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(1)

保険モデルに見る時の概念について

大 森 義 夫

■アブストラクト

モデルとは社会現象を説明する模型である。大数の法則にもとづく保険モ デルP=w ・S(P ;保険料,w ;保険事故発生確率,S;保険金)の等号に は現時点での貨幣の等価交換と異時点における貨幣の交換という事柄も含ま れている。前者が 時よ止まれ 型の時であり,後者が 時の交換 型の時 である。 時の交換 には対称性と非対称性とが内在しており,これを解決 する手段は逐一モデルを修正するか,あるいは,事後清算するかである。ま た,相互会社か株式会社かの経営形態により競争上,有利不利が生じるかど うかを検証する。

■キーワード

ネーターの法則 , 市場裁定と複製 , 時の交換 の対称性・非対称性

はじめに

保険学は総合科学である。しからば,保険学は科学の粋を集めたものであ らねばならない。モデリングで言えばあらゆるモデルを考察し,それらを保 険に適用してみることも必要であろう。

本稿では,保険と関連の深いと考えられる簡単な二つのモデルにおける時間 の概念に焦点を当てながら保険モデルを論じる。

*平成21年9月18日の日本保険学会関東部会報告による。

/平成21年10月15日原稿受領。

(2)

1.モデルに見る時の概念とモデルの中の空間

1)三つの時の概念

モデルとは現象の模型である。この模型は現象にある相互の関係を数式あ るいは言語によって型づくったものである。また,モデリングとは過去.現 在.未来の情報をモデルの中に取込んで,説明したい現象を説明する技法で もある。モデルには次の三つの時の概念が導入されていると考えている。

それらは 時は流れず 型 時よ止まれ 型 時の交換 型 の時である。(それぞれをⅠ型,Ⅱ型,Ⅲ型と記す。)

時は流れず 型は定常状態のモデルや媒体を通じて時が流れているモデ ルである。

更に,生命表やオプション理論の複製などもこれに該当する。このことを モデリングで説明すると次のようになる。ある人が利用したい事柄(情報)

を現時点で利用者に役立つようにするためモデルを構築する。このモデルが 利用者に役立つかどうかがこのモデルを利用する際の価値判断となる。モデ リングとは, 過去 現在 未来 を現時点の情報で構築している。した がって,時間そのものは付随物として取り扱われており,時は流れていない のである。

これがよくわかるのは,ベイジアン流の条件付き確率による推論である。

Xが生じる確率をP(X),Yの生じる確率をP(Y)と書く。XとYとの同 時分布はP(X,Y)とP(Y,X)で書く。この両者は等しいとしている。

Xが先でYが後であるとか,Xが原因でYが結果である,とかという因果関 係も無視されている 。

従って,これを用いたモデルに,たとえ,因果律や時間の前後差があって もそれらは可逆的であり,一平面あるいは現在と考えてよい。ベイジアン流 のモデルは 時は流れず 型から更に進んだ概念である。

1) 大森 1997

p

.100参照。

2) 宮川 2007

p112

,113 ;伊庭 ベイズ統計と統計物理

p

.4参照。

(3)

次に, 時よ止まれ 型は言葉どおりで,ある時点での時を基にして構成 されているモデル中の時間である。例えば,これは保険数理で古くから用い られている現在価値である。

時の交換 型は異時点で相互の出来事が交換されるモデルに含まれてい る時の概念である。 時の交換 という言葉そのものになじみが無いので説 明する。この言葉は黒田明信氏が貨幣の生成の説明で用いている。貨幣の生 成には 財の交換 と 時の交換 論がある。黒田氏は 財の交換 論の 方は生産と交易とがはっきり区分される社会像に親和する。 時の交換 論 の方は同じものが米をある時は保持し,ある時は売却するわけであるから自 給と交換との境目が可変的なものとなる。 と述べている 。

なぜそのようなことがおきるかの理由として それを欲し,また逆に自己 の在庫を処分したがる時間に差があるからである。 と述べている。

このことは保険への加入動機そして加入時での保険料支払いと保険事故発 生時の保険金支払いとの時の交換と解釈できる。また,先物取引や先渡契約 は現時点から見て先の時点におけるある物の取引や引渡しを現時点で契約す るのであるから 時の交換 であることがわかる。

