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日本語学習者の学習意欲と「可能性予期」 ─韓国語母語話者を対象として─

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(1)

─研究論文─

日本語学習者の学習意欲と「可能性予期」

─韓国語母語話者を対象として─

全 娟姝  ・  宗像 みなみ

要 旨

 本研究は、「学習の継続と挫折の要因をさぐる」ことを出発点に、韓国語を母語とし、

日本に在住する JSL 学習者 16 名を対象として調査を行なったものである。西部(2009)を もとに半構造化インタビューを実施したのちに、佐藤(2008)を参考に質的分析ソフト MAXQDA を用いて学習意欲と「可能性予期」に着目して質的に分析した。

 分析の結果、(1)複数の事例から「他者の存在」が、学習意欲に影響を与えていること、 

(2)上記の1の中でも、「自分よりも日本語ができる存在」が、学習者の学習意欲/「可能 性予期」を高める事例も低める事例もあること、(3)JSL 学習者であっても「可能性予期」

をうまく感じることができない事例があることの 3 点が結果として挙げられ、西部(2009)

を裏付ける結果となった。

 このことから、特に中級以降の学習者においては、教師には学習者が自らの学習効果を 感じられるような機会を積極的に提供することが期待される。

【キーワード】 JSL 学習者、動機づけ、学習意欲、可能性予期、自己効力感

1.はじめに

 世界中に容易にアクセスできる環境にある現代において、言語教育の意義が叫ばれる一 方で、学習を継続できず、放棄してしまう学習者は多く存在する。学習意欲が高まる要因 を理論にもとづいて把握することは、学習者の挫折を可能な限り防ぐためにも、言語教育 者として不可欠である。

 これまでにも、第二言語教育・習得分野において、学習意欲に関する研究は多くされて きている。しかし、学習者の学習意欲そのものが高くても学習に結び付かない事例は少な くなく、学習意欲に焦点を当てるだけでは複雑な学習意欲をとらえることは難しい。

 福島(1997)は、学習継続に影響を与える様々な要因から「可能性予期」に着目した。

学習意欲と可能性予期を組み合わせたモデルを提案し、その関連について考察した。

 元田(2005)は、福島のモデルを用いて第二言語不安と学習意欲の関係を調査し、「可能 性予期」と「内発的動機付け」に強い相関関係があることを明らかにした。さらに西部(2009)

は、学習環境の中で変動する学習意欲の強さに焦点を当てた研究の少なさを指摘し、「可 能性予期」「内発的動機付け」「第二言語不安」と「学習意欲」の関わりを調査した。結果 として学習意欲と「可能性予期」の間に強い相関関係が示唆され、さらに学習者の学習意 欲を維持するためには、学習者自身が「日本語能力」の将来に可能性を感じることが大切

(2)

であるとした。李(2003)でも、学習意欲に関する諸要因との関連を扱っている研究は少 ないとして因子分析を行った結果、学習への取り組み方および自己効力感(可能性予期)

の重要性を指摘している。

 このように、学習意欲と可能性予期に関する研究は、近年注目されている。しかしこれ らは全て量的なアプローチによるものであり、質的な研究手法を用いて可能性予期に焦点 を当てた研究は殆ど見られない。しかし、学習意欲に複雑にからまる学習者の個別性や学 習背景、学習環境などの様々な要因を探るには、量的研究だけでは限界がある。

 これらを踏まえて本研究では、日本語学習者の学習意欲と「可能性予期」の関係を、イ ンタビュー調査から質的に探ることを試みる。日本語学習者数が約 96 万人にもおよぶ韓 国人日本語学習者(国際交流基金 2009)を対象に、重要だと指摘されながらも抽象的であ った「可能性予期」の概念を明らかにすることは、日本語学習者の学習意欲を維持する試 みに向けての一助となると考える。

