企業目標と企業組織について
187企業目標と企業組織について
−ハイネンの所論を中心として−
菅家正瑞
一、序
二、組織としての企業 三、企業目標の形成過程 四、企業目標の実現過程 五、若干の吟味 六、結
一、序
いわゆる伝統的企業理論もしくは経営経済学と称せられる理論におい ては,ハイネン(Heinen,Edmund)の言を待つまでもなく,企業組織
(Unternehmungsorganisation)に対して厳格な仮定を設定することによ って,組織現象(Organisationsph云nomen)の問題を無視ないし軽視し,
そのことによって,企業者(Unternehmer)のみが企業(Unternehmung od.Unternehmen)における唯一の意思決定者(Entscheidungstriiger)
であり,それ故に「企業の目標(Ziel)」は「企業者の目標」に一致すると仮
定されていたと解することができるであろう1)。しかしこのような上人企
業という虚構(dieFiktionderEinmannunternehmung)2)」という非現実
的仮定の上に構築される企業目標に関する理論は,再検討されなければなら
ないであろう。けだし,いわゆる近代組織論3)と称される立場から,企業の
組織的側面に対して注目すべき見解が提起され,組織現象から生ずる種々の
問題が強調されているのが現状であると解されるからである。そこで企業
を組織(Organisation)として把捉するならば,組織から生ずる種々の現
象を考察することは,経営経済学
(Betrie bswirtschaf tslehre)あるいは経 営管理論
(scienceof business administration)の中心問題のひとつをなす
と解されるであろう
Oさて,われわれにとって乙こで関心があるのは,企業の組織と企業の目椋 との関連性の問題,換言すれば企業の組織現象が企業の目標に対してし可かな る影響を及ぼすのかという問題である。そこで本稿においては,ハイネンの 著書『経営経済的意思決定の基礎』
4)を中心にして,上述の問題に関する 彼の所論を検討し,そのことを介してこの問題を考察してみたい。
注 1 ) 伝統的企業理論もしくは経営経済学に対するハイネンの批判については,次を参 照されたい。
Heinen
,
E.,
Die Zielfunktion der Unternehmung,
in: Zur Thp.orie der Unternehmung, Festschrift Zum 65. Geburtstag von E. Gutenberg, Hrsg. von H. Koch,
Wiesbaden 1962,
SS. 12~14 , SS. 51~54.Derselbe
,
Grundlagen betriebswirtschaftlicher Entscheidungen. Das Zielsystem der Unternehmung,
2. Auf1age,
Wiesbaden 197 ,1 SS. 28~30, S. 19 ,1 SS. 192~193.
なお次も参照されたい。
拙稿,企業の目標体系の括造について,長崎大学経済学部創立
70周年記念論文集,
昭和
50年 ,
256頁。2) Heinen
,
E.,
Zielfunktion,
S. 53.3)
ここにいわゆる近代組織論とは,バーナード
(Barnard,
Ch. 1.)から始まっ て,サイモン
(Simon,
H.A.)やマーチ
(March,
J. G.)等によって展開さ れている組識に関する理論であって,
1JJLらの展開している理論が従来の経営学的研 究に多大な影響を及ぼしていることは周知のことであろう。なお,近代組織論
ζl関
してはたくさんの文献があるが,例えば次の文献を参照されたい。
Barnard
,
Ch.1 . ,
The Functions of the Executive,
Cambridge/Mass. 1938, 山本安次郎・田杉競・飯野春樹(共訳),
r新 訳 経 営 者 の 役 割
J,ダイヤモンド 社,昭和
43年 。
Simon
,
H. A.,
Administrative Behavior,
2.ed.,
New York 1959,松田武
企業目標と企業組織について
彦・高柳暁・二村敏子(共訳), r 経営行動~ ,ダイヤモンド社,昭和40 年 。
March,
J. G. and Simon,日.
A.,
Organizations,
New York 1958.189
雲嶋良雄(稿)
,バーナードの管理者職能論,一橋大学一括学会編,
r商学研究』
14
,昭和
46年
1頁以下。
山本安次郎・田杉競(絹), [f'バーナードの経営理論~,ダイヤモンド社,昭和 47年。
占部部美, ~近代組織論 C
1)~ ,白桃書房,昭和
49年 。
占部都美・坂下昭宣(共著), ~近代組識論 C
II)~,白桃書房,昭和 50年。
4) Heinen, E., Grundlagen betriebswirtschaftlicher Entscheidungen. Das Zielsystem der Unternehmung
,
2. Auflage,
Wiesbaden 1971 .
