZ-Test(株式会社島津製作所)を用いて、23 °Cで各試験片の引張り試験 (グリップ距離:
10 mm、引張強度試験速度:10 mm·min–1) を実施した。引張強度は応力-歪み曲線上で材料を破壊す
るのに必要な最大強度として決定された。破断点での引張歪みは応力-歪み曲線の最大歪みとして 決定された。
2-2-2-9 分解試験
2-2と1,6-ヘキサンジアミンから重合したPShBであるPSH (50 mg) を窒素雰囲気下でクロロホ
ルム (50 mL) に溶解した。溶液を室温で撹拌し、SECを用いて、0、2、4、6、24、および72時間 後の分子量を測定した。
2-2-3 2-(2-フリル)-1,3-ジオキソラン2-3の合成9,10
500 mL二口ナス型フラスコにトルエン (200 mL)、2-1 (50 mL, 604 mmol)、エチレングリコール
(37 mL, 662 mmol) およびp-トルエンスルホン酸一水和物 (208 mg, 1.09 mmol) を加えた。Dean-Stark 装置を用いて、窒素雰囲気下、反応混合溶液を 12 時間還流した。反応溶液をセライトろ過した後 に、減圧下で濃縮した。濃縮後、得られた液体を減圧下で蒸留 (90 °C/ 0.3 kPa) することで、無色 液体として2-(2-フリル)-1,3-ジオキソラン2-3 (64.4 g, 86%) を得た。
1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ 7.43 (dd, J = 1.7, 0.6 Hz, 1H, –O–CH=), 6.45 (d, J = 3.1 Hz, 1H, >CH–C=CH–
CH=), 6.36 (dd, J = 3.1, 1.7 Hz, 1H, >CH–C=CH–CH=), 5.93 (s, 1H, –CH<), 4.11−4.16 (m, 2H, –O–CH2–
CH2–O–), 3.99−4.04 (m, 2H, –O–CH2–CH2–O–) ppm. 13C NMR (150 MHz, CDCl3) δ 151.07, 143.23, 110.19, 108.81, 97.77, 65.22 ppm.
2-2-4 5,5’-ジ(1,3-ジオキソラン-2-イル)-2,2’-ビフラン2-4の合成11,12
50 mL二口ナス型フラスコに酢酸パラジウム (372 mg, 1.66 mmol) を加え、バルーン (3 L) を用
いた酸素雰囲気下、DMSO (16 mL)、酢酸 (4.0 mL)、2-3 (2 mL, 16.6 mmol) を加え、50 °Cで24時 間撹拌した。蒸留水 (20 mL) を加え、ジクロロメタン (20 mL) で 5 回抽出した。有機層を飽和
NaHCO3水溶液 (50 mL)、飽和食塩水 (20 mL) で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下
で溶媒を留去した後、残渣をアセトンに溶解し、ろ過した後に再結晶することで、淡黄色固体とし て5,5’-ジ(1,3-ジオキソラン-2-イル)-2,2’-ビフラン2-4 (0.65 g, 28%) を得た。
1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ 6.54 (d, J = 3.4 Hz, 2H, >CH–C=CH–CH=), 6.49 (d, J = 3.4 Hz, 2H, >CH–
C=CH–CH=), 5.96 (s, 2H, –CH<), 4.11–4.16 (m, 4H, –O–CH2–CH2–O–), 4.01–4.05 (m, 4H, –O–CH2–CH2– O–) ppm. 13C NMR (150 MHz, CDCl3) δ 150.66, 146.71, 110.35, 106.20, 97.75, 65.20 ppm. Elemental analysis: Anal. Calcd for C14H14O6: C, 60.43; H, 5.07. Found: C, 60.41; H, 5.11. Melting point: 106–108 °C (decomp.).
2-2-5 ビフルフラール2-2の合成7
2-4 (1.0 g, 3.59 mmol) をTHF (10 mL) に溶解し、室温で撹拌しながら1 M 塩酸 (12.5 mL) を滴 下した。5分間撹拌した後、得られた沈殿物をろ過によって回収した。減圧下、室温で乾燥し、粗 生成物を茶色固体として得た。粗生成物を減圧下で昇華精製 (130 °C, 1 Pa) することで、黄色固体 として2-2 (0.52 g, 76%) を得た。
1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ 9.71 (s, 2H, –CHO), 7.35 (d, J = 3.8 Hz, 2H, =CH–CH=C–CHO), 7.06 (d, J = 3.8 Hz, 2H, =CH–CH=C–CHO) ppm. Elemental analysis: Anal. Calcd for C10H6O4: C, 63.16; H, 3.18. Found:
C, 63.00; H, 3.37. Melting point: 241–242 °C (sublim).
