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1 中級後期・上級段階の指導と教材

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(1)

長崎 大学留学生 セ ンター紀 要 第 9 号 20 01 年

中級後期 ・上級段階の指導 と教材

‑ 『日本の断 面』 を中心 に ‑

宮原 彬

キーワー ド :中級後期 ・上級段階、指導内容 ・方法、教材 、学習者の状況、

主体性 ・参加 ・共感

1.は じめ に

中級後期か ら上級段 階にかけての 日本語指導 の内容や方法、教材 のあ り方等 は、 そ の 目的 に よっ て か な り多様 な もの に な るで あ ろ うが 、特 定 の 目的

(specificpurpose)

を もたず学習者の 日本語力 を総合的 に向上 させ将来へ の発 展 につ なげることを目的 とする 日本語教育 においては、か な りの共通性 も兄 い だせ るのではないか と思 う

それでは、その共通性 の中身は どの ような もので あろ うか。

筆者 は

、1999

年1

2

月、F中級後期 ・上級教材 日本 の断面 一読解 か ら会話、

作文‑ ‑』 ( 以下 、 F 断面』 とい う) とい う教材 を作成 ・出版 した ( 東研 出版発 行)。 そ こで、他 の市販教材 とも比較 しなが ら、 この教材 の作成意図や構成等 について報告す ることを通 して、 この段階の指導や教材 のあ り方 について、筆 者の考 えを述べ てみたい日。

2.市販教 材の現状 ・傾 向と問題 点

『 断面』について述べ る前 に、 まず、中級後期 か ら上級段 階にかけての同種 の市販教材コ 'の現状 ・傾 向 について触 れ、同時 に問題点 ない しは今後の課題 と 思 われる点 を挙 げてみることにす る

2‑1

構 成面でのタ イプと問題 点

この段階の市販教材 の基本的な部分は、それ以前の段 階の教科書 と同様 、多

くの場 合、本文、語句 の用例、 さまざまな練習か ら成 り立 っている

そのほか

に、語句や文型 ( 言い回 しを含 む)の説明、本文の文章構 成の説明、語義 リス

(2)

2

中級後期 ・上級段階の指導 と教材

ト ( 英訳 を含む) 、本文 に関連のある資料 ( 補助教材)等 を加 えている もの も ある。

市販教材の多 くを見て気がつ くことは、編集の重点の置 きどころがそれぞれ 違 うとい うことである

大 ざっばに言 えば、①本文 に重点 を置いた もの、②全 体の枠組 みに重点 を置 き、本文の内容 には必ず しも重点 を置いていない もの、

③本文 と全体の枠組みの両者 に深 く配慮 している もの ( ただ し、それは必ず し も "よい教科書"であるとい うことを意味 しない)、 とがある

ここで、構成面での今後の課題 として検討す る必要がある と思 われるのは、

上記の② の タイプの教科書である

この タイプの教科書 は、全体の構成が整 っ ている割 に本文の内容 の貧 しさが 目立つ。「 貧 しさ」 とい うのは、教材選択 の 必然性が感 じられず思いつ き的で、授業 ない しはその後の発展性が見 えない と い う意味である

さらに、 この タイプの教科書は、それほ ど意味があるとも思 えない練習等 にかな りのスペースが割かれていて、筆者の経験では、それ らが わず らわ しくかな り使 いに くい。そうした教科書は、そ もそ も教科書全体の基 本 的な意図や 目指す授 業のあ りようにあいまい な点があ るのではないか と思

う 。

教科書の構成上の問題 として、典型的 と思われる例 を一つ挙げる と、ほとん どの教科書で本文 に入る前 に設 けられている導入のための質問

(

「 本文 を読 む 前 に」 など)である

形式的でその必要性 ・必然性 の感 じられない ものが少 な

くない。

2‑2

本 文の内容面 でのタイプ と問題点

この段階の教科書の本文は、当然の ことなが ら、非常 に多様であるが、教科 書 によって一定の特徴がある

内容面か ら見 る と、① 日本社会の多様 な面 を ト

ピック的に示そうとした もの、② 日本で現在問題 になっている社会的なテーマ

を扱お うとした もの、③現代的 ・地球的テーマを扱お うとした もの、④ 日本 の

社会 ・文化 ・文学等、広い分野の内容 を扱お うとした もの、⑤歴史上の、ない

しは現代 の 日本人の生 き方 ・考 え方を扱 っている もの、⑥ 随筆的な内容 を扱 っ

た もの、⑦ 中学 ・高校 ・大学教養課程の教科書の イメージで編集 されている も

の、などがある

ただ、本文の選択 に一貫性の見 られない もの ( それが直ちに

教科書 としての欠陥 を意味するわけではない)や、教科書の まえが きの部分 に

編集の意図が書かれていて も本文の実際の中身がそれに合 っている とは思 えな

(3)

長崎大学留 学生 セ ンター紀 要 第 9 号 2 00 1 年

3

い ような もの もある

これ らの教科書の本文 には もちろん教材 として優れた もの もあるが、筆者 と しては問題 を感 じる もの も少 な くない。

授業 で扱 うとき、問題 とな りそ うな ( 学習者 ・教師の双方 に とって扱 いに く い)本文 には、以下の ような面がある

・内容が一般 的 ・総論的 ・抽象的である

・エ ピソー ド的で社会的 な広が りが乏 しい。

・内容が表面 的 ・没価値的で、現代社会の変化や問題点、変革の視点等が見 えない。

・専 門的 ・技術的な中身 に入 り過 ぎていて、 ことが らの基本的な性格が とら えに く い。

・現 象的 ・表面的で、内容が希薄である

・執筆者の主張が感 じられない。

・一面的ない しは独断的 な見方である

・結論 に飛躍があ り、違和感 を感 じさせ る

・内容が教訓的で違和感 を感 じさせ る。

・問題 を大 き く提示 しす ぎていて、焦点がは っきりせず、学習者が とっかか りを見つけに く い。

・内容 ない しは議論の展 開が学習者 には分か りに くい

・学習者の興味 を引 きに くい。

・学習者 との間に共通の場 ない しは接点 を見つけに く

い 。

これ らを一言で言 えば、学習者 を受 け身に して しまうとい うことである。 こ の ような教材 を使 った場合 、学習者が教材 の中身 を自身の問題 として とらえ、

