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The Process of Restructuring Local Resources with Development of Beer Tourism in Sydney Metropolis, Australia

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(1)

シドニー大都市圏のビールツーリズムの発展にみる 地域資源の再編プロセス

The Process of Restructuring Local Resources with Development of Beer Tourism in Sydney Metropolis, Australia

菊地 俊夫 ・飯塚 遼 **

Toshio Kikuchi Ryo Iizuka

I.はじめに

ここ

10

年来の世界的なクラフトビールの流行は, 段の生活における消費者の嗜好のみならず,非日常空 間におけるツーリズムの対象も変化させてきた。従来,

単なる食事の際の飲み物や,酩酊するための致酔飲料 といったツーリズムにおける付随的な対象であったビ ールが,特定のブルワリーやパブカフェなどを訪問し てビールを味わうなど,一部の観光者にとっては主要 なツーリズムの対象となってきている(

Bujdosó and Szűcs 2012; Rogerson and Collins 2015; Rogerson 2016;

Alonso and Alexander 2017

。このように,ビールの醸 造工程を学ぶことや体験すること,あるいは特別なビ ールを味わうことを目的としてブルワリーやビール博 物館,ビールフェスティバルなどを訪れるツーリズム はビールツーリズムとされ,フードツーリズムの一形 態とみなされる(

Plummer et al. 2005; Everett 2016

。現 在のビールツーリズムは,人びとの「クラフト」なも のに対する嗜好やオルタナティブなツーリズムに対す

る需要に後押しされて展開してきており,クラフトビ ール産業にとっても顧客をつかみ,経営の持続性をも たらすものである。

ビールツーリズムに関する学術的研究は,日本にお いてはまだ未成熟の分野であるが,海外では観光学の 分野における研究の数が増加しており,研究の蓄積が 多く見られるようになっている(

Alonso and Alexander 2017

ビールツーリズムに関する研究黎明期の代表的 な研究として,

Ryan Plummer

らによるカナダのウォー タールー=ウェリントン地域を事例とした一連の研究 がある(

Plummer

ほか

2005; Plummer

ほか

2006

Plummer

ほか(

2005

)においては,ビールツーリズム

に参加する観光者の属性に着目し,若者男子が観光者 の中心であることが明らかにされた。一方

Plummer

か(

2006

)は,地域の官民が一体となったビールツー リズムの取り組みである「エール・トレイル」を取り 上げ,取り組みに参加するアクターの変化についてラ イフサイクルモデルを援用して考察した。

その後,ビールツーリズムに関する研究はカナダや アメリカオーストラリアなどの新大陸の国々,いわば クラフトビール・ブーム以降のビール醸造新興国にお いて研究が進められてきた。

Alonso

2011

)は,アメ リカ・アラバマ州を事例としてアルコール関連法の改 摘 要

本研究はシドニー大都市圏を対象としてクラフトビール文化の展開と,それを対象とするビール ツーリズムの空間的広がりに関連して地域資源の再編プロセスを考察することを目的としている。

シドニー大都市圏のビールツーリズムは面的に展開する都市中心タイプと,線的に展開する都市郊 外タイプとに大別することができる。都市中心タイプにおいては,都市観光としてばらばらで捉え どころがなかった観光の施設やアトラクションを,ブルワリーを核にビールツーリズムとしてまと めており,都市域の地域資源の再編がなされていた。一方,都市郊外タイプにおいては荒廃化した 地域に観光者の動線をもたらすことにより,地域の活性化が図られることにより,地域資源の再編 が進行していた。

*

首都大学東京大学院都市環境科学研究科観光科学域

192-0397

東京都八王子市南大沢

1-1

9

号館)

e-mail [email protected]

**

帝京大学経済学部観光経営学科

192-0397

東京都八王子市大塚

359

e-mail [email protected]

(2)

