児童期における非行のリスク・ファクターとその予防
〜家庭に対する早期介入の必要性〜
山 内 宏太朗 守 山 正 渡 邉 泰 洋
1 . はじめに
近年、 人の心理には介入せず犯罪発生環境を改善して犯罪を予防しよう とする環境犯罪学 (
) ないし状況的犯罪予防 論 (
) の議論が盛んであり3、 わが国でも
「安全・安心まちづくり」 などで推進されてきた。 欧米では、 このような 戦略によって一定の成果を挙げ、 近年では犯罪減少傾向がみられる。 この ような手法は確かに、 われわれが直面する犯罪の大量発生現象に対応する にはきわめて有効な手段であり、 今後も、 この手法に依存して、 犯罪の未 然防止に努められなければならないのはいうまでもない。
しかしながら、 他方で、 将来犯罪を行う可能性の高い者、 そのリスクを 抱える者に対して日常的な働きかけも重要である。 とくに児童、 子どもに 対する働きかけは、 将来の犯罪情勢を決定づける意味で、 その意義は大き い。 このような手法は社会的犯罪予防 (
) あるい は社会的発達 (
) モデルといわれる。 つまり、 状況的 犯罪予防とは異なり、 人に対する心理的な介入を通じて、 犯罪・非行を行
1 拓殖大学政経学部教授 2 本学非常勤講師
3 環境犯罪学ないし状況的犯罪予防の概念については、 守山正 「犯罪予防の現代 的意義〜環境犯罪学の展開」 犯罪と非行135号 (2003年) 5 〜32頁参照。
1 2
わない善良な市民を育成するもので、 実際、 各家庭や学校で行われる倫理 教育や躾教育はまさしくこの典型である。 さらに、 地域社会や行政機関で は、 この考えを意識して大規模な社会的犯罪予防の手法が講じられている。
人は誕生以降、 種々の社会環境によって善悪の判断基準を学び、 それに 従 っ て 自 分 の 行 動 を 決 定 す る よ う に な る 。 こ れ が 、 子 ど も の 社 会 化 (
) とよばれる過程である。 したがって、 幼児期に両親による 十分な社会規範の付与が行われないと、 この社会化が進まず、 子どもは犯 罪・非行を行うファクターを抱えることになる。 つまり、 両親による躾教 育の不足は、 のちに子どもの逸脱行動を生む出す可能性があり、 これがリ スク・ファクターとなる。 しかし、 近年、 両親による子どもの規範化は不 十分であるという指摘が強まっており、 この問題に的確に対処しないかぎ り、 わが国においても子どもの非行問題を解決することは困難であると思 われる。
われわれは 「子どもの安全」 に関する研究調査を実施して、 とくに地域 社会における犯罪予防活動のあり方を研究しているが4、 これに加えて総 合的な 「子どもの安全」 研究の必要性から、 犯罪・非行に陥る可能性のあ る子ども、 つまりそのようなリスク・ファクターを抱える子どもへの対応 も視野に入れなければならないと考える。 本稿はその一環として、 とくに 家庭におけるリスク・ファクターに焦点を当てるものである。
本稿では、 主として、 実証的な長期追跡非行研究で著名なファーリント ンとウェルシュ (
) らの近著 子どもを犯罪生活から救う (
) 5に 4 財団法人社会安全研究財団および(独立行政法人科学技術振興機構) の支 援を受けて 「現代子どもの安全研究会」 (代表 守山正拓殖大学政経学部教授) を発足させ、 2002年に女児誘拐殺人事件が発生した奈良市富雄北地区の地域防犯 活動の検証を行っている。 研究会メンバーには、 筆者らのほかに、 安部哲夫獨協 大学法学部教授、 瀬渡章子奈良女子大学生活環境学部教授らが含まれる。
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依拠しつつ、 このようなリスク・ファクターがどのように分析され、 決定 されるかを各種の研究調査から考察し、 リスク・ファクターが高い児童に どのような対応が可能であるか、 すなわち社会的犯罪予防論による具体策 を検討する。
2 . 家庭の非行に与える影響
家庭の基本的機能として、 夫婦間の性と生殖、 親子間の扶養と社会化、
家族間の情緒的安定が古くから指摘されている6。 これらの機能に何らか の障害が生じると、 家族間に不和や不満が生まれ、 その結果、 家族の連帯 性、 帰属感が失われて、 ゆくゆく家庭は崩壊する。 この影響は家族のメン バーの成人よりも子どもに強く現れる。 なぜなら、 子どもの生活は家族に 強く依存しているからである。 家庭内の非行リスク・ファクターは、 この ような崩壊過程で生じるのが一般である。 ロジャーズとメイズ (
) はその理由を次のように指摘する7。 第 1 に、 家庭は、 子どもの第一次的社会化機関であり、 子どもの社会的発達 や自己概念の形成に必要な規範を付与したり養育を行う機関である。 第 2 に、 家庭は役割モデル、 態度、 諸価値の主要な源泉である。 とくに幼児期、
これらの要素は子どもの意思決定過程に重大な影響を及ぼす。 第 3 に、 家 庭自体が、 子どもにとって外部の厳しい環境から保護するシェルターの役 割を果たす。 つまり、 日常生活で発生するストレスや脅威から子どもが退 避する場所が家庭であり、 安楽、 温かみ、 愛情、 安堵の場なのである。 第 4 に、 家族構成員は子どもの経済的立場、 社会階層、 近隣、 社会的受容性、
医療へのアクセスを決定する立場にある。 一般に、 子どもの人生のチャン
6 橘偉仁 「家庭と犯罪・非行」 森下忠編 犯罪学演習 (有信堂、 1974年) 115頁 以下。
7
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スは両親の状況に影響される。 第 5 に、 子どもの社会生活における最初の 経験は、 通常、 家庭環境内で生まれる。 したがって、 家庭の機能障害は、
子どもの行動に大きな悪影響を与えるのである。
( 1 ) 非行少年による両親行動の認識
ストレイト (
