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吉岡 伸*・渡邉直美**    (1994年10月12日受理)

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自閉児の行動に及ぼす動作訓練の効果

吉岡 伸*・渡邉直美**

   (1994年10月12日受理)

Effects of Motor Action Training on the Behavior of an Autistic Child

Shin YosHloKA and Naomi WATANABE

  (Received October 12,1994)

 動作訓練とは,脳性マヒ児の動作不自由を改善するために,成瀬(1973)を中心にして開発された 方法である。「意図一努カー身体運動」という一連の過程を「動作」とよぶ立場からすれば,それま で不適切にしかできなかった努力の仕方を改善して,より適切な形でできるように,子どもの努力 の仕方を変化させていくことを動作訓練として定義づけることができる。たとえ動作において具体 的に扱うものは身体運動という生理現象だとしても,それが意図とその実現努力の結果として表現 されたものとすれば,それはひとつの心理現象としてみることができる。即ち,動作訓練とは,今 までに適切に身体を動かしたことの経験が少ないために動かせなかったり(未学習),あるいは誤っ た動きしかしていない(誤学習)という場合に,新たな学習や誤学習の消去と再学習を行わせて,目 標となる身体運動を行う計画やその努力の仕方を教えるという援助を行う,心理学の立場からのア プローチ法である。従って,動作訓練は,動作の改善はもちろんのことであるが,それと同時にか らだへの働きかけを通してこころの活動の改善を図る援助の方法であると言えよう。

 しかし,動作訓練が開発された当初は,動作の改善の評価ということに関心の焦点があったために,

こころの変化ということにはあまり関心が払われなかった。大野(1984)は,1972年にある自閉症児 に動作訓練を適用したところ,動作の改善はもとより日常生活全般の改善・向上が得られることを 見いだしたが,こうした試みを契機にして,動作訓練をこころの働きをも活性化するための指導法と

して発展させた動作法の適用の試みが広がっていったのである。

 今野(1990)は,自閉症児や多動児に腕あげ動作コントロール訓練を適用し,多動行動や固執行動な どに大きな改善が得られることを見いだし,今野・田中・大木(1979)は,腕あげ動作コントロー ル訓練を自閉症児や多動児,学習障害児に適用し,こうした問題行動の改善に加えて,対人行動や

*茨城大学教育学部障害児教育研究室

**茨城大学教育学部障害児教育学科

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言語行動にも改善が得られることを見いだした。また,訓練経過を検討した結果,自閉症児の場合 には,訓練経過の途中で再び訓練に対する抵抗が強くなったり慢性緊張が強くなり,行動面でも一 時的に退行するが,こうした現象がおさまると質的により高い行動が出現してくるということが見 いだされた。以上のほか,動作法を自閉症児に適用し,関根(1987)は,訓練場面の観察と母親面 接の他に3種類のテストを行い,必ずしも全ての結果において飛躍的な変容は見られなかったものの,

注意の持続力の増大や日常生活における固執行動の軽減,そして言語行動の改善などの変容を報告 している。同じく宮原(1990)も,訓練場面の観察と母親面接を行い,自己のからだに対する気づ き及びコントロールの改善と日常生活における行動の変容を報告している。

 しかしながら,なぜ動作法によって自閉症児の行動変容が得られるのか,については必ずしも明ら かになっていない。確かに,効果は報告されているものの,実際に訓練の中で現れる内容(動作課 題)と,それとの関係で変化していく内容(行動上の変化)との間に距離があるため,その間で何 が起こっているのか,子ども自身の何が変化することによって行動変容が起こるのかということが 明らかでない。

 そこで本研究では,ある一人の自閉症児を対象として,動作法の適用に伴って,動作法での訓練場 面,日常生活場面,遊び・作業活動場面において,トレーニーの行動に生ずる変容を多面的に追跡 することによって,実際に訓練の中で現れる内容(動作課題)と,それとの関係で変化していく内 容(行動上の変化)との間の関係について検討することを目的とする。

1.対象児(トレーニー)

 男子,研究時年齢4歳6か月〜5歳7か月。3歳6か月頃に「自閉」「精神遅滞」との診断を受ける。

2歳10か月から精神薄弱児通園施設A園母子通園で指導を受け,4歳から同A園に入所し,現在に至 る。本研究開始前約1年間,茨城心理リハビリテイション研究会の定例訓練会に通う。

 研究開始前の様子は,小さな時からカレンダーが好きで,数字にかなりの関心があった。カセット や絵本等も好きで,音で絵本を覚えたり,コマーシャル等も聞いて覚え,ブツブツしゃべっていた。

ひらがなや数字を書いてやると喜び,しつこく要求した。一時期「アンパンマンの絵かき歌」にこ っていて自分でも描いたりしたが,その後は描かなくなった。ミニカーや積み木を一列に並べたり して遊ぶ時期が2歳6か月から4歳近くまでと長かった。歌も好きですぐ覚え,言葉ははっきりしな いがメロディーはしっかりしていた。3歳頃までは母親が呼んでも振り向かなかったが,それ以後は 母親にべったりであった。父親との関係は希薄であり,2歳年上の兄とも4歳頃まではほとんど関わ

