研究ノート
期待と不安定性原理
篠 崎 敏 雄
序R
.
Fハロッドは,I
M.ケインズの弟子として,不確実な将来についての期待expe -ctationということを重要視している。とくに将来のその不確実さを重視している。ハ ロッドは 1963年の王立経済学会の会長講演の中で次のように言っている。「私は,な された最初の諸仮定のーっとして完全予知を含む論文を読む時には,先を読む気には ならないし,通常読まないという誘惑に屈するということを告白する。」ところがハ ロッドは,この重視している不確実な将来についての期待を,彼の経済動学の中心的 な原理である不安定性原理の中で,明示的には考慮、していないのである。 ところで, A センは,彼の編著である『成長経済学~ (1970)の中で,期待というこ とを明示的に取り入れた,不安定性原理を展開している。また, S..Mファザリは rケ インズ,ベグドおよび合理的期待革命う(別5)という論文で期待を明示的に考慮し, 合理的期待理論の分析方法でも,不安定性原理を確証することが出来ることについて 述べている。この小論では,これらの諸説を中心に,期待と不安定性原理の関係の問 題を考察してみたい。 第I節では,期待を明示的に考慮した,センの保証成長率概念について考察する。 第I
I
節では,期待成長率を考慮したセンによる不安定性原理について検討する。第I
I
I
節では,センやA アシマコプロスの見解を基礎に,ハロッドの不安定性原理の妥当性( 1) R F..Harrod,“Themes in Dynamic Theory, "Economic ]ournal, Sept, 1963, p 403
(2) A.Sen, Growth Economics, 1970, pp..10-14
( 3) S M Fazzari,“Keynes, Harrod, and the Rational Expectations Revolution", Journal
0
/
Post Keynesian E.ω抑 制ics,Fa,lJ1985, pp. 66-80.-168- 第59巻 第2号 302 について考察する。第
I
V
節では,期待とくに合理的期待を考慮した,S
.
.
M
ファザリに よるハロ y ドの成長モデルについて検討する。第V
節では,ハロッドの保証成長径路 に当たる合理的期待均衡の不安定性について考察する。そして第V
I
節では,結びとし て,センとファザリの説の比較や,両説のメリット,問題点,さらには不安定性原理 の発展の今後の展望などについて述べてみたいと思う。 I 期待を明示的に考慮した,センの保証成長率概念につし、て A セ ン は 成 長 経 済 学J(1970)とし、う彼の編集した書物の中で,ノ、ロッドの三つ の問題として,恒常的成長の可能性,不安定性原理,および保証成長率と自然成長率 との議離の問題について論じている。ここで取り上げるのは r期待」ということに重 点を置いた, センによる不安定性原理の展開である。最初に,期待を明示的に考慮し た,センによる保証成長率概念の定式化について考察しよう。 センはまず r固定された資本一産出比率Crと,固定された貯蓄一産出高比率 Sの モデルにおける恒常的成長の可能性」の問題について述べ,続いて,この恒常的成長 の径路の不安定性について論じる。この恒常的成長は保証成長であり, とくに正常保 証成長率での成長である。 センは,上記のモテ、ルすなわちノ、ロッド=ドーマー・モデルとハログドの投資関数 について,次のように論評している。「直前の小節で概略が示された単純なハロッド= ドーマー・モデルにおいては,投資は計蘭された貯蓄によって完全に決定され,将来 の期待に基づく独立の投資関数は存在しないと仮定される。これは,もちろんその接 近において, どちらかと言えば前ケインズ的で非計画的な経済では,あまり意味をな さないであろう。そして, このメカニズムの代わりに,ハロッドは「加速度因子」型 の投資関数を導入した。追加の有効需要の期待は,ハログド・モデルにおいては投資 の水準を決定し,そしてその投資は「乗数」を通じて,ケインズ的な仕方で有効需要 のある水準を生み出す。」続いてセンは,恒常的な保証成長の不安定性について,ハ ロッドの問題は次のようにこつあると言う。r(a)投資者の期待は何時実現されるであろ ( 4) Sen, Growth Economics, p.10ただし Cγ は原文では Cであるが,記号統ーのためCr とした。 (5 ) 印 αt,p.11.うか?。そして(b)もしそれらが実現されなければ何が起こるだろうか?oJ 次にセンは,独特の仕方でノ、ロッドの保証成長率を定式化する。まず一定の資本一産 出比率を Crとする。これは加速度係数として取扱い期の(事前的〉投資Lは,産 出高の期待された追加のフローの Cr倍に等しいとする。そして,この産出高の期待さ れた追加のフローは,産出高の期待された需要X,と前の期間の現実の産出高
Y
'
-
l
と の 聞 の 差 に 等 し い と 考 え る 。 そ し て , 乗 数 過 程 に よ っ て 年 の 現 実 の 需 要 (y,で表 される〉は,投資水準1,掛ける乗数(すなわち貯蓄率sの逆数〉に等しいのである。 これらのことを式で表せば,次の二式となる。 1,
= (X,
-
Y
'
-
l
)
C
r
( ) l 巴=÷L
(2) (1)式と(
2
)
式とから次のようになる。 1 T C一 民=7L=
ず
(X,
れ-1) y,
_
C
r(X
,
-
Y
'
-
l
¥
. X,
-
s ¥ X, )
(3) (3)式の右辺の括弧の中を,期待成長率theexpected rate of growthと呼びG
,で表 す。すなわち バ _ X,
-
Y
'
-
l
、
J
'
ー一一ー一ーーーー一一一一-X,
(
4
)
ここでX
パ主,前にも述べたように期における「産出高の期待された需要」である。 需要に一致するように供給(産出高〉が現れるとすると,これは期待された産出高で もある。ところでセンは,成長率の分母を t-1期の値でなく ,t期の値で表している ことに注意すべきである。このように,離散的形式の成長率の分母を比較されるこつ の期間のうち後の期間の値で表す形式は,ハログドも認めている。ところでこのよう にして, (3)式は次のように表すことが出来る。 (6) 仰 cit,p..11 (7) センはCという記号を使っているが,記号統一のためGとした。 (8) センはふという記号を使っているが,記号統ーのためe
,とした。( 9) Cf R.F.. Hanod,“N otes on Trade Cyc1e Theory
ぺ
EωnomicJoumal, June, 1951, pp.268-9
