Mem.Fac.Eng.Pukui Univ一,Vol.50,No.I(March2002) 59
CsC1:Pb2+結晶におけるCsPbα。相と孤立Pb2+イオンによる光学的性質
樋口聖*角脇良家榊 浅田拡志榊 石金益夫榊近藤新一榊
Optical Pmp6向ies1)11e to t116CsPbC13Aggmgated P11as6 amd t11e Iso1ated Pb2+Iom im CsCl:Pb2+C町s伽1s
Satos阯皿GUC旺I*,Yoshim㎜eKへlDOWAK[榊,HimshiASADA榊,Mas㎜oISHIK州正榊
amd S阯11−ic阯KONI)O榊(Received February20.2002)
Isolated Pb2+ions monodispersed in CsC1crysta1s aggregate to的m CsPbC13phases via a direct process by amea1ing at lower temperature(473K).There o㏄urs discrete−energy excit㎝
abso印tion inthegrowingCsPbC13phases.Theaggregationprocess iswell interpreted inte㎜sof the plate mode1ofthe CsPbC13phases proposed by Nik1eC〃.
Fora㎜ealingathighertemperature(573and673K),theabsorpti㎝andemissionspectrae池ibit complicatingchanges,thenthe的rmati㎝ofCs4PbC16phases isc㎝丘㎜edbythe3.5eVemission
band.
As to the4.1,4.3and5.6eV absorption bands due to iso1ated Pb2+ions,these are a血ributed to the same origin,and the sp1i廿ing between4.1and4.3eV absorption bands are di脆rent舟。m that between Al and A2bands的r Pb2+ions in Naα一type stmcture.
κ印〃〃必:Optical Absorption,Photonemission,Aggregated Phase,Microcrysta1,CsCl,Lead Ion,
CsPbC13,Cs4PbC16,Heat Treatment
1序論
鉛イオンをドープしたセシウムハライド結晶
CsX:Pb2+(X=C1川,Br工2〕,IP])に,低温アニール(X=CI
では,およそ423_523Kの温度領域)を施すと孤立 Pb2+イオンが凝集してCsPbCl。相を形成し,高温アニ ール(同じくX=C1では,およそ573−673Kの温度領 域)でこの凝集相は孤立Pb2+イオンに解離すること
大学院工学研究科
榊物理工学科(応用物理学科)
榊遠赤外領域開発研究センター
‡Graduate School ofEngineering 榊Depaれment ofAppIied Physics
榊*Research Center的r Deve1opment of Far−In缶ared
Regi㎝
が知られている.
特にCsC1:Pb2+結晶については,Niklらによって最 も研究されてきた.まず,CsPbC1。相による励起子 再結合による発光帯の存在からこの相の形成が明ら かとなり,相を形作るCsPbCl。単位格子の形成モデ ルが提案された口】.その後,この励起子による発光 帯に,この相の母結晶Csα中への閉じこめによる量 子サイズ効果が観測され,CsPbC1。相はプレート状 に成長するという異方的な成長モデルが提案されて いるエペ5】.さらに,吸収スペクトルのアニール時間変 化を測定することによってCsPbCl。相の形成過程の 観測を試みた報告圧4】もみられるが,彼らによるプレ ート状成長モデルでは説明できない構造が見られた り,アニール時間変化の基点となるスペクトルに孤 立Pb2+イオンによる吸収帯が明示されておらず,こ れはCsPbCl。相の成長過程を鮮明に捉えたものとは いえない.
一方で,高温アニールによるCsPbC1。相の解離過
程に関しては,現在のところ報告されていない.これ は,孤立Pb2+イオンによる光学的性質が解明されてお らず(詳しくは後述),光学スペクトルの変化の解釈が 困難であるためだと考えられる.
以前より,アルカリハライドにドープされた,Pb2+
イオンなどの最外殻にS2の電子配置をもつ不純物,す なわちS2蛍光体による光学的性質はよく研究され,そ の電子状態について数多くの知見を得ることができた.
そのうち吸収スペクトルの構造については,母結晶の 物質に関わらず,可視から近紫外の領域に低エネルギー 側から順にA吸収帯(スピンー軌道相互作用によって許 容されたlSo→3P1の遷移),B吸収帯(格子振動によっ て誘起した1So→3P2の遷移),C吸収帯(双極子相互作 用によって許容されたlSo→1P1の遷移)と呼ばれるs2 蛍光体内の電子遷移に基づく互いに類似したスペクト ル構造を示すことが知られている【7・8].ところが,母結 晶がCsC1型構造を持つCsX:Pb2+(X=C1,Br,I)結晶の 場合は,Niklら(X=C1川)や,われわれ(X:Br,エ9】I【1o】)
によって報告されているが,これらと異なるスペクト ル構造を示す.よって,母結晶がCsC1型構造の場合で は,孤立Pb2+イオンによる光学的性質は充分に調べら れているとはいえず,その電子状態の解明には至って
いない.
以上の事柄より,われわれはCsCl:Pb2+結晶に対し,
低温アニール(473K)および高温アニール(573,673K)
による光学スペクトル(吸収スペクトルおよび発光・励 起スペクトル)のアニール時間変化を測定することによ りCsPbα3相の形成・解離過程を鮮明に観測し,Nikl らによるプレート状成長モデルと照らし合わせ考察し た.さらに,高温で長時間(673Kで480分間)アニー ルすることで充分にCsPbC13相を解離させた状態の試 料を二種類作成し,主に孤立Pb2+イオンの振る舞いに ついて考察した.
