あった。その後、高分子発光材料の開発に関しては、
当社、独Covion社(現Merck社)、米Dow Chemical社、
英Cambridge Display Technology (CDT)社などが精 力的に取り組み、素子構造の開発も並行して進められた
結果、 30年近くを経た現在、その特性は有機ELパネル
への搭載が可能なレベルまでに到達したと言える。
高分子有機 EL 材料は溶媒への良好な溶解性を有し、
大型基板においてRGB材料(赤・緑・青材料)の塗り 分けを容易に行うことができるため、現在有機ELの主 流である蒸着材料に対し、マスクレスで大型パネルが 製造可能な点、及び材料使用効率向上の点で大きく期 待されている。本論文においては、当社における高分 子有機EL材料の開発を振り返りつつ、最近の材料特性 の進捗、そして今後の展望について紹介したい。
高分子有機EL材料
有機EL発光材料はFig. 1に示すように、高分子系と 低分子系に大別され、高分子系はさらに共役系高分子 と非共役系高分子に分類される
4)。また、高分子と低 分子の中間的な発光材料としてデンドリマー(樹状分 子)も用いられることがある。Fig. 1に、代表的な高分 子系及びデンドリマー系有機 EL 発光材料を示す。共役 系高分子は、主鎖の炭素がsp
2炭素であり、π 電子が共 役系の中で非局在化しているので電荷(電子や正孔)
の輸送に優れるという特徴がある。さらに、 sp
2炭素か はじめに
有機EL素子は、自発光であり、高速応答性や薄型・
軽量などの優れた特徴を有することから次世代ディス プレイ技術として活発な研究開発が進められてきた。
2017年には、東芝、ソニー、パナソニック各社から相 次いで4K有機ELテレビが発売されるようになり、また 11月にはApple社がiPhone Xに有機ELディスプレイを 採用するなど、有機EL搭載機器は急速な広がりを見せ 始めている。さらに2017年12月には、JOLED社によ り、世界初となる印刷方式による21.6インチ4K有機EL パネルも製品化・出荷開始に至っている。
有機EL素子は、有機薄膜の積層構造に電極から電子 と正孔を注入し、有機発光材料を発光させる素子であ り、その薄膜を真空蒸着で形成する蒸着型と、溶液か らの塗布で形成する塗布型とに大別される。低分子材 料を用いた蒸着型は、 1987 年に米 Kodak 社の Tang と
Van Slyke
1)によって、当時としては高輝度・高効率の
有機EL素子が報告された。一方、高分子材料を用いた 塗布型は、 1989 年に Cambridge 大学の Burroughes 等 により
2)、さらに時をほぼ同じくして日本でも当社にお いて
3)、共役系高分子を用いた高分子有機EL発光が観 測されたのが始まりである。ただ、外部量子効率は 0.1%以下であり、寿命はわずか数分間というレベルで
* 現所属:有機EL事業化室
の開発
Development of Polymer Organic Light-Emitting Diodes
先端材料開発研究所
秋 野 喜 彦 津 幡 義 昭 山 田 武
*Sumitomo Chemical Co., Ltd.
Advanced Materials Development Laboratory Nobuhiko A
KINOYoshiaki T
SUBATATakeshi Y
AMADAOrganic light-emitting diodes have many advantages including self-emission, thinness and light weight, and
they have been the subject of much interest for next-generation display technology. Light-emitting polymers are
expected to be particularly suitable for printing processes which are essential for the cost-effective production of
large-sized panels. In this paper, the material design for higher efficiency and longer lifetime, and the latest
progress in polymer organic light-emitting diodes (PLEDs) are discussed.