-170-Y
t _C
r
戸支
-
-
-
s
lJt 第59巻 第2号 304 (5) ここでセンは次のように言っている。r(5)から,期待された成長率G
t
がs/C
rに等し い場合,しかもその場合にのみ期待は実現される,すなわちX
けまれに等しいであろ うということが明らかである。」しかし ,Y
,= X
,とδ
,=S
/
C
r
とは同時に成立する のであって ,y
,がx
,に等しい場合,そしてその場合にのみ G,がs
/
,
c
に等しいと言 うことも出来ょう。x
,は t期の「産出高の期待された需要」である。現実の需要もそ れに等しいだけ現れて,現実の産出高五がそれに一致したとする。その時には,期待 された成長率 G,は現実の成長率 G,に一致するであろう。そしてその時,期待成長率ι
に等しい現実成長家 G,が,S
/
C
r
に等しくなると言うことも出来るのである。 また,以上のようなことが言えるのは,期待成長率G
,の特殊な定義にも依存してい る。たとえば,もし期待成長率をX
,-Y
'
-
l
/
Y
'
-
l
と定義したとすると,以上で述べら れていたようなことは全く言えない。ここに, センによる期待成長率の定義の巧妙さ と限界があると思う。 さらにセンは, (5)式との関連で,保証成長率の概念について述べている。「もし期待 (2) されれば実現されるところの成長率S
/
C
r
をノ、ログドは「保証」成長率と呼んだ。」こ のことについて少し考えてみよう。 現実の貯蓄率Sが望まれる貯蓄率Sdに等しいとL寸 前 提 の も と に,S/,
c
はハロッ ドの保証成長率に等しし、。ところでセンは,このS
/
C
r
のことを「もし期待されれば実 現される」成長率と言っている。これは前述のように,δ
,=S
/
C
r
であればy
,=x
, となり,したがってy
,- y
,トjY
,=S
/
C
r
となるということを意味していると解され る。しかし前に述べたように,先ず「産出高の期待された需要J X,が実際に現れ,そ れに一致するように現実の産出高れが生じ,そこで(5)式から,期待成長率δ
パこ等し くなった現実成長率G
,がS
/
C
r
に等しくなるということである。そして,このS
/
C
r
に等しいG
,を保証成長率と考えるのである。この考え方は結局センの説明と大差な いのかも知れないが,ハロッドの考え方により忠実であると思われる。 (10)原文では4である。 (11) Sen, Growth Economics, p.. 12. (12) 命 cit,p.12センによるハロッド・モデルは,基本的には(1)式と
(
2
)
式によって表されている。(I) 式は加速度原理を表しており, (2)式は乗数理論を表している。そしてその結合によっ て(3)式が成り立っている。(1)式においてL
は,加速度原理に基づく事前的投資であり, もし Yt=Xtとなれば,現実の産出高の増加によって正当化される「正当化された投 資」となる。すなわち,次式を満たす投資L
は,正当化された投資である。 1t = (Yt-Yt-1)Cγ ( 6 ) (1)式が満たされればこれは投資について,いわば事前的な意味での均衡状態にある。 また, (6)式が満たされていれば,投資について事後的な意味で均衡状態にあるという ことが出来る。後者の均衡はハロッド閤有のものである。 乗数理論を表す(2)式は,生産物市場の需給一致の均衡を意味している。 (3)式は, (1) 式と(2)式とから導かれ,その意味では独立な式ではなし、。 ここでもし ,Yt=Xtが実現すると ,(3)式から次のようになる。 y,
-
Y'-I ームヲすとム=
S/Cr (7) そして,この式を満たす左辺の現実成長率が保証成長率なのである。このようにして, 保 証 成 長 率 が 実 現 し て い る 状 態 に お い て は , 現 実 の 投 資1tと,事前的投資 (Xt - Yト,l)Cγ と,正当化された投資 (Yt -Yt-1 )Crとが一致している。また,保証成長率 が実現していない状態では,こうはならない。このことは,ノ、ロッドの次のような言 葉と符号する。「保証された発展の進路の上を除いて,正当化された投資,事前的投資 および事後的投資は,凡て三っとも異なる値を持つ:」 II 期待成長率を考慮した不安定性原理 次にセンは,ハロッドの第2の問題である「恒常的成長径路の不安定性」すなわち, 保証成長の不安定性の問題を取り扱う。その場合彼は,この問題を現実成長率,期待 (13) L L.パシネッティは,加速度原理を一般的に次のように表している。 1=φ(ムyE) ここでムy
E
は,ある期間における所得(=産出高〉の期待された変化である。これを具 体的に1=
CrムyEとすれば,この式と同じになる。c
f
L. L Pasinetti, Growth and Income Distribution-一一Essaysin Eco招omicTheory, 1974, p..49 (宮崎耕一訳,経済成長と所得分配, 55ページ)-172- 第 59巻 第 2号 306 成長率および保証成長率の三種の成長率の相互関係で説明している。この場合,現実 成長率は
G
,=
y
,-Y
'
-
l
/
Y
'
であり,期待成長率はδ=
X
,-Y
'
-
l
/
X
,であり,保証 成長率はs
/
C
r
である。 センはまず,現実成長率G
,と期待成長率δ
t
との関係を表す式を示す。この式の導 出について説明してみよう。まず期待成長率の定義式を変形する。 月X'-Y'-l
唱Y
'
-
l
h一 一 -
X,
X,
. ー (ヲナ
=
1-G,
ムY
'
-
l
= X,(l-G,) この式から, (5)式を考慮すると次のようになる。Y
'
-
l
_
X,
{, r; ¥ _ 5 {, r; ¥ _ ( 1-G,
¥
s
-ι=-L(l-G)=」
7(1-G)=l一一一)一
y,y
, 'Ace
,¥ e
, / Cr 1-~';'ー唱/とふい
y,
ー ム1
δ
,
)
C
r
Y
'
-
Y
'
-
l
_
~ ,/
1
一行p¥s
ー」一-=-..iニL三 G,
= 1-( 一一一~トー ~,¥ e
,
/
C
r
(8) この(8)式について,センは次のように言う。「もしδ
t
がs
/
c
に等しければ,そしてそ の場合にのみ G,がG,に等しいということは明らかである。」これは自明のことで ある。 センはさらに,このことから,次の関係が妥当することについて述べている。 A 、 -G,遣で;に従って G,這G,(
9
)
このことについて考えてみよう。まず,δ
,=S
/
C
r
の場合G
,=
δ
g
となることは,前 述のように,(
8
)
式から自明である。 次に,e
,>
s
.
