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吉本ばなな『キッチン』英語版の研究

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Academic year: 2021

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吉本ばなな著『キッチン』英語版の研究

吉本ばなな著『キッチン』英語版の研究

吉本ばなな著『キッチン』英語版の研究

吉本ばなな著『キッチン』英語版の研究

小林 美智子

1. Introduction 吉本ばななの作品が好きなので題材にした。彼女の作品は「死」をテーマにしたものが 多く、著者もそれに興味がある。その他にも好きな理由はたくさんあるが、ここではその 一部にとどめておく。“Kitchen” は、吉本ばななの作品の中でも英語に翻訳された数少な い作品の 1 つであるが、それを選んだ理由は「死」を大きなテーマにした作品だからであ るという点と、物語の雰囲気が温かく、登場する人々が魅力的だからという点にある。し かしここで 1 つ問題がある。それは、原作本の『キッチン』と英語版の “Kitchen” では、 両者間において違いが多数あるという点である。言語が違うこともあるのか、物語の雰囲 気、状況・感情の表現の仕方や文化の違いなど、両者間における違いは実に多岐に渡って いる。しかし、英語版を読んでみて原作本との違和感はそんなになかったと思われる。 本論文では、著者の目で読んだ “Kitchen” とコンピューターの分析する “Kitchen” とで 同様の雰囲気を掴めるかという部分に焦点を当てるため、英語版の “Kitchen” と、翻訳者 の Megan Backus の出身地であるイギリスで作成された LOB Corpus, FLOB Corpus との比較 を試みると共に、“Kitchen” そのものも様々な視点から深く分析していく。

2. Hypothesis

Introductionを基にして、以下の仮説を立てた。

2.1 英語版 “Kitchen” と LOB Corpus, FLOB Corpus の比較 ①英語版 “Kitchen” の場合

この物語は、主人公「みかげ」の視点で物語が書かれているので、1 人称・単数の人称 代名詞である【 I, my, me, mine, myself 】が多く使用されているのではないだろうか。

次に、物語の中で「みかげ」と関係の深い人物が「雄一」という男性であるため、3 人 称・単数で特に男性を表す【 he, his(所有格・所有目的格), him, himself 】が多く使用さ れているのではないだろうか。

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小林 美智子 ②LOB Corpus(1961 年)の場合 男性・女性を表す人称代名詞に絞ってみると、男性のものの方が多く使用されているの ではないだろうか。その理由は、現代に比べて当時はまだ男女の差が大きかったと考えら れるためである。 ③FLOB Corpus(1991 年)の場合 男性・女性を表す人称代名詞について LOB Corpus と比較すると、いくらか女性のもの における割合が増加しているのではないだろうか。その理由は、1961 年からの 30 年の間 で少しずつ女性の地位の向上が図られ、そのことがここに表れるのではないかと考えられ るためである。 2.2 英語版 “Kitchen” の内容について ①「季節」に関する単語について Introduction で述べた通り、本論文で取り扱う “Kitchen” は、「死」が大きなテーマとな っているが、そのイメージからすると、「春夏秋冬」の中では「冬」が 1 番多く使用されて いるのではないだろうか。また、「秋」からも寂しさが伺えるが、「冬」に比べると暖かさ が残っており、明るいイメージもあるため、「秋」は 2 番目に多く使用されているのではな いだろうか。 ②「色」に関する単語について(色彩と明暗) 「死」というと、「黒」や「灰色」といった暗い色が想像される。しかし、この “Kitchen” という物語は、「死」が大きなテーマではあるが、物語全体の雰囲気自体は明るく感じら れた。よって、明るい色についても多く使用されているのではないだろうか。 明暗については、“bright” と “dark” の 2 つの形容詞に限定して比較するが、これらの 語については、同じくらいの割合で使用されているのではないだろうか。 ③「温度」に関する単語について 先の「季節に関する単語」のところで「冬」が 1 番多く使用されているのではないかと 仮説を立てたが、それと関連して「温度」については、「冷たい温度」を表す単語が多く使 用されていると考えられる。しかし、「色」に関する単語のところで述べたように、物語全 体の雰囲気・登場する人物が温かいと感じられたことから、「温かい・暖かい温度」を表す 単語も多く使われているのではないだろうか。以上のことから、「冷たい温度」「温かい・ 暖かい温度」は同じくらいの割合で使用されているのではないだろうかと考えられる。

