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2. わが国の個人情報保護法制の概要

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c オペレーションズ・リサーチ

個人情報保護法の改正と データを用いた学術研究

岡村 久道

ICT(情報通信技術)の飛躍的な進歩によって,膨大かつ多様な情報がネット経由で取得され,越境データ移 転が日常的になった現在,ビッグデータの利活用が大きく脚光を浴びる一方,パーソナルデータ保護との調和が 国際的な重要課題となっている.これらの観点から個人情報保護法が2015年に改正され,行政機関や独立行政 法人等向けの個人情報保護法制も改正に向かっている.しかし,それによって,もともと複雑な制度がさらに複 雑化する傾向にあり,これまで必ずしも整備が進んでいなかった学術研究分野への横断的利用に対し抜本的に対 応するためには,各個別領域を対象とする個別法の制定に向けた検討作業が急務といえよう.

キーワード:個人情報,プライバシー,ビッグデータ,パーソナルデータ,法制度,学術研究

1. はじめに

ICT(情報通信技術)の飛躍的な進歩によって,膨大 かつ多様な情報がネット経由で取得され,越境データ 移転が日常的になった現在,「レセプト情報・特定健診 等情報データベース」(NDB)1をはじめ,ビッグデータ の利活用が大きく脚光を浴びる一方,パーソナルデー タ保護との調和が国際的に重要な課題となっている.

わが国でもJR東日本のSuica利用情報提供計画や,

総務省系の独立行政法人である情報通信研究機構の大 阪駅顔認証データ実証実験計画等が,プライバシー保 護を理由とした反対運動による大規模なネット炎上騒 動を受けて中止を余儀なくされるに至り,今後におけ るビッグデータの利活用に深い影を投げかけている.

こうしたICTの急速な発展がもたらした個人情報を 取り巻く環境の変化に対応するため,個人情報保護法

(以下「個情法」という)の2015年改正も行われてい る2

本稿は,前記調和に関する現状と課題について,学 術研究分野を中心に検討を試みることを目的とするも のである.

2. わが国の個人情報保護法制の概要

最初に,わが国における個人情報保護法制(以下「保 護法制」という)の概要を簡潔に説明しておきたい.

保護法制は個人情報それ自体の保護を目的とするも のではなく,その適正な取扱方法を定めることによっ

おかむら ひさみち

弁護士,国立情報学研究所客員教授,弁護士法人英知法律事 務所

[email protected]

て「個人の権利利益」を保護することを主たる目的と しており,その旨は個人情報保護3法(後述)の法文 に明記されている.

ここに個人の権利利益とは,主としてプライバシー をいうが,それ以外にも個人の名誉権その他の雑多な 権利利益を総称する意味である.それらが侵害された 場合には,判例法理や民法等によって本人による損害 賠償請求等の事後的な責任追及が認められている.こ れに対し,保護法制は個人情報の不適正な取扱いによ る漏えいその他の事故の発生防止を図ろうとする未然 防止策として位置づけられており,違反行為は監督機 関たる個人情報保護委員会(後述)による勧告・命令 等の対象となるほか,本人による自己情報の開示請求 等の対象となる.

このように制度目的は明確であるにもかかわらず,わ が国の保護法制は極めて複雑な構造となっている.す なわち,基本法たる個情法第3章までの規定の下に,

一般法として,①民間部門に適用される個情法第4章 以下の規定,②国の行政機関に適用される行政機関個 人情報保護法(以下「行個法」という),および,③独 立行政法人等に適用される独立行政法人等個人情報保

1 すべてのレセプト(診療報酬明細書)について,オンライ ンまたは電子媒体による提出を原則義務化し,「高齢者の医療 の確保に関する法律」(高齢者医療確保法)16条に基づき,

全国医療費適正化計画および都道府県医療費適正化計画の作 成,実施および評価に資するため,これと特定健診・保健指 導データを匿名化したものを厚生労働大臣がデータベース化 して保有し,研究者が外部からネットワーク経由でアクセス するというシステムをいう.

2 「個人情報の保護に関する法律及び行政手続における特定 の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の一部を 改正する法律」(平成2799日法律第65号)による改 正である.