正がブルワリーや醸造可能なスタイルの増加につなが り,ビールツーリズムの発展を後押していることを指 摘した。そのほか,クラフトビールがアメリカ・ノー スカロライナ州のルーラルツーリズムの資源となって いることを示した

Murray

Kline

2015

)や,南アフ リカにおけるビールツーリズムの発展について紹介し

Rogerson

Collins

2015

などがある。

Slocum

2016

は,アメリカ・バージニア州ラウダン郡を対象として ツーリズムトレイルにおけるクラフトビールの重要性 について考察している。また新大陸における研究では ないものの,

Iizuka

Kikuchi

2016

)がベルギー・西 フランデレン州の農村を対象として伝統的なビール醸 造文化やルーラリティを背景とするフードツーリズム の持続性について考証している。

このようにビールツーリズムに関する研究は,主に ビールトレイルなどの特定の地域全体に関してのビー ルツーリズムの取り組みについて捉えられてきた。し かし,個々のブルワリーとその周辺の観光対象との関 係性や,それを踏まえたビールツーリズムの空間的広 がりと領域性についてはあまり検討されていない。そ こで,本研究は近年のクラフトビール文化の発展が著 しいシドニー大都市圏を対象としてクラフトビール文 化の展開と,それを対象とするビールツーリズムの空 間的広がりに関連した地域資源の再編プロセスついて 考察することを目的とした。研究方法としては,ビー ル醸造に関する各種統計資料や報告書,ホームページ などの文献調査と,ブルワリーでの聞き取りおよび参 与観察にもとづいて分析を行った。

Ⅱ.オーストラリアにおけるビール産業のグロー バリゼーションとローカリゼーション

オーストラリアのビールはイギリス人の入植ととも に持ち込まれ,多くのブルワリーによって生産される ようになった。これらのビールブルワリーは地域との 結びつきを強くしており,そのことは現在でも人びと のビールの好みに影響を与えている。例えば,多くの 人びとはビクトリア州のビールをビクトリアビターと 認識し,ビクトリア州を代表するローカルブランドの ビールとして愛飲している。同様に,オーストラリア 人はスワンをパースの,フォーエックス(

XXXX

)を ブリスベンのビールとして認識し,それぞれ愛飲して きた。このことは,ナショナルブランドのビールが多 くの人びとに愛飲されている日本と大きく異なってい

る。このようにビール醸造が地域と結びつきが強いの は,ビールの醸造や販売が地域の法律制度に基づいて 行われていたことと,ビールの商圏が未整備なインフ ラストラクチャーにより限定されていたためであった。

オーストラリアビールガイドと

ABS

統計書によれ ば,イギリス人の入植以来,多くのオーストラリア人 によって愛飲されてきたビールは国内で最も飲まれて いるアルコール飲料であり,ビールの消費額はアルコ ール総消費額

145.5

億オーストラリアドル(

2016

年)

