• 検索結果がありません。

メタボリックシンドロームの概念と慢性腎臓病との関連

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "メタボリックシンドロームの概念と慢性腎臓病との関連"

Copied!
5
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

東女医大誌 89(Extra1): E118-E122, 2019.7

メタボリックシンドロームの概念と慢性腎臓病との関連

東京女子医科大学医学部内分泌内科学 ワタナベ ダイスケ イチハラ アツヒロ 渡辺 大輔・市原 淳弘 (受理 2018 年 8 月 17 日)

Metabolic Syndrome and the Development of Chronic Kidney Disease Daisuke Watanabe and Atsuhiro Ichihara

Department of Endocrinology, School of Medicine, Tokyo Women s Medical University, Tokyo, Japan

Metabolic syndrome (MetS) is a complex disorder combining hypertension, obesity, dyslipidemia, and insulin resistance accompanying abnormal adipose deposition and function. MetS is associated with the development of atherosclerotic cardiovascular disease, and contributes to the development of chronic kidney disease (CKD). A close relationship between MetS and increased risk of developing renal damage has been established. Early diag-nosis and treatment of MetS is essential in the forming of strategies to prevent CKD as a result of MetS. Several findings have indicated that the activation of the intrarenal renin-angiotensin system (RAS) may play an impor-tant role in the progression of MetS to CKD. Therefore, RAS blockade is a first-line therapeutic target for pre-venting progression of MetS to CKD. The aim of this article is to provide an overview of the concept of MetS, and to discuss the management of CKD in patients with MetS.

Key Words: metabolic syndrome, chronic kidney disease, renin-angiotensin system はじめに メタボリックシンドローム(MetS)では,脂肪組 織,特に内臓脂肪の蓄積により,高血圧,脂質異常 症,また糖尿病などを併発し,これら代謝異常が複 合的に働き,将来の心血管系疾患発症へのリスク因 子となりうる.またこれら代謝異常のみならず,肥 満などにより睡眠時無呼吸や変形性関節症(膝,股 関節)など整形外科的疾患も合併し,より一層,病 態を複雑化させる.それゆえ薬物療法のみならず積 極的かつ適切な運動療法や食事療法を推進していく ことが,MetS の治療には有用であり,またこれらを 実践することで将来の心血管系疾患のリスクを軽減 させ,これらは本邦の医療経済の観点からも重要な 施策であると考える. 世界保健機関では,BMI 30 以上を肥満,BMI 25 以上を preobese とする世界的な診断基準が提唱さ れている.しかし,本邦では軽度の体重増加でも健 康障害につながる可能性があり,日本肥満学会から 肥満の判定および肥満症の診断基準が提唱されてい る1) .肥満の定義として,「脂肪組織が過剰に蓄積した 状態で,BMI 25 kg/m2以上のもの」とされ,肥満症 は,「肥満に起因ないし関連する健康障害を合併する か,その合併が予測される場合で,医学的に減量を 必要とする病態をいい,疾患単位として取り扱う」と :渡辺大輔 〒162―8666 東京都新宿区河田町 8―1 東京女子医科大学高血圧・内分泌内科 E­mail: watanabe.daisuke@twmu.ac.jp doi: 10.24488/jtwmu.89.Extra1_E118

Copyright Ⓒ 2019 Society of Tokyo Women s Medical University. This is an open access article distributed under the terms of Creative Commons Attribution License (CC BY), which permits unrestricted use, distribution, and reproduction in any medium, provided the original source is properly credited.

(2)