 次節以降、まず第二言語教育・習得研究における学習意欲に関する先行研究および学習 意欲と「可能性予期」に関する先行研究をまとめた上で調査を進める。

2.先行研究

2.1 韓国人日本語学習者

 日本のドラマやポップスなどのサブカルチャーの流通や、韓国語と似通った文法構成を 持つことからの学びやすさなどを背景として、韓国語を母語とする日本語学習者数は世界 最多である(国際交流基金 2009)。その一方で、中級以降のレベルに至る学習者は一部に 過ぎず、多くの日本語学校では基礎 ・ 初級段階の学習や教育のみが行なわれているのが現 状である(朴 1994)。せっかく日本語を学び始めても学習を継続できない要因のひとつと して、教師による学習意欲の把握やそれを保持する試みが十分ではないことが考えられる。

 李(2003)は、学習意欲に学習への取り組み方や自己の能力評定が強く関連していると いう立場から、JSL・JFL 環境にある韓国人学習者 139 名を対象に、学習意欲および意欲を 高める要因との関連を調査した。結果として、(1)JFL 学習者は JSL 学習者に比べ学習意 欲が高いにも関わらず学習が持続しないこと、(2)その要因は JFL 学習者が「可能性予期」

を感じにくいからであること、(3)日本語能力の自己評定は JSL 学習者の方が高いことが 明らかになった。

 李(前掲書)は目標言語使用環境の違いから、学習意欲および「可能性予期」の重要性 をとらえたことで大変意義深い研究だといえる。しかしながら、日本語使用環境にあって も学習が初級レベルに留まってしまう事例はよく聞かれる。例えば韓国料理屋でアルバイ トをし、日本語をあまり使わないまま日々に追われ、自分の日本語能力に対して不安を抱 く学習者もいるだろう。韓国人日本語学習者に特有の「学習意欲」、また JSL 学習者の学 習意欲と「可能性予期」に着目した研究もまた必要であると考える。

(3)

2.2 第二言語教育・習得研究における学習意欲

 Gardner & Lambert(1959)は、学習意欲を「動機づけの強さ」と「志向性」に分類した。

学習意欲の強さは「努力」と「目標に達することへの願望」、「目標言語母語話者に対する 肯定的態度」とされている。また、Gardner(1985)では志向性について、目標言語集団の 理解やコミュニケーションを志向する「統合的志向性」、就職や教養のある人に見られた いなどの実利を志向する「道具的志向性」の2つに分類している。

 西部(2009)は、学習者が出会う様々な困難な状況が、学習者自身の努力で何とかなるも のもあればどうにもならないものもある中で、学習者と教師にそれぞれ何ができるかを問 題提起として挙げた。そして、日本語学習者の「学習意欲」の変動の実態を知り、その背後 にどのような心理的要因が影響しているのか調査した。結果として、日常の様々な出来事 によって「学習意欲」を変動させており、原因を自分で改善していけることに帰属できれば

「学習意欲」は上がるが、自分では状況を変えることが出来ないと感じられるような出来事 では下がる傾向にあることが指摘されている。また、「学習意欲」と「可能性の予期」の強 い関係が示唆された。学習者の「学習意欲」を維持するためには、学習者自身が日本語能 力の将来に可能性を感じることが大切であることが明らかになった。このことから、教師 は学習者自身が達成感を感じ、自己決定できる機会のある活動を行う必要があるといえる。

2.3 「可能性予期」と学習意欲

 元田(2005)は、第二言語不安と学習意欲との関係を明らかにすることを目的とし調査を 行った。その関係が「正(学習意欲高─不安高、学習意欲低─不安低)と負(学習意欲高─

不安低、学習意欲低─不安高)の両方の解釈が可能であるが、互いに相殺し合って無相関 になる可能性もある」とし、「不安や学習意欲とは別の要素も含めて検討する必要性」を述 べた。その新たな要素として、福島(1997)の「可能性予期」という概念を挙げている。

 福島(1997)は自己効力感、つまり、あることの実現に必要な行動をうまく実行できる かの予測を「可能性予期」と呼び、学習意欲と可能性予期との組み合わせで次のように推 論している。

  表 1 福島のモデル(福島 1997)

可能性予期(+) 可能性予期(−)

動機づけ(+) 積極的・持久的 効果的学習の循環

緊張・情緒問題 学習不適応の循環 動機づけ(−) 余裕 / 認知的妨害 ?

