久保 今回は,コレステロール低下療法を評価するモダリティとしての,冠動脈疾患画像 診断について話し合いたいと思います。
前原 画像診断を用いたコレステロール低下療法の有効性評価には当初,血管内超音波法
(IVUS)が頻用されていましたが,これまで行われたIVUSを用いた大規模試験,すなわち
REVERSAL 1),ASTEROID 2),ILLUSTRATE 3)において,評価対象とされたのは狭窄度
が50%未満の冠動脈病変のみでした。つまり,一定以上進展してしまった病変の評価はあ まり行われていませんでした。
久保 描出能力の面でも,限界がありますね。
前原 ご指摘の通りです。当初用いられていたグレー(モノクロ画面)IVUS 像では,評価
が可能なのはプラークの「容積」のみで,「性状」についての情報はほとんどありませんでした。
しかしその後,Virtual Histology( VH)-IVUSが登場し,プラーク成分を線維性組織(緑)
冠動脈イメージングと
脂質低下療法
PCSK9 抗体の臨床応用が始まり,高コレステロール血症治療は新時代を迎えた。今やLDLコレステロール ( LDL-C)の低下は,これまで不可能と考えられていたレベルまで可能となった。このような積極的コレステ ロール低下治療は,動脈硬化病変にどのような影響を及ぼすだろうか。この疑問に答えるべく活躍するのが冠 動脈の画像診断である。血管内腔を描出する「冠動脈造影」のみの時代は終わり,様々なモダリティが活用さ れるようになっている。最初に登場したのは,モノクロ画面の「血管内超音波法( IVUS)」である。これにより, 血管壁プラークの容積を測定できるようになった。その後 IVUS はさらなる進歩を遂げ,今日ではプラーク内 の組成評価も可能である。「光干渉断層法( OCT )」を用いた検討も盛んに行われている。 今回はそのような冠動脈画像診断の現状と,画像診断の結果が予後予知にどのような意味を持つのか,内 外第一線の専門家にご討論いただいた。Coronary artery imaging for lipid-lowering therapy
久保 隆史 先生
提供:サノフィ株式会社 2017年 3月作成 SAJP.ALI.17.02.0357
前原 晶子 先生 Akiko Maehara
Assistant Professor of Medicine, Columbia University Medical Center / CRF, USA 日比 潔 先生 Kiyoshi Hibi 横浜市立大学附属市民総合医療センター内科 心臓血管センター 准教授 大竹 寛雅 先生 Hiromasa Otake 神戸大学大学院医学研究科 内科学講座 循環器内科学分野 助教 久保 隆史 先生 Takashi Kubo 和歌山県立医科大学 循環器内科 准教授 座 長 ディスカッサント (発言順)
日比 VH-IVUSを用いた臨床試験にはどのようなものがありますか。 前原 私たちが行ったPROSPECT 試験をご紹介します4)。PCIが成功した急性冠症候群 ( ACS)697例を3.4 年間(中央値)観察したものです。観察開始時,3 枝でVH-IVUSを試 行し,追跡期間中に冠動脈イベントをきたした例で,責任病変の追跡開始時 VH-IVUS 像 を調べました(図1)。つまり,どのような病変がその後,冠動脈イベントを引き起こしたの か,前向きに検討したわけです。VH-IVUS 所見は「線維性石灰化」,「薄い線維性被膜を もつアテローム」,「厚い線維性被膜をもつアテローム」,「病的内膜肥厚」,「線維化」の5つ に分類しました(図 2)。 前原 晶子 先生 図1 PROSPECT試験:デザイン
Stone GW, et al; PROSPECT Investigators. N Engl J Med. 2011; 364(3): 226-35.4)
ACS発症後24時間以上経過 約697例(米国,欧州) 責任病変PCI(成功) 登録・観察開始 ・腹囲 ・脂質 ・血糖 ・HbA1c ・インスリン ・クレアチニン ・Hs CRP ・IL-6 ・sCD40L ・MPO ・TNFα ・MMP9 ・Lp-PLA2 ・その他 代謝指標 バイオマーカー 図2 PROSPECT試験:VH-IVUS分類
上段:Stone GW, et al; PROSPECT Investigators. N Engl J Med. 2011; 364(3): 226-35.4)
下段:Renu Virmani R, et al. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2000; 20; 1262-75.5)
線維性石灰化 薄い線維性被膜をもつアテローム 厚い線維性被膜をもつアテローム 病的内膜肥厚 線維化 血管内腔 脂質プール マクロファージ コレステロール結晶 線維性肥厚 カルシウム 線維質 壊死性コア