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護法(以下「独個法」という)から成り立っている.こ れらは「個人情報保護3法」(以下「保護3法」とい う)と総称されており,2003年に制定された3.個情 法は個人情報の有用性への配慮を,行個法および独個 法は行政事務等の適正・円滑な運営を図ることを明文 で掲げており,これらの有用性と個人の権利利益保護 との調和を目指そうとするものである.前述のとおり,

個情法は2015 年に大幅に改正されており(以下「改 正個情法」という),行個法および独個法も2016年の 通常国会に改正法案が提出されている.さらに,④す べての地方公共団体がそれぞれ個人情報保護条例(以 下「個条例」という)を制定しており,これは主とし て当該地方公共団体,および,その設立した地方独立 行政法人を対象としているが,その内容は必ずしも統 一されていない4.行個法が改正されれば,それに応じ て個条例も改正されることが予想される.

医療機関を例に適用関係を説明すると,同一患者の 個人情報であっても,①民間の診療所・病院には個情 法が,②かつて厚生労働省の施設等機関であった時代 の国立高度専門医療センターには行個法が,③独立行 政法人化された現在の国立高度専門医療研究センター および国立大学附属病院には独個法が,それぞれ適用 される.さらに,④地方独立行政法人たる公立病院に は当該地方公共団体の個条例が適用されるという複雑 な適用区分となる.しかし,治療の際に医療機関従事 者,患者の双方ともに,所属機関の別について特に意 識しているわけでもなければ,治療内容に差が設けら れるわけでもないとして,こうした縦割りの法制度に 対する疑問の声は強い[1].

さらに,これらの一般法の下に,個別分野の特色に 応じて個別法が置かれることがある.その代表例とし て,2013 年制定の番号利用法(正式名称は「行政手 続における特定の個人を識別するための番号の利用等 に関する法律」)がある(2015年に個情法とともに一 部改正).同法は,個人番号(マイナンバー),および,

特定個人情報(個人番号を含んだ個人情報)について,

より厳格な保護を図るべく,保護3法の特則を定めて いる.

医療分野を例にとれば,職務上取り扱った患者等の 秘密について,刑法その他の法律が,医師その他の資

3 なお,国の機関のうち,立法権(国会)および司法権(裁 判所)については,憲法が定める三権分立を考慮して,それ らを対象とする一般法は置かれていない.

4 とはいえ,個条例の大半は行個法に応じて改正を重ねてき た.今後において行個法が改正されれば,それに応じて個条 例も改正されることが予想される.

1 改正個情法の包括的適用除外規定

格ごとに罰則付きの守秘義務を定めていることも,縦 割りの垣根を越えて保護を厳格化することを目的とし た,広義の特別法といえよう.特別法についてはさら に後述する.

3. 学術研究等との調和―適用除外―

保護法制の規制対象は,個人情報の取扱方法全般に 幅広く及ぶことから,憲法が保障する表現の自由,学 問の自由その他の精神的自由権との間に緊張関係が生 じる.そのため,保護3法の制定に向けた国会審議の 際,この問題が大きな議論を呼んだ.その結果,前記 緊張関係を解消するため,図1のとおり,個情法が課 す義務について包括的な適用除外規定が設けられた.

また,学術研究活動等に影響を及ぼす恐れを低減する ため,監督機関は行政処分等を行う際に,表現の自由,

学問の自由等を妨げてはならず,前記適用除外対象者 に対する個人情報の提供行為については,その権限を 行使しない旨の配慮規定が同時に設けられた.これら の規定は改正個情法でも条文の位置を変えつつ同一内 容で存置されている(改正個情法における包括的適用 除外規定は76条,配慮規定は43条)5

5 2015 年改正番号利用法には,こうした包括的適用除外規 定も,配慮規定も設けられていない.したがって,学術研究 機関等は同法9条各号の範囲でのみ個人番号を利用でき,同 法19条各号の場合のみ特定個人情報の提供・収集保管が可 能となるに過ぎない(同法20条).

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前述の包括的適用除外規定の対象のうち,「学術研究 を目的とする機関若しくは団体又はそれらに属する者」

