産業組織論(企業経済論)
第6回 井上智弘
前回の復習
完全競争市場の条件 1. 取引される財・サービスが同質的である. 2. 消費者と企業の数が十分に多く,誰も価格に影響力を 及ぼせない. 3. 情報が完全である. 4. 市場への参入と市場からの退出が自由である.前回の復習
代替財と補完財: » 財Aの価格が上昇(低下)するときに,財Bの需要が増 加(減少)すれば,AとBは代替財の関係にある. » 財Cの価格が上昇(低下)するときに,財Dの需要が減 少(増加)すれば,CとDは補完財の関係にある. 正常財(上級財)と劣等財(下級財) » 所得が増加するときに需要が増加する財は正常財であ り,所得が増加するときに需要が減少する財は劣等財 である.前回の復習
代替財の価格上昇, 補完財の価格低下, 正常財の場合の所得増加 などによる需要の増加 代替財の価格低下, 補完財の価格上昇, 正常財の場合の所得 減少 などによる需要の減少 価格 P 左シフト 右シフト前回の復習
需要量が左辺にある需要関数を価格が左辺にあ る関数に変換することによってできる関数を「逆需 要関数」と呼ぶ. » 価格を P,数量を Q とするとき,需要関数が Q = 10 -(1/2)P の場合には, 逆需要関数はP = 20 - 2Q とな る.前回の復習
需要の価格弾力性は,価格が1%上昇するときに 需要量がどれだけ変化するかを表す. − = − = − = − = ∆∆ ∆ ∆ dQ dP Q P Q P Q P P P Q Q ε 価格の変化率 需要量の変化率 需要の価格弾力性( ) 需要量の変化率練習問題
逆需要関数が P = 10 - 2Q で表されるとき,P = 8 のときと P = 2 のときの需要の価格弾力性を求 めよ. P = 10 Q で表される逆需要関数と P = 7 -(1/2)Q で表される逆需要関数の交点は,P = 4, Q = 6 である.この点での両方の逆需要関数にお ける需要の価格弾力性を求めよ.本日の内容
ミクロ経済学の復習 » 企業の生産費用 » 企業の利潤最大化行動 » 余剰 » 完全競争市場の効率性企業の生産費用
企業がある財を生産するのに必要とするすべての 費用を総費用という. 総費用(C)は,固定費用(fixed cost, FC)と可変 費用(variable cost: VC)に分けることができる. C = FC + VC 固定費用:生産量に関係なくかかる費用 可変費用:生産量の増減に応じて変動する費用企業の生産費用
何が固定費用になるかは時間の取り方で異なる. » 機械,設備,工場などにかかる費用は短期的には固定 費用と考えられるが,長期的には固定設備や工場を新 たに設置することも売買することもできるため,時間を長 く取るほど,固定費用の多くは可変費用になる. » 固定費用が存在するような期間を短期,固定費用が存 在しなくなるほどの期間を長期という.企業の生産費用
限界費用(marginal cost: MC)
» 追加的に生産物を1単位生産するのにかかる費用. » 総費用 ,生産量 のとき, となる.
平均費用(average cost: AC)
» 生産量1単位当たりの総費用.
» となる.
平均可変費用(average variable cost: AVC)
» 生産量1単位当たりの可変費用. » となる. dq dC MC = C q q C AC = q VC AVC =
企業の生産費用
典型的な短期の総費用曲線(C) » 平均費用(AC)は,原点と総費用曲線上の点を結んだ 線の傾きで表される. 生産量が q1 まではACは逓減し,生産量が q1 を超えるとAC は逓増する. ACは q1 で最小になり,そのとき,AC=MC となる. 生産量が q1 よりも小さいときは AC>MC であり,q1 よりも大き いときは AC<MC となる.A C q AC FC 総費用曲線の傾き = MC C
企業の生産費用
» 平均可変費用(AVC)は,q = 0 のときの総費用曲線の 点(=FCの値)と総費用曲線上の点を結んだ線の傾き となる. 生産量が q2 まではAVCは逓減し,生産量が q2 を超えると AVCは逓増する. AVCは q2 で最小になり,そのとき,AVC=MC となる.D B C q AC FC AVC 総費用曲線の傾き = MC C A
P, AC, AVC, MC
AC AVC
企業の生産費用
特殊なケース » 平均費用一定(左図)と平均費用逓減(右図) AC, MC AC=MC FC=0 で MC が一定 AC MC AC が逓減し続ける AC, MC練習問題
総費用関数が C = q3 - 30q2 + 400q + 4000 で 表されるとする(q:生産量). ① 固定費用(FC)を求めよ. ② 可変費用(VC)を求めよ. ③ 平均費用(AC)を求めよ. ④ 平均可変費用(AVC)を求めよ. ⑤ 限界費用(MC)を求めよ.企業の利潤最大化行動
企業は利潤を最大にするように生産量を決定する.
