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2. 生産技術会議の模擬実験

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Academic year: 2021

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(1)

技術者の合意形成早期化を図る会議設計指針

Desing guides to acceralate consensus building in engineers’ meeting

精密工学専攻 22 号 小松原 幸浩 Yukihiro Komatsubara

1. 序論

過去の日本では「沈黙は金」という格言があるほど,口数 の少ないことが美徳とされた.そのような文化で育った日本 人は一般的に無口な人が多く,特に技能に携わる者は会議に おいて発言が少ない傾向にある.

一方,セル生産システムでは,技能者のモチベーションの 維持や熟練技能者の養成のできることが期待されるが,さら に技能者のモチベーションを高めるために,技能者らで構成 する生産技術会議を開いて,技能者自身で全体の意思決定を 採決する手法が考えられる.すなわち,実生産に先立つ生産 技術会議で技能者らから多くの意見を集め,技能者全員によ る賛否によって日々の作業に関する全体の意思決定を行な い,技能者各人が,仕事に興味を持ち,自分が存在しなけれ ばならない,成長しなければならないというモチベーション を高めてもらう目的である(1)

しかしながら,日本人技能者は口数が少ないため会議で発 言することが少なく,生産技術会議の長引くことが懸念され る.

セル生産システムを採用する目的が,部品搬送や加工/組 立作業用設備などの設計/設置にかかる時間や手間をなくす ことにあるので,時間を多く必要とする会議は目的に反する.

そこで,本研究では,技能者による生産技術会議を効率化す る会議設計について検討した.生産技術会議において,短時 間にできるだけ多くの技能者が意見を述べ,かつ,意思決定 となる結論に至るための方法を模擬会議実験とシミュレー ションを用いて探し,会議参加者の構成に適した会議運営方 法に関する指針を示すことを試みた.

本研究の結果によれば,会議構成員の性格テストの結果に 基づいて会議設計をすることにより,技能者から多くの意見 を集め,短い会議時間で結論に至るような会議時間や会議回 数,リーダー決めなどの会議運営法が推定できると考えられ る.

2. 生産技術会議の模擬実験

生産技術会議の模擬実験を行った.第 1 の実験では全被 験者 158 名の学生から構成員数 9~11 人の小集団を作り,ま ず,旋盤・マシニングセンタなどからなる生産システムでア ルミ部品の機械加工製作を行なった後,生産性改善のための 生産技術会議を約 30 分間行なった.議題は,競争力強化の 重要性を認識した上で,生産性を高めるためにどのような生 産システムを採用,導入するべきかどうかというものであり,

システムの自動化度に対応して,1~5 までの意見を用意し,

被験者達はその中からシステムを選択することによって意 志決定を行う.1 の場合は自動化度が低く,5では自動化が 高いと設定した.

被験者それぞれが持つ意見は,我々が製作した装置を被験 者に使用してもらい,会議中の意見変更は,随時その装置に よって把握した.小集団の最終的な意思決定は,集団の中か ら代表者,すなわちリーダーを会議中に選出してもらい,そ のリーダーが会議の結論を報告する形で行われる.

次いで,会議構成員各人に対して心理学的テストを用いた アンケート調査を行なった.これは会議設計するための管理 パラメータとして心理学的テスト結果を用いるためである.

アンケート調査は,積極的に発言する傾向や容易に協調する 傾向をとらえるために,個人主義志向と集団主義志向を判定 するSPI心理学的テストを利用した(2).個人主義―集団主義 という用語は大局的な文化レベルでの使用には批判が多い

(3)が,心理学的なテストなど極小的レベルでは問題ないとさ れる。

結論からいえば,利用したアンケート調査結果では,集団 主義志向の弱い人と積極的に発言する傾向のある人との相 関,および容易に協調する傾向のある人との相関が多少あっ た.管理パラメータとしては根拠の弱い結果であったが,こ のわずかな相関に基づいて各人のストレスの高まり方や発 言する確率の大きさを決定し,同値を用いてシミュレーショ ンすると,シミュレーション結果は実験結果の幾つかの特徴 を示すことができたので,利用する.

