• 検索結果がありません。

Title イギリス法における物権的禁反言の展開 Author(s) 有賀, 恵美子 Citation 法律論叢, 93(2-3): 1-39 URL Rights Issue Date Text versio

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2022

シェア "Title イギリス法における物権的禁反言の展開 Author(s) 有賀, 恵美子 Citation 法律論叢, 93(2-3): 1-39 URL Rights Issue Date Text versio"

Copied!
40
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

Author(s) 有賀,恵美子

Citation 法律論叢, 93(2‑3): 1‑39

URL http://hdl.handle.net/10291/21471 Rights

Issue Date 2020‑12‑28 Text version publisher

Type Departmental Bulletin Paper DOI

       https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/

(2)

法律論叢第93巻第2・3合併号(2020.12)

【論 説】

イギリス法における物権的禁反言の展開

有  賀  恵 美 子

目 次

Ⅰ はじめに

Ⅱ 判例による物権的禁反言の展開

 1 物権的禁反言の萌芽

 2 Ramsden v Dyson (1866)―黙認型と約束型―

 3 Willmott v Barber (1880)―Fry裁判官による5要件―

 4 Lord Kingsdownの影響

 5 物権的禁反言の多様な類型と「非良心性」による統一化

 6 Yeoman’s Row Management Ltd v Cobbe (2008)―物権的禁反言の死―

 7 Thorner v Major (2009)―約束型の物権的禁反言の独自性―

Ⅲ 判例の分析

 1 物権的禁反言の類型化  2 要件①―「約束」の存在  3 要件②―約束に対する「信頼」

 4 要件③―約束を信頼した結果生じた「不利益」

 5 要件④―「非良心性」の判断  6 救済内容

Ⅳ 約束型の物権的禁反言の理論的位置づけ

 1 適用範囲―不動産限定の法理なのか―

 2 契約法との関係

Ⅴ おわりに

Ⅰ はじめに

本稿は、イギリス法における物権的禁反言(

proprietary estoppel

)―中でも特 に「約束型」の物権的禁反言―についての判例分析を行うものである。物権的禁反 言とは、後述するように、複数の異なる場面においてそれぞれ別個の機能を果たし

(3)

うるものと考えるので、その包括的な定義をすることは難しい。ここではさしあた り、広い意味での物権的禁反言は、

A

の有する不動産上の権利について、

B

がこれ を自分に権利があると信じたり、将来

A

からその権利を取得できると信頼したこ とにより不利益を被った場合に、そのような

B

の信頼を知っていたり、その信頼 を惹起した

A

に対して、自己の権利を主張することを封じて

B

の不利益について の責任を負わせる法理としておく(1)(本稿では以後、物権的禁反言による救済を 求める側を

B

、救済を求められる側を

A

と表記する。)。

物権的禁反言は、約束的禁反言(

promissory estoppel

)と同様にエクイティ上 の禁反言であるが、たとえば

A

から土地の明け渡しや立ち退きを要求された

B

が、

抗弁としてこれを主張できるのはもちろんのこと、訴訟原因として

A

に対して不 動産の権利取得をはじめとする救済を求めることができる点で約束的禁反言とは 大きく異なる(2)。このように、不動産に関して特殊な禁反言が認められているの は、不動産売買契約に関しては厳格に書面が要求されていることと関係する。イギ リスでは、不動産売買契約の成立には書面が必要であるところ、

1989

年以前に締 結された不動産売買契約については、口頭による合意であってもメモランダムが あるか、一部履行がなされていれば、例外的にその拘束力が認められていた(3)。 しかし現在は、

Law of Property (Miscellaneous Provisions) Act 1989 section2

により、常に書面が必要とされている(4)。また、相続による不動産取得について

(1) P Feltham, T Leech, P Crampin and J Winfield, Spencer Bower: Reliance-Based Estoppel, 5th edn (2017) at 1.20.

(2)イングランドとウェールズでは、約束的禁反言は訴訟原因として認められておらず、独 立した責任発生根拠として捉えられていない。約束的禁反言が訴訟原因であることを否 定した判例として、Combe v Combe [1951] 2 KB 215, 224参照。また、物権的禁反言 は、契約交渉関係にない者同士の間でも問題になりうる点、第三者に対しても効力を有 する点等が約束的禁反言とは異なる。なお、イギリスの約束的禁反言と物権的禁反言に ついて扱った邦文文献として、植田淳「イギリス法における禁反言の法理―物権的禁反 言を中心として―」神戸外大論叢47巻7号57頁(1996年)、木村義和「イギリスにお ける約束的禁反言と物権的禁反言の統合について」法と政治50巻3・4号193頁(1999 年)、物権的禁反言について詳細に検討された文献としては、木村義和「イギリス法にお ける物権的禁反言について」法と政治51巻3・4号153頁(2000年)がある。イギリス では、これらの論稿後にHouse of Lordsから物権的禁反言に関する重要な判例が2件公 表され、ここ20年で物権的禁反言に関する議論は急速に進展している。

(3) LPA1925 s40.

(4)その理由としては、①責任が引き受けられたことを明確にすること、②売主が早まった 約束をしないように、書面を要求して契約内容を慎重に考えさせること、③標準書式の

(4)

も、

Wills Act 1837 section9

によって、遺言書には被相続人の他に

2

名の証人の 署名が必要として特別な方式が要求されている。そこで、このような厳格な方式を 充たさないケースについて、物権的禁反言が契約とは別の権利取得原因として機能 しているのである。

もっとも、物権的禁反言は、不動産売買契約の厳格な方式を充たさなかった場合 の救済法理として機能するだけではない。物権的禁反言は、約束的禁反言とは異な り、契約関係にない者同士の間でも問題となる。もともと物権的禁反言は、

B

A

の所有地について、自分がその所有権ないし利用権を有していると一方的に誤信し て、その土地に改良費用を費やすなどの不利益的な行為をした場合に、

A

がその

B

の行動に気付きながらその誤解を正さなかったときに

A

の権利主張を封じて

B

に その不動産に関する権利の取得を認めるものであった(黙認型)。しかしそれ以外 にも、表示による禁反言(

estoppel by representation

)の流れを受けて、

A

B

に対して、

A

の不動産に関する権利を

B

が有していると表示し、

B

がそれを信頼し て不利益的に行動したとき(表示型)にも問題となる。そして現在では、

A

B

に 対して、

A

の不動産に関する権利譲渡を「約束」し、

B

がこの約束を信頼したこと により不利益を受けた場合に、その不利益について

A

に責任を負わせるという新 たな側面(約束型)が注目されている。判例がこのように明確に物権的禁反言を類 型化しているわけではないが、物権的禁反言は、

A

の行為態様に応じて、黙認型、

表示型、約束型の

3

つに分類することができ、それぞれの特徴に応じた要件・効果 論を設定していくべきというのが本稿の基本的な考え方である(5)

本稿では、この

3

類型の中でも特に約束型に着目して、その要件論を中心とし

利用を促すことによって紛争を防止すること、が挙げられている。R Smith, Property Law, 9th edn (2017) at 137.