の約

40

%を占めていた。しかし,アルコール飲料に占 めるビールの消費額の割合は

1960

年代の約

70

%と比 較すると,大きく減少しており,最近の

10

年間におい てもビール消費の減少傾向は

2006

年のビール消費の 割合

45

%と比較しても明らかである。このようなビー ル消費の減少傾向のなかで,

2000

年以降にクラフトビ ールと呼ばれる地ビールが急速に発展してきた。クラ フトビールの消費額は,大手ブルワリーのビールの消 費額が伸び悩むなか,毎年約

10

%ずつ増加し,

2017

年には

13

億オーストラリアドルに達した。オーストラ リアでは大手ブルワリー

3

社(

Lion Nathan, Carlton &

United Breweries, Coopers

)以外で醸造されたビールが クラフトビールとして認知され,地域との結びつきが さらに強く,それぞれ独特の技術やこだわりをもって ビールを醸造している。

オーストラリアにおけるクラフトビールのブルワリ ー数を州別に示した表

1

によれば,クラフトビールの ブルワリーは

2014

年の

267

か所から

2019

年の

659

所と急増しており,その増減率は約

147

%に及んでい る。このことからも,オーストラリアにおけるクラフ トビールのブームと発展が読み取ることができる。

2014

年における州別のクラフトビールの分布では,ビ クトリア州とニューサウスウェールズ州がそれぞれ

83

か所と

75

か所と卓越して多く,その傾向は

2019

においても変わりない。

2019

年では,クラフトビール のブルワリーはニューサウスウェールズ州に

187

か所 と最も多く立地し,次いで僅差であるが,ビクトリア 州の

183

か所であった。これら

2

つの州以外ではクイ ーンズランド州(

98

か所)と西オーストラリア州(

77

か所)で多く立地していたが,上位

2

つの州と比較す ると,ブルワリー数は半分ないし半分以下である。オ ーストラリアビールガイドによれば、このようなクラ フトビールの分布は大手醸造メーカーのビール消費量 とほぼ一致しており,ビール消費の伝統と量の多い州 にクラフトビールのブルワリーが多く立地していた。

クラフトビールのブルワリー数をビクトリア州とニ

(3)

ューサウスウェールズ州で比較すると,

2018

年までは ビクトリア州で多く立地していたが,

2014

年以降,そ の差が徐々につまり,

2019

年にはニューサウスウェー ルズ州が逆転した。このことは,ニューサウスウェー ルズ州,特にビール消費人口の多いシドニー大都市圏 のビールツーリズムの発展と無関係ではない。オース トラリアビールガイドによれば、

2019

年現在,シドニ ー大都市圏にはクラフトビールのブルワリーがニュー サウスウェールズ州のそれの約

70

%に当たる

129

か所 立地している。シドニー大都市圏にクラフトビールの ブルワリーが多く立地するのは,ビール消費人口が潜 在的に多いことはもちろんのこと,シドニーの都市観 光による国内外の入込客数が多いこと,あるいはクラ フトビールに関する情報の発信や拡散がしやすいこと などがあげられる。以下では,シドニー大都市圏にお けるクラフトビール醸造の発展をビールツーリズムと 関連づけて議論する。

Ⅲ.シドニー大都市圏におけるブルワリーの立地

1.

シドニーにおけるクラフトビールの勃興

シドニーにおけるクラフトビールの展開は,

1986

にブルーイングパブの

The Lord Nelson Brewery Hotel

がロックス地区で開業したことに始まるとされる。し かし,その後

2010

年代に入るまでブルワリーの増加は 低調であった(

Sammartino 2018

。その背景には,地 元大手によるラガービールに消費者の嗜好が集中して いたために新たな顧客を捉えるのが困難であったこと や,生産のみの小規模ブルワリーにとってはスケール メリットが活かせずに生産コストが多くかかってしま うことなどにより,新規参入が困難な状況にあったこ

とがある(

Deutscher, 2012

。また,穀物原料ではなく モルトエクストラクトを使用して生産するブルワリー も多く,ビールの品質や味わい自体にも問題があった ため(

Sammartino 2018

,開業してもすぐに閉業に追 い込まれるブルワリーも少なくなかった。

ところが,

2010

年代に入るとアメリカにおけるクラ フトビール・ブームの影響により,クラフトビールに 関する人びとの認知が高まったことで市場が拡大し,

ブルワリー数が大幅に増加した。

2019

年現在,シドニ ー市には

36

か所のブルワリーが立地しており,オース トラリアにおけるクラフトビールの一大拠点を築いて いる。そのシドニー市とその周辺部におけるブルワリ ーの分布を示したものが図

1

である。それによると,

ブルワリーはある程度,地域ごとにまとまりをもって 分布していることがわかる。そのようなブルワリーの 集積がみられるのは都市内部のシドニー市街地と,マ リックビルを中心とするシドニー西側の郊外地域に大 別できる。そこで,以下の節ではそれぞれの地域にお けるビールツーリズムの事例についてみていく。

1.