/Cγの場合について考えてみよう。 (8)式から G,
-lG
t
一1=一一一一一e
,
C
r
1-G,
= (l-e
,
)
ず
(15) センはg,という記号を使っているが,記号統ーのためG,とした。 (16) Sen, Growth Economics, p 12 (17)匂 at,p 12307 期待と不安定性原理
l-G
,
_
s
/
C
r
l-G
,
G
,
したがって,e
,>
S
/
C
r
のときl-G
,<
l-e
,¥-G
,
<
-G
,
人G,
>
G,
またδ
t
ぐs
/
C
r
の場合はその逆となる。すなわち Gく
,
G,
-173-センはこのことに基づいて,保証成長の不安定性について,次のように述べている。 「もし投資者が保証成長率S
/
C
r
よりも大きいものを予期するなら,その時には需要 の現実成長率は高い期待成長率さえも超過するであろう。それゆえ,彼らは大きすぎ るものを期待したと感じる代わりに,小さすぎるものを期待したと感じそうである。 悶じように, もし彼らが保証成長率よりも低い成長率を予期するなら,その時には現 実成長率は期待成長率にさえ足りないであろうし,投資者は小さすぎるものよりも大 きすぎるものを期待したと決定するであろう。市場はこのようにして,投資者に対し て逆の信号を与えるように思われる。そして,このことはハロットλの問題の源泉なの である。」センは,投資者の期待に基づく投資の行動が,産出物への需要とその成長率 を決め,それが現実の成長率を決めると考えているのである。そしてたとえば,保証 成長率を越える成長率を投資者が期待すれば,現実成長率はさらにそれを上回るもの となるということである。また,期待成長率が保証成長率を下回れば,現実成長率は さらにそれを下回ることになるのである。これは,センによる,期待ということに力 点、を置いた,保証成長の不安定性の一つの基礎の解釈である。 続いてセンは,ここに一つの仮定を加え,彼の不安定性のそデ、ルを作り上げる。そ の仮定は次のとおりである。「この期聞における成長の期待は,前の期間の成長がそれ ぞれ十分以上に満たされるかそれとも不十分にしか満たされないかに依存して,前の 期聞の期待から高められたり低められたりする。」この仮定は次の式で示される。G
,
=G
t-l+A(G'-l-G'-l)
, A>
0
(20) ( 10) センは, (8)式とこの側式との結合は,大いに不安定な体系であると言っている。この (18) 匂 cit,p.12 (9) 印 cil,p..13 (20) 印α
t,p.13-174- 第59巻 第2号 308 問題について考えてみよう。 ここでまず,
(
8
)
式と(10
)
式とを,改めて次に書いてみよう。その場合,説明の都合上, (10)式は期聞を 1期だけ後にずらした形で表す。G
,=ト(守廿
(
8
)
e'+1=δ
,+A(G,δ
,), A>
0
1 ( AHV ) まず,たとえばδ
,=s
.
/C,であったとすると(8)式から G,= G,となり, (10)式からδ'+1δt
となる。すなわち ,t
期において期待成長率が保証成長率にたまたま一致し て い れ ば 期 の 現 実 成 長 率 と 期 待 成 長 率 は 一 致 し , そ の た め,t+1
期の期待成長率 は t期のものと変わらないということである。そして当然,現実成長率も変わらない。 ところが,e
,>
s
/
C
γであれば(8)式から G,>
e
,となり,その結果(10')式から e'+1>
e
, と な る 。 す な わ ち 期 に 期 待 成 長 率 が 保 証 成 長 率 よ り 大 き け れ ば,t
期の現実成 長率は期待成長率より大きく ,t+1
期の期待成長率は t期のものよりさらに大きくな る。その場合には, (8)式から分かるようにG'+1>
G'+1であるので,現実成長率は期 待成長率以上に大きくなる。逆にδ
t
くS
/
C
r
であれば,(8)式からG
,<
δ
t
となり,そ の結果 (10)式からδ
川 <e
,となる。すなわち,t
期に期待成長率が保証成長率より小 さ け れ ば 期 の 現 実 成 長 率 は 期 待 成 長 率 よ り 小 さ く 十 1期の期待成長率は t期の ものよりさらに小さくなる。その場合, (8)式から分かるように G'+1<
G'+1であるの で,現実成長率は期待成長率よりさらに小さくなる。 以上のことをまとめて言えば次のようになる。 (8)式と (10)式とから成る体系におい て,最初たまたま期待成長率が保証成長率に一致しておれば,現実成長率もその期待 成長率に一致しており,現実成長率も期待成長率も保証成長率に一致したままその値 を維持する。ところが,最初に期待成長率が保証成長率に対して上方または下方に議 離しておれば,期待成長率はますますその議離を大きくして行くように変化する。そ してその場合には, (8)式から分かるように,現実成長率は期待成長率以上に,保証成 長率からの議離を大きくして行く。このようにして,期待成長率についても現実成長 率についても,保証成長率の均衡は非常に不安定であることが示される。 次にセンは,このような体系の説明における問題として,現実の需要が期待需要を 越える時,モデルの補足が必要で、あるということについて,次のように述べている。309 期待と不安定性原理 -175-「もし現実の需要
y
,が期待需要X
,に足りないならば,能力は不完全利用されている であろうから,あまり問題はないであろう。しかしれが,それについて丁度十分な能 力が創り出されたその期待需要を超過するならば,いかにしてこの現実の需要は対処 されるだろうか?J