主体的 に授 業 に参加 し、それ を通 して 日本語の力 を伸 ば してい く、 とい う過程 がかな り困難 になることが予想 される

ただ、以上の ような問題点が散見 されるに もかかわ らず、 この段 階の教科書

のい くつかには "学習者の主体的な参加" とい う共通の志向が見 られる。 これ

は、教 師 と学習者 との試行錯誤的な協 同作業の積み重ねか ら生 まれて きた もの

であろ う

今後 はその共通性 の中身 をさらに明確 な もの に してい くことが必 要

なので はないか と思 う

(4)

4

中級後期 ・上級段階の指導 と教材

2‑3

練 習面でのタイプと問題点

この段 階の教科書 にある一般的な練習 としては、本文 の内容に関する質問応 答、語句 ・文型の練習、文章 を書かせ る練習、などがある

その他 に、文章構 成 に関す る練習 ( ない しは解説)、各種 の タス ク、関連教材 の読み等 を含む も の もある

練習面での教科書の タイプ としては、①本文の内容の理解や語句 ・文型の練 習に重点 を置いた もの、②本文の内容の理解 とタスク的 な練習に重点 を置いた もの、( 彰多種類の練習の作成その ものに重点 を置いた と思 われるもの、等があ る

今後特 に検討の必要がある と思 われるのは、

2‑1

で触れた ように、③ の タイプの教科書である

この タイプの教科書は 自身の作 った枠組み に縛 られ学 習者の立場 に必ず しも立 っていない、 という印象 を受ける

この段階の教科書の練習問題 を概観 したとき、筆者は、実際の授 業 との関連 で、以下の ような点 に疑問 を感 じる

a.

文章構成 についての練習 ( 読みの練習)

い くつかの教科書には本文の文章構成 ( 起承転結 な ど)を図解等で示 した 部分がある

作文 を書 く場合の参考 に、 とい う趣 旨の場合 は納得 で きるが、

中には、理解 に困難がある とも思 えない短い文章 を分析 して見せ るなど、そ の目的が必ず しも明確でない ものがある

b.

本文の内容 に関する質問応答

本文の内容 に関する質問では、本文の内容 の理解 を実際 に確認することを 目的 としているのか、質問応答 をとお して話す練習 をさせ ようとしているの か、 といった基本的な趣 旨が明確でな く性格 の異なる質問が混在 している場 合が多い ように思 う

例 えば、指示代名詞が指す もの を聞いた り、語句の意 味 を闘いた りするのは前者であろ うが、 こう したことは本文 を読 み解 く段 階 で当然解決済みの ことであろう

また、す ぐ答 えられる安易な質問や逆 に学 習者 を困 らせ るような紛 らわ しい質問、思いつ き的な質問 もある‥ i ) 。

C.語句 ・文型の練習

語句 ・文型の練習では、練習に先立 って、それ らの語句 ・文型 を使 った文

例 を示す必要があるが、そ うした文例が記載 されていない ものや、記載 され

ていて も数が少ない ものが 目立つ。十分な文例 を示 さず に練習 を課 し、それ

をとお して用法の指導 をす るとい う姿勢は好 ま しい とは思 えない。 また、教

科書の中には、英語などで用法の解説 をしているもの もある

それ自身は有

(5)

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2001

5

効 だ と思 うが、特 にこの段階では、多 くの文例 を とお して学習者 自身に用法 を とらえさせ る ( 教師の援助 の もとに)とい う観点 も必 要ではないか と思 う

そのほか、空欄 を埋 める問題 などには、容易す ぎて意味がある とも思 えない 問題や、教師 自身 もとまどう問題 な どが散見 される

d.

文章 を書かせ る練習

本文 との関連で作文 をさせ る とい うのが通常のや り方であろうが、中には 本文 との関連が不明確 な、やや思 いつ き的 なテーマ を与 えている もの もある。

また、文章全体の枠組み を指定 している もの もある

いずれ も学習者の書 く 意欲 とい う点で疑問 を感 じる

また、学習者 にかな り過大 な要求 を している

もの もある

e.

各種の タスク

インター ビューやア ンケー トに よる調査 ・報告 、ス ピーチ、デ ィスカッシ ョン、デ ィベ ー トな どを諌 している ものがあ り、その中には、語学教育の方 法 として納得 で きる もの もあるが、学習者 自身の意欲、主体性 の維持 とい う 点で疑問 を感 じる もの もある

この ように見 て くる と、 さまざまな練習が工夫 されてはいる ものの、形式 を 追 うことに注意が向 きその練習の 目的が必ず しも明確 に意識 されていない場合 や、学習者 を援助 し励 ます はずの ものがかえって学習者 に とまどいを与 える結 果 となっている場合 も少 な くない ように思 われる

3.

中級後 期 ・上級段 階での指導 内容

それではそ もそ もこの段 階での指導では何 を意図 し、 どの ような内容 の授業 をすべ きなのだろうか。 また、それはそれ以前 の段 階 とどこか違いがあるのだ ろ うか。

学習者 の性格 ( 大学進学予備課程 の学生か、学部生 か、大学院生か、 また、

大学院生の場合、文系か、理系か、等)によって指導内容 に多少の違 いが出て

くるのは当然であるが、「 特定の 目的 をもたず学習者 の 日本語力 を総合的 に向

上 させ将来への発展 につなげることを目的 とす る 日本語教育」 では、指導の基

本的 な中身は、文型や語句 をよ り多 く学習 させ、一定の長 さの文章 を読み、書

き、聞 き、話す ことがで きるようにす ることである と言 えよう

学習者の立場

か ら言 えば、文型 ・語句 をより多 く学習 し、それを使 って、 自身の考 えを話 し

た り、苦いた りで きる ようになるこ とである

この ことは、基本的には、それ

(6)