利潤=収入-総費用=価格×生産量-総費用
企業の利潤最大化行動
完全競争市場では個々の企業の生産量が市場に 与える影響は無視できるため,個々の企業は所与 の市場価格で生産量を決定する. → 企業の生産量の変化は価格を変化させない. » 生産量を追加的に1単位増やすときの収入(=限界収 入(marginal revenue: MR))は価格である. → 限界収入(MR)=価格(P)企業の利潤最大化行動
生産量を追加的に1単位増やすときの費用は限界 費用(MC)である. P>MC のときには,生産量を増やすことで利潤は 増加する(P - MC>0). P<MC のときには,生産量を減らすことで利潤は 増加する(P - MC<0). P=MC のときの生産量が利潤を最大にする.企業の利潤最大化行動
利潤最大化の条件は,微分を使って求めることが できる. 利潤関数(π)を生産量(q)で微分すると, 利潤が最大になる生産量では微分した式=0とな る.(
)
dq dC P dq dC q P dq d = × × 0 − = − 1 π dC P dC P d 0 → = = − = π企業の利潤最大化行動
完全競争市場では,企業は価格と限界費用が等 しくなるように生産量を決定する. → 限界費用曲線が供給曲線となる. ただし,限界費用曲線のすべてが供給曲線となる わけではない. » 財の価格が低ければ,生産をやめてしまうということもあ る.企業の利潤最大化行動
企業はどのような状況になれば生産活動をやめる のか. 利潤がゼロとなるのは P=AC となる点A. » π= P×q - C = P×q - AC×q = (P - AC)×q » この点を損益分岐点という. » P = MC より,この点では,AC = MC となる. » 価格が損益分岐点の価格(P1)よりも高ければ,企業は企業の利潤最大化行動
P1 P2 q1 q2 P, AC, AVC, MC q MC AC AVC A B 損益分岐点 O企業の利潤最大化行動
短期的には,価格が損益分岐点の価格(P1)より低 下するだけでは,生産活動をやめることはない. 価格が平均可変費用以上である限り(P≧AVC), 生産活動を続ける. » 生産活動をやめると固定費用分の赤字が生じるが,生 産活動を続けると可変費用のすべてと固定費用の一部 を回収することができるため,生産し続けることで赤字が 小さくなる.企業の利潤最大化行動
価格と平均可変費用が等しくなる点を操業停止点 という. P = MC より,この点では,AVC = MC となる. 価格が操業停止点の価格(P2)よりも低くなると,企 業は生産活動をやめる. 短期の供給曲線は,MC曲線のうち,AVC曲線より も上の部分である(点Bから上の部分).
企業の利潤最大化行動
P1 P2 P, AC, AVC, MC MC AC AVC A B 損益分岐点 操業停止点企業の利潤最大化行動
個別企業の供給曲線は,限界費用曲線のうち,限 界費用が平均可変費用よりも高くなる部分となる. 個別企業の供給量の合計が市場全体の供給量に なるため,市場の供給曲線は個別企業の供給曲 線を水平に合計したものになる.企業の利潤最大化行動
Q P
練習問題
企業の短期総費用関数が
C = q3 - 30q2 + 400q + 4000
で表されるとする(q:生産量).このときの操業停止 点の価格を求めよ.