センはここで,一つの考え方として,現存する在庫品のはき出し による対処の仮定について述べている。しかしその場合にも,現実需要成長率の保証 成長率からの累積的な上方議離が続き,在庫品がなくなった時にはどうなるかという 問題が生じる。そこで,モテ、ルの補足が必要なのである。 センは,現実需要が期待需要を超過する場合には,価格水準の予期せざる上昇によっ て対処されるという代替的な仮定を行い,次のように述べる。「そこで,価格水準は成 長期待が保証されなければ予期されたものとは異なるだろうということを除けば,期 待された販売は常に,結局は実現される。そこで司ハロッドのモテ、ルは,累積的なイン プレーションと累積的なデフレーションとの聞のナイフの刃のバランスの一つである だろう。そして調整方程式は,諸価格がそれぞれ予期されたものより小さいか大きい かに反応して,成長期待を高めたり低めたりするものとして説明されねばならないだ ろう。」ノ、ログドの不安定性原理は数量分析であり,価格不変とし、う暗黙の仮定の下に 展開されている。ところが,センが指摘しているような,期待成長率と現実成長率が 保証成長率から上方に議離した場合,現実の需要が供給の能力を超えて,物価は上昇 せ~.るを得ないという問題が生じる。そこで,センは,ハロッドのそテ、ルの仮定をゆ るめて物価変動を認め,物価変動を考慮、した不安定性原理を示唆するのである。これ はハロッドの考え方と矛盾するものではなく,ハロッドの分析を第 1次接近として, さらにそれを現実に近づけたものと考えられる。 III ハログドの不安定性原理の妥当性についての評価 次に,ハロッドの不安定性原理の妥当性についての,セン等の見解について考察し てみよう。 センは r期待」に重点をP置いた不安定性原理の説明に続いて,ハロッドの不安定性 原理の発展について,次のように述べている。「ノ、ロッドの幾分不完全なモデルが完全 (21) 匂 cit,p 13 (22) 仰 cit,p.14-176ー 第59巻 第2号 310 にされ得る,他の多くの諸方法が存在する。あるものは不安定性原理を確証するが, 一方他のものはそれを除去するか,ある現実的な状況を条件とせしめる。」もちろんノ、 ロッドの不安定性原理は,高度に単純化されたそデノレで、の第一次接近である。次の段 階としては,仮定を緩めてモデルをより精激化し,より現実的な分析にする必要があ る。センはこのことを,幾分不完全なモデルを完全にする,という風に表現している。 そしてその方法の一つが, セン自身が行ったように i期待」としづ要素を分析に明示 的に導入することである。たしかにそのことは,不安定性原理の発展にとって一つの 重要な貢献であると考えられる。また, センの言っているように,不安定性原理に物 価変動を考慮に入れることも一つの方法である。これら以外にも,ハログドのモテソレ を精激化する方法がいろいろあるが,これらはセンの言うように,三つに分類するこ とが出来ると思われる。すなわち,不安定性原理を確証するものと,不安定性原理を 否定するものと,そして,現実的な条件次第で不安定性原理が妥当したりしなかった りするとするものである。「期待」を重視する前述のセンのモデ‘ルは,不安定性原理を 確証する部類に入ると考えられる。 ところでセンは,最後に,ハロッドの不安定性原理について,次のように論評する。 「一般には次のように言うことが公正で、あるだろう。すなわち,ハロッドの不安定性 分析は,話をあまり遠くへやることなく,均衡の近くの局所的問題を強調しすぎ,そ して含まれている他の諸要素についての現実的な諸仮定を伴つての彼のモデルの拡張 は,強打blowを和らげる傾向がある。」たしかに,ハロッドが取り扱っている不安定 性は,動学的均衡の局所的不安定性であって,大域的な意味での不安定性ではない。 このことはノ、ロッドも認めている。しかし,景気循環の説明で,そのことのために特 に困るということは無いのではないかと思う。また,物価変動を考慮に入れるという ような,ハロッドのモデルの拡張は,不安定性の鋭さを和らげるものと考えられる。 ハロッド自身,不安定性原理の不安定性の鋭さについては,初期の頃と比べて見解が 徐々に変り,後にはかなり緩かな不安定性を主張するようになっている。 (23)
c
沙 cit,p.14 (24) 印 cit,p.. l4(25) Cf. R F Harrod,“Harrod after Twenty-One Years一一一A Comment
ヘ
Economic Journal, Sep,.t1970, pp, 740-1;Economic pynamics, 1973, pp..32-3(宮 崎 義 一 訳 ハ要するにセンは,基本的にはノ、ログドの不安定性原理を否定するのではない。ただ, ハロッドが単純化のために捨象したいろいろな現実的な条件を考慮してモデルを精級 化すると,モデルによって示される不安定性の鋭さは鈍くなるということである。し かし,ハログド自身は,不安定性原理の鋭い不安定性を示すものとしての「ナイフの 刃」という表現に異議を唱えていなくらいであるので,この点について,センとハログ ドは,基本的には意見が一致していると言える。 ところで,センの『成長経済学J(1970)が出版されてから 15年後,ハロッドが亡く なってから7年後の最近に, Aアシマコプロスは rハロッドについてのハロ y ド 「恒常的成長の進路」の発記(附〉という論文において,ベッドの経済動学を振 り返り,論評している。その中で彼は,ハロッドのモデノレや,それに基づく不安定性 原理について次のように批判をしている。 まず,ハロッドの動学モテ、ルについては,次のように述べる。「ノ、ロッドは,経済動 学を変化率を取扱うものとして定義した。彼のモテfノレの諸変数は,産出高や投資およ び貯蓄の値よりもむしろ産出高の成長率であった。変化率へのこの制限は,理論の表 現を単純化しそれに大きな一般性を与えたようであるが,しかし大きな代価を支払っ て購入したのである。初期諸条件,最近の歴史,企業家達の態度と経験,産業の組織, 労働との関係についての言及がなかった。そしてこれらは,成長の話または趨勢線を めぐる循環的な運動に対して,信頼性を与えるのに有用であったかも知れないのであ ご」ア‘ンマコフ。ロスのこの言葉は,ベッドの動学モデルが,あまりにも単純化をし 過ぎたとしての批判であると思う。しかし,モデ、ルには必ず単純化が付きものである。 問題は,何を単純化で残じ,何を捨象するかということである。ハロッドの動学モデ ルにおいて,もっとも本質的で重要な要素が残されていさえすれば,単純化そのもの は問題ではない。まず,もっとも単純なモデルで、の分析を第一次接近として,次の段 of‘a Line of Steady Gvowth''', Hi抑 η
0
/
Political Econortty, 17: 4, Winter, 1985, pp 630-2(26) Harrod,'‘Harrod after Twenty-One Years-一一A Comment", pp. 740-1;Economic Dynamics, pp.. 32-3(邦訳, 49-51ページ).