時は流れず 型の時と 時の交換 型の時について少し普遍する。 時は 流れず 型の時は時が流れずであるから時を変換しても 時は流れず であ る。時を変換すれば,その時点で 時の流れ の速度は変わる。しかし,時 と並進的に進んでいれば,それは時が流れない状態になる。例えれば,川を 二つの舟で下っている状態を考えれば,急流では舟は速くなり,淵では遅く なる。しかし,舟に乗っている人から見ると他方の舟は並進的に進んでいる。

これが時の変換と時の一様性の概念である。従って, 時の変換 の概念か らは 時の交換 の概念は生じない。逆に言えば, 時の交換 があるから,

時は流れず となるモデルを構築するのである。

これらの三つの時の概念がモデルの中に現れる。

3) 黒田

p

.201。

4) 黒田

p

.200。

(4)

2)モデルの中に見る空間

自然科学のモデルでは,原子の運動や原子構造の解明あるいは天体運動の 解明まで対象空間は多様である。社会科学においても個人の行動を探るモデ ルから集団である企業や国家等のモデルまで対象範囲は多様である。したが つて,モデルの対象空間によって,その作り方も異なる。しかし,モデリン グでは何か変わらないものがあって,その不変のものを前提としてモデルを 作る。

本稿では,その不変のものを 対称性 の概念で見ている。これはネータ ーの定理 何か1つの対称性があれば,それに伴って1つの保存則が存在す る によっている。このため,ある系において対称性を認めればその系の リスク総和は不変である。

リスク総和が不変であれば,それを他に転嫁しても,移転先がそのリスク を引き受けるのであるからリスク総和は変わらない。これはエネルギー保存 の法則と同様である。

2.フリーランチと再保険

1)フリーランチと 時は流れず

株と債券(絶対安全なもの)とで裁定価格モデルを作成する。一期間の株 と債券との値動きを考える 。

5) 南部

p

.99;レーダーマン╱ヒル

p

.123。

6) 以下の記述は拙文 フリーランチ ,鳴海・第85号(1994年3月)をベース

とし,森真・藤田

pp

.161‑164による。

(5)

図表1のように株は0期で1株100円とする。1期後にそ の 株 が 確 率

(w 1)で100円に,w 2=(1−w 1)の確率で1000円になったとする。債券の利 率は10%であるから確実に1期後に110円になるとする。

さて,このような場合,1期後に1株を560円で9株買う権利(コールオ プシヨン)が0期で取引されたとする。

もちろん株価が1株100円ならば,この権利は行使しないので利得は0円 であり,1000円ならば,権利を行使し,1株1000円と行使価格560円との差 440円分の利得を1株で得る。9株では9×440円の利得となる。今,0期に 債券及び株券をそれぞれX円分,Y円分保有していたとする。1期後の資産 は,w 1の場合には(1.1

X+Y)円,w

2の場合には{1.1

X+(1+9)Y}円と

なる。

そこで先に述べた

w

1の場合の利得は0円,w 2の場合の利得は9×440円を 実現するための資産は次の方程式の解である。

1.1

X+Y=0

1.1

X+(1+9)Y=9×440

X=−400円,Y=440円となる。即ち0期の資産は40円で,債券400円分

を空売りし,1株を100円で4.4株(440円分)購入する。40円の元手で1期

図表1 株と債券との値動き

(6)

後に1株を1000円で9株買う権利が複製されたことになる。即ち

w

1の場合 には,市場価格で4.4株を440円で売り,債券400円とその利息40円を支払い,

利得は0円である。また,w 2の場合には,1株1000円で4.4株売れば,債券 と利息との合計440円を返して,9×440円((1+9)×100×4.4−440円)の利 得となる。

従って,このコールオプション価格は40円となる。このオプション料を50 円で0期に売ると40円の元手で

w

1の確率がどのようであっても,確実に10 円の利得となる。これがいわゆるフリーランチである。市場裁定が働きフリ ーランチは存在しなくなる。

このコールオプション料をリスク中立確率で解くと1株を560円で購入す るコールオプションの価格は40÷9円となり,9株ではやはり40円となる。

コールオプション料

C

=[Pd ・Max {(1+d )・S−K, 0}+Pu ・Max {(1+u )・S−K, 0}]

÷(1+r ) ……… ① (注)1)r =10%

K=560円 u

=9

d=0

2)Pu =(

r

−d )/(

u

−d )