ら構成された共役系高分子は可視光領域に蛍光を示す ものが多数存在し、現在、主としてポリフェニレンビ ニレン{Poly(phenylenevinylene): PPV}系
2),5)、ポリフ ルオレン{Poly(fluorene): PF}系
6)–9)、ポリフェニレン {Poly(p-phenylene): PPP}
10)などの共役系高分子が発 光材料・電荷輸送材料として開発されている。
高分子有機EL材料のもう1つの特徴として、Fig. 2に 示すように、共重合によって種々の機能を分子内に組 み込み、その結果素子構造を単純にできることが挙げ られる。共役系高分子を構成するユニットに、発光性
(Emitter)・電子輸送性(Electron Transport: ET)・正 孔輸送性(Hole Transport: HT)を有するユニットを用 いて共重合することにより、所望の特性を有する高分 子を設計することができる。これにより、発光色や電 荷の注入・輸送バランスを制御することができるため、
特性を大きく向上させることが可能になる。例えば、
発光色の調整には、所望の発光スペクトルを有する発 光ユニットを高分子中に導入すればよい。ポリフルオ レン系
11)–14)やポリカルバゾール {Poly(N-vinylcarbazole):
PVK} 系
15)の高分子は、それら自体が青色発光に好適で あるだけでなく、チオフェン・アミン・アセン等と共重 合することで、青色以外の発光を得るためにも用いら
れる
16),17)。例えば、アセンとしては、アントラセン(青
色)、ナフタセン(緑色)、ペンタセン(赤色)等を挙 げることができる。また、非共役系高分子においても、
側鎖に電荷輸送性や発光性を有するモノマーを重合し て類似の機能を実現することが可能である
18)。
通常の高分子はモノマーを直線状に連結したものであ るのに対して、デンドリマーはFig. 1に示すように次々 に枝分かれするようにユニットを結合した形状を有して いる。さらにデンドリマーは高分子量体ではあるが、単 一分子であるので分子量が一義的に決まり、分子量分 布がないという特徴がある。例として、コアに発光性 の基、特に燐光発光を示す金属錯体を用い、周囲の枝 分かれ部分(デンドロンと呼ばれる)に芳香族基を用 いて、最外殻に可溶性基を有する構造とすることで、
発光性、電荷輸送性、溶解性に優れたデンドリマーを 得ることができる。
Fig. 1
Schematic classification of organic emissive materials
n R R n n
CH N
CH2
n
OLED emissive material
Polymer
Small molecule
Conjugated polymer
Non-conjugated polymer
Fluorescent, phosphorescent dye
DendrimerPendant type
Dye blend type
PPV PF PPP
PVK
(Flu/phos dye)
(Single system) (Host-guest system)
Fig. 2
Schematic classification and typical structures of functional units in a light emitting polymer. ETU and HTU represent electron transporting unit and hole transporting unit, respectively.
Backbone ETU HTU Emitter Other functions
Fluorenes
Phenylenes
Hetero-atom Aromatic system
Amines
Amines
Dendrimer Other
condensed-rings
Hydrocarbon Condensed-ring emitter
Cross-linkers
Other functional units
correspond composition of B, G, R, and Interlayer (IL) polymers respectively Other HTU
N N
R R
N N
R R
R R
n
n
高分子有機EL素子
高分子有機EL素子(PLED)の特徴は、低分子有機 EL素子と同様、(1)高コントラスト、(2)広視野角、