6

中級後期 ・上級段階の指導 と教材

以前 の段 階 (初級 、中級前期 ) と変 わる ところはない。 さまざまな練 習 も、 ま た、本文 で さえ も、そのための手段 である したが って、その手段 が 目的 に照 らして適 当か どうか (手段 が一人歩 きしている ことが ないか)が常 に問 われ な ければな らない。そ して、一環 して重視 されなければな らないのは、学習者が 意欲 を もって主体的 に 日本 語学習 に取 り組め るか どうか、 とい う点 で はないか

と思 う

4.断面』 作成の 経線 と意図

F断面』作成以前 は、筆者 も、他 の多 くの 日本語教 師 と同 じように、授業 の 前 に、市販教材 や新聞 ・書物等 か らその都度教材 として使 えそ うな文章 を探 す、

とい う作業 を繰 り返 していた。 しか し、そ う した作業 に もかかわ らず実際 に本 文 として使 えそ うな教材 は意外 に少 な く、以前使用 して比較的成功 した教材 を 再 び使 うとい うこ とが次 第 に多 くな って きた。

また、筆者が前任校 (東京大学留学生セ ンター)で 「日本事情 日本文化」 の クラス (大学院生対象) を担 当 していた ころ、岩波 ジュニ ア新書の F新版現代 社会100 面相』 (鎌 田 慧,1993)を教材化 し使 用 していたが、全体 として受講 生 に好評 であった この教材 で もテーマ に よって反応 に差が あ り、授 業 の出来不 出来 となって現 れた。

こう した経験 か ら、 この段 階の教材 として比較的成功 した もの をま とめてお くことは、筆者 自身の授 業 の準備 に とって好都 合であるばか りで な く、 この段 階の教材 のあ り方 について 日本語教 師が実践 的 に確認 しつつ議論 を深 めてい く 一つ の契 機 になるのでは ないか と考 えた。 中級後期 ・上級段 階で も、"好 ま し い"教材 を実際 に蓄積 しつつそ こか ら一定の法則性 を引 き出す ことは必 要な こ

とであろ う

この段 階の教 科書 を作成 した り出版 した りす ることにつ いては ときに疑問や 批判 もあ る その最 も大 きな、そ して、一般 的 な理 由は 「す ぐ古 くなる」 とい うこ とであ るt'。確 か にそ れは避 け られない こ とであるが 、た とえ事 実や デー タが古 くなって も、執筆者 の観点が しっか りしている ものであれば、そ こに展 開 されているこ とが らの性 格や論 旨はか な りの長期 にわた って生 き続 け、教材

として使用 に耐 えるので は ないか と思 われる

(7)

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7

5.『断面』の構成 と各部分の 内容 ・意 図

F断面』 の作 成 に当たっての筆者 の基 本的 な考 えは、① 日本 の現状 を反映 し た文章 を読 み、そ れ につい て話 し、書 く過程 を とお して 日本 語力 を総 合的 に向 上 させ る こ とがで きる教科書 、(む学習者 や コースの状況 に よ り、個 々の教材 や その中の部分 (話 す練 習書 く練 習」 な ど) を適宜取捨 選択 して使 用 で きる 教科書 、 を作成す る とい うこ とであ った。(手は、3で述べ た筆者 の基本 的 な考 えによる ものであ り、 また、(むは、多様 な学習者 (特 に大学 院生) に対応 で き る ようにす るため の方策で あ った。

以下 、全体の構 成 、お よび、それぞ れの部分 (本文、練 習等 )の内容 や意 図 につい て、具体的 に述べ る

5‑1

全 体の構成

断面』 は、全 体が

3 0

の教 材 か ら成 ってお り、 それぞれの教材 は、本文 、本 文 の 「注」、「漢字 の読 み方」、 「語句 の使 い方」、 「話す練 習」、「書 く練 習で構 成 されてい るさ らに、巻 末 に 「語句 の用例」 が ま とめて載 ってい る (見 出 し 語 は50音順 )

この ように非常 に単純 な構 成 になってお り、そ れが この教 科書の特 徴 の一つ とも言 えるであろ うこの段 階では、教科書 は、総 合的 な 日本語力 をつ け よう とす る場 合 に最低 限必 要 となる ことが ら (教 師 に共通 の必 要事項 ) についての み配慮 す れば よ く、その他 の練 習等 は授 業 を担 当す る教 師が必 要 に応 じて 自由 に行 えば よい、 とい うのが筆者 の考 えであ る そ の方が教 師 も創意 を発揮 しや す いの で はない だ ろ うか。 2‑3で述べ た ように、教科 書 にあ る多様 な練 習が 教 師 に も学習者 に もとまどい を与 える結果 とな っている場 合 が少 な くない。 ま た、限 られたスペ ー スに、必 要 と思 われ る こ とが らのみ を盛 り込 み、 で きるだ けむだ を省 いて教 科書 の価格 を下げ、学習者の経 済的 な負担 を軽 くしたい とい う配慮 も多少働 い ている

さらに、前述 の とお り、学習者や コー スの状 況 に よ り取捨 選択 して使 える よ うに、 とい う配慮 もな され ている

5‑2 本 文

断面』 の

3 0

の教材 は、 それぞれの本文の内容 に よ り 「生 活

住 宅

企業 と労働

教 育

高齢化社 会

環境

「国際協 力」 とい う7つの分野 に便宜 的

(8)

β

中級後期 ・上級段階の指導 と教材

に分類 されている

本文のほ とんどは 日本社会の現状 とその問題点 を描 き出 し た もの となっている

出典 は、 日本経済新聞、岩波新書、岩波 ジュニア新書、

丸善 ライブラリー等 である

いずれの本文 も深い取材 にもとづ き、社会的な広 が りのあるテーマを比較的短い文章で具体的 に記述 している ( あるいは、そ う

した部分 を抜粋 している) ところに特徴がある

2‑2

で述べ た 「タイプ」か ら言 えば、( 参 ( 「日本で現在問題 になっている社会的なテーマ を扱 お うとした もの 」 ) に当たる

これ らの文章 は、筆者が

1994

9

月以降に、東京大学お よ び長崎大学で大学 院留学生お よび学部留学生 を対象 として行 った授 業で使用

し、比較的学習者の反応が よか った ( 授業中の反応や宿題の作文、 コース終了 時のアンケー ト等か ら判断) ものである

7

つのそれぞれの分野 には

2‑10

の教材が含 まれている

学習者の関心が高 ければ、同一の分野 を続 けて扱 うが、学習者の反応が期待 どお りでなければ、

す ぐに他 の分野 に移 ることもで きる

この段階の教科書では本文 は最 も重要な部分である

本文 として どの ような 文章 を選ぶかにより教科書の性格が決 まると同時 に、授業の展開 も方向づけ ら れる

この段 階の教材 としてふ さわ しい文章 を選択 しようとする際には、その選択 の視点 として、技術的な面 と内容的な面 とがある。技術的な面 としては、比較 的短い文章の中に一定のまとま りがあ り、かつ、具体的な事実が盛 り込 まれて いることが重要である