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吉本ばなな著『キッチン』英語版の研究 ④「みかげ」、「雄一」の名前について 名前の前後の単語から、2 人の行動傾向と関係を予測・把握するのは困難であると考え られるが、この物語の中では「みかげ」と「雄一」は恋愛関係に発展していくので、その ことが結果に表れるのではないだろうか。 名前の頻度については、「雄一」の方が多いのではないだろうか。その理由は、この物語 が「みかげ」の視点で書かれているので、彼女が自分の名前を使用することより、「雄一」 の名前の方を多く使用すると考えられるためである。 3. Method 3.1 使用するコーパス 本論文で用いたコーパスは、以下の通りである。 ・自作コーパス 英語版 “Kitchen” 総語数 26,357 ・コーパス

LOB Corpus(The Lancaster-Oslo / Bergen Corpus) 総語数 305,694

1961年にイギリスで出版されたテキスト(本、新聞、雑誌など)から約 100 万語を 収集したイギリス英語のコーパス。Brown Corpus(アメリカ英語の書き言葉のコーパ ス)のイギリス版。

FLOB Corpus(The Freiburg Corpus) 総語数 309,666

1991年以降出版のテキストから各 100 万語を収集したイギリス英語とアメリカ英語 のコーパス。LOB, Brown の 1991 年版ともいうべきもの。30 年間の英語の変化をみる 目的で編纂された。FLOB, Frown として完成。

Table 1 LOB Corpus, FLOB Corpus のテキスト・カテゴリーとそれらの語数

Section Texts Words (about) K (General fiction) 29 58,000 L (Mystery and detective fiction) 24 48,000 M (Science fiction) 6 12,000 N (Adventure and western fiction) 29 58,000 P (Romance and love story) 29 58,000

R (Humour) 9 18,000

TOTAL 126 252,000 〈Imaginative Prose〉

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小林 美智子

3.2 使用するソフトウェア

本論文では、以下の 2 つの分析ソフトを使用した。 ・WordSmith Ver.3.0

・TXTANA Standard Edition Ver.2.45

3.3 分析手順

3.3.1 英語版 “Kitchen” と LOB Corpus, FLOB Corpus の比較における分析

英語版 “Kitchen”、LOB Corpus、FLOB Corpus をそれぞれ WordSmith にかけて、頻度順 リスト(上位 100 位)を作成する。その結果の中から人称代名詞(1, 2, 3 人称 単・複) を選び、その頻度順リストを作成する。 3.3.2 英語版 “Kitchen” の内容についての分析 ①②③「季節」・「色(色彩・明暗)」・「温度」に関する単語について 「季節」、「色」、「温度」に関する単語を、WordSmith の頻度順リストの中からそれぞれ 選び、3 つの頻度順リストを作成する。ここでは TXTANA も使用する。その理由は、例え ば「色」の “green” の中には “green” のみならず “yellow-green” のようなものもあるが、 この場合、WordSmith では “yellow” と “green” を分けて検索してしまうためである。

④「みかげ」・「雄一」の名前について

「みかげ」、「雄一」の名前を WordSmith の頻度順リストの中から選び、その頻度順リス トとグラフをつくる。TXTANA を使用し、「みかげ」、「雄一」の名前の前後 1 つずつの単 語を検索し、その結果から頻度 2 以上の単語を選び、頻度順リストを作成する。