(5) B McFarlane, The Law of Proprietary Estoppel, 2nd edn (2020) at 1.03 (以下、B McFarlane①).本稿の検討は、以下に挙げるMcFarlane教授の一連の著作に多く依拠して いる。②B McFarlane, Proprietary Estoppel and Failed Contractual Negotiations, [2005] 69 Conv 501; ③S Bright and B McFarlane, Proprietary Estoppel and Property Rights, [2005] CLJ 449;④B McFarlane and A Robertson, The Death of Proprietary Estoppel, [2008] LMCLQ 449; ⑤B McFarlane and A Robertson, Apocalypse Averted: Proprietary Estoppel in the House of Lords, (2009) 125 LQR 535; ⑥B McFarlane, The Protection of Pre-Contractual Reliance: A way forward, (2010) 10 Oxford U Commw LJ 95;⑦B McFarlane and P Sales, Promises, Detriment, and Liability: Lessons from Proprietary Estoppel, (2015) 131 LQR 610.

(5)

て判例を分析していく。約束型については、

2008

年と

2009

年に

House of Lords

の判決が出されたが(6)、この

2

つの判決は、関わった裁判官の主要メンバーが共 通しているにもかかわらず、全く異なる要件論を提示した。考えられる理由の

1

つと して、物権的禁反言の効果としては、約因や方式を備えていないにもかかわらず、

訴訟原因として

A

の約束の特定履行も認められるという、契約法との緊張関係が あることが挙げられる。そのため、具体的なケースによっては、契約法の古典的な ルールとの関係で、どのような場合に約束型の物権的禁反言の適用を認めるべきか について判断が分かれうるのである。そこで本稿では、物権的禁反言がどのように 生まれ、展開してきたかについて、現在に至るまでの主要な判例を検討することに より、現在における約束型の到達点とその理論的位置づけについて明らかにするこ とにしたい。

なお、この約束型の物権的禁反言が確立すれば、比較法的に見ても契約交渉過程 における信頼保護に薄いとされるイギリス法において、被約束者の信頼を保護する ための有力な手段の

1

つとなることが期待される(7)。そして、その背景にある

B

の信頼を保護するための一般法理を抽出することができるならば、それは、わが国 における契約交渉破棄の責任論にも新たな視点を与えてくれるのではないか。わ が国の判例は、契約交渉破棄の責任を不法行為として捉えるものが多いが、その問 題点については別稿で検討したことがある(8)。わが国において、契約法理とも不 法行為法理とも区別された独自の信頼保護法理の確立を志向するとすれば、禁反言 法理はその有力な手がかりの

1

つとなり得る。本稿では、そのための準備作業とし て、契約交渉場面に限らず、広く物権的禁反言の適用が問題となる場面を対象とし て、イギリスにおける判例の状況を分析検討していくことにする。

(6) Yeoman’s Row Management Ltd v Cobbe [2008] UKHL 55; [2008] 1 WLR 1752;

Thorner v Major [2009] UKHL 18; [2009] 1 WLR 776.

(7) J Cartwright and M Hesselink (edn), Precontractual Liability in European Private Law (2008) at 461-464; B McFarlane, n5⑥, at 95.

(8)拙稿「契約交渉破棄事例における約束的禁言の適用(一)―アメリカの判例分析を中心に

―」法律論叢75巻2・3号117頁以下(2002年)。

(6)

Ⅱ 判例による物権的禁反言の展開

1

物権的禁反言の萌芽

1

)物権的禁反言は、理論的には比較的最近になって整理されてきたものだが、

その萌芽は既に

18

世紀の判例にも見ることができる(9)。禁反言が適用される古 典的なケースは、「事実の陳述(

representation of fact

)」に関するものであり、

それが次第に「黙認(

acquiescence

)」の場合にも拡大されるようになったとされ る。たとえば、

Huning v Ferrers (1711)

(10)は、賃借権を設定する権限のない生 涯保有権者(

a tenant for life

A

から製粉所の賃借権の設定を受けていた

B

に対 し、

A

の息子が、

A

の死後にその製粉所の占有回復を申し立てた事案で、

B

が占有 する権利を有していることを確認した。なぜなら、

A

の息子は、

A

に賃借権設定権 限がないことを知っていたにもかかわらず、

B

2,800

ポンドを費やしてその製粉 所に改良等を加えていることについて禁止をしたり忠告をすることなく、何も伝え ずにかえって

B

の行為を助長するような態度を示していたからである。このよう に、

B

が、他人

A

が権利を有する不動産であるとは知らずに、その不動産に何らか の費用を費やした場合において、

A

B

の誤解を知りながら自己の権利について 何も言わなかったときは、

B

を救済するために、以後の

A

の権利主張を封じて

B

の権利取得を認める法理(以下、黙認型(

acquiescence-based

)の物権的禁反言 と呼ぶ。)が既にこの頃から認められていた。

もっとも、当時の判例は、「物権的禁反言(

proprietary estoppel

)」という用語 どころか、「禁反言(

estoppel

)」という用語すら用いておらず、

Huning

判決にお いては、

A

の態度は、

“fraud”

と評されており、同様に

A

による黙認のケースであ る

Dann v Spurrier (1802)

(11)では、

“bad faith and bad conscience”

と評され ているに過ぎない。しかし、これらが、現在の物権的禁反言の前身となる判例であ

(9) The Earl of Oxford’s Case (1615) Rep 1, 21 ER 485が最も早い時期の判例であるとも 言われているが、物権的禁反言の定義自体の捉え方も影響し、その評価は分かれる。物権 的禁反言の沿革については、E Cooke, The Modern Law of Estoppel (2000) at 42-53;

B McFarlane and P Sales, n5⑦, at 610; R Smith, n4, at 149-171; S Bower, n1, at 12.12-12.33参照。

(10) (1711) Gilb. Rep. 84, 23 ER 59.

(11) (1802) 7 Ves. Jun. 231.

(7)

ると一般に評価されている(12)

2

)以上の判例とは異なり、

B

が、他人

A

が権利を有する不動産だと知らなかっ たのではなく、

A

の譲渡約束を信頼したことにより、その不動産に出費をしたと いうケースも現れた。有名な

Dillwyn v Llewelyn (1862)

(13)は、父親

A

から建物 建築を目的として土地を贈与するとのメモランダムを受けた息子

B

が、その土地 上に

14,000

ポンドを費やして建物を建築して住んでいたが、

A

の遺言ではこの土 地は他の家族に相続されることになっていたために、

B

A

の死後にこの土地の 譲渡を求めたという事案である。

A

の贈与約束は捺印証書によるものではなかっ たため、本来であれば

A

の贈与約束に法的拘束力はないはずであるところ、

Lord Westbury

は次のように述べて、

B

の主張を認めた。

「もし、

A

B

に土地を占有させたうえで、『この土地をあなたに譲渡するから、

建物を建てて構わない。』と言い、

B

がこの約束を信頼して、その土地上に莫大な 資金を投じて建物を建築した―そしてそのことを

A

も知っていた―場合には、

B

A

に対して、契約を履行して不完全な贈与を完全なものとするように要求する ことができ、これにより土地の権利を取得することができる。」。

この

Lord Westbury

の説示には、①

A

の約束、②

B

の信頼、そして、③

B

A

の約束を信頼したことによる不利益という、現在において約束型(

promise-based

) の物権的禁反言の適用に必要とされる主要な要素(後に詳述する)が含まれてい る。しかも、その効果として、単に

A

による権利主張を封じるだけではなく、

B

に よる財産権の取得が認められている。しかし、当時はまだ物権的禁反言という概念 は認識されておらず、この説示を支える理論的根拠は、エクイティ上の一部履行

part performance

)の法理によるとされていた(14)

2 Ramsden v Dyson (1866)

―黙認型と約束型―

1

Dillwyn

判決の後、物権的禁反言の源として重要な意味を有するに至った のが、

Ramsden v Dyson (1866)

(15)である。

B

は、土地所有者

A

から土地を賃借

(12) Lord Neuberger in Fisher v. Brooker [2009] 1 WLR 1764; E Cooke, n9, at 42; B McFarlane and P Sales, n5⑦, at 611; S Bower, n1, at 12.13.