また、内容的な面 としては、 日本社会の現状 を反映 し ている (日本で 日本語 を学ぶ留学生 に とって 日本社会の現状 は最 も身近で関心 のあるテーマである) と同時 に学習者が 自らの ( 例 えば、 自国の)問題 と関連 させて とらえることがで きるものが好 ましい。 さらに、学習者 自身がその専攻 のいかんにかかわ らず意見 ・感想等 を持 てる ものでなければならない。いずれ も、与 え られた教材 を学習者が主体的に自らの もの として受 け止め、授業 に参 加 し、意見 ・感想等 を述べ、それをとお して 自身の 日本語力 を高めてい くこと

を可能にす るために必要な条件である

さらに、教師 と学習者 とがその多様 な バ ックグラウン ドを生か してそれぞれの角度か ら教材のテーマに取 り組み、そ の中か ら互いに共感が生 まれて くるようなものであれば、それは最 も望 ましい 教材である

それは、内容の面で も日本語の面で も、発展性のある教材である

と言 えよう5 ) 。

「 断面』 にある教材の中には多少欠陥のある教材 も含 まれている ( 特 に日本

(9)

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9

語の面で)が、全体 としては、上記の視点 をかな りの程度満 た している と思 う

2‑2

で述べ た 「 学習者 を受 け身に して しまう

とい う欠陥は一般的 にはあ ま り見 られない。

5‑3

本 文の 「 注」

本文のあ とには、本文 に出て きた語句 について簡単 な 「 注」 をつけている

この 「 注」 は、学習者の辞書 に出ていない可能性 のある語句 について、その大 体の意味 ない しは理解のための糸口を示す ことを意図 した もので、意味 を完全 にとらえさせることを意図 した ものではない。外来語 も同様の趣 旨で取 り上げ てお り、原語のスペ リングを示すだけに とどめているもの も少な くない。いず れの 「 注」 も、学習者が予習 をする際の手がか りを与えるための補助的なもの である。

ちなみに、 この 「 注」 をつけるとい う作業にはかな り難 しい面がある

それ は、「 注」 をつける必要のある語句の中には、それが本来持 っている意味 とは やや異なるニュアンスで使 われている ものがある ( 例えば、「 行革 」 「リス トラ」

など。)か らである

外来語や " 和製英語" も、そのニュアンスまで示す こと はなかなか難 しい。そ うした点の説明は、今回は、教授者 に任せ るはかなかっ た。

5‑4

「 漢字の読み方」

「 漢字の読み方

には、F日本語能力試験出題基準』 ( 国際交流基金 ・日本国 際教育協会)の 4 級お よび 3 級 の 「 漢字表 」 「 語嚢表」の双方 に含 まれている

もの以外の ものを挙げ、その漢字の読み方がル ビで示 されている

漢字 を本文か ら切 り離 して取 り上 げ るので な く、「 語句 の使 い方」 の文章 ( 本文 と同文)部分 に直接 ル ビを振 るな どの方法 のほ うが学習者 には "親切"

か もしれないが、学習者にどこまで " 親切 にす る"べ きかは検討の余地がある であろう

実際 には、現在の方法で も特 に不都合はない。

5‑5

「 語句の使い方」 および 「語句の 用例 」

「 語句の使い方」では、本文 をそのまま縮小 して載せ、用法について注意が

必要 と思われる語句 に下線 をほ どこ し、各頁の右側 に、参照すべ き 「 語句の用

例」 ( 巻末)の見出 し語が掲げてある 。 「 語句の用例」 には、見出 し語 を

50音順

(10)

1 0

に並べ文例 を載せた。

中級後期 ・上級段階の指導 と教材

5‑5

‑ 1 語句の使い方

ここでは二つの面か ら語句 を取 り上げている

一つは、本文 を読 む際に意味 の理解 を助 ける とい う面であ り、 もう一つは、当該語句の使用 を助 ける という 面である

取 り上げた語句 によって、その両者 を意図 した もの もあれば、片方 のみ を意図 した もの もある

意味的 には比較的容易 と思 われる語句 もあえて取 り上げているのは、正確 な使用 を助 けるとい う面 を強 く意識 したためである

主 として意味 の理解 を助 ける とい う面か ら取 り上げている語句 には、 例 えば、

「 あや しい ( 実行するか どうか怪 しい )

「うらめ ( 英語が うまいのが裏 目に出 て )

おす ( 病気 をお して )

「ことはない (日本人の生活習慣 に合わせ ること はない )

ずるずる ( ず るずる と遅 くなって しまった )

つけ ( 不摂生 を重ね

て きたっけが回って きた

)

「てこ ( 建設工事 をてこに して)

の きなみ ( 企業

が軒並み倒産 している)

は じめて ( 子 どもを持 っては じめて親の気持 ちが分 かった )

「まだ ( 納豆 よ りさしみのほうが まだいい ) 」 な どがある

これ らの 語句 は意味 を一般的 ・抽象的に説明するより複数の ( 多いほうが よい)文例 を 示すほうがはるかに学習者 には助 けになる

文例 だけで学習者 に理解 させるこ

とがで きれば、それが理想であろう。

主 として使用 を助 ける とい う面か ら取 り上げている語句 には、例 えば、「し める ( 人口の約 3 0% を占めている

)