プラークの容積だけでなく
「性状」も冠動脈イベントのリスク
まず追跡期間中の冠動脈イベント発生率を,責任病変別に比較しました(図 3)。すると,初発 ACSと同部位による イベントと,初発 ACS 責任病変以外に起因するイベントが,ほぼ同数認められました。冠動脈イベント再発抑制には,「責 任病変以外に対する介入」も重要かつ必要だということです。 大竹 初発 ACSの責任病変以外に起因した冠動 脈イベントでは,何がリスクとなっていたのでしょ うか。 前原 多変量解析で求めたところ(表),予想通り 「プラーク容積」が有意なリスクでした。しかしそ れとは独立して,「薄い線維性被膜をもつアテロー ム」も有意なリスク因子となっていました(ハザード 比 [HR]:3.35,95 % 信 頼 区 間:1.77-6.36)。 プラーク量だけでなくプラークの「性状」もリスクと なっていたわけです。 日比 日本人の患者 に慣れている私たち には,かなり冠動脈 イベント発生率が高く感じられますね(図 3)。 前原 今日TCTで報告したのですが,PROSPECT 試験とは異なり,PCIの適応となる全 冠動脈イベント患者を約 7,000 例追跡したCOLORレジストリでも,初発冠動脈イベント 責任病変以外に起因する冠動脈イベントが,2年間で8.3%発生していました。 久保 COLORレジストリは冠動脈内近赤外分光法( NIRS)-IVUSを用いた研究でしたね。 日比 潔 先生 図3 PROSPECT試験:心血管系死亡・冠動脈イベント発生率
Stone GW, et al; PROSPECT Investigators. N Engl J Med. 2011; 364(3): 226-35.4) を改変
発生率 ( % ) 25 20 15 10 5 0 0 1 0.9 6.4 7.9 13.2 2 1.9 9.4 11.4 18.1 3 2.7 11.6 12.9 20.4 (年) 全イベント 初発ACS責任病変に起因 初発ACS責任病変以外の部位に起因 責任病変不明 表 PROSPECT試験:初発ACS責任病変以外の部位に 起因した心血管系死亡・冠動脈イベントの予知因子 p値 項目 <0.001 <0.001 0.001 血管内プラーク面積比率 ≧70% ハザード比 [95%信頼区間] 5.03 [2.15-10.11] 3.35 [1.77-6.36] 3.21 [1.61-6.42] 薄い線維性被膜をもつ アテローム 最小管腔内面積 ≦4.0 mm2
前原 NIRS-IVUSを用いると,冠動脈壁の脂質に富んだプラークを,高精度で同定できます。壊死性コアや脂質プー ルが黄色く描出され,それら脂質以外の部位は赤くなるのです(図 4)5)。またIVUSモノクロ画像と組み合わせて,描 出されている壁内部の脂肪組織の多寡を示すことも可能です。注意が必要なのは,NIRS-IVUSで示されるのは脂質と それ以外の「比率」であって,絶対量に関する情報は含まれていないという点です。今後の改良が求められます。 久保 先述のCOLORレジストリでは,NIRS-IVUSをどのように用いられているのですか。 前原 冠動脈造影を施行した1,899 例において,責任病変( PCI 施行前)と責任病変以外を対象にNIRS-IVUSを行い, その後 2年間にわたり追跡しました(図 5)。そしてその間に発生した冠動脈イベントと,追跡開始時のNIRS-IVUS 所見 を付き合わせます。現在,責任病変以外に起因した冠動脈イベントの解析を行っています 。 図4 IVUSモノクロ画像とNIRSの組み合わせによるプラーク分類 脂質プール(-) 石灰化(+) 脂質プール(+) 石灰化(+) 脂質プール(+) 病変後方エコー減弱(+) 脂質プール(+) 病変後方エコー減弱(-) 脂質プール(-) 線維性石灰化 薄い線維性被膜をもつ アテローム 厚い線維性被膜をもつ アテローム 病的内膜肥厚 線維化 マクロファージ 脂質プール 線維性肥厚 血管内腔 コレステロール結晶 カルシウム 線維質 壊死性コア 上段:前原晶子先生提供 下段:Renu Virmani R, et al. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2000; 20; 1262-75.5)
図5 COLORレジストリ:デザイン PCIの可能性がある冠動脈造影既往患者 1,899例 追跡期間中央値: 731日(四分位範囲:711~746) 標的病変(PCI施行前)に NIRS-IVUS施行 (1,168例,1,265病変) 標的病変以外に NIRS-IVUS施行 (927例,1,072部位) 一次評価項目 主要心血管イベント (心血管死,非致死的心筋梗塞[MI],不安定狭心症,心不全,脳卒中,その他の入院を要する心血管イベント)