アンケート調査について簡単に述べる.アンケートは被験 者に対して全10問の二択(yes or no)から成り,各被験者 はアンケート結果に基づいて010点の点数が付される.学 生である全被験者158名のアンケート結果をFig.1に示す.

0 5 10 15 20 25 30 35

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

The marks of questionnaire

Number of members

Fig.1 Total result of questionnaire

(2)

0.4 0.5 0.6 0.7 0.8

group with leader group without leader

Ratio of menber expressing opinion

ほぼ正規分布であり,横軸の点数が高いほど個人主義志向 が強い.平均点は 3.15 であり,結果を鵜呑みにすれば,通 説通り被験者集団は集団主義志向である.5点の者の右を個 人主義志向,左を集団主義志向とし,5点の者は間をとって 中立志向と呼ぶこととした.

Fig.2 に各志向と発言割合との関係,Fig.3に同じく各志 向と意見変更割合との関係を示す.Fig.2 より個人主義志向 の強いものは集団主義志向の強い者に比べて平均して発言 回数が多いことが分かる.この結果では中立は集団主義志向 よりわずかではあるが発言回数が少なかった.また,Fig.3 より集団主義志向者は個人主義志向者と比較して意見変更 割合が高いことも分かった.なお,平均の発言回数および平 均の意見変更数とは同志向の被験者数で発言数,意見変更数

Fig. Relation between ratio of member’s expressing opinion with leader’s exist

の特徴について調査した所,次のよ

いること 言を

促しているのではないかと考えられる.

小集団による会議シミュレーション

を対象と

以下にモデルのエージェントの発言行為,およびエージェ

積され, 人間

は論理によっ もさ

除した値である.

前述したが,この会議実験ではリーダーの選出を会議実験 中に行ってもらった.しかし,いくつかの班ではリーダーが 決まらないまま会議実験が終了してしまった.リーダーが出 来た班と出来なかった班

なことがわかった.

会議実験で参加者の何割が一回以上発言したかを意見開 陳率として定義し,リーダーが出来た班と出来なかった班を 比較し,Fig.4を得た.リーダーの有無によって意見開陳率 に差があり,リーダーがいると会議参加者の多くが発言して

3.

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5

collective-oriented Newtral self-oriented

Average of statement

構成員数 9~11 人の小集団による生産技術会議

る.ここでは複雑系シミュレーション()を用いることにし,

シミュレーションプログラムは会議実験を模して作成した.

すなわち,モデルは小集団の構成員(以下,エージェントと 呼ぶ)が確率的に発言し,同時に,他者の発言によって自ら の意見を確率的に変更するという流れで会議を再現したも のである.Fig.5がシミュレーション実行画面である.

トの意見変更について述べる.

エージェントの発言は,「感情値

がわかり,リーダーの存在が他会議参加者の発

」がある閾値以上に高

他のエージェントの意見変更に影響を及ぼす.

ことで発言が行われるという形をとっている.感情値はエ ージェントが与えられた課題に対する感情や会議において 発言しなければならないと思う感情などを総合的に含めた もので,数値として表される.感情値が閾値を越えたとき発 言するか否かは個人の指向(集団主義志向,個人主義志向な ど)を考慮した上で確率的に判断される.発言は自発的な行 動であり,集団の価値観に依存する部分は少ないとし,シミ ュレーションではその影響を無視している.意見変更はエー ジェントの発言による影響によって行われる.エージェント の発言はエージェントの支持する意見に「論理値」として蓄

れる(4).しかし,人間の認知や知覚は常に客観的,合理的と Fig.5 Simulation screen

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9

collective- oriented

Newtral self-oriented

Average of change of opinion

Fig.2 Relation between oriented with average number of statement

Fig.3 Relation between oriented with er of opinion change average numb

て説得されるということが一つの真理と

(3)

はかぎらない.そのため,ここで論理値はただ発言や発言内 容によって論理を積み重ねたものというだけでなく,発言者 とその受け手が持つバイアスの影響を受けた存在と考え,本 シミュレーションではエージェントに意見変更を促すプレ ッシャーとして作用する.エージェントは五感を使って論理 値の大小を判断しより論理が高い意見に確率的に意見を変 更する.