(27) A Asimakopulos,“Harrod on Harrod: the Evolution of‘a Line of Steady Grow-thγ, pp..630-2
-178- 第59巻 第2号 312 階でより現実的な分析をして行けばよいと思われる。 次にアシマコプロスは,不安定性原理について論評し,批判も加えている。すなわ ち r現実成長率と保証成長率との聞の差によってスタートさせられる不安定性原理」 について次のように述べる。「この原理は,そのような議離に対する企業家の反応につ いての暗黙の仮定に依存している。ハロッドは,企業家達が彼らの行動を現実投資と 「正当化された」投資との聞の差異のみならず r固有の方法J,r将来についての不確 実性」および「保守的傾向の程度」にも基礎を置いていることを,認めねばならなかっ た。不安定性の程度はそこで r経験的な研究」についての問題となり,一方それの存 在と重要性は,個人的な見解の問題となる。」このアシマコプロスの言葉の中で,不安 定性の程度の問題は別として,不安定性原理の「存在と重要性は,個人的な見解の問 題」というのは,少し言い過ぎであると思われる。
I
V
ハロッドの成長モデルと合理的期待 最近,SM
引ファザ、リは rケインズ,ハログドおよび、合理的期待革命J(1985)とい う論文において,ハロッドの不安定性原理と合理的期待分折との関係について論じ, 独自の新しい形の不安定性原理を展開している。ととろで,ハロッドおよびその追随 者も合理的期待学派も,期待形成の役割の重要性を強調する点では共通である。とこ ろが,期待が市場経済の均衡の安定性に与える影響については反対の結論を持ってい る。すなわち期待を考慮に入れた場合,ハログド等は成長均衡の不安定性を主張し, 合理的期待学派は逆に均衡の安定性を主張するのである。ところがファザりは,行為 者が合理的に期待をすると仮定しても,不安定性原理はなお妥当することを示そうと するのである。 ファザリはまず rケインズ的伝統と両立し,ハログド(1939)によって展開された 成長モデ、ルに類似した,需要期待と数量調節のモデ、ル」を提出する。続いて,ハロッ ドの保証成長率に当る「合理的期待均衡」‘rationalexpectations equilibrium'(REE) (29) 印 cit,p.633. (30) 命 じil,p川634 (31) S.M..Fazzari,“Keynes, Harrod, and the Rational Expectations Revolution", Jounal0
/
Post Keynsian Economiω, Fall, 1985, pp 66-80 (32) 匂 cit,p 68313 期待と不安定性原理 -179-について説明する。そしてさらに,この「合理的期待均衡」についての不安定性が生 じるメカニズムについて論じている。 ファザリのモデ、ルで、使用される主要な記号は次の通りである。
y
"
,t
期の総産出高 C,
…
"
“
t期の消費L
…t
期の投資D
, … 引t期の総需要 E,D'+lt
期の始めに利用可能な情報を使つての ,t+
1期の需要についての期 待Z
, 期の始めに利用可能な情報 また, これらを使つての連立方程式は次のように表される。 Y'+l=
E,
D'+l E,D'+l= /,(Z,)D
, =C
,+I
, C, = (1-s)D, 1,
=νY'+l (11) ( 12) ( 13) ( 14) 側 ここで(11)式は,企業は売れると期待しただけ生産をするということを表している。 産出高水準の決定は,生産には時聞がかかるので,需要の実現に先んじて行われると 考えるのである。 (12)式は,ファザリがとくに重視しているもので,将来の需要についての期待は現在 の需要に依存するとL、う期待形成過程を示すものである。ファザりはとくに次のよう に言う。「期待形成関数(f,)は時間とともに変化するかも知れないし,それゆえ予測の ノレールの形態は,新情報が作り出され学習が生ずるにつれて変化し得るということに 注目せよ。 この特定化は,合理的期待モデルとしばしば結びつけられる一つの方 法を,ケインズ的動学モデルに取り入れるものである。行為者は,新しい経済情報に 反臆して変化する期待形成モデルを使用すると仮定され宗」また情報集合Z,は,t
期 (33) 原文ではX,となっていたが,記号統一のためれとした。 (34) 印刷 a,.tp,,69 (35) 匂α
t,P 69-180ー 第59巻 第2号 314 の始めに利用可能な関連のあるいかなる情報をも含むとしている。そこで,すでに実 現した需要(DトI,
D
ト2,……)は含むが,D
,は含まない。 ( 13)式は「所得恒等式」と呼ばれ,D, Vit
期の所得に等しいとしている。 (14)式は消費 関数である。 (1日式については次のように述べる。「方程式(15)は,一期の生産ラグを仮定する,固定 係数,流動資本テクノロジーに対する投資を特定化する。この接近は,現在の投資を 将来の産出高期待に結びつけ広」すなわち, この投資は,固定係数を持つ流動資本 についての投資であり,それを誘発する産出高との聞に一期の時の遅れがあるという ことである。ここで注意しなければならないのは,資本は流動資本のみを仮定してい るということである。そこでL
はt+1
期に y,刊の生産のために使用される唯一の資 本であり,またt+
1期 の 聞 に れ+1の生産のために使用し尽される。したがって, ν= It
!