(3)鮮明な発色、(4)薄さ、(5)自発光による高速応答 性、(6)携帯機器で重要となる低消費電力などが挙げら れる。低分子系に対する高分子系の最大のメリットは 素子構造やプロセス、材料使用効率の面でコスト低減 が可能な点であろう。Table 1に示すように、低分子有 機EL素子の構造は、複雑な多層構造を有しており、製 造には主に真空蒸着が使われている。一方、高分子有 機 EL 素子の構造は比較的単純な 2 層もしくは 3 層構造で あり、有機層の製膜には主にインクジェット法やダイ コート法などの印刷プロセスを使うことができる。こ れは、高分子有機 EL 材料が比較的容易に溶媒への溶解 性を付与することができるためである。印刷プロセス により、大型基板におけるRGB材料の塗り分けを容易 に行うことが可能となるため、現在有機 EL の主流であ る蒸着材料に対し、高分子材料はマスクレスで大型パ ネルが製造可能な点、及び材料使用効率向上の点で大 きく期待されている。
有機EL素子に用いることができるような均質な有機 層膜を製膜するには、高分子材料は高分子量であるこ とが望ましい。そのためにはモノマーの純度や重合の 条件、後処理精製の方法などに工夫が必要となる。当 社ではこれまでに、山本反応あるいは鈴木反応を用い た高分子合成において、ポリスチレン換算の重量平均 分子量で1万程度から100万程度の高分子を精密に分子 量制御する技術を確立してきている。
最もシンプルな高分子有機EL素子は、Table 1に示 されるように陽極(Anode) ・正孔注入層(Hole Injec-
tion Layer: HIL )・発光層( Emission Layer: EML )・
陰極(Cathode)から構成されるが、正孔注入層と発 光層の間にインターレイヤー(Interlayer : IL)と呼ばれ る層を導入することで、素子の発光効率を大きく向上 させることが可能となる
19)。IL層は、正孔輸送特性を 有するだけでなく、電子及び励起子のブロック層とし ての機能も果たしており、チオフェン系の高分子導電 体PEDOT: PSSからなる正孔注入層とPoly(9,9-dioctyl- fluorene-co-benzothiadiazole)(F8-BT)からなる発光 層の間に、わずか10nm厚程度のPoly[9,9-dioctylfluo- rene-co-N-(4-sec-butylphenyl)-diphenylamine](50 : 50)
(F8-TFB)からなるIL層を挿入することで、正孔注入 層による発光励起子の消光が抑制可能であることが観 測されている
19)。さらに、IL層に架橋性ユニットを導 入し架橋させることで、その上層に塗布法で発光層を 積層することが可能となる。インターレイヤーは、高 分子有機 EL 素子の開発においては、画期的な技術革新 の一つであると言える。
高分子有機EL材料の特性向上①:発光効率
有機EL素子の外部量子効率(Exter nal Quantum Efficiency: EQE )は、以下の式 (1) で表される。
EQE = γ
∙
ηe–h∙
φph∙ (1 – Q) ∙ η
OC(1)
ここでγは電子と正孔のバランス因子、η
e–hは電子と 正孔の再結合・発光励起子生成確率、φ
phは量子収率、
Qは電極による消光因子、ηOC
は素子内部で発生した光
が外部に取り出される効率を示す。この式に基づくと、
電極より注入される電荷量のバランス向上、発光層中 での電子・正孔の再結合確率及び励起子生成確率の向 上、材料の量子収率の向上、電極からの消光を受けな い再結合位置の設計、及び光取り出しに有利な膜厚や 光学特性の設計によって発光効率は向上させることが できる。これまでに、電子と正孔のバランス因子に関 しては電極種と正孔注入材料の選択、量子収率におい ては量子化学計算を援用した高い発光強度を与える材 料の理論設計
20),21)、電極消光回避については正孔トラ ップ設計に加え、高い正孔輸送性を有しつつも高いエ ネルギー準位であるIL層の開発及び発光層/IL層界面 近傍に再結合領域を閉じ込める素子構造設計による改 良を進めてきた。
材料開発の観点から更なるEQE 向上には、発光励起 子生成確率の向上が重要な因子となる。電子と正孔の 再結合により生成される励起子には、一重項励起子と三 重項励起子があり、その生成確率はスピン統計則に従 い、一重項励起子が 25 %、三重項励起子が 75 %となる。
通常、有機化合物の発光は一重項励起状態からの発光 Comparison between small molecule and
polymer OLEDs
Table 1Process Dry process (Vacuum evaporation) Small Molecule
Solution process
Patterning Structure Material Issue
Shadow mask
Complex layer structure (5-6)
→ Complex process Separated function Layer structure complexity Difficulty in mask patterning
Printing (IJ etc.)
