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経頭蓋静磁場刺激による中枢神経系の調節とその応用

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 244 44 巻第 3 号 244 ∼ 251 頁(2017 年) 理学療法学 第 44 巻第 3 号. 理学療法トピックス シリーズ 「中枢神経機能の計測と調整」. *. 連載第 6 回 経頭蓋静磁場刺激による中枢神経系の調節とその応用. 野 嶌 一 平 1) 美 馬 達 哉 2). Physiology 誌に報告した新しい脳刺激法で,1 テスラ程. はじめに. 度の小型ネオジム磁石を頭表に 10 分程度留置すること.  近年,非侵襲的脳刺激法の臨床応用がリハビリテー. で,ヒト運動野の興奮性を一時的に抑制するというも. ション領域で積極的に行われてきている。刺激方法とし. のである。この報告は驚きをもって注目を集めており,. ては,反復経頭蓋磁気刺激法(repetitive Transcranical. Oliviero らに続いて tSMS に関する知見が少しずつ報告. 1). Magnetic Stimulation:以下,rTMS) や経頭蓋直流電. されてきているのが現状である。. 流刺激法(transcranial Direct Current Stimulation:以.  tSMS が 注 目 さ れ る 理 由 と し て, 上 記 の rTMS や. 2)3). が代表的である。TMS では,コイル内. tDCS がもついくつかの欠点に関係する。1 つ目はリス. に高強度の電流を一気に流すことで磁界の変化を起こ. クの問題である。rTMS では直接神経細胞の発火を誘発. し,その変化によって発現する渦電流を利用して大脳. するため,てんかん発作のリスクが報告されている. 皮質の神経細胞を発火させる。一方,rTMS とはこの. また tDCS に関しても火傷や不快感などの副作用が知ら. TMS を使って連続した刺激を大脳皮質に与える方法で. れている. あり,刺激頻度依存的にその効果が変化する。つまり,. や tDCS といった電流を使用する機器は安全基準をクリ. 1 Hz 程度の低頻度での繰り返し刺激では大脳皮質の興. アするための様々な基準があり,非常に高額で臨床で簡. 奮性を抑制,5 ∼ 10 Hz 程度の高頻度刺激では促通する. 単に利用するということは難しい。一方,tSMS は電流. ことが数多くの研究で報告されている。一方,tDCS に. を使用しないため上記のようなリスク発生の危険はきわ. 関しては,陽極刺激で促通,陰極刺激で抑制されると一. めて低く,機器も安価であることから,その安全性と効. 般的に考えられている。これらの刺激方法に関しては,. 果が立証されれば,臨床応用を考えた際の大きな利点に. その神経生理学的機序が完全に解明されているわけでは. なる。. なく,効果の発現を認めなかったとする多くの否定的な.  tSMS の刺激方法に関しては,小さなネオジム磁石で. 報告もあり,今後さらなる研究の進展が望まれている。. は効果がないこと(静磁場強度にある程度の強さが必. これらの脳刺激法に関する詳しい説明は,本特集の別稿. 要),極性に効果は依存しないこと,刺激時間は 10 分. 下,tDCS). (特集第 4 回目と 5 回目)をご参照いただきたい。. 5). 。. 6). 。2 つ目は,刺激機器の値段である。rTMS. 以上が必要であることがすでに報告されている. 4). 。ま.  上記の刺激方法が,現在世界的に広く認知され使用さ. た刺激部位に関しては,一次運動野に適応した例が多. れている代表的な刺激方法であり,一度は耳にしたこと. い. があるものと思われる。一方,本稿で紹介する経頭蓋静. 効果も報告されており,適応範囲は広い。さらに,ヒ. 磁場刺激(transcranial Static Magnetic Stimulation:以. トだけではなくサルやネコを対象とした実験において,. 下,tSMS)はほとんど知られていないのではないだろ. tSMS による脳興奮性調整によって運動機能変化も出現. うか。tSMS とは,2011 年に Oliviero ら *. 4). が Journal of. Modulation of Cortical Excitability by Transcranical Static Magnetic Stimulation and Its Clinical Application 1)名古屋大学大学院医学系研究科 (〒 461‒8673 愛知県名古屋市東区大幸南 1‒1‒20) Ippei Nojima, PT, PhD: Department of Physical Therapy, Nagoya University Graduate School of Medicine 2)立命館大学大学院先端総合学術研究科 Tatsuya Mima, MD, PhD: Graduate School of Core Ethics and Frontier Sciences, Ritsumeikan University キーワード:経頭蓋静磁場刺激,可塑的変化,興奮性. 4)7‒9). が,一次感覚野 10)11) や視覚野領域 12) への. することが示されている. 13). 。一方,我々もヒトを対象. とした tSMS による脳興奮性の修飾作用について研究を 行ってきており,それらを含め以下で tSMS について紹 介する。. 脳機能評価  tSMS の先行研究においては,脳活動の指標として TMS を使用しているものが多いため,まずは TMS を.

