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仮想通貨の会計処理案
原則として時価評価、純額での開示を提案
金融調査部 研究員 小林章子[要約]
2017(平成 29)年 12 月6日、企業会計基準委員会(ASBJ)は、実務対応報告公開草案 第 53 号「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い(案)」を公 表した。 「資金決済法に規定するすべての仮想通貨」を対象として、仮想通貨交換業者又は仮想 通貨利用者が仮想通貨を保有する場合の会計処理、仮想通貨交換業者が仮想通貨を預か っている場合の会計処理、開示の方法について提案している。 具体的には、保有する仮想通貨について期末に「活発な市場」が存在する場合は市場価 格(時価)で評価し、帳簿価額との差額は当期損益に計上すること、売却損益は約定日 基準で認識し、損益計算書には売却損益の純額のみを表示すること等が提案されている。 2018(平成 30)年4月1日以後開始事業年度の期首からの適用が提案されている(早 期適用可)。1.議論の経緯と公開草案の概要
2017(平成 29)年 12 月6日、企業会計基準委員会(ASBJ)は、実務対応報告公開草案第 53 号「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い(案)」(以下、本公開草 案)を公表した1。2018(平成 30)年2月6日まで意見募集が行われる。 仮想通貨の会計上の取扱いに関しては、2016(平成 28)年の資金決済法の改正により仮想通 貨が規制対象となったこと 2を受けて、今年4月から ASBJ の実務対応専門委員会での議論が開 始されていた。同委員会では、①会計基準ではなく「実務対応報告」で対応すること、②対象 1 企業会計基準委員会ウェブサイト(https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/exposure_draft/y201 7/2017-1206.html)参照。 2 資金決済法の改正では、仮想通貨の定義が設けられたほか、仮想通貨交換業者の登録制が導入され、2017(平 成 29)年4月から施行されている。となる仮想通貨は資金決済法上の仮想通貨にフォーカスし、仮想通貨交換業者と一般事業会社 (仮想通貨利用者)での取扱いを明らかにすること、③実務対応報告の項目は「資産・負債の認 識」「期末評価」「売却損益の認識」「開示」とするが、今後必要に応じて、それ以外の検討も行 う、という方針で検討が行われた3。 本公開草案は、「仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者」が、「資金決済法に規定するすべて の仮想通貨」を利用する場合について、①仮想通貨を「保有」する場合の会計処理、②仮想通 貨を「預かっている」場合の会計処理、③開示の方法を提案している。 なお、仮想通貨を会計上「資産」と取り扱えるかについては、現時点において仮想通貨の私 法上の位置づけが明確でなく法律上の財産権を認めうるか否かについては明らかでないものの、 売買・換金を通じて資金の獲得に貢献する場合も考えられるため、会計上の資産として取り扱 えることとしている。また、既存の会計基準との関係では、既存の会計基準を適用せず、仮想 通貨独自の会計処理を提案するものとなっている4。
2.公開草案の内容
(1)実務対応報告の目的(第1項~2項、第 21 項)
本公開草案では、実務対応報告の目的は、「仮想通貨の会計処理及び開示に関する当面の取扱 いとして、必要最小限の項目について、実務上の取扱いを明らかにする」(太字は大和総研)も のとされている。「当面必要と考えられる最小限の項目」に限定している理由として、本公開草 案では、仮想通貨に関連するビジネスが初期段階にあること、私法上の位置づけが明らかでな いことが挙げられている。(2)実務対応報告の対象範囲(第3項)