Simple layer structure (2-3)
→ Simple process, scalable Integrated function Performance (esp. lifetime) Patterning technology Polymer
Anode(ITO) Hole Injection Layer Glass Substrate
Hole Transport Layer Emission Layer Electron Injection Layer Electron Transport Layer
Cathode
Anode(ITO) Glass Substrate
Hole Injection Layer Emission Layer
Cathode
(蛍光)のみからであり、残りの 75 %の三重項励起状態 は発光せずに熱失活してしまう。つまり、再結合により 得られる励起子のうち25%しか発光に寄与していない
(Fig. 3) 。三重項励起状態からの発光(燐光)を得るこ とができれば、再結合により生成した励起子の75%を 発光として活用することが可能となる。1999年にプリ ンストン大のForrestと南カリフォルニア大のThompson
等
22)–24)は、イリジウム錯体や白金錯体を有機EL素子
に用いることにより、本来禁制遷移である三重項励起 状態からの燐光発光を活用できることを見出した。こ れは、イリジウム等の重原子による強いスピン-軌道相 互作用(重原子効果)に起因するものである。イリジ ウム錯体等においては、一重項励起子もスピン-軌道相 互作用により項間交差(Intersystem Crossing: ISC)
を起こし、三重項励起子に変換されるため、生成された 励起子を100%燐光として取り出すことができるように なる(Fig. 3)。一般に光取り出し効率は 20 %であると されていることから、式(1)におけるEQEの上限は20%
である。既に燐光材料を用いることで、EQEが20%を 示す燐光を用いた有機 EL 素子が実現されており
25),26)、 内部量子効率(Internal Quantum Efficiency: IQE)は、
ほぼ100%に達している。燐光材料の活用は高効率化に おいては重要な手段の一つとなっている。
低分子の燐光材料と高分子を組み合わせた分散型高 分子有機EL材料に関しても数多くの研究がなされてき
ている
26),27)。これらの研究では、主鎖が非共役であり
その主鎖や側鎖にキャリヤ輸送ユニットを組み込んだ 高分子が分散ホストとして使用される例が多い。組成 やパラメータの変化が比較的容易であり、かつ一重 項・三重項準位も制御しやすいためと考えられる。メ タ結合のポリフェニレン骨格に用いることで、主鎖が 共役系でありながら、青色燐光材料の三重項準位にも 対応できる高分子も提案されている
28)。共役系高分子 は、その電子の非局在性のために本質的に電荷輸送に 優れ低電圧駆動が期待できるので、このような「共役
を適度に制御する」アプローチからの実用材料の設計 が期待される。一方、オックスフォード大のBurn等は、
塗布による素子作成が可能な燐光材料として、イリジ ウム錯体等にデンドロンを導入したデンドリマーが有 用であることを見出した
29)–31)。共役系高分子とデンド リマーを用いた高分子有機EL素子においても、非常に 高い特性を示すことが観測されている
32)。燐光材料と 高分子材料の組み合わせは、高効率化には非常に重要 な取り組みであり、今後も多くの研究が進められ特性 向上に繋がっていくと考えられる。
一方、蛍光材料を用いた有機EL素子においては、上 述したように生成した励起子のうち最大25%しか発光 に寄与できない。ところが2000年以降に、一重項励起 子の生成確率がスピン統計則の25%を超えているよう な高効率発光が報告されるようになった
33)–36)。共役系 高分子においては一重項励起子の生成確率が25%以上 になるのではないかという興味深い研究もある一方、低 分子系の有機 EL 素子においては、三重項 - 三重項対消 滅(Triplet-Triplet Annihilation: TTA)により、2つの 三重項励起子から1つの一重項励起子が生成されること が報告された
37),38)。
F8-TFBをIL層に、Poly[9,9-dioctylfluorene-co-bis-N,
N’-(4-butylphenyl)-bis-N,N’-phenyl-1,4-phenylenedi-amine](95 : 5) ( F8-PFB )を発光層に用いた高分子有機 EL素子をFig. 4(a)に示す
39)。この素子に対して、時間 分解EL測定による遅延発光解析を実施した結果、発光 成分のうち約 20 %が遅延発光成分であることが明らか になった(Fig. 4(b)におけるDelayed ELの時間ゼロで の値)。Fig. 4(b)中の遅延発光の減衰挙動(黒線)と 過渡吸収法にて測定した F8-PFB 上の三重項励起子密度