(2) 経頭蓋静磁場刺激による中枢神経系の調節とその応用. 使った脳刺激評価について簡単に紹介する。. 245. 50 ∼ 95 秒後に生じはじめるからである。つまり,細胞 膜イオンチャネルないし神経伝達物質の関与が推定され 14‒16). 1.運動誘発電位(Motor Evoked Potential:以下,MEP). ている.  単発刺激で一般的に行われる基本的な評価指標で,運. の影響について一連の実験を行い,中等度強度の静磁場. 動野を刺激して目的の筋肉から表面筋電図を記録する方. は反磁性異方性(diamagnetic anisotropy)により細胞. 法である。まず,磁気刺激により錐体ニューロンの軸. 膜リン脂質の回転や再整列を誘発する可能性を示唆して. 索が直接刺激されることによって発生する D 波(Direct-. いる. wave)と,錐体ニューロンにシナプス結合している介在. そのものは静磁場の影響を受けにくいと想定されるが,. ニューロンが刺激されることにより発生する数発の I 波. 静磁場曝露中の細胞膜の変形によってイオンチャネル,. (Indirect-wave)が錐体路を 1.5 ∼ 2.0 ms 間隔で下降す. 特に細胞膜貫通型のコンポーネントの変形が引き起こさ. 。Rosen らは,静磁場の中枢神経系機能へ. 15)17‒19). 。イオンチャネルを構成するタンパク分子. る。この I 波が脊髄前角細胞に達して時間的荷重を生じ,. れる可能性がある。また,静磁場はナトリウムイオン. 細胞膜電位が上がり何発目かの I 波により閾値を超える. チャネルおよびカルシウムイオンチャネルの活動を遅延. と前角細胞が発火して筋電図反応が出現する。実際の評. 化させることでイオンチャネルの開口速度を低下させる. 価においては,MEP が 1 mV となる刺激強度をまず決. ことが報告されている. 定して,介入後に同じ刺激強度で再度刺激してその振幅. カルシウムイオンの増大は,長期抑制のトリガになると. の大きさなどを比較する。. 考えられており. 14)15)17). 。シナプス後での細胞内. 20). ,カルシウムイオンへの影響が大脳. 皮質の抑制に関与している可能性が示唆されている。興 2.安静時運動閾値(rest Motor Threshold:以下,rMT). 味深いことに,同様の機序が tDCS の陰極刺激でも提案.  50% 以上の確率で 50 μ V 以上の MEP 振幅を誘発でき. されており. る最低の刺激強度と定義されている。薬理学的な検討か. はイオン勾配を誘発することに起因する共通のメカニズ. ら,rMT は運動野の神経細胞膜の興奮性を反映してい. ムを一部共有しているかもしれない。また,静磁場はナ. るといわれ,刺激強度を決めるための重要な指標となる。. トリウムイオンやカルシウムイオン自体の動きに対する. 21). ,これら 2 つの神経活動調整テクニック. 影響も指摘されている。そして,ナトリウムイオンやカ 3.短潜時皮質内抑制(Short-interval Intracortical Inhibition:以下,SICI). ルシウムイオンはすべて反磁性であり,磁場が取り除か れるとすぐに元の状態に戻ってしまうため,tSMS の効.  TMS 装置を 2 台連結して,1 つのコイルから刺激強. 果が即時的になってしまっている可能性がある。. 度の異なる 2 発の TMS を一次運動野に与える方法であ.  これらの tSMS の神経生理学的な機序に関連する先行. る。1 つ目の刺激を条件刺激といい,運動閾値以下の低. 研究をまとめると,静磁場の暴露による影響は細胞膜の. い刺激強度とする。条件刺激単独では MEP を誘発しな. 変形などを通してイオンチャネルの機能を変化させたも. い。つまり,脊髄や筋肉が活動したことによる影響を除. ので,シナプスレベルで優先的に働くと考えられる。そ. くことができ,条件刺激が皮質レベルで起こす変化をで. して,非常に興味深い点としては,この刺激は電流に関. きるだけ純粋に抽出できる方法となっている。条件刺激. 係しない点であり,TMS や tDCS とは異なる作用機序. の 1 ∼ 5 ms 後に行われる試験刺激は,1 mV の振幅を. であると考えられているが,詳細な機序の解明は今後の. 誘発する強度で同部位に与えられる。そして,試験刺激. 課題となっている。. 単独による MEP 振幅に対する 2 連発刺激による MEP 振幅の割合を算出する。