Pd

=(

u

−r )/(

u

−d )

3)株価Sは0期1株100円 1期後に100円または1000円となる。

さて,どうして発生確率が消えたのか。それは1期後の状況が,0期の

C1株(ここでは4.4株)と0期のC2口(ここでは100円の債券4口)を保有

することで複製されたからである。これを時の概念で解釈すれば,1期後の 資産状況を現在価値でおきなおしたものが①式である。現在価値で①式の左 右両辺が等しく,その後,時を流した後も③式で左右両辺は等しくなる。

0期

C=C

1×S+C 2×B ……… ② 1期

C×(1+r

)=C1×S×(1+r )+C2×B×(1+r )

=Pd ×Max {(1+d )

S

−K,0}+Pu ×Max {(1+u )

S−K,0}

… ③

(注)

C:コールオプション料,S

B:0時点の株価と債券の価格

(7)

即ち,0期のオプシヨン料と1期後に生じる行使権との間に 時の交換 が生じ,0期における貨幣の等価交換が1期後にも保たれている(③式)。

時の交換 のもとで,貨幣交換の対称性が保たれている。これが③式の 意味することである。 時の交換 の対称性は保たれていますか と 市 場裁定は働いていますか ・ 複製できますか とは異なった概念であるが,

1つの保存システムを別の見方から表現したものと言えよう。

従って,このオプションモデルはⅠ型,Ⅱ型,Ⅲ型の三つ時を同時に含ん でおり, 時の交換 の対称性も保たれている。

⑵ オプシヨン構造と再保険

株式市場における株価の上昇率(u)や下降率(d),債券市場における 金利(r)がいくら相互作用しても決して,保険事故の発生率(w)そのも のは説明できない。日本に大地震が近く起こりそうだからの思惑で東京市場 の株価は動く事はあろうが,その逆は考えにくい。しかし,このコールオプ ションの構造は保険会社が再保険を利用する場合の構造と類似している。K 社のA保険商品において,1年間の支払保険金額は100億円であり。異常災 害の発生に備えて560億円の準備金を積んでいるとする。

もし,大地震等の異常災害が発生し,K社のA商品における支払金額が 1000億円に達したとすれば,K社はS再保険会社との間に,再保険料88億円 で1000億円と560億円との差額440億円の支払いがある再保険契約を結んだと する。仮にK社の純保険料ベースでの年間収入保険料が200億円を超えてい るとすれば,このことも可能であろう。

また,過去10年間の経験からその権利を行使したこともないので,他にリ スク移転の方策はないかと考えたとする。図1の円を億円とすれば,40億円 でこの仕組みが利用できる。そのような株がなければ,その仕組みを作るこ とになる。そこで,次のように考える。

K社はT特別会社に88億円を支払うから440億円の資金調達を依頼する。

K社は再保険料と同じ金額88億円をT社に支払えばよい。もちろん,T社は

(8)

異常災害が発生し,K社のA商品の支払額が1000億円に達すれば,元本は0 円になるとの条件付で資金を調達する。このK社とT社との契約は図表1と 同じ構造である。(図表1の円を億円とする。)T社から委託を受けたものが 調達した資金の管理や投資者に対する報奨金の支払い等の仕事をする。K社 は異常災害の発生で,1000億円以上の支払いをしなければならなくなると,

権利を行使してT社から440億円を受取り,危険準備金560億円と440億円と で1000億円分の支払いに充てる。他方,異常災害の発生があるなしにかかわ らずT特別会社はK社から受取る88億円を事務管理費などに充てるほか,そ の大部分は投資者への支払いに充てることとなろう。異常災害が発生しなけ れば,投資者から調達した440億円はそのままである。これにより,K社の 異常災害発生による保険金支払い増のリスクがT特別会社に一部移転された ことになる。一方委託をうけたT社は元本放棄では資金が集まらないと考え れば元本放棄をやめて一定額を保証し,プットオプションを用いてポートフ ォリオを組むことになる。これが

ART(alternative risk transfer

)に見 られるリスク移転の仕組みであろう。

3.国際資金調達と貨幣交換の非対称性

1)NKKモデルに見る国際資金調達

企業がグローバル市場で資金を調達しようとすれば,為替市場が問題とな る。そこで1994年1月

NKK

社は二国の通貨による資金調達をユーロ債市場 で実施したが,その様子を見てみよう。図表2 にその広告の一部を示して いるが,多くの内外の有名会社が名を連らねている。