(青線)の挙動を比較すると、両者の減衰における時間 スケールは同程度(〜μs)であることが分かった。さ らに重要なことに、三重項励起子密度の2乗の減衰曲線
(緑線)と比較すると、遅延発光強度の挙動と傾きが等 しく(赤点線)、これは、遅延発光の発生には、2つの 三重項励起子が関与していることを示唆しており、遅 延発光成分はTTAがその起源であることを強く支持す る結果と考えられる。このTTAを利用することにより、
一重項励起子の生成確率は、スピン統計則の25%に、
TTAによる生成分が加わり向上されることになる
39)–42)。
既に青色蛍光材料において10%以上のEQEを有する高 効率発光素子が報告されている
41)。TTAによる一重項 励起子生成確率(二つの三重項励起子T
1からどれだけ の一重項励起子S
1が生成されるか)に関しては5%〜
50%といくつかの説が考えられており
38),43),44)、未だに 結論はついていない。最も多い場合では 2 つの三重項励 起子から1つの一重項励起子が生成されると考えられる ため、75%の半分の37.5%が加わり、一重項励起子の 全生成確率は 25 %+ 37.5 %= 62.5 %となる
38)。
Fig. 3Schematic illustrations of fluorescence
(left) and phosphorescence (right) mechanisms
75%
25%
ISC S1
S0
S1
75%
25%
Fluorescenceuorescence
Phosphorescence Phosphorescence Fluorescence
recombie-h -nation
recombie-h -nation
Phosphorescence T1
S0
T1
Non-radiative
起子は高密度(10
16–10
17cm
–3)
39)で存在すると推定さ れており、通常は非発光遷移で消滅するが、場合によ ってはそのエネルギーから材料劣化を招いていたと推 測される三重項励起子をTTA機構によって速やかに消 滅させ、遷移の早い一重項励起子に還元することで、
効率のみならず寿命の向上も改良されたと考えている。
高分子有機EL材料の特性向上②:寿命
素子を一定電流で駆動すると輝度が徐々に低下して さらに改良検討を続けた結果、我々は、TTAを効率
良く生じさせる三重項増感高分子( Triplet Control Polymer: TCP)を開発し、これを青色発光性高分子と ブレンドすることで、有機EL素子の駆動において、三 重項励起子が発光効率だけでなく、輝度寿命にも大き く影響を与えることを明らかにした。Fig. 5(a)は過渡 吸収分光法を用いて測定されたホスト高分子上に存在 する三重項励起子密度に対応した光学密度(Optical Density: OD)変化、ΔOD、のTCPの濃度依存性を、
Fig. 5(b)はそれぞれに対応するUV耐久性を示してい る。Fig. 5(a)においてホスト高分子上の三重項励起子 密度の減衰が早いほど、つまり三重項励起子が早く無 くなるほど、Fig. 5(b)におけるUV耐久性が高い傾向が ある。さらにFig. 5(c)に示したように、UV耐久性と有 機EL素子寿命が比例関係にあることが確認されている。
つまり、Fig. 6に表したように、発光性高分子上の三重 項励起子T
1をTCPへ移動させ、その三重項励起子T
1を TCP上でTTAさせる。さらにTTAにより生成された一 重項励起子S
1を発光性高分子にエネルギー移動させ、
発光させるというサイクルをいかに効率良く回すかが 重要であると考えている。素子中では電子と正孔の再 結合により生成される励起子の75%を占める三重項励
Fig. 4
(a) Device structure and chemical structure of material used, (b) Electroluminescence turn off of the prototypical device (black) compared with the time resolved transient triplet absorption (blue) and its square (green)
5.0×10–7
0.0 1.0×10–6 1.5×10–6 2.0×10–6 2.5×10–6 0.001
0.01 0.1 1
EL intensity/ dT/T(780nm)(normalised)
Time (s)
Triplet Density
(Triplet Density)2 Delayed EL
N N
C8H17 C8H17 0.95 0.05
F8 PFB
ITOHIL
IL LEP
Cathode Glass
N C8H17 C8H17 0.5 0.5
F8 TFB
(a) (b)
Intercept
~0.2
Fig. 5
