近畿大学医学部附属病院
津田喜裕
緊急検査
救急検査
至急検査
新しい概念(既存の緊急検査との区別)として急性期病態に特化した緊急検査を “救急検査”と定義する
新しい概念(既存の緊急検査との区別)として急性期病態に特化した緊急検査を “救急検査”と定義する
緊 急 検 査
: 病態把握のための検査
迅速性
≧
正確性
通常臨床検査 : 確定診断のための検査
迅速性
≦
正確性
緊急検査と通常臨床検査
病態と治療に導くための補助手段として、 一刻も早く検査結果を報告してほしい。 臨床のニーズに答えるためには ①異常値、パニック値等のチェック体制の構築 ②データの見方と考え方を身につける 無駄な再検に時間をかけずに、迅速で精度の高い検査結果 を報告する。緊急検査に、臨床側が求めているもの
測定にとりかかる前に
検体(血液・血清・血漿)の性状・外観の確認をする。 ●凝集物 (フィブリン)の析出は? ●色調は? 溶血、乳び(混濁)はないか? ●凝固していないか? 装置にセットする前に ●免疫学的測定項目(特に感染症など)の検査依頼がある 場合は、先に測定するか小分けする。 キャリーオーバーの可能性を回避する。 各施設での運用マニュアルなどを遵守すること! 検体適性の評価
再検査
時系列のチェック
測定機器の状態
他の検査所見
患者様の病態
矛盾すれば、再採血の依頼、
妥当性があれば、パニック値として報告する。
異常データの妥当性を確認する
生命が危ぶまれるほど危険な状態にあるこ
とを、示唆する異常値で、直ちに治療を開
始すれば救命しうるが、その診断は臨床的
な診断だけでは困難で検査によってのみ
可能である。
パニック値とは
(Lundberg)担当医に報告する前に、検査室としてま
ず行うべきことは、検査過誤の否定と、
検体の性状の確認である。
パニック値を見たら
タイミング 原因
検査前
• 採血時の諸問題によるもの • 検体搬送(保存)によるもの • 遠心条件によるもの • 検体処理によるもの • 食事・体位・運動・投薬 • 生理的変動検査手順
• 手順ミスによるもの • 機器に関するエラー • 試薬に関するもの • 精度管理・保守に関するもの検査後手順
• 誤入力 • 希釈倍数 • 結果確定 • 追加検査異常データの発生要因
血液ガスのピットホール
サンプルの取扱い
①
を忘れないHeparin
● 液体ヘパリンによる希釈に注意
● EDTA・クエン酸 Na 検体は不可
O280
mmHg CO235
mmHg O2160
mmHg CO20
mmHg 血液 気泡サンプルの取扱い
②
を除去A i r
● PO
2→160
mmHgへ PCO
2→低下
サンプルの取扱い
③
測定までは
● 最低1分間、優しく転倒混和および両手で錐揉み回転
※1)
※1) Clinical and Laboratory Standards Institute:Blood gas and pH Analysis and Related Measurements;2009
✕
mixing
サンプルの取扱い
④
室 温
検体は 保存でよい <原則> 採ったらすぐ測る! ● 測定まで30分以上かかる場合は氷水で冷却保存。 ※1)アシドーシス ( pH<7.35 ) アルカローシス ( pH>7.45 )
PaCO
2HCO
3− アシドーシス アルカローシス上昇
低下
上昇
低下
生化学・免疫検査のピットホール
Na(mEq/L) K(mEq/L) Cl(mEq/L) Glu(mg/dL) 生理食塩水 154.0 0.0 154.0 0.0 ラクテック 130.0 4.0 109.0 0.0 KN補液3B 50.0 20.0 50.0 5,400 ソリタT3号 35.0 20.0 35.0 4,300 【主な輸液の電解質組成】 17
輸液をしているラインからの採血は、
血液が希釈され、
Glu
が
高値化
。TP、ALBが前回値よりも低値、さらにGluが
500mg/dL以上の検体は輸液の混入を考える
異常値発生時の対応 ①発生要因
疾患由来(パニック値) 治療由来(輸液、輸血、薬剤影響) 【エラー要因】 採血(採血部位、溶血、凝固) 処理(容器、量、放置、遠心条件) 分析エラー(機器、試薬)異常値
検体
患者
異常値
検体
患者
凝固線溶検査のピットホール
赤血球数は個人差は大きいが、個人内変動、生理的変動
は少ないため
前回値チェックが重要
人為的検体エラーがないか確認
▶MCVが前回値と5fl以上変動している:患者間違いが疑われる ⇒輸血歴等をカルテで確認、生化学等のデータも確認 ▶Hb、RBC、Htが上昇する:検体濃縮が考えられる (採血後のシリンジ放置、長時間の駆血) ⇒輸血歴等をカルテで確認 ▶Hb、RBC、Htが低下する:輸液の混入が考えられる⇒手術、出血等カルテで確認 生化学データ(Glu、Na・K・Cl、 TP等)を確認RBCデータポイント
見逃してはいけないポイント!