7)

Solnik/Mcleavey

・p .317の筆者訳。

(9)

日・米の金利はそれぞれ4%と12%とである。円・ドルの為替レイトは 181.0284円╱1ドルである。途中のキャッシュフロ−は円建てで満期はドル 建てでおこなう。従って,この社債の現在価値は円建てが円金利でドル建て が米金利で割り戻したものである。即ち,

PV=PV

+PV ;PV = 16

億円

1.04 + 16

億円

1.04 +……+ 16

億円

1.04 =129.4億円;

PV

=181.0284× 110.480

百万ドル

(1.12) =64.4億円;

PV

+PV =193.8億円となる 。 200億円との差額6.2億円が安全割り増しで,PV の10%程度である。(10年 後の円ドルレイトは86.15から94.76程度である 。)これをもう少し一般化 すれば次のようになる。

PV

=PV +PV (3.1)

PV

(

rドル

−r

)

(1+r

) (3.2)

図表2 NKKの広告

8) 東京大学金融教育研究センター主催・Bruno Solnik 氏のレクチャー (2008 年4月) に安全割り増しの考えを導入したもの。

9)

S

=S × 1.04

1.12 =86.15

円/ドル

(S =181.0284)S ×1.10=94.76

(10)

PV

=S ×

A/S

(1+r

) (3.3)

(注) 1)A:調達資金又は元本,S ,S は0時点,n時点の円ドルの為替レ イト

2)r

,r

ドル

は円,ドルの金利

S

=S × (1+r

)

(1+r

ドル

) (3.4)

そして,PV+L =A であるが,これからは,PV=A として論を進める。

安全割り増し(L)に立ち入ると,マルチンゲールやランダムウオークによ る平均値と分散の話になるので立ち入らない。この

NKK

モデルでは現時点 における日米の金利差や10年後の為替レイトが入っているが,10年後の為替 レイトが金利平価条件を満たせば

NKK

モデルは(3.4)式そのものである。

為替レイトが金利平価条件を満たし,現時点における日米の金利が将来の 日米の為替レイトを決めるとして論を進める。

現時点で日米の為替レイトが1ドル100円とする。N年後には1ドルが円 に換算して

S

円だとする。即ち,現時点の1ドル=100円の対称性から仮定 により

n

年後における日米の通貨交換の対称性が 1

ドル

×(1+r

ドル

)=100

× (1+r

)によつて,導かれる。

n年後の為替レイトはS

=1

ドル

=100

× (1+r

)

(1+r

ドル

) である。

S

×(1+r

ドル

)=S ×(1+r

)

S

は現時点であり,円とドルとの現時点に おける通貨交換の対称性がN時点でも保たれている。(時空における貨幣価 値の並進的対称性)

この並進的対称性をもとに(3.3)式の現在価値が計算される。

(3.3)式のモデルは一見 時よ止まれ 型のみであるかのようであるが,

日米通貨交換における並進的対称性が保たれているという意味で為替レイト

の中に 時は流れず 型の時が入っていると言える。

(11)

⑵ 貨幣交換の対称性と非対称性

S

×(1+r

ドル

)=S ×(1+r

) (3.5)

S

は現時点におけるドルと円との相対的価値である。S はn時点の円ド ルの相対的価値即ち,円ドルの為替レイトである。

為替レイトを決定するものは何か。これについては相対的購買力平価(物 価上昇率裁定)とか金利裁定とか が考えられる。更に卸売物価か消費者物 価か,名目金利か実質金利か等いろいろとあるが,ここでは(3.5)式の左 右のバランスが時の流れの中で不変であるとする。このことは,円とドルと の相対的価値が(3.5)式に沿って流れており,この式により両者の貨幣価 値の対称性が保たれている。

しかし,米ドルは円に比べ国際通貨としての性格が極めて強い。そのため,

円とドルとの交換比率は国際通貨性から見た交換比率(例えば,輸出入物価 をもとにした購買力平価,この中には円のローカルマネーの性格が含まれて いるが)と日常生活で用いられるローカルマネー同士(例えば,日米の消費 者物価)の交換比率とでは為替レイトが異なっても良いが,実祭は一つのレ イトに収斂する。即ち日米の為替レイトにはグローバル性とローカル性とが 混載している。このため,現時点の 貨幣価値交換の対称性 がいつ崩れて もおかしくない。また,円ドルの為替レイトはその需給や思惑に左右されて 絶えず変動している。(本稿ではこれは取り扱わない。)