(13) (1862) De G. F. & J. 517.

(14) (1862) De G. F. & J. 517, 521.

(15) (1866) LR 1 HL 129.

(8)

したが、その賃借権は当事者の意思でいつでも終了できるとされる任意不動産権

tenancy at will

)であった。

A

の代理人は、

B

に対して、定期賃借権(

lease

)で なくても、

B

が賃料を支払い続けさえすれば

A

の側から賃貸借を終了されること はなく安心であること、また将来的には定期賃借権を得ることができるかもしれな いと告げており、

A

自身も、賃料が支払われれば、

B

の賃借権が脅かされることは ないと述べていた。しかし、その

24

年後に

A

側が

B

に対して賃貸借の終了と占有 の回復を求めてきたので、

B

がエクイティによる定期賃借権の取得を主張したとい う事案である。

Lord Cranworth

は、次のとおり述べて

B

の主張を認めず、多数 意見もこれに従った。

「もし、他人が、私の土地を自分の土地だと思ってその土地上に建物を建築し、

私が、彼の誤解に気付きながら、その誤りを正さなかった場合には、エクイティ裁 判所は、彼が自分の土地だと信じて資金を費やしたその土地について、私が後に自 分の権利を主張することを認めないであろう。しかし、もし、他人が、それが私の 土地であることを知りながらその土地上に建物を建築した場合には、彼が土地上に 費やした利益も含めてその土地の権利を私が主張することについて、これを禁じる エクイティ上の法理は存在しない。」。

そして、本件では、

B

は自分が定期賃借権を現に有していると信じていたのでは なく、土地の権利関係についての誤解があったわけではないとして、

B

の主張を 排斥したのである。確かに本件の

B

は、土地所有者が

A

であることは知っていた。

そのため、

Lord Cranworth

は、本件を先の

Huning

判決と同様に黙認型の事案 と考えたのである(16)

2

)これに対して、

Lord Kingsdown

は、次のように述べて多数意見に反対し た。

「もし、ある人が、土地所有者との間でその土地に関する一定の権利について口 頭で合意をしたり、あるいは、これ(口頭での合意)と同じことではあるが、土地 に関する権利を取得できるであろうことについて土地所有者から期待をもたらさ れたことに基づいて、その土地所有者の合意の下、その土地の占有を開始し、先の 合意ないし期待があったからこそ、その土地に資本を投下した―そして、そのこと について土地所有者は知っていたし、それを妨げることもなかった―という場合に (16) S Bower, n1, at 12.14.

(9)

は、エクイティ裁判所は、土地所有者に対して、そのような約束ないし期待に効果 を与えることを強制する。」。

Lord Cranworth

が、

B

に現在の権利状態についての誤認があったか否かを問題 にしていたのに対し、

Lord Kingsdown

は、

A

の約束ないし

A

によってもたらさ れた期待に基づく将来の権利取得に関する信頼の存在を問題にしているのである。

3

)この両者の見解の異同、特に

Lord Kingsdown

による説示をどのように捉 えるかについては、様々な理解がある。

一つは、

Lord Kingsdown

が、一部履行の法理により合意の履行が命じられた

Gregory v Mighell (1811)

(17)を引用していることから、本件にもエクイティ上の 一部履行の法理を適用したに過ぎないとする理解である。しかし、本件では当事者 が一部履行についての主張をしていないし、そもそも一部履行が問題となるような 契約―有効(

valid

)だが強制力のない(

unenforceable

)契約―自体が存在しな いので、この見方には無理がある(18)

二つ目の理解は、

Lord Cranworth

Lord Kingsdown

との間には、法理論に ついての相違はなく、ただ事実の評価に違いがあるに過ぎないというものであ る(19)。しかし後述するように、

1960

年代以降、

Lord Kingsdown

の説示が

Lord

Cranworth

のそれとは別個の法理を示したものであることを前提としてこれを踏

襲する一連の判例が現れたことからも明らかなとおり、両者の示した法理は全く 別物と考えるべきである。

Lord Cranworth

が物権的禁反言の中でも黙認型につ いての法理を示したのに対し、

Lord Kingsdown

は、先の

Dillwyn

判決と同様に 約束型の基礎を示したと捉えることができる。その理論的な位置づけについては、

Lord Kingsdown

以降の判例を整理した上で後述する。

3 Willmott v Barber (1880)

Fry

裁判官による

5

要件―

Ramsden

判 決 の 後 、土 地 所 有 者 に よ る 黙 認 の 事 案 に つ い て の

Willmott v Barber (1880)

(20)において、

Fry

裁判官は

Ramsden

判決の多数意見に依拠し て、「人は、自己が有する法的権利を主張することが詐欺的であると認められない (17) (1811) 18 Ves. 328.

(18) S Bower, n1, at 12.21; Lord Wensleydale in Ramsden v Dyson.

(19) S Bower, n1, at 12.18.

(20) (1880) 15 Ch. D. 96.

(10)

限り、その権利を奪われることはない。」とし、その詐欺性が認められるための要 素として、以下の

5

つを挙げた。①

B

が自己の法的権利について誤信しているこ と、②

B

がその誤信に基づいて、何らかの出費をするか行動をしたこと、③

A

が 自分の権利の存在について知っていること、④

A

B

の誤信について知っている こと、⑤

A

が積極的あるいは黙示的に、

B

の出費やその他の行動を助長している こと、である。

Fry

裁判官が示したこの

5

要件は、

“five probanda”

と呼ばれ、広く知られるよ うになったが、これが後に物権的禁反言に関する議論を混乱させ、約束型の物権的 禁反言の定着を遅らせる障害となったものと考えられる。というのは、この

5

要件 は黙認型のケースを前提としていたものであったにもかかわらず、それ以外のケー スにも広く当てはめようとする判例が出てきてしまったからである(21)。この

5

要 件は、

B

の誤信が

A

の言や約束に対する信頼に基づいて生じた場合ではなく、

B

自 らの誤解に基づく場合についてのものであることに注意が必要である(22)

4 Lord Kingsdown

の影響

1

Ramsden

判決以降、現在の自分の権利状態について誤信しているわけで はなく、その土地に関する権利を将来取得できるとの信頼を土地所有者から惹起さ れた者達が、原告あるいは被告として、

Lord Kingsdown

による説示に依拠して その権利を主張する―そしてその相手方は、

Ramsden

判決の多数意見や

Fry

裁判 官の

5

要件により反論する―というケースが見られるようになった(23)。そして、

枢密院(

Privy Council

)も、

Plimmer v The Mayor, etc., of Wellington (1884)

において

Lord Kingsdown

の説示に依拠し、

A

が港の所有者であることは知って いるが、自分がその港を占有できるとの合理的な期待を抱き、

A

による助長もあっ てそこに波止場を築いた

B

に対して、その波止場についての財産的権利を認める に至った(24)。本件では、

A

B

に対して波止場を建築するように積極的に要請 していたことが重視されて、

Lord Kingsdown

の説示が援用されたのである。

(21) Armstrong v Sheppard & Short Ltd [1959] 2 QB 384; Coombes v Smith [1986] 1 WLR 808.