かず しれない ( 楽 しい思い出は数知れな い )

かん しん ( ワール ドカップに関心がある)

ず (日本語が分か らず、 と て も苦労 した)

ぜ んてい ( 英語が分かることを前提 に指導が行われる)

お り ( 急速 に人口が増加 してお り、生活環境 は非常 に悪化 している)

「という

( 若い うちに結婚 したい とい う考 えはない)

「なん ( 何年か前 にアメリカに行 った ことがある )

「のぞ く (リリア ンさん を除いて、みんな中国人だった ) 」

「のではないか ( 不況は さらに深刻化するのではないか) 」 な どがある

「しめ

ぜ んてい

は主 として文の構造

(

「‑ば〜の‑% を占めている

「‑に占

め る〜の割合 は

〜%」「

‑の中で‑が 占める割合は

〜%

、「

‑ ことを前提 とし

「‑ことを前提 に

「〜を前提 とした

〜」

な ど。) を示す ことを目的 と している

かず しれない

のぞ く」 は

、「

‑は数知れない

「〜は数知れずあ

る」

、「

‑を除いて

「〜を除 く

「‑を除いた

‑」

といった言い回 しを具体

的 な文例で示す ことを目的 としている

「てお り

「のではないか」 は、

(11)

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2001

年 ll

レポー ト ・論文等 で よ く使 われるこれ らの表現 を学習者 に意識 させ て、学習者 が使 え る よ うに したい とい う趣 旨で取 り上 げ て い る「か ん しん「とい う」

「なん」 は学習者 の一般 的 な誤 用 (*ワール ドカ ップを関心 してい る

「 * 結婚

したいの考 え*何年前 にアメリカに行 った こ とがある」 な ど) に配慮 した も のであ る

上の例 にある 「てお り「とい う「のではないか」 な どは通常 の国語辞典 で は見出 し語 としては扱 われていないが 、学習者 の便宜 を考 えて一つの語句 とし て扱 っている

' ミ ) 。

このほか に、例 えば、「ず にい られない (電話 をかけず にい ら れない)「それが (私 は母 国で 日本語 を学 んでいた ときは 日本語が とて も苦手 だった それが、 日本へ来 てか らは、 日本語 の勉 強が楽 しくな り、 自信 も持 て る ようになった「それ も (雪 の影響 で飛行 機 の出発 が遅 れた。 それ も5時 間 もだ)「て まで (不正 なこ とを して まで、お金 を得 たい とは思 わ ない)「のが (日本へ 来 た ころは 日本語が全然分か らなか ったのが、今 は 日本語 で専 門の発 表がで きるまで になった)な ども同様 である

なお、前述の とお り、教科書全体 を取捨選択 して使 う場合や、多様 な学習者 の個 々の状況へ の対応 に配慮 して、同 じ語句 をそれが出て くるたびに繰 り返 し 取 り上 げている

5‑5‑2

語句の 用例

巻末 の 「語句 の用例」で は、見出 し語 を50音順 に並べ 、それぞれの見 出 し語 について通常 3つ以上の文例 を挙げている また、それ らの文例 の中の当該見 出 し語 お よびその使 用 にかかわる要素 に下線 をほ どこ している 見出 し語の数 277、文例 の総数 は1,006である。

50音順 に並べ たのは、教科書 を取捨 選択 して使用す る場合、当該語句が初 出 か否か、既 出の場 合は何課 に出て きたか、等 を教 師 も学習者 も意識せず いつで も簡単 に文例 を引 き出す こ とがで きて好都合 だか らであ る 学習者が大学院生 な どの場合、研究 で忙 しか った りして毎 回 きちん と出席す るのが難 しい とい う 事情があ る そ う した学習者が どんなに多 くて も、50音順 になっていれば、教 師 も学習者 も問題 な く対応 で きる 実際、 この方式 は、 この教科書作成 まで筆 者が大学 院生や学部生対象 の授 業のための教材 の作成 に当た って とって きたや

り方であ り、文例 もその中で徐 々に蓄積 して きた もの (の一部)であ る

各文例 の下線 は、当該語句 を使 った場合の、文の構造 的 な面、語句 の形態 的

(12)

72

中級後期 ・上級段階の指導 と教材

な面、語句の呼応の面、誤用の面等 に、学習者 の注意を向けたい とい う趣 旨で ほ どこしてある

筆者は以前、初級 ・中級用の用例集 を作成 したことがあ り7 ) 、 そこに も同様の趣 旨で文例 を挙げたが、 下線等がほどこされていなか ったため、

学習者 には問題点が とらえに くい とい う欠点があった。当該語句 を使用 した場 合 に文の どの部分が重要 な要素か とい う点 を厳密 に検証す るのはなかなか困難 なことであるが、学習者の便宜 を考 え、試みに下線 をほ どこしてみた。

なお、前記の用例集では、文例の多 くは学習者が実際 に書いた ものを修正 し て取 り入れたが、今回は、ほ とんどが筆者の作例である

今後は学習者の文例 を多 く取 り入れるなどして、学習者の視点 をよ り鮮明に してい く必要がある と 考 えている

また、 この F 断面

は、筆者の予想 を越えて、現在海外で も使用

されているようだが、 日本 の事情 に詳 しくない教師が扱 う場合、意味の理解の 上で多少の困難があるか もしれないバ ' 。その点の吟味 も必 要だと考 えている

5‑6

「 話す練 習 」

「 話す練習」では、本文の内容についての質問 に答 えさせるとい う形式 をと ってお り、最後 に、本文 を読 んだ感想や意見、 さらには、それに関連 した母国 の状況 を言わせ るようになっている。

質問 ( 最後の全体的な質問 を除 く)は、いずれ も本文の中身を言わせる もの で、語句の意味や指示代名詞が指す ものを問 うた りする ものはない。すべて本 文の内容 を完全 に理解 した ことを前提 に した問いである