りがなく,お互いにどうやって関わればよいのか分からないという感じで,遊びにならなかった。他 者との関わりにおいては,あまり人見知りはしなかったが,自分から関わることは少なく,特に同 年齢の子どもに対してはそれが顕著であった。言葉はオウム返しであり,一人でブツブツしゃべっ ていることが多かった。名前を呼んでも振り向かず,注意が向かずに,指示も通らなかった。身辺 自立はうまくいかず,食事においては,自分ではほとんど食べようとせず,ひとつずつつまめるも のやお菓子以外は絶対自分では持って食べなかった。着脱もほとんど親の介助でしていた。また,運

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動面においてはかなり臆病で,低い段差,階段も苦手であった。動作は鈍く,走ることもうまくで きず,ジャンプも手をとってあげてもできなかった。滑り台は好きだったが,一度落ちてから1年位 滑ることができなかった。日常生活において不自由を来すような運動動作上の問題はみられなかっ

た。

2 実施方法

 平成4年10月6日から平成5年11月30日までの間に,合計33セッションを行った。第1セッション から第18セッションにおいては,動作法での訓練母親面接を1セッションとし,第19セッションか

ら第33セッションにおいては,動作法での訓練,母親面接,遊び・作業活動を1セッションとした。

動作法での訓練は,第1セッションから第18セッションにおいては約45分間,第19セッションから第 33セッションにおいては約30分間実施した。

 訓練の始めと終わりでは,トレーナーとトレーニーが向かい合い正座をし,「お願いします。」「あ りがとうございました。」と言って礼をするという挨拶を試みた。主な訓練としては,仰臥位におけ る左右両腕の腕あげ動作コントロール訓練,側臥位での躯幹の弛緩訓練(躯幹のひねり),あぐら座 位での肩の弛緩訓練,顎の弛緩訓練,足首の弛緩訓練,立位での訓練(立位前傾等)を用いた。しか し,それ以外の訓練で,セッションによって部分的に用いたものもある。トレーナーとトレーニー の双方にその時の訓練課題が明確に認知されなければならないので,トレーニーの様子,状況に応 じて課題を設定し,また適宜選択して各セッションにおいて適用した。各訓練を始める前にトレー ナーは,トレーニーに対して言語指示によって訓練体勢をとらせることを試みた。言語指示によっ て訓練体勢をとれなかった場合には,トレーニーを抱き上げたり,手を引いたりして援助し,訓練 体勢をとらせた。訓練を進める中でトレーナーは,トレーニーに対して声かけを行った。トレーニー が訓練に向かっているときは「その調子だよ。」「あともう少しだよ。」などと声をかけ,トレーニー が慢性緊張を弛緩できたり,意図的緊張を出してきたときには「そうそう。上手だよ。」「よくでき たね。」などと言って励ました。また,トレーニーが慢性緊張を出してきたときは「それは違うよ。」

などと言い,訓練から逃げようとして強い力で抵抗してきたときには,トレーナー自身のからだで その力を受け止めブロックし,トレーニーが抵抗を緩めるのを待ち,訓練に向かうように援助した。

 母親面接は,全33セッションにおいて,動作法での訓練前や訓練後,もしくは遊び・作業活動後に 約15分間実施した。

 家庭やA園での日常生活場面におけるトレーニーの行動について,気づいたことや変化してきて いると思われることを,母親から,母親自身の観察や,他の人からトレーニーについて聴取したこと をもとに報告してもらった。

 遊び・作業活動については,第19セッションから第33セッションまでにおいて,動作法での訓練後 に最長で約60分間実施した。

 主な遊び・作業活動としては,①ボールのやりとり(トレーニーとトレーナーが向かい合い,ボー ルを投げたり,転がしたり,蹴ったりし,また,受け取ってやりとりをするなどして遊ぶ),②積み 木つみ(トレーニーとトレーナーが交互に積み木を1個ずつ積み上げたり,1人が積み木を1個ずつ 手渡し,もう1人がそれを積み上げたり,トレーニーが自由に積み上げるなどして遊ぶ),③ぬり絵

(トレーニーとトレーナーが同じ用紙に別の色えんぴつで一緒に塗ったり,トレーナーが指示したと

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ころをトレーニーに塗らせたり,トレーニーが自由に塗るなどして遊ぶ),④お絵かき(トレーニー とトレーナーが同じ用紙に別のペンで一緒に描いたり,トレーナーが描いたものをトレーニーにま ねて描かせたり,トレーニーが自由に描くなどして遊ぶ),⑤折り紙(トレーニーとトレーナーが別々 の折り紙で一緒に折ったり,トレーナーが折ったものをトレーニーにまねて折らせたり,トレーニー が自由に折るなどして遊ぶ),⑥線に沿って鋏で切る作業(トレーニーははさみで画用紙を線に沿っ て切る作業をし,トレーナーは傍らでトレーニーが切っているのを見ていたり,切る線を指でなぞ ってトレーニーに示したりする),⑦枠内にシールを貼る作業(トレーニーは枠内にシールを貼る作 業をし,トレーナーは傍らでトレーニーが貼っているのを見ていたり,貼る枠を指でさしてトレー ニーに示したりする)を取りあげた。しかし,それ以外の遊び・作業活動で,セッションよってそ のとき限りで取りあげたものもある。トレーニーの様子,状況に応じて,適宜選択して各セッショ ンにおいて取り組んだ。遊び・作業活動を進める中で,トレーナーはトレーニーの傍らに位置し,一 緒に活動したり,トレーニーに対して声かけをするなどして,トレーニーとの関わりをもった。そ の際 トレーニーが活動の場を離れても,無理にもとの場に引き戻すことをせず,また,トレーニー が各遊び・作業活動に対してやる気を欠き始めたと思われたときは,無理に続けさせないようにす ることを心掛けた。遊び・作業活動の終了時に後片付けを試みたが,ここでも無理にさせることは せず,トレーニーの様子,状況に応じて行った。