(以下「学術研究機関等」という)に関し,「学術研究を 目的とする機関若しくは団体」とは,学術研究を主た る目的とする機関等をいい,私立大学とその教員,学 会等が含まれるが,本来は個人情報取扱事業者に該当 する者であることが前提であるから,これに該当しな い国立大学法人等は含まれない[1].さらに,民間の事 業者であっても,シンクタンク,事業者の附属研究所 が含まれるか疑義が呈されており,むしろ否定的な考 え方が強い.前記機関等に「属する者」とは,私立大学 の教員,学会の会員等をいうが,それらの所属機関等 の活動として行うことを要件としていない.したがっ て,それらに属していれば足り,それらの所属機関等 の活動としてではなく,私立大学の教員が学務とは別 に行う研究のように,単に個々人の活動として行うも のも該当する.しかし,学術研究機関等に属さずに学 術研究活動を行う個人については,学術研究活動を事 業として実施しているか否か,客観的評価が困難であ り,趣味や教養等の個人の知的活動との判別が困難で あることを理由に,適用除外とされていない.複数の 民間病院に所属する臨床医らが共同で過去の症例研究 を行うようなケースについても,前記包括的適用除外 規定の対象となるか疑問が残されている.以上のとお り,前記包括的適用除外規定には,大きな限界がある.

これに対し,国立大学法人のような「独立行政法人 等」を対象とする独個法には,義務の包括的除外規定 が設けられていないという点で,民間部門を対象とす る個情法と大きく異なっている.ただし,独個法では

「役員又は職員が学術研究の用に供するためその発意に 基づき作成し,又は取得する個人情報ファイルであっ て,記録情報を専ら当該学術研究の目的のために利用 するもの」は個人情報ファイル簿の作成・公表義務の 対象から個別に除外されている.また,「調査研究に係 る事務に関し,その公正かつ能率的な遂行を不当に阻 害するおそれ」があるものは,本人からの開示請求に 対する不開示事由とされている.ほかにも個別規定に よる一定の除外が図られているが,この点は行個法の 場合も実質的に同様である.

いずれにしても,このような縦割りの法制度ごとの 違いが,公的部門と民間部門との垣根を越えた共同研 究を躊躇させる要因となっているのではないかとの懸 念は払拭しえない.また,前記除外規定の適用を受け る学術研究機関等であっても,前記配慮規定には本人 に対する強制力はないので,本人が自己情報の提供を

出し渋れば,その学術研究に支障が生じる恐れが残さ れている.

4. 過剰反応問題

前述した包括的適用除外規定等の対象となる場合で あっても,過剰反応と呼ばれる問題によって,学術研究 活動等の現場は,さらに困難な状況に陥っている.過 剰反応問題とは,次のような現象である.

保護3法の適用除外を受けない場合であっても,ほ かの法令に定めがある場合や,本人または第三者の生 命,身体,財産その他の権利利益を害する恐れがある とき等は,目的外利用や提供が可能である旨の規定が,

保護3法に共通して設けられており,個条例の大半も 同様である.

ところが,2005年の全面施行直後から,違法となる ことを危惧した団体等が大規模事故災害時に安否確認 に要する個人情報の提供を拒否して社会問題化した.

こうした過剰反応について,政府は同法制度に事業者 が不慣れであることが原因であるとしてきた.

しかし,その後も2011年の東日本大震災,2015年 9月の関東・東北豪雨の際に地元の地方公共団体が行 方不明者の氏名を公表せず安否確認が遅れるといった 事態が発生していることに照らせば,現在でも過剰反 応が改善されたとは言いがたい.むしろ,規定内容に 関する抽象性の高さが,適法・違法を明確に区分する ことを困難にする主要因であると思われるが,この問 題は2015年改正でも何ら手当てがなされていない.

とはいえ,各省庁が①に関し所管の個別分野につい て事業者向けの指針を公表することによって,ある程 度は具体化が図られており,この抽象性の高さは,一 定限度は緩和されている.しかし,指針によって具体 化しうることには自ずから限界があるうえ,数十もの 指針が林立して複数の異なる指針の適用を受ける事業 者が存在するなど,やはり省庁縦割りの弊害の大きさ が指摘されていた.

改正個情法によって,独立第三者機関「個人情報保 護委員会」が新設され,個情法に基づく事業者に対す る監督機関の役割が,改正前の主務大臣制から個人情 報保護委員会へと移行することになっている.これに 基づき指針が一本化されることによって,縦割りの弊 害の解消が望まれる.その半面,指針による個別分野 に応じた具体化が後退することになれば,規定内容に 関する抽象性の高さに起因する過剰反応が,より深刻 化する恐れもある.

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5. 義務対象者の拡大―小規模事業者の適用除 外廃止―

こうした中で,2015年に個情法が大幅に改正された ことは前述したが,改正点は多岐にわたるので,以下,

学術研究等に比較的大きな影響を有すると思われる点 を抜粋して解説したい.以下に記載する条項は,すべ て改正個情法のそれによる.