明記されている.つまり前述の代謝異常などへのリ スク因子としての肥満という考えのみならず,肥満 症としてひとつの疾患概念として提唱されている. ゆえに,MetS は肥満症の一部と考えてよい.疫学的 な観点からは,本邦では過体重(BMI≧25 kg/m2)の 割合は,男性 29.1%,女性 19.4% と報告されており, 男性では各年代とも過体重の割合は近年増加傾向で あるものの,2009 年をピークにしてやや漸減傾向で ある.女性では,過体重の割合の増加はみられない2) . 国際的にみても過体重の割合は多くはないが,健康 寿命を延ばすには肥満の防止は非常に重要であると 考える. したがって,MetS の治療においては,それが引き 起こす様々な代謝異常および臓器障害を防ぐこと で,将来的な心血管系疾患などを防止するような対 策を講じることが求められている.MetS の本邦で の診断基準には,ウエスト周囲長に加え,高血圧, 脂質異常,糖代謝異常が挙げられており(Figure 1)3) ,本稿では MetS に伴う高血圧,脂質異常の特徴 につき解説し,我々の研究のもとになった,特に腎 障害との関連についても付け加えたい. メタボリックシンドロームと高血圧 肥満者の高血圧発症率は非肥満者と比較して約 2∼3 倍になることが知られている.肥満に伴う高血 圧の機序として,交感神経系,ナトリウム(Na)貯 留/食塩感受性,インスリン抵抗性が関与することが 報告されている4) .具体的には,肥満者においては特 に腎における交感神経系の活性化,それによるレニ ン分泌の亢進,腎血流の減少,尿細管における Na 再吸収の亢進が関与している.インスリン抵抗性は 骨格筋や肝臓といったインスリン標的臓器でのその 反応性の低下を示唆するが,インスリン抵抗性に伴 う高インスリン血症が腎臓に作用することでも Na 貯留を促し,またそれとは別に中枢神経を介して交 感神経緊張を亢進させ高血圧を惹起することも報告 されている.レニン―アンジオテンシン系(RAS), つまりアンジオテンシノーゲン,血漿レニン活性, アンジオテンシン II(AngII),アルドステロンなど RAS を構成するすべてのコンポーネントの活性化 が高血圧の発症に深く関与し,また近年では,肥満 ではアルドステロン過剰,つまり 2 次性アルドステ ロン症も原因の一つと考えられている5) . 以上のように肥満と高血圧は,様々な機序を通じ て密接に関連することが示唆されるが,実際の臨床 現場においては睡眠時無呼吸などを合併している場 合が多く,それに対する治療も必要になる.まずは 肥満者の高血圧に対しては,減量が必須である.ま た,MetS を合併した高血圧とは,高血圧のみならず 他の複数の代謝異常(糖代謝異常や脂質異常)を合 併した場合であり,それら合併症に配慮した治療が 必要になる.降圧の目標値も糖尿病の有無で異なり, 糖尿病がない場合は 130∼139/85∼89 mmHg では 生活習慣の修正が治療方針であるが,糖尿病がある 場合は 130/80 mmHg 以上より降圧剤治療となりう る点は,大きく異なる6) .また,日常行われている特 定健康診査・特定保健指導などは,MetS の診断基 準を取り入れており,そのような施策を通じて,高 血圧に対する治療戦略を立てている.減量,運動, 減塩など生活習慣の是正に加え,適切な降圧剤の投 与が MetS に合併する高血圧の治療には求められて いる. メタボリックシンドロームと脂質代謝異常 過食や運動不足は肥満,インスリン抵抗性のみな らず,高中性脂肪(TG)血症,低 HDL コレステロー ル(HDL-C)血症をもたらす.MetS に認められる代 表的な脂質代謝異常は TG の増加, HDL-C の低下, LDL の小型化である.インスリン抵抗性は TG 分泌 を 亢 進 さ せ,ま た 小 型 で 高 密 度 の LDL は small dense LDL(sdLDL)といわれ,動脈硬化を惹起させ る効果が強い1) .高 LDL 血症は動脈硬化の危険因子 ではあるが,MetS は,高 LDL コレステロール(LDL-C)血症とは独立した冠動脈疾患へのリスク要因で あるため,診断基準には含まれていない.しかし, 高 LDL-C 血症を認めた場合には,MetS と併せて治 療を行う必要がある.これらの因子は,粥状動脈硬 化を促進させうるため,早期の治療介入が必須であ る. また MetS に高頻度に,肝臓への脂肪の蓄積が認 められ,肝臓病の増悪因子の一つとしても考えられ ている.いわゆる脂肪肝は,肝臓に中性脂肪が沈着 した状態であり,脂肪肝から炎症,線維化が促進さ れ肝硬変や肝癌に至るケースもある.アルコールに 由 来 し な い 脂 肪 肝 は non-alcoholic fatty liver dis-ease(NAFLD)と総称される.NAFLD の患者では, MetS の陽性因子の頻度が多いことも推測されてい る1) .このように脂質異常の観点からも,生活指導を 中心とした,食事・運動療法の推進により,肥満症 や MetS を治療することで,体重や内臓脂肪の減少 を図ることが重要である.

(3)

Figure 1 Selected Japanese criteria for metabolic

syndrome.