2 測定装置と試料
2.1測定装置
吸収スペクトルの測定は,U−3210形自記分光光度 計(日立製作所)にクライオスタットを組み込んだ装置 で行った.クライオスタットにはカートリッジヒーター とK熱電対(アルメル_クロメル)が組み込まれ,温度 コントローラーによって測定温度を制御した.本研究 では測定温度が液体窒素温度(LNT)から273Kまでの 範囲で測定を行った.
発光・励起スペクトルの測定は,励起光側・発光側い ずれにもCr25型回折格子分光器(日本分光)を用い,
図1に示す装置で行った.分光器の波長駆動は,分光器 に組み込まれたパルスモーター駆動ユニットをパーソ
Sample room
(vacuumed)
Samp−e with holder
PMT1
M2
F]
M㎝㏄hrom1or
(㎞r6耐∬i㎝)
Moior driving unit
W
而
Monocllromator1Mo−or
(for exci−ation)1dr〜ing
1㎜i一
F2
ChopPer
GP−IBく⇒CENTRO COnΨC『一e『
MI D2
Lock−in Amp.
Digital multi−
meterS
書2 例
GP−IB inte㎡ace card
Personal computer
図1:発光スペクトル測定装置のフロック図.太線は励 起光および発光の光軸を表し,細い矢印は各種信号の 流れを示す.Fはフィルター,Mはミラー,PMTは光
電子増倍管(Photomultip1iertube)を示す.
ナルコンピューター(PC)で制御することで行われる.
光源(重水素ランプD2またはタングステンランプW)
からの光はフィルターと励起光側分光器で単色化され 励起光として試料に入射する.試料からの発光はフィ ルターで励起光の反射をカットし,発光側分光器で分 光され光電子増倍管PMT2で検出される.検出した発 光強度信号は,ロックイン増幅器による検波・増幅を 経てPCに取り込まれる.試料室にはクライオスタット が組み込まれており,測定温度はLNTのみとした.発 光スペクトルは,励起光の波長を固定し発光波長を走 査することで,発光波長に対する発光強度を表したス ペクトルであり,特定波長の光励起によって,どの波 長に発光がみられるかを示している.また励起スペク トルは,逆に発光波長を固定し励起光波長を走査する ことで,励起光波長に対する発光強度を表したスペク トルであり,特定の発光がどの波長の励起光によって 引き起こされるのかを示している.
λ2 試料と熱処理の手順
CsCl:Pb2+結晶は,引き上げ法を用いて,O.2wt%の PbC12を含むCsClの融液から育成し,ダイヤモンドカッ
ターを用いて試料A(直径13mm,厚さ1,4mm)と試
一一ィA試料 as−9rown
一一一一一
氓a試料
673Kで15分アニール(育成時に残留する凝 集相の解離)
基準状態
473Kで累積500分間 アニール時間変化を 測定
状態1
573Kで累積50分間 アニール時間変化を 測定
状態2
673Kで480分間 アニール
状態3
≡673Kで累積480分間 1アニール時間変化を 1測定
直
図2:二つの試料に施した熱処理履歴.それぞれ実線の 矢印は試料A,破線の矢印は試料Bの履歴を表す.
料B(直径13mm,厚さ1.5mm)を切り出した.試料 中に形成している凝集相を解離し,孤立Pb2+イオンの 状態にするため673Kで15分間アニールし,直後に室 温に急冷した.このようにして得た結晶の光学スペク
トルを基準状態として用いた.
試料に対して行った熱処理は,はじめ室温にある試 料を一定の温度rに加熱したホットプレートの上に置 き,時間 経過した直後に銅ブロックの上に置き室温 まで急冷するという手順で行った.この熱処理をもっ て「温度rで時間エアニールした」と呼ぶことにする.
また,光学スペクトルのアニール時間変化は,試料の アニールとスペクトルの測定を繰り返すことにより観 測レ,基点となる状態からの累積アニール時間に対す る変化として表示する.
その後,二つの試料に施した熱処理履歴を図2に示 す.試料Aに対しては,まず,473Kでのアニールを 累積500分まで施し,CsPbC13相の形成による光学ス ペクトルのアニール時間変化を測定した(基準状態か ら「状態1」へ,3.1節).次に,573Kでのアニールを 累積50分まで施し,CsPbC13相の解離による光学スペ クトルのアニール時間変化を測定し,さらに673Kで 480分アニールすることで充分にCsPbC13相を解離さ せ,光学スペクトルを測定した(「状態1」からr状態 2」を経てr状態3」へ,3.2節).試料Bに対しては,
673Kでのアニールを累積480分まで施し,CspbC13 相が充分に解離される段階までの光学スペクトルのア ニール時間変化を測定した(基準状態から「状態4」へ,
3.3節).
3実験結果と考察
3.1低温(473K)アニールとCs恥α3相の形成 まず,試料Aの熱処理による光学スペクトル変化を 述べる前に,試料Aの状態ごとの吸収スペクトルと発 光強度分布図を図3,4に示す.発光強度分布図は,横 軸に励起光の光子エネルギー,縦軸に発光の光子エネ ルギーをとり,その位置での発光強度をカラーマップ に示す色の濃淡で表示した.