それぞれの質問のあ とには、「キーワー ド」 が載 ってお り、学習者 は教師の 質問に 「キーワー ド

を見 なが ら、質問 された ことに対 して事実 ( 本文の執筆 者が どう述べているか、な ど)を答 える

この 「キーワー ド」 には二つの役割がある

一つは、質問 に対する答 えの内容 に手がか りを与 える とい う役割 である

文の内容 について質問 された とき、手がか りが何 もない状態で的確 に答えるの

は母語話者で も難 しい。学習者は、当然のことなが ら、本文の中か ら該当の箇

所 を探 し、多 くの場合、その部分 を読 むことで 「 答 え」 に代 えようとする。 こ

れでは、 この 「 練習

の 目的が極めてあいまいな ものにな り、授業 は緊張感 に

欠けた もの となる

そ うか と言 って、学習者 に本文の中身の暗記 を求めるの も

非現実的なことである

「キーワー ド」 を挙げておけば、学習者は、本文の大

要 さえ把握 していれば詳細 な中身は忘 れて も、それを見 なが ら答 え られるであ

(13)

長崎大学留 学 生 セ ンター紀 要 第 9号 200

1

13

ろ う

もう一つは、「キー ワー ド」 として挙 げてある語句 ( 多 くは名詞)の使 い方 を身につけ させ る とい う役割 である

例 えば、それ らの語句が どの ような助詞 や動詞 とともに使 われるのか を意識 させ、練習 させ る

逆 に言 えば、それ らの 語句 を知 っていて も、それ らが使 われ る文の構造 や語句の呼応 を身につけてい

なければ使 えない とい うことを自覚 させ ることになる

この ように、「 話す練習

の主要 な部分 は、内容や語句 の単 なる確認ではな く、文字 どお り "話す練習" である

回答者が 自由に話せ る部分の多 くない、

いわば "コン トロール された発話"となる

ただ、質問 に対 して、多 くの場合、

文章 ( ない しは、か な り長い文)で答 える必要がある とい う点で、それ以前 の 段 階の練習 とは異 なる

こうした練習のあ と、学習者 に、本文 に関連 して母国の状況や 日本 との比較、

本文 についての感想や意見 を自由に言 わせ る

学習者は本文で学習 した語句や 言い回 しを使 って 自らの考 えを述べ る ことになる

学習者同士が質問 し合 った り反論 し合 った りもす る

学習者の背景 ( 出身地、専攻 な ど)が多様 であれば あるほ ど、議論 は盛 り上がる

「 話す練習」 は、いわば、"コン トロールされた発話" と "自由な発話 ( 会 請)"の結合であ り、基本的 には、初級 ・中級前期 と変 わる ところはない。 た だ漠然 と ( その課で学習 した語句や文型 とかかわ りな く)テーマについて話 を させ るので な く、"コン トロールされた発話"の部分があ る ことで、予習や復 習の内容 も学習者 に とって明確 なもの となる

5‑7

「 書 く練 習

「 書 く練習」 は、「 語句の使 い方」 お よび 「 語句の用例」 で取 り上 げた語句 を使 って文 を作 る練習 と、本文お よび 「 話す練習」で取 り上げた ことが らにつ いて文章 ( 小論文) を書 く練 習 とか ら成 っている

語句の練習では、その課で取 り上げた語句の うち

8

つ を選 んでいる

授業 中 に、あるいは宿題 として書かせ る場合、 この程度 の数が集中力 を保 って取 り組 め る数の限界ではないか と思 う

筆者 の場合は、短文作成用 シー トをその都度 配布 している。 これ も学習者 に きちん と取 り組 ませ るためである

各課の語句 は、他の課の 「 書 く練習

で取 り上げ られている語句 との重複が少 な くなる よ

う配慮 してある

全課 を扱 えば、「 語句 の使い方

「 語句の用例

で取 り上げた

(14)

14 中級後期 ・上級段階の指導と教材

277

の語句 の うち

21

1を練習す る ことになる その中で複 数 回取 り上 げている も のが 「か ぎ り「それが「てお り「とい う「とす る「に よる「ので はないか」 な ど17ある

同 じ教科書 を何度 か使 い、 こう した作文 を繰 り返 しさせ ている と、それ以前 の段 階での一般的 な誤 用 と同様 、学習者 に とって理解 の難 しい語句 、使 い方 の 難 しい語句 が見 えて くる 例 えば、以下の ような語句 であ る

( 1)お うお うに して

*現実はい くら厳 しくても、人々は往々にして夢をもっている。

*大陸の10月は、北から風が吹 くと、往々にして寒 くなる。

( 例

2

)けねん

*娘が12時になってもまだ帰ってこないので、両親は懸念 した。

*90歳になった祖父は衰えた体を懸念 しているようだ。

(

3

) ひいては

*小さい病気があったら、完全に治さないと、ひいては重い病気になりうる。

*いじめの問題は家庭 と学校の問題だけでなく、ひいては社会の問題です。

(4) ま して

*きのうは不運が続いた。学校で先生にしかられた。まして、うちに帰るとき雨に降 られた。

*企業は環境基準を守るだけではなく、まして、ゼロ汚染企業になるまで努力 してほ しい。

文章 (小論文) を書 く練習 は、原則 的 には、 「話す練 習」、特 にその最後 の 自 由 な話 し合 い を したあ とに取 り組 む。話 し合 う中で 自分 の考 え も形作 られ、論 点 も明確 にな り、書 く作業 に も意欲 を もって取 り組める ようになる

また、 ただ漠然 とテーマ を与 えた り文章構 成 だけを指 示 して書 かせ るので は な く、本文 に関連 した ことが らを自分 の問題 として書かせ る (自分 の国の状 況、

日本 との比較 、本文 についての意見 ・感想 な ど) ことに よ り、本文 に出て きた 語句 ・言 い回 しを主体的 に使 い 自分の ものに してい くこ とも可能 になる

こう した作文 は、筆者の場合 、すべ て宿題 と している 学生の負担が過重 に な らない ように、 また、取 り組 みが安易 にな らない ように、 テーマ (企業 と 労働」、「教育」、「高齢化社 会」、「環境」 な ど) ご とに、その全体 またはその一 部 (一つ の課 。学習者 自身が選択 ) につ いて書 かせ る 原稿 用紙 (400字詰 )