2-2-6 PShBの重合
2-2-6-2 無溶媒法4
25 mL二口ナス型フラスコに2-2 (100 mg, 0.526 mmol)、ジアミン (0.526 mmol) を加え、窒素雰 囲気下、140 °Cで3時間撹拌した後、減圧下、140 °Cで3時間撹拌した。生じた固体をメタノール で洗浄し、残存するメタノールを除去するために80 °Cで減圧乾燥することでPShBを得た。
2-2-7モノフラン由来PSH (mono-PSH) の合成(無溶媒法)4
25 mL二口ナス型フラスコにジホルミルフラン (65.2 mg, 0.526 mmol)、1,6-ヘキサンジアミン (61
mg, 0.526 mmol) を加え、窒素雰囲気下、100 °Cで1時間撹拌した後、減圧下、140 °Cで2時間撹
拌した。生じた固体をジクロロメタン (5 mL) に溶解し、溶液をメタノール (100 mL) に注いだ。
生じた沈殿物をろ過により回収し、残存するメタノールを除去するために80 °Cで減圧乾燥するこ とで、赤褐色固体としてmono-PSH (75 mg, 61%) を得た。
2-3 結果と考察 2-3-1 2-2の合成
Ullmannカップリングによる2-2の合成は高収率であるが、2-1を原料とした場合、5位にハロゲ
ンを導入する必要があり、全収率が低くなる。そこで、Liらの手法 12であるPd(OAc)2触媒を用い た酸化的ホモカップリングの利用を検討した(Scheme 2-3)。2-1のホルミル基は酸化的カップリン グ中にフラン環の開環反応を伴う酸化反応による副反応が起こる14。実際、2-1の酸化的カップリ ングを検討したところ、2-2の収率が低く副生成物が多いために2-2の単離精製が困難であった。
そこで、2-1 のホルミル基をアセタールで保護することを検討した。アセタール保護は副反応を防 ぐだけでなく、電子供与性のアセタール基がフラン環の電子密度を高め、カップリング反応を促進 すると期待できる。アセタール保護には、エチレングリコールを用いたアセタール保護と、1,2-エ タンジチオールを用いたチオアセタール保護がある。チオアセタール保護はアセタール保護より酸 に対して安定であり、カップリングには有利であるが、脱保護の際に過塩素酸のような強酸や毒性 が高い水銀が必要になる15。そのためアセタール保護を行った。p-トルエンスルホン酸触媒存在下、
エチレングリコールを用いて2-1のホルミル基をアセタール保護することで2-3を合成した。
Scheme 2-3.
酸化的ホモカップリング反応はPd(OAc)2を触媒とし、DMSO:酢酸=4:1 の混合溶媒を使用して、
酸素雰囲気下で24時間の条件で行った。粗生成物をアセトンから再結晶することで 2-4 を単離精 製した。
2-4を1 M塩酸で処理し脱保護した後、130 °C、1 Pa以下で昇華精製することで2-2を収率76%
O H O
p-TsOH·H2O Toluene, reflux, 12 h, N2
86%
HO OH
2-1
O O
O
2-3
Pd(OAc)2, O2 DMSO/AcOH, 50 °C, 24 h
2-4 O O O
O
O O
1 M HCl aq.
THF, r.t., 5 min 60% (from 2-3)
2-2 O H O
O
H O
高い結果であった。
2-2はクロロホルムとジクロロメタンのようなハロゲン系溶媒、およびテトラヒドロフランなど の非プロトン性極性溶媒にはわずかに溶解した。一方、水、メタノール、ジメチルスルホキシド、
酢酸エチル、ジエチルエーテルなどの極性溶媒には不溶であった。一般的に、p共役化合物は芳香 環と芳香環の間に強い分子間のp-p相互作用が働きやすく、結晶中ではp-pスタッキングによって分 子間の芳香環同士が密に積層した結晶構造を構築する。その結果、溶媒和が阻害され難溶性となる。
嵩高い官能基が結合している場合、p-pスタッキングが阻害される。そのため、アセタール基を有す る2-4では2-2と比較して良好な溶媒溶解性を示している。
2-2 のビフリル骨格のコンフォメーションを評価するために、2-2 のコンフォメーション解析を DFT (B3LYP/6-311++G (d,p)) により行なった。Figure 2-1に各コンフォメーションの2-2 の構造最 適化の計算結果を示す。2-2の最安定構造はフラン環が逆平行 (anti配座) に配置され、ホルミル基 の酸素がフラン環の酸素と逆を向いているC2h対称のDである。これはフラン環同士とホルミル基 同士がお互いの双極子モーメントを打ち消しあっているために、最安定化していると考えられる。
Figure 2-1. B3LYP/6-311++G(d,p)-optimized structures and energies of 2-2.