▶MCH、MCHCが高値(37g/dL以上):乳び、赤血球凝集が考えられる ⇒検体性状を確認し、赤血球凝集が疑われる場合は、 加温(37℃、5~10分)し、 すぐに測定する(寒冷凝集) もしくは希釈して測定する。 赤血球凝集 正常白血球データポイント
※
白血球数は変動が大きい(好中球半減期が6時間程度のため) ⇒感染症などの疾患はもちろん運動など生理的変動も大きい。 また、抗がん剤などの薬剤で白血球数は下がり、 G‐CSFが接種されると急激に上昇する見逃してはいけないポイント!
▶10×102/μL以下、特に好中球5×102/μL以下は 感染症を起こすリスクがかなり高くなるので臨床にすぐ連絡する: (無顆粒球症)他分野のデータに影響
▶白血球数が多い時は血液ガスのデータに影響する血小板データポイント
▶検体凝固 ⇒前回値確認し、急激に血小板数減少している場合は注意! 目視で凝固が認められた場合は再採血を臨床に連絡する。 ▶EDTA偽凝集 ⇒前回値確認し、急激に血小板数減少している場合は注意! 凝固を目視で確認。管壁にフィブリンが確認できないときは ボルテックスで撹拌し測定する (過剰にボルテックスで撹拌すると細胞が崩壊してしまうので注意)。 もしくはEDTA過剰添加やカナマイシンを添加するか、硫酸マグネシウムなど他の 抗凝固剤で採血する。 他分野のデータに影響 ▶PLT高値の場合、Kが高くなる ⇒ヘパリン採血を行い、血漿で測定する。 見逃してはいけないポイント!⇒血小板凝集(白血球:偽高値) 偽高値 偽低値 RBC クリオグロブリン、巨大血小板、白血球数 著増 赤血球凝集(寒冷凝集)、凝固、試験管内溶血、 小赤血球 WBC クリオグロブリン、血小板凝集、 不溶血赤血球、 有核赤血球、巨大血小板 白血球凝集、壊れた細胞 Hb クリオグロブリン、血管内溶血、ヘパリン、 白血球数著増、高ビリルビン血症、 高脂血症 凝固、スルホヘモグロビン Ht クリオグロブリン、巨大血小板、 白血球数著増 赤血球凝集(寒冷凝集)、凝固、試験管内溶血、 小赤血球 MCV 赤血球凝集、白血球著増、 検体の長時間保存 クリオグロブリン、巨大血小板、試験管内溶血、 小赤血球、膨化赤血球 MCH 白血球数著増、Hb偽性高値、 RBC偽性低値 Hb偽性低値、RBC偽性高値 MCHC 赤血球凝集、凝固、試験管内溶血、 Ht偽性低値、Hb偽性高値(乳び) 白血球著増、Ht偽性高値、Hb偽性低値 PLT クリオグロブリン、溶血、小赤血球、 破砕赤血球、白血球断片 凝固、巨大血小板、ヘパリン、血小板凝集、 血小板衛星現象自動血球計数装置測定値の誤差要因
▶APTT:ヘパリンのモニタリング(調節値は基準値の1.5~2.5倍程度) ⇒延長しすぎると出血傾向になり危険! ▶PT‐INR:ワーファリンのモニタリング(調節値はINR2.0~3.0程度) ⇒延長しすぎると出血傾向になり危険! ▶PT(%):肝機能評価 ▶PT、APTT、共に延長し、フィブリノーゲンが低下、Dダイマーが上昇している ⇒播種性血管内凝固症候群(DIC)が考えられる 血算データ(PLT)を確認する ※DICはいまだに死亡率が高く、感染症を基礎疾患とする場合はPTが著しく延長する。 DICが疑われるときは早期発見・早期治療が必要なので早急に臨床に連絡!
凝固線溶検査のデータポイント
凝固線溶検査は凝固によるデータの影響が大きいため凝固検体に注意救急検査のピットホール
主訴︓意識障害,胸痛,腹痛,呼吸苦 など 状態︓頭部外傷,腹部刺創,転落,ショック など 病名︓SAH,AMI,重症膵炎,⼤腿⾻⾻折,熱傷 など バイタルサイン︓呼吸数,⼼拍数,⾎圧,意識レベル,体温 基本情報︓年齢,性別 受傷基転︓発症からの時間 など 現場からの情報︓出⾎量,薬袋(中毒例)など 既往歴︓糖尿病,⾼⾎圧,⼿術歴 など 諸検査︓超⾳波,⼼電図,CT/MRI ・どれ位急ぐか(緊急度) ・何を急ぐか(優先・追加項⽬の選択) ・結果の解釈(パニック値対応) ・測定値の推測(検体希釈)