Y,+1L
t:.,一期のラグを伴った資本係数なのである。こう考えると,このファザリの んは,投資と言うよりも t期に準備されるt+1
期の流動資本の量とも言うべきもの である。ところで ,y,+! は(11)式から分かるように,t+1
期の需要についての t期の期 待E,D'+1に等しい。そこで, (15)式は,現在の投資を将来の産出高期待に結びつけると 言えるのである。 以上説明した(11)式-(1日式のモデルは,ハロッドの成長モデルと類似しているが,若 干の重要な相違点もある。この点についてファザリは,まず方程式(11)と闘が,総産出 高と需要を決定するに当たり,期待の役割に特殊な形態を与えていることについて述 べる。ハロ y ドの成長モデ、ルにおいては,期待の役割について明示的な説明を行って いない。また,ファザリのモデ、ルに現れている加速度因子は(15)式の νであるが,その 場合のL
は,上で述べたように流動資本のみから成っており ,t+1
期における生産の ために使い尽されてしまう。ファザリによればこれは単純化であり,分析の諸結果に 本質的な影響を与えないと述べている。しかし,前にも述べたように,このL
は,厳 密に言えば流動資本の総量であり,投資とは少し違うと考えられる。 次にファザリは,ハロッドの保証成長径路に当る,合理的期待均衡(REE)の概念に ついて説明する。 (36) 原文では(5). (37) 仰 cit,p..70315 期待と不安定性原理 -181-ファザりは合理的期待接近と合理的期待均衡の概念との関係について,次のように 述べている。「合理的期待の接近は,巧妙で現在人気のある答えを提供する。それは行 為者の行為の理論的概念を,行為者の期待を合理的期待均衡
(
R
E
E
)
に限ることによっ て,制限する。その合理的期待均衡とは,行為者が経済変数の後の観察によって捨て ないだろうところの信念を持つ,経済の状態である。REE
にある経済にとって,行為 者は経験からはより以上のものを学びはしなし、。というのは,経験は常に彼らが知っ ているものに一致するからである。新しい情報は期待を確証するのである。」この合理 的期待均衡(
R
E
E
)
が,ハログドの保証成長径路に当たる均衡概念であり,次にその概 念について詳しい説明をしようとするのである。 そこで,前に説明した(
1
1
)
式-(日)式からなるモデルによって,恒常状態s
t
e
a
d
y
-
s
t
a
t
e
における期待成長率について述べる。まず,需要の期待成長率Egtを次の方程式で定 義する。 EtDt+l = (1+
Egt)2 Dt-1。
。
ここでEgtは,t-1期と t+1期 の 間 (2
期間分の差がある)の需要の期待成長率を, 一期間あたりの率で表したものである。そこで 2期聞にわたる成長率の平均の値と なっている。また他方で,(
1
1
)
, (1)
3
-(1)
5
の各式から,次式が成立する。 Dt=It+Ct=νY
t+l+(1-s)Dt=νEtDt+l+
(1-s )Dt Dt=ν'EtDt+l+Dt-sDt ¥sDt=ν'EtDt+l したがって(1日式から sDt=ν(1+Egt)2Dt-lま
7
=
(
山
)(1+
Egt)2 (40)m
ここで ,gtを,t期と t-1期との聞に実際に生じる需要の成長率Dt-Dト l/Dt-lと定 義すると,次式が得られる。 (38) 印 cit,pp..70-1 (39) これは次のようにして導かれる。 E'-lD,=
(1+
Eg,)Dト1 . E,D'+l=
(1+
Eg, )E'-lD,=
(1+
Eg,)2D'-l (40) 原文では, (6)式に当る。-182ー 第59巻 第2号 316 l+g
,
=(ν/s
)(1+
Eg,
)2 (18) ところで,恒常状態steady-stateにおいては,期待は実現されるに違いない。そこ で, (17)式の恒常状態解,したがって(18)式の恒常状態解は,1+g,=1+Eg,とし、う条件を 付けることによって得られる。それゆえ,恒常状態需要成長率をgによって示し ,Eg, とめとがそれに等しいとすると, (18)式から次式が得られる。 1+g=(
ν/s )(1+g
)
2
...1=(ν{s)(1+
g) “g=(s/
ν)-1 (19) この式についてファザリは,脚注で次のように言っている。「プラスの恒常状態を維持 する経済にとって,産出高のうち貯蓄される比率は,資本ストグクを置換えるために 必要とされる産出高の比率を超過しなければならない。このことはs
がν
を超過しな ければならないということを意味する。そこで,gは加速度因子について流動資本に 特化した,ハロッドの保証成長率に等しいということを示すことが出来る。」このこと について少し考えてみよう。 ( 1め式から直ちに分かることは,gが正であるためには,s
/
ν>
1でなければならない ということである。ところで sは産出高(=所得〉のうち貯蓄される割合である。ま た νは,前述のように,ある期間の産出高1単位あたりについて必要な,流動資本の 置換え分の比率である。 (1的式を変形すると次のようになる。。
。
ここでs一νは,産出高1単位当たりの貯蓄から産出高1単位当たりの流動資本の置 換え分をヲ│いたものである。したがって側式の右辺の分子は,産出高 1単位あたりの 純貯蓄とも言うべきものである。それゆえこれは,ハログドの保証成長率を含む基本 方程式の貯蓄率に当たるものである。そこで, (20)式の右辺の分母のνが,資本を流動資 本のみとした場合の必要資本係数に当たるものとすると ,g
はハロッドの保証成長率 に当たると言うことは出来ょう。しかし,ファザリが資本を流動資本のみに限ってい るところに,やはり一般性の点で問題が残るのではないかと考えられる。 いずれにせよ,恒常状態における需要成長率は,ファザリの言う合理的期待均衡を (41)印c
i
t
,p.71, n.5317 期待と不安定性原理 -183-表すのである。すなわち彼は次のように言う。「このモデルに対する恒常状態解gは, 上で論じられた意味においてREEを表す。もし期待がgと両立するなら,経済の後の 作用は,諸企業に対しそれらの信念が正しいということを示すであろうし,期待が変 化する理由は存在しないでhあろう。」 ところで,この合理的期待均衡が安定であるかどうかについては, ファザリは不安 定であるとしている。それを次に説明しよう。 V 合理的期待均衡(REE)の不安定性 ファザリは,合理的期待接近がよく当てはまるそデルと当てはまらないモデルとを 区別する。合理的期待接近が最もしばしば当てはまるモデルとしては,実際の結果が 行為者の期待とは無関係なモデルを考えている。その例として,天候についての期待 や r政策中立性」宅policyneutrality'の結果を証明するために使用される新古典派の マクロ経済モデルを挙げる。後者の場合,行為者は,既知の形態を持ち時聞を通じて 固定され続けるところの政策ルールのパラメータについて,学習すると仮定されてい る。ファザりは rこれらの場合には,期待は合理的学習過程によって, REEに向って 押し動かされるであろう」と言う。すなわち,このような新古典派モデルで'f,l:: REE は安定なのである。 これに対して,ハロッドのモデ、ルでは,実際の結果が行為者の期待に関係があると して次のように言う。「……ハロッドの成長モデ、ルの説明においては,事柄はそれほど 単純ではない。総需要の水準は,生産が生じる前の需要について持たれた期待に依存 (44) する。」そこで, ハロッドのモデルでJ土, REEは安定ではないのである。 ここでファザリは,このことから, REEへの収数に関して二つの関連した問題があ るとしている。「第一に,行為者は学習し,実現した結果は期待に依存するから,予測 されている不確実な過程は,おそらく定常的ではあり得ない。J r第二に,REEが存在 すると仮定せよ。もし体系がREEから離れていれば、いかなる行為者の期待形成過程 (42) 印 cit,p..72 (43) ゆ cit,p..72 (44) 印 ciL,p 72 (45) 印 cit,p..73
