MoおよびMo-Reを添加したCr-Ni合金の機械的特性・・・21

全文

(1)

MoおよびMo-Reを添加したCr-Ni合金の機械的特性

松本 佳久

1

・小松原 拓也

2

・福井 誠志

3 1機械工学科,2機械工学科学生(現:三菱重工(株)3機械工学科学生 高温構造部材として用いられているニッケル基耐熱合金は,ニッケル(Ni)の融点が1726Kであるた め,その最高使用温度は1300K前後となっている.しかし昨今,高温機器の熱効率のさらなる向上を目 指して,従来の耐熱合金の使用環境に比べて,より高温域での使用に耐え得る合金の開発が要求されて いる.そのような状況下においては,ニッケルに比べて,さらに融点の高いクロム(Cr)などの高融点 金属をベースとした耐熱合金の開発が必要である.本研究ではCrの加工性の向上を目的として,Crや Cr-Ni合金にMoやMo-Re合金をドープした際の組織や機械的特性の変化について検討した.その結果, Mo-Re合金添加量の最適制御でGを引き下げ,表面エネルギーγを上げることが可能となれば,延性向上 が期待出来ることを明らかにした.

キーワード : クロム,Cr-Ni,モリブデン,マイクロビッカース硬さ,剛性率

1.緒言

(1)背景 金属クロムは6A族に属し,体心立方格子 (bcc) の構造 を と る 金 属 で あ る . そ の 融 点 は 約 2163K , 密 度 は 7.194×103kg/m3であり1),高融点,低密度金属として知られ ている.クロムの表面は緻密な酸化膜に覆われているため, 酸,アルカリおよび高温酸化性雰囲気において,他の高融 点金属に比べて,耐食性ならびに耐酸化性の点で優れてい る2).さらに,クロムおよびクロム基合金は高温特性に優 れており,例えば,60Cr-25Mo-15Fe系合金を基本成分とす る合金は,その優れた高温クリープ特性が現在耐熱合金と して主流になっているコバルト (Co) 基およびニッケル (Ni) 基合金のそれよりも優れた特性を示す3), 4).このよう に,クロムはニッケルに比べ熱膨脹係数や密度が低く熱伝 導率が高いなどの,耐熱材料として相応しい物理的性質を 有している.従って,室温での延性に劣るという問題を克 服できれば,1300K以上の高温域で使用可能な耐熱合金と してクロムをベースとした合金が厳しい腐食環境で使用 するための耐熱構造材料,装置材料あるいは部品材料とし て大変有望な材料になると言える5). 一方,bcc 金属特有の延性-脆性遷移温度はクロムの場 合,室温以上の高温に存在しているため,室温で脆性を示 し,これがクロムの実用化に対する大きな弊害となってい る.また,クロムは表面欠陥感受性が極めて高いため,僅 かな表面欠陥によっても脆性的に破壊するという性質も 加工性の悪さの原因の一つとして上げられる.

Table 1 Designed compositions of 80Cr-20Ni-Mo(-Re) alloys.