(a) TCP dependence of triplet density on host polymer measured by the transient absorption of 780nm, (b) TCP dependence of UV stability, (c) Relation of device
T95 with UV stability
10–4 10–3
0 2000 4000 6000
ΔOD
Time (ps)
0.6 0.7 0.8 0.9 1.0
0 5 10 15 20 25
Norm. Luminance
Exposure time (hr)
0 50 100 150 200 250 300 350 400 450
0 10 20 30 40
EL T95 (hr)@1knit
UV stability (hr @T70)
(a) (b) (c)
Decay of Triplet on Host Polymer
UV stability
Fig. 6
Schematic illustration of T TA process with TCP
prompt delayed
T TA TCP (T TA sensitizing)
Fluoruorescscencece Fluorescence
75%
25%
S1
S1
S0 S0
T1
T1 T1 recombie-h
-nation
いくが、これを耐久性又は寿命と呼んでいる。例えば、
輝度が5%低下するまでの時間をT 95として寿命の指標 とする場合がある。有機ELのような自発光デバイスで は、ある特定の画素が周囲の画素と比べてわずか数%
でも輝度が低下すると、それが残像のように認識され てしまう。一般的に「焼き付き現象」と呼ばれる。こ れに対しては、ディスプレイの駆動方式等による対策 と共に、発光材料そのものの輝度低下を抑制すること が重要となる。高分子EL素子の駆動では、EL(elec- troluminescence)強度が低下するのに伴いPL(pho- toluminescence)強度も低下していき、これらの間に は一定比率の関係がある。EL強度低下の主原因はPL 強度の低下であると考えられているが、その他にも電 極からの不純物の拡散、電極からの電荷注入の低下に よる電荷バランス悪化も考えられる。 PL 強度を低下さ せる因子は、①結合開裂による材料劣化、②トラップ サイトの生成、③材料由来の不純物、④水分や酸素等 の外的因子、などに起因すると推察している。また有 機EL素子では発光材料や電荷輸送材料中の不純物、例 えば反応に用いた触媒の残渣、重合活性基の残存、金 属あるいはハロゲン種等の不純物が EL 特性を大きく低 下させるため、モノマー純度向上、触媒の高活性化に よる副反応の抑制や使用量削減、ポリマー重合後の末 端処理や後精製によるポリマー純度向上が必須である。
最近の当社の例では、Pdなどの金属、及びハロゲン残 渣についてはppmレベルの管理を行なっており、それ らの影響を最小化している。
これまでにPL強度の低下について詳細な検討を行な った結果、電子あるいは正孔のみの通電、即ち電子メ ジャーデバイス、正孔メジャーデバイスでは PL 強度の 低下は見られないことを確認している
4)。また、ホスト となる高分子と発光性低分子化合物を混合して素子と し、駆動劣化後の素子を分解して調べる手法を用いて、
高分子が一部不溶化すること、また低分子化合物は定 量的に抽出され、その蛍光強度も駆動前からほとんど 変化していないことを確認している
4)。これらの事象か
ら、材料の PL 強度の低下は、正孔と電子が再結合して できる励起状態が関係していること、また発光ユニッ トが劣化しているのではなく、高分子中に何らかの消 光因子が生成することによってPL強度が低下すること が強く示唆された。さらに駆動後のPL強度はTg以上の 加熱により回復することから、高分子中に何らかの可 逆的な消光因子が生成してくることが輝度低下の原因 であると推察した。
可逆性を有する消光因子の解析の一例として、熱刺 激電流測定法(Thermally Stimulated Current: TSC、
リガク社製熱刺激電流測定システムTS-FETT)による トラップ解析を紹介する。通常のTSC測定においては、
エネルギーが0.15eV(90K)〜 0.90eV(400K )の範囲の トラップ(浅いトラップ)が検出可能であるが、我々 はTSC測定にUV照射を組み合わせることで0.90eV〜
2.0eVのエネルギーを有するトラップ(深いトラップ)
についても検出可能な手法を開発した
45)。この深いト ラップ解析結果をFig. 7に示す。Fig. 7(a)より、駆動 に伴うEL強度の低下とトラップ生成量は比例関係にあ ることが分かった。Fig. 7(b) には UV 照射により材料を 劣化させた際のPL強度の低下とトラップ生成量の関係 を示しているが、こちらにおいてもPL強度が低下する に比例してトラップ量は増加していくことが観測され た。トラップは、材料が励起状態を経由することで生 成すること、またPL消光因子と関連していることを強 く示唆している結果であると考えており、電子メジャ ーデバイス又は正孔メジャーデバイスでは、通電前後 でPL強度の低下が見られない結果とも一致している。
