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実験室における化学物質の 危険性体感教育

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Academic year: 2021

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8 SCAS  NEWS  2013 -Ⅱ

1 はじめに

「ご安全に!」製造現場などでよく耳に するフレーズである。全ての産業において,

「安全」とは「必須」であると同時に「当 然」でもある。安全であることが当たり前 とされる昨今の社会にあって,「ご安全に」

という言葉が形骸化するのは半ば必然で あろう。安全であることが当然でない世代 が,度重なる事故や災害を糧にして築き上 げてきたルールによって,現在の「安全=

当然」が成立しているのである。

 しかしながら,近年の化学産業界は,社 会からの様々なニーズに応える為,多種 多様な化学物質を取り扱う機会が増加し ており,これに伴って図1に示すように予 期せぬ災害を引き起こす可能性が高まっ ている。危険を体験したことの無い若年世 代にとっては,これを未然に防ぐのは容易 ではない。SDS(Safety Data Sheet)

を用いての安全教育やOJT(On-the-Job  Training)などは各所で実施されている が,これでは表面的な理解に留まるケース が多く,真の危険性を認識できない。そも

そも事故や災害の多くは,知識不足よりも 危険感受性不足によって引き起こされる 危険行動を原因として発生する。知識教 育に加えて,危険を感じる為の訓練即ち体 感教育が必要とされるのはここに端を発 する。

 上述のような背景から,種々の業界にお いて危険体感教育が盛んに行われており2) 一定の効果を得ていると思われるが,取 扱う危険物質が少量である研究室などで は,少量であるが故の油断からかトラブル が絶えない。これらのトラブルを未然に防 ぐ為,当社が実施している,化学物質の危 険感受性向上を目的とした危険性体感教 育について紹介する。

2 危険性体感教育の概要・目的

 本教育では,知識教育に加えて,実際に 着火・爆発といった危険現象を体感させる ことによって,化学物質の潜在危険性を知 識・経験の両面から理解させ,作業の安 全を確保することを目的とする。以下に教 育内容の詳細を述べる。

3 危険性体感教育プログラム

3.1 教育項目

①座学

 消防法危険物の分類から想定される化 学物質の危険性を理解する。

②可燃性液体の危険性  <引火現象の体感>

 取扱い温度と引火点の関係による危険 性,含浸状態における着火性の変化を体 感することによって,実際の作業における リスクレベルを認識させる。

 <可燃性ガスの爆発体感>

 実際にガス爆発を体感することにより,

爆発範囲内で取扱うことの危険性を認識 させると同時に,災害発生時のリスクレベ ルの大きさを理解させる。

③可燃性粉体の危険性

 <着火・衝撃感度の体感>(図 2)

 微小な着火源や衝撃による着火・燃焼 を体感することによって,着火感度の高い

実験室における化学物質の 危険性体感教育

愛媛事業所 横井 暁・山内 正司 / 愛媛事業所 兼 工業支援事業部 石川 良介

図1 危険物施設における火災事故発生要因1)

図2 衝撃感度体感教育(酸化剤と可燃物の混合物)

分  析  技  術  最  前  線

F R O N T I E R R E P O R T

(2)

9 SCAS  NEWS  2013 -Ⅱ

物質を取扱う場合の危険性を理解させる。

 <粉じん爆発の体感>(図 3)

 身近に存在する粉体を用いて実際に粉 じん爆発を体感することにより,堆積状態 との危険性の違いを認識させると同時に,

災害発生時のリスクレベルの大きさを理 解させる。

④混合・混触危険性

 <過酸化水素+金属塩の反応危険体感>

 30%過酸化水素水に異物(金属塩)が 混入した際に起こる現象を体感することに より,過酸化水素取り扱い時の注意点や,

不安定物質への異物混入防止対策の重要 性を理解させる。

⑤熱分解反応の危険性

 <自己反応性物質の熱分解危険(ビデオ 学習)>(図 4)

 自己反応性物質の熱分解の激しさを 理解する。

⑥静電気放電による危険性

 <静電気放電による爆発危険(ビデオ 学習)>(図 4)