仮想通貨の会計処理のそもそもの検討の契機は仮想通貨交換業者に対する財務諸表監査制度 の円滑な運用にあったこと、実務対応報告の適用範囲を明確にすることから、本公開草案では、 資金決済法に規定するすべての仮想通貨を対象とすることが提案されている5。 3 第 108 回実務対応専門委員会での委員発言。 4 既存の会計基準としては、外国通貨、金融資産、棚卸資産、無形固定資産としての会計処理が検討されたもの の、いずれも適当でないとして今回独自の会計処理が定められるに至った。 5 資金決済法上の「仮想通貨」とは、①コンピュータシステム(電子情報処理組織)を使用して移転できる財産 的価値で、②不特定の者との間で、物・サービス等の支払い・決済手段として使用できかつ購入・売却できる もの、またはそれらと相互に交換できるものである。ただし、日本円、ユーロ、米ドルなどの法定通貨や、国 債などの法定通貨建ての資産などは除外されている(2条5項)。例えば、現在広く普及しているビットコイン やイーサリアムなどは、この資金決済法上の仮想通貨に該当するものと思われる。他方、金融庁の事務ガイド ラインによれば、いわゆるプリペイドカードや、特定店舗で利用できるポイントなどは該当しないとされてい る。(3)実務対応報告の用語の定義(第4項)
本公開草案での用語の定義は、図表1のとおりである。 図表1 用語の定義 用語 定義 仮想通貨 資金決済法2条5項に規定する仮想通貨をいう。 仮想通貨交換業者 資金決済法2条8項に規定する仮想通貨交換業者(内閣総理大臣の登録を 受けた者(63 条の2))をいう。 仮想通貨利用者 仮想通貨を利用する企業のうち、仮想通貨交換業者以外の者をいう。 仮想通貨取引所 ①仮想通貨交換業者又は②外国において仮想通貨の売買若しくは他の仮想 通貨との交換、又はそれらの行為の媒介、取次ぎ若しくは代理を行う者が 運営主体となり、③仮想通貨の売り注文と買い注文について、当該注文に 関する内容(価格、数量)に基づき、仮想通貨の取引を成立させるための 交換市場をいう。 仮想通貨販売所 ①仮想通貨交換業者又は②外国において仮想通貨の売買若しくは他の仮想 通貨との交換、又はそれらの行為の媒介、取次ぎ若しくは代理を行う者が 仮想通貨取引の相手方となって、③購入価格又は売却価格を提示し、当該 購入価格又は売却価格での仮想通貨の売買を行う交換市場をいう。 時価 公正な評価額で、取引を実行するために必要な知識を持つ自発的な独立第 三者の当事者が取引を行うと想定した場合の取引価額をいう。 市場価格がある場合は市場価格に基づく価額が時価となる。市場価格がな い場合は合理的に算定された価額が時価となる。 市場価格 市場(取引所及びこれに類する市場のほか、随時、売買・換金等を行うこ とができる取引システム等※1も含まれる。)において形成されている取引 価格、気配又は指標その他の相場をいう。 市場価格が公正な評価額を示している場合には、当該市場価格に基づく価 額は時価に該当する。 取得原価 一定時点における同一の仮想通貨の取得価額(支払対価に手数料等の付随 費用を加算した額)の合計額から、前回計算時点より当該一定時点までに 売却した部分に一定の評価方法※2を適用して計算した売却原価を控除し た価額をいう。 (※1)例えば、金融機関・証券会社間の市場、ディーラー間の市場、電子媒体取引市場が挙げられる(金融 商品会計に関する実務指針 51 項)。 (※2)評価方法については、特定の方法は定められていない。 (出所)本公開草案を基に大和総研作成3.実務上の取扱い
(1)仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が保有する仮想通貨の会計処理
①期末評価に関する会計処理(第5項~7項、第 33 項~43 項) 仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が保有する6仮想通貨については、期末においてその仮 想通貨に「活発な市場」が存在するかどうかによって区別して処理することが提案されている。 活発な市場が存在する場合、その市場価格に基づく価額(時価)で計上し、帳簿価額との差 6 仮想通貨交換業者が預託者から預かった仮想通貨を除く。額を損益計上することが提案されている。なお、具体的に「活発な市場」が存在する仮想通貨 の保有パターンとしては、①主に時価の変動での売却利益を得るための保有、②決済手段とし て利用するための保有、③仮想通貨交換業者が仮想通貨販売所を営むための一時的な保有など、 時価変動により保有者が価格変動リスクを負う場合が想定されている。 他方、活発な市場が存在しない場合は原則として取得原価で計上することが提案されている。 処分見込価額が取得原価を下回る場合(資産の収益性が低下している場合)は、回収可能性を 反映させるため、処分見込価額で計上し帳簿価額の切下げを行う。帳簿価額との差額は当期の 損失として計上する(低価法)。また、前期以前に損失として計上した簿価切り下げ額について は、当期に戻入れは行わない(切放し法)。その理由として、現状では活発な市場が存在しない 仮想通貨の価格形成の仕組み等が明らかでないためとしている。 ○活発な市場が存在する場合 ・期末における市場価格に基づく価額(時価)をもって貸借対照表に計上する。 ・貸借対照表価額と帳簿価額との差額は当期損益に計上する。 ○活発な市場が存在しない場合 ・取得原価≦期末における処分見込価額※の場合、取得原価をもって貸借対照表に計上する。 ・取得原価>期末における処分見込価額※の場合、処分見込価額をもって貸借対照表に計上する。 取得原価と処分見込価額との差額は当期損失に計上する。前期以前において計上した損失につ いては、当期に戻入れを行わない。 (※)具体的な処分見込価額の算定にあたっては、期末日において第三者が価値を保証していることなどにより 資金の回収が確実に見込まれる価額を見積ることになり、それが困難な場合は処分見込価額を「ゼロ又は備忘 価額」とすることになると考えられるとしている。 ②活発な市場の判断規準(第8項、第 44 項~46 項) 上記の期末評価方法の基準となる「活発な市場」の判断規準については、国際的な会計基準 (IFRS13 号「公正価値測定」)の考え方を参考に、「継続的に価格情報が提供される程度に仮想通 貨取引所又は仮想通貨販売所において十分な数量及び頻度で取引が行われている場合」(太字は 大和総研)に、活発な市場が存在するものと取り扱うことが提案されている。 具体的な判断においては、保有する仮想通貨の種類、過去の取引実績、取引されている仮想 通貨取引所又は仮想通貨販売所の状況等を勘案し、個々の仮想通貨の実態に応じて判断するこ とが考えられるとしている。 ③活発な市場が存在する仮想通貨の市場価格(第9項~10 項、第 47 項~49 項) 上記のとおり、本公開草案では、活発な市場が存在する仮想通貨は、市場価格に基づく価額 で評価することが提案されているが、活発な市場が複数存在する仮想通貨の場合には、どの市 場の価格を使用するかが問題になる。
本公開草案では、原則として、仮想通貨の保有者が通常使用する仮想通貨取引所又は販売所 のうち、保有者自身の取引実績が最も大きい取引所等を仮想通貨の種類ごとに選択し、その取 引所等の価格を「市場価格(時価)」として使用することが提案された。 ・保有する仮想通貨の種類ごとに、市場価格を判断する。 ・市場価格としては、通常使用する自己の取引実績の最も大きい仮想通貨取引所又は仮想通貨 販売所における取引価格を使用する。 ・取引価格がない場合、仮想通貨取引所の気配値又は仮想通貨販売所が提示する価格を市場価 格として使用する。 ・上記仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所が仮想通貨交換業者自身の運営するものである場合、 その取引価格等が「公正な評価額」であるときに限って、時価として使用できる。 ・市場価格には、仮想通貨の取得又は売却に要する付随費用は含めない。 なお、検討段階では、保有者自身が通常使用している取引所等に限定せず、最も取引が活発 に行われている取引所等の価格を使用することも議論されたものの、現時点では、海外も含め た各仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所の取引量を網羅的に把握することは困難であることか ら、仮想通貨の保有者が通常使用する取引所等に限定することとされた。 また、仮想通貨交換業者の場合、保有する仮想通貨の取引実績が最も大きい仮想通貨取引所 が、業者自身が運営する取引所等である場合が考えられ、その場合には価格が公正に形成され たものであるかどうかについて疑義が生じる。そのため、その価格を使用する条件として、「公 正な評価額」であることが求められている。 ④活発な市場の判断の変更時の取扱い(第 11 項~12 項、第 50 項) 上記のとおり、仮想通貨の期末評価は、期末においてその仮想通貨に「活発な市場」が存在 するかどうかによって判断基準が異なっている。そのため、保有する仮想通貨に活発な市場が 存在するかどうかの事情が変わり、会計上の判断を変更する場合には、次のとおり評価基準を 変更することが提案されている。 ○活発な市場が「存在する→存在しない」と判断を変更した場合 ・活発な市場が存在しなくなる前に最後に観察された市場価格に基づく価額で評価し、取得原 価として計上する。 ・その際の評価差額は当期の損益に計上する。 ・その後の期末評価は、「活発な市場が存在しない場合」の評価基準により評価する(原則とし て取得原価で計上する)。 ○活発な市場が「存在しない→存在する」と判断を変更した場合 ・「活発な市場が存在する場合」の評価基準により評価する(市場価格に基づく価額で計上し、