SICI は,薬理学的な検討およ. 刺激磁場強度. び潜時の速さからも抑制性介在神経である GABA-A 受.  tSMS で使用される磁石の磁場強度の検討について. 容体の機能を反映していると考えられている。. は,磁石表面から 2 ∼ 3 cm の深さで,磁束密度が 120. tSMS の神経生理学的メカニズム. ∼ 200 mT になることが確認されている. 22). 。これは,. 刺激の標的である大脳皮質の大部分には到着しており,.  tSMS による大脳皮質興奮性調整に関する詳細なメカ. 生物学的な変化を誘発する可能性は十分にあるものと考. ニズムについてはまだ十分に解明されていないが,いく. えられている. つかの基礎的な生理学的機序が提案されている。基本的. 究者もよく使っている磁石は,我々が国内で使用してい. に,静磁場への曝露では誘発電流は発生しない。その静. るものと規格が少々異なっていた。そこで Kirimoto ら. 磁場が生体システムに影響する機序としては,ローレン. は,磁束密度の計測で使用されるガウスメーターを使用. ツ力によるイオン流そのものへの影響ではなく,シナプ. して,国内で購入できる NdFeB 磁石による磁場強度の. スレベルで優先的に働いていると考えられる。これは,. 測定を行っている(図 1) 。その結果,磁石表面から 2. 静磁場の影響は暴露直後ではなく,時間差をもって暴露. ∼ 3 cm の距離における静止磁場強度は 110 ∼ 190 mT. 15). 。一方,Oliviero らが使用し海外の研.

(3) 246. 理学療法学 第 44 巻第 3 号. 図 1 tSMS に使用される磁石と実施例 A)NdFeB 磁石は直径 50 ∼ 60 mm,高さ 30 mm 程度のものが使用されている.最 大エネルギー密度は 45 ∼ 51 MGOe,765 ∼ 863 N の静磁場強度でこれまで効果が報 告されている.B)実験のセットアップ.TMS などでも使用される固定器を使用して, 磁石中心がターゲットとなる脳領域に接するように配置する(参考文献 10)を一部改 訂して転載).. 図 2 静磁場刺激の再現性と距離の関係 A)1 回目と 2 回目の再現性.中心部だけではなく,磁石周辺部でも R2 = 0.999 という非 常に高い再現性を示した.B)磁石表面からの距離と静磁場強度の関係を示す.ヒトに応 用する際には,頭表から大脳皮質まで約 2 cm と考えられており,110 ∼ 200 mT の磁場 が到達していることを示している(参考文献 10)を一部改訂して転載) .. であり,高い再現性があることを確認するとともに,脳. 果を得るには 10 分以上の刺激が必要であることも確認. 機能を変化させるには十分な強度であることを確認して. している。しかし,細胞膜の興奮性の指標と考えられて. いる. 10). (図 2) 。この磁場強度での刺激では,頭蓋骨の. いる rMT については有意な変化が見られていなかった。. 有無にかかわらず,大脳皮質に十分到達し,細胞膜のイ. 一方 Silbert らは,tSMS による一次運動野の抑制効果. オンチャネルに影響を与えることができているものと考. の生理学的な機序を検討するため,介入前後の rMT 変. えられた. 15). 。. 化を検討している。この研究で使用された rMT の測定. tSMS による大脳皮質運動野の修飾作用  Oliviero らが行ったオリジナルの研究では,洗礼され 4). 方法は若干特殊であるが,15 分の tSMS により MEP が 介入後 3 分まで 20% 程度抑制されるとともに,介入前 をベースラインとする MEP と rMT の各変化率の間に. たプロトコルにより詳細な検討が行われている 。この. 2 高い負の相関性(r = 0.924)を報告している。つまり,. 研究では,10 分間の tSMS により MEP が約 25% 抑制. 作用機序として考えられている細胞膜レベルでの機能的. され,極性には依存しないことが示めされている。さら. 変化により,大脳皮質の興奮性が抑制された可能性を示. に,大小 2 種類の NdFeB 磁石を使用し,小さな静磁場. 唆された. 刺激,つまり弱い静磁場刺激では効果がないことも明ら.  我々も tSMS による大脳皮質抑制作用について検討を. かにしている。また刺激時間に関しても,有意な抑制効. 行い,25% 程度の即時的な抑制作用を確認している. 9). 。 7). 。.