V g, l
Kirsch,
W.,
Gewinn und Rentabilitat,
Wiesbaden 1968,
SS. 9~15.二、組織としての企業
まずわれわれはここで,ハイネンの展開する経営経済学の特質を簡単に指 摘しておきたい。その特質を念頭におくことによって,彼の所論をより深く 理解しうると考えられるからである。彼の展開する経営経済学の第
1の特質 は,経営経済学を志思決定論
(dieEn tscheidungslehre)もしくは経営経済 的意思決定論
(die betriebswirtschaftliche Entscheidungslehre)と し て 把握することによって,それを「意思決定志向的経営経済学
(dieentschei‑ dungsorien tierte Betrie bswirtschaftslehre)J として体系化する所に見い 出される
1)。第
2の 特 質 は , 経 営 経 済 学 を 応 用 科 学 (eine angewandte Wissenschaft)として換言すれば応用経営経済学
(eineangewandte bzw.eine anwendbare Betrie bswirtschaf tslehre)として把握し,しかも「実践・
規箱的経営経済学
(einepraktisch ‑normati ve Betrie bswirischaftslehre) Jとして展開する所にある
2)ところで経営経済学を芯思決定志向的経営経済 学として体系化し,同時に実践・規範的経営経済学として展開する際に,彼 は伝統的ドイツ経営経済学の中に諸程の隣接諸科学の知識を織り込むと同時 に,最近の英米の経営学的研究の成果を積極的に取り入れている
oこのよう な「学際的協働
(interdisziplinareZusammenar beit)J を目ざす所に,そ の t i 1
3の特質を見い出すことができるであろう
3)。
さて,ハイネンによれば,企業は経営経済の具体的ー形態をなすと解され
ている的。ところで彼によれば,経営経済と組織との関辺性に関して,三つ
の類型を示すことができる
o第
lの類型は組織を完全に無視し,経営経済は
「無組織的経済形成体(刊o
rganisationsloses wirtschaftlichesGe bilde) Jとみなされ,乙れは,国民経済学に支配的な見解である。第
2の類型は,組 織現象を経営経済の部分面として取り上げ
r経営経済は組紋をもっ」と考 えるものである。例えば,グーテンベノレク
CGutenberg,E.) のいわゆる 処理的要素
(dispositiverFaktor)としての組織概念がこれにあてはまる が,これに対してハイネンば組紋の考察が不十分であり組織概念が狭すぎる と批判する
D第
3の類型は,経営経済に組織現象を完全に導入し r経営経 済は組織である」と考えるもので,ハイネンは乙の立場に立つ
5)。その場 合,企業は経営経済の具体的ー形態であるから,
r企業は組織である」とも 解しうるであろう
O第
3の類型を説明する場合,その出発点は芯思決定過程
(Entscheidungsprozes)である
6)。
さてハイネンによれば,企業における全ての意思決定は, 目標怠思決定
(Zielentscheidung)と手段意思決定 (Mittelentscheidung)に分類できる
D前者は企業活動を介して達成すべく努力する目標設定に関する意思決定であ
り,後者はその目標を達成するための手段に関する意思決定である
O後者に
は更に,純粋意思決定(
ech te En tscheid ung)と常規的意思決定 (Routine‑ entscheidung) 7)と が あ る が , 前 者 の み が 考 察 の 中 心 に お か れ る 。 乙 の
意思決定過程は意思形成過程
(der Prozes der Willensbildung)と芯思
遂行過程
(derProzes der Wi 1 l
ensdurchsetzung)から椛成され,前者は
更に刺激段階
(Anregungsphase)・探求段階
(Suchphase)・最適化段階
(Optimierungsphase)からなる
O刺激段階では選択問題が確認され明確に
され,探求段階では代替案
(Alternativen)と制限的事実
(diebegren‑ zenden Daten)が 発 見 さ れ 代 替 案 の 結 果 (Konsequenzen)が特定の基準 (Kriterien)に基づいて評価され,最適化段階では代替案が順序づけられて