他の行動へ

無関心

 さらに元田(2005)では因子分析の結果、「日本語の上達見込み感」として「可能性予期」

を見いだした。結果として、「日本語の上達見込み感」や「日本語の習得欲求」が高く、

さらに「日本語や日本語学習に対する興味」が高い学習者は第二言語不安を感じにくいこ と、「日本語の上達見込み感」「日本語の習得欲求」は高いが、「日本語や日本語学習に対 する興味」が低い学習者は第二言語不安を感じやすいことが示された。さらに結論として、

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学習者の習得欲求や上達見込み感(可能性予期)の高さをむやみに重視せず、その活動を すること自体が目的であり、活動自体に報酬が内在している行為の過程である「内発的動 機づけ」(Deci & Flaste 1995)にも注意を払い、それらを総合的に高めることが必要であ ると述べている。

 なお学習意欲について、福島(1997)では、動機づけと学習意欲の違いについて、学習 意欲の方により「学習意欲に動機づけられている状態をその個人の内面に注目する」意味 合いがあるとしている。本研究は半構造化インタビューからひとりひとりの学習をふりか えってもらう手法をとるため、用語を「学習意欲」に統一する。

 また、「自己効力感」という用語は、これまでの学習に限った満足感という印象を与え る可能性がある。本研究では「上達見込み感」が、未来の学習の実行予測であることをふ まえ「可能性予期」とする。

3.調査概要

 本調査では、韓国語を母語とし、東京の日本語学校に在籍する JSL 学習者 16 名を対象 に半構造化インタビューを行なった。中級学習者は、自分の日本語への可能性は強く感じ ているが自信がもてない時期であり、心理的にも生活面においても不安を抱える時期であ る(西部 2009)ことから、協力者の日本語レベルは中級および上級とする。レベルの判断 については、協力者が在学するクラスのレベルに準じた。

 調査手順としては、資料に示す西部(2009)のアンケート項目に回答してもらったのち、

回答内容に関連付けて半構造化インタビューを実施するという形式をとった。調査は、第 二言語を使うことで生じる誤解を避けられること、協力者が内面を自由に表現できること などを考慮し、協力者の母語である韓国語で行なわれた。

 得られたデータは韓国語で文字化し、日本語に翻訳したのち、質的分析ソフト MAXQDA を用いコーディングしたものを、佐藤(2008)に基づき、質的に分析した。分析において は学習意欲と「可能性予期」に対する語りに着目した。

4.分析 

 コーディングの結果、「学習意欲(高)」「学習意欲(低)」「可能性予期(+)」「可能性予期

(−)」 「きっかけ、学習動機」 「他者の存在」 「進歩(+)」 「進歩(−)」 「生活(+)」 「生活(−)」

「生活(0)」 「日本語について」の 12 個のコードが抽出された。

 本研究では上記コードのうち、「学習意欲(高)」 「学習意欲(低)」と「可能性予期(+)」 「可 能性予期(−)」に焦点を当てる。まず、4.1 では学習意欲とその他の要因について、4.2 で は「可能性予期」とその他の要因について記述する。

4.1 学習意欲とその他の要因

 学習意欲に焦点をあて分析を行なった結果、学習意欲の高さには「他者の存在」が深く 関連していることがわかった。また、学習意欲の高さに関しては、「他者の存在」は「他

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国出身学習者の存在」「韓国人学習者の存在」「教師の存在」「日本語母語話者の存在」の4 つに分類された。以下に、学習意欲が高い事例、学習意欲が低い事例の順に示す。

4.1.1 【学習意欲(高)】

「他国出身者の存在」

〈事例 1:「発音祭り」で優勝〉

K7:「発音祭り」といって、 上級やそういう人たちは長い文章を読んで、私たちの場合は 広告のナレーションを、それで発音をテストして私が1位になりました。その時私は自 負心を感じました。