WC, waist circumference; TG, triglyceride; HDL, high-density lipoprotein cholesterol; BP, blood pres-sure; FPG, fasting plasma glucose.

(Adapted from reference 3)

㼃㻯㻌㼍㼠㻌㼡㼙㼎㼕㼘㼕㼏㼍㼘㻌㼘㼑㼢㼑㼘㻌 㼙㼑㼚㻦㻌䍹㻤㻡㻌㼏㼙㻘㻌㼣㼛㼙㼑㼚㻦㻌䍹㻥㻜㻌㼏㼙㻌 㻼㼘㼡㼟 䍹㻞㻌㼛㼒㻌㼠㼔㼑㻌㼒㼛㼘㼘㼛㼣㼕㼚㼓㻌 㻙 㻱㼘㼑㼢㼍㼠㼑㼐㻌㼀㻳㻌㼍㼚㼐㻛㼛㼞㻌㼞㼑㼐㼡㼏㼑㼐㻌㻴㻰㻸㻌 㻙 㻱㼘㼑㼢㼍㼠㼑㼐㻌㻮㻼㻌 㻙 㻱㼘㼑㼢㼍㼠㼑㼐㻌㻲㻼㻳 メタボリックシンドロームと腎臓病の関連 本邦では,慢性腎臓病(CKD)の頻度が増してお り,血液透析を要するような末期腎不全に至らない よ う 対 策 を 立 て る こ と が 求 め ら れ て い る.ま た MetS の因子が多いほど,CKD の頻度も高い7) .肥満 は高血圧や加齢などと並んで,CKD 発症のリスク因 子であると同時に,CKD の進行や末期腎不全への移 行リスクとして挙げられている8) .また肥満は固有の 腎組織障害を惹起することも知られており,肥満関 連腎症(ORG)と呼ばれ9) ,病理学的に糸球体肥大, 糸球体上皮細胞肥大,メサンギウム細胞増殖などを 特徴としている.ORG では,肥満による脂肪蓄積に よりアディポサイトカイン産生調節の破綻をきた し,特に腎臓においては TNF-α,IL-6 および IFN-γ といった炎症サイトカインが上昇していることが 報告されており,炎症が ORG の発症に深く関わっ ている可能性が示唆されている9) . 肥満や MetS が腎障害をきたすメカニズムとし て,①糸球体高血圧,糸球体過剰濾過によるもの, ②酸化ストレス亢進による内皮細胞障害,③インス リン抵抗性に伴う高インスリン血症による糸球体高 血圧など,様々な機序が考えられている10) .インスリ ン抵抗性や交感神経系および RAS の活性化は,糸 球体過剰濾過や糸球体高血圧を惹起する.糸球体過 剰濾過は,糸球体濾過量を維持しようとする代償起 機転と考えられるが,これが長期的に持続すれば糸 球体硬化を引き起こす10) .つまりこれらのメカニズ ムには内分泌系因子として,RAS の活性化は深く関 与している.これらの知見を考慮すれば,RAS を阻 害する薬物を投与することが,糸球体過剰濾過を是 正し,将来的な腎組織障害の進展を防止しうると考 えられる.また肥満や高血圧,糖尿病といった病態 下では,循環 RAS とは別に,組織局所 RAS の活性 化も認められ,高血圧の持続は,腎動脈から糸球体 に至るまでの細動脈の動脈硬化を惹起し,また糸球 体が障害され間質の線維化や糸球体硬化を経て,腎 障害を進行させうるものと考えられている.ゆえに, 厳格な血圧管理が,CKD の進行予防の観点からも求 められる. また脂質異常症と腎臓病の関連では,CKD におい ては中性脂肪,特にレムナントの増加と HDL-C の 低下が特徴的であり,LDL-C が蛋白尿などの腎機能 の進行や末期腎不全のリスクにもなりうる11) .つま り CKD は脂質代謝異常を合併しやすい病態であ り,また脂質異常症は CKD を悪化させうるという, 相互に負の影響を与えうる関係にある.血圧などと 同様に脂質異常に対しても包括的な管理が必要であ る. メタボリックシンドロームに伴う 腎障害への治療戦略 CKD のインスリン抵抗性には MetS が大きく関 与 す る 場 合 が あ る.こ れ ら の 治 療 法 と し て は, PPARγ に作用することでインスリン抵抗性を改善 することが推測され,かつ 2 型糖尿病患者に対する 治療薬として重要な選択肢となっているインスリン 抵抗性改善薬のチアゾリジン誘導体は有効であり, フィブラート系は脂質異常症の改善にも効果が期待 できる12) .また,インスリン抵抗性状態では,RAS の亢進が認められるが,これらの病態悪化因子に対 して,アンジオテンシン返還酵素阻害薬(ACEi)や アンジオテンシン II 受容体拮抗薬(ARB)を投与す ることで, CKD の進展を防止することができる13) . また脂質異常の観点からすれば,スタチンの尿蛋白 の減少効果なども報告されており14) ,CKD の進展に は一定の効果を示すと考えられる. 肥満に伴う CKD に対しては,前述のごとく ACEi や ARB が蛋白尿やアルブミン尿を減少させる観点 から治療の中心薬と考えられる.腎臓には RAS す べてのコンポーネントが存在しており,肥満になる とこれらすべてが活性化されているため,それらを 標的とした治療が有効である.臨床的にはヒトを対 象 と し た 肥 満 に 伴 う CKD の 症 例 に 対 し 減 量 と ACEi を導入することで尿蛋白が著明に減少するこ とが報告されており15) ,また蛋白尿を認める糖尿病 非合併 CKD を対象にした REIN 研究では ACEi の 蛋白尿減少効果は BMI の高い肥満患者ほど強いこ とが示されている16) .また糖尿病非合併で肥満およ