6.000 24.000 12.177 15.924 71.899 20 16 64 20 80 5 4.500 25.500 8.915 16.515 74.570 15 17 68 15 85 4 3.000 27.000 5.805 17.079 77.116 10 18 72 10 90 3 1.500 28.500 2.836 17.617 79.546 5 19 76 5 95 2 0.000 30.000 0.000 18.132 81.868 0 20 80 0 100 1 Mo 80Cr-20Ni Mo Ni Cr Mo Ni Cr Mo 80Cr-20Ni 秤量重量(30g) mol% (at%) mass% (wt%) raw material 80Cr-20Ni-Mo 6.000 24.000 12.177 15.924 71.899 20 16 64 20 80 5 4.500 25.500 8.915 16.515 74.570 15 17 68 15 85 4 3.000 27.000 5.805 17.079 77.116 10 18 72 10 90 3 1.500 28.500 2.836 17.617 79.546 5 19 76 5 95 2 0.000 30.000 0.000 18.132 81.868 0 20 80 0 100 1 Mo 80Cr-20Ni Mo Ni Cr Mo Ni Cr Mo 80Cr-20Ni 秤量重量(30g) mol% (at%) mass% (wt%) raw material 80Cr-20Ni-Mo 6.000 24.000 3.232 6.274 16.408 74.086 10 10 16 64 20 80 4 4.500 25.500 2.347 4.556 16.880 76.217 7.5 7.5 17 68 15 85 3 3.000 27.000 1.517 2.944 17.323 78.217 5 5 18 72 10 90 2 1.500 28.500 0.736 1.428 17.739 80.097 2.5 2.5 19 76 5 95 1 Mo-Re 80Cr-20Ni Re Mo Ni Cr Re Mo Ni Cr Mo-Re 80Cr-20Ni 秤量重量(30g) mol% (at%) mass% (wt%) raw material 80Cr-20Ni-Mo-Re 6.000 24.000 3.232 6.274 16.408 74.086 10 10 16 64 20 80 4 4.500 25.500 2.347 4.556 16.880 76.217 7.5 7.5 17 68 15 85 3 3.000 27.000 1.517 2.944 17.323 78.217 5 5 18 72 10 90 2 1.500 28.500 0.736 1.428 17.739 80.097 2.5 2.5 19 76 5 95 1 Mo-Re 80Cr-20Ni Re Mo Ni Cr Re Mo Ni Cr Mo-Re 80Cr-20Ni 秤量重量(30g) mol% (at%) mass% (wt%) raw material 80Cr-20Ni-Mo-Re また,室温延性に乏しい多結晶クロムの表面欠陥感受性 は,表面エネルギーγと高転位エネルギーに関係している ことが報告されている6), 7).さらに剛性率Gに比例した転位 の弾性歪エネルギーが高いこともクロムが脆い原因であ ると考えられている.しかしながら,多結晶クロムは変形 中に可動転位が多量に発生するため,Gが転位形成に大き く関係し,それが延性に直接影響を及ぼしているとは考え にくい.一方,CuのようなG/γ比の低い延性金属なみに, クロム合金のG/γ比が低下出来れば,切欠き感受性が鈍化 し,曲げ加工性が向上することが期待できる8). (2)目的 クロム(Cr)や Cr-Ni 系合金は管材料や高温,厳しい腐食 環境で用いる構造部材や機械部品としての適用が考えら

(2)

れるが,上で述べた理由で実用化が難しい状態である. 本研究では80Cr-20Ni 合金をベースとし,この合金に第 三合金元素としてモリブデン(Mo)あるいは Mo-Re 合金塊 を添加した際の組織と強度特性の変化を測定して,これま でに Cr 合金系耐熱構造用材料として開発されている 60Cr-25Mo-15Fe 合金とこれらの結果を比較し,本合金系 耐熱材料の構造材料としての有用性についての検討を行 うこととした.また,本合金の溶製材と焼結材に対して熱 処理とショットピーニング加工および,ショットピーニン グ加工後に加工熱処理プロセスを模倣した,追加の熱処理 を施した後の母相組織や硬さを調べ,これらを比較した. さらに,我々のこれまでの研究で純クロム中に0.5mol% 程度のMo を添加することにより,剛性率 G が低下するこ とを明らかにしており,加えてMo 中や Cr 中に 20%以上 のRe を添加した際の軟化挙動は Re 効果としてよく知ら れているので,Cr に 3.0mol%~20mol%(約 5~35mass%)の Mo あるいは Mo-Re 合金塊を添加し,剛性率や母相の硬さ がどのように変化するかを系統的に調べ,これを純クロム の剛性率や硬さと比較した.

2.実験方法

(1)剛性率測定法 a)固有振動法 これは,材料の共振点(固有振動数)を求めることで動的 に剛性率を求めるものである.単純な振動と計算の容易さ の観点から試料形状は丸棒や角棒が用いられる. 本手法では試料の形状および保持方法によって境界条 件が決まるため,各々の振動方程式が異なる.試料形状や 保持方法が複雑になる程,振動方程式も複雑となり補正が 必要になるが,測定が容易であるため用いた. b)片持共振法 片持ち梁の振動を利用したもので,試験片の固定部分を 節として振動させる方法である.剛性率の測定では試料板 にねじり振動を与えるのみであるので解析は容易である. この場合,加振や振動検出は非接触駆動式が採用可能であ り,再現性の高い情報が得られる.また,固有振動数は自 由端の反対側の他端を固定することで小さくなり,錘によ りこの振動数はさらに小さくなる. (2)試料作製 a)80Cr-20Ni系合金 試料は80Cr-20Ni 系母合金に,第三元素として Mo を添 加した合金を 8 種と,80Cr-20Ni 系母合金に mass%組成比が Mo:Re=1:1 となる Mo-Re 合金を添加した四元系合金 4 種 を作製した.先ず,純度99.99mass%の 80Cr-20Ni 合金をベ ースに,純度 99.99mass%のモリブデン(Mo),モリブデン-レニウム合金(Mo-Re)を添加した三元系あるいは四元系ク

Table 2 Designed compositions of Cr-Mo(-Re) alloys.