さらに、ここで紹介した PL/EL 強度とトラップ生成量 の比例関係は、浅いトラップでは確認されず、深いト ラップに特有の結果である。
PL 強度の耐久性に関し、ホストのみの系( Case 1 )、
及びホスト/緑燐光エミッター(G-em)ブレンド系
(Case 2、Case 3)を用いて詳細に検討した解析結果を Table 2にまとめる
46)。異なる励起波長を用いること で、Case 1ではホストのみを励起、Case 2ではホスト
Fig. 7
(a) EL intensity
vs.the number of traps generated by device driving, (b) PL intensity
vs.the number of traps generated by UV irradiation
0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0
20 40 60 80 100 0.0
2.0 4.0 6.0 8.0 10.0
20 40 60 80 100
No. of traps (×108) No. of traps (×108)
EL intensity (initail=100) (%) PL intensity (initial=100) (%)
(a) (b)
とエミッターの両方を励起、 Case 3 ではエミッターの みを励起するように調整し、それぞれのPL強度を観 測した。各Caseにおいて、3種類の異なるホストを用 い、その依存性を比較検討した。 Case 1 において、 3 種類のホストはほぼ同等のUV耐久性(T 80)を示し た一方、Case 2及びCase 3においては顕著なホスト依 存性が観測された。 Case 1 より 3 種類のホストの PL 耐 久性はほぼ同等であることから、Case 2及びCase 3に おいて観測されたホスト依存性は、表中のエネルギー 準位図に示されているように、ホスト上に滞留してい る励起子量(密度)と関係していると考えられる。つ まり、①ホスト上の励起子をいかに効率良くエミッタ ー上にエネルギー移動できるか、及び、②エミッター からホストへの逆エネルギー移動をいかに少なくでき るかが高PL耐久性において重要な因子であると考えら れる。 Host 1 → Host 2 → Host 3 の順に、上記①及び/
又は②の効果が生じやすくなり、その結果耐久性が向 上したと考えられる。ISCが素早く起こることから、特 に三重項励起子がホスト上に滞留することによる消光 因子の生成を抑制することが、安定性の向上には重要 な設計指針であると考えられる。
今後の展望
今後の材料開発における更なる特性向上の観点で重 要な材料設計と考えられる面配光及び TADF 機構につ いて述べておきたい。
発光ユニットを高分子に組み込む設計において、発 光ユニットの形状及びポリマーの面配向性を最適設計 すると、遷移双極子モーメントが基板面内方向に配向 し、発光がより基板から取り出され易いものとなって 光取り出し効率が向上し、EQEが大きく改良されるこ とを見出している
47),48)。双極子モーメントの配向につ
いては低分子化合物で多くの例が報告されている
が
49–51)、高分子の例として、F8 - PFB = 95 : 5について
分光エリプソメトリー法を用いて光学定数を測定した 結果をFig. 8に示す。基板に対して面内方向(実線)
及び垂直方向(破線)における光学定数が異なること が観測され、F8-PFBのような基本的な高分子において も面配向性が高いことが分かった。特に共役系高分子 では基板上に塗布形成しただけで自発的に共役面が配 向する傾向があるため、適切に設計された発光部を組 み合わせることにより、遷移双極子モーメントの面配 向が促進される結果であると解釈している。高分子な らではの 面配向の自発形成 として非常に興味深い 材料設計と考えている。
蛍光・燐光に次ぐ「第3の発光材料」として最近大 いに注目を集めている熱活性化遅延発光( Thermally Activated Delayed Fluorescence: TADF)材料は、イ リジウムや白金等の重金属を用いずに三重項励起子を 一重項励起子に変換する技術である。理論上のIQEは 燐光材料と同じく100%が期待できるため、近年多くの 研究が進められている
52)。励起一重項状態(S
1)のエ ネルギーと励起三重項状態( T
1)のエネルギーの差を 小さくすることで、T
1からS
1への逆項間交差(Reverse Intersystem Crossing: RISC)が熱的に可能となり、
通常無輻射失活する T
1を S
1に変換し発光する機構であ Relative stability among three hosts. Two
difference combinations of host and emitter are studied.