(4)

Figure 2 The mechanisms for incidence of

microal-buminuria in metabolic syndrome. (Modified from reference 20)

㻴㼥㼜㼑㼞㼓㼘㼥㼏㼑㼙㼕㼍 㻴㼥㼜㼑㼞㼠㼑㼚㼟㼕㼛㼚 㻴㼥㼜㼑㼞㼒㼕㼘㼠㼞㼍㼠㼕㼛㼚 Obesity

㻵㼚㼠㼞㼍㼞㼑㼚㼍㼘 㼍㼚㼓㼕㼛㼠㼑㼚㼕㼚䊡䊺 㻳㼘㼛㼙㼑㼞㼡㼘㼍㼞 㼔㼥㼜㼑㼞㼠㼑㼚㼟㼕㼛㼚㻌

㻭㼚㼓㼕㼛㼠㼑㼚㼟㼕㼚 䊡㻌㼞㼑㼏㼑㼜㼠㼛㼞㻌㼎㼘㼛㼏㼗㼑㼞㻌

㻹㼕㼏㼞㼛㼍㼘㼎㼡㼙㼕㼚㼡㼞㼕㼍

Table 1 Histological analyses of the glomerular and tubulointerstitial damages in WKY/Izm rats and

SHR/NDmcr-cp rats after 12 weeks of treatments

WKY/Izm SHR/NDmcr-cp

Vehicle-treated Hydralazine ARB

n 4 4 4 4

Glomerular damages

Glomerular sclerosis index 0.30±0.10 1.15±0.08* 1.10±0.07 0.50±0.12#† Desmin staining index 1.20±0.09 3.10±0.07* 2.80±0.09 1.75±0.10#† PCNA-positive cells per glomerulus 0.40±0.11 2.70±0.10* 2.35±0.11 0.95±0.14#† Tubulointerstitial damages

Tubulointerstitial fibrosis index 0.20±0.09 1.40±0.11* 1.10±0.070.70±0.11#† Type IV collagen staining index 1.25±0.10 3.15±0.13* 2.70±0.101.40±0.11#† PCNA-positive cells per tubulointerstitial area 1.40±0.11 5.15±0.15* 4.70±0.161.51±0.12#† ARB, angiotensin II receptor blocker; PAS, periodic acid-shiff; PCNA, proliferating cell nuclear antigen.

Glomerular sclerosis index and desmin staining index were estimated semiquantitatively by scoring as 0-4 or 1-4 degrees for PAS staining and desmin immunostaining, respectively.

Tubulointerstitial fibrosis index and Type IV collagen staining index were estimated semiquantitatively by scor-ing as 0-4 or 1-4 degrees for Azan stainscor-ing and Type IV collagen immunostainscor-ing, respectively. Data are ex-pressed as the mean±s.e.

p<0.05 vs. WKY/Izm.

#p<0.05 vs. vehicle-treated SHR/NDmcr-cp group. †p<0.05 vs. hydralazine group.