6.000 24.000 11.932 88.068 20 80 20 80 4 4.500 25.500 8.729 91.271 15 85 15 85 3 3.000 27.000 5.680 94.320 10 90 10 90 2 1.500 28.500 2.773 97.227 5 95 5 95 1 Mo Cr Mo Cr Mo Cr Mo Cr 秤量重量(30g) mol% (at%) mass% (wt%) raw material Cr-Mo 6.000 24.000 11.932 88.068 20 80 20 80 4 4.500 25.500 8.729 91.271 15 85 15 85 3 3.000 27.000 5.680 94.320 10 90 10 90 2 1.500 28.500 2.773 97.227 5 95 5 95 1 Mo Cr Mo Cr Mo Cr Mo Cr 秤量重量(30g) mol% (at%) mass% (wt%) raw material Cr-Mo 6.000 24.000 3.166 6.144 90.691 10 10 80 20 80 4 4.500 25.500 2.297 4.459 93.244 7.5 7.5 85 15 85 3 3.000 27.000 1.484 2.880 95.637 5 5 90 10 90 2 1.500 28.500 0.719 1.396 97.885 2.5 2.5 95 5 95 1 Mo-Re Cr Re Mo Cr Re Mo Cr Mo-Re Cr 秤量重量(30g) mol% (at%) mass% (wt%) raw material Cr-Mo-Re 6.000 24.000 3.166 6.144 90.691 10 10 80 20 80 4 4.500 25.500 2.297 4.459 93.244 7.5 7.5 85 15 85 3 3.000 27.000 1.484 2.880 95.637 5 5 90 10 90 2 1.500 28.500 0.719 1.396 97.885 2.5 2.5 95 5 95 1 Mo-Re Cr Re Mo Cr Re Mo Cr Mo-Re Cr 秤量重量(30g) mol% (at%) mass% (wt%) raw material Cr-Mo-Re ロム合金について,溶解重量が30gfになるように合金を設 計し,各金属原料を電子天秤で秤量した.Table 1に設計し たCr-Ni系合金の秤量組成を示す. 試料の溶解は,非消耗電極アーク溶解炉を用いて,高純 度アルゴンガス (純度99.9999%以上) 雰囲気中で行い, 30gfのボタンインゴットを作製した.その際,炉内を一度 4×10-3Paの真空にした後,純度99.995%の工業用アルゴン ガスによる置換を2度行い,さらに,上記高純度アルゴン ガス置換を行い,計3回ガス置換した.また,試料を溶解 する際に偏析を防ぐ目的で,ボタンインゴット1個につき 計4回の反転を行った.剛性率測定試験片は各ボタンイン ゴットから,ワイヤーカット放電加工機 (WEDM) を用い て,15~17×5~7×1.0~1.2mm3に切断して得た. b)Cr-Mo, Cr-Mo-Re合金 純Cr に Mo を 添 加 し た 合 金 を 4 種 , mass% 組 成 比 が Mo:Re=1:1となっているMo-Re合金を添加した三元系合金 の4種を作製した.先ず,純度99.99mass%の純Crをベース に純度99.99mass%のMoまたはMo-Re合金を添加した二元 系あるいは三元系クロム合金について溶解重量が30gfに なるように合金を設計し,これを電子天秤で秤量した. Table 2に設計したCr-Ni系合金の秤量組成および設計組成 を示す.尚,ボタンインゴット作製手順はa)の 80Cr-20Ni 系合金の場合と同様である. c)表面研磨及び組織観察 ボタンインゴットをワイヤーカット放電加工で切断し た試験片について,その表面を次の手順で機械的研磨した. 先ず,エメリー紙(#320, #600, #800 および#1200) を用い て湿式研磨を行い,さらに平均粒径 1μmおよび平均粒径 0.3μmのAl2O3粉末水溶液を用いたバフ研磨を行って,試験 片表面を鏡面状態に仕上げた.剛性率測定とビッカース硬 さ測定はこのままで行ったが,組織観察用試験片について は,機械的研摩の後,10%蓚酸水溶液を用いて 5V,10~15 秒の電解エッチングを施した.そして,光学顕微鏡を用い て組織観察を行った. d)剛性率測定 Fig. 1 に示す片持共振式剛性率測定装置 (日本テクノプ ラス(株)製TG-RT) を用いた.先ず,試料を治具で片端固 定し,試料両面の対角にアクチュエータを設置した.そし て,試料と電極間に高電圧をかけて電気クーロン力にてね

(3)

Actuator (Electrode) Specimen ~ Sensor Sensor Actuator (Electrode)

Fig. 1 Schematic drawing of shear modulus measuring device.