〈事例 2:他の国の人に負けたくない〉

K7:一例をあげれば、韓国人たちと一緒に話をするときベトナム人には負けてはだめだ、

○○(個人名)に負けてはだめだ。このように民族意識と言うのか、そのような。あれ には負けてはだめだ。

K15:テストを受けた時、点数が低かったです。それでその時以降に、もっといい点数を 取ろうと努力をしました。(他国の学習者が)いると、いないよりはいいでしょう。だ けど、今学期はそういう(教科書一冊を終えて来日する)人が多くなりました。だけど もっと一生懸命しています。

 事例1では、K7 が学校で行なわれる「日本語発音祭り」というコンテストで優勝した ことをきっかけとし、自信を得たことから学習意欲が高まっていることがわかる。また、

自分自身が発音祭りで1位を得たことに加え、各レベルでの優勝者が全て韓国人であるこ とを述べており、韓国人としても自負心を感じているようである。

 事例2の K7 も事例1と同じように、他国出身の学習者を意識している。韓国人同士で 話したことを例で取り上げ、中国人は漢字が上手であると語りながら、中国人やベトナム 人には負けたくないという気持ちを強く表している。事例2の K15 も、自分の国で教科書 一冊を全部終えて来た他の国の学習者のことを語り、自分にとっては初めて勉強すること から、危機感を感じたことを語っている。

 さらに、その学習者がテストでいい点数を取ったため、自分もいい点数を取ろうと頑張 ったとし、今学期は、そうした同級生の存在が増えたためにもっと一生懸命勉強をしてい るという語りから学習意欲が高い状態にあったことがわかる。

「韓国の学習者の存在」

〈事例 3:自分よりテストの点数が高い韓国人〉

K6:中国人やアメリカ人、イギリス人の友達は私とは国が異なるから、競争、そういう のじゃないでしょう。でも、その韓国人の友達は私より6ヶ月くらい前に来ました。嫉

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妬、そういうのではないけど、いつか一回は勝とうと考えました。その友達と点数が同 じくらいになるか、その友達より点数が高いと、その時、私が、ここに慣れたというこ とになる、私が自分でそういうことを考えました。だけど、私よりいつも点数が高いで す。それがとてもうらやましくて、いつか1回は勝とうと考えました。〈中略〉他の人 に負けたくないし、一度1位になってみたいです。

〈事例 4:日本語を流暢に話せる韓国人〉

K14:私がその友達より勉強を一生懸命しているのかしていないのかわからないけど、私 がその流暢な友達より点数が高くてその時は気分がよかったです。また、やる気や意欲 とかもたくさん生まれて、そういうのを考えながら。

 事例3は、同じ韓国出身である学習者の影響で学習意欲が高まっている例である。K6 は、

他の国の学習者は国が異なるので競争にならないと言い、韓国人をライバルとして意識を している。自分より6ヶ月くらい前に来日した友達に勝とうとする気持ちが学習意欲を高 めているようである。また、長年勤めていた会社を辞めて来日した K6 は、国で心配して いる両親に見せられるのは試験の点数しかないと語り、100 点を取った時に写真を撮って 送って喜んでもらったという。さらにそれだけでは満足していない様子で、一度は1位を とってみたいと語っている。

 事例4で K14 は、友達と自分を比べていて、小さい頃から漢字を学んでいて得意な友達 を日頃から羨ましいと考えていたが、友達から助詞の使い方について聞かれて自分にもで きるところがあるということに気づいたという。さらに、日本語が流暢な友人より試験の 点数がよかった時には気分もよく、意欲も高まったと述べ、一生懸命試験の勉強をすると 述べている。