(22) S Bower, n1, at 12.24, 12.25.

(23) E Cooke, n9, at 46.

(24) (1884) 9 App. Cas. 699.

(11)

2

)しかし、その後約

80

年の間は、

Lord Kingsdown

の説示が広く受け入れ られることはなかった。その理由の

1

つには、

Fry

裁判官の

5

要件が少なからず障 害になっていたと推測することができる(25)

Lord Kingsdown

の示した法理は、

1965

年に控訴院(

Court of Appeal

)の

Lord Denning

によって明確に踏襲されることになった。問題となった

Inwards v Baker (1965)

(26)は、先の

Dillwyn

判決に似た事案である。

B

がバンガローを建築する ための土地を探していたところ、

B

の父

A

が、

A

の土地上に予定していたよりも 少し大きめのバンガローを建てるように提案し、その建築費用の一部も負担した。

B

は、

A

が亡くなるまでの

20

年間そこに居住し、その後も

A

の遺言受託者が訴え を起こすまでの

12

年間は、引き続きそこに居住していた。遺言受託者が、

B

の土 地利用権(

licence

)は既に失効していると主張したのに対し、控訴院は、

B

には 望むかぎりの間その地に居住する権利があるとした。

Lord Denning

は、

Dillwyn

判決、

Plimmer

判決、そして

Ramsden

判決の

Lord Kingsdown

の説示を引用し て、次のように述べた。

「これらの先例からすれば、土地所有者

A

B

に対して提案したり許可したこ とにより、

B

がその土地にとどまることができるとの期待を惹起され、その期待に 基づいて

B

がその土地に費用を費やした場合には、

B

はその土地についてエクイ ティにより土地利用権を取得する。」。

この判決で、

Lord Denning

“equity”

としか言っていないが、

Danckwerts

裁 判官は、

“equitable estoppel”

という用語でこの法理を説明した。この用語の影響 を受け、

Snell’s Equity

(27)が、物権的禁反言を意味する

“proprietary estoppel”

の用語を使うようになったとされている(28)

Inwards

判決のように、土地利用権に関する争いで禁反言が援用されるのは、立

(25)これに対し、Mee論文は、Fry裁判官の5要件が、Bの信頼保護の主張を排斥するために ドグマティックに適用されたケースの数はそれほど多くなく、後述するTaylors Fashions 判決以前から5要件の厳格性に対する疑問が提示されていた(Electrolux Ltd v. Electrix

(1954) 71 RPC 23)ことからすると、5要件が招いた混乱による影響は限定的だったか

もしれないと指摘している。J Mee, Proprietary Estoppel, Promises and Mistaken Belief, ch 8 of S Bright (ed), Modern Studies in Property Law, vol 6 (2011), at 186.

(26) [1965] 2 QB 29.

(27) R Megarry and P Baker (eds), Snell’s Equity, 26 edn (1966) at 629.

(28) B McFarlane, n5①, at 1.01.

(12)

ち退きを迫られる者が、現状維持のために防御方法としてこれを主張するのが通常 のケースである。しかし、それだけでは不十分な場合もあり、

Lord Kingsdown

の説示を基礎とする約束型の物権的禁反言は、財産権の取得を求める者からの訴訟 原因としても主張されるようになり、被告が反訴でこれを主張することもあった。

たとえば、

ER Ives Investment Ltd. v High (1967)

(29)では、不法行為に基づく 損害賠償請求を受けた被告が地役権の取得を主張し、これが認められている。な お、この判例はその根拠として、

“proprietary estoppel”

の用語を用いているが、

判例でこの語が用いられたのはおそらくこれが初めてとされる(30)

5

物権的禁反言の多様な類型と「非良心性」による統一化

1

)ここまで見てきた物権的禁反言に関する代表的な判例には、その適用場面 に着目すると、古典的な黙認型のケースのほか、

A

により

B

が不動産に関する権 利を将来取得できるであろうとの信頼を惹起され、その信頼に基づいて当該不動 産に費用を支出するなどの不利益を被った場合には

B

の権利取得を認めるという、

約束型の原型とも言えるようなケースとがあった。ところがその後、この

2

つの類 型では説明が難しい判例が

2

つ現れる。

その

1

つは

Crabb v Arun District Council (1975)

(31)であり、その事案は複雑 であるが、簡略化すると次のとおりである。北側に高速道路のある土地が二筆に分 筆され、その東側の一筆を

B

が購入した。西側の土地には

B

が購入した土地との 境界にフェンスが設けられ、そのフェンスに沿って南北に走る道路(南北道路)が 作られることになっており、土地の売主は

B

に対して、フェンスの一部に出入口 を作り、

B

がそこから南北道路に出て北側の高速道路まで通行できる権利を与え た。その後、この売主は西側の土地について、

B

の通行権を留保した上でカウンシ ルに売却した。その翌年に、

B

は自分の土地を南北に分けてその北側を売却するこ とにし、そのプランをカウンシルの代理人に説明したところ、その代理人は、

B

の 南側の土地のためにフェンスに新たに出入口を設けて高速道路まで通行できるよ うにすると言った。実際に、カウンシルは新たな出入口を設けてくれたので、これ

(29) [1967] 2 QB 379.

(30) B McFarlane, n5①, at 1.01.

(31) [1976] Ch 179; [1975] 3 All ER 865.

(13)

により

B

は通行権が得られるものと信じて、北側の土地について、自分のための 通行権を留保することなく売却してしまった。しかし、その後、カウンシルが新た に設けた出入口をふさいでしまい、

B

に対して通行権取得のために

3,000

ポンドを 支払うように要求してきたため、

B

はこれを拒否し、自分は南側の土地から通行で きる権利を有しているとして提訴した。

本件で問題になっているのは、

B

が南側の土地からの通行権を有しているかどう かである。そこで、

B

がカウンシルの代理人と話し合った際の合意の効力がまず 問題となるが、これには法的拘束力は認められず、カウンシルの代理人の言も

B

の通行権を保証したものではないと認定された。そのうえで、

Lord Denning

は、

Lord Kingsdown

の説示、

Inwards

判決、そして

ER Ives Investment Ltd.

判決 を引用して、

B

は物権的禁反言により南側の土地からの通行権を取得できるとした。

まず、

Lord Denning

は、禁反言にも様々な種類があり、物権的禁反言の場合は

(もっとも、物権的禁反言は約束的禁反言の一種であるとする)、それが訴訟原因と なり得ることを認めた。そして、本件で物権的禁反言の適用が認められる理由とし て、カウンシル側が、

B

が土地を分筆することに伴い新たな通行権を欲しているこ とを知ったうえで、通行権を取得できるであろうと信頼させたこと、そして、実際 に相応の費用をかけて新たな出入口を作ったことにより、より強く

B

の信頼を惹 起したことを挙げた。他方で、

B

が自らの土地のための通行権を留保することなく 北側の土地を売却したことについては、

A

がこれを知っている必要はないとした。

後述する

Yeoman’s Row

判決の

Lord Walker

が指摘しているように、この判例 の理解・評価は難しい。結論においては一致しているものの、控訴院のメンバーに よる理由が全て異なるからである(32)。先の

Lord Denning

は、

Lord Kingsdown

の説示を引用しているが、

A

による約束の存在は否定している。したがって、約 束に至らない単なる期待の助長があれば、

Lord Kingsdown

の説示を援用するに 足ると考えていたのかもしれない。しかし、

Lord Denning

はそれ以上の詳しい 説明をしていないので、その真意は不明である。これに対し、

Lawton

裁判官は

Ramsden

判決の多数意見を援用し、

Scarman

裁判官は

Fry

裁判官の

5

要件を適 用している。つまり、この

2

人は、本件を黙認のケースと同一視しているのである。

このような混乱が生じたのは、物権的禁反言が適用される場面にはいくつかの異 (32) [2008] UKHL 55 [79].