(Adapted from reference 19)

び高血圧を伴う CKD では ARB の投与に減量を上 乗せすることでより尿蛋白の減少を図れることが報 告されている17) .近年では肥満児の増加に伴い小児 期の ORG も問題になるが,Kawasaki らは 2 例の小 児に対し食事・運動療法の徹底とともに ARB を投 与することで ORG に伴う尿蛋白の改善を認めたこ とを報告している18) .我々は,ARB の腎保護作用の 機 序 の 解 明 の た め MetS モ デ ル ラ ッ ト(SHR/ NDmcr-cp)を用いて,それらに 12 週間 ARB を投与 し腎の形態学的変化を免疫組織学的手法を用いて検 討した.ARB は降圧効果とは独立して尿蛋白を減少 させ,Table 119) に示す通り,様々な糸球体障害や尿 細管間質マーカーを改善させることを報告した. また,Figure 220) には ARB の作用点の概略が示さ れている.つまり,肥満が耐糖能異常,高血圧,糸 球体過剰濾過をきたし,腎内 AngII や糸球体高血圧 を亢進させるが,ARB はそれらをブロックすること で,CKD の進展を抑制すると考えられる. RAS 阻害薬は降圧効果のみならず,それ以外の機 序においても腎保護作用を発揮することが示唆さ れ,現在,肥満を伴う高血圧の治療戦略に欠かせな い薬剤の一つになっている. おわりに 2002 年,ヒト腎臓 cDNA ライブラリーから,組織 RAS 調節因子である(プロ)レニン受容体[(P)RR] が同定されて以来,その生理学的な作用の詳細が以 下のとおりに明らかになりつつある21) . (P)RR は脳, 心臓,腎臓など臓器に広く分布しており,腎疾患の 発症,進展に深く関与する可能性が示唆されている. 糖尿病ラットや高血糖に暴露された腎メサンギウム 細胞では(P)RR 発現が亢進しており,またプロレ ニンと(P)RR の結合が糖尿病腎症の病態促進に重 要な役割を担っていることや22) , (P)RR 過剰状態そ のものがヒト腎疾患の病態に影響していることが報 告されている23) .また一方で,(P)RR は液胞型プロト

(5)

ン ATPase の機能維持に必須であり,これらを通し て腎保護的に作用しうるオートファジーが正常に働 くよう調節している24) .このような(P)RR の役割を 踏まえ,糖尿病腎症などに対する新たな創薬のター ゲットとし て,RAS 阻 害 薬 に よ り 腎 局 所 の 組 織 RAS を低下させるとともに,(P)RR の発現を維持 させることも同時に重要であると考え,現在我々は 糖尿病や脂質異常症をはじめ,内分泌疾患など様々 な病態で(P)RR との関連性を探索している. 基礎研究を行うにあたり形態学的な解析や免疫組織 学的手法につきご指導いただいた,解剖学・発生生物学 講座の江 太一先生に深謝いたします. 開示すべき利益相反はない. 1)船橋 徹:【肥満と腎臓】肥満・肥満症の診断基準 と病態生理.腎と透析 78:471―476,2015 2)小久保喜弘:【肥満と腎臓】わが国における肥満・ 肥満症の疫学 諸外国との比較.腎と透析 78: 477―484,2015

3)Yamagishi K, Iso H : The criteria for metabolic syndrome and the national health screening and education system in Japan. Epidemiol Health 39 : e2017003, 2017

4)柴田洋孝:【内分泌性高血圧症】肥満と高血圧.最新 医 71:981―987,2016

5)Tuck ML, Sowers J, Dornfeld L et al: The effect of weight reduction on blood pressure, plasma renin activity, and plasma aldosterone levels in obese patients. N Engl J Med 304: 930―933, 1981 6)Shimamoto K, Ando K, Fujita T et al: The

Japa-nese Society of Hypertension Guidelines for the Management of Hypertension (JSH 2014 ). Hyper-tens Res 37: 253―390, 2014

7)Ninomiya T, Kiyohara Y, Kubo M et al: Meta-bolic syndrome and CKD in a general Japanese population: the Hisayama Study. Am J Kidney Dis

48: 383―391, 2006

8)Fox CS, Larson MG, Leip EP et al: Predictors of new-onset kidney disease in a community-based population. JAMA 291: 844―850, 2004