都市内部に立地するブルワリーとそれに関連した ビールツーリズム

1

)都市内部に立地するブルワリーの特徴

都市内部の市街地に立地するブルワリーは,主にロ ックス地区を中心に分布している。ロックス地区はイ ギリスによるオーストラリア植民の端緒となった歴史 地区であり,

19

世紀に周辺で産出される砂岩を使用し て建造された歴史的な建造物が建ち並んでいる(写真 1)。また,

CBD

や交通のノードであるサーキュラー キー,オペラハウスなどに近接していることから,シ ドニーの都市観光の中心地となっているエリアである。

1

オーストラリアにおける州別ブルワリー数の推移

Craft Beer Reviewer

データより作成)

2014年10月 2019年7月 増減率(%)

ニューサウスウェールズ 75 187 149.3

クイーンズランド 26 98 276.9

南オーストラリア 27 68 151.9

タスマニア 11 34 209.1

ビクトリア 83 183 120.5

西オーストラリア 41 77 87.8

オーストラリア首都特別地域 3 8 166.7

ノーザンテリトリー 1 4 300.0

267 659 146.8

(4)

そのため,ロックス地区はレストランやカフェも多く,

平日,休日問わず観光客でにぎわっている。そのよう な場所に立地するブルワリーの特色としては,単にビ ールだけではなく,それに合わせた料理も提供してい

るガストロノミックなブルーイングパブが多いことで ある。

2

The Lord Nelson Brewery Hotel

The Lord Nelson Brewery Hotel

は,シドニーのロック 地区に立地するシドニー周辺における最古参のブルー イングパブで,建物の所有権が現在のオーナーに移行 されたことを契機に

1986

年に開業した。

Hotel

」と名 前がついているように,ブルワリーはイギリス植民地 時代の

1842

年から営業を続けるホテル兼パブに併設 されており,建物自体はニューサウスウェールズ州遺 産(

New South Wales State Heritage Register

)にも指定さ れている。

The Lord Nelson Brewery Hotel

では,植民地時代から の歴史や雰囲気を重視し,典型的なイングリッシュ・

スタイルのエールビールを中心として醸造し,併設の

1

シドニー市とその周辺におけるブルワリーの分布

Craft Beer Reviewer

および

Independent Brewers Association

データより筆者作成。

委託醸造,ジプシーブルワー,大手傘下のブルワリーを除く)

写真

1

シドニーのロックス地区

2017

8

月筆者撮影)

(5)

パブで提供している(写真

2

2000

年代からは,ボト ルと缶のビールについては外部の醸造設備で製造する ようになり,ビールの販路が拡大した。そのため,現 在では小売りもなされ,オーストラリア国内のいたる ところの酒屋においても提供されている。パブでは

8

種類のビールがタップに繋がっており,モルトの甘さ とホップの苦みのバランスが特徴のイングリッシュ・

ビターである「

Victory Bitter

」や,ややモルトの甘さが 控えめでドライな仕上がりのイングリッシュ・ペール エール「

Trafalgar Pale Ale

,ダークチョコレートのよ うなローストモルト由来の香ばしさとクリーミーなカ ラメル様フレーバーのバランスが優れたポーター

Nelson’s Blood

」のほか,オーストラリア由来のスタ イルとしてホップのフローラル,柑橘類やパイン様の 香りが特徴のペールエールの「

Three Sheets

」など

7

類が常時提供されている。さらに,それらの主力銘柄

IPA

やセゾン,バーレーワインなど,不定期醸造の スペシャルビールが

1

種類加わる。これらのビールの 銘柄名は,すべてオーストラリアの歴史やネルソン提 督に関連する言葉や出来事からとられており,ネーミ ング自体もまた人びとを楽しませるものとなっている。

The Lord Nelson Brewery Hotel

では,ブルワリー見学 は一般には受け付けてはいないものの,ガラス越しに 醸造設備を見ることができ,昼間にはブルワーが働い ているところも見学できる。パブは定休日なく週