試料Aの「基準状態」を基点とし,473Kでのアニー ルによる吸収スペクトルの累積アニール時間変化を図5 に示す.アニール前(累積0分,「基準状態」)に見られ る4.1,4.3,5.6eV吸収帯は累積アニール時間の増大 とともに小さくなり,いずれも累積20分には見られ なくなった.一方,累積アニール時間の増大とともに 3.0,4.0,4.24.6eV吸収帯が現れた.まず,累積3分に 励起子型の形状を持つ3,oeV吸収帯が現れ,形を変え ながら大きく成長する.次に,累積10分に4.OeV吸 収帯が現れ,アニール前にはショルダーとして見える 4.24.6eV吸収帯は累積アニール時間の増大とともに 大きくなる.しかし,3.o eV吸収帯は累積500分まで 成長を続けるのに対し,4.o,4.24.6eV吸収帯の強度は 累積20分を過ぎるとほとんど変化しなくなる.
このような変化をした後の,すなわち累積500分(「状 態1」)のスペクトルは図5の最も上側に示すCsPbC13 薄膜のスペクトルエ111と似ている.したがって,母結晶 CsC1中における孤立Pb2+イオンの大部分はCsPbC13相 の形成に費やされていると考えられる.CsPbC13薄膜に おける報告工12・131から,累積アニール時間の増加ととも に大きくなる3.0,4.0eV吸収帯は,それぞれB㎡11ouin zoneのR点とX点におけるCsPbC13中のPb2+イオン の6s軌道から6p軌道への遷移によると同定され,4.2_
4.6eV吸収帯は,スピンー軌道相互作用によって二重項 の構造をとり,R点におけるCl一イオンの3p軌道から 成る価電子帯からPb2+イオンの6p軌道から成る伝導帯 への遷移によると同定されている.一方,アニールとと もに小さくなってゆく4.1,4.3,5.6eV吸収帯はCsPbC13 相の形成に費やされる孤立Pb2+イオンによるものであ る、われわれは,可能な解釈として,4.1,4.3eVの二重 項がA吸収帯,5.6eV吸収帯がC吸収帯であると報告
した工141.ただし,母結晶がNaC1型の場合と比べて,大 きく分裂している理由は現在のところはっきりしない.
このスペクトルの変化は,室温においてNik1らが測定 した変化工11とほぼ同じである.また,4.1,4.3,5.6eV 吸収帯が小さくなり,かわって3.o,4.o,4.24.6eV吸 収帯が大きくなる二つのスペクトル変化だけみられる ことから,母結晶CsC1における孤立Pb2+イオンから CsPbC13相への変化は,中間状態(例えば,CsC1_pbC12
wave1ength(nm)
500 400 300
CsC1:Pb2+(A) LNT
8
白象
3 d
db
a
図3:試料Aの状態ごとの吸収スペクトル.
ている.
3 4 5
photon energy(eV)
6
曲線a,b,c,dはそれぞれ基準状態,状態1,状態2,状態3に対応し
>94.O
冒
。産3・5
… 一籔 33・O
ε
奪:ll o
8
j看1.5o・ 3.0 3.5 4,04.5 5.05.5 6.06.5 7.O photon energy for excitation(eV)
■39∬・・450刀 練獅5一一393.8
281.3 __ 33?.5
112j __ 168.8 調∬25一・112.5 0__56.25
(a)基準試料
↓
473Kで累積500分
アニール
9 書40 0
・婁3.5
言
①3.O
£
、2.5 響
①92.0 8 さ1.5
o・ 3.03.5 4.04.5 5.05.5 6.06.5 7,O photon energy for excitation(eV)
■393.8・・450.O 鰯337.5・一393.8 281.3 一一 337.5
一一281.3
一… l12.5 __ 168.8 着・6.2・一一112.・
O __ 56.25
(b)状態1
9 94.O ■舳一側。
○ 調0獅・5・一393・8
C− 281.3__ 33フ.5
.屋3.5
吻 燃225.O・・281.3
∈ ・・225.0
8 ■∬25−l12.5
>、2.5 0一一56.25 讐
①52・O (c)状態2
……
ち1.5
o■ 3.0 3.5 4.04.5 5.05.5 6.06.5 7,O photon energy for excitation(eV)
一/㌘
9 94.0 ■393ト側
■8獅.5・・393.89 拠1.3..獅j
.嚢3・5
冒
ご3・0
8 ■舳5一・112j
>。2.5 o一一56−25 響
①
52.O (d)状態3 8
重1・5
o・ 3,03.54.04.5 5.05.5 6」06.5 7.O photon energy for excitation(eV)
図4:試料Aの状態ごとの発光強度分布図.それぞれの図の右にあるカラーグラフは発光強度(任意単位)との対 応であり,(a)基準状態,(b)状態1,(c)状態2,(d)状態3の各状態における励起光および発光の光子エネルギー と発光強度の関係を表している.
wave1ength(nm)
500 400 300
目
◎
8
属8
毛
CsPbC13fi1m
2+
Csα:Pb (A)
annea1ed at473K
for:
500min 300min 100min 50min 20min
lO min
3min
O min
LNT
3 4 5
photon energy(eV)
6
図5:試料Aの473Kでのアニールによる吸収スペクトルの累積アニール時間変化.累積0分のスペクトルが「基 準試料」に,累積500分のものが「状態1」に相当する.