所与の目標を最高に実現するものが選択される。これに続く意思遂行過程で
は選択された代替案が執行
(Ausfuhrung)され統制
(Kontrolle)されな
がら目標の満足的な実現
(Verwirklichung)が保証され,同時に新たな怠思決定への刺激を生み出し,新たな志思決定過程が始まるのである
8)。
企業目標と企業組識について
191意思決定過程は, 目標設定
(Zielsetzung)・情報(I
nformation)・集団
(Grゅ
pe)という三要因によって影響を受ける口それらはふゑ
(System)9〉 をなして成立し,意思決定過程の成果と活動を規定し限定するから,各々 は目標体系
(Zielsystem)・情報体系
(Informationssystem)・社会体系
(Sozialsystem)と称される意思決定限定要因
(Entscheidungsdeterminanten)をなす。目標が意思決定過程に影響を及ぼすことは明白な事実であり,その 作用は多様である。意思決定過程は目標志向的であるから, 目標は明確に 定義されていなければならない。しかし個人でさえ多くの目標をもち「内 面的対立(i
nnere Konf 1
ikte) Jもしくは「人格内的対立(i
ntrapersonale ECOIlfliltte)10〉」が生ずるのであるから,ましてや企業組織参加者の個人的
目標が企業の目標と一致することは稀であり,目標体系は,対立する個人的 目標と企業目標の体系として存在する
o意思決定過程における全活動に共通 することは,目標実現のための情報の収集と処理である
Dそれ故情報とは
「目標志向的知識
(ZweckorientiertesWissen)J と定義され,それは正確 な知識のみならず蓋然的知識をも含む。意思決定の良否は利用しうる情報 にかかっており,目標情報・刺激情報・代替案情報・統制情報といった部分 情報が集まって
J情報体系を構成する
o大企業においては多くの芯思決定が行 なわれるから,それらは分割され委設される
o従って個人的芯思決定に代わ って,集団もしくは共同志思決定
(Gruppen‑oderKollektiventscheidun‑ gen)が行なわれることになる
Oそれ故各;立思決定者は他の志思決定者の行 動を考慮しなければならない。このように集団は,参加者間の行動関辺によ って特徴づけられるから,それは社会体系とも称される
O社会体系は,集団 の合理的行動を保証せしめる規定をもち,個人的芯思決定から最適な全体志 思決定が生ずるように,参加者間の関述が制度化もしくは組織化されてい る。それ故,集団の成文的組織構造
(formaleOrganisationsstruktur)が 成立し,それは怠思決定過程の良否や参加者間の自生的関辺
(informale Beziehungen)に影響を与え,相互人格的対立(i
nterpersonale Konf 1
i‑ kte) 11)を生ぜしめるのである
このような三つの怠思決定限定要因は,決して孤立しているのではなく,む
しろそれらは相互依存的関係にあり,そのような相互依存的関係において意 思決定過程に影響を及ぼし意思決定過程を規定し限定すると解せられる
13)。
このような関係を,ハイネンは図
lのように示している
14)。
限定要因
段 階 束 リ 行
部 分 職 分 T 5 2 1 識│諮銑豪州最有利2代 替 │ 実 現 と
その結果の記│案の決疋 │執行の統市iJ 述と評価
I(意思決定活動)
I修正意思決定のための ↓
フィードパック情報
図 1 企業組織における意思決定過程の限定要因と段階
さてハイネンによれば,
rむしろ,目標体系,情報体系及び社会体系は,包 括的体系の相互依存的下位体系
(Untersystem)である
15)Jと解され,包括 的体系と称される「その上位体系
(Obe向Tstem)はみ会と定義される
16)J
のである。しかも同時に,
r企業は組織である
17)Jと解され
rそれ故に,
企業は目標志向的,情報収集一処理的社会体系である
18)Jと 定 義 さ れ る の である
oすなわち企業は,目標体系・情報体系・社会体系という下位体系か ら構成される包括的上位体系であり, しかもそれは組織であると解されるの である
Dそこでは,何よりも社会体系が企業組織の中核的体系をなしている
と解しうるであろう
19)かくして
r企業は組織である」ならば,企業の目椋に対する組織現象の
企業目標と企業組識について
193影響が分析されなければならないであろう