まず,個情法が課す義務の対象者たる個人情報取扱 事業者とは,「個人情報データベース等を事業の用に供 している者」をいい,公的部門は明文で除外されてい る(2条5項).個人情報データベース等とは,個人情 報を含む情報の集合物のうち,ⓐ電子データベースの ように,特定の個人情報をコンピュータで検索できる ように体系的に構成したもの,もしくは,ⓑそれ以外 のものであって,紙媒体の五十音順名簿のように特定 の個人情報を容易に検索可能なように体系的に構成し たものをいう(同条4項).

「事業の用に供している者」といっても,営利非営 利,法人個人を問わず,社会通念上「事業」を営んでい ると認められるものであれば足りるので,自治会等も 含まれるという,本来の字義と異なる極めて広い概念 である.同改正前には,小規模事業者について,加重 負担となることを避けるため,個情法上の義務の適用 除外が認められていた.ところが,改正個情法によっ て前記適用除外が廃止され,小規模事業者であっても 義務を負うこととなった.したがって,前記包括的適 用除外規定の対象とならない学術研究者は,小規模な 場合であっても,それを理由に義務の適用を免れるこ とができなくなった.

6. 個人情報の定義の明確化

次に,改正個情法によって個人情報の定義の明確化 が図られた.ICTの飛躍的な進歩に伴い,個人情報へ の該当性が不明確となってきたというグレーゾーン問 題に対処するためのものとして位置づけられている.

改正前と比べて,①個人に関する情報であること,② 当該個人の生存者性,③個人識別性の3要件を満たす 必要がある点では実質的に変わらないが,要件③を満 たすものとして,従来の記述等または容易照合性によ る個人識別性(2条1項1号)に加え,新たに「個人 識別符号が含まれるもの」が設けられた(同項2号).

これに伴い,個人識別符号について,次のⓐⓑのいず れかに該当する文字,番号,記号その他の符号のうち,

政令で定めるものとする定義規定も新設された(同条

2項).すなわち,ⓐ「特定の個人の身体の一部の特徴 を電子計算機の用に供するために変換した符号であっ て,当該特定の個人を識別することができるもの」(同 項1号),ⓑ「個人に提供される役務の利用若しくは個 人に販売される商品の購入に関し割り当てられ,又は 個人に発行されるカードその他の書類に記載され,若 しくは電磁的方式により記録された符号であって,そ の利用者若しくは購入者又は発行を受ける者ごとに異 なるものとなるように割り当てられ,又は記載され,若 しくは記録されることにより,特定の利用者若しくは 購入者又は発行を受ける者を識別することができるも の」である(同項2号).ⓐは1号個人識別符号,ⓑは 2号個人識別符号と呼ばれている.以上のとおり,ど ちらも明文で個人識別性が要件とされているので,個 人識別符号に関する規定の新設は,個人情報の概念を 拡張するものではなく,あくまでも明確化するものと して位置づけられている[2].

国会審議の際における政府答弁では,ⓐはバイオメ トリクス情報の一部,ⓑはマイナンバー,運転免許証 番号,旅券番号が例示されているが[3],これを具体化 する政令は,本稿執筆時点では制定されていない.個 人識別性が乏しいものまで政令で指定されてしまうと,

必ずしも適用除外対象となるか明らかでない学術研究 等に対して,大きな制約となる可能性がある.

7. 要配慮個人情報

改正個情法では,要配慮個人情報の概念が新設され るとともに,それに関する厳格な義務も設けられた.

要配慮個人情報とは,「本人の人種,信条,社会的身分,

病歴,犯罪の経歴,犯罪により害を被った事実その他 本人に対する不当な差別,偏見その他の不利益が生じ ないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして 政令で定める記述等が含まれる個人情報」をいう(2条 3項).センシティブデータ(機微情報)に対して特段の 保護を加えるEU(欧州連合)等の諸外国との制度面に おける国際的調和を図るために設けられたものである.

新設された要配慮個人情報に関する義務内容は,本 人の事前同意を得ずに取得することを原則として禁止 するとともに(17条2項),オプトアウトによる第三 者提供6の対象から完全に除外するというものである

6 オプトアウトによる第三者提供とは,所定の事項を公表等 することを条件に,本人の事前同意を得ることなく個人デー タを第三者に提供するが,本人からの求めがあれば個人デー タの第三者への提供を中止するという制度であり,232項 によって認められている.