) の研究によると8、 非行少年による両親行動 の認識と少年自らの問題行動の関係において、 少年本人が愛情の欠如、 両 親の監督不足、 自立性の欠如、 両親の敵意を認識することは、 非行の予測 ファクターであるという。 そこで、 両親、 あるいは子どもだけに焦点を当 てた処遇や予防策には効果がなく、 子どもが両親の行動をどのように認識 しているかを検証する必要があるという。 要するに、 子どもが非行行動に 従事するか否かを決定する際に、 両親行動に対する認識が本人の行動にど のような影響を与えるかを検討するのである。 つまり、 将来の非行行動に とって重要なことは、 そのような家庭の機能障害が存在していることでは なく、 子どもがそれを認識していることである。
( 2 ) 両親との結び付き
社会統制理論 (
) は人間の紐帯を重視する。 つまり、人間は、 道徳的に他人と、 またデュルケイムが 「集合的良心 (
)」 と呼んだものを通じて、 社会秩序と結びつくようになる。
この理論の代表格であるハーシ (
) は、 とくに両親に対す る子どもの愛着を通じて家庭が重要な接着剤となると主張した9。 換言す ると、 子どもと両親の愛着の絆は非行の主要な抑止力である。 つまり、 紐
8
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&")!ストレイトの調査は、 ペンシルベニア少年拘禁センター収容中の300名、 ニュー ジャージー問題少年カウンセリングセンター送致少年61人を調べた結果である。
9 これらの内容については、 *"$#$!%+
参照。 なお、 同書には日本語翻訳版、 トラビス・ハーシ (森田洋司他訳) 非行 の原因〜家庭・学校・社会へのつながりを求めて (1995年) がある。 なお、 ハー シーは非行原因として 4 つの要素を指摘した (守山正・西村春夫 犯罪学への招 待 (日本評論社、 2001年) 44〜46頁)
帯が強まれば強まるほど、 逸脱を行う前段階で、 少年はこの紐帯を深く意 識するのである。 分かりやすく言えば、 子どもは逸脱行動に直面したとき、
両親を悲しませないか、 日本流にいえば、 両親に恥をかかせないかを考え るのである。 このように、 ハーシは、 非行少年は非行少年ではない者より も両親との絆が強くないと主張した。 実際、 ハーシが1960年代中葉に行っ たカリフォルニアの研究では、 子どもが定期的に親と活動を共にしている とき、 非行に陥りにくく、 それは両親から規制されているからではなく、
両親が現実に子どもがどこで何をしているかを知っているからであるとい う10。 さらに、 ハーシは、 子どもと両親とのコミュニケーションの質が非 行行動の遂行と密接に関連していると論じた。 ここで、 コミュニケーショ ンの高い質とは、 たとえば子どもが父親と将来の計画や考え方、 感じ方を 議 論 す る こ と な ど で あ る 。 ま た 、 子 ど も が 両 親 と の 同 一 性 (
) を高めると、 非行の可能性が減少するともいう。 このよ うに、 子どもの中に両親が心理的に存在する度合は、 どのくらい子どもと 両親が相互に交流するかに依拠している。 ハーシによると、 このような状 況は、 両親が属する社会階層や人種に関係がないとする。
3 . 家庭におけるリスク・ファクター
家庭の非行リスク・ファクターを指摘する研究としては、 ケンブリッジ 研究とピッツバーグ研究がよく知られる11。 前者はケンブリッジ大学犯罪
学研究所のウェストとファーリントン (
)10
11 ケンブリッジ研究の経緯や結果については、
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ピッツバーグ研究については%$ & ' ( )*+# , # -& . /#
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によって開始され自己報告を基盤とした長期追跡 (コホート) 調査である。
すなわち、 1961〜62年に 8 − 9 歳の年齢で (大半が1953年生まれ、 両親同 居、 父親定職あり、 白人でイギリス生まれ)、 南ロンドン地区の 6 ヶ所の 小学校に在籍していた男子少年400人のその後の行動を48歳まで追跡した 研究である。 他方、 ピッツバーグ研究は、 レーバー (
) らのグ ループが1990年代行った調査で、 約1,500人の米国ピッツバーグ在住少年 が対象とされ、 調査時 7 歳、 10歳、 13歳の各500人が追跡調査された。 こ れらの調査結果は、 非行要因としての家庭の状況を実証的に示すものであ る。( 1 ) 非行の家庭ファクター
一般の人々は、 非行の原因として両親による育児不良、 躾不足、 監督不 行届などを考える傾向にある12。 同様に、 研究者による調査でも、 非行予 測因子として家庭ファクターが指摘される。 たとえば、 アメリカの心理学 者レーバーとディシオン (
) によると、
男子犯罪の予測ファクターを検討した結果、 最も重要なファクターは順に、
両親の育児管理技術の欠如、 児童期の反社会的活動、 両親や保護者による 犯罪の影響、 低い知性・学業成績、 両親との別離を挙げている13。 また、
同じ研究者によるその後の調査でも、 このようなファクターとして両親の 監督不足、 子どもへの拒絶的態度、 大規模家族、 両親との触れあい不足、
両親の不仲、 反社会的な両親などを指摘している14。 しかしながら、 これら
12 イギリスのメール・オン・サンデイ紙 (, 1988年) の調査によ ると、 一般人1,000人以上に対して暴力犯罪の原因を尋ねたところ、 高い順に両 親の躾不足 (53%)、 貧困 (20%)、 テレビ番組の影響 (19%)、 学校の規律不足 (15%)、 崩壊家庭 (13%)、 薬物・アルコールの影響 (13%) を挙げたとする。
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の要因を有する子どもが必ず非行に走るものではないから、 これらの要因 はリスク・ファクターとしてはきわめて重要ではあるが、 それが非行として 発現するにはさらに、 個人的ないし地域的要因などの他のファクターを考 察する必要がある。 そこで、 スミスとスターン (