(4) 経頭蓋静磁場刺激による中枢神経系の調節とその応用. 247. 図 3 tSMS による抑制系への影響 A)一次運動野の興奮性に関しては,Oliviero らの先行研究と同様に約 25% の抑制効 果を示した.B)大脳皮質内 GABA 回路の活動を表すと考えられている SICI も tSMS により有意な低下(抑制の増大)が示している(参考文献 7)を一部改訂して転載).. そして,その際に SICI が有意に増加することを報告し. るという仮説をたて検証を行った(図 4)。その結果,. ている(図 3) 。上記の通り,SICI は GABA 系の抑制性. Oliviero らの先行研究では効果を示さなかった 5 分間と. 神経作用に関係すると考えられており,静磁場による細. いう短時間の tSMS でも,末梢神経刺激を組み合わせ. 胞膜イオンチャネルへの影響により,シナプス間隙での. ることで有意な大脳皮質の抑制効果を示した。さらに,. GABA 再取り込みに関係する GABA トランスポーター. PAS の刺激部位特異的な可塑的変化という特徴と同様,. (以下,GAT)の機能に影響した可能性が考えられる。. 刺激した末梢神経の支配領域に特異的な抑制効果を確認 8). 。PAS に関しては,中枢神経系の可塑的変. GAT による GABA 再取り込みシステムの機能不全が生. している. じれば,シナプスでの GABA 分子が除去されないため. 化の基本的なメカニズムであると考えられているヘッブ. に皮質内の抑制性回路の活性化が遷延し,大脳皮質の興. 理論に基づいていると考えており,tSMS を使った方法. 奮性抑制につながっている可能性を提案した。しかし,. でも類似の機序が発現する可能性が示され,臨床への応. GABA の関与に関する基礎的な実験による検討は行え. 用などが期待される結果となった。. ておらず,今後継続した研究が必要と考えている。  一方,大脳皮質への刺激と末梢神経刺激などの異なる. tSMS による大脳皮質運動野以外の修飾作用. 刺激を組み合わせると,それぞれ単独で使用する場合に.  Kirimoto らは,tSMS の効果を体性感覚誘発電位(以. は起こらない中枢神経系の修飾作用が誘発されることが. 下,SEP)で調べる一連の検討を行っている. 報告されている。特に,末梢神経刺激と TMS を使った. れらの研究は,系統だった洗練された実験系であると思. 連合性ペア刺激(以下,PAS)では,TMS を基準とし. われるため,ここで少し詳細に紹介したい。研究の基本. た特定の時間間隔での末梢神経刺激で,長期増強および. 的な方法としては,tSMS 刺激前後の SEP 変化を調べる. 長期抑制様の可塑的変化がみられることが知られてい. といったものであるが,SEP には潜時により様々な成. 23)24). 10)11). 。こ. 。そして,この刺激時間特異的な可塑的変化の. 分が含まれており,それらを詳細に検討している。SEP. 他に,PAS のもうひとつの特徴として,刺激した末梢. とは,末梢の感覚神経に電気的あるいは機械的な刺激を. 神経を支配する脳領域に特異的な可塑的変化が現れるこ. 与えることによって誘発される微小な電位であり,末梢. とである。さらに近年,マウスの一次運動野に直流電気. 神経から脳幹,大脳皮質に至る長い神経路の機能障害の. 刺激と電気刺激を組み合わせることでもシナプス効率の. 探索などに用いられる。その振幅成分は,非常に短い潜. る. 25). ,様々な. 時で安定して誘発されることから,再現性が高く客観的. 刺激様式を合わせることで効果の増強作用が報告されて. に感覚機能を観察できる評価法であると考えられてい. いる。また,静磁場刺激においても,付加的な刺激を組. る。Kirimoto らは,まず国際 10 ‒ 20 法における C3 領. み合わせることで生体に影響を与える可能性も古くから. 域(一次感覚野領域に相当)への tSMS を実施し,前頭. 長期増強が得られることが報告されており. 指摘されている. 26). 。. 成分である N18 と頭頂成分である N20 が介入直後に有.  これらの先行研究より,我々は tSMS と末梢神経刺. 意に抑制されることを示した。N20 成分とは,一次感覚. 激と組み合わせることでその効果を修飾する作用があ. 野のブロードマン 3b 領域が発生源であると信じられて.