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(23条2 項括弧書き).要配慮個人情報に含まれる病 歴等は,医学研究その他の学術研究等において重要な 地位を占める情報であることから,やはり大きな影響 がある.なお,「政令で定める記述等」についても本稿 執筆時点で政令は未制定であり,今後注視する必要が ある.

8. グローバル化に対応するための規定の整備

改正個情法では,事業者が,外国にある第三者に個 人データを提供する場合には,個人情報保護委員会規 則(以下「委員会規則」という)で定める認定国や認定 事業者が提供先である場合等を除き,外国にある第三 者への提供を認める旨の本人の事前同意を得なければ ならないという規定も新設された(24条).したがっ て,在外研究者に日本国内から個人データを提供する ような場合には,同条の規制対象となる.

一定の規定が,国内にある者に対する物品またはサー ビス提供に関連してその者を本人とする個人情報を取 得した個人情報取扱事業者が,外国で当該個人情報ま たは当該個人情報を用いて作成した匿名加工情報を取 り扱う場合にも適用されることになった(75条).こ れを域外適用という.

これらの規定はグローバル化に対応するために整備 された.同様の趣旨から,国際的な執行協力に関する 規定(78条)等も新設されている.

9. 第三者提供に係る記録の作成等

個人情報取扱事業者は,個人データを第三者提供し たときは,委員会規則に従って,所定の事項に関する 記録作成義務を負い,作成日から委員会規則で定める 期間,この記録について保存義務を負う(25条).提 供元となる事業者に対し記録作成等の義務を課す趣旨 である.

他方で,提供先となる個人情報取扱事業者は,第三 者から個人データの提供を受ける際に,委員会規則で 定めるところにより,所定の事項に関し確認義務を負 い(26条1項),当該確認に係る事項その他の委員会 規則で定める事項に関する記録作成,及び当該記録の 保存義務(同条3項),委員会規則で定める期間におけ る当該記録の保存義務を負う(同条4項).

2014年の夏に発覚した大手教育産業からの顧客デー タ大量流出事件では,単なる個人が自分で集められる はずのない膨大な顧客データを,委託先従業員が個人 的に名簿業者に売りに行ったにもかかわらず,これを 名簿業者が購入したという点が問題となった.25条・

26条は,これに対処するため,個人データの第三者提 供におけるトレーサビリティを図る趣旨から,改正個 情法で新設された規定である.26条1項に基づく確 認の結果,取得の経緯が不正なものであるという疑い を有して当然であるにもかかわらず,それを無視して 取得した提供先事業者は,不正の手段による取得禁止

(17条1項)に該当するものとして違法となる可能性 がある.これらの義務の対象者は名簿業者に限定され ていないので,学術研究等であっても,前記包括的適用 除外規定の対象とならない場合に,研究者間において 個人データの授受を行うときも,前記記録の作成,確 認等が必要となる.

10. 匿名加工情報

本稿の冒頭でも指摘したとおり,ビッグデータのう ちでもパーソナルデータが含まれる場合については,

その利用価値が高い半面,プライバシーを理由に激し い反対運動が繰り広げられてきた.こうした問題の発 生はパーソナルデータを利活用するためのルールが不 明確であることに起因するものであるとして,一定の 条件の下における個人情報等の有用性確保を目的に,

ルールの明確化を図るため,改正個情法によって「匿 名加工情報」制度が新たに導入された.

「匿名加工情報」とは,特定の個人を識別できない ように個人情報を加工して得られる個人に関する情報 であって,当該個人情報を復元できないようにしたも のをいう(2条9項柱書).高度な技術による識別化 を不可能とすることを要求する趣旨ではなく,一般人 であれば,通常は識別化ができないという程度で足り ると解釈されている.匿名加工の基準は委員会規則で 定められるが(36条1項),再識別化対策として,別 途,36条以下の規定で再識別化の禁止等が定められて いる.匿名加工の方法は,原則として,個人識別符号 を含まない個人情報については,それに含まれる記述 等の一部を削除することによって(2条9項1号),個 人識別符号を含んだ個人情報については,当該個人識 別符号を削除することによって行う(同項2号).

「匿名加工情報データベース等」という概念も,同 改正で新設された.匿名加工情報を含む情報の集合物 であって,特定の匿名加工情報を電子計算機を用いて 検索しうるように体系的に構成したものその他特定の 匿名加工情報を容易に検索しうるように体系的に構成 したものとして政令で定めるものをいう(2条10項括 弧書).ただし,同項についても政令は本稿執筆段階で 未制定である.