) は、 「非常に荒廃し崩壊した外部環境にあっても、 家庭が支援的で あれば、 子どもを非行から保護することが可能である」 と述べている15。以下では、 ファーリントンらの分類に従って、 家庭内で子どもに対する リスク・ファクターとなる次の 6 個のカテゴリーを分析する16。
① 犯罪的、 反社会的な両親・兄弟
古典的な研究であり少数民族 (アフリカ系アメリカ人) に関する研究で はあるが、 マッコード ( ) のボストンにおける長期追跡調 査17によると、 犯罪的、 反社会的両親の下では、 非行的反社会的な子ども が育ちやすいという。 家庭内で父親、 母親、 兄弟姉妹に一人でも犯罪者が いると、 本人の将来の犯罪が予測される。 ケンブリッジ研究によると、 父 親が犯罪者である男子少年の63%は彼ら自身も犯罪者であるが、 それに対 して、 父親が犯罪者ではない男子少年の非行率は30%であり、 統計的に有 意な差がみられる。 また、 同性の与える影響 (父親が息子に) は異性 (母 親が息子に) の与える影響よりも大きく、 歳の離れた兄が与える影響は歳 の近い兄が与える影響よりも大きかった。
同様の結果はピッツバーグ研究にも示されており、 父親、 母親、 兄弟だ けでなく、 叔父・叔母 (伯父・伯母)、 祖父母の逮捕は、 少年自身の犯罪 に強い影響を与えている。 その中で最も影響が大きいのは父親であり、 父
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親の逮捕は息子の犯罪の予測ファクターの一つとなる。
他方、 ケンブリッジ研究によると、 本人が10歳になるまでに、 犯罪を行っ た両親ないし兄を持つことは、 本人のその後の犯罪や反社会的行動を予測 させるファクターの一つとなる。 また、 このような状況にある少年がさら に両親の監督不行届の下にあると、 その後の犯罪予測の最も重要な予測ファ クターとなる。
それでは、 なぜ犯罪が特定家族に集中し、 世代間で伝播するのか。 ファー リントンとウェルシュらによると、 これについては 6 つの説明法がある18。 第 1 に、 当該家庭が世代を超えて多重リスク・ファクターにさらされてい るからという説明である。 すなわち、 貧困が後世代に継続され、 このため 家庭が崩壊し、 親も単親か10代であり、 荒廃した地域社会に居住するなど のファクターを抱える。 家庭では育児に暴力が用いられ、 子どもも成長の 過程で暴力に慣らされて、 暴力を安易に用いるようになる。 上述のケンブ リッジ研究でも、 貧困、 多子家族、 両親不和、 育児放棄、 両親の犯罪傾向 といったファクターが世代を超えて循環する事実がみられ、 両親の犯罪性 は後世代に伝播するファクターの一つという。
第 2 に、 同類婚の問題である。 つまり似たもの同士が結婚している状況 である。 犯罪歴のある女性が同じく犯罪歴にある男性と結婚する例は多い。
そのような両親をもつ子どもは、 高い比率で反社会的になりやすい。 似た もの同士が結婚、 同棲、 性的パートナーになる理由としては、 二つの主要 な理由がある。 1 つは、 いわゆる 「社会的同類 (
)」 と 呼ばれる現象で、 犯罪者は、 環境的社会的類似性から、 相互に犯罪者を友 人に選ぶ傾向がみられる。 同じ学校、 地域社会、 社交クラブ、 飲み屋など で出会うのである。 理由の 2 つは、 「表現型組み合わせ ()」 と呼ばれる現象で、 人々は互いのパーソナリティや行動類
18
型を検討し、 自分自身に似ているパートナーを選択する。
第 3 に、 家族構成員の他の構成員への直接的相互的な影響である。 たと えば、 兄弟では弟が兄の反社会的行動を真似る傾向があり、 あるいは兄は 弟に反社会性を奨励する傾向にある。 このように、 非行にはかなりの度合 いで兄弟の類似性があると言われる。 ケンブリッジ研究では、 兄弟による 共犯関係がかなり頻繁に確認されている。 年齢の近い男兄弟がいる少年の 約20%は、 兄弟とともに犯罪を行っている。 しかしながら、 犯罪への世代 的な相互的影響は必ずしも大きくなく、 両親が子どもとともに犯罪を行う ケースはほとんどない。 両親が子どもに犯罪を唆したり、 犯罪技術を教え るケースも極めて稀である。 反対に、 犯罪的な父親は通常、 息子の犯罪を 是認しない傾向がみられる。
第 4 に、 犯罪的な両親が子の犯罪に与える影響は環境的メカニズムが媒 介している。 ピッツバーグ研究では、 逮捕された父親は非行的な息子をも つ傾向があるが、 それは彼らが若年女性を妊娠させ、 荒廃した地域に居住 して、 その結果子どもに強い良心を植え付ける育児方法をとらないためで ある。 ケンブリッジ研究では、 親の監督不行届が、 犯罪性のある父親と非 行的な子どもを結合させるという結果が示された。 また、 権威的な躾方法 や両親の不仲は、 両親の反社会的行動と子どもの問題行動との媒介変数で あることを示す研究もみられる。 たとえば、 ボストンでのグリュックら (
) の研究では、 母親・父親の犯罪やアルコール中毒 などの逸脱は、 監督不行届、 過剰な厳格性ないし一貫性のない躾、 両親の 愛情拒絶、 学業不振、 多子家族などの家庭ファクターを統制すると、 その 後の子どもの非行が予測されないことが見いだされた19。
第 5 に、 犯罪的両親の子どもの犯罪に与える影響が遺伝的メカニズムに
19
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よって媒介されることである。 つまり、 両親の子どもに与える影響には遺 伝が関係するという。 これによると、 双子研究では、 一卵性双生児は二卵 性双生児よりも犯行において一致することが示されている。 しかし、 この 研究結果には異議も唱えられており、 一卵性双生児の行動上の類似性は、
環境的類似性が大きく影響しているとする見解がある。 そこで、 養子研究 が行われ、 養子に出された子の犯行は、 その子の生物学的両親の犯行と有 意に関連するという。 しかしまた同様に、 この養子研究に対しては、 一部 の子どもが生物学的な両親と接触し続けた場合に環境的要因を無視するの は困難であるという批判がある。 そこで、 一緒に育てられた一卵性双生児 と別々に育てられた一卵性双生児の一致率を比較した研究では、 遺伝率は 児童期の行動障害では41%、 成人の反社会的人格障害では28%一致したと 報告されている。 これが示すのは、 犯罪の世代間伝達は部分的に遺伝的ファ クターであることである。 そこで次の重要な疑問として、 遺伝潜在力 (遺 伝子型) は、 いかに犯罪行動 (表現型) を生み出す環境と相互作用的であ るかということであるが、 これについては現在結論をみていない。