7

間ランチから営業している。

1

階がスタンディングで も楽しめるバーに,

2

階がレストランになっており,

1

階ではポークパイやフィッシュアンドチップスなどの 典型的なパブフードが提供され,

2

階では季節のシー フード料理やステーキなどのガストロノミックなオー ストラリア料理が供される。このように,さまざまな シーンや用途に合わせた利用ができるようになってお

り,庶民的なパブとしての性格とガストロ・パブとし ての機能も兼ね備えているといえる。客層としては,

CBD

の近くに立地していることに加え,旅行ガイドブ ックやインターネットの旅行情報サイトで紹介されて いるため,地元の人びとのみならず多くの観光客も来 店している。

3

Endeavour Brewing Co.

Endeavour Brewing Co.

はロックス地区の中心部に立 地する

19

世紀のパブを改装したブルワリーである。

Endeavour Brewing Co.

は,ビールにオーストラリア産 の原料を使用することにこだわっており,モルトとホ ップは農家から直接調達している。そのため,新鮮な 原料を手に入れることができるだけではなく,コスト 削減にもなっている。販路としてはパブでの提供のほ か,インターネットでの販売に加えて,ニューサウス ウェールズ州を中心とするパブや酒屋においても提供 されている。

パブのサーバーのタップ数は

12

で,典型的なピルス ナーをベースにオーストラリア由来の

Victoria Secret

種のホップを使用しトロピカルフルーツ様の香りを強 調した「

Brightside Lager

Galaxy

種のホップを使用し シトラス,トロピカルフルーツ様の香りが特徴のオー ストラリアン・ペールエールの「

Rockstar Pale Ale

さらに

Galaxy

種ホップを強調し,モルトの甘味とボデ

ィを抑えた「

Hoppy Days XPA

,ホップを控えめにし,

モルトの甘味をやや強調した「

Growers Golden Ale

Galaxy

種と

Ella

種のホップでトロピカルフルーツ様の

香りを

Victoria Secret

種のホップで苦みを強調させた

IPA

の「

Stacked IPA

」の

5

種類がレギュラービールと して常時提供されている。そのほかの

3

本には

Endeavour Brewing Co.

以外のブルワリーで醸造された ゲストビールを含むスペシャルビールが,もう

3

本に はニューサウスウェールズ州のワインとサイダーが繋 り,さらに残りの

1

本にはカクテルとなっている。ビ ールだけでなくワインやサイダー,カクテルをケグで 提供していることは,飲料提供の時流に乗っているこ とのアピールとなっている。また,顧客層の幅を広げ ることにもつながっている。

The Lord Nelson Brewery Hotel

と同じくブルワリー は見学を受け入れていないが,カウンターの後ろに醸 造タンクが並んでおり,醸造の様子を見ることができ る。パブにおける食事の提供は,クラフトビールのお つまみとして人気のあるスモーク肉を自家製提供して いるほか,サンドイッチやハンバーガー,パニーニな 写真

2 The Lord Nelson Brewery Hotel

のバー

2018

11

月筆者撮影)

(6)

どを中心に提供している。また,ベジタリアンやグル テン・フリー,デイリー・フリーに対応した食事が充 実していることも特色である。いずれにせよ,パブで は近年のファッションに合わせたモダンなパブフード を提供しており,観光客のみならず地元の若者の人気 も集めている。

3

.都市郊外に立地するブルワリーとそれに関連する ビールツーリズム

1

)都市郊外に立地するブルワリーの特徴

都市郊外に立地するブルワリーの集積は,シドニー の中心市街の西郊,インナーウエスト市のマリックビ ル地区にみられる(写真

3

。マリックビル地区は,

19

世紀より豪商の館や庭園が建ち並ぶ高級住宅地であっ たが,現在では都市化により一般的な郊外住宅地と自 動車修理関係のガレージや倉庫,中小工場などが建ち 並ぶ軽工業地帯となっている。また,そのような軽工 業に従事する移民もマリックビル地区に多く居住して おり,国際色豊かな地域でもある。その一方で,近年 ではアーティストや流行に敏感な若者たちにも人気の 地域となっており,お洒落なカフェやレストランも増 えているなどジェントリフィケーションも進行してい る。

そのような時流に合わせるようにブルワリーの開業 が相次ぎ,

2012

年に

Young Henrys

が開業して以来,

2013

年には

Batch Brewing Co.