Table 2
450nm Ex 365nm Ex
325nm Ex
ISC ISC
G-em host
Case 1 2 3
Excited Emission
Normalized stability (T80) Scheme
Host Host
Host/G-em G-em
G-em G-em Host 1
Host 2 Host 3
1 1.0 1.2
1 1.6 1.8
1 2.7 5.1
Fig. 8
In-plane (solid line) and out-of-plane (dashed line) refractive index (red) and Extinction coefficient (blue)
0 0.5 1 1.5 2 2.5
0 0.1 0.2 0.3 0.6 0.5 0.4 0.7
Refractive index n Extinction coefficient k
300 400 500 600
Wavelength (nm)
Fig. 9
Schematic illustration of TADF process
RISCΔEST
prompt delayed Fl
Fluoruorescscencece Fluorescence
75%
25%
S1
S0
T1 recombie-h
-nation
る。 Fig. 9 に TADF の発光機構を示す。 TADF において は、直接再結合で生成されたS
1からのprompt発光と、
T
1からRISCにより変換されたS
1からのdelayed発光の2 種類が存在する。後者はT
1を経由するため発光が遅れ るが同一の励起状態(S
1)からの発光であるためスペ クトルは一致する。TADFの効率において重要なRISC の速度定数は、次式 (2)で与えられる;
ここで、k
Bはボルツマン定数、Tは温度を表しており、
RISCはS
1とT
1のエネルギー差(ΔE
ST)が小さいほど効 率的となる
53),54)。ΔE
STは交換積分に比例しているの で、TADF材料はHOMOとLUMOの重なりを小さくす るように設計すればよく、Donor(D)性を有するユニ ットとAcceptor(A)性を有するユニットとの組み合わ せにより設計される。しかしながら一方で、高い蛍光 量子収率を有するためにはHOMOとLUMOの重なりが 必要となるため、DとAの間を 適度に調節 する設計 が重要となる
55)–57)。
最近では、TADF材料を上記したように発光材料と して用いるのではなく、蛍光発光材料に対するアシス トドーパント材料として用いることも検討されている。
TADF上で電荷再結合させ、RISC経由の一重項励起子 を含めた全ての一重項励起子をフェルスター型エネル ギー移動により速やかに蛍光発光材料へ移動させ、発 光を得る非常に興味深い機構である
58)。
低分子化合物での開発の後を追い、高分子材料にお いても TADF 機構を発現させる取り組みもなされてきて おり、最近報告も増加してきている。高分子の主鎖も しくは側鎖にD、Aを交互に配列する設計や、あるいは 予め D-A を組み合わせた TADF ユニットを高分子の主鎖 あるいは側鎖に導入する設計、さらにはこれら設計の デンドリマータイプのものなどがある。最近の設計に ついては総説を参考されたい
59)。
まとめ
近年の有機EL搭載機器の増加にともない、有機EL 素子に用いられる発光材料においては、大型パネルを 低コストで製造するための溶液製膜法に適した塗布型 発光材料に注目が集まってきている。特に高分子有機 EL材料は、様々な機能を一つの材料に統合し設計で きる点、可溶性であり印刷法などの手法で大面積の画 素塗り分けが可能である点など、様々な特徴を有す る。励起子や電荷の高分子中の振る舞いなどの基礎的 な現象を理解しつつ、高効率化及び長寿命化のために は TTA プロセスや TCP ブレンドなどによる励起子マネ ジメントが重要である。
(2) kRISC ∝
exp –
kBT
Δ
EST当社で現在開発中の高分子有機EL発光材料の特性 をTable 3に示す。ここ数年で効率、寿命、色度CIE (x,y)いずれも大きく改善し、赤・緑・青色材料いずれ も高効率・長寿命な特性を有している。ここで、 CIE はCommission Internationale de l’Éclairageの略であ り、CIE-x,yは、色度座標を表す。塗布型有機EL材料 の特性としては、我々の知る限り最高レベルの特性を 有する材料系であると自負している。共役系高分子有 機EL材料の最適化は勿論のこと、面配向性やTADF機 構などの新しい設計指針も積極的に取り入れることで、
更なる高特性を有し、かつ大型有機ELディスプレイの 製造に適用可能な高いプロセスロバスト性を有する共 役系高分子有機 EL 材料の開発を進めていきたい。
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Latest performance of PLED
Table 324 0.66, 0.34
5800 85 0.32, 0.63
15000 8.0 0.14, 0.11
400
76 0.32, 0.63
25000 9.2 0.14, 0.12
750 End/2017
Achieved Efficiency (cd/A)
CIE-x,y T95 (hr) @1knit Efficiency (cd/A) CIE-x,y
T95 (hr) @1knit Efficiency (cd/A) CIE-x,y
T95 (hr) @1knit R
G
B
Spin coated/Bottom emission device ITO/HIL/IL/EML/NaF/Al Xylene ink
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P R O F I L E
秋野 喜彦 Nobuhiko AKINO
住友化学株式会社 先端材料開発研究所 グループマネージャー Ph.D.
山田 武 Takeshi YAMADA
住友化学株式会社 先端材料開発研究所 グループマネージャー
(現職:有機EL事業化室部長)
津幡 義昭 Yoshiaki TSUBATA
住友化学株式会社 先端材料開発研究所 主席研究員 理学博士