第 6 に、 犯罪性のある両親が非行的子どもを持つ傾向があるのは、 よく 知られた犯罪家庭への公的な偏見 (たとえば、 これらの家庭に対する警察 や裁判所の偏見) があるからという指摘がある。 彼らは、 他にも社会問題 を抱えるがゆえに、 これらの公的機関にその悪評が知られるようになる。
ケンブリッジ研究における非行の自己報告調査20では、 一般的に犯罪歴の ある父親を持つ男子少年は、 犯罪歴のない父親を持つ少年よりも、 自ら犯 罪を行う傾向が高いとされる。 しかしながら、 これは、 犯罪性のある父親 と非行性のある息子との間の結びつきを説明する唯一のものではない。 な ぜならば、 犯罪性のある父親を持つ息子は、 自己報告非行スコアにおいて
20 自己報告調査は、 非行の実態調査として用いられる手法で、 被調査者に自らが 行った犯罪体験・犯罪歴を質問する調査方法である。 これによって犯罪統計に顕 在しない暗数が明らかになり、 実態により近づくと考えられる。
も極めて高いだけでなく、 教師や仲間からのレーティングも極めて高いか らである。
このように、 特定家族に犯罪が集中する理由・根拠にはさまざまな指摘 があるが、 結局、 上記 6 つの説明法のどれが最も重要であるかは、 現在の ところ明らかではないと思われる。
② 家族の構成
家族の構成で問題になるのは、 家庭内の子どもの数である。 ロジャーズ とメイズによると、 通常、 家庭に子どもの数が増えるほど、 その子どもの 非行可能性が高まるという21。 いわゆる多産家庭ないし多子家族は、 非行 の予測ファクターとしては相対的に強い。 ケンブリッジ研究やピッツバー グ研究でも重要なファクターとみなされている。 ケンブリッジ研究におい ては、 子どもが10歳になるまでに 4 人以上の兄弟姉妹を持った場合、 彼が 少年時に犯罪を行うリスクは 2 倍となるという。 さらに、 多子家族は、 自 己報告調査における非行予測でも同様の結果を示している。
兄弟の数が児童期の非行リスクをなぜ増大させるかにつき、 考えられる 理由はいくつかある。 一般的に、 家庭内で子どもの数が増えるにつれて、
それぞれの子どもに与えられる両親の関心・愛情の量は減少する。 さらに、
子どもの数が増えると、 住宅は過密状態になる傾向があり、 構成員間にフ ラストレーション、 いらいら、 もめ事の増加を招く。 ケンブリッジ研究に おいて、 多子家族は、 あまり混雑していない状況 (住居内に、 子どもの数 よりも 2 つ以上部屋に余裕がある場合) で居住する少年については、 非行 を予測することはできなかった。 これが示すのは、 住居内の過密度は、 多
21 なお、 これに類して、 わが国
の研究においても、 暴力団加入者の分析では、 とりわけ戦後から昭和30年代にか けて、 多子家族出身者が多いことが確認されており、 さらに兄弟の中でも、 3 男 や 4 男などの長子や末子ではない層に多いという (星野周弘 「暴力団犯罪の変化 と暴力団犯罪対策上の諸問題」 犯罪と非行75号、 1988年、 84頁以下参照)。
子家族と非行との間の重要な介入ファクターであることである。 また、 ロ ジャーズとメイズによると、 大家族の子どもは他の子どもと過ごす時間が 長く、 大人と付き合う機会が少ないため、 逸脱に許容的になりやすいとい う22。
③ 育児方法
育児方法として問題となるのは、 両親による監督不行届、 躾不足、 冷淡 さ、 子どもへの拒絶、 子どもとの触れあい不足などである。
さまざまなタイプの育児法は、 子どもの非行を予測させる。 最も重要な ファクターは、 子どもの監督や監視、 躾、 両親による情緒関係の強化、 暖 かさ、 冷たさ、 子どもへの両親の関与などである。 もっとも、 これらの構 成要素は測定が困難であり、 測定法に従って結果が分かれるという難点が ある。 ロスバウムとバイツ (
) によ る児童期の反社会的行動に関連する子育て法の分析によると、 両親と子ど もの間の愛情の強さは、 調査者による経過観察や面接によって測定される 場合の方が、 質問紙調査によって測定される場合よりも大きいことがわかっ た23。 つまり、 被調査者は前者の状況で愛情の内容を説明しやすいと考え られる。
両親による子どもの監督成否は、 子どもの活動に対する両親の監視度、
防御ファクターの度合と関係する。 両親の監督不足は、 通常、 子どもの非 行予測ファクターの最も強いものである。 多くの研究では、 子どもが外出 している場合、 子どもがどこにいるかを知らない親、 あるいは子どもを幼 児期から街頭に放置して監視しない両親は、 非行性のある子どもを持つ傾 向が強いという。 たとえば、 古典的なケンブリッジ・サマービル研究にお
22
23
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いて、 マッコードは、 幼児期の両親の監督不足は、 子どもが45歳になるま での年齢において、 暴力犯罪、 財産犯罪の絶好の予測ファクターであると している24。
両親の躾とは、 子どもに社会規範 (価値) を内面化させることを意味す るが、 要するに、 両親が子どもの行った行動にどのように対応するかであ る。 極端に厳格ないし処罰的な躾 (体罰を含む) が、 子どもの非行を予測 させることは明らかである。 イングランド・ノッティンガムで行われた約 700人の子どもに対する追跡研究において25、 ニューソンら (
) は、 7 歳時と11歳時に受けた体罰は後の本人の犯罪 を予測できるとした。 すなわち、 同調査において犯罪者の40%は、 11歳時 に親に体罰を受けており、 これは犯罪者ではない者の14%と有意な差があ る。 他の研究でも、 8 歳時に受けた両親の処罰は子どもが30歳になるまで に暴力犯で逮捕されることを予測させるだけでなく、 その者自身が30歳時 に自分の子どもに対する厳罰的態度、 および配偶者に対する暴力を予測さ せるという。 つまり、 しばしば指摘されるように、 暴力は世代間で循環す るのである。 実際、 わが国においても、 少年院収容者に対する調査では、