 日常作業における静電気の発生メカニ ズムと,その危険性について理解する。

3.2 教育内容詳細

 <布等への含浸状態における引火性

(体感)>(図 5)

 灯油の引火点は 37〜 65℃であり,室温 下での引火危険性は低いとされているが, 等に含浸した状態では,加熱効率の増大によ り,引火点未満でも容易に引火する。通常の 取扱いでは安全な物質も,条件によってその 危険性が大きく変化することを理解させる。

 <アセトンのガス爆発実験(体感)(図6)

 図6の「蒸気圧−引火点の関係」に示す ように,有機溶剤は,液温の上昇とともに 蒸気圧が高まり,引火点(点火源があれば

F R O N T I E R R E P O R T

図4 座学およびビデオ学習

図5 含浸状態における引火性

図6 蒸気圧−引火点の関係 ᶧ᷷

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図3 粉じん爆発体感教育(一般的な有機粉体)

粉じん爆発の様子

(3)

10 SCAS  NEWS  2013 -Ⅱ 燃焼する)に達する。

 アセトンの引火点は-18℃であり,常温下 で着火源が存在した場合において容易に引 火することは想像に難くない。これを密閉 下で行い,爆発現象として体験させること によって,日常的に取扱っている可燃性ガス や可燃性溶媒の潜在危険性を理解させる。

 <静電気放電による水素の爆発危険

(体感またはビデオ学習)>(図 7)

 粉体や液体の移し替え作業など摩擦を 伴う作業においては,その摩擦によって静 電気が発生する。この時,帯電物表面から の静電誘導によって,近接した導体(つま り作業者)が帯電することがある。作業者 からの放電によって水素が爆発する様子 を,視覚・聴覚で体感させ,静電気対策の 重要性を理解させる。また,放電エネル ギーと最小着火エネルギーとの関係にも 触れ,取扱い物質の危険性を把握するこ との重要性も認識させる。

 〜例:放電エネルギーの計算〜

 導体からの放電エネルギーは以下の式 により算出される3)

 E = 

 E:放電エネルギー[J]

 C:静電容量[F]

 V:帯電電位[V]

 表 1 に水素等の最小着火エネルギーを 示す。粉体の移し替え作業によって,作業 者が約 10kV 帯電した場合の放電エネル ギーは,作業者の静電容量を約 100pF と 仮定すると約 5mJ となる。これは表 1 の 物質が爆発するのに十分なエネルギーで あることがわかる。

4 おわりに

  本体感教育は社内教育の一環として 2013 年度にスタートした歴史の浅い取 組みではあるが,生業である試験業務に加 え社外向けの危険性評価セミナーや,関 連会社向けの体感教育講師派遣など,多 方面より安全操業をサポートしてきた経 験を基に,実効性の高い教育を実施してい く。また,本教育を定期的に行うことによ り,知識及び安全意識の風化を防止し,当 社の安全風土を確立する。同時に,当社は 化学物質の潜在危険性評価について数多 くの実績を有している受託分析・評価サー ビス会社であり,本教育を社外にも広く展 開し,産業界全体の災害防止に貢献でき れば幸いである。

石川 良介

(いしかわ りょうすけ)

愛媛事業所 兼 工業支援事業部 山内 正司

(やまうち しょうじ)

愛媛事業所

文 献

1) 総務省消防庁,平成24年版 消防白書,第 1-3-5図(2012)

2)丸野  忍,体感教育による安全確保への取り組 み;住友化学誌, 2008-Ⅱ(2008)

3)静電気学会,新版  静電気ハンドブック;オーム 社(1998)

分  析  技  術  最  前  線

横井 暁

(よこい あきら)

愛媛事業所

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図7 粉体移し替え時の静電気帯電体感教育

物質名 最小着火エネルギー

[mJ]

水素 0.019

プロパン 0.25

アセトン 1.15

表1 各物質の最小着火エネルギー3)

CV2 2

参照

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