8
白ま
3 d
wave1ength(nm)
420 410 400
390
2+Csα:Pb
mnealed at473K
for:
500min 400min
(A)1 (a)
LNT
300min 200min 100min 50min 40min 30min 20min 10min 5min 4min 3min 2min
l min O min
2.9 3.0 3.1 photon energy(eV)
嘗。
C
(b)
ピークの違い は厚さの違い
シフトは プレート の広がり
a
3.2
CsPbC13格子定数の 厚さを持っプレート
図6:(a)試料Aの473Kでのアニールによる,累積アニール時間に対するCsPbC13相の3.0eV励起子吸収帯の変 化と,(b)Nik1らが提案したプレート状成長モデルに基づき,われわれの提案するCsPbC13相の成長過程シナリ木
.岩×
ω自
① 一目
●一 目
。
・一〇〇
.害 冒
①
wave1ength
for emission(nm)700 500
2+
CsCl:Pb (A) (a)
excited at4.13eV
annea1edat473K
for:
20min 10min 5min 3min 1min Omin
1.5 2.0 2.5
photon energy
for emission(eV)
目
ξ ま 名
お
wave1ength(nm)
310 290 270
。、。。1.d.t473K(b)
舳、
10min 5min 3min 1min Omi
3.8 4.04.24.44.6 photon energy(eV)
wave1ength
for excitation(nm)
350 250
0min l・ (c)
1 ・δ く_一11d・t・・t・d
易 ・・at2.27eV l ・目 11
o 11
+一 I 1
目 11
.一 1■
・ ・ 自 11
◎ 1:
・一 ・1 一一一〉
・ 1ωω ・I
・一
言 1.
① 1・
1 ・ 1 ・ l I ・ ・
3 4 5 photon energy
for excitation(eV)
湾
ξ ぎ
3
句図7:試料Aの473Kでのアニールよる,(a)2.3eV発光帯(励起光4.1eV)と,(b)4.1.4.3eV吸収帯の累積アニー ル時間変化.累積0分のスペクトルが「基準状態」に相当する.(c)「基準状態」における検出位置2.3eVの励起 スペクトルと吸収スペクトルの比較.
系の相図の研究工15]にみられるような,Cs4PbC16相の形 成)を経ることなく直接的なものであると考えられる.
次に,3.OeV励起子型吸収帯の累積アニール時間の増 加による変化に注目し,LNTで測定したスペクトル変化
を図6(a)に示す.これらのスペクトルには文献141(吸 収スペクトル.ただし鮮明に捉えたものとはいえない)
や文献[5](発光スペクトル)と同様に離散的な構造がみ られる.累積アニール時間の増加に対して,まず,第 一バンドが3.1eV付近に現れ,徐々に3.06eVまでシ フトしながら成長する.次に,第二バンドが3.03eVに 現れ,これも3.02eVまでわずかにシフトしながら成 長し,このバンドの強度は第一バンドよりも大きくな る.さらに累積アニール時間が増加すると,低エネル ギー側の3.oOeVに小さなショルダーとして第三バン
ドをつくる.
このような3.0eV付近のスペクトルの変化は,相が 形成し,成長してゆく過程における量子サイズ効果を 反映しており,この変化は励起子の閉じこめに対する 二種類の特性を示している.すなわち,ひとつは三つ のバンドの位置が離散的な構造をとることであり,も うひとつは第一,第二バンドについては連続的に低エ ネルギー側にシフトしながら増加することである.こ れらを先にNik1らが提案したCsPbC13相のプレート状 成長モデル[4・51に照らし合わせると,前者の閉じこめ はプレート状である相の厚さ方向の閉じこめに対応し,
後者はその広さ方向のものに対応すると考えられる.以 上のことから,3.o eV付近のスペクトルの変化は次の
ように説明できる(図6(b)):
1.相の成長における初期の段階では(累積3分),
CsPbC13の格子定数の厚さを持つ小さなプレート 状の相が形成される(第一層,a).このプレート は厚さ方向と広さ方向の二つの閉じこめを強くう けている.広さ方向の成長に伴い(a−C),後者の閉 じこめは弱くなり,第一バンドは3.1eV付近から 3.06eVまで低エネルギー側にシフトする(累積50
分まで).
2.次に,第二層が第一層に続いて形成される(d).厚 さ方向の閉じこめは一層だけのときより小さくな るので,第二バンド(3.03eV)は第一バンドより低 エネルギー側に現れる(累積10分).第二層の広が り(d,e)は第二バンドのシフトを引き起こし(累積 10分以降),そのシフトの大きさは第一バンドのも のより小さく,わずかである.
3.さらなるアニーリングは第三層を形成させ(O,第 三バンド(3.oOeV)が低エネルギー側に現れる(累 横500分).
発光スペクトルに関しては,「基準状態」(図4(a))と
「状態1」(図4(b))を比べると,「基準状態」にみられた 2.3,3.2eV発光帯は「状態1」では消光し,3.0eV発光 帯は大きくなっている変化がみられる.また,3.9eV発 光帯はやや小さくなっている.このうち,3.0eV発光帯 は,第1節で述べたように,NiklらによってCsPbC13
相の存在を示した発光帯であり,CsPbC13結晶の発光 スペクトル【161にもみられる励起子再結合による発光で ある.これがr基準状態」にも存在することから,r基 準状態」においてもCsPbC13相がわずかに存在してい たことが分かる.