両親の体罰を受けた少年が非行を犯す傾向についての指摘がみられる26。 逆に、 一貫性のないその場限りの躾もまた、 非行を予測させる。 たとえ ば、 片方の親が一貫性のない躾、 つまりときに子どもの悪行をみて見ぬ振 りをし、 ときにそれを厳しく罰する場合、 あるいは両親の間に一貫性がな い場合、 つまり、 一方はきわめて寛容あるいは放任、 他方は極めて厳しく 処罰的である場合である。 過度に甘い躾が非行を予測するか否かは明らか
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25 + , ! -.%&)&"
26 法務省法務総合研究所編 平成17年版犯罪白書 (特集 少年非行) 115頁。
ではない。 また、 子どもの悪行に対して不適切な対応が非行を予測するの と同様に、 子どもの善良な行為を両親があまり強化しないことも予測ファ クターの 1 つであるとファーリントンとウェルシュは指摘する。
まずは、 冷淡で拒絶的な両親は、 非行のある子どもを持つ傾向にあるが、
これは先のマッコードがケンブリッジ・サマービル研究で約30年前に発見 した事実と同様である。 近年の研究で、 マッコードは、 両親の優しさは体 罰の効果に対して防御ファクターとして機能すると主張する27。 体罰を繰 り返す冷淡な母親を持つ少年の51%、 優しく処罰的でもない母親の少年は 23%、 優しいが体罰は行う母親を持つ少年はわずか21%しか犯罪を行って おらず、 体罰を行っても母親の優しさがあれば、 防御ファクターとなるこ とを示している。 父親の優しさもまた体罰に対する防御ファクターであっ たという。 つまり、 体罰は非行ファクターにも防御ファクターにもなり、
それは愛情が伴うか否かの差である。
次に、 子どもの活動に関心の少ない両親は、 非行を予測させることがノッ ティンガム調査で明らかになっている。 ケンブリッジ研究では、 子どもの レジャー活動に一切関与しなかった父親を持つ場合、 子どもの非行リスク は 2 倍となった。 これは、 犯行が21歳以降まで継続的に行われる重要な予 測ファクターである。 同様に、 両親と子どものコミュニケーション不足は、
ピッツバーグ研究では非行を予測し、 紐帯の弱い家庭もまた暴力の予測ファ クターであった。
バウムミリンド (
) は、 3 つの広義の子育てスタイルを 識別した。 それによると、 権威的 (
)、 威厳的 (
)、
許容的 (
) があるという28。 簡単にいうと、 権威的両親は統制 的、 処罰的、 要求過多的でかなり冷淡である。 威厳的両親は、 確立したルー
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ルを持ち、 優しく支援的で子どもに一定の自立を許す。 許容的両親は、 か なり子どもに甘く、 非処罰的で優しい。 一般的に、 威厳的で許容的両親は、
子どもと良好なコミュニケーションを維持し、 子どものニーズに対して敏 感である。 ケンブリッジ研究でも、 権威的両親は暴力犯罪の重要な予測ファ クターの 1 つであった。 子育て法と非行との結びつきについての説明とし て、 社会学習理論 (
) がある。 これによると、 子 どもの行動は、 両親が与える賞と罰に依存し、 両親が示す行動モデルを学 習する。 そして、 子どもは、 両親が彼らの反社会的行動に一貫して条件的 に対応しない場合や両親が反社会的な方法で行動する場合に非行に走ると いう。
④ 性的精神的虐待・放任
身体的に虐待を受けたり放任された子どもが、 後の人生において犯罪者 になりやすいことはよく知られる。 これについては、 ウィダム (
) が行ったインディアナポリス研究が有名である29。 裁判記録に基 づき、 11歳以前に虐待を受け、 あるいは放任された900人以上の児童を選 別し、 年齢、 人種、 性別、 小学校クラス、 居住場所が一致する統制群との 比較を行った。 20年にわたる追跡調査の結果、 虐待や放任を受けた児童は、
統制群よりも少年期ないしは成人期に逮捕される確率が極めて高く、 特に 少年犯罪が顕著であった。 性別、 人種、 年齢などの他の予測ファクターを 同一にした場合、 児童虐待はその後の暴力を予測し、 予測可能性は男子よ りも女子に高かった。 また、 児童の性的虐待や身体的虐待、 ネグレクトは、
成人の性犯罪を予測した。 同様の結果は、 その他の研究にもみられ、 マッ コードの研究でも、 虐待を受け、 あるいは放任された少年の約半分が、 重 大犯罪で有罪判決を受け、 その後、 アルコール中毒、 精神異常にかかり、
29
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あるいは35歳以前で死亡している事実がみられるという30。
ウィダムの評価研究において、 児童期の被害化とその後の暴力傾向を結 びつける環境的因果メカニズムが検討された31。 第 1 に、 児童期の被害化 は直接的で長期的な影響をもたらすことである (たとえば、 体の揺すぶり は脳障害を引き起こす)。 第 2 に、 児童期の被害化は身体的変化 (たとえ ば、 苦痛に対する鈍麻) を引き起こし、 これが後の暴力を奨励することに なる。 第 3 に、 児童虐待は衝動的、 解離的な反応を示すに至り、 さらに問 題解決スキルや学業の不振を招くことになる。 第 4 に、 被害化は自己敬愛 においても社会的情報処理パターンにおいても未発達で、 これが後に暴力 をもたらす。 第 5 に、 児童虐待は家庭環境の変化 (たとえば養護施設への 収容) に至り、 有害な結果を与える。 第 6 に、 少年司法実務は被害者にラ ベルを貼り、 彼らを仲間から孤立させ、 非行仲間とのつきあいを結果的に 奨励することになる。
これらの指摘からみて、 児童虐待の被害者が深刻な影響を受け、 後の人 生において、 犯罪・非行との結びつきが強まることが理解される。
⑤ 両親の不仲・もめごと