を持つエージェントを集団志向と呼び,個人主義

についてはFig6に示すように,会議参加者 の中でリーダーは個人主義志向の人間から選ばれる割合が エージェン

合意形成が行われたかを Fig.9 に示した.

この

がいるグルー

エージェントは一定時間,発言行為と意見変更行為を繰り 返してシミュレーションが進む.意見の収束判定すなわち合 意形成は,小集団の七割のエージェントの持つ意見が一致し たときとした.模擬会議実験で合意が得られたグループの意 見の一致割合と合致させるためである.なお,単純化のため に初期状態の意見はランダムに決定し,議題に対するエージ ェントの意見は,実験と同様に15の値で表す.

これ以降,簡単のために,積極的に発言する高い発言頻度 を持つエージェントを個人主義志向と呼び,口数が少なく低 い発言頻度

向者を8点,中立志向者を5点,集団志向者を2点として 代表的な値を用いてシミュレーションを行う.実験によって 得られたリーダーの性質もこのシミュレーションでは採用 する.Fig.4より,リーダーの存在は他エージェントの発 言割合を上昇させていることから,リーダーは発言によって 他エージェントの感情値を刺激し,発言を促すという役割を 持たせた.

4.

シミュレーション結果とその考察

最初にシミュレーションの妥当性をリーダーがいる場合 といない場合の10人の小集団で調べた.一回のシミュレー ションを200ステップ,100回のシミュレーションを繰り返 して,各小集団の発言率と意見変更率を求めた.集団内の主 義の構成比は集団主義志向,中立志向,集団主義志向はリー ダーがいる場合といない場合に分けて,実際の会議実験参加 者の割合と等しくなるように行った.リーダーとなるエージ ェントの決定

若干高く,シミュレーションでは個人主義志向の のうち1体を会議開始時にリーダーと決めた.

Fig.7 と Fig.8 に実験結果と同シミュレーション結果と の比較を示す.Fig.7 がリーダーいる場合の検証であり,Fig.

8 がいない場合の検証結果である.リーダーがいないシミュ

レーションの意見変更の割合に誤差が出ているものの細か な数値の違い認められるが,発言と意見変更のおおよそ傾向 を捉えており,このシミュレーションで実験は再現できると 判断した.ここで,リーダーの会議に及ぼす影響をシミュレ ーションで把握するため,同じ人数構成において(個人主義 志向1:中立1:集団主義志向8)のリーダーがいる場合と いない場合の会議における合意形成現象について調べた.シ ミュレーションを 100 回繰り返して,10ステップ毎に何度

来ており,このステップ辺りで合意形成の可能性が最も高い ことが分かる.さて,120 ステップまではリーダーがいるグ ループといないグループで有意な差はほぼ見られないよう に思われるが,120 ステップ以降ではリーダー

結果を見ると,80 ステップ付近に合意形成のピーク

の方は合意に至る回数が多くなっている.すなわち,リー ダーがいることによって,会議自体のスピード化は望めない が,会議が長引いた場合に,合意形成の達成の確率が高まる

8 114

collective- oriented

1 5

16 14

newtral elf-oriented

0% 20% 40% 60% 80% 100%

S

leader other

83.0%

70.0%

86.0%

99.0%

0.0%

0.0%

0.0%

17.0%

30.0%

14.0%

0.0%

1.0%

0%

20%

40%

60%

80%

100%

Experiment Simulation Experiment Simuration

percentage

Self-oriented Newtral

Collective-oriented

Statement Opinion change

83.0% 86.0%

99.0%

0.0%

0.0%

0.0%

17.0%

30.0%

14.0%

0.0%

1.0%

0%

20%

40%

60%

80%

100%

Experiment Simulation Experiment Simuration

percentage

70.0%

Self-oriented Newtral

Collective-oriented

Statement Opinion change

Fig.6 Ratio of leader

Fig.7 Verification of simulation with leader

Fig.8 Verification of simulation without leader

74% 69.5%

86% 93.1%

20%

40%

10%

10% 3.6%

17% 20.3%

4% 3.3%

0%

60%

80%

100%

Experiment Simulation Experiment Simuration

Statement Opnion Change

10.2%

Self-oriented Newtral

Collective-oriented

74% 69.5%

86% 93.1%

20%

40%

10%

10% 3.6%

17% 20.3%

4% 3.3%

0%

60%

80%

100%

Experiment Simulation Experiment Simuration

Statement Opnion Change

10.2%

Self-oriented Newtral

Collective-oriented

(4)