(14)

なる類型があるにもかかわらず、これが明確に意識されず、

Lord Kingsdown

の 説示の理論的位置づけも曖昧なまま、結局は

equity

という抽象的な衡平の観念に 依存して問題解決を図ろうとしてきた結果だと思われる。

2

2

つ目の判例は、

Taylors Fashions Ltd v Liverpool Victoria Trustees Co Ltd (1979)

(33)である。これも事案が複雑だが、判旨を理解するために必要な範囲 で要約すると次のとおりである。

B1

は複数の店舗付きの土地を所有していたところ、

1948

年にその店舗の

1

つ である

22

番を

C

に賃貸した。期間は

28

年間で、賃借人

C

が自己の費用でリフト を設置すれば、さらに

14

年間更新できるというオプション権付きであった。しか し、このオプション権は、法的に有効であるために必要な登録がされていなかっ た。そのすぐ後に、

B1

はこの土地を

A

に売却し、

A

からその土地上の

21

番の店 舗について賃借権の設定を受けた。その期間は

1948

年から

42

年間であり、もし

22

番の店舗についてのオプション権が行使されなければ、

A

21

番の賃貸借を終 了させることができるとされていた。

1958

年に

B2

22

番の賃借権を

C

から譲受け、店舗にリフトを設置すればオプ ション権を得られると信じてリフトを設置し、

A

もそのことは知っていた。

1963

年に

B1

A

から

20

番の店舗の賃借権を取得し、

20

番と

21

番を結合して

1

つの店舗にするなどの大規模改修工事を行った。

20

番の賃借権の期間は

14

年間 で、さらに

14

年間更新できるオプション権付きだったが、

22

番のオプション権が 行使されなかったら

A

は賃貸借を終了させることができるとされていた。

1976

年に

B2

22

番のオプション権を行使したが、

A

はこの時になって初めて このオプション権が法的に無効だと知るに至った。そこで、

A

は、

B2

のオプショ ン権は無効であり、さらに

20

番と

21

番の賃借権もこれにより終了させることが できると主張した。

B

らは、仮にオプション権が無効だったとしても、

B2

A

の 同意に基づいてリフトを設置しており、また、

A

B1

との間で

20

番と

21

番の賃 貸借契約を締結するに際して、オプション権があると言っていたのだから、禁反言 によりオプション権の無効を主張することはできないと訴えた。これに対し

A

は、

物権的禁反言が適用されるためには、

A

が自分の権利について知っていて、かつ

A

がその権利を行使することはないと

B

が信じて行動することが必要だとし、本件 (33) [1982] QB 133; [1981] 1 All ER 897.

(15)

では

A

B

ら共に

A

の権利について誤信しているので物権的禁反言の適用は認め られないと主張した。

この事案が従来のケースと異なるのは、

B

らがオプション権の存在を信頼してリ フトを設置するなどの不利益的行為をした際に、

A

もオプション権が無効である ことを知らなかったという点である。

A

B

らの不利益的行為を認識していたが、

A

も有効なオプション権があると思ったうえで、

B

らの行為を勧めたり認めてい たのである。物権的禁反言ではなく、たとえばコモンロー上の表示による禁反言

estoppel by representation

)の場合であれば、そのような

A

の認識の有無は問 われない。しかし、表示による禁反言は、事実についての陳述に適用されるもので あり、本件のような法に関連する陳述(未登録のオプション権の有効性)について は適用することができない。本判決で

Oliver

裁判官はこのことを正当にも認め、

本件はコモンローの枠外の問題であるとした。そして、

Oliver

裁判官は次のよう に述べた。

「最近の判例の多くが示しているように、

Ramsden

判決で示された法理の適用 は―ここで、物権的禁反言(

proprietary estoppel

)、黙認による禁反言(

estoppel by acquiescence

)または助長による禁反言(

estoppel by encouragement

)のい ずれの名称を用いるかは重要な問題ではない―当該状況が、あらゆる形の非良心的 な行為に用いられる一般的なものさしとしてのフォーミュラの範囲に収まるかど うかを検討するというよりは、個々のケースにおいて一方当事者に対し、知不知を 問わず、相手方が不利益的行為をすることを許容したり助長したことを否定させる のが非良心的かどうかを明らかにするという、もっと広い観点からのアプローチを 必要とするものである。」。

このように述べた上で、

Oliver

裁判官は、

Fry

裁判官の

5

要件を本件に適用す ることを否定した。もしこれを適用すれば、本件は

5

要件のうちの「③

A

が自分 の権利の存在について知っていること」という要件を充たさないため、それだけで 物権的禁反言の適用が認められなくなるケースであった。しかし、

Oliver

裁判官 は、

B

の信頼が

A

により惹起されたときは、

AB

両者ともに自分達の権利に関わる 法についての誤信(本件では、未登録のオプション権も有効との誤信)があった場 合であっても物権的禁反言の法理を適用できるとし、

A

が真の権利状態を知ってい たか否かは、その主張を認めることが非良心的であるか否かを判断する際に考慮さ

(16)

れる

1

つの要素にすぎないとしたのである。

そして、本件でも

B1

B2

のそれぞれに固有の事情を考慮し、

B1

の請求だけを 認容した。

B2

の請求が棄却されたのは、オプション権の存在についての

B2

の信 頼が形成されたのが、

A

が所有者になる以前の

C

との契約に際してであったこと、

また、リフトの設置がオプション権の存在を信頼したことに基づくとは認められ ず、いずれにしても

4

階建ての婦人服の店舗でリフトを設置しないという選択はな かったであろうと認定されたからである。他方、

B1

の請求が認められたのは、

A

20

番と

21

番の賃貸借契約を締結するに際し、

B1

に対してオプション権がある と言っており、

B1

がこれを信頼して、

1963

年に大規模改修工事を行ったからであ る。このケースは、

A

が自分の権利の存在について知らない点で、黙認型のケース とは異なる。また、

B

が信頼したのは

A

の約束ではなく、オプション権の有効性 という法に関する事実である点で、約束型のケースとも異なる。この場合は、後述 の表示型(

representation-based

)に分類できると考える。

本判決は、

Fry

裁判官の厳格な

5

要件の適用を否定したことから、物権的禁反言 の発展にとって重要な意義を有すると評価されることもある。確かに、

Oliver

裁判 官が、この

5

要件があらゆるケースに妥当するわけではないことを明らかにした点 は、物権的禁反言の歴史と展開にとって非常に重要な意味を持つ。しかし、

Oliver

裁判官は、物権的禁反言の適用が問題となるケースには様々なものが含まれること は肯定したものの、それらを類型化して整理することはせず、逆にそれぞれのケー スに固有な特徴を捨象して、「非良心性(

unconscionability

)」というより抽象度 の高い概念で一括りにする方向に進んでしまったとも言え(34)、これが物権的禁反 言の進展にとって望ましい方向だったと言えるかは、後の

House of Lords

による 判断も見たうえで検討する必要がある。

6 Yeoman’s Row Management Ltd v Cobbe (2008)

―物権的禁反言の死―

1

1866

年の

Ramsden

判決以降、

House of Lords

が物権的禁反言について初め ての判断を示したのが、

Yeoman’s Row Management Ltd v Cobbe (2008)

(35)

(34) J Mee, n25, at 189.