崩壊家庭に関する大半の研究は、 母親よりも父親の欠如に焦点を当てる が、 それは崩壊家庭では、 父親の欠損が多くみられるからである。 一般に、
生物学的な親から分離された子どもは、 両親の揃った家庭の子どもより犯 罪を行いやすいことが見いだされている32。 これによると、 イギリスのニュー
・キャッスルで行われた研究では、 人生の最初の 5 年間に離婚や別離を経 験した男子少年は、 32歳までに犯罪を行うリスクが倍増したという。 ニュー ジーランドの研究でも、 単親家庭の少年は後に有罪判決を受ける可能性が
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特に高いという報告がある。 ボストンにおけるマッコードの研究は、 生物 学的な父親の欠損による崩壊家庭とその少年によるその後の重大犯罪との 関係を調査したものであるが、 非行発生率は母親のいない崩壊家庭出身の 少年に高く (62%)、 両親のもめ事に特徴づけられる非崩壊家庭の少年に 高かった (52%)。 また、 当然ながらもめ事のない非崩壊家庭では低く (26%)、 それは母親のいる崩壊家庭の少年と同様に低かった (22%)。 こ れらの結果が示すのは、 犯罪的なのは崩壊家庭ではなく、 両親のもめ事で ある。 この意味では、 愛情ある母親は、 父親の欠損を補う可能性がある。
崩壊家庭の非行原因としての重要性はさらに、 イギリスで実施された調 査でも示されており33、 離婚ないし別離による崩壊家庭出身の少年は、 21 歳までに犯罪を行うか逮捕される可能性が増大し (27%)、 母親の死によっ て崩壊した家庭の者ではそれほど高くなく (19%)、 父親の死による崩壊 はさらに低く (14%)、 非崩壊家庭の者もほぼ同様であった (14%)。 男子 少年が誕生から 4 歳までの間に崩壊した家庭は特に非行予測が高く、 他方、
11歳から15歳の間に家庭が崩壊した場合は、 特に犯罪的というわけではな かった。 再婚 (死別よりも離婚や別離の後に起こる再婚) は非行リスクの 増大と親和性が高く、 養親の望ましくない影響を示唆している。 この望ま しくない影響は、 他の研究でも確認されており、 崩壊家庭は両親の死別よ りも離婚や別居によって引き起こされる場合、 非行と強く関連することが 示されている。 これは、 離婚や別居が両親のもめ事を伴うからである。
このように、 両親のもめ事や両親間の暴力が子どもによる反社会的行動 を予測できることは疑いがない。 ニュージーランド研究では、 両親間の暴 力を目撃した子どもは、 その自己報告調査によると、 その後に暴力犯罪や 財産犯を行う可能性が極めて高いという。 両親のもめ事はまた、 ケンブリッ ジ研究やピッツバーグ研究でも非行の予測ファクターとされた。
33
他方で、 多くの研究が、 親 (ないし保護者) の頻繁な交代が子どもの非 行を予測すると指摘する34。 たとえば、 コペンハーゲンにおける500人以 上の男子の長期追跡調査において、 離婚に続く両親の交代は、 子どもによ る最高の犯行率を予測し (65%)、 離婚後に安定した状況にある者 (42%)、
離婚なし (28%) と比較しても高い。 ニュージーランドの調査では、 両親 のもめ事と子どもの主要な保護者の頻繁な交代は11歳までに子どもの反社 会的行動を予測した。 しかしながら、 別のニュージーランド調査では、 両 親のもめ事がない両親の交代は、 子どもの犯行の高いリスクを予測しなかっ た。 加えて、 オレゴン研究では、 反社会的母親は両親の交代を引き起こし、
その後、 子どもの反社会的行動を引き起こすことが結論づけられている。
シカゴにおける長期研究においても、 子どもの生活環境の変化や流動性は、
非行予測ファタクーにとって顕著であった。
ところで、 崩壊家庭と非行との関係については、 3 つの主要な説明法が あるとファーリントンらは指摘する35。 最初の説明は、 両親の欠損が、 両 親への愛着を経験することができない子どもにトラウマとして決定的な悪 影響を与えるとするものである。 第 2 の説明は、 子どもの人生の過程で、
ストレス経験の連続として、 両親のもめ事や両親の欠損、 経済状況の悪化、
親の交代、 育児方法の欠如などの多重のストレスを抱えるから非行が起こ るとするものである。 第 3 の説明は、 崩壊家庭が非行児童をうみだすのは、
両親のもめ事や犯罪的反社会的行動、 家庭の低収入、 子育て方法のまずさ といったリスク・ファクターであり、 他の家庭とは異なるゆえとするもの である。
ケンブリッジ研究では、 これらの 3 つの説明に由来する仮説を検証した。
崩壊家庭出身の少年 (継続的な崩壊家庭) は、 両親の揃った家庭の少年よ
34 35
り非行的であるが、 他方、 もめ事が深刻な両親の揃う家庭出身の少年ほど 非行的ではなかった。 総じて、 最も重要なファクターは、 崩壊後の軌跡で ある。 別離の後、 母親と同居している少年は、 両親の揃ったもめ事の少な い家庭の少年と同様の非行率を示したにすぎない。 他方、 父親、 親戚、 そ の他 (養親) と同居した少年は、 高い非行率を示した。 これらの結果から すると、 崩壊家庭が問題というより崩壊家庭が少年にストレスを強調する 第 2 の説明と適合する。
4 . 家庭のリスク・ファクターに焦点を当てた予防
それでは、 このような環境にある子どもを非行からどのように防御すれ ばよいであろうか。 理念的に言えば、 リスク・ファクターと防御ファクター (
) を確認し、 防御ファクターを強化して、 リスク・ファ クターを減少させればよい。 但し、 防御ファクターはリスク・ファクター の対概念ではなく、 また現実には何が防御ファクターであるかを特定する ことは困難である。( 1 ) 予防の種類
上述の家庭ファクターに対する対応は、 家庭に根ざした予防プログラム
(
) と呼ばれる。
欧米におけるこの種のプログラムは、 主として、 心理学と公衆衛生の領 域で発展してきた。 ここでは、 心理学を応用したプログラムに焦点を当て る。 すなわち、 心理学では、 両親管理プログラム (
)、 機能的家庭セラピィ ()、 家庭維持 プログラム (