9)Wu Y, Liu Z, Xiang Z et al: Obesity-related glomerulopathy: insights from gene expression pro-files of the glomeruli derived from renal biopsy samples. Endocrinology 147: 44―50, 2006 10)柏原直樹,庵谷千恵子,桑原篤憲:【肥満と循環器 病】肥満と慢性腎臓病.循環器内科 77:536―542, 2015 11)中田佳延,池脇克則:【肥満と腎臓】肥満に関連する 病態と腎障害 脂質代謝異常と腎障害.腎と透析 78:525―530,2015 12)和田 淳:【肥満と腎臓】肥満に関連する病態と腎 障害 インスリン抵抗性と腎障害.腎と透析 78: 520―524,2015

13)Brenner BM, Cooper ME, de Zeeuw D et al: Ef-fects of losartan on renal and cardiovascular out-comes in patients with type 2 diabetes and nephro-pathy. N Engl J Med 345: 861―869, 2001

14)Navaneethan SD, Pansini F, Perkovic V et al: HMG CoA reductase inhibitors (statins) for people with chronic kidney disease not requiring dialysis. Cochrane Database Syst Rev 2: CD007784, 2009 15)Praga M, Hernández E, Andrés A et al: Effects of

body-weight loss and captopril treatment on prote-inuria associated with obesity. Nephron 70: 35―41, 1995

16)Mallamaci F, Ruggenenti P, Perna A et al: ACE inhibition is renoprotective among obese patients with proteinuria. J Am Soc Nephrol 22: 1122―1128, 2011

17)Ahn SY, Kim DK, Han SS et al: Weight loss has an additive effect on the proteinuria reduction of an-giotensin II receptor blockers in hypertensive pa-tients with chronic kidney disease. Kidney Res Clin Pract 37: 49―58, 2018

18)Kawasaki Y, Isome M, Ono A et al: Two children with obesity-related glomerulopathy identified in a school urinary screening program. Pediatr Int 56: 115―118, 2014

19)Watanabe D, Tanabe A, Naruse M et al: Renopro-tective effects of an angiotensin II receptor blocker in experimental model rats with hypertension and metabolic disorders. Hypertens Res 32 : 807 ― 815, 2009

20)Sofue T, Kiyomoto H : Angiotensin II receptor blocker is a renoprotective remedy for metabolic syndrome. Hypertens Res 32: 735―737, 2009 21)市原淳弘:医学と医療の最前線(プロ)レニン受容

体と腎疾患.日内会誌 101:2310―2315,2012 22)Ichihara A, Hayashi M, Kaneshiro Y et al:

Inhibi-tion of diabetic nephropathy by a decoy peptide corresponding to the handle region for nonprote-olytic activation of prorenin. J Clin Invest 114 : 1128―1135, 2004

23)Morimoto S, Ando T, Niiyama M et al: Serum sol-uble (pro) renin receptor levels in patients with es-sential hypertension. Hypertens Res 37 : 642 ― 648, 2014

24)Kinouchi K, Ichihara A, Sano M et al: The (pro) renin receptor/ATP6AP2 is essential for vacuolar H+ -ATPase assembly in murine cardiomyocytes. Circ Res 107: 30―34, 2010

Figure 1 Selected  Japanese  criteria  for  metabolic  syndrome.
Figure 2 The  mechanisms  for  incidence  of  microal- microal-buminuria in metabolic syndrome

参照

関連したドキュメント

いメタボリックシンドロームや 2 型糖尿病への 有用性も期待される.ペマフィブラートは他の

共通点が多い 2 。そのようなことを考えあわせ ると、リードの因果論は結局、・ヒュームの因果

と言っても、事例ごとに意味がかなり異なるのは、子どもの性格が異なることと同じである。その

「欲求とはけっしてある特定のモノへの欲求で はなくて、差異への欲求(社会的な意味への 欲望)であることを認めるなら、完全な満足な どというものは存在しない

   遠くに住んでいる、家に入られることに抵抗感があるなどの 療養中の子どもへの直接支援の難しさを、 IT という手段を使えば

高さについてお伺いしたいのですけれども、4 ページ、5 ページ、6 ページのあたりの記 述ですが、まず 4 ページ、5

大村 その場合に、なぜ成り立たなくなったのか ということ、つまりあの図式でいうと基本的には S1 という 場

自分ではおかしいと思って も、「自分の体は汚れてい るのではないか」「ひどい ことを周りの人にしたので