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個人情報取扱事業者が,匿名加工情報データベース 等を構成する匿名加工情報を自ら作成する場合には,

委員会規則で定める基準に従って加工すること,加工 方法等に関する情報の漏えい防止のための安全管理措 置を講じること,作成した匿名加工情報の項目を公表 すること,作成した当該匿名加工情報を第三者に提供 するには,委員会規則に従い,事前に,第三者に提供 される匿名加工情報の項目・提供方法を公表し,当該 第三者に対し提供に係る情報が匿名加工情報である旨 を明示すること,識別行為の禁止が,それぞれ義務付 けられるとともに,安全管理措置等の努力義務が課さ れている(36条).

他方,他人が作成した匿名加工情報データベース等 を事業の用に供している民間事業者を匿名加工情報取 扱事業者として位置づけ,それに含まれる匿名加工情 報を取り扱う際に遵守すべき義務も定められている.

当該匿名加工情報を第三者に提供するときは,委員会 規則に従い,事前に当該匿名加工情報に含まれる個人 に関する情報の項目とその提供方法を公表するととも に,当該第三者に対し,当該情報が匿名加工情報である 旨を明示する義務(37条),識別行為の禁止(38条), 安全管理措置等の努力義務(39条)である.

以上のような匿名加工情報制度の新設に対し,これ まで自由であったはずの非個人識別情報たる匿名情報 の取扱いに対し,新たに多様な義務が課せられるに至っ たので,その利活用が妨げられるのではないかという 疑問が呈される一方,これによって本当にプライバシー が守られるのかという,逆方向の立場からの疑問も呈 されている.

いずれにしても,必ずしも適用除外対象となるか明 らかでない学術研究等については,この匿名加工情報 に関する諸規定を遵守せざるをえないことになる.

11. 今後の課題―学術研究と個人情報保護の 調和に向けて―

以上に述べてきたとおり,学術研究について個人情 報又は匿名加工情報を取り扱う際には,前述の包括的 適用除外規定の対象となる場合を除き,それを取り扱 う主体の種類に応じて保護3法または個条例が適用さ れ,定められた義務を遵守しなければならない.しか

し,保護3法の内容は縦割りのため不統一であり,し かも義務内容は複雑かつ重い.したがって,個人情報 の有用性を利活用した学術研究等の公益的な利用に対 する障害となる恐れがあり,特に主体が公的部門と民 間部門に横断的である場合には,その不統一性に起因 して,共同研究等に支障が生じることは否定できない 事実であろう.

こうした問題を克服するため,特定の個別分野別に,

その特色に応じた共通の制度を構築する手法として,保 護3法すべてに適用される指針を策定するという方法 がある.医学研究分野における具体例を掲げると,文 部科学省・厚生労働省・経済産業省「ヒトゲノム・遺 伝子解析研究に関する倫理指針(平成25年2月8日 全部改正)」等が,その具体例である.しかし,指針と いう性格上,保護3法の枠内にとどまらざるを得ない 点で,この手法には限界がある.

保護3法の枠を越えて,特定の個別分野の特色に応 じた共通の制度を構築するためには,特別法の制定に よらざるを得ない.その具体例として,「がん登録等の 推進に関する法律」に基づく「全国がん登録データベー ス」は,名寄せのために個人情報の利用を認めている.

冒頭に述べたNDBはレセプト情報の共有化を推進し ようとするものであるが,「高齢者の医療の確保に関す る法律」に基づいている.これらの特別法は官民横断 的な共同研究等を推進するという見地から,その分野 的特色に応じた条件を設けつつ,個人情報の有用性を 活かすための特別法といえよう.

しかし,現状において,医療分野において特別法が 設けられているのは少数にとどまっている.ましてほ かの学術研究分野において個別法は乏しい状態であり,

そこに大きな限界がある.したがって,個別分野ごと に横串を通した学術研究その他の公益的利用を目的と した特別法の制定を推進することが,今後における重 要課題といえよう.

参考文献

[1] 岡村久道,『個人情報保護法の知識(第3版)』,日本経済 新聞出版社,2016.

[2] 瓜生和久(編著),『一問一答 平成27年改正個人情報保 護法』,商事法務,2015.

[3] 日置巴美,板倉陽一郎,『平成27年改正 個人情報保護 のしくみ』,商事法務,2015.

参照

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