) などに分類される。 典型的 には、 これらは、 家庭環境における社会的悪条件を改善して、 子どもの適 切な遵法的行動に対して賞を与え、 不適切で反社会的な行動には罰を与え る方法を採用するものである。
( 2 ) 両親に対する教育
① 家庭訪問
新しく両親となった者、 特に母親へのカウンセラーなどの専門家の家庭 訪問による対応はよく知られる。 家庭訪問プログラムの主な目的は、 きわ めて早期から、 子どもの将来の可能性を改善するように両親を教育するこ とであり、 それは誕生、 場合によっては妊娠後期から開始される。 この目 的の一部は、 早産や未熟児の予防などの公衆衛生上の視点、 健康的な子ど もの成長や就学準備の推進などの教育上の視点、 児童虐待や放任の予防な どの被害者保護の視点が含まれる。 家庭訪問はしばしば、 両親の福祉を向 上するのに役立ち、 これによって両親は、 雇用、 教育、 薬物・アルコール 中毒からの回復などを支援する地域社会の諸資源を活用することが可能で ある。 家庭訪問員は、 通常、 看護士などさまざまなスキルを有する保健専 門職や心理カウンセラーの者である。
家庭訪問プログラムにおける早期介入は、 反社会行動や非行の予防に効 果的であることが知られている36。 ある調査によると、 暴力予防のための 家庭訪問の効果に対する体系的な評価研究を行い、 訪問を受けた児童によ る暴力予防の効果が検証された。 ただし、 結果はまちまちであって、 青年 期における暴力や子どもの外部的行動への効果をみると、 子どもの暴力予 防に対する家庭訪問介入の効果を決定するのには、 証拠は十分ではないと する。 しかしながら、 有力な予防効果が見いだされた事例では、 児童虐待・
放任に対する家庭訪問がみられたという。
幼児期の家庭訪問プログラムの効果についても結果はまちまちであり、
その 1 つでは、 子どもの外部的行動、 反社会的行動、 非行に望ましい効果 があったとされるものもみられる。 あるいは、 子どもの外部的行動には効 果がないとするものもみられる。 親の子育て態度、 知識の修得については
36
いくらかの効果がみられたが、 それも限定的であった37。 このような点か ら、 家庭訪問プログラムにおける効果に関して結論を導き出すことは困難 とするのが一般である。
② デイケアを伴う両親教育
両親教育プログラムの一部には、 デイケア・サービスを組み合わせて、
非行を測定するものもある。 デイケア・プログラムは、 就業準備プログラ ムとは異なって、 子どもの知性向上に照準を当てるものではなく、 両親の 共働きを支援するため児童のケアを実施するものである。 デイケアはまた、
子どもに多くの重要な利益、 つまり他の子どもとの社会的相互作用、 認知 的知覚的な運動制御力などのスキルを刺激することを含む。 合衆国やその 他の欧米諸国では、 デイケア・サービスは、 生後 6 週間の子どもに適用可 能である。
ファーリントンらの調査によると38、 子どもに対するデイケア・サービ スを含む両親教育プログラムは、 子どもの反社会的行動や非行を予防する のに効果がみられた。 この効果は、 就学準備知的プログラムとは別である が、 結合する場合もある。 さらに、 3 歳児までの子どものいる家庭に対す る初期の子育てプログラムにおいて、 子どもの破壊的な行動、 たとえば、
大人への反抗、 怠学、 攻撃や非行の予防に効果があるか否かを体系的に検 証した研究がある。 これには、 家庭訪問や両親教育とデイケア・サービス が含まれるが、 結果はまちまちであった。 その評価研究によると、 4 つの 研究では効果なし、 2 つの研究では効果あり、 もう 1 つの研究ではかなり 効果があるとされた。 したがって、 デイケア・プログラムも改善に余地が ある。
37 38
③ 両親管理トレーニング
子どもの外部的行動の問題や非行を予防し、 あるいは管理するのに様々 なタイプの両親トレーニングがある。 両親管理トレーニングは、 家庭にお ける子どもの行動を変えるために両親を訓練する処遇手続を意味する。 ア メリカ・オレゴン州で開発された両親管理トレーニングでは、 両親と子ど もの相互作用を観察したところ、 反社会的児童の両親は、 子育ての手法に 欠陥があることが見い出された。 これらの両親は、 どのように行動するよ うに期待されているかを子どもに伝えることができず、 期待された行動が 望ましいとする行動管理ができず、 適切な賞と罰をもって即座に明瞭なルー ルを確立することができないという。 反社会的児童の両親は比較的、 処罰 的であるが (叱る、 怒鳴る、 威嚇する)、 ところが子どもの行動に対して それを一貫して行うことができない。 そこで、 これらの両親をトレーニン グして、 効果的な子育て手法を行わせ、 特に、 子どもが何を行っているの か、 長期的に行動をどのように監視するか、 明瞭に家庭のルールを述べる ことができるか、 賞と罰を行動に対して一貫して行うことができるか、 不 同意を明瞭に述べ、 もめ事や危機がエスカレートしないようにできるかな どを試みた。 このような手法は、 短期間では、 子どもの盗みや反社会的行 動を減少させるのに効果的であったとされる39。
両親管理トレーニング・プログラムのメタ分析によると、 この形態の初 期介入は、 反社会的行動や非行の予防に効果的であることが見いだされ た40。 実際、 反社会的行動は20%減少したという。 これらの両親管理トレー ニング・プログラムは、 基本的に、 子育てにおける賞と罰の使い分けの一 貫性、 また条件付けの利用を両親に教えることを狙いとする。 通常、 この 種のプログラムは、 両親の集団討議 (
) で行われ、 ロー 39
40
ル・プレイング (
) やモデリング・エクセサイズ (
) などが用いられる。 場合によっては、 ビデオ・テープを使用し たり、 さらには、 子どもの問題解決スキルを向上させるチャイルド・スキ ル・トレーニングを加味したりする。
行動的両親トレーニングのメタ分析を行った調査では、 10歳まで子ども を追跡し、 その大半は、 少数ではあるが、 子どもの反社会的行動を減少さ せるのに効果があったとされる。 特に、 比較的年長の子どもに対してはよ り大きな効果が認められた。 その他の研究でも、 子どもの行動、 特に深刻 な問題行動を抱える子どもに対しては改善効果が認められた。 したがって、