じり振動を与えた.さらに,本アクチュエータの周波数を 変化させ,高周波振動センサーを用いて試料の共振周波数 を求めた.その後,次式により剛性率G を求めた. (2-1) ここで,f:共振周波数 [Hz],K:角棒でのねじり係数, L:振動長さ [m],ρ:密度 [kg/m3]であり,矩形試料のね じれ係数Kは次式で表される. 2 6 4 2.52 0.21 K = T T W W T W W T T W ⎞ ⎞ ⎞ ⎛ ⎛ ⎛ ⋅ − ⋅ + ⋅ ⎝ ⎠ ⎝ ⎠ ⎝ ⎠ ⎞ ⎛ + ⎜ ⎟ ⎝ ⎠ (2-2) ただし,W:幅 [m],T:厚さ [m]である. e)ビッカース硬さ試験 ビッカース硬さ試験は,対面角136°のダイヤモンド四角 錐圧子を用いる硬さ試験法であり,任意の定荷重を一定時 間試験片に押し付けた後に生じた正方形のくぼみの対角 線長さをビッカース硬さ試験機に付属した光学顕微鏡を 使って測定,換算式により硬さに換算するものである. 本研究では,マイクロビッカース硬さ試験法を用いて圧 子荷重を9.8N,圧子押付時間を 30s とした場合の硬さの変 化を評価した. (3)三点曲げ試験片作製 三 点 曲 げ 試 験 片 は , ワ イ ヤ ー カ ッ ト 放 電 加 工 機 (WEDM) を用いて各クロム合金のボタンインゴットか ら,概ね20×6×2mm3に切断して得た. Load Loading rate, v = dxdt Cr specimen (20×6×2mm3) 2mm θ 7mm 14mm 20mm x Φ5m m Φ5m m

Fig . 2 Schematic drawing of apparatus for three-point bend test. その後,試験片の上下面及び側面についてはエメリー紙 (♯120,♯320,♯600,♯800 および♯1200)を用いて湿 式研磨を行い,さらに,延性評価における各試験片間の表 面状態の影響をなるべくさけるために,最終仕上げとして 平均粒径 1μmおよび平均粒径 0.3μmのAl2O3粉末水溶液を 用いたバフ研磨を行い,試験片表面を鏡面状態にした.さ らに,機械的研磨で生じた加工変質層や転位の影響等を極 力排除した表面状態を得るため,5%過塩素酸-酢酸溶液 を用いた電解研磨仕上げを実施した. 2 2 G = [ ] 4 (4)三点曲げ試験 三点曲げ試験には万能試験機 ((株)島津製作所製 オー トグラフAGS-5kND) を用いた.三点曲げ試験の模式図を Fig. 2 に示す.この図に示す治具の各支点には直径 5mm の SiC 丸棒を用いた.また,この場合の支点間距離は 14mm で ある. 三点曲げ試験は室温 (297K),大気中で行い,中央の曲 げ 圧 子 移 動 速 度 ( 以 下 , 圧 子 移 動 速 度 と 略 す ) は 0.5mm/min とし,試験開始から破壊するまでの曲げ応力- 圧子移動量曲線を測定記録した.さらに,破断直後の圧子 移動量x より試料の曲がり角度 2θ を計算し,試験片の延 性を評価した.尚.この場合の曲がり角度2θ は次式から θ を求めて計算した.