(35) [2008] UKHL 55; [2008] 1 WLR 1752.

(17)

ある。

A1

社は、自由土地不動産権(

freehold of land

)を有しており、

A2

A1

社を代表して、不動産ディベロッパーである

B

との間で次のような口頭での合意 に達した。①

B

は、自分の費用で、

A1

社の土地上のフラットを取り壊して新しく

6

棟のテラスハウスを建築するための計画許可を申請すること、②計画許可が下り たら、

A1

社は、その土地を

B

あるいは

B

の会社に売却するが、その代金は前払い で

1,200

万ポンドとすること、③

B

あるいは

B

の会社は、計画許可に従ってその 土地の開発をすること、④

B

は、新築した

6

棟のテラスハウスを売却して、その 売上の

50

%を

A1

社に支払うこと、が主な合意内容である。

A2

B

の両者とも、

この合意に法的拘束力があるとは考えておらず、計画許可が下りた段階で、未決事 項を含めて正式な合意を交わすつもりであった。ただ、

B

は、もし計画許可が下り る前に

A2

が交渉を破棄した場合には、それまでの出費について合理的な範囲で賠 償してもらえるものと認識していた。そこで、

B

は、計画許可を得るために、

1

年 以上にわたって莫大な費用と時間と労力を費やしていたところ、

A2

はこの口頭合 意を遵守する気がなくなっていたにもかかわらず、

B

の努力を助長し続け、計画許 可がおりれば当初の口頭合意に基づいて正式な契約を締結するかのような印象を

B

に与えていた。

B

の努力の甲斐あって計画許可が下りたが、

A2

は、口頭合意② の前払代金額を

2,000

万ポンドにしなければ契約を締結しないと言い始めた。そ こで、

B

は、口頭合意の履行を求めて提訴したが、後にその請求内容を擬制信託

constructive trust

)、物権的禁反言、あるいは不当利得を理由とする請求に変更 している。

第一審は、物権的禁反言に基づいて

B

の請求を認めた(36)

AB

間の口頭合意は、

商取引としての核心的な部分については全てカバーしており、あとは契約の形式性 を充たすために正式な契約締結が必要だったにすぎないという認定であった。書 面による正式な契約締結前であっても、物権的禁反言により

B

の信頼を保護する 余地があることは、これまでの裁判例も認めてきたところである。控訴院も、第一 審の判断を支持した(37)

2

)しかし、

House of Lords

は、物権的禁反言の主張は認めず、原状回復的 な役務相当額の請求(

quantum meruit

)として、

15

万ポンドを認めたにすぎな

(36) [2005] EWHC 266.

(37) [2006] EWCA Civ 1139; [2006] 1 WLR 2964.

(18)

かった。これは、第一審と控訴院で認容された

200

万ポンドと比較すると、大幅 な減額である。物権的禁反言の適用が認められないことの理由については、

Lord Scott

Lord Walker

が明らかにしているが、両者の視点には若干の違いがある。

まず、

Lord Scott

は、物権的禁反言を文字どおり「禁反言」と捉え、他の古典的 な禁反言と同様に、

B

から主張される権利の行使にとって障害となるような、

A

か らの特定の事実の表示を封じるものであるとする。たとえば、本件で

A

が口頭合 意自体が存在しないと主張していたのであれば、その主張は(物権的)禁反言によ り封じられる余地があるが、本件では、禁反言により封ずべき

A

による事実の表 示が存在しないと

Lord Scott

は指摘したのである。したがって、

B

が、

A2

の言動 により、口頭合意が遵守されることを合理的に信頼していたとしても、それだけで は物権的禁反言による救済を受けることはできない。

Lord Scott

によれば、物権 的禁反言は、当事者が権利を取得するための独立の根拠ではなく、約束的禁反言の 亜種にすぎないという。これによると、

Lord Kingsdown

の説示以来、裁判例が 徐々に拡大してきた物権的禁反言の適用範囲は、一気に限定的なものとなる。

Lord Walker

は、

Lord Scott

とは別の観点から、物権的禁反言の適用に制限を 加えている。物権的禁反言の適用が認められるためには、

A

が約束をしたというこ とを

B

が信頼しただけでは足りず、その

A

の約束が法的拘束力を有すると信頼し ていたことが必要とするのである。そうすると、本件の

B

は、

A1

社が口頭合意に 沿って行動してくれるであろうと信頼していたにすぎず、

A1

社にそのように行動 する法的義務があると信頼していたわけではないから、物権的禁反言の適用は認め られないという。

3

)これまで見てきたとおり、

1960

年代以降の判例は

Lord Kingsdown

の影 響の下、正式な契約が締結される前であっても、

A

の不動産に関する権利を取得で きると信頼した

B

を保護するための根拠として物権的禁反言(約束型)を適用す る余地があることを認めてきた。しかし、本件の事案には、従来の判例にはなかっ た特徴がある。

AB

間には正式な契約締結に向けた予備的な合意が交わされていた が、この合意には法的拘束力がないことが両者の間で確認されていた点である。こ のような場合に、

B

が本契約の締結を期待してその準備のために費用や時間を費や したとしても、それは

B

自身が負担すべきリスクであり、物権的禁反言によって

B

の信頼を保護する必要はないとも考えられる。それが商取引であるなら、なおさ

(19)

らであろう。おそらく、

Yeoman’s Row

判決はこのように考えて、物権的禁反言 による

B

の保護を否定したものと思われる。

しかし、そのために、物権的禁反言の独自性を否定し(

Lord Scott

)、物権的禁 反言を適用するためには、「

A

の約束が法的拘束力を有する」との

B

の信頼が必要 であるという(

Lord Walker

)これまでになかった新たな要件を課す必要があった のだろうか。このような疑問は、

McFarlane

Robertson

の共著による「物権的 禁反言の死」と題した

Yeoman’s Row

判決の評釈論文や

Mee

論文で指摘されてい るところである(38)

7 Thorner v Major (2009)―約束型の物権的禁反言の独自性―

1

)先の

Yeoman’s Row

判決から

1

年も経たないうちに、

House of Lords

は、

Thorner v Major (2009)

(39)で、物権的禁反言が独立の権利発生根拠となり得る ことを認めた。事案は次のとおりである。両親と同居する

B

は、父の従兄弟

A

が 所有する農場で無給で働いており、

15

年間働き続けた頃に、日頃から無口な

A

か ら遠回しにその農場を

B

に相続させると伝えられた(具体的には、

A

が「これは私 の相続税のためだ」と言って、自分の保険証券を

B

に手渡している。)。これにより 将来農場を相続できると信じた

B

は、他の仕事の機会があってもそれを無視して、

さらに

15

年間無給で働き続けた。

A

は、金銭以外の財産については

B

に相続させ るとの遺言を作成していたが、相続人の

1

人から反対されて、この遺言を破棄し、

新たな遺言をすることなく亡くなってしまった。そこで

B

は、物権的禁反言に基 づいて、

A

の財産についての権利を主張した。

原審の控訴院は、物権的禁反言の適用が認められるためには、相手方の信頼が生 じることを意図した明確な約束の存在が必要であるところ、本件のような黙示的な 約束があっただけでは足りないと判断した(40)

2

)これに対し、

House of Lords

は、

B

の物権的禁反言の主張を認めることで 一致した。

B

は、

A

の言動が将来

B

に農場を相続させると約束したものだと合理 的に理解し、その約束を不利益的に信頼したとして、物権的禁反言により農場と関

(38) B McFarlane and A Robertson, n5④, at 455; J Mee, n25, at 189-191.