(3.3)式には 貨幣価値交換の対称性 と その非対称性 とが混在して いる。従って,(3.1)式は 貨幣価値交換の対称性 が保たれた取引ではな い。

保険の計理で言う事後清算の考えが必要かとも思われるがその考えもない。

(3.1)式を少しアレンジして,元本が10年後の生存者のみに支払われると考 える。もし,10年後の為替レイトが予定どおりであれば,生存率の上下によ り支払い額が左右される。この商品は保険となり,顧客に対する事後清算が

10) 国際通貨研究所・ 国際金融読本 の第7章第4節 外国為替相場の決定

pp.131‑142参照。

(12)

必要になろう。しかし生存部の損益をヘツジや再保険するとそれが不必要と なる。これは不思議なことである。

4.保険モデルと 時の交換 の非対称性

1)保険モデルに見る時の概念

保険モデル

P=w

S(P;保険料,w

;保険事故発生確率,S:保険金)

には第一章1で述べた三つの時の概念が内在している。即ちⅠ型の 時は流 れず ,Ⅱ型の 時よ止まれ ,Ⅲ型の 時の交換 である。

保険契約者と保険者との間で

w

の保険事故発生確率で契約が締結される。

その契約内容は 契約者が被保険者に保険事故が発生すれば保険者は保険金 受取人に保険金を支払う。 ということである。このモデルに時間を導入す ると,P =w ×S となる。

0 は現時点を, 1 は1期後である終期を,また 0,1)は保障期 間,tは 0,1)内のある時点である。t=0に保険事故が発生している 場合の保険金の支払いであるが,その事実を契約者等が知らない際には保険 金が支払わられることからt=0を含むとした。(保険期間であるので当然 のようでもあるが念のために記す。)w は 時は流れず 型の時により

w(t

0,1)) の事前分布と事後分布が同じかあるいは事後分布が当初に 予測されたとおりと成るならば動的平衡状態が生じていると考えることもで きる。

即ち

w

は 過去の

w

の情報 から 現時点で将来の推移 が予測さ れるということである。このことはⅠ型を示している。次に等号の解釈であ るが,現時点で契約者と保険者との間で 貨幣の等価交換 が行なわれるこ とを意味している。また,この等号には保険料の事前払いと保険事故発生時 の保険金支払いという異時点における 時の交換 の意味も含まれている。

現時点では確かに一つの対称性が保たれているが,時の経過とともにこの対

称性がⅠ型のとおりに保たれるかそれは不明である。今までこの対称性の崩

れについて情報の非対称性とか被保険者の危険増,保険者の支払い能力等の

(13)

観点から論じられてきた。ここでは 時の交換 の対称性,非対称性の観点 から論じる。

2) 時の交換 の対称性と非対称性

P

=w ×S の式により 時の交換 の対称性が保証されているかのよ うである。

それは

w

が大数の法則によりほぼ一定の値に近づくし,高いソルベン シーマージン比率や保険契約者保護機構などにより保険金の支払いが保証さ れている。更に,収支相等の原則により事後清算が保証されているからであ る(無配当保険は事前の収支相当の原則のみである。)。これにより保険シス テムの安定性が保たれている。しかし,P =w ×S は現在価値の等価交 換という 0 時点の対称性を与えており, 0,1) 間内での対称性を保 証しているものではない。保険者は時の経過に伴って破産する可能性もある ので,将来に渡っての対称性が保証されていない。大多数の者が保険に加入 すれば誰かが確実に存続し,保険者の存続性よりも高くなる。従って,

P

=w ×S の中にすでに 時の交換 の非対称性が内在されている。ま た, 時の交換 は銀行でも証券でも生じるが,保険ではそれが保険事故発 生という偶然性に支配されていることに特質がある。自殺などの例外はある ものの,基本的には契約関係者による事故招致は保険金の支払いの対象とは ならない。