184- 第59巻 第2号 318 も,他の行為者の期待を考慮しなければならない。というのは実際の結果は他の者の 期待に依存するであろうから。」これら二つのことは,実際の結果が諸行為者の期待に 依存するということと結びついている。 そこで,これらの事柄と,ハロ y ドの成長モデルで、の学習および
REE
の分析との関 係について述べる。そのために,前に説明した次の式に帰る。 1+g,
= (ν{
s
)(1+Eg,
)2 (1)8 この方程式は,現在の現実の需要成長が,需要成長についての以前の期待に依存して いることを示している。 ここでファザリは r恒常状態備に対する需要の期待された拡張の比率」として定義 されるのを導入する。すなわちe
,
,-
=
=
1
土盈
L 1+g
また(18)式より次のようになる。ただし ,g,=
Eg,=
gの場合を考える。 1+g = (ν/s)(1+
g)2 . ..1= (ν';5)(1+g) 人1+g = 5/ν ( 1曲式と側式とから次式が得られる。 1+Eg,
= (1+g)の =(5/ν)e,
( 19)。
。
(48)。
1) ( 1骨式または白1)式から分るように,もしe
,>
1ならば,期待成長率Eg,は,恒常状態値 gを超過する。また, め く 1ならば,期待成長率は恒常状態値より小さい。 次に, (18)式と(21)式とから次の関係が得られる。 1 +g,
=
(ν{
s
)(1+Eg,
)2=
(ν.; s )(.s/ν)'e,z=
(s/ν)e,z (22) この式から,もし期待需要成長率が恒常状態成長率を超過すれば,すなわちEg,>
g し た が っ て の >1なら,次のようになる。 1+g, = (.$/ν)e2,>
(s/ν)e, = 1+Eg, (23) 逆に,もし期待需要成長率が恒常状態成長率より小さく ,Eg,<g
で、の<1なら,次の (46) 仰 cit,p“73 (47) ファザリは, これをケインズ=ハロッド・モデノレと呼んでいる。ハロッドの成長モデノレ の基礎には,ケインズ的な考え方があると怒ってのことであろう。 (48) 仰 at,p..743
1
9
期待と不安定性原理 -185-ようになる。 l+g, = (s/ν)e2,く (s/ν )e,= l+Eg, (24) ここでファザリは,このところを次のようにまとめる。「このようにして,もし t期の 始めにおいてEg,>
gであれば,経済によって生み出される次の情報(g,= D,/Dト 1 -1)は,t
期の始めに形成される需要成長の期待合超過するであろう。それゆえEg,>
g
はg,>
E
.
めを意味する。同様にもしEg,<
gなら ,g,<
Eg,である。決定的な問 題は,この新しい情報が取り入れられた時,いかにして期待が修正されるかというこ とである。」 ファザリはそこで,恒常状態の外から出発して,期待の修正がgへ向かつての収数, したがって合理的期待均衡REE
へ向つての収数をもたらす場合と,逆にgから議離 して行く場合について論じている。 まず,gへ向って収数が生ずる場合の条件について次のように言う。「すなわち,恒 常状態率以上のある最初の期待成長率から恒常状態への収数は,収数径路に沿うある ところで,次のような tが存在することを必要とする。 g,>
Eg, =キEg'+lく Eg, (25a) 全く対称的な議論は,次のことを示す。もし期待成長が最初に恒常状態以下であれば, 収数は次のようなある tが存在することを必要とする。 g,<
Eg, =争Eg'+l>
Eg, (50) (25 b)J これら(25a)と(25b)のニ式においては,期待に間違い errorがあれば,期待の修正が 行われるが,その修正は間違いとは逆の方向である。たとえば(25a)式で,もし最近の 期待Eg,が新しい情報g,より低すぎたならば,次の期間の期待Eg'+lは,さらに低く あるべきだということである。 このようなことが実際に生じる場合について,ファザリは次のように言う。「もし体 系の行為者が均衡追求的equilibrium-但 :ekingであれば,この種の行為は合理的であ るかも知れない。そこで,現実の成長が期待成長を超過するという観察は,期待成長 が恒常状態以上であったとL、う事実の信号であるだろう。均衡追求的企業は,そこで 需要期待を減ずるであろう。」 しかしファザリは,均衡成長よりもむしろ現実の需要 (49)o
p
cil, pp. 74-5 (50) 印 cil,p.. 75.. (25a), (25b)式は,原文では(7a),(7b)である。 (51)匂 cit,p..75186- 第59巻 第2号 320 成長を予測することを求める企業が, このような行為をとるためには,非常に制限的 な,情報についての諸仮定が必要であるとしている。そして,次のように述べる。「こ のことは,この単純な成長モデルにおいて,
REE
への収数を引起すためには,重要な 制約が必要であるということを示す。」 そこでファザリは, (25 a)式や (25b)式で表わされる動学的径路に対し,代替的な次 のような動学的径路を提案する。「企業は需要の歴史的な径路を観察し,そして体系に よってもたらされたいかなる新情報をも取り入れるよう,各期間においてその期待を 調整すると想定せよ。これらの情況のもとにおいて,企業はその期待をもっとも最近 の間違いerrorの方向に調整すると仮定せよ。このことは次のように表現することが 出来る。 g,>
Eg, =争Eg'+l>
Eg, g,く Eg, =キEg'+lくEg, (26a) (26 b) 方程式(26a)と(26b)は,行為者が,実現した諸結果の径路を観察することから体系の 構造を見分けるような,分権化されたdecentralized経済と両立する仕方で,期待形成 (53) を制限する。」このところが,ファザリの考え方の肝心なところだと思う。 それでは,この代替的動学径路を仮定した場合,REE
への収数は生すーるであろうか。 ファザリは次のように言う。「しかしこの種の行為は,企業をしてREE
の方向へ導か ないであろう。すなわち,それらは均衡を見出す傾向がないであろう。行為のこの特 定化は,REE
からの単調な議離を生じる。というのは,Eg+1
>
g =
今g'+l> Eg'+l=
争Eg'+2> Eg'+l=
キ… (27a) (54) Eg+l<
g =
今g'+l<
Eg'+l=
中 島'+2<
Eg'+l=
ヰ … (27b)J このようにして,最初体系がREE
