SCAS NEWS 2016 ‑Ⅰ 1
固体デバイスは燃料電池や電池など将来のエネルギー関連デバイスに重要な位 置を占めようとしている。例えば,われわれが研究に携わっている固体酸化物形 燃料電池(SOFC)は,700‑900℃の高温作動を特徴とする燃料電池で,化石 燃料を用いる各種発電方法の中で小型でも高い発電効率が達成できる。高温のた め様々な燃料に適応でき,発電で発生する熱を利用することにより,導入目的に 応じた高効率なシステムを構成できる多様性にも優れている。現在,開発されて いるシステムの規模は数 kW 〜数 MW 級に及び,家庭用・定置用の分散型電源や,
熱機関と組み合わせた高効率なコンバインドシステムが精力的に開発されている。
このような実用化の端緒にある固体電気化学デバイス・システムであるが,こ のほかにも様々な固体電気化学デバイスが検討,開発されている。いずれも長期 運転時や過酷運転環境下における安定した動作を保証するために,耐久性や信頼 性をさらに高めることが求められている。固体材料の解析手法としては古くから X 線回折や走査電子顕微鏡,X 線光電子分光などが使用されてきた。このような 従来からよく知られた機器分析手法は材料の基礎データを与えるものとして重要 であるが,劣化要因の解析手法として,これらだけでは十分な情報が得られない。
NEDO の SOFC 迅速評価プロジェクトでは信頼性の向上が最重要課題として取 り上げられ,企業と大学,研究所の強力な協力・連携体制が劣化診断・対策に効 果的に機能している。電池性能の低下は不純物の堆積,微構造変化,相変化,欠 陥生成などの要因に起因する。したがって,これらの劣化要因が発現する条件や 進展の速度を基礎的に明らかにして対策を施すことで,電池の高性能化や長期信 頼性を図る必要がある。様々な機器分析手法の組み合わせによる集学的な解析 が,劣化現象や機構の解明に有効である。固体材料の評価技術は近年,大きく発 展しており,最先端の固体材料評価技術が SOFC の劣化診断にも適用されている。
二次イオン質量分析(SIMS),走査透過電子顕微鏡(STEM),集束イオンビー ム−走査電子顕微鏡(FIB‑SEM),マイクロ Raman などを組み合わせて,様々 な劣化要因と劣化過程を解析する手法が注目されている。SIMS は微量成分の局 所分析に優れており,外部から導入された不純物の同定と定量に有効である,ま た酸素同位体を識別できるため,酸化物イオンが伝導して機能する SOFC にお いては伝導機構の解析に有力である。STEM の最近の発展は目覚ましく,極めて 高分解能の格子像から結晶構造についての情報が得られるほか,複数の相を積層 して作られる SOFC デバイスの相界面における構造や,異種層・欠陥の解析な どに有力である。
セルの劣化はこれら顕微鏡レベルで観察される微構造,組成変化と因果関係 が明らかにされており,長期運転にともなう変化を観察して,劣化対策に結び
セ ラ
ミ ッ ク ス デ バ イ ス の 劣 化 解 析
江口
浩一 京都大学
大学院工学研究科
物質エネルギー化学専攻 教授
2 SCAS NEWS 2016 ‑Ⅰ
つけようとする試みが進行中である。SOFC の性能や安定性に直接寄与する電極の微構造変化を解析する手法としては,FIB‑SEM を用いた 3 次元電極微構造 解析が有効である。電極の微構造の最適化は高性能化に重要な要素であるが,こ のような微構造解析手法として,これまでは 2 次元的な SEM 像の観察や細孔 容積・細孔分布などの測定に頼っていた。近年,3 次元微構造の観察の手法が 発達し,電子線 CT,X 線 CT などが使用されている。これら一連の Computed Tomography 手法は医療分野で発展した X 線断層写真の原理を,細く絞った電 子線,あるいは X 線を使用することによって材料の局所構造解析に発展させたも のである。X 線 CT は SOFC の電極にも適応され,観察中に試料を破壊するこ となく 3 次元構造が再現でき,しかも吸収端を利用することにより元素ごとの分 布も得ることができる。ただしサブマイクロメータースケールの高分解能の観察 には,小さな試料の切り出しと,強力 X 線源が必要となる。
一方,FIB‑SEM は固体試料にイオンビームによるエッチングと SEM 観察を交 互に組み合わせ,3 次元的な微構造情報を収集する手法である。現在,50 nm 以 下の解像度で電極微構造の 3 次元情報を直接取得することが可能になっている。
SOFC の電極においてもいくつかの研究グループが,燃料極や空気極の 3 次元微 構造の解析結果について報告している。この手法はまず SEM による観察と Ga 集束イオンビームによる断面切除を交互に繰り返すことで一連の 2 次元 SEM 画 像を数百枚取得し,複数の相によるコントラストの違いを画像処理により判別し,
コンピュータ上で3次元画像として再構築することを基本的操作とする。SOFC の反応の舞台は,燃料極あるいは空気極−固体電解質である安定化ジルコニア−
気相(細孔)の三相の境界で,三相界面とよばれる空間的に分布している曲線上 にある。いったん3次元微構造画像が取得されれば,三相界面の空間的広がりや その長さを見積もることも可能となる。そのほか各構成相の体積分率,表面積,
屈曲係数,空間的広がりや連続性などが明らかになり,性能に関連する様々な物 性値を求めることができる。また,微構造データを直接用いた電極過電圧や反応 領域の予測,解析領域サイズが数値解析に及ぼす影響などについてモデリングと 組み合わせての評価が可能となる。
このように先進的な固体デバイスの評価例として SOFC の検討例を紹介した が,複数の手法を組み合わせて,様々な劣化要因の解析を追及することが必要と される。また,これらの機器分析的,顕微鏡的手法の観察データは,画像解析や シミュレーションと組み合わせて,さらに威力を発揮し,劣化の原因解析だけで なく,寿命予測や劣化対策の提言にも展開することが可能となりつつある。
1984年 九州大学総合理工学研究科 博士課程修了
1984年 九州大学総合理工学研究科・助手 1986年 九州大学総合理工学研究科・
助教授
1987年〜1988年
フランスボルドー大学CNRS
研究員併任
1998年 九州大学総合理工学研究科・教授 1998年〜2002年
東京大学工学系研究科 併任 2000年 京都大学工学研究科・教授 (現在に至る)
2013年〜現在
(独)科学技術振興機構戦略的 研究推進事業
「エネルギーキャリア」研究統括
併任
略 歴
1990年 日本化学会 進歩賞 2012年 触媒学会 学会賞(学術部門)
2014年 石油学会 学会賞 受賞歴