3枚 、3‑4週 間 に1回程度 であ る

(15)

長崎 大学留 学 生 セ ン ター紀 要 第 9 号 200

1

15

学習者の作文 はすべ て添削 し簡単 な コメン ト ( 内容面お よび文章構 成面) を つけて返却す る

同時 にその回の作文 に共通に現 れた問題点 をプリン トにま と めて配布 し学習者 と話 し合いなが ら修正 してい く

ここで問題点 として取 り上 げる ことが らの中心 は個 々の語句の用法ではな く、例 えば、段落の不適切 さ、

段落 と段落 とのつ なが りの不適切 さ、文 と文のつ なが りの不適切 さ、視点の移 動、引用の処理の不適切 さ、疑問表現が節 となっている場 合の処理 の不適切 さ 等、主 として文章構 成 ない しは複文の構造 にかかわる点で ある

。)0 2000

年度後 期か らは、 これ らの問題点 について、その具体例 と修正例 、それに練習問題 と 解答例 をつけた冊子

l

M ( 具体例 と練習問題 のほ とん どは過去の受講生 の ものか ら採 っている) を使用 し、上記のプリン トに関連す る部分 の練習 を授 業中に さ せている

この段 階の作文の指導では、学習者 のかかえる個 々の具体的な問題点 ( 語句 の使い方、文の構造、文章構成 など) を解決 し援助 してい くとい う側面 と、文 辛 ( 論文)の書 き方その もの を教師の側 か ら主導的 に指導 してい くとい う側面 があ る

後者 の立場 に立 った教材 は、最近かな り優 れた ものが出ているi l )が 、 前者の側面 に力点 を置 き、学習者の立場 により深 く添 った ものは少 ない ように 思 う。その点 を深 く追究 してい くことが今後の課題であろ う

6.

学習者 の反応

F 断面』 についての学習者の反応 はおおむね良好である。 コース終 了時のア ンケー トでは、例 えば、「この教科書 には三つの長所があ る

一つ は単語の勉 強がで きること、二番 目は文法の勉強がで きる こと、最後 は社会的 な知識が得 られることである 。 」 「 内容がお もしろい。扱 っている範囲が広 く、 日本 をよ く 理解 で きた。語句の量が多いのが非常 にいい。文例が役 に立つ

「日ごろの勉 学 と直接 関連が あるので、 とて も役 に立つ

。」

とい った、作成者の意図 どお り の感想が多

い。

ただ、特 に 「 話す練習」 では、学部生か大学院生かによ り、あるいはクラス によ り、 ときにかな り反応 に差が出る こともあ る

大学院生の場合、話す内容 は、 自身の 日本語力以上 に豊か な もの になるが、学部生の中には、 F 断面』で 扱 われているテーマに当初 はほ とん ど興味 を示 さない者 もいる。そ う した受講 生が クラスに何 人かい る と、「 話す練 習」 は盛 り上が りに欠 けた もの になる

ある受講生は コースの途中で、「わた しは若いので、" 高齢化社会"の ようなテ

(16)

16

中級後期 ・上級段階の指導 と教材

‑マには興味が ない。母国で こうした問題が どうなってい るのか も知 らない。 」 と述べ た。

しか し、そ う した学部生 も 1年後 には、「この 1年間に、 自分がそれ まで知 らなか ったいろいろなことを学 んだ。」 といった感想 に変 わ り、 日本語力 の向 上 も見 られた。若い学部生 には、社会的 な問題 について、 日本語教育の中で教 師が教 えてい くとい う観点 も必要 なのか もしれ ない。 また、「 話す練 習」が盛 り上が りの乏 しい もの にな りつつあ った とき、あ らか じめ担 当者 を指名 して

「 話す練 習

の最後 の部分 (自分の国の状況、 日本 との比較 、本文 についての 意見 ・感想等) を報告 させ 、その報告 について、 さらに、 ほかの受講生 に意見 を言わせ る方式 に切 り替 えた。 これ に よ り授業 はかな り活気のある もの となっ た。

7.今後の課題

今後の主 な課題 としては以下の点がある と考 えている

a. 5‑2

の 「 選択 の視点

に合 った よ りよい本文 を探 す こと

これが最 も重要 なことである

技術 的な面 で も内容的 な面で もさらには 日 本語の面で も教材 として好 ま しい もの を探 し出すのは容易 な こ とではない が、 よ り新 しい社会状況 を反映 した好 ま しい文章 を見つ け、現在 の中身 と差

し替 えてい く必 要がある と考 えている。

市販 の教科書の中には書 き下ろ しの もの もあるが、筆者 自身のわずかな経 験では、 日本語教 師による書 き下 ろ し (リライ トを含む)は、 日本語の面で の配慮がい きす ぎて、文章が平板 にな り、教材 としてはかえってつ まらない

ものになって しまうとい う印象がある

b.

「 語句の用例」 を充実 させ るこ と

語句 の使用 にかかわる さまざまな面 ( 文の構造、語句 の呼応等)に配慮 し、

よ り分か りやすい ( 海外 での使用 に も耐 える)文例 をよ り多 く載せ 、さらに、

誤用例や、それが なぜ誤用 なのか とい う説明 も載せるこ とがで きれば、学習 者 には よ り有用 な もの となるであろ う

C.