という結果が得られ,リーダーが存在することの優位性につ いて分かった.

最後に,個人主義志向,集団主義志向の人数構成を変更す ることによって合意形成にどのような影響があるかに

て調査した. 法で

つい

先に行ったシミュレーションと同様の方 1 人

10 名の小集団において個人主義志向者の人数を から 8 人の間で変化させシミュレーションをおこなった.この集団

にあるか

の関係を

プを10

来る時間が遅くなり,

ュレーショ ン法の定性的な妥当性を明らかにした.

レーションを用いて,技術会議においてリーダ

.参考文献

http://www1.harenet.ne.jp/~noriaki/link7.html

底研究,新星出版社,(2003)pp257-293 3) 例 え ば Leung,K., & Iwasaki,S., Cultual

は中立主義者を一人加えてある.模擬会議の状態に近づけ

るためである.シミュレーションはそれぞれのケースについ

Fig.10 をみると、個人主義志向者の人数と合意形成のピー クに比例関係が認められる.個人主義志向の人数が多くなる て各 50 回試行した.各ケースにおいて Fig.9 のような図が えられるが、そこから目視によって合意形成のピークがどこ

判断した.個人主義者の人数と合意形成のピークと Fig.10 に示す.なお,合意形成の数は 200 ステ ステップ刻みで集計した.

につれて合意形成が頻繁に行われるステップ数が大きくな

っている.つまり合意形成のピークが

会議において合意形成が得られる可能性が高い時間が遅く なったということを示している.すなわち,実際に会議を行 う際に,その集団の中に個人主義志向者が少ない場合には短 い時間で合意形成のピークが来るため,短い会議時間で会議 を数多くおこなえばよい.逆に,個人主義志向者が多い場合 は,合意形成のピークが来るのが遅いため,会議時間を長め にとって回数を少なくすれば効率の良い会議運営をおこな えるものと考えられる.このように会議の長さと回数を設定 すれば効率的な会議運営が望めると思われる.

5.結論

(1) 心理的テスト調査と模擬生産技術会議実験の結果に基 づいた,シミュレーションを開発し,同シミ

(2) 同シミュ

ーが存在するによって得られる優位性について明らか にした.

(3) 集団の人的構成に対して最適な会議を行うために会 長さと時間に関して会議設計のための指針を提示し た.

以上より,技術者の合意形成早期化のための会議設計のた めの指針を示した.

(1)

(2) SPI 適性検査徹 (

collectivism and distributive behavior, Jounal of Cross-national Psychology, 19(1988),pp.35-49.

よび,心でっかちな日本人―集団主義文化という幻想,

山岸 俊男, 日本経済新聞社(2002)

(4) 高橋伸夫,組織文化の経営学,中央経済社,(1997) (5) 構造計画研究所編,複雑系とマルチエージェント,構造

計画研究所創造工学部,東京(2000)

0 2 4 6 8

1~10 1120 2130 3140 4150 5160 6170 7180 8190 91~100 101~110 111~120 121~130 131~140 141~150 151~160 161~170 171~180 181~190 191~200

step

Number of con

s 10 12 14

cenus

Result with leader Result without leader

0 20 40 60 80 100 120 140

1 2 3 4 5 6 7 8

Nunber of self-oriented people

peak

Fig. Compare number of consensus with leader with without leader

Fig.10 Relation between number of self-oriented with peak of consensus

Fig. 4  Relation between ratio of member’s  expressing  opinion with leader’s exist
Fig. 9   Compare number of consensus  with leader with without leader

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