「教師の存在」

〈事例 5:熱心な教師〉

K1:その時が一番楽しかったと思っているから、初級の時は先生方も熱意があります。

この先生は熱心に教えてくれているなと思ったら、私も何かそこに報いたい。

 事例5は、教師の存在が学習意欲に影響を与えている例である。K1 は当時上級クラス であったが、初級の時に好きだった先生のことを思い出しながら、韓国語も少し出来てと ても面白い先生だったとふりかえっている。また、その先生の熱意を感じたことで自分自 身もそこに報いたい気持ちを感じ、学習意欲が高まったと語っている。

「日本語母語話者の存在」

〈事例 6:日本語母語話者との接触〉

K7:日本の女友達でも男友達でも私が会いたくて、会った時に私が話したいとおりに話

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ができないから、ああ早く、早くもっと話したい、もっと話したい、もっと勉強したい。

〈中略〉大部分は接するとき、日本人と。

 事例6では、母語話者との接触経験について語っている。自分の話したいことがうまく 伝えられなかったことに苦しみを感じた経験をふりかえっている。それをきっかけにもっ と話せるようになりたい、もっと勉強したいという意欲が湧いたことがうかがえる。

4.1.2 【学習意欲(低)】

〈事例 7:学校が好きじゃない、勉強をさせられている感じ〉

K8:楽しくもないし、学校も、間違えて選択したと思う時。後悔だけ増えて、教育も本 当に気に入らなかったというか、〈中略〉無理やりやらされている感じ、そういう勉強 は本当に嫌になったというか、試験が本当にいや。

 事例7は、学校に対する不満から学習意欲が低くなっている例である。ドラマを観なが ら聞こえない単語をチェックするだけの授業に楽しさを感じず、無理やりやらされている と感じ、学校の選択も間違えたと感じているようである。

〈事例 8:他者の存在、中国圏の人々は漢字に強い〉

K6:私は、読解でどんなに見ても解けない問題を、その友達はただ、とても早く、だけ ど助詞で間違えるのを見ると嫉妬します。韓国も漢字がない国ではないのに、小さい時 漢字をもっと学んでおけばよかった、そう考えもして、試験に落ちた時、本当に、日本 語学ばなくてもいいのに、敢えてする必要があるのかなという考えもしました。

 漢字圏である中国や台湾の友達に抱く嫉妬が習意欲を低下させている例である。韓国で 学習している時は、クラスに他の外国人がいなかったため感じなかった気持ちだという。

しかし来日後、同じクラスに多国籍の学習者がいたため、漢字に関しては中国や台湾の学 習者に有利であると感じた。自分が解けない読解問題を、漢字圏の友人は直ぐ解けること を例として挙げ、嫉妬すると語った。韓国も漢字圏であるのにも関わらず、これまで漢字 を学んで来なかった後悔から、試験に落ちた時はなぜ日本語を学んでいるのだろうとまで 考えたという。「漢字」がひとつの大きな壁となり、ときには日本語学習そのものの意義 を考え直すほどに、K6 を悩ませていることがわかる例である。

4.2 「可能性予期」とその他の要因

 「可能性予期(+)」は、可能性予期が感じられていることを表し、「可能性予期(−)」は、

可能性予期が感じられていないことを表す。 

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4.2.1 【可能性予期(+)】

〈事例 9:漢字力の向上に満足〉

K3:想像できないくらい、本当に、簡単な漢字も書こうとすると思い出せませんでした。

〈中略〉本当にとても伸びたと思って、今とても満足しています。だけど、まだわから ないことが多い、もっとしないといけない、まだそういう考え。

 日本語学校で毎日ある漢字テストのために一生懸命勉強したところ、漢字力が伸びた経 験について語っている。この語りからは、K3 が現在の状態にとても満足していること、

これからももっと学習しないといけないという前向きな気持ちになっていることがわか る。書けなかった漢字が書けるようになった経験から、学習すればこれからももっとでき るようになる可能性を感じているといえる。

〈事例 10:目標にできる、自分より上手な韓国人〉

K6:私より上手な 22 歳の人がいて、韓国人女性ですが、日本人みたいです。〈中略〉その 友達を見ると、いつも憧れではないけど、ちょうどあれくらいまで、とりあえずいって みようという、頂上までじゃなくても、頂上に上がる前に、あの友達くらいまで、他の 人が私のことをそう考えるほど、私をつくってみようと。