この種の両親管理トレーニングについては、 楽観的な研究者が多く、 予想 外の良好な副次的効果も少なく、 たとえば、 家庭や母親のストレスに結び つく兄弟姉妹の行動にも改善効果がみられたという41。
5 . わが国における早期介入策の事例
欧米に比較的して、 わが国では家庭が抱える非行リスク・ファクターに 対する試みは少なく、 またその分析や調査もほとんど進んでいない。 もっ とも、 わが国でも過去において、 非行少年の出身家庭に関する躾の問題を 取り扱った研究がないわけではない。 それによると、 非行を生み出す家庭 の躾問題として、 次の点を指摘する42。 すなわち、 ①親の価値観が明白で ないため、 躾の方向性が一貫せず、 両親の間にも食い違いがあり、 とくに 母親の躾態度は自己中心的であること、 ②貧困家庭、 共働き家庭では子の 躾に対して無関心層が多いこと、 ③躾の裏付けとなる親の権威が低下し、
その結果、 子が親の躾に従わない現象がみられること、 ④父親には溺愛型、
母には溺愛と放任の両型が多いことである。 古い調査ではあるが、 今日で
41
42 橘偉仁・前掲書121頁。
もその指摘は妥当するように思われる。
他方、 家庭ファクターに対する具体的取り組みも若干の事例があるので、
ここで紹介したい。 たとえば、 筆者の一人が関係した研究活動として、 関 西地方の A 市が実施している子育て支援の試みがある。 同市では子育て 支援課が設置されているが、 ユニークなのはその活動である。 この子育て 支援の一環として、 社会的犯罪予防策が展開されているからである。 すな わち、 小学校等で非行リスク・ファクターを抱える児童を発見した場合、
対象児童に関する事例研究を関係機関で行い、 総合的な対応策を検討する のである。 関係機関には、 同市の担当部署はもちろん、 小学校、 児童相談 所などがあり、 対象児童の家庭環境・生育歴、 小学校における行状・成績 等を分析して、 適切な対応をとるメカニズムが確立されている。
事例としては次のようなケースがみられた。 ある小学校で不登校児とし て特別指導を行った 6 年生の女児生徒の場合、 家庭環境がきわめて複雑で、
風俗業に従事する母親には 3 人目の父親 (新聞配達員) が同居しており、
この父親との間に保育園に通う年齢の弟がいる。 最初の父親 (実親) は服 役中であるという事情がみられた。 実は女児は、 最初の父親と実の長姉と の子どもであって、 長姉が中学生の時に受けた性的虐待の結果この女児が 生まれており、 父親はそのために逮捕され有罪判決を受けたのである。 長 姉は現在成人であり別の男性と結婚し、 他の場所で暮らしている。 他方、
現在の両親の収入はきわめて低く、 このため次姉は福祉施設に預けられて いる。 母親は深夜の勤務のため、 午前中は就寝に当てられ、 弟の世話やそ の他の家事はもっぱら女児が行っており、 これも不登校の一因となってい る。 女児は年の割には体格がよく性的魅力を備えており、 しばしば高校生 と間違われるほどで、 街を歩くと男性が声をかけてくることも珍しくない という。 家庭内では 3 番目の父親がこの女児を性的虐待している疑いがあ り、 この父親の部屋から女児の下着がみつかったと母親が訴えているとい
う。
A市は上記事例を研究会の研究対象の一例とし、 女児に対する介入策を 検討した。 すなわち、 市当局はまず母親に対して、 弟の子育て支援を提案 し、 市の職員が何度か自宅を訪問して、 事情を探っている。 いわゆる家庭 訪問、 先のホーム・ビジティングである。 但し、 わが国の場合、 人権等に 配慮するため、 直接非行予防介入が行える環境にはないから、 あくまでも 弟の子育て支援が名目であり、 その機会を捉えて女児への支援策も検討す るにとどまっている。 いわば公衆衛生の一環として実施されており、 心理 系の専門職が関与しているわけではない。 もちろん、 女児が通う小学校で も不登校を改善するために、 担当教員が家庭訪問を行っており、 その結果、
何度か女児も学校に通っているが、 実際には授業に加わることもなく、 特 別室で 1 日を過ごしているにすぎない。
研究会では、 この段階では、 不登校は別として、 女児が非行やその前段 階の問題行動を起こしているわけではなく、 直接的に介入するのは困難と しているが、 ただ、 家庭内では上述の性的虐待の疑いがあること、 中学校 でも不登校になるおそれが強いことから、 関係する中学校とも連携をとる 一方、 なるべく母親を誘い出して近隣で行われている子育て相談等に参加 するように呼びかけている状態であり、 現に母親は市職員が行っている家 庭訪問では素直に応じ、 状況は改善の方向に向かっているという。 もっと も、 対応はこのレベルにとどまっており、 強制力を伴わない手法には限界 があると思われる。
6 . おわりに
いうまでもなく、 非行リスク・ファクターは家庭だけに限るものではな く、 個人的、 地域的ファクターもある。 しかし、 一般的に言って、 家庭ファ クターが非行要因として最も重要であるように思われる。
本来、 家庭は誰もが心の安寧を獲得する場であるが、 上述のように、 逆 に、 家庭が非行リスク・ファクターを生み出す場所ともなっている。 犯罪 や非行が発生すれば権力的介入も可能ではあるが、 しかし、 法格言として 知られる 「法は家庭に入らず」 という語が示すように、 その前段階でたん にリスクを示しているにすぎない場合、 外部の第三者がかりに支援の形式 であっても介入するのは困難である。
それでも、 児童が家庭内で両親等から種々のネガティブな影響を受け、
将来非行や犯罪を行う可能性が高まっているとしたら、 これを公的機関が 放任することも問題であり、 何らかの救援や支援が必要である。 わが国で も、 先の諸外国の例を参照に、 非行予測ファクターに関する研究を充実さ せ、 科学的知見 (エビデンス) に基づく家庭の非行ファクター除去を目指 すべきであり、 その結果として、 家庭に対して早期に介入して児童が犯罪 や非行を行うことなく健全に育つことを支援すべきであろう。