(5) 248. 理学療法学 第 44 巻第 3 号. 図 4 実験プロトコル ① tSMS +末梢神経刺激(PNS) ,② tSMS 擬似刺激+ PNS,③ tSMS 単独の 3 条件をそれぞ れ 5 分間実施し,介入前後における大脳皮質興奮性変化を検証した.刺激は,短母指外転筋を 被検筋として TMS による筋活動が最大となる部位に tSMS を設置,PNS は正中神経に与えた.. 図 5 一次感覚野への SMS による SEP 変化 SEP は右正中神経刺激により C3’および F3 電極から誘発される SEP を示す.A)C3’で計測される N33 において,tSMS 直後に有意な抑制を示すが,B)F3 を含むその他の脳領域に有意な変化は認め ない(参考文献 10)を一部改訂して転載) .. ‒29). いる成分であり 27. ,一次感覚野への刺激により直接. 果について,様々な非侵襲的な脳機能評価で同様の結果. 的に抑制された可能性が考えられている。しかし,一次. が得られたことは,tSMS の有用性およびその生理学的. 感覚野への tSMS では SEP の早期成分にしか変化が現. 機序に関する示唆を提供しているものと考える。一方,. れず,遅い成分については影響がなかった。そこで続け. 補足運動野への刺激では SEP のどの成分にも有意な変. て,一次運動野と補足運動野への tSMS による SEP 変. 化は見られていない。この結果についても,tSMS が効. 化についても検討し,一次運動野への刺激により頭頂成. 果を発揮する磁場強度が頭蓋から大脳皮質までの解剖学. 分である C′ 領域で計測される N33 成分の 20% 程度の有. 的な距離に依存することを示す重要な所見であると考え. 意な抑制効果を示した(図 5)。この SEP 後期成分につ. られた。. いては,一次運動野が発生源である可能性が示唆され,.  SEP を 使 っ た 研 究 の 他 に も, ヒ ト 視 覚 野 領 域 へ の. や. tSMS の効果も検討され,8 ∼ 14 Hz 帯域の周波数にお. などでも報告されている。そして,tSMS の効. ける脳律動(α オシレーション)の増大が示されてい. また N33 成分が変化するという現象は,rTMS tDCS. 31). 30).

(6) 経頭蓋静磁場刺激による中枢神経系の調節とその応用. 249. る 12)。この視覚領域における α 活動の増大は,皮質興. 用すればよいのかという疑問があると思われる。筆者に. 32)33). おいても,現時点で tSMS が臨床で実際どのような効果. そして,さらに興味深いことに,視覚領域の興奮性が変. があるのかはまったくわからない。一方,近年は研究の. 化するだけではなく視覚探索課題におけるパフォーマン. 出口(臨床への波及効果)を意識する重要性が高まって. スの低下も見られている。また,このパフォーマンスの. きており,今回のレビューでも最後に臨床への応用の可. 低下は,特に難易度の高い課題でのみ出現している。視. 能性について考えてみたい。その際,筆者の主観的な希. 覚探索に関する先行研究より,単純な課題ではボトム. 望や思いを述べても意味がないので,先行研究が豊富に. アップ的な脳活動がみられるが,注意を必要とする難度. 報告されている rTMS や tDCS における大脳皮質の抑. の高い課題では,高次の注意機能から視覚領域へのトッ. 制手法の臨床応用例を中心に tSMS の臨床応用の可能性. 奮性の低下を反映していることが報告されている. プダウン制御が必要であることが報告されている. 。. 34‒37). 。. (特に脳卒中片麻痺患者)の考察を行う。. つまり,高難度な課題で必要とされる視覚活動を制御す.  これまでの先行研究より,脳卒中発症後には左右大脳. る高次の注意機能からの機能連結を,tSMS が妨害した. 半球間の興奮性のバランスが崩れることで様々な機能障. 結果,パフォーマンスが低下した可能性がある。また,. 害が出現している可能性が指摘されている。特に一次運. 視覚領域への tSMS の効果に関する研究では,サルとネ. 動野は脳梁を介した線維連絡があり(半球間抑制),非. コを対象に視覚皮質の神経活動が tSMS により低下する. 障害半球から障害半球への抑制の増大が報告されてい. ことも直接的に確認されている。さらにこの研究では,. る. 刺激時間の延長により tSMS の効果の増強も示されてお. 戦略として,①障害半球の興奮性を促通する,②非障害. り,今後の臨床応用に向けた示唆に富んだ研究となって. 半球の興奮性を抑制することが提案されている。興奮. いる. 13). 。. 40). 。そこで,両側半球の興奮性の不均衡を是正する. 性の促通については,CI 療法の効果が数多く報告され, 麻痺側の強制使用により大脳皮質運動野領域の興奮性が. tSMS の安全性. 増大することが示されている. 41)42). 。また Koganemaru.  WHO が推奨している磁場に関する基準としては,就. らは,障害半球への 5 Hz の rTMS と電気刺激を補助的. 業中に暴露される静磁場として,時間加重平均 200 mT. に使った運動介入により,障害半球の興奮性を高めるこ. とされている。そして,これまでの一連の実験で使用さ. とで慢性期脳卒中患者においても機能回復が得られる. れている強度はこの推奨基準内となっている。しかし,. ことを報告している. 同じく磁場を使用する MRI などと比べて,tSMS の人体. は,Takeuchi らが,1 Hz の低頻度 rTMS を非障害側一. 組織に対する影響は異なってくる可能性があり,ヒトを. 次運動野に行うことで,非障害側からの過剰な半球間抑. 対象とする場合の安全基準の検討は詳細に行う必要があ. 制を抑え,運動機能の改善が得られることを報告してい. る。そこで,tSMS を最初に報告した Oliviero らは,2. る. 時間の tSMS をヒトに対して実施し,tSMS のヒト細胞.  さらに,大脳皮質の抑制は,運動学習の準備としての. 38). 43). 。一方,興奮性の抑制について. 44). 。. 。具体的には,神経. 使用も考えられる。運動の学習には大脳皮質レベルでの. 細胞の損傷の程度を反映すると考えられる神経特異的エ. 可塑的変化が重要であるが,ヒトの脳には高次の可塑的. ノラーゼ(以下,NSE)と,グリア細胞の反応および損. 機能(メタ可塑性)が備わっている. レベルへの影響を評価している. 傷の指標となる S100 を tSMS 前後で計測している. 39). 。. 45). 。これは,準備運. 