K16:そういう人たちを見ながら私はこれから勉強をしないといけないから、来て直ぐだ から、だから、これからその人たちのように上手になる瞬間を考えたりもします。

 K6 は韓国人の友人について、日本語がとても上手でまるで日本人のようだと語ってお り、自分もその友達のようになりたいと述べている。

 K16 は、日本語が全くできなかった初級の時に、日本語は全く書けないが会話が上手な クラスメートを見ながら、羨ましいと感じたという。それでも気持ちに余裕がなくなった り、焦ったりすることはなく、いつか自分がその人のように日本語が上手になる時を想像 すると語っている。

 これらの語りから、母語が同じで日本語が流暢な学習者の存在は、「努力をすればいつ か自分もそのレベルまで達することができる」という自信を学習者に与え、学習意欲の向 上につながるのではないかと考えられる。

〈事例 11:日本でアルバイトすることを想像する〉

K13:さっき日本のお店で働きたいと言ったでしょう。私は話すことが好きです。だから、

日本語がちょっとできると、その人たちと話すのを必ず楽しめると思います。私はムー ドメーカーだと思います。話が切れないように自然につなげていける。そうすると、友 達もできると思うし。それで日本のお店で働きたいんです。

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 事例 11 で K13 は、日本語学校で2年間勉強をする予定ではあるが、その後進学の予定 はないと話している。しかし、日本語学校は進学の勉強中心であるため、自分に必要な日 本語力は日本の店で働きながら学びたいと語っていた。日本の店で働くことで、日本人の 友人ができるという可能性を考えることは、学習意欲の向上にもプラスの影響を与えると 考えることができるだろう。

4.2.2 【可能性予期(−)】

〈事例 12:考えと行動の不一致〉

K13:私が簡単に話をするのは真似できるけど、それができないから、苦しいと感じます。

そういうのを感じるたびに勉強しないと、ある時はずっと感じる時もあります。だけど それが、考えと行動と一致しないから、私の限界か。

 事例 12 で K13 は、言語を学ぶということは、単語や表現がわかることが全てではなく、

目標言語の話者とともに生活しながら、その人たちの考え方や生活のパターン、話のニュ アンスまで知ることも重要だと語った。自分は今それができないために苦しい気持ちを感 じているという。また、勉強しないといけないと考えるが、なかなか行動が伴わないよう である。理想と現実のギャップを埋めることができない学習者が苦しみを感じている事例 である。

〈事例 13:自分より上手な他者の存在〉

K2:私も1年になろうとしているのに、まだこんなにできないのかという時、みると、

私がちょっと言語に、ないかなぁ、合わないのか。

K3:基本は、あの子は、本当に上手に書ける、私はなぜこんなにできないのか、という 考え。

K7:私は初めて来たんですけどみんな日本語がうまいですから、弱気になって、ちょっ とそういうことがありました。日本語ができるのか ? そんなことも考えました。

 K2 は、クラスメートと自分を比べながら、自分はクラスメートより会話力がない、進 歩がない、日本に1年くらい留学をしていた友達はみんな自分より会話が上手だという環 境にあると語っている。自分は言語に向いていないのではないかと悩んでいることがうか がえる。日本語力が向上する可能性を感じないことは、日本語の学習にも負の影響を与え るといえるだろう。

 K3 は、これまでも会話中心で日本語を学んできたため、漢字に自信がないことを語っ ている。また、自分と漢字が上手に書ける台湾人学習者を比較し、上手に書けないことで 挫折感を味わっていることについて述べている。

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 K7 も、日本語が上手な友人を見て、果たして自分もその友人のように上手になれるの だろうかという不安を感じている。