が,

2014

年には

Rocks

Brewing Co

が開業している。さらに,その後もブルワ

リーが増え続け,

2019

年現在でマリックビル地区には

12

軒のブルワリーが立地している。

マリックビル地区に立地するブルワリーの多くは,

軽工業地帯に集中して立地しており,倉庫やガレージ などを改装して営業している。そのことは,ブルワリ ーに適した広大な用地や建物が得やすいことや集積の 経済が働くことが立地要因としてあげられる。そのよ うにブルワリーが集積していることは,ビールツーリ ズムにとってはツーリズムの回遊性を生じさせる大き な要素となっており,より体系的なツーリズムの形態 が存在している。

2

Wildflower Brewing and Blending

Wildflower Brewing and Blending

2017

年,マリッ クビル地区に開業したブルワリーである。ブルワリー は周辺のガレージ群の景観に溶け込むように,トタン 張りのガレージでビールの醸造を行っている。また,

ブルワリーは大通りから路地に深く入り込み,一見わ かりにくい場所に立地しており,決して商売に適した 立地ではないことがわかる。このような簡素な建物と 立地は,マリックビル地区周辺のブルワリーの典型で もある。

Wildflower Brewing and Blending

のビールの特徴は野 生酵母の使用にある。一般にビールには酵母を人工的 に添加して発酵させるが,

Wildflower Brewing and

Blending

ではブルワリーの空気中に生息する,いわゆ

る「蔵付き酵母」やニューサウスウェールズ州の野草 から採取された酵母を使って発酵させる。また,同じ く空気中に生息していたり,樽に付いていたりするバ クテリアや乳酸菌などの微生物による発酵も同時に行 われるため,「ホースブランケット」(馬用の被服)と も表現される独特の香りと味わい、そして酸味を有す るサワーエールとなる。それは,場所や地域に根づい た酵母ともいえる。

Wildflower Brewing and Blending

では野生酵母由来の 風味とシャープな酸味が特徴の「

Gold

」と,酸味を抑 えて,モルトの甘みを強めた「

Amber

」の

2

種類を主 力銘柄としている。さらに,木樽でのエイジングやビ ール同士のブレンド,フルーツの漬け込みなどをする ことにより,多様なスペシャルビールを醸造している。

Wildflower Brewing and Blending

では,主力銘柄に加え て,随時醸造されているスペシャルビールをブルワリ ー内で味わうことができる。それらのスペシャルビー ルは

1

回限りの限定醸造であることも多く,地元の人 びとのみならず世界のビール愛飲家から注目されてい る(写真

4

。ブルワリーでは,随時予約制による試飲 写真

3

シドニー郊外のマリックビル地区

2018

11

月筆者撮影)

(7)

を受け入れているほか,月に

1

回ブルワリーツアーを 行っている。また,金曜日と土曜日にはブルワリーの 設備を片付け,タップルームとして開放している。タ ップルームには発酵・熟成させるための木樽が並べら れており,ブルワリーの環境下においてビールを楽し むことができる。大型の木樽であるフーデルが置かれ ていることも野生酵母を使用するブルワリーの雰囲気 を演出している。タップルームでは食事は提供してい ないものの,

Wildflower Brewing and Blending

ではシド ニーの他のブルワリーとは大きく異なるスタイルのビ ールを醸造しているため、観光客のほか、わざわざビ ールを味わいに来る地元住民が多い。

3

Sauce Brewing Co.