動的な神経活動により,可塑的変化が大きく発現したり,. さらに,認知機能や注意機能などの評価も実施している。. 逆に小さくなったり,また長期増強と長期抑制の方向性. その結果,2 時間の tSMS においても,脳機能の損傷を. が逆転したりする現象(ホメオスタシス的可塑性)と. 示す NSE および S100 をはじめ,計測された項目におい. いった現象である。そして,プライミングに可塑性を生. て有意な変化は認められず,tSMS の一応の安全性を報. み出す刺激が用いられた場合,可塑性と関連した細胞タ. 告している。またその他の関連する研究においても,今. ンパク新生が行われ,その後になんらかの介入を受けた. のところ副作用は報告されておらず,現時点では安全性. ときに可塑的変化が起きやすくなるメカニズムが考えら. の高い刺激介入方法であると考えられている。. れている(Synaptic tag and capture 説. tSMS の臨床応用. 46). ) 。このような. 効果を狙って,tSMS を利用していくという方法が考え られる。さらに,理学療法には直接関係ないかもしれな.  ここまで読み進められた読者の中には,非侵襲的かつ. いが,てんかんやジストニアなど,脳の異常興奮現象に. 安全に大脳皮質を抑制できてもそれが臨床にどのように. 対しても効果を発揮する可能性も考えられる。この他に. 役立つのか疑問をもたれた方も多いと思われる。さら. も,半球間の興奮性を調整することを目的とした介入で. に,現状では tSMS を使った臨床介入研究は皆無であり,. 運動機能改善が得られたとする報告はたくさんあり,今. この刺激法は安全であるかもしれないが,どのように応. 後は tSMS を使った臨床介入の報告が期待されている。.

(7) 250. 理学療法学 第 44 巻第 3 号. ま と め  今回紹介した tSMS という手法を利用して脳の興奮性 を調整するだけで,リハビリテーションの効果が大きく なるということは経験的にも考えにくい。多くの先行研 究で指摘されている通り,運動介入との組み合わせが 有効になってくるものと考える。また他の脳刺激法と 比較すると,運動中の使用が比較的簡単である点,刺 激されている感覚がないため偽刺激が容易である点な ど,tSMS 使用の利点は十分にあるものと考える。今後, tSMS だけではなく,我々理学療法士は臨床におけるこ れら一連の脳刺激法に関する最適な使用方法について, 真摯に検証し発信していく必要があると考える。  今後,iPS 細胞に代表される再生医療は急速に進展し ていくことが期待され,大きく医療の形が変わっていく であろう。現在もパーキンソン病などの中枢神経疾患に 対する再生医療技術を使った介入の準備が進められてお り,近い将来には脳卒中患者への応用も進んでいくのは 明らかである。そのような中,本特集で紹介された一連 の脳刺激法は,再生医療後に再構築される脳ネットワー クの再構築(リモデリング)として非常に親和性の高い 介入になり得ると個人的には信じている。理学療法を取 り巻く環境が大きく変わろうとしていることは自明であ り,今こそ真摯に臨床的なエビデンスの構築をめざした 体制づくりを行っていく必要性があるのではないだろう か。そして,リハビリテーションが「医療」として臨床 にかかわり続けていくためにも,理学療法士としての視 点から様々な可能性を調べつくし,臨床に応用できるよ うな準備をしておく必要があるものと考える。 文  献 1)Day BL, Rothwell JC, et al.: Delay in the execution of voluntary movement by electrical or magnetic brain stimulation in intact man. Evidence for the storage of motor programs in the brain. Brain. 1989; 112(Pt 3): 649‒ 663. 2)Nitsche MA, Paulus W: Excitability changes induced in the human motor cortex by weak transcranial direct current stimulation. J Physiol. 2000; 527 Pt 3: 633‒639. 3)Nitsche MA, Paulus W: Transcranial direct current stimulation--update 2011. Restor Neurol Neurosci. 2011; 29: 463‒492. 4)Oliviero A, Mordillo-Mateos L, et al.: Transcranial static magnetic field stimulation of the human motor cortex. J Physiol. 2011; 589: 4949‒4958. 5)Bae EH, Schrader LM, et al.: Safety and tolerability of repetitive transcranial magnetic stimulation in patients with epilepsy: a review of the literature. Epilepsy Behav. 2007; 10: 521‒528. 6)Nitsche MA, Liebetanz D, et al.: Safety criteria for transcranial direct current stimulation (tDCS) in humans. Clin Neurophysiol. 2003; 114: 2220 ‒ 2222, author reply 2222‒2223. 7)Nojima I, Koganemaru S, et al.: Static magnetic field. can transiently alter the human intracortical inhibitory system. Clin Neurophysiol. 2015; 126: 2314‒2319. 8)Nojima I, Koganemaru S, et al.: Combination of Static Magnetic Fields and Peripheral Nerve Stimulation Can Alter Focal Cortical Excitability. Front Hum Neurosci. 2016; 10: 598. 