 これらの語りから、自分より日本語ができる他者の存在は、そのレベルに追いつくこと ができるという可能性を感じないと、学習に負の影響を与えるのではないかと考える。

5.考察

 以上の分析結果から、学習意欲および「可能性予期」にかかわる要因として、「他者の 存在」が重要であることが示唆された。文野(1999)では、友人に対して負けたくないと 感じるライバル意識が学習意欲が高まる要因として考えられること、またそれによって従 来のカテゴリーでは困難であった学習者の行動が説明可能になることを指摘している。本 調査においても、前述のように「他者の存在」というカテゴリーから、ライバル意識が学 習意欲に結びついていると解釈できる例(事例2、事例3、事例4)が複数観察された。

 また、西部(2009)では、原因を自分で改善していけることに帰属できれば「学習意欲」

は上がるが、自分では状況を変えることが出来ないと感じられるような出来事では下がる 傾向にあることが指摘されている。「漢字に強い中国圈の学習者との出来事」(事例8)は 変えることが出来ない環境であると考えられるため、西部の調査を裏付ける結果となった。

5.1 学習意欲に関する諸要因

 学習意欲が高まるときにおける「他者の存在」という要素は、「中国やベトナム出身の 学習者に負けたくない」 「同じ韓国出身の流暢な友人に負けたくない」など「負けたくな い」というライバル意識が目立って観察された。「流暢な友だちよりも良い点をとった」

経験をふりかえった事例4からは、テストの結果など、なんらかの形で友人に「勝つ」こ とが高い学習意欲をもたらす可能性が示唆された。言語能力に単純な勝ち負けはないが、

教師は学習者同士が遠すぎないレベルで切磋琢磨できるようなクラスづくりを意識するこ とが大切だといえるだろう。

 また、ライバル意識だけではなく、「母語話者との接触」や「良い教師の存在」もまた 学習者の意欲を高めるようである。K1 の発言からは、日本語や日本語教育に関する知識 よりも「熱意がある」教師が良い教師像としてうつり、学習意欲を高めていることがわか る。

 では、学習意欲が低いときはどうであろうか。同じ言葉しか使えていないという事例は、

中級学習者によくみられる学習の壁であろう。日常で使う日本語が、決まった単語や表現 の繰り返しに過ぎないことは、自身の学習に進歩が無いように感じられ、学習意欲を保て なくなってしまうのではないだろうか。これは、JSL 学習者に多く見られる要素だと推察 できるが、これについてはさらに調査を重ねる必要がある。

 さらに意欲が低いときの要因としては、授業の進め方に納得がいかないこと、漢字圏出 身者に対する嫉妬心が述べられた。漢字に対する教育方針が頻繁に変化する韓国出身の学 習者が、漢字の困難さに複雑な感情を抱くことは想像に難くない。

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5.2 「可能性予期」に関する諸要因

 以下は可能性予期プラスの事例である。K3 は漢字テストを例に挙げ、できなかったこ とができるようになったために大きな満足を感じていると述べた。さらにその経験が、ま だわからない漢字が多いにも関わらず「もっと(漢字の勉強を)しないと」と述べており、「自 分はできる」という予期が高い学習意欲につながっている様子がみられた。

 また、学習意欲に関するものでは「ライバル」としての他者の存在が目立ったが、流暢 な友人の存在が学習者の憧れ、目標となっている事例もあった。その友人からの刺激は、

自分もいつかそのレベルに達することができるという希望として「可能性予期」に分類さ れたが、これは学習意欲にもプラスの影響を及ぼしていると思われる。なお、他国出身者 に対して「憧れ」あるいは「目標」の気持ちを持つ事例は本調査からはみられなかった。

 反対に可能性予期マイナスの事例として、自分よりも学習ができるクラスメートと自分 を比較し、自分はだめだと思ってしまうケースもあった。

 福島(1997)のモデルでは4つのパターンが示されている。上記のように、本調査結果 においては「可能性予期+学習意欲+」、つまり可能性予期を感じることが学習意欲を高 めていると思われる事例が比較的多くみられた。しかし、福島(前掲書)が最も苦しい状 態であると指摘する「可能性予期−学習意欲+」の事例もある。K13 は、勉強しなければ いけないと思ってはいるが、自分が理想とする状態に達することができると思えずに、葛 藤している気持ちを述べている。