から話離している場合,REE
への収数は生じない のである。 またファザリは,ハロッドの成長モデノレにおいて,不安定性を強める事情として, 次のことを述べている。「さらに,新しい情報を基礎として期待と期待モデ、ルとを修正 することは,REE
への収数を容易にするよりはむしろ,不安定性に寄与しそれを強め (52) 印 dt,p..76 (53) C砂 ci,.lp.n
(26a), (26b)式は,原文で‘は(8a),(8b)である。 (54) 匂 cil,p..77 (27a), (27b)式は,原文で‘は(9a),(9b)である。る。」また同様のことを次のようにも表現している。「ここで分析されたモデルにおい て,新しい情報と修正された期待との聞の連鎖一一それは合理的期待学派が正しくも 強調したことだがーーは,実際にはより大きな不安定に導き,また分権的な市場経済 において,干渉に対する立場を強める。」要するに,実際の結果が期待に影響を与え るハロッド成長モデルにおいては, REE~,こ不安定性が生じることを述べたものであ る。 以上のように論じた後,ファザリは次のように結論する。「このようにして合理的期 待は~新古典派』経済学者が時々示唆するように,ケインズ経済学の基礎を破壊しは しなし、。その代りに,ケインズ=ハロッドの枠組と両立するモデ、ルにおいての合理的期 待接近の考察は,分権的decentralized市場経済において,固有に不安定な動学的過程 が存在するという見解を強める。」
V
I
結 び 以上のようにして,A
,センとSM
ファザリの説を中心として,期待の問題を明示的 に考慮、した,不安定性原理について考察を進めてきた。 まず最初に,期待を明示的に考慮した, センの保証成長率概念について考察した。 センの保証成長率は, このように期待を明示的に考慮に入れていることが,その第一 の特徴である。第二に,それは特殊保証成長率でなく正常保証成長率であるというこ とである。そして第三に,成長率の分母が,比較される前の期間でなく後の期間の所 得であるということである。この保証成長率概念は単純ではあるが,現実の投資と事 前的投資および正当化された投資の関係をうまく説明できるようになっている。また, 保証成長の不安定性の証明にも便利なように巧妙に作られている。 次にセンは,期待成長率を考慮した不安定性原理を展開している。その場合彼は, 現実成長率および保証成長率のほかに期待成長率というものを考え, これら三つの成 長率の聞の関係によって,保証成長の不安定性の問題を説明している。すなわち,最 初に期待成長率が保証成長率に対し,たとえば上方に議離していれば,期待成長率は k ' Q u o d mH77 P D ゐ pt
t
t
p Z ψ Z 刷 Z F b , tνriv 印 印 印 、 町 ﹄ ノ 、 、 , , , 、 、 , , 5 6 7 F ﹁ υFhAVFhυ r t ‘ 、 f 、 、 / 、 、一188- 第59巻 第2号 322 ますますその議離を大きくし,同時に現実成長率は期待成長率以上に保証成長率から の議離を大きくして行くというのである。そこには,企業家の期待についての特定の 仮定が基礎となっている。また,センは,需要が供給能力を超過する時,結果は物価 変動をモデルの中に考慮しなければならないことについても述べている。 また,以上のことと関連して,ハログドの不安定性原理の妥当性についての,セン やA アシマコプロスの見解について検討した。センによれば,ハロッドの幾分不完全 なモデルを完全にする方法が若干あり,それらは不安定性原理を確証するものか,否 定するものか,そして条件次第で肯定したり否定したりするものかの三通りである。 期待に力点を置いたセンの方法は,不安定性原理を確証する部類である。また,一般 的に言って,仮定を現実的にすれば,不安定性は和らげられるという意味のことを言っ ているが,ハロッド自身 rナイフの刃」という言葉で表される鋭い不安定性の考え方 を否定しているので,この点両者の見解は基本的に一致していると思う。なおこの問 題についての,
A
アシマコプロスの見解についても検討した。 次には,ハロッドの不安定性原理と合理的期待分析との関係について論じ,新しい 形の不安定性原理を展開した, S.Mファザリの説について考察した。ファザリのモデ ルは,期待というものを重要視し,明示的に取り扱っている点ではセンの場合と同じ である。まず, ファザリのモデ、ノレについて検討し,それと関係して,彼の合理的期待 均衡(REE)という概念について考察した。ファザりのモデルで一つ特徴的なのは,資 本を流動資本に限って考慮に入れていることである。これは単純化であり,それによっ て一般性を失うことはないと言っているが,やはり問題となるところである。また, 合理的期待均衡はノ、ロッドの保証成長径路に当る均衡概念である。 続いてファザリは,彼個有のモデルと合理的期待均衡の概念を使って,合理的期待 均衡についての不安定性原理を説明する。ファザリは先ず,合理的期待接近がよく当 てはまるモデルと当てはまらないモデルとを区別する。前者としては新古典派のモデ ルのように,実際の結果が行為者の期待に無関係なモデルであるとしている。また, 後者の場合としては,ケインズ=ハロッド・モデルのように,実際の結果が行為者の期 待に依存するモデルを挙げている。そして,ハログド・モデ、ルにおいては,行為者が 合理的に期待をする場合でも,合理的期待均衡が不安定であることを論証している。 ところで,前にも述べたように, センもファザリも,ハロ y ドの不安定性原理に期待ということを明示的に導入した点で共通である。このことは不安定性原理に一つの 新しい取扱い方をもたらした点にメリットがあると思われる。また双方とも,不安定 性原理を確証する結果になっていることも同じである。ただ,フ7ザリは合理的期待 分析という新しく擾類して来た分析方法を考慮して,不安定性原理を取り扱った点は 新しいところである。 また,センの説もファザリの説もまだ精激化が若干不足しているように思われる。 たとえば,数学を使用して,もう少し理論の精級化をはかることが可能ではなし、かと 考えられる。とくにファザリの場合は,資本概念が流動資本にのみ特化している。こ れを固定資本を含めた形で一般化することも必要である。 不安定性原理の研究は,なおその研究を押し進め,発展をはかるべき分野であると 思われる。たとえば,この小論で取り扱ったような「期待」を明示的に考慮する研究 も, より精密な定武化が望まれる。このことについては,次の機会に試みてみたいと 思う。 参 考 文 献
[ 1 ] Asimakopulos,“Harrod on Harrod: the Evolution of' a Line of Steady Growth',
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Journal
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Post K,担問宝ianEconomics, FaJ,1 1985[3] Harrod, R F.EconomκEssays, 1952
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