(

)

{

}

-1 1 2 2 2

2

= Sin

2

2

r t

L

r t

x

θ

α

+

⎪ −

⎛ ⎞

+ −

+

⎜ ⎟

⎝ ⎠

(2-3) ここで, f Pa K L

ρ

⋅ ⎛ ⎞ ⎜ ⎟ ⎝ ⎠

(4)

(

)

-1

2

Tan

[

]

2

r t

x

rad

L

α

+ −

= −

(2-4) ただし,r : 支点半径[m],t : 試料の厚さ[m],x : 圧子移動[m],L : 支点間距離[m]であり,(2-3) 式で求めた θ の 2 倍を曲がり角度2θ と定義した. (5)ショットピーニングと熱処理による加工熱処理 ショットピーニング加工と熱処理を用いて80Cr-20Ni 系 合金に加工熱処理を施した.900℃ (1173K)で 7.2ks (2hrs) の熱処理後の組織を光学顕微鏡にて観察し,マイクロビッ カース硬さも測定した.また,室温にて投射圧力を0.6MPa, 直径1.0mm の鋳鋼投射材を 60s または 300s の条件でショ ットピーニング加工を行った後,同様にマイクロビッカー ス硬さを測定した.さらに,再び 900℃ (1173K)で 7.2ks (2hrs)の熱処理を行ってマイクロビッカース硬さ測定を行 った.

3.結果および考察

(1)80Cr-20Ni 系合金 Fig. 3 および 4 に示すように 80Cr-20Ni 系合金は Mo 添加 量あるいはMo-Re 合金添加量の増加に伴って,剛性率お よびマイクロビッカース硬さの両方が上昇する傾向があ った.これらの結果と60Cr-25Mo-15Fe 合金を比較した場 合,剛性率およびマイクロビッカース硬さのいずれも 1.5~2 倍の差が見られる.しかし,Fig. 7 に示すように, 900℃で 2hrs.の熱処理あるいは,さらに室温で 0.6MPa の 投射圧力で直径1mm の鋳鋼投射材を 60sec のショットピ ーニング加工を行った場合でも,ビッカース硬さは大幅に 低下した.また,80Cr-20Ni 系合金に Mo のみを添加する 場合よりも,Mo-Re 合金を添加した方が熱処理後の軟化が 大幅に促進され,加工熱処理効果が現れている.これら合 金の組織観察を行った結果,硬い表面と軟らかい内部の混 合組織になっており,この合金系においても加工熱処理に よる加工性向上に向けた組織制御が可能であることが分 かった. (2)Cr-Mo 系合金 a)純クロムとCr-Mo 系合金との比較 Fig.5 および 6 に示すように,Cr-Mo 二元系合金は Mo 含有量を増加させた場合,マイクロビッカース硬さは増加 するが,一方で剛性率は緩やかではあるが低下している. これら物性の変化を純Cr と比較した場合,Mo 添加量の増 加により,マイクロビッカース硬さは,最大で純Cr の 2 倍にまで到達しているが,逆に剛性率は約20%も低下して r

Fig. 3 Calculation results of shear moduli of the 80Cr-20Ni containing Mo and Mo-Re alloys.

r

Fig. 4 Vickers hardness change of the 80Cr-20Ni containing Mo and Mo-Re alloys.

Fig. 5 Calculation results of shear moduli of the Cr containing Mo and Mo-Re alloys.

(5)

Fig. 6 Vickers hardness change of the Cr containing Mo and Mo-Re alloys.

Fig. 7 Vickers hardness change of the 80Cr-20Ni containing Mo alloys. いる. Cr-Mo-Re 三元系合金でも Mo-Re 合金添加量を増加させ ると,Cr-Mo 二元系合金と同じようにマイクロビッカース 硬さは増加していく一方,剛性率は低下する傾向が見られ た.純Cr と値とこれらを比較すれば,マイクロビッカー ス硬さは純Cr の 2 倍以上であったが,剛性率は逆に約 30% 低下した. b)Cr-Mo 系合金と 60Cr-25Mo-15Fe 合金との比較 Fig.5 および 6 に示すように,Cr-Mo の二元系合金とこ れまでに開発されている60Cr-25Mo-15Fe 合金とを比較す ると,Mo 添加量が増加するにつれて,剛性率およびマイ クロビッカース硬さのいずれもが,より多くのMo を含ん だ60Cr-25Mo-15Fe 合金の剛性率およびマイクロビッカー ス硬さの値に近づいていることが分かった.同様に, Mo-Re 合金の添加量が増加することによってもまた, 60Cr-25Mo-15Fe 合金の剛性率およびマイクロビッカース 硬さに近づいている傾向を示しており,これらの結果から, 60Cr-25Mo-15Fe 合金の Fe 添加量に拘わらず,剛性率は低 下し,硬さは上昇することが示唆される. c) Cr-Mo 系合金の小括