プラーク内の脂肪成分を描出するNIRS-IVUS
日比 NIRS-IVUSでは,血管内腔表面積に対する脂質の割合が LCBI( Lipid Core Burden Index)として定量化されま すね。LCBIはイベントリスクと相関するのでしょうか。 前原 相関します。NIRS-IVUSを施行した連続登録121例を追跡した研究からは,LCBIが高いほど,死亡・心血管系 イベント発生リスクが高い傾向が報告されています6)(図 6)。また同報告からは,冠動脈造影上,狭窄を全く認めない にも関わらず,極めて短期間の後に,LBCI 高値部位が責任病変となる不安定狭心症を来たした1例も紹介されています (図7)。 図7 冠動脈造影上で異常を認めなかったLCBI高値部位が, 7ヵ月後に不安定狭心症を来たした1例 同年10月, 不安定狭心症発症 1 2 64歳男性。2012年3月,右冠動脈中間部 へのステント留置後の冠動脈造影 ス テ ン ト 留 置 後 の NIRS-IVUSベースライン 時 画 像 が 軽 度 狭 窄部 位における大きな脂質に 富んだプラーク(4mm 部位内最高LCBI:694) を示した 右冠動脈近位部の軽度狭窄 ステント留置部位 図6 NIRS-IVUS評価LCBI別の死亡・心血管系イベント発生率
Madder RD, et al. Eur Heart J Cardiovasc Imaging. 2016; 17(4): 393-9.6)
MACCE に対する ハザード比 ( 95%信頼区間) 14.9 17.0 25.0 42.9 77.8 MACCE発生率(%) 74 53 36 21 9 例数 2.4 (0.7-8.6) ≧100 ≧200 ≧300 ≧400 ≧500 2.4 (0.7-7.2) 4.6 (1.6-13.8) 10.2 (3.4-30.6) 24.2 (8.1-72.1) 25 20 15 10 5 0 追跡開始時LCBI (4 mm部位内最高値) MACCE:全死亡,非致死性ACS,急性脳血管障害の複合
大竹 脂質低下療法が NIRS-IVUS 所見に与える影響を検討した試験はありますか。 前原 PCI 施行多枝病変 87例をランダム化した,YELLOWスタディがあります7)。興味 深いことに,積極的脂質低下療法によるプラーク容積の減少は認められませんでしたが, LBCIは有意に減少していました。特に,試験開始時の LBCI 高値例で,減少が著明でした。 NIRS-IVUSも,プラークの「性状」を評価できるわけです。 久保 先程,PROSPECT 試験の結果として,線維性被膜が薄いと冠動脈イベントリスク が上昇するというデータをお示しいただきました。私たちは,積極的な脂質低下が線維性 被膜を厚くすることを,光干渉断層法( OCT)を用いて検討した結果を最近発表しています。 大竹 脂質低下療法の有効性を評価するにあたり,最も適した画像診断は何だとお考えですか。 前原 そうですね。比較的短期間の有効性を評価するには,OCTを用いた線維性被膜厚の測定がベストだと思います。 ただし,観察者間のばらつきが大きくなりがちなので,その点は注意が必要です。しかし将来的には,NIRS-IVUSによる 線維性被膜の評価が可能になるでしょう。 久保 日本からも,脂質低下療法の有用性を画像診断を用いて評価する研究をもっと発信していきたいと思います。本 日は学会開催中のお忙しい中,ありがとうございました。 大竹 寛雅 先生 REFERENCES
1) Nissen SE, et al; REVERSAL Investigators. JAMA. 2004; 291(9): 1071-80. 2) Nissen SE, et al; ASTEROID Investigators. JAMA. 2006; 295(13): 1556-65.
3) Nissen SE, et al; ILLUSTRATE Investigators. N Engl J Med. 2007; 356(13): 1304-16. 4) Stone GW, et al; PROSPECT Investigators. N Engl J Med. 2011; 364(3): 226-35. 5) Renu Virmani R, et al. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2000; 20; 1262-75. 6) Madder RD, et al. Eur Heart J Cardiovasc Imaging. 2016; 17(4): 393-9. 7) Kini AS, et al. J Am Coll Cardiol. 2013; 62(1): 21-9.