帳簿価額との差額は当期の損益に計上する※)。 (※)活発な市場が存在しない場合、前期以前において計上した損失について当期に戻入れを行わない切放し法 が採用されているが、この場合は前期以前における損失処理相当額が当期の損益として処理されうる。 ⑤売却損益の認識時点(第 13 項、第 51 項~52 項) 仮想通貨の売却損益の認識時点については、売買の合意が成立した時点において認識するこ とが提案されている(約定日基準)。 この売却損益の認識時点については、引渡時に認識する受渡日基準とすることも考えられた ものの、仮想通貨の取引情報がネットワーク上の有高として記録されるプロセスが仮想通貨の 種類や業者により多様である一方、売買合意成立後は、売り手は価格変動リスク等に実質的に 晒されておらず売却損益が確定していると考えられることから、約定日基準とされた。
(2)仮想通貨交換業者が預託者から預かった仮想通貨の会計処理
①資産及び負債の認識(第 14 項、第 53~55 項) 仮想通貨交換業者の場合、自己が保有する仮想通貨を売却した後に、その売却した仮想通貨 を買い手(預託者)から預かるなどして、自己が保有しない仮想通貨を預かっている場合があ る。このように仮想通貨交換業者が預託者から預かっている仮想通貨については、オフバラン スとする議論もあったものの、預かった現金に準じて、預かった時点の時価で資産と負債に同 時計上することが提案されている。 ○資産の認識 ・預託者との預託合意に基づいて仮想通貨を預かった時点で、資産として認識する。 ・当初認識時の帳簿価額は、預かった時点の時価で計上する。 ○負債の認識 ・資産の認識時に、預託者に対する返還義務を負債として認識する。 ・当初認識時の帳簿価額は、資産の帳簿価額と同額で計上する。 ②期末の資産の評価及び負債の貸借対照表価額(第 15 項、第 56~57 項) 資産として認識した預かった仮想通貨については、期末において同一種類の仮想通貨を保有 している場合は、それと切り離して処理する(簿価分離)ことが提案されている。 その上で、評価基準については、保有の場合と同じ基準とすることが提案されている。した がって、活発な市場が存在する場合は時価で評価し、活発な市場が存在しない場合は原則とし て取得価額で計上することとなる。 ただし、仮想通貨交換業者は預かっている仮想通貨の価格変動リスクを負っていないことか ら、預かっている仮想通貨の評価損益を反映させないために、負債として認識した返還義務について、期末に資産と同額で計上することが提案されている。 ・資産の期末の帳簿価額について、保有する同一種類の仮想通貨と簿価分離する。 ・その上で、活発な市場が存在するか否かによって、保有の場合と同じ評価方法で評価する。 ・負債の期末の貸借対照表価額は、対応する預かった仮想通貨に係る資産の期末の貸借対照表 価額と同額とする(資産及び負債の期末評価からは損益を計上しない)。
(3)開示
①表示(第 16 項、第 58~61 項) 仮想通貨の売却取引の表示方法としては、仮想通貨交換業者・仮想通貨利用者ともに、売却 収入から売却原価を差し引いた純額のみを損益計算書に表示することが提案されている。 検討段階で議論されていた売却損益と評価損益との一括表示は提案されていない。また、貸 借対照表における表示についても特段提案されていない。 ②注記事項(第 17 項、第 62 項) 注記事項については、図表2のとおり提案されている。財務諸表利用者は、従来把握が困難 であった仮想通貨の種類ごとのリスク評価や、取引価格等の情報を把握することが可能となる。 図表2 注記事項 仮想通貨交換業者 仮想通貨利用者 保 有 し て い る 仮 想 通貨 (1)期末日の貸借対照表価額の合計額 (2)活発な市場が存在する仮想通貨と存在しない仮想通貨の別に ①仮想通貨の種類ごとの保有数量 及び ②仮想通貨の種類ごとの貸借対照表価額 (ただし、価額が僅少な仮想通貨については、集約した価額の記載も可) 預 託 者 か ら 預 か っ ている仮想通貨 (3)貸借対照表価額の合計額 - 注 記 が 省 略 で き る 場合 (1)と(3)の合算額が資産総額に 比して重要でない場合 (1)が資産総額に比して重要で ない場合 (出所)本公開草案を基に大和総研作成(4)適用時期(第 18 項、第 63 項)
本実務対応報告は、一定の周知期間を設けるため、2018(平成 30)年4月1日以後開始事業 年度の期首から適用することが提案されている。 あわせて、本実務対応報告の公表日以後終了事業年度及び四半期会計期間からの早期適用を 認めることも提案されている。これは、仮想通貨交換業者について、2016(平成 28)年の資金決済法の改正で登録制が導入され、2017(平成 29)年4月1日の属する事業年度の翌事業年度 から財務諸表監査制度の実際の運用が開始しており、早期適用のニーズが想定されるためとし ている。