4.1eVでの励起による2.3eV発光帯の累積アニール 時間変化を図7(a)に示す.2.3eV発光帯は累積アニー ル時間の増大とともに小さくなり,累積20分でほぼ消 光した.この変化は,図7(b)に示す,4.1,4.3eV吸収帯 が累積アニール時間とともに小さくなる変化と同じであ る.また,検出位置2.3eVの励起スペクトル(図7(c))
では,励起帯が4.1,4.3eVにあり,これらの吸収帯と 一致する.したがって,2.3eV発光帯は4.1,4.3eV吸 収帯に対応する孤立Pb2+イオンによる発光であること が分かった.しかしながら,一つの発光帯に対し二つ の励起帯が対応することから,複雑な発光機構が考え
られる.
32 高温(573,673K)アニールとCsPbα3相の解離 試料Aの「状態1」を基点とし,573Kでのアニール
による吸収スペクトルの累積アニール時間変化を図8 に示す.累積1分から現れた孤立Pb2+イオンによる 4.1,4.3,5.6eV吸収帯は,累積5分までに凝集相によ る4.O,4.24.6eV吸収帯と入れ替わるよう.に大きくな る.しかしその後,孤立Pb2+イオンによる吸収帯は累 積20分までに少し小さくなり,その後は変化が見られ
なかった.
この孤立Pb2+イオンによる吸収帯がいったん大きく なった後に小さくなる変化は,3.1節で述べた低温ア ニールによる変化の逆過程のように,単調にCsPbC13 相が解離し,孤立Pb2+イオンが増加してゆく過程で は考えられない.さらに,累積50分(「状態2」)で CsPbC13相による3.O eV励起子吸収帯が消失したのに 対し,図3の曲線aと。を比べると,孤立Pb2+イオン
による吸収帯の強度は,「基準状態」におけるものより 小さいことが分かる.同様に,図4(b)(「状態1」)と
(c)(「状態2」)を比べると,CsPbC13相による3.OeV 励起子発光帯が図4(a)(「基準状態」)の場合より小さ くなっている一方で,孤立Pb2+イオンによる2.3eV発 光帯はほとんど現れていない.
また,累積10分までに4.0eV吸収帯は消滅したり,
4.2−4.6eV吸収帯がr基準状態」で見られるショルダー に戻っているのに対し,3.0eV励起子吸収帯は累積50分 までゆっくりと形を変えながら小さくなってゆく変化 を示した.3.1節と同様に3.OeV励起子吸収帯の変化に 注目し,この吸収帯の累積アニール時間変化を図9(a)
に示す.アニール前(累積0分,「状態1」)において,そ れぞれ第一バンド,第二バンド,第三バンドに対応する 3.05,3.03,3.00eVの三つのバンドが見られるが,累積
2分から第一バンド,第二バンドの順に減少・消滅して ゆく.一方,第三バンドは若干小さくなりながらも,累 積5分では一つだけ残っているのが分かる.その後,こ のバンドはわずかに低エネルギー側にシフトしながら 小さくなり,累積50分(「状態2」)に見られなくなっ た.また,この励起子吸収帯に対応する3.oeV励起子 発光帯の累積アニール時間変化を図9(b)に示す.分解 能が吸収スペクトルより劣っているため,サイズ効果 による構造はみられないが,全体として低エネルギー 側にシフトしながら小さくなっており,3.OeV吸収帯 全体が低エネルギー側にシフトしながら小さくなって いる過程を裏付けている.
このような3.0eV励起子吸収帯の構造変化を再び Nik1らによるプレート状成長モデル[4・51に照らし合わ せると,最も高エネルギー側の第一バンドから順に減 少することから,最も薄い第一層から順に解離されて ゆき,第三バンドが低エネルギー側にシフトしながら 小さくなることから,最も厚い第三層はその広さを広 げながら解離されていくシナリオが考えられる.しか し,最も厚く,広くなったプレートが最終的にどのよ うに解離・消滅するのかは分からなかった.
r状態2」においては,3.0eV励起子発光帯の存在 によってわずかながらCsPbC13相が残っており,孤立 Pb2+イオンの吸収帯・発光帯の強度が「基準状態」の程 度まで回復していないことから,さらに673Kで480分 間のアニールを施し,充分にCsPbC13相を解離させる ことを試みた.このとき(「状態3」)の吸収スペクト ルを図3の曲線dに,発光スペクトルを図4(d)に示 す.吸収スペクトル・発光スペクトルともに,CsPbC13 相による3.oeV吸収帯・発光帯は消失し,CsPbC13相 は充分に解離されていると考えられる.しかしながら,
孤立Pb2+イオンによる4.1,4.3,5.6eV吸収帯が「基準 状態」のものより大きくなった一方で,4.1,4.3eV吸 収帯に関係した2.3eV発光帯は「基準状態」の強度ま で回復しなかった.