Sauce Brewing Co.

2017

年に開業したブルワリーで ある。

Sauce Brewing Co.

Wildflower Brewing and

Blending

と同様にトタン張りのガレージがブルワリ

ーの建物であるが,その施設は

Wildflower Brewing and

Blending

より大型になっている。その施設内に醸造設

備とカウンターを備えたタップルームが併設されてい る。また,バックヤードにはビアガーデンを有してお り,子供たちが遊ぶことのできる砂場なども設置され ており,家族連れでブルワリーを訪れることができる ファミリーフレンドリーな雰囲気を醸し出している。

ブルワリーのタップルームの営業は木曜日から日曜日 までの週

4

日で木曜日は夕方から,金曜日から日曜日 は正午から営業している。

Sauce Brewing Co.

には

12

タップあり,ニュージーラ ンドとオーストラリアのホップを使用し,トロピカル フルーツ様や柑橘類様の香りを際立たせたオーストラ

リアン・ペールエール「

Hop Sauce

,アメリカのホッ プ品種も使用して爽やかな松木様の香りも加えたアメ リカン

IPA

の「

Extra-Hop Sauce

,アルコール度数を控 えめにしたセッション

IPA

の「

Piss-weak Sauce

,ニュ ージーランド産

Motueka

種ホップによりトロピカルフ ルーツ様の香りを強調したピルスナー「

Saucy Pils

」な どのレギュラービールのほか,その時々のスペシャル ビールを提供している。

食事の提供は,木曜日にはタップルームでピザが供 されるほか,金曜日から日曜日にかけてはキッチン・

トラックをブルワリーに呼び,軽食を提供している。

これらのケータリング事業は近隣に居住する料理人や レストラン,カフェとの関係によって成り立っており,

地域に根差した経営を行っていることがわかる(写真

5

Ⅳ.シドニー大都市圏におけるビールツーリズム の発展とそのドライビングフォース

-むすびにかえて-

シドニー大都市圏におけるビールツーリズムに関連 したブルワリーの立地は都市中心市街地に立地するも のと都市郊外に立地するものとに分類することができ る。産業立地論の原則に従えば,ブルワリーは大都市 市場に近接して立地することが合理的である。それは,

ビールの原料重量よりも製品重量の方が重いからであ り,製品を市場に輸送するコストをできるだけ節約す ることが産業立地論として理にかなっているからであ る。したがって,シドニー大都市圏におけるビールツ ーリズムのブルワリーの立地は産業立地論的に理にか 写真

4 Wildflower Brewing and Blending

タップルーム

2018

11

月筆者撮影)

写真

5 Sauce Brewing Co.

のタップルーム

2018

11

月筆者撮影)

(8)

なったものになっているが,ツーリズムの立地論的に 理にかなっているかどうかは検討の余地がある。

シドニー大都市圏におけるビールツーリズムの展開 を図

2

に模式的に示した。それによれば,ビールツー リズムはブルワリーの立地を反映して都市中心タイプ と都市郊外タイプに大別できる。どちらのタイプのビ ールツーリズムもブルワリーを中心に展開しているこ とに変わりないが,ビールツーリズムにおけるブルワ リーの役割,および地域におけるビールツーリズムの 役割に大きな違いがある。

都市中心タイプのビールツーリズムでは(図

2

a

特徴的なビールを生産するブルワリーを訪れてビール の生産プロセスやビールを味わうことは重要な観光ア トラクションである。それと同様に,ブルワリーの周 辺のパブやレストラン,あるいはカフェを訪れて,訪 問したブルワリーのビールに合う食事を楽しむことも 重要な観光アトラクションになる。場合によっては,