4. Result & Discussion

ここでは、分析結果と仮説の検証をする。

4.1 英語版 “Kitchen” と LOB Corpus, FLOB Corpus の比較における分析結果とその検証 ①英語版 “Kitchen” の場合

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吉本ばなな著『キッチン』英語版の研究 4.82 1.74 1.26 1.05 1.05 0.74 0.64 0.57 0.46 0.38 0.28 0.18 0.17 0.16 0.16 0.00 1.00 2.00 3.00 4.00 5.00 6.00 I it my you me he she her we his him they myse lf us your 2 9 11 12 13 16 19 24 30 37 49 77 80 88 95 2 I 9 it 11 my 12 you 13 me 16 he 19 she 24 her 30 we 37 his 49 him 77 they 80 myself 88 us 95 your Figure 1 英語版 “Kitchen” における頻度順位 100 以内の人称代名詞

1人称・単数の【 I, my, me, mine, myself 】のうち、mine を除いて全てが出ていた。次に 多かったのもやはり 3 人称・単数で特に男性を表す【 he, his(所有格・所有目的格), him, himself 】であった。両者の割合は以下の Figure 2 の通りであるが、仮説とほぼ同様の結果 が出たと言えるであろう。 84% 16% 1人称・単数 3人称・単数の男性形 Figure 2 英語版 “Kitchen” における 1 人称単数と男性を表す人称代名詞の割合

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小林 美智子 ②LOB Corpus の場合 人称代名詞の頻度については、以下の Figure 3 の通りである。仮説で予測した通り、男 性形の方が多く見受けられる。 1.48 1.22 1.02 0.93 0.90 0.88 0.83 0.45 0.33 0.32 0.31 0.22 0.18 0.15 0.14 0.00 0.20 0.40 0.60 0.80 1.00 1.20 1.40 1.60 he I it she her his you him they me my we them their your 6 8 10 12 13 15 16 23 28 29 31 51 60 65 68

6 he 8 I 10 it 12 she 13 her 15 his 16 you 23 him 28 they 29 me 31 my 51 we 60 them 65 their 68 your

Figure 3 LOB Corpusにおける頻度順位 100 以内の人称代名詞

また、男性形と女性形の割合を Figure 4 にまとめた。仮説の通り、男性形と女性形の頻 度の差がかなり明確に現れたと言える。

61%

39% 男性

女性

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吉本ばなな著『キッチン』英語版の研究

③FLOB Corpus の場合

次は、FLOB Corpus の場合についてである。人称代名詞の頻度については、以下の Figure 5の通りであるが、ここでも男性形の方が多く見受けられる。 1.27 1.21 1.00 0.97 0.89 0.82 0.78 0.40 0.32 0.31 0.31 0.22 0.19 0.17 0.14 0.00 0.20 0.40 0.60 0.80 1.00 1.20 1.40 I he it she her you his him my me they we them their your 7 9 10 11 12 14 16 23 28 29 30 52 57 59 69 7 I 9 he 10 it 11 she 12 her 14 you 16 his 23 him 28 my 29 me 30 they 52 we 57 them 59 their 69 your

Figure 5 FLOB Corpusにおける頻度順位 100 以内の人称代名詞

次に、男性形と女性形の割合を Figure 6 にまとめた。仮説で述べた通り、男性形と女性 形の頻度の差は、LOB Corpus と比較すると縮まっていることが分かる。

56%

44% 男性

女性

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小林 美智子 4.2 英語版 “Kitchen” の内容についての分析結果とその検証 ①「季節」に関する単語について spring 16% summer 24% autumn/fall 16% winter 44% spring summer autumn/fall winter Figure 7 「季節」を表す語の割合 予測通り「冬」が 1 番多く使用されていた。しかし、次に多かったのは「夏」であった。 全体的に、「涼しい」イメージではないかと考えられる。 ②「色」に関する単語について(色彩と明暗) red 14% pink 2% orange 2% yellow 2% green 13% yellow-green 3% blue 14% nave-blue 2% white 17% gray 5% black 14% silver 5% brown 2% beige 3% golden 2% red pink orange yellow green yellow-green blue nave-blue white gray black brown beige golden silver Figure 8 「色」を表す語の頻度