Cr-Mo 二元系合金は,Mo あるいは Mo-Re 合金の添加量 が増加するにしたがって,マイクロビッカース硬さは増加 し , 反 対 に 剛 性 率 は 低 下 す る 傾 向 を 示 し た . ま た , 80Cr-20Ni 系合金と同じように,Mo のみを添加する場合 よりも組成比1:1 の Mo-Re 合金を添加した場合の方が,剛 性率の低下が大で,硬さの増加を抑えることができた.ま た,純Cr の値とこれらを比較すれば,合金化により硬さ は増加傾向を示した一方,剛性率は明らかに低下した.従 って,本合金でG/γ 比を制御することが可能であると考え られる.剛性率G の引下げについては,Cr-Mo 系合金で は,純Cr よりも低い G が得られる可能性があり,これに 加えて表面エネルギーγ を大きくすることが出来れば変形 能が向上するかも知れない.本研究では,γ の測定を行っ ておらず,Mo や Mo-Re 合金を含んだ合金の G/γ 比は評価 出来ていない.今後さらなる研究が必要である. また,従来開発された60Cr-25Mo-15Fe 合金と上述の合 金を比較すれば,Mo あるいは Mo-Re 合金の添加量が増加 するに従って,剛性率およびマイクロビッカース硬さは, 60Cr-25Mo-15Fe 合金の値に近づいている.従って,高い クリープ特性と加工性が得られれば,Cr-Mo 二元系あるい はCr-Mo-Re の三元系合金は,構造用材料として適用可能 となるであろう.

4.結言

本研究では,Cr-Ni 系合金あるいは Cr に Mo あるいは Mo-Re 合金を添加した場合の機械的特性の変化について 検討した.また,純Cr や 60Cr-25Mo15Fe 合金とこれらを 比較し,定性的に合金効果を調べた.さらに,Cr-Ni 系合 金については熱処理やショットピーニング加工を行った 擬似的な加工熱処理効果についての検討も行った.得られ た結果を以下に要約する. (1) Cr-Ni 系合金に Mo や Mo-Re 合金を添加しても,剛性 率 G を引き上げる為,延性改善効果は期待されないが, 熱処理やショットピーニング加工を行うことで加工熱処 理効果が現れ,母相の硬さは低下する傾向が見られた. (2) 純 Cr に Mo あるいは Mo-Re 合金を添加することによ り,硬さは上昇する一方,剛性率は低下する傾向が見られ, Cr-Ni 系合金よりも延性の改善が期待できることが分かっ た.また,純Cr 中への Mo 添加よりも Mo-Re 合金添加の 方が硬さの増加が抑えられ,剛性率がより低下した. (3) 60Cr-25Mo-15Fe の剛性率 G は 45.7GPa と低く,Mo-Re 合金の添加量を最適制御して G を引き下げ,表面エネル ギーγを上げることが出来れば,延性向上が期待出来る.

(6)

謝辞:本実験の遂行にあたり,兵庫県立大学大学院工学研 究科物質系工学専攻マテリアル・物性部門の原田泰典博士 に多大なご協力をいただいた.ここに記して感謝の意を表 す. 参考文献 1) 日本金属学会編, 金属データブック改訂 3 版, 日本金 属学会, (1993). 2) 榊孝, 高純度クロム, 新素材, 5 (1991), p. 105. 3) 湯川夏夫, 武田修三, 日本金属学会誌, 27 (1963), p. 105. 4) 湯川夏夫, 武田修三, 日本金属学会誌, 6 (1963), p. 783. 5) 大庭幸夫, 日本金属学会報, 11 (1972), p. 105.

6) A. Gilbert, C. N. Reid, G. T. Hahn: Observations on the Fracture of Chromium, Journal of the Institute of Metals, 92 (1963-64), pp. 351-356.

7) M. Morinaga, T. Nambu, J. Fukumori, M. Kato, T. Sakaki, Y. Matsumoto, Y. Torisaka, M. Horihata: Effect of surface imperfections on the ductility of pure chromium, Journal of Materials Science, 30 (1995), pp. 1105-1110.

8) Y. Matsumoto, K. Oki, F. Fujigami, Y. Harada, M. Morinaga: Room-temperature ductility and surface notch sensitivity of chromium alloyed with vanadium and molybdenum, Materials Science and Engineering A, 358/1-2 (2004), pp. 133-139.

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