Dけだし,実践・規範的経営経済学 がその形成職分
(Gestalt1mgsa11fgabe〉
20〉を果たすためには「企業の目標 体系と経営の意思決定過程へのその作用に関する説明が経営の現実の関連と 広く一致しなければならない
21〉」から,そのためには「企業の組織的形成 から生ずる影響が研究の際に明確に考慮されなければならなし
122)」 か ら で ある
oその際,企業活動には人々の協力が必要であるから,社会体系の分析 が重要である
Oけだし,組織参加者
(Organisationstei 1
nehmer)の相互依 存的行動関連を企業目標の観点から調整する乙とによって,社会体系から生 ずる対立情況
(Konf1iktsituationen)を除去しなければならないからであ る
oハイネンは,企業目標に対する組織現象の作用として,二つの困難性 を指摘する。そのひとつは,組織的意思決定過程
(derorganisatorische Entscheidungsprozes)の複雑性に関する問題であり,もうひとつは企業参 加者の個人的目標観念
(dieindividuellen Zielvorstellungen)の多様性に関 する問題である
23)。
企業は協業を基礎とする生産組織体であるから,組織的意思決定過程は,
企業の全意思決定
(Gesamtentscheidung)が 人 的 物 的 に 分 割 さ れ 多 く の 部門
(Abteilungen)や職位
(Stellen)に委譲された部分意思決定
(Teil‑entscheidungen)
の統合として現われる
Oところで各組織参加者は,その 職位に応じて何らかの「行動の自由
(Handlungsfreiheit)24)J を も っ て い る。すなわち,個人もしくは部門は,ある程度創芯を生かしある限界内で独 立に怠思決定を行なうことができるのである
Dしかしそ乙にはおのずから一 定の限界があり,各組織的部分意思決定者は相互に調整されていなければな らず,そのためには各人には情報体系によってできる限り妨げなき伯報の交 換が保証されなければならないが,情報内容が受信者にとって彼の芯思決定 の前提であれば,そ乙に権威関述
(Autoritatsbeziehungen)が成立し,上位 下位関係という階図形態
(dieForm einer Hierarchie)で組織が椛成され
ることになるのである
25)。
このような組織における立思決定過程としては,時間的要因によって同時
的立思決定過程
(simu1 t
ane Entscheidungsprozesse)と順次的立思決定
過 程 (
sukzessi ve En tscheid ungsprozesse)とが区別される
D前者におい ては,企業の活動パラメーターの全てが,それらの相互依存性を考慮した上 で,同時に決定される
26) D後者においては,部分意思決定が時間的に順序 づけられて段階的に行なわれ,循環的適応過程をへて最適化がもたらされ る。更に,組織的意思決定過程は,意思決定問題の組織単位への集中皮によ って,集権的意思決定過程
(zentralisierte Entscheidungsprozesse)と分 権的意思決定過程
(dezentralisierte En tscheid ungsprozesse)とに分けら れる
O前者においては,全意思決定問題が一組織単位に集中し,後者におい ては,意思決定問題が多くの組織単位に分割される口つまり,意思決定の 権限
(Befugnisse)の委譲
(Delegation)が 行 な わ れ る
o現 実 で は , 一 部の意思決定問題がある組織単位に集権化されつつ,分権化が支配的であ る
27)口実践的観点からすれば, 同時的意思決定過程は集権的芯思決定過程 に,順次的意思決定過程は分権的意思決定過程に関連性をもっ口論理的観点 からすれば,組織的意思決定過程を最適に形成し企業目標を最適に達成する のは,同時的意思決定であり,そのためには部分意思決定の集権化が必要で ある。しかし現実では,部分意思決定は広く分権化され,順次的意思決定が支 配的である。ここから組織的意思決定の複雑性と困難性とが生ずるのであ る
o原則的には,同時的意思決定は集権化しうる一部の意思決定範囲内でし か行なうことができない。企業の意思決定領域
(Entscheidungsfeld)28)に おいて,同時的に決定しうる範囲が絶えず拡大するならば,それらの全体的 調和が計られねばならないから,そのためには「順次的計画
(Sukzessiv‑ planung)Jの方法も必要である