確かに,将来の事故率や金利・為替・株価更には失効・解約率等は確率微

分方程式を用い,それらの変動に対する相互関係を相関係数で表し,モンテ

カルロ法でシュミレイションし,それらから,キャシュフローの現在価値で

保険料は計算できる。この保険料のうち分布の平均値(またはある値)を下

回る値の平均値(リスクプレミアム)と自己資本の充実に要する費用(銀行

等からの借り入れの利子や株主配当等の資本コスト)とを先に計算した保険

料に加算すればよい。このリスクプレミアムと資本コストを加えたものを

(14)

RM(リスクマージン)とすれば,P

= ∑

P

N

×S+RM となる。これは 保険者側の保険料である。契約者側は

P

=w ×S であり,RM はない方 がよい。しかし,保険者の提供する保険料には

RM

が上乗せされている。

このため,金融の自由化によって必ずしも保険料が安くなるとはかぎらない。

さらに,ネーターの定理より対称性に基づいたモデルでは現時点のリスク 総量が不変である。しかし,事故率や分散は科学技術の発展により減少する。

一方,株価や為替等の分散はグローバル化の進展とともに増大するかもしれ ない。もちろん,現状では保険市場は完備ではないので商品の複製ができな い。この為,誰もが認める保険料の計算が難しい。しかし,従来の保険料計 算のままで良いとは考えられない。一歩でも進んだ保険料の計算システムが 求められている。そのシステムが対称性に基づく限り,リスク総和は不変で あるから死亡率や事故率の減少・安定化が進めば,保険料の事後清算は必然 的に残ることになる。このことは事後の収支相当の原則が必要であることを 示している。

⑶ モデル1.2.3を用いた経営モデル

以上3つのモデルをもとにして作成した経営モデルは以下の通りである。

これにより会社形態により有利不利があるのかを見てみよう。

資金の運用は日米の債券と株式で,予定利回りは債券の利回りである。そ の利回りでヘッジする。

11)

∑内のPnはモンテカルロ法で1つ1つ計算した現在価値ベースの保険料率

である。

(15)

図表3 日米の株価と債券の動き 1期

case

1

case

2

case

3

日本(円)

株価変わらず 株価上昇 債券

100 100 100

100 108 104

すべて 同左

すべて 同左

米国(ドル)

株価変わらず 株価上昇 債券

1 1 1

1 1.1631 1.12

同左 1.1463 同左

同左 1.24 同左

(注)1)現時点の為替は1ドル=100円とする。為替は金利平価条件を満たす。

2)日米の行使価格(K)はそれぞれ104円・1.12ドルである。コールオプション料 は行使価格Kで10株買う権利のものである。

3)ア.case 1は株価上昇による株価だけの利益(現在価値)が日米で等しくなる場 合。

イ.case 2は日米のオプション料を等しくした場合。

ウ.case 3は株価の上昇率が確定利率の倍(日本 8%:米国 24%)とした場合。

4)日米の株価の上昇・下降はパラレルに動くとする。

0期

図表4 日米の損得表(コールオプション料を含む) 株価 日本 米国

(注)1)

case

1.

case

2の選択は無い。

2)

case

3の選択はあるが,米ドルは日本に比べリスクが高い。米国の株数 を10株から4株にすれば,米国の損得は日本と同じ程度になる。

case

1

case

2

case

3

株価上昇 株価変わらず 株価上昇 株価変わらず 株価上昇 株価変わらず

19.3

−19.2 19.3

−19.2 19.3

−19.2 10.2

−28.3 1.8

−19.2 53

−54

(16)

米ドルでの運用利回りが日本のそれよりも高いので米国での運用が有利の 様に見える。また,日本で投資するよりも米国で投資して利得の額を増やし,

競争に勝とうとする。現時点では為替の動きが円安か円高か分からないが,

図表4の

case

3から自己資本が十分有るから米ドルでの運用が可能であると 考える。

一方,契約者は米ドルの利回りは日本より極めて高いし,為替もそんなに 円高にはならないだろうと考えている。

そこで,経営者が競争に勝つため米ドル運用を選択したとする。次期以降 も同じ選択をし,裏目が続けば,この会社は破綻することもあろう。

ところで,2008年10月10日に大和生命が破綻した(2008年3月のソルベン シーマージン:555.4%)。2001年11月22日に破綻した大成火災は直前のソル ベンシーマージンは815.2(2001年3月)である。それらはかなり高い値で ある。2009年3月と2008年3月とのソルベンシーマージンを生命保険会社で 見ると2008年9月のリーマン・ショックもあり,それが600を超えて下落し た会社が2社ある。当然,経営者は過去の事例から学び自社における破綻防 止策を講じているが,それが生じないとはいえない。図表4の