さらに,新しく3.5eVに非常に強い発光帯がみら れる.この発光帯の励起スペクトル(図10)を測定 すると,4.4eVに励起帯がみられたが,この励起帯 に対応する吸収帯は見つからなかった.そこで,こ の発光帯の起源を孤立Pb2+イオンやCsPbC13相以 外に求める.3.1節で述べたように,CsC1_PbC12系 の安定な化合物にCsPbC13とCs4PbC16が存在する ことが報告されている工151.これをもとに,Somma ら口7工がCs4PbC16薄膜の発光スペクトルを,われわ れ工18]も吸収スペクトルを報告している.これらと比 較すると,発光帯(ピーク位置365nm=3.40eV)・励 起帯(同じく285nm=4.35eV)のいずれとも一致し,
4.35eVの励起帯はCs4PbC16の第一吸収帯(ピーク位置
wave1ength(nm)
500 400 300
自
◎
8
箏9
毛
2+
CsC1:Pb (A)
annealed at573K for:
50min 40min 30min 20min lOmin 5min 4min 3min 2min
l min
Omin
LNT
3 4 5
photon energy(eV)
6
図8:試料Aの573Kでのアニールによる,吸収スペクトルの累積アニール時間変化.
「状態1」に,累積50分のものが「状態2」に相当する.
累積O分のスペクトルが
自
◎
.垣
8
8
{
wave1ength(nm)
420 410 400 390
wave1ength for emission(nm)
420 410 400 390
1 ・ 1 ・ ・
2+
CsC1:Pb ≦A)!≡
annealedat573K for: i i i I 1 I
50min I ・一
40min l 11
30min ■ 11
(a)
LNT
20min 10min 5min 4min 3min 2min 1min 0min
.岩×
目 一ω① 自
・一
目
◎
・一ω
.雪 1…
o
! !
excited at4・75eV (b)
LNT 三 ;
I Iannea1edat573K
l 1 fg・:
・ I 50mm
40min 30min 20min 10min 5min 4min 3min 2min
l min
0min
2.9 3.0 3.1 3.2
photon energy(eV)
2.9 3.0 3.1 3.2
photon energy for emisssion(eV)
図9:試料Aの573KでのアニールによるCsPbC13相の(a)3.O eV励起子吸収帯と,(b)3.0eV励起子発光帯(励起 光4.75eV)の累積アニール時間変化.
.岩、
の(目 o
・昌壱
9賞
冒言
.竃昌 昌)
①
目
。
8
ち9
{
wave1ength(nm)
400 300
CsCl:Pb2+ =
(A・・t・t・3)ウ
excited at4.30eV
l LNT
斥
川d.t。。t.d
− at3.46eV
l l l l
l l l l 一 、
↓l l I 1
3 4 5 6
photon energy(eV)図10=試料A,「状態3」における,励起光4.3eV(実線 矢印)による3.5eV発光帯(実線,ピーク位置3.46eV)
と検出位置3.5eV(破線矢印)における励起スペクト ル(破線,同じく4.38eV).下図は「状態3」における 吸収スペクトルである.
4.35eV)に一致することが分かった、したがって,こ の発光帯はCs4PbC16相によるものであり,CsC1:Pb2+
結晶を高温アニールすることによりCs4PbC16相が形成 されることが確認できた.しかしながら,本研究では 573Kで累積50分アニールした後に673Kで480分ア ニールするという複雑な熱処理を施したため,Cs4PbC16 相が形成する明確な条件は分からなかった.
また,高温アニールに対する光学スペクトルの変化 には,CsPbC13相による3.OeV吸収帯における構造の 変化,および孤立Pb2+イオンによる吸収・発光帯の強 度変化など複雑な変化が見いだされた.3.3節では新 たに試料Bを用い,673Kのアニールに対する光学ス ペクトル変化と吸収スペクトルの温度依存性を測定し,
主に孤立Pb2+イオンの振る舞いを観測した.
3.3孤立Pb2+イオンの振る舞いと光学的性質 試料Bのr基準試料」を基点とした673Kでのアニー
ルによる吸収スペクトルのアニール時間変化を図11(a)
に,r基準状態」(a)とr状態4」(b)の発光強度分布図 を図12に示す.試料Bの吸収スペクトルには,試料A で見られたCsPbC13相による4.24.6eVのショルダー がなく,新たに4.5,4.6,5.0,5.2eVに小さな吸収帯が
兄られた.
孤立Pb2・イオンによる4.1,4.3,5.6eV吸収帯の振る 舞いを調べるため,これらのピーク高さの累積アニー ル時間変化を調べた(図11(b)).いずれの吸収帯もピー ク高さは累積120分まで増加し,その後減少するとい う同じ変化を示しており,これらの吸収帯は同じ起源 を持つことが分かる.ピーク高さの初期の増加は,「基 準状態」の発光強度分布図(図12(a))にCsPbC13相の 3,O eV励起子発光帯が見られることから,「基準状態」
でわずかに存在するCsPbC13相の解離による孤立Pb2+
イオンの増加であると分かる.累積120分以降の減少 は,孤立Pb2+イオンの減少を意味しており,その原因 として,Pb2+イオンの結晶外への析出や,「状態4」に おける2.3eV発光帯がr基準状態」に対して減少し,
逆に3.5eV発光帯が増大していることから,Cs4PbC16 相の形成などが考えられる.