9)Silbert BI, Pevcic DD, et al.: Inverse correlation between resting motor threshold and corticomotor excitability after static magnetic stimulation of human motor cortex. Brain Stimul. 2013; 6: 817‒820. 10)Kirimoto H, Asao A, et al.: Non-invasive modulation of somatosensory evoked potentials by the application of static magnetic fields over the primary and supplementary motor cortices. Sci Rep. 2016; 6: 34509. 11)Kirimoto H, Tamaki H, et al.: Effect of transcranial static magnetic field stimulation over the sensorimotor cortex on somatosensory evoked potentials in humans. Brain Stimul. 2014; 7: 836‒840. 12)Gonzalez-Rosa JJ, Soto-Leon V, et al.: Static Magnetic Field Stimulation over the Visual Cortex Increases Alpha Oscillations and Slows Visual Search in Humans. J Neurosci. 2015; 35: 9182‒9193. 13)Aguila J, Cudeiro J, et al.: Effects of Static Magnetic Fields on the Visual Cortex: reversible Visual Deficits and Reduction of Neuronal Activity. Cereb Cortex. 2016; 26: 628‒638. 14)Coots A, Shi R, et al.: Effect of a 0.5-T static magnetic field on conduction in guinea pig spinal cord. J Neurol Sci. 2004; 222: 55‒57. 15)Rosen AD: Mechanism of action of moderate-intensity static magnetic fields on biological systems. Cell Biochem Biophys. 2003; 39: 163‒173. 16)Rosen AD, Lubowsky J: Magnetic field influence on central nervous system function. Exp Neurol. 1987; 95: 679‒687. 17)Rosen AD: Inhibition of calcium channel activation in GH3 cells by static magnetic fields. Biochim Biophys Acta. 1996; 1282: 149‒155. 18)Rosen AD: Effect of a 125 mT static magnetic field on the kinetics of voltage activated Na+ channels in GH3 cells. Bioelectromagnetics. 2003; 24: 517‒523. 19)Shen JF, Chao YL, et al.: Effects of static magnetic fields on the voltage-gated potassium channel currents in trigeminal root ganglion neurons. Neurosci Lett. 2007; 415: 164‒168. 20)Malenka RC, Bear MF: LTP and LTD: an embarrassment of riches. Neuron. 2004; 44: 5‒21. 21)Zaghi S, Acar M, et al.: Noninvasive brain stimulation with low-intensity electrical currents: putative mechanisms of action for direct and alternating current stimulation. Neuroscientist. 2010; 16: 285‒307. 22)Rivadulla C, Foffani G, et al.: Magnetic field strength and reproducibility of neodymium magnets useful for transcranial static magnetic field stimulation of the human cortex. Neuromodulation. 2014; 17: 438‒441, discussion 441‒432. 23)Stefan K, Kunesch E, et al.: Induction of plasticity in the human motor cortex by paired associative stimulation. Brain. 2000; 123 Pt 3: 572‒584. 24)Wolters A, Sandbrink F, et al.: A temporally asymmetric Hebbian rule governing plasticity in the human motor cortex. J Neurophysiol. 2003; 89: 2339‒2345. 25)Fritsch B, Reis J, et al.: Direct current stimulation promotes BDNF-dependent synaptic plasticity: potential implications for motor learning. Neuron. 2010; 66: 198‒204..