case

3ではリ スクを取りすぎであるので,1╱10のリスクとすると,日米それぞれの値 は±1.9と±5.4となる。

図表5 円ドルの保険料と保険金 保険料 保険金 日本円 100 104 米国ドル 1 1.12

(注)1)p=w ×S÷ 1+r で保険料を計算する。1期後の生存率は0.99,日米の 金利はそれぞれ4%。12%とする。現時点の円ドルレイトは1ドル=

100円とする。

2)計算上の保険料は99円であるが,安全割り増し1円を加えて100円とす る。

3)日米での運用は

case

3(図表3)とする。1期後の為替レイトは1ド

ル=100円×1.04

╱1.12=93円である。

(17)

この状態で1期後の清算を考える。利得を得た場合は将来の損失に備えて,

自己資本を増やし,資本提供者には配当をし,その残が契約者配当になる。

損失が出れば安全割り増しの1円分や市場からの資金調達により自己資金を 補充することになる。この構造は会社形体に由らない。確かに,利得を得た 場合には資本提供者に対する配当の有り無しにより相互会社の方が株式会社 に比べ配当競争では有利かもしれない。一方,損失が出た場合には株式の方 が相互会社に比べ資金調達先の選択肢は多い。そのため,株式会社の方が相 互会社に比べて低いコストで資金の調達が可能であるかもしれないが,その 保証はない。これさえも経営者の力量が左右しかねない。最大の違いは株式 会社が市場からの調達資金によりより多くのリスクを取りそれにより多くの 利益を上げられるかどうかである。更に,経営形態によらず経営者が資金調 達時のストレスを避けるために自己資本の充実を優先し,ソルベンシーマー ジンを高め,配当を少なくする。これらの課題を克服することがまさに経営 者の力量によるものである。しからば,相互会社であろうが,株式会社であ ろうが,経営者の力量が会社の命運を左右する。従って,会社形態よる有利 不利は断言できないと言えよう。

結 び

橋の上からみると川の流れは流れていないように見えるが,実は流れてい る。社会情勢は時々刻々変化しており,リスク総和も変化している。 時の 交換 の対称性がモデルの中に入っているとリスク総和は不変となる。この 矛盾は解決しなくてはなら無い。新しい保険モデルの構築が求められている。

参考 献

1.大森荘造 1997 時は流れず 青士社

2.伊庭幸人 2003 ベイズ統計と統計物理 岩波書店 3.宮川公男 2007 基本統計学 有斐閣

4.黒田明伸 2004 貨幣システムの世界史⎜非対称性をよむ 岩波書店

5.南部陽一郎 1992 クオーク素粒子物理の最前線 講談社

(18)

6.レオン・レーダーマン╱クリストファー・ヒル 小林茂樹訳 2008 対象性 白揚社

7.森真・藤田岳彦 1999 確率・統計入門 講談社

8.新日本監査法人 平成16年7月 会計処理のための金融工学

9.Bruno Solnik/

Dennis Mcleavey International Investments fifth edition

10.国際通貨研究所 2004 国際金融読本

11.下和田功〔編〕 2004 はじめて学ぶリスクと保険 有斐閣ブックス 12.松島惠 2008 損害保険入門 成文堂

13.山下友信 2006 保険法 有斐閣

14.日本アクチュアリー会 平成15年6月 損保数理 15.伊藤清 2007 確率論の基礎 岩波書店

16.伊藤清 2007 確率過程 岩波書店

17.刈屋武昭 2003 不動産金融工学とは何か 東洋経済新報社 18.小島昌太郎 昭和3年 保険本質論 有斐閣

19.日本アクチュアリー会会報別冊第205号 27

ICA

報告書

20.日本保険学会 保険学雑誌 第605号 後藤和彦 差異が縮小するリスク・サ ービス産業

21.森本祐司 金融と保険の融合について 日本銀行金融研究所

22.猪ノ口勝徳 現下の保険計理上の諸問題について ニッセイ基礎研(所報

v

l

47)

23.文部科学省科学技術政策研究所 数学イノベーション 工業調査会 楠岡成

雄 確率解析とファイナンス ,田中周二 保険数理の考え方と展望

参照

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