3.分析方法

 トレーナーの観察による記録VTR記録,トレーニーの残した記録をもとに以下の事項について 分析を行った。

 動作法での訓練場面では,①訓練に対する取り組みの様子,②訓練前後の挨拶の仕方,③母親との 関わり,④トレーナーとの関わり,の4項目。

 日常生活場面では,①対人関係,②食事行動,③排泄行動,④言語行動,⑤遊びの様子,の5項目。

 遊び・作業活動場面では,①ボールのやりとり一やりとりできた回数(相手から受け取り相手に送 る,もしくは,相手に送り相手から受け取ることを,やりとり1回と数えた),取り組めた総時間と

トレーナーと対面できた時間(どんなにブツブツしゃべっていても,視線が別の方向に向いていて も,トレーナーと向かい合ってトレーナーの方にからだを向けてその場にいられたことを対面でき たとみなした),やりとりしたときの様子,②積み木つみ一積み上げられた個数,積み上げたときの 様子,③ぬり絵一塗ったもの,塗ったときの様子,④お絵かき一描いたもの,描いたときの様子,⑤ 折り紙一折ったもの,折ったときの様子,⑥線に沿って鋏で切る作業一取り組めた総本数と成功本 数(5cmの線を切ることを本数1本と数え,線から5mm以内のずれまでで切れたものを成功とみな

した),切ったときの様子,⑦枠内にシールを貼る作業一取り組めた総個数と成功個数(1枚のシー ルを貼ることを個数1個と数え,枠から1mm以内のはみ出しまでで貼れたものを成功とみなした),

貼ったときの様子,の7項目。

(5)

結果 と 考察

1.動作法での訓練場面における行動の変容  ①訓練に対する取り組みの様子

  対象児の訓練に対する取り組みの様子は,次のようであった。

  第1期(1〜9セッション):首や肩,腰などにかたさは感じられたものの,トレーニーのからだ  の緊張状態を的確につかむことができなかった。トレーニーは終始ブツブツ言っていたり,ケラケ  ラと笑っており,トレーナーにからだを触られたり訓練をされても,全く気にならないという感じ  で集中していないことが多く,トレーナーもトレーニーのからだの緊張状態を的確につかむことが  できずに,お互いに何をしているのかがよくわからないまま訓練時間が終わってしまうこともあっ た。しかし,躯幹のひねりを長く行ったり,腕あげ動作訓練で腕を他動的に挙げていき,腰や肩な  どのかたさにぶつかると,真剣な表情をしたり,声をあげたり,トレーナーの手を払いのけたり,

 トレーナーの指を握って離さなかったり,足をばたつかせるなどの反応が見られた。また,あぐら 座位での訓練で首や肩の弛緩をすると,嫌がったり,立位での訓練で前傾させると,踏ん張るよう な力を出すことが感じられた。

  第2期(10〜20セッション):訓練やトレーナーに対しての拒否的反応が強く,かたさにぶつか る前に泣いたり,からだ全体を使って逃げようとすることが多く見られた。ブツブツ言っていたり  もしたが,訓練の初めから終わりまで泣き続けることが多く,トレーナーが訓練をしようとして手 をもつなどはもちろん,からだに触るだけでも嫌がっていた。腕あげ動作訓練で腕を他動的に挙げ ていったり,躯幹のひねりを行うと,全身を使ってトレーナーのブロックを振りほどこうとしたり,

立位での訓練で前傾させると,足を上げたり,前に倒れようとし,左右に重心を移動させると,か  らだをくねくねと曲げたりして,逃げようとすることが多かった。

 第3期(21〜25セッション):首や肩,腰などのかたさがはっきりし,からだの緊張状態が明確 になっていった。訓練やトレーナーに対する拒否的反応は見られなくなり,かたさにぶつかって抵 抗はしても,逃げることはなくなった。あぐら座位での訓練で首や肩を弛緩すると,肩を突き上げ て強い力を出してきたが,弛緩することができるようになった。また,腕あげ動作訓練でも反対側 の手で訓練している手を引っ張ったりして抵抗していたが,真上まで(180度位まで)他動的に挙げ ることができ,腕や肩の弛緩ができるようになった。立位での訓練で前傾させたり,左右に重心移 動をすると,バランスをとりながら力の調節をすることが感じられた。訓練中にブツブツ言ってい たり,訓練と訓練の合間にケラケラと笑っていたりすることはあったが,かたさにあたっていると きは真剣な表情をして,黙っていることも見られるようになった。

 第4期(26〜32セッション):これまでのかたさに加えて,肘に強いかたさがでてきた。あぐら 座位での訓練で首や肩の弛緩をしたり,腕あげ動作訓練で腕や肩の弛緩をすることができるように なったら,肘に強いかたさがでてきたため,肘を他動的に曲げて肘の弛緩を行った。肘のかたさは 強く,なかなか弛緩することができなかったが,反対側の手で訓練している手を引っ張ったりして 抵抗しながらも,少しずつ弛緩できるようになっていった。