6.まとめ

 本研究では、韓国語を母語とする JSL 学習者 16 名を対象に半構造化インタビューを行 い、「可能性予期」と学習意欲との関連を質的に探った。佐藤(2008)に基づき分析を行っ た結果、他者の存在、学習の進歩などの 12 のコードが抽出された。

 結果は以下の通りである。

1.複数の事例から「他者の存在」が、学習意欲に影響を与えていることが示唆された。

2 .上記のうち、「自分よりも日本語ができる存在」が、学習者の学習意欲/「可能性予期」

を高める事例と低める事例双方がみられた。

3.JSL 学習者であっても「可能性予期」をうまく感じることができない事例が示された。

 以上の結果から、特に中級以降の学習者においては、教師は学習者が自らの学習効果を 感じられるような機会を積極的に提供することが期待される。学習者の「可能性予期」を プラスにする活動の例として、たとえば、毎授業で行う小テストの結果をファイルにとじ させ学期終了時にふりかえると、初期の問題を難しく感じないことで学習者は自らの進歩 を感じるかもしれない。このように、小さいことでも学習成果が目に見えるような教師の 工夫が、今後の学習への自信につながると考えられる。また、他者の存在を意識させるた めに、学校の上級生をクラスに招き日本語で会話をする、それぞれの学習法について話し 合うなども、活動例として提案したい。

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7.今後の課題

 今回の調査対象は韓国人 JSL 学習者 16 名に限られたため一般化はできないものの、本研 究では学習者のふりかえりから学習意欲と「可能性予期」の事例を一部示すことができた。

 学習意欲に影響を与える要因のひとつである「他国出身者の学習者の存在」は、母国以 外の日本語学習者と接する機会が多い JSL 学習者に特有であると推測できる。同様に、韓 国人学習者に特有の学習背景として、漢字の言語政策に変化が多いこと、学習者数が多い こと、文法構成が日本語と酷似していることの 3 点が推測される。しかしこれらの証明に は、JFL 環境にある、あるいは韓国語以外を母語とする学習者を対象とした調査および比 較研究がさらに必要である。また、学習意欲と「可能性予期」が互いにどのように関連し、

影響し合っているかも明らかにする必要がある。今後の課題としたい。

謝辞

 本研究は、桜美林大学言語教育研究所より 2012 年度研究運営助成を受けたものである。

本論文の研究は、全が調査方法および分析結果を担当し、宗像がはじめに、先行研究、考 察、まとめと今後の課題を担当した。

資料 西部(2009)のアンケート項目

教室内外での出来事 経験あり

日本の生活になかなか慣れないと感じる 日本人との会話がうまくならないと感じる クラスメートが自分より出来ると感じる 忙しく、疲れて時間がうまく使えないと感じる 日常、周りで聞く日本語がわからないと感じる 後輩が入ってきて刺激を受けた

外国人の犯罪のニュースを見て留学生の立場が悪くなるのではと思った 自分の日本語が上手になっているか分からない

授業が難しくなり、分からないことが増えた 外国人だから日本人と違った扱いをされた 授業の内容が自分のやりたい事と違う テストで思った結果が出なかった 日本人の知り合い・友達ができない

ほかの国の人たちが自分たちよりよく出来る

とてもうまく日本語を話す留学生に会い、うらやましかった

友達だと思っていた日本人が自分を外国人としか見てくれていないと感じる 日本人に自分の日本語が分かってもらえなかった

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参考文献 

李受香 (2003) 「第 2 言語および外国語としての日本語学習者における動機づけの比較 ─韓 国人日本語学習者を対象として─」 『世界の日本語教育』 13 号 pp.75-92

佐藤郁哉 (2008) 『質的データ分析法』 新曜社

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参考 URL

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(2013 年 3 月 1 日 最終閲覧)

参照

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