(8) 経頭蓋静磁場刺激による中枢神経系の調節とその応用. 26)Miyakoshi J: Effects of static magnetic fields at the cellular level. Prog Biophys Mol Biol. 2005; 87: 213‒223. 27)Allison T, McCarthy G, et al.: Human cortical potentials evoked by stimulation of the median nerve. II. Cytoarchitectonic areas generating long-latency activity. J Neurophysiol. 1989; 62: 711‒722. 28)Huttunen J, Komssi S, et al.: Spatial dynamics of population activities at S1 after median and ulnar nerve stimulation revisited: an MEG study. Neuroimage. 2006; 32: 1024‒1031. 29)Lin YY, Chen WT, et al.: Differential generators for N20m and P35m responses to median nerve stimulation. Neuroimage. 2005; 25: 1090‒1099. 30)Lefaucheur JP, Ayache SS, et al.: Analgesic effects of repetitive transcranial magnetic stimulation of the motor cortex in neuropathic pain: influence of theta burst stimulation priming. Eur J Pain. 2012; 16: 1403‒1413. 31)Sugawara K, Onishi H, et al.: The effect of anodal transcranial direct current stimulation over the primary motor or somatosensory cortices on somatosensory evoked magnetic fields. Clin Neurophysiol. 2015; 126: 60‒67. 32)Romei V, Brodbeck V, et al.: Spontaneous fluctuations in posterior alpha-band EEG activity reflect variability in excitability of human visual areas. Cereb Cortex. 2008; 18: 2010‒2018. 33)Romei V, Rihs T, et al.: Resting electroencephalogram alpha-power over posterior sites indexes baseline visual cortex excitability. Neuroreport. 2008; 19: 203‒208 34)Nakayama K, Silverman GH: Serial and parallel processing of visual feature conjunctions. Nature. 1986; 320: 264‒265. 35)Treisman A, Sato S: Conjunction search revisited. J Exp Psychol Hum Percept Perform. 1990; 16: 459‒478. 36)Kalla R, Muggleton NG, et al.: Human dorsolateral prefrontal cortex is involved in visual search for conjunctions. 251. but not features: a theta TMS study. Cortex. 2009; 45: 1085‒1090. 37)Wei P, Muller HJ, et al.: Neural correlates of binding features within- or cross-dimensions in visual conjunction search: an fMRI study. Neuroimage. 2011; 57: 235‒241. 38)Oliviero A, Carrasco-Lopez MC, et al.: Safety Study of Transcranial Static Magnetic Field Stimulation (tSMS) of the Human Cortex. Brain Stimul. 2015; 8: 481‒485. 39)Persson L, Hardemark HG, et al.: S-100 protein and neuron-specific enolase in cerebrospinal fluid and serum: markers of cell damage in human central nervous system. Stroke. 1987; 18: 911‒918. 40)Hummel FC, Cohen LG: Non-invasive brain stimulation: a new strategy to improve neurorehabilitation after stroke? Lancet Neurol. 2006; 5: 708‒712. 41)Levy CE, Nichols DS, et al.: Functional MRI evidence of cortical reorganization in upper-limb stroke hemiplegia treated with constraint-induced movement therapy. Am J Phys Med Rehabil. 2001; 80: 4‒12. 42)Liepert J, Miltner WH, et al.: Motor cortex plasticity during constraint-induced movement therapy in stroke patients. Neurosci Lett. 1998; 250: 5‒8. 43)Koganemaru S, Mima T, et al.: Recovery of upper-limb function due to enhanced use-dependent plasticity in chronic stroke patients. Brain. 2010; 133: 3373‒3384. 44)Takeuchi N, Chuma T, et al.: Repetitive transcranial magnetic stimulation of contralesional primary motor cortex improves hand function after stroke. Stroke. 2005; 36: 2681‒2686. 45)Abraham WC, Bear MF: Metaplasticity: the plasticity of synaptic plasticity. Trends Neurosci. 1996; 19: 126‒130. 46)Redondo RL, Morris RG: Making memories last: the synaptic tagging and capture hypothesis. Nat Rev Neurosci. 2011; 12: 17‒30..

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参照

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