 第5期(33セッション):訓練やトレーナーに対する拒否的反応が強く,ほとんど訓練ができな

かった。

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 以上の対象児の様子は,次のように考えれるであろう。第1期の状況は,トレーニーが全くとい ってよいほどトレーナーに意識を向けておらず,それどころか,自分のからだに起こっていること にさえも目を向けていないことを示している。終始続くブツブツ言う独り言やケラケラとした笑い は,その表れであろう。つまり,トレーニーのこころとからだが分離しており,従って,トレーニー のからだに働きかけているトレーナーのからだの存在も意識されず,それ故,トレーナーとの関わ りをもつことができずにいるということである。しかし,腰や肩などのかたさにぶつかったときに みせた,真剣な表情や抵抗は,自分のからだ,つまり自体に何かが起こっているということへの気 づきを表しており,トレーニーのこころとからだが向かい合ったことを示していると言えよう。第 2期で見られた訓練やトレーナーに対する拒否的反応は,自体に何かされるという恐怖感を表して おり,トレーニーのこころとからだが,さらに結びついたことを示していると思われる。つまり,

トレーニー自身である自己が,自体を自らのものとして認識するようになったということであろう。

そして,第3・第4期で,訓練やトレーナーに対する拒否的反応が見られなくなり,はっきりした かたさが出現するのに伴って,からだの緊張状態が明確になっていったことは,自体を自らのもの として認識するようになっただけでなく,自体に働きかけているトレーナーのからだ,つまり他体 の存在を認め,受け入れられるようになったことを示していると考えられる。さらに,そのかたさ を弛緩できるようになっていったことは,からだのかたさを弛緩するという課題に,トレーニーと トレーナーが共に取り組み遂行していったということであり,課題を通して,トレーニーとトレー ナーが,つまり自己と他者が向き合い,コミュニケーションがとれるようになったということを示

していると思われる。第5期の状況については,資料が極めて限られているので説明し難い。ただ し,訓練に限定して考えるならば,一つの可能性として,例えば吉岡・円井・i菱沼・鈴木(1988)

が指摘している訓練課題提示の不明確さ・不的確の問題が出現した,と言えるのかもしれない。今 後の検討が必要である。

② 訓練前後の挨拶の仕方

 セッションが進むにつれて,正座をするという動作においては,どんな座り方であれ自分から座 るようになり,そして,自分から正座をするようになるという変化が見られた。礼をするという動 作においては,トレーナーが頭や肩を軽く押す程度の援助で背中や腰を使って深く礼をするように なり,そして,自分から背中や腰を使って礼をするようになるという変化が見られた。これは,挨 拶をするために向かい合ったトレーナーを見て挨拶をするということが分かり,自分でその通りに からだを動かせるようになったということであり,自体をコントロールしながらうまく動かせるよ うになったことと,他者であるトレーナーに意識を向けられるようになったことを示していると思 われる。

 しかし,最終セッション即ち第33セッション(第5期)では,自分から正座をすることはできず,

礼をすることもできなかった。

③母親との関わり

 セッションが進むにつれて,母親から離れて訓練に向かえるようになり,その後,しばらくは訓 練の途中に母親の所へ行くことがあったりなかったりしていたが,やがて,訓練中に母親の所へ行 くことがなくなり,母親がいなくてもトレーナーと訓練に取り組めるようになるという変化が見ら れた。これは,抱きついたり,よじ登ったりするなどという母親への関わりがなくなり,訓練とい

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う決められた時間の中ではあるが,トレーナーと取り組めるようになったということであり,母親 を,訓練から逃れて甘えるだけの対象としてはとらえなくなったということを示していると思われ

る。

 しかし,最終セッション即ち第33セッション(第5期)では,母親が離れると,落ち着かず,ほ とんど訓練ができなかった。

④トレーナーとの関わり

 セッションが進むにつれて,言語指示によって自分から訓練体勢をとるということが見られるよ うになり,その後,しばらくは言語指示によって自分から訓練体勢がとれたりとれなかったりして いたが,やがて,トレーナーが手をとってやるなどして促すことを必要としたものの,言語指示に よって自分から訓練体勢をとれるようになるという変化が見られた。これは,トレーナーの言って いることを理解し,受け入れ,自分でその通りにからだを動かせるようになったということであり,

他者であるトレーナーとのコミュニケーションがとれるようになったということを示していると思 われる。

 しかし,最終セッション即ち第33セッション(第5期)では,言語指示がほとんど通らなかった。

 以上のように,動作法の適用に伴って,トレーニーのこころとからだが向かい合い,トレーニー自 身である自己が自体を自らのものとして認識するようになり,そして,自体に働きかけているトレー ナーのからだ,つまり他体の存在を認め受け入れるようになり,さらに,動作課題を通して,トレー ニーとトレーナー,つまり自己と他者が向き合い,コミュニケーションをとれるようになったこと によって,訓練を実施した場面,つまり動作法での訓練場面において,

 ・ からだをコントロールしながらうまく動かせるようになる  ・ トレーナーに意識を向けられるようになる

 ・ 母親を,訓練から逃れて甘えるだけの対象としてはとらえなくなる

 ・ トレーナーの言語指示に従うというトレーナーとのコミュニケーションがとれるようになる という変容が示された。

 しかし,最終の第33セッション(第5期)におけるトレーニーの行動に示されるように,動作法の 適用と,それに伴う動作法での訓練場面におけるトレーニーの行動の変容との間は,必ずしも一対 一の単純な関係によって結びついているのではなく,種々の要因が作用していると思われる。とは いえ,動作法の適用は,動作法での訓練場面においてトレーニーの行動を変容させるのに大きく関 係したということが示された。