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吉本ばなな著『キッチン』英語版の研究 仮説で立てた通り、全体の色彩は明るかった。「色」の中では、赤、緑、青、白、黒の 5 色がほぼ同じ割合であった。色彩の中でも代表的な色が出揃い、全体的に落ち着いたイメ ージを持った小説であることが伺える。 bright 33% dark 67% bright dark Figure 9 「色の明暗」を表す語の頻度 全体として暗いという結果が出た。色彩とは別に、明暗となると全体の 3 分の 2 は暗い というものであった。「死」を大きなテーマとして扱っている小説であるが故に、このよう な結果が出たとも推測できるが、ここでの分析結果が小説全体の雰囲気とは必ずしも密接 に関わらないとも取ることが出来る。 ③「温度」に関する単語について hot 20% warm 26% cold 45% chilly 6% cool 3% hot warm cold cool chilly Figure 10 「温度」を表す語の頻度

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小林 美智子 「冷たい」が圧倒的で、全体の約半分を占めるという結果であった。しかし、全体的に は、「冷たい」と「暖かい・温かい」の割合がほぼ同じだったので、ひとまず仮説は立証さ れたと言えるであろう。 ④「みかげ」・「雄一」の名前について Table 2 Mikage の左隣・右隣に登場した語とその頻度 左 1 頻度 右 1 頻度 is 3 Sakurai 4 call 2 you 3 voice 2 a 2 dear 2 I 2 in 2 is 2 she 2 the 2 Table 3 Yuichiの左隣・右隣に登場した語とその頻度 左 1 頻度 左 1 頻度 右 1 頻度 右 1 頻度 said 20 about 2 s 20 to 3

and 6 asked 2 I 12 would 3

to 6 at 2 was 12 did 2

with 6 dream 2 said 11 how 2

me 5 from 2 and 8 it 2

of 4 hello 2 had 5 looked 2

that 4 if 2 is 4 were 2

dinner 3 sure 2 smiled 4 with 2

eyes 3 up 2 Tanabe 4 see 3 when 2

was 3

この分析の焦点は、恋愛関係に発展していく「みかげ」と「雄一」の行動傾向とその 2 人の関係を探るというものであったが、それらを表すような結果は出て来なかった。

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吉本ばなな著『キッチン』英語版の研究 Yuichi 81% Mikage 19% Mikage Yuichi Figure 11 「みかげ」・「雄一」の頻度とその割合 「雄一」の方が頻度は高いのではないかと仮説を立てたが、その結果が顕著に現れた。 6. Conclusion 英語版 “Kitchen” との比較より、『キッチン』は主人公の「みかげ」と「雄一」が物語 の中心であることが人称代名詞からも証明された。LOB Corpus と FLOB Corpus の比較結 果からは 1961 年∼1991 年の 30 年の間に、少しではあるが女性の地位の向上が図られたの か、女性への関心が高まった可能性があることが証明されたと言える。 英語版 “Kitchen” の内容からは、物語中の「季節」、「色」、「温度」の単語が全体的に明 るいものを表していることが分かった。「死」がテーマとなっていても、この物語の雰囲気 が明るいと感じられた理由の 1 つがこれらの点にあるのではないだろうかと思われる。 以上の結果から、物語全体の雰囲気は会話などの他に「色」や「温度」を表す単語から も掴めることが明らかになったと言える。 References 使用ソフトウェア Microsoft® Word 2000 Microsoft® Excel 2000

TXTANA Standard Edition Ver.2.45 WordSmith Ver.3.0

参考書

斎藤俊雄・中村純作・赤野一郎〔編〕(1998)

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小林 美智子

吉本ばなな〔著〕(1988)『キッチン』 福武書店

Banana Yoshimoto, Translated by Megan Backus. (1994). ‘Kitchen,’ WASHINGTON SQUARE PRESS

Table 1    LOB Corpus, FLOB Corpus  のテキスト・カテゴリーとそれらの語数
Figure 3  LOB Corpus における頻度順位 100 以内の人称代名詞
Figure 5  FLOB Corpus における頻度順位 100 以内の人称代名詞

参照

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