29)。ハイネンは,企業における組織的意思 決定過程を以上のように分析した上で,その困難性を次のように述べるので ある。「このような観点から,組織的に分割された意思決定過程の複雑性をみ るならば,現実の組織構造と,意思決定の流れの中で果たされるべき職分と が,相互に調和することが重要であると同時に困難であることが明らかにな
る30)J口
さて次に,組織参加者のもつ個人的目標観念の多様性に関する問題を取り
扱うに際して,ハイネンはまず伝統的企業理論の批判から考察を始める。け
企業目標と企業組織について
195だし,そこでは企業者のみが合理的意思決定者であり,それ以上の組織参加 者は消極的事実としてしか取り扱われず,彼らの組織的行動には極めて厳格 な仮定がなされていたからである
31) oしかしこのような企業観では,社会 体系の中で相互依存的関連にある個人的努力の多様性を十分に反映すること はできない。けだし,各組織参加者は実際の意思決定過程において決して受 動的に行動しないし,更に自己の態度
(Stellungnahmen)・価値観
(Wertu‑ngen)
・目標を組織にもちこむからである
oいわゆる近代組織論は, このよ うな現象とその結果を強く主張し,人間行動の原動力
(Antriebskraften)から個人的目標を把握する
32)。組織に参加する動機は個人によって相違す るし,何よりも非貨幣的努力
(nicht‑monetareBestrebungen)が主要な 役割を占めている
Dとのような個人的目標を組織内で実現するためには,程 々の度合の「攻撃性
(Aggressivitat)Jが必要であり,わけでも重要なのは 組織階層における地位
(Einstufung)である。企業内の全ての人間は,組 織的意思決定過程に参加するとともに,特定の「役割
(Rol 1
e)33) Jを演ず る
o組織参加者に対する役割期待
(Rollenerwartungen)が組紋にとって主 要ならば,それは尊敬と原動力にも関述している
o程々の要求をともなって いる役割を個人に委託することによって,個人的目標観念の多様性を役割期 待と一致せしめることが試みられる
34)。しかし個人的価値観に関する役割 期待と役割担当者
(Rolleninhaber)の目標との聞に大きな差異が生ずる限 り,利害対立(I
nterressenkonflikte)は必然的に生ずる
oこのように企業 組織参加者は程々の個人的目標をもって組紙的芯思決定に参加すると考える のが現実的である。それ故,組織としての企業の目標を分析する場合には,
乙の問題を念頭においてかからなければならないであろう。けだし
r目標 形成の過程におけるー述の現象はこのような事実に帰せしめうる」からであ
る35)
以上の如く企業の目標を問題とする場合には
r企業は組織である」とい
う認識から生ずる二つの問題,すなわち組織的立思決定過程の複雑性と組織
参加者の個人的目標の多様性とを考思しなければならないということをわれ
われは知るのである
36)。
さて[‑企業は組織である」ならば,企業組織の意思決定過程における「目 標体系の形成
(Bi 1
dung)Jの問題が分析されなければならない。ハイネンの言を待つまでもなく,この問題は経営経済的企業目椋論が果たすべき重要 な課題のひとつをなすのである
37) oこの問題を分析する際,ハイネンは既 述の如く「企業はその参加者が多様な個人的目標観念をもっ分権的組織であ る」という認識を念頭におきながら,次の三つの問題を研究しなければなら ないと述べている。第
1の問題は,どのような集団が目標形成過程
(Prozeβ der Zielbildung)に直接的・間接的に参加するかということであり,第2の 問題は,これらの集団がどのような方法で目椋形成過程に参加するかという ことであり,第
3の問題は,志思決定委設という現象が組織的目標体系の内 容的細分化
(Spezifizierung)とこれらの諸目標の達成の実現可能な範囲に去ら土‑)
tJf尚喜友止すふということである
3ぺ 第
lと第2の問題は,企業の目椋体系の「上位目標
(Oberziel)‑39) ‑'Jの形成に関する問題であり,第 3の問題は形成された上位目標の実現
(Realisierung)に関する問題である と解すことができるであろう。けだし,われわれが本稿で問題とするのは,
組織としての「企業の目標」であり
r企業自体の目標」であり,それ故
に,組織としての企業が,統一的全体として追求する目標の形成と実現すな