2. 日常生活場面における行動の変容

 ①対人関係

  母親への甘え方においては,母親に対するべったりとした甘え方は続き,母親にいつもくっつい  て母親の耳や髪の毛を引っぱたりしていたが,第3期の第24セッション時頃からはそれまでのよう  にべたべたすることは少なくなり,その後も,母親に抱っこやおんぶをして欲しがることは多かっ  たものの,母親が諭すと離れられたり,1度抱っこしてやると納得して離れることができるように  なった。しかし,第4期の第31セッション時頃から再びべたべたするようになるなど,母親への甘

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え方には多少の変化は見られたものの,大きな変化は見られなかった。他児,他者との関わりにお いては,相手に働きかけるということは決して見られなかったが,視線が少しずつ合うようになり,

相手の様子を見るようになるなどの変化が見られた。指示の通り方についてみると,指示が少しず つ通るようになるという変化が見られた。特に,それまでは,父親との関係は希薄であったが,第 2期の第10〜12セッション頃から,父親からの声かけが多くなったこともあり,父親の膝の上に乗

ったり一緒にお風呂に入ったり,寝たりするようになるとともに,父親の指示も通るようになった。

要求の仕方においては,やはり用があっても母親を呼ぶことより手などを引くことの方が多かった が,自分からの要求が増え,母親の目を見て訴えるようなまなざしをするようになり,そして,母 親を呼ぶことが見られるようになり,「ちょうだい。」という言葉もでるようになるなどの変化が 見られた。

 母親に対するべたべたした甘え方については,第3期末の第24セッション時頃から徐々に少なく なったのが,第4期末の第31セッション時頃から,再びそれが見られるようになるなど,大きな変 化は見られなかった。しかし,他児,他者との関わりにおいては,視線が少しずつ合うようになり,

相手の様子を見るようになったり,指示の通り方においては,父親の指示も通るようになったこと を考慮すると,母親に甘えるだけであったのに対し,父親や他児,他者との関わりへと,トレーニー の対人関係に多少なりとも広がりがでてきたといえるのではなかろうか。要求の仕方においては,

「おいで」と言って呼ぶようになるなど,母親に対する新たな関わり方も見られるようになってい ると考えられる。このように見て来ると,母親への甘え方に大きな変化がなく,第3期末の第24セ ッション時前と第4期末の第31セッション時後の甘え方に変化がないように見えても,母親に対し てただ単にべたべたとした甘えが続いていたのではなく,愛着行動とまではいかなくとも,純粋な 甘えとしての甘え方に変化していたとも考えられるのではないだろうか。

②食事行動

 自分から進んで口に運ぽうというのは見られなかったが,きっかけや指示を与えられることによ り自分で口に運んで食べられるようになり,第2期の第12〜20セッション時頃はあまりそれが見ら れなくなってしまったものの,その後再びきっかけや指示を与えられると自分で口に運ぶようにな るなどの変化が見られた。A園においても,自分で食べられることが多くなっていった。また,ご 飯よりもおやつを好む傾向は続いていたが,偏食が目立たなくなり,食べられる物が増えるなどの 変化も見られた。

 しかし,自分で口に運んで食べるかどうかは,本人の食欲の有無も影響するであろう。おなかが すいていないから食べようとしないというのは当然のことであり,自分のからだというものを認識 しているからであると考えられる。トレーニーの食事行動においても,食欲があっても自分で口に 運ばないこともあったであろうが,食欲があれば自分で口に運ぶことが促され,食欲がないとそれ が抑制されるということが見られていた。これは,トレーニーが自分自身のからだを認識していた ためと考えられるであろう。しかし,食べる気がなかったり食欲がないときでも,母親が運んでや るといくらでも食べており,そこにはおなかが一杯だからもういらないなどというからだに対する 認識が完全ではないことが示されていると思われる。

③排泄行動

 もよおしたときの知らせ方においては,やはり,小便の場合には言葉で知らせる気がないときが

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あり,大便では独特のポーズや座り方をするだけということが多く,終始母親は気を配っていなけ ればならなかったのが,母親の手を引いて知らせるようになり,そして,言葉で知らせるようにな るなどの変化が見られた。独特のしぐさをして気づいてもらってトイレに行くという方法から母親 の手を引いて知らせる方法への変化は, 母親の手という物 を引けば用がたせるということを認 識したためであり,さらに,母親に言葉で知らせる方法への変化は, 母親という相手 に知らせ れば用がたせるということを認識したためであると思われる。つまり,母親への意識がない状態か ら,母親の手という物への意識が芽生え,さらには,母親という相手そのものに対する意識が芽生 え始めたということであり,母親に対する新たな関わり方を示していると思われる。おねしょの様 子は,天候や寝る前に飲む水の量などによって回数に多少の波はあったが,終始続いており,大き な変化は見られなかった。

④ 言語行動

 やはり,一人でブツブツしゃべっていることが多く,意味不明な言葉を言ったり,コマーシャル 用語を言ったりすることは続いていたが,場面に合わない言葉であっても,はっきりした言葉が多