ΔE = -10.78 kJ/mol
ΔE = -2.63 kJ/mol ΔE = -3.71 kJ/mol
A
B
C
D
ΔE = 10.79 kJ·mol-1
ΔE = 3.71 kJ·mol-1
ΔE = 2.63 kJ·mol-1
p共役の拡張を評価するため、DFT (B3LYP/6-311++G (d,p)) により求めた D の最高被占軌道
(HOMO) と最低空軌道 (LUMO) の軌道を Figure 2-2 に示す。2 つのフラン環と両末端のホルミル
基にHOMO とLUMOが広がっており、p共役がホルミル基-フラン環-フラン環-ホルミル基に 拡張していることを示している。
Figure 2-2. The structure of 2-2 optimized at the B3LYP/6-311++G (d,p) level of theory. GaussView drawings of a) the highest occupied molecular orbital (HOMO) and b) the lowest unoccupied molecular orbital (LUMO).
2-2の単結晶は得られなかったため、その前駆体である2-4の単結晶X線構造解析によってビフ リル骨格の結晶構造を解析した。2-4の結晶構造と結合長をFigure 2-3に示す。2-4では、2つのフ ラン環の二重結合 (C2–C3 および C4–C5) の結合長は 1.344 Å および 1.354 Å であるが、単結合
(C3–C4およびC5–C5') の結合長は1.428 Åおよび1.434 Åである。したがって、二重結合は通常の
二重結合である1.340 Åより長くなるが、単結合は通常の単結合である1.540 Åより短い。すなわ ち、2-4の2つのフラン環にp共役が拡張していることを示している。また、2-4の2つのフラン環 間の二面角が180°であることから、2つのフラン環は同一平面上に存在し、フラン環は逆平行 (anti 配座) の向きであった。
a)
b)
HOMO (-6.64 eV)
LUMO (-3.02 eV)
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Figure 2-3. ORTEP drawings of the crystal structures of 2-4 obtained from single-crystal X-ray diffraction analyses (thermal ellipsoids at 50 % probability; only selected atoms have been labeled).
2-3-2 2-2の重合
2-2 と 5 つの脂肪族ジアミン (1,2-エチレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミ
ン、1,5-ペンタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン) から、それぞれPSE、PSPr、PSB、PSPe、PSH
を合成した。また、芳香族ジアミンとしてp-フェニレンジアミンからPSPhを合成した (Scheme 2- 4, Table 2-1)。
まず、PShB重合の溶媒として一般に用いられるm-クレゾールを用いて、30 °C、1時間で重合し た。脂肪族ジアミンを使用して合成した PShBはメタノールまたはエタノールを用いた再沈殿を 2 回実施し、80 °Cで減圧乾燥したが、溶媒として用いたm-クレゾールを完全に除去することはでき なかった。Méalaresらは、m-クレゾールがフラン環に対して強い親和性を持っていると報告してお り16、2-2から合成されたPShBにおいてもm-クレゾールを除去することが困難であったと考えた。
最終的にPSPrおよびPSPeからm-クレゾールを除去できなかったため、1H NMRスペクトルから
PSPrおよびPSPeの収率を算出した。PSE、PSPr、PSB、PSPe、PSH、PSPhの収率はそれぞ れ、28、32、12、5、60、および67%であった。
m-クレゾールを除去することが困難なため、無溶媒での重合を検討した。m-クレゾールと同じ反
応条件である30 °C、1時間では、無溶媒では重合が進行しなかった。そのため、140 °C、6時間で 重合を実施し、PSE、PSPr、PSB、PSPe、PSHを、それぞれ76、71、70、54、および60%で得 た。一方、PSPhは無溶媒では得られなかった。この原因は、PSPhのモノマーである2-2とp-フ ェニレンジアミンが加熱しても溶融せずに固体で残っていたことから、固相-固相反応では反応し なかったためであると考えられる。また、反応混合物の色はm-クレゾール中でも無溶媒でも徐々に 黄色から橙色に変化し、最終的に生成するPShBの色はジアミンに依存していた。
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C5 O1’
O1 C5’
C3 C4
C6 C2
C4’ C3’
C6’
C2’
1.434 Å
1.344 Å 1.428 Å 1.354 Å
1.477 Å
180