わち企業の上位目標の形成と実現こそが問題であり,企業組織参加者の個人
的目標は直接的には問題としないからである
oところでハイネンは,別の個
所で,企業の目標形成を分析する際には,第
1~乙組織的上位目標の決定,第
2~乙組織参加者への目標指定 (Zielvorgabe ),第
3~乙目標達成の制限要因
(Begrenzungsfaktoren)に関する問題を考察しなければならないと述べて
いる
40)。われわれは先に述べた企業の上位目標のキ品三白奇ら向島がこの
第
1の問題に相応し,上位目標の実現に関する問題がこの節
2第
3の問題に相応すると解す乙とができる。そこでわれわれは,乙のような観点から,ま
ず組織としての企業の目標の形成過程,換言すれば企業の上位目標の形成に
参加する集団とその影響を検討し,次に形成された上位目標の実現過程,投
言すれば目標指定と目標達成の制限要因について検討し,その上でハイネン
の所論について若干の吟味を試みることとする口
企業目標と企業組織について
197 注1)意思決定志向的経営経済学として経営経済学を体系化しようとする,彼の乙のよ
うな努力に関しては,次を参照されたい。
Heinen
,
E.,
Betriebswirtschaftslehre heute,
Wiesbaden 1966.Derselbe., Zum Wissenschaftsprogramm der entscheidungsorientierten Betriebswirtschaftslehre
,
in: ZfB,
39. Jg.,
1969,
SS. 207~220.Derselbe
,
Betriebswirtschaft1iche Kostenlehre,
Kostentheorie und Kos‑tenentscheidungen
,
3. Auf 1
age,
Wiesbaden 1970,
insbesondere S. 19,
SS. 535‑‑‑....‑537.Derselbe
,
Einfuhrung in die Betriebswirtschaftslehre,
3. Auf 1
age,
Wiesbaden 1970,溝口一雄(監訳),
r経営経済学入門~,干念書房,昭和 48年。Derselbe, Der entscheidungsorientierte Ansatz der Betriebswirtschafts‑ lehre
,
in: ZfB,
41 .
Jg.,
197 ,1 SS. 429‑‑‑....‑444.Derselbe
,
Industriebetriebslehre,
2. Auf 1
age,
Wiesbaden 1972,
insbe‑ sondere erster Teil.拙稿,前掲論文,
252頁
‑‑‑....‑253頁 。
2)
乙の点に関してほ,次を参照されたい。
Heinen
,
E.,
Einfuhrung,
insbesondere erstes Kapitel,
r経営経済学入門~,m l
章応用科学としての経営経済学。拙稿,前掲論文, 255頁~256頁。
3)
この点に関しては,次を参照されたい。
Heinen
,
E.,
a. a. 0.,
Vorwort,
zweites Kapitel und siebentes Kapitel,
,
r経営経済学入門
j,序文,第
2章及び第 7l ; f . , 訳者あとがき
2頁 。
4) Vg1 .
Heinen,
E.,
a. a. 0.,
S. 12,
W経営経済学入門~, 4頁 。
5) 6) Heinen
,
E.,
a. a. 0.,
SS.46~48 ,
S. 48, W経営経済学入門~ ,
44瓦
47頁 ,
47頁 。
7) 'm
規的意思決定に閲しては,本稿
215‑‑‑....‑216頁を参照のこと。
8) Heinen
,
E.,
Grundlagen,
SS. 18‑‑‑....‑23.Vg
1 .
derselbe,
Einfuhrung,
SS. 18~2 1, W経営経済学入門~,
12頁
‑‑‑....‑15頁 , 拙稿,前掲論文,
252頁
‑‑‑....‑254頁 。
9)
ハイネンによれば,
r体系
Jとは程々の関係が成立する諸要素の集合である,と 定読される
(Heinen,
E.,
Grundlagen,
SS. 23~24 , S. 90,
vg1 .
derselbe,
Einfuhrung,
S. 5 ,1 W径営経済学入門~, 50頁 ,
derselbe,
Grundlagen,
S. 24 Fusnote) .10)