くなり,また,場面に合った言葉も少しずつ増えていき,さらに,言葉のやりとりにはなっていな いが,相手に自分の意志を伝えようとしたり,相手を意識しての発語も見られるようになるなどの 変化が見られた。これは,自分の周囲の物事に目を向けることが少しずつできるようになってきた

ことを示していると思われる。

⑤遊びの様子

 一人で本を見たり,ひらがなやカタカナ,数字や漢字などの文字を読んだり,書いたりすること が続いていたが,他の子どもの中に混じろうとすることが見られたり,同じことをしようとして一 緒に動くようになるなどの変化が見られた。特に,兄や兄の友達に混じることが増えるにつれて兄 の真似をしたり,少しずつ兄の指示も通るようになり,また,「お兄ちゃんに持っていって」とい う指示も分かるようになるなどは,トレーニーの対人関係に広がりが出てきたことを示していると 思われる。また,ぎごちない跳び方ながらもトランポリンをやるようになったり,4人掛けのブラ

ンコの真ん中で立ってこぐようになったり,自転車を上手にこげたり,サッカーで自分から蹴り出 したりと,からだを動かす遊びが見られるようになるなどの変化も見られ,からだをコントールし ながらうまく動かせるようになったことを示しているといえよう。

 以上のように,動作法の適用に伴って,訓練とは離れた場面,つまり,日常生活場面において,

 ・ 母親に甘えるだけであったのに対し,父親や兄,他児,他者との関わりへと,対人関係に広が   りがでる

 ・ 母親に対する意識が強まり,母親に対する新たな関わり方が見られるようになる  ・ 自分の周囲の物事に目を向けることができるようになる

 ・ からだをコントロールしながらうまく動かせるようになる という変化が示された。

 しかし,ここで考慮しなければならないのは,トレーニーの自然の発達や,トレーニーに対する他 の様々の指導や教育などである。ここでの行動の変容は,動作法の適用のみに伴って現われたもの ではなく,そζにはトレーニーの自然の発達があり,家庭やA園での指導や教育があるということ

(10)

である。とはいえ,日常生活場面におけるトレーニーの行動変容と,動作法での訓練場面における トレーニーの行動の変容との関連に注意してみると,同じような変容過程を辿っており,動作法の 適用は,日常生活場面におけるトレーニーの行動を変容させるのに関係したと言えよう。即ち,動 作法の適用は,訓練とは離れた場面における行動の変容においても関係しているということが示さ れたと言ってよいであろう。

3.遊び・作業活動場面における行動の変容  ①ボールのやりとり

  ボールをやりとりできた回数を,セッション別,訓練期別に表1.に示す。第5期(33セッション)

 を除き,回数はセッションが進むに連れて増加傾向を示している。とりわけ第4期における増大

表1.セッション別,訓練期別ボールのやりとり回数

セッション 回数 訓練期 平均回数

16

第2期 3.5

21 Q2 Q3 Q4 Q5

112814

第3期 5.2

26 Q7 Q8 Q9 R0 R1 R2

第4期 31.9

33 0 第5期 0

(11)

表2 セッション別,訓練期別ボールをやりとりした総時間,

  対面できた時間及び対面率

セッション 対面時間/総時間 対面率 訓練期 対面時間/総時間 対面率

21/105(秒)

R7/159

20。0(%)

Q3.3 第2期

(平均:秒)

Q9/132

 (%)

Q2.0

 89/171

@30/81 P57/231 R77/436 Q64/461

52.0 R7.0 U8.0 W6.5 T7.3

第3期 183.4/276 66.4

166/184 R79/412 Q34/248 R09/324 T26/544 S28/449 R57/367

90.2 X2.0 X4.4 X5.4 X6.7 X5.3 X7.3

第4期 342.7/361.1 94.7

33 0 0 第5期 0 0

は著しい。また,ボールのやりとりに取り組めた総時間とその際にはっきりとトレーナーと対面で きた時間,そして対面率(総時間に対する対面時間の割合)を表2.に示すが,ここでの3指標の変 動からも同様の傾向を見ることができる。中でも,対面率は,第4期には90%台にまで増大してい

ることは,相手からのボールの動きに合わせてボールを受け取ったり,また,相手を意識しながら ボールを送ることができるようになったということ,言い換えれば,自体をコントロールしながら うまく動かせるようになったことと,他者であるトレーナーに意識を向けられるようになったこと を示していると言えよう。第4期においては,このことがほぽ普通のようなやり方で行なわれたこ

とを示している。

 やりとりしたときの様子においては,セッションが進むにつれて,投げられたボールを受け取る ときの動作に,トレーナーが投げる動きに合わせて自分の手を出すという,ボールに対する構えが 見られるようになるなどの変化が見られた。これは,目と手の協応動作ができるようになったこと も示しているであろう。また,ボールを投げることは比較的初めからできていたが,セッションが 進むにつれて,違う方向に投げたり,トレーナーの方を向いていないということが少なくなり,ほ

(12)

表3, セッション別,訓練期別積み木を積み上げた個数と作業回数

セッション 個数(作業回数) 訓練期 平均個数(作業回数)

10(2)

O 第2期 5.0(1)

14(2)

O4(1)

Q1(5)

P2(4)

第3期 10.2(2.4)

26(4)

V(2)

R6(5)

V6(5)

T5(4)

S5(4)

T2(5)