副教材 としての作文練習用教材 を充実 させ ること

5‑7

で触 れた作文練 習用の冊子 を半年間使 った ところでは、学習者 の作

文 に見 られる問題点のほ とん どは ここに含 まれる とい う印象があるが、 よ り

適切 な ( 問題点が鮮明 に表 れてい る)文章例 ない しは文例 を収集 ・編集 し、

(17)

長崎大学留 学生 セ ン ター紀 要 第

9

2001

77

副教材 と して発展 させ てい きたい と考 えてい る。

d.語句 や文型 の習得 の面 で有効 な練 習が あ れば、それ を取 り入れ る こ と 5‑1で述べ た とお り、 この F断 面』 は 「単 純 な構 成」 が特徴 の一 つ にな ってい る これ には肯定 的 な意見が あ る一方 で 、練 習 の少 な さを欠点 として 指摘 す る意見1'もあ る筆者 の考 えは上述 の とお りであ るが、 この段 階の学 習者 に とって真 に有効 な練 習 であれ ば、取 り入 れてい きたい と考 えてい る。

8.おわ Uに

断面

作 成 の意 図やその 中身、授 業 の実際等 について、他 の市販 の教材 も 視野 に入れ なが ら、その概 要 を述べ て きた。

これは筆者の ささやか な試 み にす ぎないが、 この段 階の教材 につ い て も、実 践 と研 究 の蓄積 が さ らに図 られ、その成果が広 範 な 日本語教 師の 目に触 れ る形 で公 に され、 日本 語教 師の "共 有財 産" と して ‑ 抽 象 的 な学 習者 一般 、 な い しは "あ るべ き学 習者" で は な く日本語教 師が 日々接 す る具体 的 な学習者 に

とって よ り好 ま しい もの と して ‑ 発 展 してい くこ とを期待 したい。

1)本稿 は、凡人杜主催

「 実践 講習会

」(2000819日)で筆者が話 した内容 を再 構成 し加筆 した ものである

2)筆者が参照 した教科書 ・教材集は 「参考文献」の後に掲げた。

3)ついでに言えば、スキ ミング、スキャニ ングといった観点か らの質問 もあるが、

●●●●

そ うした練習 を日本語教育の中に一般的に取 り入れることには筆者 は疑問を感 じている

読む準備訓練」でな く 「読む訓練」が必要 との見解 (駒井 (1990)) について も同様である

4)例 えば、藤原他 (1997)p.14 ここでは、そのほかに 「上級用の教授法が開発 さ れていない」 という理由 も挙げられている

5) この点 に関 し、宮原 (1997)では、教材の選択 に当たって配慮することとして 以下の点 を挙げ、 これ らの条件 を 「多 く満た していればいるほど、発展性のあ るいい教材 と言えると思 う」 と述べている (pp.96‑98)

(1

)技術 的 な側面

(∋内容が具体的に述べ られているか

(18)

18 中級後期 ・上級段階の指導と教材 (参長 さが適当であるか

③ 具体的 な事実か ら一般的 な結論への展 開 に節度があ り、内容 について議論 する余地が残 されているか

(2

)内容的な側面

(∋教材の内容 に社会的な広が りが感 じられるか (参内容 に国際性があるか

③ 内容が学生 にとって身近なものであるか (彰内容 に話題性があるか

(9学生の立場か ら見て、内容 に意外性 ない しは驚 きがあ るか (む学生の共感が期待で きるか

(∋教 師自身が関心のあるテーマであるか

ちなみ に、藤原他 (1997)では、「総合演習」 の読解教材選択 の内容面か らみた 選択基準 として、 (1)読み ごたえのある記事

、 ( 2)

情報が新鮮である記事

、 ( 3)

論 旨が明快 である記事

、 ( 4)

表現が明断であ る記事

、 ( 5)

視点 に多様性 のある 記事群

、 ( 6)

事実 と意見のバ ランスがほ どよ くとれている記事群

、 ( 7)

読後 に 考えや意見 をまとめやすい記事、が挙げ られている (pp.69‑71) また、「大事 なことは、学習者が教材 に対 して能動的 に関われる ものだ と感 じられることで あ り、その ことによって学習者が授 業 に主体的 に参加で きることである」 と述 べている (p.87)。最後のコメン トは筆者の考 えと一致 している。

また、鎌田 (1990)では、「教材 を選んだ り、作 った りする時 に心掛 けるべ き点

として、① 自然 な言語環境 を提示す る もの、(参多技能的 に使 える もの、③学習 者の興味 をか きたたす もの、④ 自然 な言語文化 を反映 した もの、6)言語伝達上、

意味 のある もの、⑥バ ラエテ ィーに富 んだ もの、⑦学習者の運用能力 レベルに あっているか、それ より少 し高いめの もの、が挙げ られている。

6) この点の扱 いは、 グループ ・ジヤマ シイ (1998)と同様 である。ただ、そ こで は取 り上げ られていない語句や用例 もある。

7)宮原 (1996)外 国人学生が 日本語で作文 を書 くための用例集 (初級 ・中級用)

(凡人社発売)

8)

この点 に関 し、宮原 (2000)では、文例理解 の困難点 を、ベ トナム人学習の場 合を例 に、報告 している。

9) よ り具体的 には、以下の点であるこれ らの詳細 については、宮原 (1998) 報告 した。

(19)

長崎大学留 学 生 セ ン ター紀 要 第 9 号 20 01 年

(1)段落の不適切 さ (手長す ぎる段落

(参段 落内の文脈の混乱

(2)段落 と段落 とのつなが りの不適切 さ (∋接続の語句の不適切 さ

(∋余分な文の混入

(3)文 と文 とのつなが りの不明確 さ一接続の語句の不適切 さ‑

(4)視点の移動 (5)文体の不統一 (6)長す ぎる文

(7)引用の処理の不適切 さ

(8)内容節や 「こと」 を伴 う節の不適切 さ

(9)疑問表現が節 となっている場合の処理の不適切 さ

( 1 0)

語句の呼応の不適切 さ

(∋原因 ・理由 を説明す る構文

②主述のね じれ、ない しは視点の移動 (参副詞の不適切 さ

(彰主体 を示す 「が」 と 「は」の不適切 さ

( l l)

副詞節 ない しは並列節 と主節 との接続の不適切 さ

①動詞の 「て」形ない しは連用中止形 による接続の不適切 さ (参条件 ・譲歩表現の不適切 さ

(彰活用の不適切 さ、ない しは語句の不足

④読点の不適切 さ

( 1 2)

文末の不適切 さ

①文末の複稚 さ

②疑問表現の形の不適切 さ

( 1 3)

類義語 ・類似表現の選択 の不適切 さ (∋意味のずれか ら来る不適切 さ

②位相差か ら来る不適切 さ

( 1 4)

内容面での問題点

具体性/比較の視点/主張

1 0)

宮原他 『留学生のための 日本語作文演習 一中上級用 ‑』 (学内試用版)

19

参照

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