(39) [2009] UKHL 18; [2009] 1 WLR 776.

(40) [2008] EWCA Civ 732; [2008] 2 FCR 435.

(20)

連施設の取得を認めた一審の判断を是認したのである。

Yeoman’s Row

判決の場合と同じように、本件でも

A

からの事実の表示はなく、

また、

B

が、

A

による約束に法的拘束力があると信頼していたことを裏付ける証 拠もないことから、先の

Lord Scott

Lord Walker

の説示に従うかぎりは、本事 案に物権的禁反言を適用することはできないはずである。しかし、

Yeoman’s Row

判決に引き続き、本判決にも関わっていたこの

2

人は、本件では物権的禁反言の適 用により

B

の信頼を保護するという結論を是認した。

Yeoman’s Row

判決で物権 的禁反言の独自性を否定していた

Lord Scott

は、本判決ではこれを否定せず、た だ、

B

の救済は、擬制信託を根拠にする方が、より分かりやすくて収まりもよいと 付言しているにすぎない。他の裁判官らは擬制信託構成には同調せず、

Yeoman’s Row

判決における

Lord Scott

の見解を否定する見方を示して物権的禁反言の適用 を認めた。また、

Lord Walker

は、物権的禁反言の要件として、

A

の約束が法的 拘束力を有するとの

B

の信頼が必要との考え方を本判決では示さなかった。

すなわち、

Thorner

判決は、

Yeoman’s Row

判決で示された、物権的禁反言に 関する制限的な解釈を暗に否定し、

A

の約束により、

A

の土地に関する権利を取得 できると信頼した

B

を保護するための法理として、物権的禁反言が独自の権利取 得原因として機能すること―約束型の物権的禁反言―を認めたものといえる(41)

3

)このような約束型の物権的禁反言が認められるための要件として、

Lord Walker

は、①

A

の約束、②

B

の信頼、③

A

の約束を信頼したことにより

B

に不 利益が生じたこと、の

3

つが必要であるとした。これ以外にも、本判決では約束型 の要件論に関わる重要な指摘が多くなされている。それらについては、次の要件論 の検討の中で適宜触れていくことにしたい。

なお、

House of Lords

が、

Yeoman’s Row

判決と

Thorner

判決のそれぞれにつ いて物権的禁反言の捉え方を異にしたのは、商取引と家族間取引の違いに基づくの ではないかと推察する向きもあるかもしれない。この点についても、次の要件論の 検討の中で考察することにする。

(41) B McFarlane and A Robertson, n5⑤, at 542.

(21)

Ⅲ 判例の分析

1

物権的禁反言の類型化

1

)約束型の物権的禁反言の要件論について検討する前に、物権的禁反言の適 用領域を類型化することの必要性について考えておきたい。

先に見てきた判例は、いずれも物権的禁反言のカテゴリーに含まれるとされる代 表的なものばかりであるが、それぞれの判例で必要とされている要件は大枠では共 通点があるものの、

A

の行為態様は様々であり、それぞれのケースにおいて物権 的禁反言が果たす機能にも違いが見られる。そこで、

Taylors

判決は、「非良心性」

という抽象的な概念によって、物権的禁反言を

1

つの枠組みでまとめようとした。

しかし、その「非良心性」の判断基準を示さないままで、物権的禁反言の適用の可 否を決するのでは、それぞれのケースの特徴を見落として場当たり的な判断に陥っ てしまうことが懸念される。

そこで学説では、物権的禁反言を

3

つに類型化して、それぞれの類型の特質に応 じた要件と効果の明確化に努める見解が注目されている。その中でも、

Mee

論文 による

3

類型は、多くの文献で引用されており、現在の物権的禁反言に関する議論 に大きな影響を与えている。

Mee

論文は、物権的禁反言が問題となる場面につい て、次のように分類している(42)

2

)第

1

類型は、黙認型(

acquiescence-based

)である。たとえば、

A

が所有 する土地について、

B

が自己が所有権ないし利用権を有していると誤信して不利益 的な行動(その土地に自分の費用で改良を加えたり、建物を建築するなど)をした ときに、

A

B

の行動に気付きながらその誤解を正さなかった場合に、

A

の権利主 張を封じて

B

の権利取得を認めるものである。先に検討した

Huning

判決が、この 類型に該当する。これは、もともとは不動産に関する紛争に限らず、

A

による詐欺 的あるいは不誠実な行動を排除する必要性から、古くから一般的に認められてきた

(42) J Mee, n25, at 181-183. B McFarlane, n5①も、Mee論文の3分類を踏襲している。

この3分類とは異なり、Yeoman’s判決のLord Walkerは、K J Gray and S F Gray, Elements of Land Law, 5th edn (2009) at 1202の3分類を引用している([2008]

UKHL 55 [48])。それによると、物権的禁反言は、①「不完全な贈与」のケース、②「一

般的期待」のケース、③「一方的な誤解」のケースの3つに分類される。本稿では、Aの 言動に着目したMee論文の分類に依拠して、以下検討する。

(22)

ものである(43)。すなわち、この類型は、

A

が、その言(

representation

)や約束

promise

)によって

B

の誤解に基づく行動を誘引したからではなく、

B

A

の権 利に関する一方的な誤解に基づいて不利益的に行動をしていることを知りながら、

それを放置していたことに基づいて、エクイティの介入が認められるものである。

3

)第

2

類型は、表示型(

representation-based

)である。

A

B

に対して、

A

の土地に関する権利を

B

が有していると表示し、

B

がこれを信頼して不利益的 に行動したときなどに問題となる。その効果は、

A

B

に対して表示した内容で ある自分の不動産に関する権利についての事実(先の例では、

B

A

の土地に関 する権利を有しているということ)を覆すことができなくなるということである。

この場合も、先の黙認型と同様に古くから認められてきた類型であり、

A

による 不誠実な主張を封じるという点では同じだが、その根拠は、

A

が事実あるいは権利 状態についての表示をし、

B

がそれに基づいて不利益的に行動したことに求めら れ(44)

A

による積極的な事実の表示を要しない黙認型とは区別される(45)。そし て、表示型は黙認型とは異なり、

A

がその土地について自分が権利を有していると (43) B McFarlane, n5①, at 1.06-1.08.