次に「状態4」における吸収・発光スペクトルに注 目し,吸収スペクトル(a)と孤立Pb2+イオンによる 4.1,4.3eV吸収帯のピーク位置(b)とピーク高さ(c)の 測定温度依存性を図13に示す.4.1,4.3,5.6eV吸収帯 は測定温度の上昇とともにピーク位置が低エネルギー 側にシフトし,その幅を広げながら小さくなっている.
そのうち,4.1,4.3eV吸収帯のピーク位置は,測定温度 の上昇とともに二つの吸収帯は同じ間隔を保ちながら 低エネルギー側にシフトしており,ピーク高さは同じ 割合で減少している.3.1節で述べたように,われわれ は,この4.1,4.3eV吸収帯をA吸収帯であると報告し たが,これらに見られる測定温度依存性は,母結晶が NaC1型構造の場合でのs2蛍光体によるA吸収帯の場 合と異なる依存性を示す.すなわち,Fukuda工71による と,Jahn−Te11er効果により,A吸収帯は低エネルギー側 からA1,A2吸収帯に分裂する.これらは測定温度の上 昇にともない,分裂の幅を広げながら小さくなり,A1 吸収帯はA2吸収帯より大きく減少することが知られて いる.また不純物がPb2+イオンの場合では,Al,A2吸 収帯の分裂はほとんど見られないのに対し,4.1,4.3eV 吸収帯は大きく分裂している.よって,分裂の原因が NaC1型構造の場合と異なると考えられるが,その詳細
については分からなかった.
CsCl:Pb2+結晶の発光帯と励起帯・吸収帯の関係を 調べるため,吸収スペクトルの構造がはっきりしてい る試料B,「状態4」において,各発光帯の励起スペク トルを測定した.図14にこれまで取り上げなかった 3.2,3.9eV発光帯の励起スペクトルを示す.その結果,
それぞれ3.2,3.9eV発光帯は4.5,4.6eVに励起帯があ り,同じ位置にある小さな吸収帯と一致することが分 かった.最後に,既に述べたCsPbC13相による3.0eV 発光帯,Cs4pbC16相による3.5eV発光帯,孤立Pb2+イ
目
。
8
む9
{
wave1ength(nm)
500400 300
2+
CsC1:Pb
annea1ed at673Kfor:
480min 360min 240min
120min0min
LNT
20
τ 15 (
言ε
岩
.響
①
10
−
d
①q
5
2+
CsC1:Pb LNT 0 4.1eV absorption band
● 4.3eV absorption band 口 5,6eV absorption band
口
8
口
8
口
口
8 8
3 4 5 6
photon energy(eV)
O 1O0 200 300 400 500 amea1ing time(min)
図11:試料Bの673Kでのアニールによる,累積アニール時間に対する(a)吸収スペクトルと,4.1,4.3,5.6eV吸 収帯のピーク高さの変化.(a)においては,累積0分のスペクトルが「基準試料」に,累積480分のものが「状態 4」に相当する.
9
&4.O昌
.妻3・5
.冒
ど3・0
8
x2.5胃
①
冨2.O
……
ち1.5
{
一39318・一450.O 調■■337,5一一393.8 281.3 __ 337.5
一一112.5 __ 168.8 ご56.・5一一112.・
O__56.25
3.03.5 4.04.5 5.05.5 6.0 6.5 7.0 photon energy for excitation(nm)
(a)基準試料
9
&40…≡;
妻35
.…
8
ど30x25
胃①
520
ε
ち15
o
673Kで累積480分間アニール
4.O ■393.8・・450.O
調獅.5一一393−8 281.3一一337.5
3.5 叢 鱗嚢225.O一・281.3
饗1168.8一・225.O
3.O H2.5一一一68.8
σ
■56.25・・l12.52.5 O一一56.25
2.O (b)状態4
1.5
3.0 3.5 4.04.5 5,0 5.5 6.06.5 7.0 photon energy for excxitation(eV)
図12:試料Bのr基準状態」(a)とr状態4」(b)の発光強度分布図.
■
◎
8
む9
{
wave1ength(nm)
500 300
1;
CsC1:Pb2+l l
(B,state4)l
ll
measured a…:
273K 11 223K l1
173K I;
123K 11 LNT lI
一一
(a)
3 4 5 6
photon energy(eV)
4.4
(
>↓
.9
白4.3
着◎
q4.2
μ釣
①{ 4.1
6.0
(b)
0 4.l eV abs.band ● 4.3eV abs.band ゴ 目5・O
.. 9
● ● ● 一 島4.0 5 一 μ
83.0
◎o ρ■
◎ ◎ 0 2.0 100 200 300
Temperature(K)
(C)
0 4.1eV abs.band
● 4.3eV abs.band
●
◎ ●
◎ ●
O ● ● 0 0 100 200 300
Temperature(K)
図13:試料B,「状態4」における,吸収スペクトル(査)と,4.1,4.3eV吸収帯のピーク位置(b)とピーク高さ(c)の 測定温度依存性.