第4期 42.4(4.1)

33 0 第5期 0

ぽトレーナーに投げることができるようになるなどの変化が見られた。第28,29,30セッションで は,わざとトレーナーとは別の方向に投げるということが見られたが,別の方向に投げてトレーナー の反応を見て嬉しそうにするなどの行動に,トレーナーとのコミュニケーションをとろうとしてい るトレーニーの働きかけが窺える。

②積み木つみ

 積み木つみでの積み上げられた個数を,積んだ作業回数と共に,セッション別,訓練期別に表3,

に示す。ここでも,第5期を除き,セッションが進むにつれて積み上げた個数と積み上げた回数共 に増加の傾向を示した。その傾向は,ボールのやりとりの場合と同様に,第4期において著しい増 大が見られる。

 積み上げ方は,セッションが進むにつれて,積み上げる際に手を添えたり,手でおさえたり,積 み直しながら積み上げたり,また,積み上げ終わったときの手をそっと離したりするということが 見られるようになるなどの変化が見られた。積み上げた後の崩し方については,同じ崩すにしても,

叩くようにして崩すことは少なくなり,積み木が散らばらない程度の崩し方になるという変化が見 られた。崩れた,もしくは崩したときの反応については,走り出したり,積み木を投げたりする

(13)

(/{\

第21セッション(第3期初頭)の作品の内の 1枚

* 塗られているなかで,帽子のつばの下  の茶色部分は,2箇所ともトレーナーが  塗ったもの。

第29セッション(第4期)の作品の内の1枚

* 塗られているなかで,帽子のつばの下  の4箇所の赤い部分のうち,向かって左  側の2つはトレーナーが塗ったもの。

はや 鳥ξ

k⊂こ)

第23セッション(第3期)の作品の内の1枚

* 塗られている部分のうち,紫色の部分  3箇所は,全部トレーナーが塗ったもの。

第32セッション(第4期)の作品の内の1枚

* 塗られているなかで,トレーナーが塗  った部分は無い。

図1.ぬり絵の作品の例

(14)

第19セッション(第2期)の作品の内の1枚 第19セッション(第2期)の作品の内の1枚

穿悼 ◇¢凶

第26セッション(第4期初頭)の作品の内 の1枚

第28セッション(第4期)の作品の内の1枚

第30セッション(第4期)の作品の内の1枚         第32セッション(第4期末)の作品の内の        1枚

 * それぞれの絵の中の点線で描かれた絵はトレーナー一の描いたもの。

       図2.お絵かきの作品の例

(15)

ことはほとんどなくなり,立ち歩いたり,積み木をかき回すことは時々見られたものの,その場で 声をあげる程度になるなどの変化が見られた。これは,落ち着いて慎重に積み上げることができる ようになり,また,途中で投げやりにならずにできるようになったということであり,集中力が持 続するようになったことを示していると思われる。

③ ぬり絵

 図1.に,用いた2種類のぬり絵の作品例各2枚を示す。この例を含めて塗り上げたものをみると,

セッションが進むにつれて,図柄(線)を意識しないで描くように塗っていたのが,図柄(線)を 意識して,ある一定の面積を塗りつぶせるようになるという変化が見られた。これは,ぬり絵の図 柄(線)を意識して塗るという注意力の高まり,また,ある一定の面積を最後まで塗りつぶすとい

う持続力の高まりを示していると思われる。

 塗っているときの様子においては,セッションが進むにつれて,ブツブツとしゃべることがやや 減り,視線をそらさずに紙に向けて落ち着いて取り組む時間が長くなったように思われた。

④ お絵かき

 図2.に,お絵かきの作品例6枚を示す。この例を含めて描いたものについて見ると,セッション が進むにつれて,丸や三角,バツを描くようにようになり,簡単な絵を描くようになり,そして,

より絵らしい絵を描くようになるという変化が見られた。

 描いているときの様子においては,セッションが進むにつれて,トレーナーからの声かけに対し て反応するようになり,描いた絵について自分からトレーナーに伝えるようになり,トレーナーの 方を見ることも増えていった。また,それに伴い,ブツブツとしゃべることも減ったように思われ た。これは,何かを意識して描き,それを相手に伝えることができるようになったということであ り,表現力の広がりがみられるようになり,また,他者であるトレーナーとのコミュニケーション がとれるようになったということを示していると思われる。

⑤折り紙

 折りあげられたものは,できあがりだけを見ると何かの形になっていることはなく,大きな変化 は見られなかった。

 折っているときの様子は,セッションが進むにつれて,トレーナーが折って見せても関係なく自 由に折っていたのが,トレーナーをまねて折るようになった。折り方については,折り目をつけて 折るようになるなどの変化が見られた。また,ただ折っていただけだったのが,形にこそ表れなか ったが,自分なりに何かの形を意識して折るようになったように感じられた。これは,トレーナー の存在に目を向けるようになったということや,自分なりにこう折りたいという意志や意欲の表れ を示していると思われる。

⑥線に沿って鋏で切る作業

 表4.は線に沿って鋏で切る作業における取り組めた総本数と成功本数,及び成功率(総本数に対 する成功本数の割合)を,セッション別,訓練期別に示す。セッションが進むにつれて,作業量が 増大するとともに成功率も増加傾向を示す。これは,線を意識して,線に沿って切れるようになっ たということであり,注意力の高まりを示していると思われる。