(44)この「表示型の物権的禁反言」とコモンロー上の「表示による禁反言(estoppel by

representation)」との関係をどのように捉えるかは、さらなる検討を要する困難な問題

である。表示による禁反言を不動産に関する事実に適用する場合には、それを物権的禁反 言と呼ぶという理解で納得できるならよいが(B McFarlane, n5①, at 1.09)、物権的禁 反言はエクイティで認められてきた法理であり、問題はそれほど単純ではない。物権的 禁反言の場合は、Aによる表示が事実に限定されておらず、事実と法の混合についての 表示でも、解釈論上の争いを生じることなしにその適用が認められている点が、表示に よる禁反言とは若干異なる。しかし、このことが両者を明確に区別する決め手になると まではいえない。Yeoman’s Row判決において、Lord Scottは物権的禁反言を約束的禁 反言と同一視し、ひいてはこれらを表示による禁反言の一部として位置づけようとして いるものと思われるが、前述したように、この見解はThorner判決で否定された。Lord

Scottのように物権的禁反言を表示型に集約して理解する考え方は、実際に物権的禁反言

の名の下で認められてきた様々なケースの違いを等閑視するものであり、そのことが物 権的禁反言の要件を曖昧で分かりにくいものとする一因であったと考えられることから、

受け入れることはできない。ただ、そうであればなおさら、表示型の物権的禁反言と表 示による禁反言との関係を明らかにする必要があり、本稿では本格的な考察に及ぶこと はできないが、歴史的な経緯も踏まえて、今後の検討が必要な問題である。

なお、コモンローとエクイティ双方に関わる禁反言全般の解説については、S Bower, n1, at 1.11-1.34;植田・前掲注(2)参照。

(45)もっとも、かつては黙認型と表示型について、Aの法的権利に関する不誠実な主張を封 じる点で共通しているとし、両者を区別せずに融合させる見方もあった。代表的なもの として、G Spencer Bower, Estoppel by Representation, 1st edn (1923) at 351参照。

(23)

知っている必要はない(たとえば、境界についての紛争を想起されたい。)(46)。具 体例としては、先の

Taylors

判決がこれにあたる。また、物権的禁反言の

3

類型の 中で、表示型だけは訴訟原因とはならない。

4

)そして、この

60

年ほどで急速に発展してきたのが、第

3

類型の約束型

promise-based

)である。これは、

A

B

に対して、

A

の不動産に関する権利取 得を約束し、

B

がこの約束を信頼して不利益的な行為をしたときに問題となる。そ の起源は、

Ramsden

判決の

Lord Kingsdown

の説示にあり、その後、

Plimmer

判決、

Inwards

判決、

ER Ives

判決、

Crabb

判決、

Yeoman’s Row

判決等を経て、

Thorner

判決で一応の結実をみたということができる。この類型は、

A

の約束を

信頼して不利益的な行為をした

B

にその不利益を負担させることがないように

A

の責任を認めるもので、独立の権利発生根拠となり得る。

A

の約束に対する

B

の 信頼に基づいて

B

に新たな権利が発生するというのであれば、それは

AB

間に契 約の成立が認められる場合とどこが違うのか、また、契約の成立が認められないに もかかわらず、

B

が不動産に関する権利を取得できるのはなぜなのかが問題にな る。つまり、約束型の物権的禁反言は、他の類型と比較して、契約法との微妙な関 係が常に問題とされ、時に契約法上の伝統的なルール(約因理論や不動産契約の書 面性)を脅かすものとして、なかなか認知されるに至らなかったのである。

しかし、現在では、この約束型が

3

類型の中で最も注目すべき存在である。イギ リスにおいてこの法理が確立すれば、契約交渉破棄の責任を認める際の有力な根拠 の

1

つにもなり得る。アメリカでは約束的禁反言が契約交渉破棄の責任の根拠と して既に認められているが、イギリスの約束型の物権的禁反言は訴訟原因として認 められており、その効果も金銭的な補償にとどまらず、不動産に関する権利取得ま で認められていることから、そのインパクトは約束的禁反言以上に大きい。約束型 の物権的禁反言は、もはや「禁反言」という語が持つイメージからはかけ離れた、

独自の権利取得原因としての役割が期待されているのである。また、約束型の物権 的禁反言をどのように捉え、位置づけるかという問題は、必然的に従来の契約法理 の見直しにも通ずる問題である。

そこで、以下ではこの約束型の物権的禁反言に焦点をあて、その要件論を中心 に判例を分析していくことにする。約束型についての現時点での最上級審の判断 (46) Hopgood v. Brown, [1955] 1 WLR 213; B McFarlane, n5①, at 1.10-1.11.

(24)

Thorner

判決であるが、同判決で

Lord Walker

が指摘していたのは、①

A

の約 束、②

B

の信頼、③

A

の約束を信頼したことにより

B

に不利益が生じたこと、の

3

つの要素であった。これらの要素は相互に密接に関連しているため、それぞれを 明確に分けて説明することは難しい点もあるが、以下この

3

つの要素を手がかりに しながら検討していく(47)

2

要件①―「約束」の存在

1

)まず、約束型の物権的禁反言が適用されるためには、

A

が、自分の財産に関 する権利を

B

が将来取得することを「約束」していることが必要である。初期の

Huning

判決のように、黙認型の物権的禁反言の場合には、

A

による約束は不要で

あり、ただ、

B

A

による将来の特定の行為を期待して行動していることについ て、

A

がその期待や行動を助長(

encouragement

)しているだけで足りるとされて いたのとは異なる(48)。もっとも、

Thorner

判決では要件として約束の必要性が 認められたものの、それ以前の判例の中には、約束がなくても

A

による「助長」が あれば足りるとしているように見えるものもある。そもそも、約束型の起源と評さ れている

Ramsden

判決における

Lord Kingsdown

の説示も、「

A

による約束」な いし「

A

によってもたらされた期待」を並立してそれらの保護を問題としていた。

A

によってもたらされた期待を、

A

による約束に対する信頼と同視できるのであれ ば、約束と助長とを厳密に区別する必要はないであろうが、

Lord Kingsdown

の簡 潔な説示から、このような解釈が無理なく導けるとは思えない(49)。また、

Crabb

判決の

Lord Denning

は、当該事案における約束の存在を否定しながら、物権的 禁反言の適用を約束型と同じように認めていた。

このように、従来の判例の全てが約束の存在を必要としているわけではないと見 る余地もあることから、学説でも物権的禁反言の要件として約束は不要とする見解 がある(50)。しかし、物権的禁反言の適用が認められれば、

A

による特定の将来の (47)より詳細かつ網羅的な要件論の整理については、B McFarlane, n5①, at 2.73-2.251, 3.98-3.280, 4.01-4.215, 5.01-5.32, 5.54-5.114参照。なお、以下では約束型の要件論を 中心に検討するが、3類型全てに共通する議論については約束型以外の判例も対象として 検討している。

(48) B McFarlane, n5①, at 2.98-2.109.

(49) B McFarlane, n5①, at 2.103.

(50) A Robertson, The Form and Substance of Equitable Estoppel, in A Robertson & J

参照

関連したドキュメント

まず、序論においては現在の魔女研究の動向を提示し、本論文の目的と対象の設定理由を論

同義として扱っていると説明した。さらに、副査の渥美教授から、 EVD

つと想定される。ミルク中の FA8:0

ナノ材料科学において金属材料の持つ高い光吸収能、光散乱効果や閉じ込め効果を利用したエ

モデルを構築することに成功した。ヒトとマウス CD1d の構造を比較すると、抗原のアミド基の

最近の研究において、 AAV のひとつである好酸球性多発血管炎性肉芽腫症( EGPA )の末梢神経障害に対する IVIG の有効性が示されている。しかし、本邦における EGPA は

また、この変化に ABE の投与は影響を及ぼさないことを示した。酸化ストレスに関して は、 STZ 群において酸化ストレスマーカーである p62 、 p-p62 、

両眼視差 は左右の眼球の位置が異なることにより生じる左右の眼球内で結像する網膜像の差異を指し , 物体