.岩×
ω( 目。
Φo
→一 N目・一
.一一 お
.冒言
竃8
目)○
目 ◎
.o
旨 9
毛
wave1ength(nm)
400 300
1 ・
1…it・d l
ウat4 44eV,1、
出 出 ハ1 l l 1 ノ
〃 1
(a)
LNT
detected at3.19eV
\
\
CsC1:Pb2+
(B,state4)
↓
.岩×
ω( 目。
o①
一一 N目・一
・一
̀
.業
.…)
易8
①
目 ◎
o
8 9
毛
wave1ength(nm)
400 300
excited 1
・t4・64千Vウ
,1、
川 川 川 ハ1
一ノい、
(b)
LNT
detected at3.92eV
↓
3456 3456
photon energy(eV) Photon energy(eV)
図14:試料D,「状態4」における,(a)3.2eVと(b)3.9eV発光帯(実線)とそれぞれの励起スペクトル(破線).(a)
には3.5eV発光帯も見られる.(a,b)のいずれも発光スペクトルは実線矢印の位置で励起したときのもの,励起ス ペクトルは破線矢印の位置で検出したときのものであり,下図は「状態4」における吸収スペクトルである.
表1:各発光帯に対する励起帯・吸収帯との関係とその起源.
発光帯 励起帯・吸収帯 起源
3.OeV 3.5eV 2.3eV 3.2eV 3.9eV
≧3.0eV(励起帯)
4.4eV 4.1,4.3eV 4.5eV 4.6eV
CsPbC13相の励起子再結合による Cs4PbC16相による
孤立Pb2+イオンによる (不明)
(不明)
オンによる2.3eVの発光帯を含め,本研究で見いださ れた各発光帯に対する発光帯と励起帯・吸収帯の関係,
およびその起源についてまとめたものを表1に示す.
4 結論
われわれは,CsC1:Pb2+結晶に低温アニール(473K)
および高温アニール(573,673K)を施し,光学スペク トル(吸収スペクトルおよび発光・励起スペクトル)の アニール時間変化を測定することによりCsPbC13相の 形成・解離過程を鮮明に観測し,Nik1らによるプレー
ト状成長モデル[4・51と照らし合わせ考察した.
低温アニールによるCsPbC13相の形成過程におい
て(「基準状態」から「状態1」へ),母結晶CsC1における 孤立Pb2+イオンからCsPbC13相への変化は,Cs4PbC16 相のような中間状態を経ることなく直接的なものであ ることが分かった.特に,3.0eV励起子吸収帯の量子 サイズ効果によるスペクトル構造の変化から,相はプ レート状に成長し,厚さの薄い順にその広さを広げな がら形成・成長してゆく過程,すなわちNiklらによる プレート状成長モデルに基づいたCsPbC13相の形成過 程を鮮明に捉えることに成功した.
一方,高温アニールによるCsPbC13の解離過程は 複雑な変化を示した.まず,573Kでのアニールに対
し(「状態1」から「状態2」へ),孤立Pb2+イオンに よる4.1,413eV吸収帯,および2,3eV発光帯が複雑 な強度変化を示し,低温アニールによる変化の逆過程 のように,単調にCsPbC13相が解離し,孤立Pb2+イオ ンが増加してゆく過程ではないことが分かった.特に,
3.oeV励起子吸収帯の量子サイズ効果による構造変化 をNiklらによるプレート状成長モデルと照らし合わせ ると,厚さの薄いプレートから順に解離され,最も厚 いプレートはその厚さを広げながら消滅するシナリオ が考えられるが,最も厚く,広くなったプレートが最 終的にどのように解離・消滅するのかは分からなかっ た.さらに673Kで480分アニールすると(「状態2」
から「状態3」へ),Cs4PbC16相による3.5eVの発光帯 が見いだされ,CsC1=Pb2+結晶を高温アニールすること
によりCs4pbC16相が形成されることが確認できた.
また,高温アニールによる孤立Pb2+イオンの振る舞 いを調べるため,「基準状態」を再び基点とし,673K でのアニールによる光学スペクトルのアニール時間変 化を測定した.その結果,アニールの初期(累積120分 以前)において残留しているCsPbC13相が解離し,そ れ以降において,結晶からの析出やCs4PbC16相の形 成によると考えられる孤立Pb2+イオンの減少が確認さ れ,この変化が共通する4.1,4.3,5.6eV吸収帯は同じ 起源をもつことが分かった.さらに,アニールの終点 であるr状態4」における吸収スペクトルの温度依存 性を測定した結果,4.1,4.3eV吸収帯の温度依存性は,
母結晶がNaC1型構造を持つ場合におけるA1,A2吸収 帯のものと異なることが分かり,各発光帯に対する励 起スペクトルを測定し,各発光帯と励起帯・吸収帯の 関係が明らかとなった(表1).
今後の課題は,CsPbC13相・Cs4PbC16相の形成・解離 過程の解明として,本研究で見いだされたCs4PbC16相 の形成は複雑な熱処理によって引き起こされたもので あるため,今後はCs4PbC16相が形成する明確な条件を 求め,相の形成過程,およびそれにともなう孤立Pb2+
イオンの減少過程やCsPbC13相の解離過程との関係を 明らかにすることが挙げられる.孤立Pb2+イオンによ る光学的性質や,その電子状態の解明として,発光ス ペクトルの温度依存性や,各発光の減衰特性の測定に より,2.3eV発光帯の励起帯を二つ持つ複雑な発光機 構や,4.1,4.3eV吸収帯の分裂の詳細な性質を明らか にし,4.5,4.6,5.o,5.2eV吸収帯,3.2,3.9eV発光帯の 起源を明らかにすることが挙げられる.
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