パブやレストラン,あるいはカフェでは,訪問したブ ルワリー以外のビールに出会うこともあり,そのこと が新たなビールツーリズムの展開の契機にもなる。ま た,パブやレストラン,あるいはカフェで食事を摂る ことにより,地域の特徴的な食事や食材との出会いも 楽しむことができ,そのことが食事後の買い物行動や 都市域の街や商店街の散策の契機にもなる。観光客の 散策は街や商店街だけにととどまらず,ブルワリー周 辺の公園や博物館・美術館などの観光施設にまで及ぶ ことになる。つまり,都市中心タイプのビールツーリ ズムは,1つのブルワリーを核として周辺の観光施設

や観光アトラクションを結びつけることにより面的に 広がるパターンとして展開している。それは,ブルワ リーを中心とした1つのセットであり,1つのセット で観光者は長時間にわたって地域に滞留し楽しむこと ができることに反映されている。

他方,都市郊外タイプのビールツーリズムでは(図

2

b

,ブルワリーが核となってビールツーリズムが 展開していることに変わりないが,ブルワリーの役割 は都市中心タイプのビールツーリズムと大きく異なる。

都市郊外のブルワリーは周辺のパブやレストラン,あ るいはカフェとの結びつきはあるものの,それらの顧 客の多くは地元住民である。また,住宅地や工業地帯 に立地しているため,その他の観光資源や観光施設に 乏しい。そのため,観光者が地域に長時間滞留し楽し むことは難しい。

しかし,観光者がビールツーリズムとしてブルワリ ーを訪れ,長時間滞留して楽しむことができるのはブ ルワリー自体に大きな魅力があるためである。都市郊 外のブルワリーの多くはそこでしか味わえないような 特徴的なビールをさまざまな原料や技術で生産し,生 産する種類も多くなっている。観光者は一杯や二杯の ビールを飲むのではなく,少なくとも三杯以上のビー ルを時間をかけて飲むことになる。つまり,都市郊外 タイプのビールツーリズムでは,特徴的なビールを味 わい尽くすことがビールツーリズムの大きな目的とな っている。

また,ブルワリーが集積して立地していることも異 なる特徴をもつブルワリーを複数訪ねることが容易に

2

シドニー大都市圏におけるビールツーリズム

(9)

なり,それは観光者が地域に長時間滞留することにつ ながっている。さらに,都市郊外に立地するブルワリ ー間の距離も,歩きながら喉の渇きを引き起こしたり,

酔いを醒ましたりするのに適当な距離となって作用す る。観光者は特徴的なビールを楽しむためにブルワリ ーをいくつか訪ねて回遊するため,都市郊外タイプの ビールツーリズムは線的なパターンとして展開する。

以上に述べてきたように,シドニー大都市圏のビー ルツーリズムは面的に展開する都市中心タイプと,線 的に展開する都市郊外タイプとに大別することができ る。それぞれのタイプにおけるブルワリーの役割でも,

地域の観光の施設やアトラクションのまとめ役との都 市中心タイプと,ブルワリーの魅力や集積した立地に よって長時間滞留させようとする都市郊外タイプとの 違いがみられた。このようなビールツーリズムやブル ワリーの特徴や違いは地域にとってどのような役割を 担っているのかが最終的な議論となる。

都市中心タイプのビールツーリズムは,都市観光と してばらばらで捉えどころがなかった観光の施設やア トラクションを,ビールツーリズムやブルワリーを核 にまとめて再編し,観光者にわかりやすく楽しめる都 市観光を提供したことに大きな貢献がある。他方,都 市郊外タイプのビールツーリズムでは,多くのブルワ リーが工業地区や卸売倉庫地区に立地しており,その 周辺地域は観光と無縁であり,工場や倉庫の立地移動 により荒廃化している。そのような地域に観光客の動 線をもたらすことにより,地域の活性化を図ろうとし ているのが都市郊外タイプのビールツーリズムである。

いわば,都市郊外タイプのビールツーリズムは観光客 の動線をもたらすことにより地域の再編と活性化に貢 献しているといえる。

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参照

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