 切っているときの様子は,鋏は初めのセッション時から変わらずに使えていたが,セッションが 進むにつれて,手で線に関係なくちぎったり,はさみで線からずれて斜めに切ったり,線に関係

(16)

表4. セッション別,訓練期別鋏で切った総本数,成功した本数及び成功率

セッション 成功本数/総本数 成功率 訓練期 成功本数/総本数 成功率

0/ 0

X/12

 一(%)

V5.0 第2期 4,5/6.0

 (%)

V5.0

 0/ 0

@0/ 3 R/13 S/17 P8/26

52.0 O.0 Q3.1 Q3.5 U9.2

第3期 5.0/11.8 42.4

 9/30 R5/46 T3/58 U6/76 S3/51 R9/58 R7/58

30.0 V6.1 X1.4 W6.8 W4.3 U7.2 U3.8

第4期 40.3/53.9 74.8

33 0 第5期 0

なく細かく切ったりすることがなくなり,成功本数に含まれないものでも,ずれてはいるものの線 に沿って切ることができるようになるなどの変化が見られ,注意力の変容が窺える。

⑦ 枠内にシールを貼る作業

 表5,に,枠内にシールを貼る作業における取り組めた総個数と成功個数,ならびに成功率(総個 数に対する成功個数の割合)を示す。成功率でみても,大きな変化は見られなかった。

 貼っているときの様子においても,大きな変化は見られなかったが,第4期の第30セッションで,

トレーニーがシールを重ねるようにして貼っていき,花びらと茎と葉を形どり,トレーナーの顔を 見て,作り出したものを指さして「はな。」と2回言ったことがあった。これは,表現力の広がり の表れと,他者であるトレーナーとのコミュニケーションができたということを示していると思わ れる。

 以上のように,動作法の適用に伴って,訓練とは離れて設定された場面,つまり,遊び・作業活動 場面において,

 ・ 目と手の協応動作が巧みになる

(17)

表5. セッション別,訓練期別シールを貼った総個数,成功個数及び成功率

セッション 成功個数/総個数 成功率 訓練期 成功個数/総個数 成功率

19 0/ 0 一(%) (%)

20 0/ 0 第2期 0/  0

21 0/ 0

22 0/ 0

23 7/18 38.9 第3期 7.8/18.0 43.3

24 11/36 30.6

25 21/36 58.3

26 25/53 47.2

27 28/48 58.3

28 39/60 65.0

29 31/48 64.6 第4期 28.0/50.4 55.6

30 19/48 39.6

31 28/48 58.3

32 26/487 54.2

33 0 第5期 0

 ・トレーナーとのコミュニケーションをとろうとするトレーニーの働きかけがみられるようになる  ・集中力が持続するようになる

 ・表現力に広がりがでる  ・注意力が高まる  ・持続力が高まる

 ・意志や意欲がみられるようになる という変容が示された。

遊び・作業活動は,第2期末の第19セッションから最終の第5期の第33セッション(結局,第33セ ッションは取り組めなかったが)という限られた期間において行ったものであるが,ここで考慮し なければならないのは,本研究における遊び・作業活動に対するトレーニーの 慣れ である。ト

レーニーの遊び・作業活動に対する慣れによって変容が見られたとも考えられるからである。

 しかし,そのような慣れを考慮したとしても,折り紙場面,シールを貼る作業場面においては,大 きな変化は見られなかったが,ボールのやりとりなどの,それ以外の遊び・作業活動の各場面にお ける結果からみると,セッションが進むにつれて,トレーニーの行動に変化が見られたといえよう。

(18)

 従って,動作法の適用は,その程度は相違するものの,遊び・作業活動場面におけるトレーニーの 行動を変容させるのに関係したと思われる。即ち,動作法の適用は,訓練とは離れて設定された場 面における行動の変容においても関係しているということが示された,といってよいであろう。

 以上,本事例研究の結果,動作法の適用により自己コントロールができるようになるのに伴い,動 作法での訓練場面,日常生活場面,遊び・作業活動場面の各場面において,その程度は相違するも ののトレーニーの行動に変容が見られ,動作法の適用は,訓練を実施した場面と,訓練とは離れて 設定された場面のそれぞれの行動を変容させるのに関係していることが示された。

 今後の課題として,トレーニーの行動の観察項目をより多く設定し,長期にわたってトレーニーの 行動の変容を追跡していくことが大切であろう。また,多くの事例研究をもって,動作法の効果を 細分化し,検討していく必要があると思われる。

引用文献

今野義孝.1990.r障害児の発達を促す動作法』(学苑社)

今野義孝・田中久恵・大木道子.1979.「多動児の行動変容における腕あげ動作コントロール訓練法の効   果について」r教育相談研究』18,29−48.

宮原由香里.1991.「自閉症児に対する動作訓練の適用」(茨城大学教育学部卒業論文)

成瀬悟策.1992.r教育臨床動作法』(至文堂)

大野清志.1984.「動作法導入のいきさつ」成瀬悟策r障害児のための動作法』(東京書籍),pp.36−60.

関根孝夫.1988.「自閉症児に対する動作法の適用」(茨城大学教育学部卒業論文)

吉岡伸・円井操・菱沼昇一・鈴木恵子.1988.「発達障害児に対する動作訓練の適用一事例を中心に   (第2報)一」r茨城大学教育実践研究』8,pp.137−148.

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